「あんた誰?」
知ってる草原だ・・・天井じゃない何処までも広がる空、馬鹿にしたような青さに眩暈を感じる。
どこぞの決戦兵器の主人公よろしく馬鹿な事いってる場合じゃない。
いや、この展開を想像していなかったかといわれれば嘘になる。嫌な凄く嫌な予感はあったでも信じたくなかった。
混乱していた。それにしてもあんまりではないか。
何故?何故?何故?意味が意図がわからない、何か成し遂げなくてはいけないのか?
悪い冗談だ。悪い夢だ。2回目、2回、2回!!あれだけ頑張った、頑張ったよね?モグラもうゴールしていいんだよね??
もう駄目だ。折れた。心が折れた・・・ばっきばきに折れた。心折設計もかくや。
おい、神様!いるんだろ!?見てるんだろ!?笑ってるのか!?!ふざけんじゃねーぞ・・・
参りました、負けました、本当まいりました、おでれーた!!
何がいけなかった・・・俺が何をした。頼むよ家に帰してくれよ・・・じゃなきゃ教えてくれ。
どうすればいいんだ、何をさせたいんだ、お願い神様仏様ルイズ様ッ!!!
(・・・・・・・)
が、駄目・・・反応無し。両手を組膝を突き全身全霊心の底から何かに祈った。
「早く、何かいいなさいよ!」
爆風で舞い上がった埃が晴れ、愛しのご主人様の姿が見え始める。
限界だった、何もかもが怖かった。
「う…うぁ、うあぁああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
なりふり構ってられない、こんな所にいられない、でも何処へ何処へ行けばいい?
判らない、ワカラナイ・・・でも少なくともここではない何処かへ、サイトは走り出していた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」
「ゼロのルイズが平民に逃げられたぞ」
周りの生徒達はゲラゲラ笑っている。所詮他人事である。
動かなくてはいけないコルベールもあまりの事に呆けている、どんな事情があれ失態だった。
ルイズも現実が見えていないのか、動けていない。
「でもいいのかゼロのルイズ。使い魔と契約出来ていないんじゃ留年かもしれないぞ」
その言葉に我に返ったルイズは、急いで平民を探したが時すでに遅くどこに逃げたかもわからなかった。
サイトは契約前だったので、ガンダールヴでもない普通の人間だったが見つからないように街道をそれ、走りに走った。
最後の死力を尽して、サイトは走った。サイトの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。逃げた。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時・・・
平民に逃げられ憤慨しているルイズと、使い魔とはいえ人間であることを心配した魔法学院が
周辺を魔法で探したところ、思いのほか簡単にサイトは見つかった。
街道を外れた森の中で、焦りすぎたのか足を踏み外し、高低差のある場所から落ちたことにより打ち所が悪かったのか死んでいた。
かつて英雄とまで言われた者の救いのない哀れすぎる呆気のない末路である。
サイトは死の間際に思った。
ルイズ、約束を守れなくてごめん。
父さん、母さん、帰れなくてごめん、親不幸でごめん。
でもこれで、やっと楽になれる。
サイト享年17歳?18?まあいいか、早すぎる死。
その激動の生涯に幕を閉じた、骨は灰にして海に・・・お供えはテリヤキバーガーで。
「あんた誰?」
許されないだろ、こんなことは・・・なんだこれは、誰か助けてくれ。
死んだら終わりっていうのが、唯一無二の理じゃないのか?死んでも許されないのか?
