2000年・5月15日--- 「ふう…終わったぁぁ…。」「お疲れ様、タケル。」書類整理を終えるタケル冥夜から合成緑茶を貰い、ズズズ…と飲む。「いつになっても、この書類整理は慣れないな…。」「仕方あるまい、私とて得意な方ではないが、己の仕事故にやるしかあるまい。」「だなぁ…はふぅ…。」へにゅう…とタレるタケル。そんな姿を見て苦笑いをする冥夜だが、『ちょっと可愛らしい』と内心思ってたりする。 「失礼する。」「ラトロワ中佐?」すると、なにやら複雑そうな表情をしながら、ラトロワが入室する。 「シロガネ大尉、質問がある。」「なんでしょうか?」なにやら怒りなどの感情が、見え隠れするラトロワを見て、気を引き締める。 「今先程、祖国と通信をしていたのだが、なにやらキナ臭い感じがした。何か心当たりが無いか?」「心当たり…まあ一応ありますけど、詳しく説明してくれませんか?」「ああ、良いだろう。知っての通り、我々ジャール大隊の任務はXM3の性能の調査と祖国へ持ち帰る事が任務だ。此度我々がXM3を体験し、その性能を絶賛し祖国に報告したまでは良い。だが上の連中の会話等を聞くと『何時送れるのか?』と聞き返してくるのだ。通常ならば、『何時帰って来れるのか?』が正しい。だが、最初は言い間違いかと確認したが、上層部の返答は『何時送れるのか?』だ……これは一体どういう事なのだ?」「………はぁ………ヤッパリか…。」ラトロワの説明を聞き、『予想通りの答え』で溜め息を漏らすタケル。その際、表情に怒りが浮かぶ。 「ヤッパリとは、どういう事だ?」「………もしや…以前香月博士が愚痴を漏らしてた件の事なのか?」「ああ、そうだ。」「………愚痴だと?」ふと思い出した冥夜の一言に反応するラトロワタケルは怒りを抑えて説明をする。 「以前、ソビエトにXM3を売る話が決まった辺りに、家で先生が話をしたんですよ。その内容はXM3を売るから、その代金として『su‐37M2を一個大隊分』か『su‐47を一個小隊分』のどちらかと交換だと先生が交渉したんですよ。」「………………………なんだと?」「俺も聞いた時は、ビックリして茶を吹きましたよ。」香月博士の交渉内容に眉間をピクピクするラトロワ「確かにとんでもない交渉内容ですけど、XM3の性能や、今後のソビエト軍の戦力アップや生存率上昇を考えれば、確かにそれぐらいの価値はあります。それはラトロワ中佐も理解は出来ると思いますが…。」「無論だ。確かに今後の事を考えれば、躊躇いはするが納得は出来る。」「まあ、聞いた当時は俺も『ぼったくり過ぎるだろっ!!』って思いましたしね。」「それが普通の反応だ。」ハァ……と溜め息を漏らし、『ダンッ!!』と机を強く殴りつけるラトロワそして『答え』に辿り着く。 「………つまりアレか?祖国の上層部は、愚かな事に我々ジャール大隊を『売った』のか……。」「多分それで合ってると思います。その事で先生もだいぶ荒れてましたよ、『連中、仲間を売るなんて馬鹿じゃないのっ!?』ってね。」「コウヅキ博士が…?」静かに怒りを露わにするラトロワだったが、タケルの一言に反応する。 「先生って結構はっちゃけて、悪戯大好きな所があるし、『立場上の顔』としても手段を選ばない冷徹な所もありますけど、中身は本当は優しいんだけど素直に慣れない不器用な人なんですよ。」タケルが知る『香月夕呼』を語る。ラトロワは、その言葉を聞き、怒りが飛ぶ程驚く。 「あの人は頑張ってる分だけの報酬がなければ納得出来ない人なんです。だからジャール大隊の事は名前でしか知らないけど、祖国の為に命を賭けて戦ってるにも関わらず、この扱い方に納得出来ないって愚痴を漏らしてたんですよ。無論この世界、非情な手段を下す事が当然のようにあるのは理解してるけど、あの人は本当に優しい人だから、家に来た時に感情爆発して愚痴を漏らしたんですよ。」