なんなのよ、あいつ。
はにかんだように、「ルイズ、ごめんな」なんていって
…馬鹿、使い魔なんだから、わたしの傍にいてわたしを守っていればいいのよ
でも、少し格好良かったかも、少しよ、少し。犬なことには変わりないんだから。
それでもちゃんと会話出来るようになった。
笑いかけてくれるようになった。
これまで随分甘やかしてきたから、これからきっちり躾ないとね。
サイトは相変わらず馬鹿だった。
ちょっとだけ大人になったサイトは、ルイズが拗ねても怒っても可愛く見えるのだ。
落ち込んでるときに優しくしてくれた、それだけで完全無欠の美少女が今まで以上に愛おしく見えた。
時代はルイズだよね。ルイズ可愛いよ、可愛いよルイズ。
おれ絶対間違わないよ、これからルイズだけ。ルイズだけにするんだ。そう固く決意したのだ。
決闘のおかげかキュルケに夜誘われたけど、
断腸の思いで断った。ルイズ怖いからね。
サイトはルイズをこれまで以上に甲斐甲斐しく世話し、
猫のようにつれないルイズを如何にして手なずけるかで頭がいっぱいだった。
そして夢中になりすぎて虚無の曜日を忘れて、城下町に出かけデルフを買いに行かなかった。
サイトはルイズに構うことに忙しかったのだ。
タイムテーブルを守るかのようにフーケが襲来し、
まるで予定調和のご都合主義のように調子に乗りすぎたサイトにお仕置きの爆発をさせようとしたら、
宝物庫に魔法を当ててしまい、それを利用してフーケのゴーレムが壁を破壊し、とうとう破壊の杖が盗まれてしまった。
ルイズはフーケ討伐に名乗りを上げ、何故かキュルケ、タバサも目撃していたからと名乗りを上げた。
サイトは相変わらず馬鹿だった。
武器を持たないサイトは、ただのサイト。
結局あわただしく急かされるまま武器を準備することが出来なかった。
破壊の杖があれば十分かと何の武器も借りなかった。要は慢心していたのだ。
そのためゴーレムに踏みつぶされそうなルイズに体当たりして助けることしかできなかった。
そして運悪くサイトは両足を踏みつぶされ、骨まで粉々になった。
命が助かっただけ御の字だろうか。
意識が途切れそうになりながらも、破壊の杖でゴーレムを破壊し、
フーケを気絶させ、周りの安全を確認しそれから意識を手放した。
ルイズを護れあことだけは手放しで褒められる箇所であろうか?
サイトは酷く後悔した。
両足が動かないことじゃない。
ルイズを悲しませたこと、ルイズをもう守ってあげれないことに。
ルイズは後悔した。
初めてのわたしの魔法。
優秀な使い魔を壊してしまったこと。
もっと優しくしてあげとけばよかった。
フーケを対峙するなんて身の丈知らずのようなことしなければよかった。
意地なんてはらなければよかった……
もうサイトの両足は元のように動かないらしい。
水の秘薬を使って治癒したけど駄目だった。
わたしは、初めて涙を流し謝った。
貴族が平民に謝ってしまった、屈辱なんて感じなかった。心の底から謝った。
あれだけわたしに尽くしてくれたサイトの未来を奪ってしまった。
それでも、申し訳なさそうにサイトはこういうのだ。
「ルイズ、ごめんな」
馬鹿、馬鹿……いっそ恨んでくれればいいのに。
なんでそんなにふうに笑っていられるの?
ルイズは、シエスタというメイドと交代でサイトの世話をした。
シエスタはギーシュから護ってもらった恩もあり、喜んで世話を引き受けた。
学院から、サイトを手放し教会に預けては、といわれたが認めなかった。
こいつは、わたしの使い魔よ。
ずっとわたしの傍にいればいいのよ。
サイトの世話は大変だったけれど、
サイトをベットに寝かせて、抱きついて頭をなでてもらうのは好きだった。
知らない異国の話が面白くて好きだった。
一緒にいるとぽかぽかしてよく眠れるのだ、最初は恥ずかしかったけれどなんでだろう安心するのだ。
そしてアンリエッタ姫様が来た。
ゲルマニアとの同盟を破たんさせるような重大なものが今アルビオンにあるらしい。
わたししか信用できるものがいない。
そういっていた。
サイトは、この両足じゃ連れていくことが出来ない。
残していくことは心配だったけれども、
姫様の話では、この任務を成功させないとトリステインが危ないそうだ。
サイトは泣いて反対してくれた。
危険だと、ルイズじゃなくてもいいじゃないかと。
でもこのままじゃ、戦争が起こったらサイトも死んでしまうわ。
サイトは死なないわ、わたしが守るもの。
まったく使い魔をご主人様に守らせるだなんてあべこべじゃない。
しかたないから、守ってあげるわよ。
あんたは偉大なるご主人様の帰りを大人しく待っていればいいのよ!
そういって、サイトはルイズを止めることも出来ず、
ワルドとルイズはアルビオンへ向かっていき、
そして、二度とトリステインに、サイトの元に帰ることはなかった。
サイトは、机の引き出しをそっと開けた。そこに何が入っているか知っていた。
フーケの時にこれをもってさえいれば……過ぎた取り返しのつかない話だった。
今のルイズのいない世界なんて、必要ない。
シエスタが、ルイズとサイトの部屋に入ってきて見たのは
ナイフを首筋に当て既に事切れたサイトだけだった。