「・・・平賀才人」
呆然と立ちすくみ嘆いた、何も考えたくなかった。
「ひっ」
やっとの思いで召喚した使い魔の目はこれでもないかってくらい濁っていた。
それを見てルイズは、後ざすった。
これは、拙い・・・コルベールはこういう目をした人物を幾度となく見て知っていた。
この目は絶望した目だ、全てを失い、打ちひしがれる姿。
その姿にとてもよく似た目前の光景を思い返していた。
それでも契約は続けなくてはならない。
念のため自暴自棄になって、危害をくわえないか素早く杖を振るったが、危険なものは何もなかった。
召還前にどれほどの事があったのかうかがい知れない、しかしこの出会いがかつての自分のようにいい方向に向かうのを願った。
「ミス・ヴァリエール、契約を進めなさい」
「あの!もう一回召喚させてください」
「これは伝統なんだ、例外は認められない」
「でも、平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません。」
「ただの平民かも知れないが、呼び出した以上君の使い魔にしなくてはならない」
「そんな…」
「では儀式を続けなさい」
サイトの自身を取り巻くやり取りのはずも、どこか心此処にあらずでブツブツと呟いている。
ルイズも、サイトをちらちら見ながら若干引き気味だ。
なんで、こんな気持ちの悪い平民みたいなのに・・・とため息をつきながら歩み寄る。
「あんた感謝しなさいよね、貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだからね」
それでも照れているのは自分だけでなんだかむかむかしてきた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔とせよ」
甘いはずのキスはサイトに何の感動も祝福も与えなかった。
ルーンが手に焼かれる痛みが体を襲うが、呻き声をあげることもない、この痛みは夢じゃない生きてる痛みだ。
祝福?呪いの間違いじゃないのか?召還さえ失敗していれば・・・そんな思い返せば検討違いな憎い想いすら浮かぶ。
これから、どうすればいいんだろうか。
空を仰ぎ見ても、気持ちの悪いくらいの吐き気のするような青空だった。
ルイズはいやいやながらも自分の部屋にサイトを誘導する。
不気味で意思の疎通ができるか不安だったが、声を出したりはしないものの質問にはうなずき返す。
時折、嘆き声が聞こえるが、それも小事だ。使い魔を召喚できた、契約をすることができた。
もう自分はゼロじゃない!魔法が成功したのだ。
部屋に戻り、今にしてふつふつと喜びがわきあがってきた。これが私の成功の証しだ。
一見人間に見えるが、きちんと主従関係を結ばなきゃいけない。
これから、躾をしてこの使い魔を使いこなして見せる。失敗した魔法もこれから少しずつ成功させていけばいい。
コモン・マジックが成功した今、それも時間の問題だ。
二つの月を眺め、これからの栄光の道に思いをはせにやつく。
ルイズは、あくびをしながら床を指した。
「あなたはそこで寝なさい」
反応のないサイトに呆れながらブラウスを脱ぎ、するすると下着に手を掛け脱いでいく。
下着を投げつけるとネグリジュに着替え、驚くほどの速さで寝付いた。
今日はとても、いい夢が見れそうだ。
サイトは、投げつけられた白い小さなくしゅくしゅになっている下着を机に載せ、テーブルの上にそっと置いた。
テーブルの引き出しを開けると、もしもの時にと渡されたが貴族らしくないとしまってある護身用のナイフを取り出す。
ベットを覗くとルイズの桃色のブロンドが、ベットに広がり月明かりで艶かしく輝いている。
ギシッという音とともに腰かける。右手にナイフを構え、力強く握りこむ。
このまま振りおろせば、ルイズの命をいとも簡単に奪うことが出来る。
ガンダールヴのルーンが怪しく光、効率的に殺す武器としての使い方が浮かんでくる。
次の明かりが逆光になり、ナイフの刃は濡れるように光っている。
どのくらい時間がたっただろうか、
んうという鼻の抜けたような声とすーすーという寝息に左手で優しくルイズ髪をなでている。
サイトの目はルイズを撫でている時ににまるで妹でも愛でるように慈愛で満ち溢れていた。
すっと立ち上がると軽やかなステップで、窓から滑り落ち壁を伝い、静やかな音で森へと消えていった。
既に契約をすませガンダールヴとなったサイト。
前回は人間だったから、上手くいかなかった。ガンダールヴの力なら、一人でも生きていける。
皆が辛い目にあうのを見るのが嫌だった、それ以上に皆に関わるのが怖かった。
全てから、逃げるのだ。今度こそ上手くやってやる。
また死んだらどうなるのか、それがとても怖かったが無茶をしなければ長くすごせるだろう。
現実逃避、ただ只森を駆け抜けていった。
その後、身の丈を超える大剣を携えた凄腕のメイジ殺しの傭兵が各地の戦場で見かけられるようになった。
大柄とはいえない身体が持つには、それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。切るというよりは叩き潰す、それはまさに鉄塊だった。
何度も鉄と溶かし重ね錬金し、固定化を掛け続けた象徴とも呼べる大剣。
全身鎧をまとい義手のゼンマイ仕掛けの弓と、投げナイフを器用に扱い大きな戦場に風のように現れるのだった。
奇抜な姿だったが「我らが凶戦士」や「イーヴァルディの勇者」といわれ平民にはとても人気であった。
貴族でもない平民ごときが生意気よ!と、ルイズは文句をいっていたが、
使い魔もいなくなり領地にこもる前に戦争に巻き込まれた時にはどこからともなく現れ助けてくれた。
とても複雑な思いだったが、本心では嫌な気分ではなかったのだ。
まるで大きな加護で守られているように暖かく感じたのだ。
多くの人に語り継がれ、英雄譚にもなり歌わた傭兵のその生涯はなぞに包まれ、
ついに伴侶もとらず誰とも知らない静かな場所で息を引き取ったという。
幻想的な森の中には、いまも大剣が突き刺さっていた。
誰も訪れないその場所は、その剣はまるで墓標のようだった。