アウストリの広場の隅の方で、魔法を使い訓練をしているのはギーシュ・ド・グラモンだ。
体と魔法の両方を酷使し、同じステップの組み合わせを確認している。
薔薇の杖は、手甲を覆う部分を薔薇に模した実践的なレイピアをもっている。
まるで指揮棒のように杖を振るい、まるでワルツでも踊っているようだ。
少し離れた木陰には、黄色い歓声をあげ彼になんとか取り入ろうとしている女児の集団が見える。
以前から持っていた軽薄さは少し残したまま、鍛錬に打ち込む姿は、
元々ある端正な顔立ちと家柄を含め、学院の男子のなかでは将来の伴侶にする一番の有望株だ。
虎視眈眈と狙う一団をちらり横目に、院内をすたすたと歩く。
私から、彼のとこに行くにはプライドが邪魔をし過ぎている。
「はぁ…」
どうしてこうなったのだろうか。
今でも気にかけてくれるし、ギーシュの方から好きだといってきていたのだから、
私は気にしなくていいし、まだ私たちはつき合っているのだと思うのだけれど、
ギーシュは前ほど構ってくれなくなってしまったし、少しだけ、そう少しだけ格好良くなった。
……要は不安なのだ、何か、確かな証が欲しい。
言葉だけじゃなくて、まだそういうことは早いけれど……
「違う、違う……そうじゃないでしょ、モンモランシー」
これでは、色ボケのルイズ達と変わらないではないか。
私なりになにか出来ることがある。モンモランシーは手に持った小瓶を見つめるのだった。
その夜、長い金色の巻き毛と鮮やかな青い瞳が自慢のモンモランシーは、
寮の自分の部屋でるつぼの中の秘薬をすりこぎでこねまわし、ポーションを調合していた。
水系統メイジである「香水」のモンモランシーの趣味は魔法の薬……ポーション造りである。
香りに敏感な彼女は生来の器用さで、貴婦人や街女に人気の香水を作っては小遣いを稼いでいた。
そして、貯めていたお金を使い、闇の魔法屋で禁断のポーションのレシピと必要な高価な秘薬を手に入れていた。
趣味は道徳にも勝る、なによりモンモランシーには目的があった。
見つかれば大変な罰金を科せられると知りつつも、「惚れ薬」を調合するのだった。
かくして、竜硫黄やマンドラゴラなどを繊細に調合した中に、
肝心かなめの水の秘薬をるつぼの中に傾けていく。
そして複雑な幾つかの過程をえて、小さな香水瓶に治まる程度の僅かな薬が出来る。
調合にかかった費用はエキュー金貨にして七百枚。平民が五、六年は暮らせるだけの額だ。
全ての調合を終え、無味無臭無色のその液体をゆるゆると振り、出来あいを光にかざしてみる。
完璧に出来上がったと思うのだけれで、下手に試せないのが不安もあるが自分を信じることにした。
その出来あいにうっとりしていると、小さく部屋の戸を叩く音が聞こえる。
「ルイズよ、モンモランシー。こんな夜分に申し訳ないけれどここを開けて頂戴?話があるの」
少し焦ったような声が聞こえる、確かに夜も更け訪問には遅いが、
まだ夜も始まったばかり、秘密の話をするにはもってこいの時間でもある。
最近のルイズは少し落ち着きが見え、話しやすく好感のもてる子に変わっていた。
まぁ、隣にいてよく見かける使い魔は得体が知れなかったが……
ここで、公爵家令嬢に恩を売っておくのも悪くないかもしれない。
そっと、調合した小瓶を引き出しにしまいこみ、扉を開けた。
「本当に……こんな夜更けに何かし…んぐ」
何かの種が投げ込まれたかと思うと、凄い勢いで成長してモンモランシーを縛りつけ始める。
そっと黒髪のメイドが部屋に入ってきたかと思うと、口枷をされる。
ゆっくりとピンク色の髪と、小さな肌の白い女の子が入ってきた。
