2000年・5月10日「今日は『戦術機適性検査』を行う。」「『「『「ハイ?」』」』」タケルの口から告げられる爆弾発言突然の発言に祷子達訓練兵が、声を揃って唖然とする。 今日教室に集まると、黒板に『0830にシミュレータールームに全員集合』と書かれ、何かと頭を傾げながらシミュレータールームに集まる。 すると、頭を抱えたまりもと、深い溜め息を漏らすタケルと正樹を見て、『私達…………何に巻き込まれたの…?』と全員が思う。 「………あの……質問…良いですか?」「………宜しい、なんだナスターシャ?」「………何故突然『戦術機適性検査』をするのでしょうか?まだ私達『総戦技演習』を行って無いのですが…?」全員が思う疑問。未だに『総戦技演習』を行ってない自分達が何故突然『戦術機適性検査』をするのかと。 「あともうひとつ…。………その『戦術機適性検査』をするのに何故ラトロワ中佐達『ジャール大隊』の方々も居るのでしょうか?」「それは私達も聞きたいのだが、シロガネ大尉?確か我々は『XM3の慣熟訓練』と聞いて来たのだが…?」そしてラトロワ達ジャール大隊も、強化装備を装備してシミュレータールームに集まっていた。 「………実はですね……これ…全て先生…香月博士の仕業です。オレ達も今日初めてこの事を聞きました。」「「「はっ?」」」「…正確に言いますと、ジャール大隊の慣熟訓練は聞いてました。それで当初は私が訓練兵の授業を受け持ち、タケルがジャール大隊の慣熟訓練に教官として配置する予定でした…。しかし今日の朝早くから香月博士から連絡ありまして…『今日訓練兵、戦術機適性検査やって頂戴。あとジャール大隊の慣熟訓練も纏めてやって頂戴☆』…などという事を朝の五時から電話を寄越したので、急遽変更になりまして……………スミマセン。」タケルとまりもの疲れ切った姿を見て、『そ、そうか………お気の毒に…』と告げるラトロワ全員がタケルとまりもに同情の眼差しを向けていた。 「戦術機適性検査に関しては、去年から総戦技演習の内容を色々とテストしてたんだ。それで今年は総戦技演習の内容が、『戦術機での退却戦』設定は『敗戦後の退却戦』をイメージした訓練で、目的地までに退却するのが目的。今回は『対人戦』としての設定だから『追跡者』も居る予定だ。退却時に戦術機をやられ、操縦不可能となった場合はベイルアウトも可能にしてるから、戦術機を撃破されて失格…という訳ではない。」タケルの説明を聞いて唖然とする祷子達ラトロワは『一理ある。』と考え、一応納得する。「一応言うが、訓練兵だからって戦場に出ないとは限らない。場合によっては出る事もあるし、突如遭遇する事だってある。そういった場合を想定した訓練だから気を引き締めろよっ!!」「「「りょ、了解ッ!!」」」タケルの説明を聞き、喝を入れられる祷子達それに戸惑いながらも、返答をしながら敬礼する。 「…という訳で、誠にスミマセンが……」「仕方あるまい…。コウヅキ博士の命令となれば、我々もきくしかない。」ハァ…と溜め息を吐くラトロワ流石に怒るに怒れず、むしろ同情してしまう始末だから困惑する。 (けど、むしろチャンスか。前島中尉も居る事だし、祷子のポイントを上げるには丁度良かったわ。)そして偶々正樹が居た事で祷子の好感度アップを狙うナスターシャちなみに正樹は急遽の事だった為、タケル達の手伝いを命じられていた為、偶々絶好なタイミングで居た。------と、呑気に考えていた時もあった。そして気を取り直して、先ずは訓練兵の戦術機適性検査から始める。そしてまず最初の『洗礼』は---- 「はうぅ…」「こ、コレは流石に……」訓練兵の最初の『洗礼』あのスケスケで裸同然の訓練兵用の強化装備を着用し、顔が真っ赤に染まる。部隊一胸がデカい祷子は胸を隠しながら顔を赤らめ、流石のナスターシャも堂々としてはいたものの、ヤッパリ恥ずかしい為、顔を赤らめる。 「し、白銀大尉!!」「コレは香月博士の悪戯ですかっ!?」「は、恥ずかしいですぅ~…」そして巽達三バカも顔を赤らめて質問する。 「残念だけど……コレは真面目な事に訓練兵の強化装備だ。勿論先生や悠陽の悪戯じゃない。…………………まあ、製作者の趣味だと俺は思うがな。」「「「趣味!?」」」タケルの一言にショックを受ける巽達この時、祷子達訓練兵全員(女性陣)が製作者に殺意を抱いた。 「さて、最初は……ナスターシャ。」「ハッ!!」「お前達には『伝統』を受けて貰う。コレは歴代の第207衛士訓練学校の『伝統』でな、コレを受けてみんな衛士になるんだ。厳しい『伝統』だが、覚悟はいいな?」「ハッ、勿論ですっ!!」タケルの説明を聞き、敬礼するナスターシャその姿を見て、ラトロワ達ジャール大隊も誇らしげに見守る。 