香月博士の気持ちを知り、少し戸惑うラトロワ「幾ら向こうが悪いとはいえ、きっかけは自分に有るって、責任感じてるみたいですよ?」「…………そうか。」まだ僅かに怒りはあるが、タケルの話と香月博士の気持ちを知り、落ち着かせる。 「それで、この後はどうするのだ?まさか、このままで済ますコウヅキ博士ではあるまい?」「勿論です。ソビエトの上層部に後悔させる段取りをしてる所ですよ。」「それを聞いて安心した。」未だ消えぬ怒りをグツグツと煮え立たせるラトロワとタケル余りの黒い笑みに冥夜が二歩三歩と後退する。 「もし、我々ジャール大隊を『売る』事が決定した場合は私も上層部に後悔させてやろう。」「力を貸しますよ、ラトロワ中佐」『なら、決定ね。』「「「ハッ?」」」突然の声に驚くタケル達。すると部屋の入り口に香月博士とナスターシャが居た。 「先生!?何時来たんですか?」「ついさっきよ。けど…どうやら話は済んだようね。まあ、説明する手間が省けたから簡単に説明するわよ?」部屋に入室し、扉の鍵を閉めてから説明する。 「ついさっき横浜基地から連絡あってね、ソビエト側の返答があったんだけど…まあ、予想通り腹立つ答えが返って来たわ。」「成る程。それで……何するんですか?」「別にぃ~☆そのままXM3を売りつけてやるわ。」「「「ハッ?」」」予想外な答えに唖然とするラトロワ・冥夜・ナスターシャすると、タケルの顔が苦笑いに変化する。 「先生…随分とタチの悪い事を……」「流石は白銀ね。随分と賢くなったじゃない。」「先生に揉まれましたからね…。」「ど、どういう事なのだ、タケル!?」ニヤニヤと腹黒く笑う香月博士の考えを理解するタケル未だにわからないでいる冥夜がタケルに質問する。 「つまり先生は『真っ白な新品のXM3』を送るつもりなんだよ。XM3は経験を積んで初めて最大限に能力を発揮するOSだ。けど、新品のXM3を送るって事は、蓄積データが0だから1から鍛え直さなければならないって事だ。そしてそれには長い時間が必要、場合によっては実戦の経験も積まないと最大限に発揮出来ないって訳だ。」「ジャール大隊に搭載されてるXM3は既に実戦経験や長い訓練時間を積み重ねたOSよ。だからジャール大隊が搭乗した時は最大限に発揮できたけど、新品のXM3はレベル1の状態だから最大限に発揮は出来ない。…と言っても、旧OSに比べたら天と地の差だから、此方には責任を言われる事は無い。」タケルと香月博士の説明を聞き、『成る程』と納得するラトロワ達「そして、XM3を早期に慣熟するにも『指導者』が居なければならない。本来、ジャール大隊が帰還して他の部隊に指導すれば、早くにXM3を使いこなす事が出来たけど、肝心なジャール大隊は『売った』為指導者が居ない状態になる。つまり、慣熟するには時間がかかるし、ジャール大隊を売った事に後悔するって訳。」「どれだけ実機訓練で戦術機壊すか楽しみですね~♪」「うわっ、腹黒っ!?」香月博士とタケルの言葉を聞いてナスターシャが思わず本音を口にする。「まあ、どの道ソビエト側がその事で文句言うならば、此方にも言い分があるから、返り討ちにしてやるわよ。」「例えば?」「元々私は『su‐37M2を一個大隊分』か『su‐47を一個小隊分』と言ったのよ。その約束を一方的に破ったのはアッチなんだから、文句は言わせないわよ?」クックックッ…と『でびるふぇいす』を見せる香月博士だが、流石のタケルもその表情を見て、2~3歩後退する。「…という事は、私達ジャール大隊は国連軍に所属するのだな。」「いいえ、違うわ。」「違う?」「ええ、一応国連軍には入れる予定だけど、現段階は『帝国軍』に所属する予定よ。」「「「帝国軍っ!?」」」ジャール大隊の新たな所属が帝国軍と予想され、驚愕する。 