さらに、サイトが部屋の中に入り扉を静かに閉める。
この間わずか数秒悲鳴を上げる間もない完璧な連携だった。
わけもわからず視線だけを追っていくと、サイトと目が合いキッと目を吊り上げた。
こいつのせいで、ギーシュは変わってしまったのだ。
「旦那様ありましたわ」
はっ、と動かせる首をメイドの方に向ける。
そこには、先ほど隠したばかりの禁制の薬が……
「ぐっ……あなたたちいったいどういうつもりなのかしら?」
口枷を外されると、モンモランシーは静かに言った。
ここで、なりふり構わず悲鳴のひとつでもあげていれば、
もしかしたら、助かっていたかもしれない。
じっとりとした目をきつくあげ、形のいい眉をゆがませて、
無知と気位によって、サイトをにらみあげまくしたてる。
ことり。シエスタがゆっくりと香水をテーブルの前にのせ、しずしずと下がる。
ルイズはゆっくりとモンモランシーに近づき、頬を撫でる。
「この御禁制の薬、貴方いったいどうするつもりだったの?」
モンモランシーの後ろに周り、金色の柔らかい捲き毛を弄ぶ。
「ぐっ……ちょっとした興味本位よ、あなたには関係ないでしょ?」
ルイズはくすくすと笑いながら、金色の髪から首筋へと指を這わせていく。
「あら?わたしとしては、こんなものを見つけてしまっては姫様に報告するしかないわね」
さっ、とお顔を青ざめるモンモランシーに構わず話を続ける。
「もしかして、罰金だけで済むと思ってるの?時期が良くなかったわね
貴方が教室で自慢していた、新事業への総括の話……確実に降ろされるわね」
ようやく状況を把握してきたのか、少しずつ強がっている仮面が剥がれていく。
「まぁそんなことがなくても、新事業を考えたのはわたしの使い魔のサイトよ?
姫様も随分慕っているわ、だから、貴方がさんざん暴言を吐いてきたことは、貴方の首を絞めていたのよ?
もちろん、こんなすぐ分かるような嘘わたしはつかないわ、分かるでしょ?」
絶望した表情でサイトを見つめる、こんな平民の良く分からない使い魔に、
ギーシュを変えてしまった張本人に…私が頭をさげなくてはいけないの?
「そしたら、あなた今日の事は不問にするからなんとかしなさい」
「…なぜ?」
なぜ?平民のくせに逆らうつもりなの?しかし…ルイズに掴まれた肩の痛みで我に帰る。
サイトは楽しそうに笑っているが、周りの温度が下がっていくような鋭い視線を感じる。
不本意だが取引をするより、仕方がない。
「その秘薬をあげるわ、それでいいんでしょ?」
そう、どこからか情報を仕入れてわざわざここに来たということは、
秘密裏にこの薬が欲しいから、こんなまわりくどいやり方で逃げ道がないように追い詰めてきているはず…
「いや、それは、別にいらない」
サイトがゆっくりとベッドに移動すると、いつの間にか蔦がはずされルイズに背中を押される。
モンモランシーは羞恥にうちふるえながら、サイトにキスをしている。
自分でシャツのボタンを外し、まだギーシュにもみせたことがない白い肌を晒しながら
「んっ……ちゅっ」
もはや、モンモランシーにはどうすることもできなかった。
杖を取られ魔物の前にほうりだされた、魔法使いのように絶望するしかないのだ。
慣れないキスにさえ、時間を掛けて自分の意思でさせられる。
いっそ勝手にやってくれればいいのに。
いちいち手が止まり動きが止まり、その度に、後ろに控えてるルイズに叱責される。
嫌悪感と胸に広がる温かい何かに困惑しながら……行為を続けていく。
「次は、これを口でするんだ」
涙を流し、いやいやと首を振る。出来るわけがない。