しかし---この時、タケルとまりもの笑みが黒かった事は……正樹ただ一人しか気づかなかった。 「この伝統は、俺と複座する事になる。最初は戦術機の基本動作等を体感してもらい、それからXM3の動きを体感して貰う、いいな?」「了解っ!!」タケルと複座する事はナスターシャも聞いていた事そして『ハード』だと聞いていた為、覚悟は出来ていた。 だが----その考えは甘かったと、その身で証明される事になった。 「そぉーら☆倒立反転中からキャンセル入れて、横に短距離跳躍!!そして廃ビルを足場にして、三角飛び三連しながら途中で急降下し、着地と同時に横に噴射地表面滑走しながら障害物を小さく旋回して、水平噴射跳躍を全力噴射しながら障害物を回避!!」「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」鬼畜。そのセリフがピッタリな程、タケルは活き活きと変態機動を炸裂する。 祷子達訓練兵は勿論、ラトロワ達ジャール大隊も絶句し、ナスターシャの惨事をただ見つめる。まりもはニコニコ笑顔で楽しみ、経験者である正樹は、モニターのナスターシャを見ながら『南無~…』と合掌する。「吐きそうか?そばにあるエチケット袋を使えよ?」「つ~か~え~る~かぁぁぁぁっ!!」一応情けで、ナスターシャの操縦桿のそばにはエチケット袋が用意されてるが、使える状態ではなかった。「ホラ、しっかりしろナスターシャ。」「………………ウプッ」戦術機の適性検査を終了するナスターシャ最早自分では動けない程酔ってしまい、タケルに運ばれて真っ直ぐ伝統のポリバケツへと進み……吐く。 それを見て真っ青になる祷子達そりゃそうだ、次は自分の番かもしれないのだ。『現在のナスターシャの姿は未来の自分の姿』そう理解した祷子達は、ガタガタブルブルと震えていた。 そしてジャール大隊の皆さんも、自分の部隊のナンバー2が、あのような姿になる所を見れば、流石に怯える。 ラトロワも流石にナスターシャに心底同情する。そしラトロワを含んだジャール大隊は『私(俺)…ソビエト軍で良かった…。』と内心安堵する。 だが---神様はやはりイタズラ好きだ。「あっ、ちなみジャール大隊の皆さんも、最初はコレをしますから。」「「「「な…なんだってぇぇぇぇっ!!?」」」」「恨むなら先生にお願いします。まあ、確かにコレやった方が早く覚えますしね。」正に死刑宣告。今、ナスターシャが体験した変態機動を自分等も体験せよと聞き、石化等現実逃避するジャール大隊流石のラトロワさんも汗をダラダラと流してますよ? 「ちなみに…タケルの変態機動は熟練者なら…耐えられますが…『全力変態機動』は熟練者でもああなりますので。」「「「へっ?」」」まりもの一言に全員が唖然とするそりゃそうだ、ナスターシャを苦しめた機動が『手加減されたモノ』と知れば、誰だってそう思う。「全力…だと?もしや、先程のは全力ではなかった?」「勿論ですよ。訓練兵に全力でやったら…………あの世の階段への直行便?」「正樹、言い過ぎだ。」ラトロワの問いに答える正樹それに否定するタケルだが、去年美冴がお仕置きで『全力変態機動~お仕置き編』を喰らい、トラウマ化したのを目の前で見た正樹からすれば、言い過ぎではないと断言する。そして1時間後---- 「これで全員受けたな?」「「「「……………………」」」」「フム、もう一度受け「「「止めて下さい!!」」」……なら返事だけでも返せ。」タケルの問いに、力尽きて無言になる祷子達無言だった為、脅しを入れるタケル「仕方ない。ホラ、ベンチで横になって休め。体調の悪い奴は正樹に医務室にでも連れて行って貰え。」「「「「風間(祷子)訓練兵を……お願いします……。」」」」「……お前達って奴は……!!」タケルの一言に反応し、力尽きても祷子への応援は忘れないナスターシャ達。その強い絆にポロリと感動の涙を流すタケルとまりも。「それじゃ、風間訓練兵を医務室に連れて行きます。」「走るなよ?走ったら揺れて………自分にも被害喰らうからな。」「待って……下さい、前島中尉…。」祷子をオンブで連れて行こうとする正樹すると、ナスターシャが力の限りを出して、正樹を止める。 「なるべくオンブ…より…『お姫様抱っこ』でお願いします……じゃないと……吐く危険性が…ありますので。」「そっか、ありがとうイヴァノワ訓練兵。」適当な理由を付けて、正樹に祷子を『お姫様抱っこ』させるナスターシャ。作戦は成功し、祷子をお姫様抱っこしながら退室する正樹。 「みっしょん…こんぷりーと…ぐふっ!?」「ナスターシャ…お前って奴は……!!」