ここはトリステインの魔法学院。
夏期休暇が始まったばかりの寮塔では、二人の貴族が退屈をもてあましていた。
SIDE:キュルケ
タバサと居るのは悪くない。
「ねえタバサ。お願いよ。さっきみたいに風を吹かせてちょうだい」
私の友人は本から目を離さずに杖を振る。
「冷たいのがいいわ。キンキンに冷えたのが。あなたのあだ名みたいに」
雪風が、私の体を冷やしていく。
「あー、気持ちいい……」
じっと本を読みふけるタバサを見つめる。
タバサはこの暑さにも汗一つかかずに、本に夢中になっている。
『雪風』の二つ名は、心だけでなく体も冷やすのだろうか?
タバサの家の事情を知った私は、今年の夏、ツェルプストーの領地へいっしょに帰郷しようとタバサを誘ったのだった。しかし、タバサは頷かない。
「ほんとにもう、こんな蒸し風呂みたいな寮に残ってるのなんて、あたしたちぐらいね」
私はサイトの作った風呂で水でも浴びようかしら?
人目に付かない所にあるし、この休みで誰もが実家に帰っているはずなので覗かれる心配なはい。
しかしそのとき……。
階下から悲鳴が聞こえてきた。
一瞬、私とタバサは顔を見合わせた。
私はがばっとシャツを羽織ると、杖を握って部屋から飛び出した。タバサもそのあとを追う。
SIDE:マチルダ
な、なんだいこの金額は!!
ゲルマニアでの用事を済ませ、学院に帰ってきた来た早々にサイトから送られてきた手形を見て思わず叫んでしまった。
一体何をすればこんな大金が手に入るのだろう?
手形と共に送られてきた手紙を読む。
"賭博で勝ちすぎた。自分の才能が怖い。この金で好きなようにしてちょ。半分位までなら自由に使うといいと思います。"
たったこれだけしか書いていない。
いやいや、賭博で勝ったってこの金額は異常だ。
ふと視線に人影が見えた。
しまった。アタシの声が聞こえた。
「あら、ごきげんよう」
「さっきの声は貴方なの? ミス・ロングビル?」
赤毛の生徒と、青毛の生徒、さらにビジネスパートナーの巻き毛の生徒とその付属品がアタシの元に揃った。
「とんだご迷惑をかけましたわ。まさかこんなに生徒が残ってるなんて思いませんでした」
「一体なにがあったの?」
巻き毛の生徒が聞いてくる。
「いえ、多少驚くことがありまして」
「驚くこと?」
赤毛の生徒が突っかかってくる。
そういえばこのメンバーを事業の協力者にしたいって言ってたっけ。
「ええ、これを」
たぶん見せてもいいだろう。
「なにこれ? ってえええええええ」
青毛の生徒以外が同じアタシと同じ用に叫んだ。
SIDE:モンモランシー
嘘、嘘よ。何これ? 何かの間違じゃないの?
下級貴族でも一生遊んで暮らせるわ!
手形を見て驚いた。
ほんの少し目を離すたびに私たちを驚かすことをしでかす。
私は前の惚れ薬事件の事も忘れてサイトのことを怖いと思った。
バカ(ギーシュ)はしつこく私に愛を囁いてくるが、サイトのように稼いでみろと言いたい。
「これ、どうするんです?」
サイトの秘書もやっているロングビルに私は聞く。
「こ、ここまで大きなお金だと逆に使い道に困りますね」
「サイトもすごいなぁ。一体どんな魔法を使ったんだ?」
「ホント、少し目を離すとエラいことしでかすわねぇ。でも、このお金で貴族になれるわ!」
キュルケがそういった。ゲルマニアでは確かに金さえあれば貴族になれる。
しかし、私はサイトから聞いている。
「サイトは貴族になるつもりはないって言ってたわ」
「それだと私が困るのよ。立派な貴族になってもらって結婚してもらうんだから」
「「「ええ!」」」
SIDE:ギーシュ
確かに宝探しの前にそんなことを言っていたが本気か?
「キュルケ、たぶん彼は冗談で言ったと思うよ? いやまあ、多少は本気だったかもしれないが」
なんともつかめない性格のサイトの考えを読むのは難しい。
だが、彼はおっぱいマスター。僕とは同士なのだ。
「冗談? 私は本気よ!」
そういえば最近キュルケは男を連れていない。
すべての男を振ったという噂は本当だったのか。
「しかし、困りましたね。この件はサイトが帰ってきたら聞くとしますわ」
ミス・ロングビルがそういった。
「なぁに、サイトに直接聞けばいいじゃないか」
何も考えずに言葉を発した。
「で? そのサイトはどこにいるかわかってるの?」
モンモランシーが聞いてきた。久々に話しかけてくれた。
「う、知らない。実は休みに入ったら彼と少し話をしようと思ったのだが初日に彼を尋ねたらもう出かけていたよ」
話というのはモンモランシーのことだったが、今は言わない方がいいだろう。
「タバサは何か知ってる?」
キュルケが聞いた。
「知っている」
全員が驚いた顔をしていた。
「なんで知ってるか、今は聞かないわ。で、どこ?」
キュルケの顔が恐ろしい。
「おそらく……」
彼女の答えた店は僕が一度行きたかった噂の店だった。
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ギャンブルの件。
桁を間違えてました。orz
98万エキューだと財政崩壊するぞwww
ってことで、初めにかけたお金を30エキューから300スゥにしました。
ちなみに貨幣単位は以下を参照。
銅貨 ドニエ 1
銀貨 スゥ 10
金貨 エキュー1000
新金貨 750
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