ルイズとシエスタに抑えつけられ、目の前につれてこられる。
敏感な鼻孔に、嗅いだ事のないオスの匂いをつきつけられる。
頭を動かせられ、その赤く小さな唇に熱い肉が触れるたびに涙があふれてくる。
全てを諦めゆっくりと口づけていくたびに、大切な何かが崩れていくような感じがする。
「口全体で咥えろ」
貴族であるはずの私が、まるで奴隷のようにひざまづきながら、口に含んでいく。
今まで甘い砂糖菓子しかいれたことのない、口の中を熱く匂いの強い肉で埋め尽くされる。
涙を流し舌も動かせず止まったままでいると、頭をエルザにゆるゆると動かされた。
シャツの間から覗く形のいい胸をルイズに愛撫され、体全体をシエスタに撫でまわされる。
「んぇ!……ぐっ……んんん」
サファイアのような輝きだった目は深い深海のように濁り、
プレゼントのように赤いリボンで飾りつけられただけの自分をサイトに奪われていく。
ベッドに投げ出され、舌で三人から責めたてられても虚空をみるだけだった。
白いシーツに金色の毛が広がる。
そして、一度も穢されたことのない純潔に、熱い塊を押しつけられ我に返った。
「やっ…!?いや……お願い…します。それだけは……どうか、どうか……」
えぐえぐと嗚咽まみれになりふり構わず懇願する。
両手を掴まれ涙し懇願するその姿が加虐心に火をつけるだけだとも知らず、
解剖される前の蛙のように抑えつけられて……
「ひっ……いぃい……痛い!痛いよぉ……」
呆気なく破瓜され、鋭い痛みに悲鳴を上げる間もなく、
遠慮のない動きに血が絡み、痛みと幸福感で気が狂いそうになる。
足をぴんと張り、舌を突出しながら、痛みを分散できずに拳を握りながら少し声を上げる。
「んっんっんっんんっうっ……」
体の内部をやすりで削られるような痛みを我慢する。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の陰りが、強く光を放っていく。
目の前に紫色の小瓶がさしだされた…。自分が作った惚れ薬の秘薬だ。
モンモランシーの手にゆっくりと持たされる。
「あっ……あっ…っやぁ……」
体もあの人を好きだった心も犯されるのだ。
慈悲のない避けることの出来ないバッドエンドの選択肢を自分で選ばされる。
なんて恐ろしい薬を自分は作ってしまったのか……
「ごきゅっ……んっ……んぐっ……ぁ…あはっ」
痛みは疼くような甘味に変えられ、憎悪は愛情に変わり、
強い思いも痛みも、全部全部塗り替えられていく。
胸板にキスの雨を降らし、指をからませ
外れないように腰に白い足を組んで絡ませ、中も腰も動かしていく。
「あっぁあっあっあっ……」
徐々に呼吸の感覚が短くなり、サイトの頭を抱えて、
愛しい唇に貪りつき、舌を絡ませていく。洪水のように愛液が流れ滑りをよくする。
「ぅ、ぁっあんぁ、やっ、……すごっ……っ…!!!」
腰ががくがくと震え、部屋の揺らめきが白と黒と交互に強くなっていく。
「ああっ、はああんっ。な…んかっ…きちゃうっ」
サイトの動きも短く激しくなって行き、射精するために精子袋が縮んでいく。
次の瞬間、子宮と亀頭が隙間もないくらいぴったりとくっつき、
白い精子の奔流が子宮の奥の奥まで埋め尽くすようにぶちまけられた。
「はぁんっ、やっ、ぁっああ、でてる、びゅっるびゅる中に………っあああ」
気をやりながらも、がっちりと腰を抑え込み、さらに射精を促すように伸縮し貪欲に腰を振る。
最後の一滴まで搾り取ったところで、愛しさと好きな人と結ばれた幸せで、
モンモランシーは、はらはらと涙を流した。