好感度上昇イベントを成功させ、力尽きるナスターシャ。 祷子への友情の絆を見せつけたナスターシャに全員が賞賛を贈る。「さて……訓練兵の適性検査も終わった事ですし…そろそろ逝きますか、ラトロワ中佐。」「逝く!?」タケルの一言に驚くラトロワ流石にあれだけのモノを見れば怖がる。 「まずジャール大隊は、この慣熟訓練を受けて貰い、その後実際に操縦してもらいますけど、その際注意が一つ。XM3は操縦の遊びが全く無いので、下手すれば動いた瞬間豪快に転倒する恐れがありますので、ご注意下さい。何か質問ありますか?」「ハイ、質問です。」「何でしょうか、キーラ大尉?」「あの…この慣熟訓練を受ける・受けないでの差はどれくらいでしょうか?」タケルの真面目な説明を真剣に聞くジャール大隊タケルから『質問は?』と訪ねると、キーラが怯えたように質問する。 「まず時間短縮はします。まず受けないでXM3を訓練した場合、個人差はありますが、数週間程かかります早ければ一週間程で慣れますが、完全に使いこなすとなると、数週間はかかります。しかし、先程訓練兵にやった『アレ』をすれば、早ければ2~3日で慣れ、使いこなす迄には遅くても二週間程で使いこなしてます。要はアレです、『今の内にキツいのを体験しておけば、慣れるのも早くなる』です。」「つまり…約半分の時間短縮になるという事ですか…」「ハイ、『アレ』を体験させる事で、実機訓練した際、自分にとっての『境界線』がわかりますし、一度体験してから訓練させてしまえば、『アレ以上』では無い限り、G等にも耐えられますから、すんなりとクリアしていきますよ。」「今までの成功例は?」「うーん…そうですね……一昨年の訓練兵で、『アレ』を体験した後、三人(水月・孝之・慎二)が正味1日でXM3に慣れて、使いこなせるようになったのが…5日ぐらいかな…?また、違う所属の実戦部隊の場合、俺の指導無しで慣れるのに、早くて3~5日、使いこなすのに三週間かかったと言われてます。これは、訓練兵達はまだ戦術機に搭乗して浅かった為、すんなり受け入れる事が出来たのが要因です。勿論、俺の機動を体験した事でXM3の動きを慣れる事を早めたのも一つです。また、実戦部隊の方は旧OSを長年使っていた為、その違いに戸惑ったり等で時間がかかった事が理由に挙げられてます。」「つまり、旧OSに慣れてる私達はこのままだと、時間がかかる可能性があると…そういう事だな?」「ハイ、そうです。」タケルの説明を聞いて、ガックリと落ち込むキーラ『仕方あるまい。』と覚悟(諦め?)を決めるラトロワの姿を見て、他の隊員達も覚悟を決める。「それじゃ、早速…君…逝こうか。」「オレッ!?っていうか、ちょっと……シロガネ大尉、手を引っ張らないで……って何笑ってるんですか!?」「キノセイダヨ~♪」「嘘だぁぁぁぁっ!!」ドナドナ…と拉致られるキーラ助け舟は無く、孤立無援のキーラはそのままタケルに連れさられる…。 10分後----- 「オオォォエェェッ☆」見事に撃沈。先程訓練兵達が使ってたポリバケツに吐くキーラタケルからタオルを受け取り、口元を拭くと、『もう一丁逝っとく?』とタケルから死刑宣告を告げられると、無言のまま力尽きる。そして---「大丈夫…ですか?」「…………無論だ。」最後にラトロワが挑み、足元をふらつかせるが、『隊長としての意地』を見せ、唯一ポリバケツのお世話にはならなかった。 死屍累々と床に横たわっているジャール大隊の隊員達やナスターシャ達訓練兵から、尊敬の眼差しを受ける。 「これで今日の訓練は終わりです。今日はゆっくり休んで下さい。」「その……つもりだ。」フラフラと退室する一同すると--- 「スミマセン、後は頼みます。」「全く…無茶は駄目よ?」後ろからタケルとまりもの話声が聞こえ、振り向くラトロワするとタケルは再び管制ユニットに乗り込む。 「……なんだと?まだやる気なのか…?」「ああ、あれは毎度の事ですよ。」「毎度の事?」「自主訓練です。ああやって、可能な限りはシミュレーター訓練をするんです。仲間を一人でも多く助けれるように…って。」ナスターシャから『タケルの自主訓練』と聞き驚くラトロワだが、それ以上に仲間の為に己を鍛えてると聞き、再び驚く。 「以前…大切な仲間を失ったそうです。だから、今の仲間を守る為に……教え子達を守る為に……大切な人達を守る為に頑張って鍛えてるんです。」「そう…か…。」『大切な人達を守る為』と聞き、反応するラトロワ 「私も負けてられないな…。」「ハイ。けど…今日はゆっくり休んで下さい。」「勿論だ。今訓練しても、無様な姿を見せるだけだ。」新たな決意を抱き、ナスターシャと共に退室するラトロワだった……。