「今回の件の連絡が入ったばかりだからまだ決まってないけど、多分帝国軍に入隊になるでしょうね。本音で言えば、白銀の所属する斯衛軍の第17大隊に入れて『連隊編成』の件をケリつけるのが理想的だったんだけど、こればかりはこの国の上層部と話し合いになるわ。国連軍については、しばらくは入れない。もし、国連軍の上層部を動かされたら、流石にお手上げだからね。けど、まあ…それでも早くて半年…遅くても一年ぐらいで解消出来る問題だから、これ自体は問題無いわ。」「…つまり国連軍に入るには、ソビエト側がXM3を使いこなせるようになってから…ですか?」「そういう事。」帝国軍に所属する理由を聞いて、『成る程』と納得するタケル達すると、タケルのそばにあった電話機が鳴りだす。 「モシモシ、此方第『タケル様ッ!!』~~ッ!?」受話器を取り、話しかけると、悠陽の声が大音量で響く。 「ゆ、悠陽!?」『タケル様、ジャール大隊の件のお話、聞かせて貰いました。…ジャール大隊へのこのような扱い…心底から怒りをこみ上げる気持ちです…。』「あ、ああ…俺も今ラトロワ中佐から聞いた所だ…。」『ラトロワ中佐が今そちらに?』「ああ、今回の件で質問しに来たんだ。大体にして、ラトロワ中佐にすら、今回の件伝えてなかったようだ。」『…なんですって…!!』受話器越しから悠陽の怒りが伝わり、ビクビクするタケル離れてる位置にいるラトロワや香月博士達にすら、その声と怒りが伝わる程だ。 『…決めましたわ、タケル様…。』「な、なにがだ…?」『私…いえ、我々日本はジャール大隊を受け入れ、そして理不尽な外敵から護ります。』「ああ…勿論だ。今先生も来て、その事を話してたんだ。」『そうでしたか…流石は香月博士。ならば、話は早いです。』「ゆ、悠陽?」『タケル様、申し訳ありませんが、ジャール大隊を集めてくれませんか?今回の件のお話、私直々に致します。そして皆さんを受け入れ、護る事を宣言致します。』「わかった。」タケルにジャール大隊を召集する事を頼み、通話を切る悠陽その怒りが充分伝わったタケルは疲れたような表情でラトロワに話しかける。「…………聞こえましたか?」「………ああ…。」「相当キレてましたね…悠陽…。それにしても…」「何だ?」ラトロワをジロジロと見るタケル 「悠陽と何かありました?随分とジャール大隊の事気にかけてましたけど…?」「特に無い。ただ…初日にお互いに観察しあったぐらいだ。」「…成る程…。なんか『親しい人物を侮辱された』ような怒り方でしたよ…?」「多分、殿下はラトロワ中佐の事気に入ったのよ。だから今回の件でキレてるのよ。」今回の悠陽の怒りの件について冷静に分析する香月博士当のラトロワはちょっと驚くが、内心嬉しい気持ちがあった。 「さて、さっさとジャール大隊を召集するわよ。あんまり時間かけてたら、殿下ブチキレるわよ?」「それだけは勘弁してください。」香月博士の脅し(?)に怯え、早速取りかかるタケル達。そして、それから30分後---- 「急に皆様方に集まって頂き、誠にありがとうございます。」ジャール大隊を召集し、悠陽自らが感謝の言葉と共に説明をはじめる。 流石に突然の殿下の召集という事もあり、ジャール大隊の隊員達に不安な空気が漂う。 「此度集まって頂いたのは、先程ソビエト側の上層部から連絡が入り、XM3を導入する事を決定したと報告がありました。これだけならば、喜ばしい報告です。しかし、あろう事にソビエト側の上層部はXM3の導入の代金として、ジャール大隊を戦術機ごと日本に『売る』という返答でした。」「「「「ええっ!!!?」」」」「当初は、XM3との交換条件として、『su‐37M2を一個大隊分』か『su‐47を一個小隊分』という交渉でした。香月博士もそれらを改良し、日本を守護する戦術機として交渉したのですが、今日先程ソビエト側がXM3を導入する事を決定したと同時に、ジャール大隊を日本に売り渡す事…と報告がありました。」『嘘…』『そんな…祖国に帰れないの…?』悠陽の説明を聞き、悲しみと怒り等が混ざり合うジャール大隊の隊員達。しかし---そんな感情を吹き飛ばすかのように、凛とした態度で再び説明をする悠陽 「そこで私、政威大将軍・煌武院悠陽が宣言致します。これよりジャール大隊は、日本が受け入れ、様々な外敵から護る事を宣言致します。そして…時間はかかるでしょうが、そなた達を祖国に帰れるようにしてみせます!!」「「「「!!!!?」」」」「煌武院悠陽の名に賭けて…誓います。ですから、その怒りと悲しみを抑えて下さい。」「「「「えっ!!?」」」」自分達を守る為に日本に受け入れる事を宣言する悠陽そしてジャール大隊の隊員達が持つ感情を抑えようと、悠陽自らが頭を下げ、全員が驚愕する。『で、殿下!?』『面をお上げ下さいっ!!畏れながら、我々等に頭を下げる必要など…』慌てるジャール大隊の隊員達。自分達の為に頭を下げる悠陽に頭を上げるように説得する。 『何故…其処まで我々を…?』『私達は素行の悪い餓鬼です。ラトロワ中佐のような方ならばまだしも、我々など…』『まして我々は殿下やこの日本から…恩を着せる事など一つもしていません。なのに…何故此処までの事を…?』突然の事に隊員達が戸惑いながら質問すると---- 「…軍人とて、『民』の一人です。例え異国の者であろうとも、それを護る事は当然の事…。例え、政威大将軍という職に着いて居なくても、困り、苦しんでいる者を助ける事は『人』として当然の事です。…無論、全ての人間がそうとは言えないのが悲しい現実ですが、それでも私・煌武院悠陽という一人の人間は、アナタ達を救いたいと思う一人の人間なのです。」「「「----ッ!?」」」「此処でアナタ達を見捨てる事は出来ません。このような事で諦め、見捨てるようでは、民を護る事など到底無理という物。例え、多くの者が反対しようとも、私は徹底的に戦います。それでアナタ達を救えるならば本望です。」『で……殿下…!!』悠陽の本心を知り、涙を滲ませるジャール大隊の隊員達。そして隊員の一人の手を包み込むように両手で握る悠陽が笑顔で答える。「希望を…諦めては駄目ですよ?」『ハッ…ありがとう……ございます…殿下…ッ!!』その優しさに触れ、我慢出来ずに涙流す隊員達ラトロワ中佐やナスターシャを含めたジャール大隊全員が敬礼し、この瞬間から悠陽に忠誠を誓う。 「ウム…見事な采配だぞ、悠陽よ。」「お、おじい様!?」すると、突然の雷電登場に驚く悠陽雷電と共に護衛の神野大将も一緒に入室する。 「おじい様、どうして此処に…?」「いや、先程随分と感立っていた悠陽を見かけてな…理由を聞いて、後を追ってみた…という事だ。」「見事ですぞ、殿下。この神野…殿下の成長を嬉しゅう御座います。」「そこで…だ。此度の件、我々も力を貸そう。それに…他にも力を貸してくれる方が居るのだ、任せるが良い。」突然の来訪と支援に驚く悠陽そして雷電の言葉に疑問を抱く。「えっ…『他にも』とは一体…?」前・政威大将軍である雷電以外の支援者の存在そして、雷電ですら『貸してくれる方』と言わせる事に戸惑うと---『私ですよ、悠陽さん。』「あ…貴女様はッ!!」突如現れた1人の老婆。しかし悠陽を始めとして、ジャール大隊を除いた全員がその存在に驚愕する。 そして同時に跪き、頭を下げるタケルや悠陽達を見て、戸惑いながらも、ジャール大隊全員も跪く。 (シ、シロガネ大尉…あの御方は一体…?)(あの方は、日本の頂点に立つ御方…『日本帝国皇帝』の『天乃宮珠代様』です…!!)(なんだとっ!?)突如の皇帝陛下登場に絶句するタケル達だった…。