2000年・5月29日「全員集まったようだな。」いよいよ来た総戦技演習に緊張しながらも、タケルやまりもの前で整列しながら敬礼するナスターシャ達。全員が『あの』訓練兵用の強化装備を纏い、すっかり羞恥心が麻痺してきた。(祷子に限り、正樹に見られると全力疾走で逃げる。)「今日はお前達の未来がかかってる総戦技演習だ。今まで学んできた事を此処で全て出して合格してみせろ!!」「「「「ハッ!!」」」」タケルの言葉に反応して、訓練兵全員が気合いの入った返答をする。そして、そんな様子を離れた位置で隠れながら見ている者達がいた――― 「うわぁ~…本当に白銀が教官してるよ…。」「壬姫も受けてみたいです…。」こっそりと隠れながら様子を見ていた冥夜達。初めてタケルが教官をしている所を見て驚く晴子と、本音をポツリと漏らす壬姫に皆が心の中で賛同していた。「私達も初めて見たけど、結構教官らしくやってるじゃない。」「……けど、まだ未熟だって自分で言ってた。」「そりゃ、軍曹に比べればまだ未熟だろうけど、それでも充分凄いわよ。」「……まぁね。」タケルの教官としての姿を尊敬する千鶴慧もその事には笑顔で賛同する。「因みに言うならば、前期では純夏や宗像中尉もタケルの教え子になっている。」「ウソッ!?」「ふぇ~…今回の風間少尉だけでも凄いのに…。」「神代・戎・巴の三人も今回の教え子に入ってる。」「……密かに白銀って結構責任重いんじゃない?」冥夜の説明を聞き、更に驚く晴子と壬姫そしてタケルの教官としての責任という名の重責を背負ってる事に気付く。そりゃそうだ、教えて結果的に『前の世界の宗像達』より劣っていたら、むしろヤバいのだ。最低限同等ぐらいまで成長させなければ話にならないのだから、タケルの責任は重いのだ。「……けどさ~…今回の総戦技演習の『イベント』って何なのかなぁ~?前回は軍曹の途中参加って聞いてるけど…。」「……今回も軍曹参加?」「いや待て、それは流石に無いだろう。もし、そうならば…搭乗する機体は…天狼だぞ?」「天狼って?」「まりも殿の専用機であり、武御雷・羽鷲以上の機体だ。YF‐23の改良機で、現在日本で最強の戦術機だ。」「……なら、軍曹の途中参加の案は消えたね。」まりも投入の可能性を潰す冥夜達同時に香月博士の起こす『イベント』に南無……と合掌する。―――――――――――――――――――――――――――――――――「さて…そろそろ時間だな。」腕時計の時刻を見て、マイクを持つタケル既に吹雪・改の中で待機していたナスターシャ達は今か今かと操縦桿を強く握り締める。(これで合格すれば、皆が衛士になれる。特に祷子には恩返しがやっと出来る。)かつて、自分が復讐心や仲間達を失った喪失感や孤独感で、なにも出来なかった時に、救いの手を差し出してきたのがヴァルキリーズだった。特に祷子には、母性溢れる優しさで接して貰い、何度となく孤独な自分を救って貰った。そんな事もあり、祷子には幸せになって欲しいと思い、正樹との恋を成就させようと応援をする。(祷子…必ず衛士にしてあげるからね…。)一度祷子の方に顔を向け、誓うナスターシャそして同時に新たに出会った仲間達を見る。(巽…美凪・雪乃…そしてみんな…。)苦楽を共にし、お互いに分かち合った仲間達。任務の為とはいえ、訓練兵に偽装しながらの生活は、ナスターシャにとって、かけがえの無い日々だった。(みんな…ありがとう。みんなと共に過ごす事が出来て、本当に良かった。)みんなに感謝しつつ、表情を変え、この時だけは衛士の姿に戻る。ナスターシャにとっての秘密のミッションが発令される。それは、『総戦技演習を合格する事』みんなへの恩返しを決意したナスターシャは再び操縦桿を強く握り締める。『3…2…1…任務開始!!』まりもの任務開始の発令と共に全機出撃するナスターシャ達。作戦通りに『楔弐型』に似た隊形を取り、巽・美凪・雪乃の三機が前線に配置し、・最後尾にナスターシャ・祷子の配置させ、右翼・左翼・中央に2・2・3と他の者達を配置していた本来ならば、祷子を中央に配置するのだが、今回はナスターシャとエレメントを組み、冥夜機である武御雷・羽鷲を抑える為に今回の配置になった。右翼・左翼・中央の者達は千鶴達を抑えるのが役目、その間に前線の三機が脱出をする作戦だった。『全機、噴射跳躍で距離を稼げっ!!機体性能が劣ってる以上、少しでも距離を離しておくんだっ!!』『『『了解!!』』』ナスターシャの指示に従い、距離を稼ごうと全力噴射をする訓練兵達。――――――――――――――――――――――「へぇ…移動隊形の『縦型』じゃなくて『楔弐型』に近い隊形か…。」「まりも~、これどういう意味なの?」ナスターシャ達の隊形を見て、意外そうな反応を見せるタケルそういった事は良くわからない結城はまりもに質問する。「うーん…普通移動する際は『縦型』なんだけど、今回の隊形は『楔弐型』に似た隊形。普通、『楔弐型』は『楔壱型』に比べて突破力より側面防御を重視した隊形なんだけど、距離を稼ぐだけならば『縦型』で充分だし、何かあっても直ぐに隊形を変更出来る隊形なんだけど…」「後方から仮想敵部隊が来る事知ってるのに、なんで前方に対しての突破力重視の隊形なの?」「そこが問題なのよねぇ…?」まりもの説明を聞き、理解する結城しかし何故突破力重視の隊形にしたのかに疑問を持ち、まりもと共に頭を傾げる。「白銀君、わかる?」「うーん…今回仮想敵部隊の情報をある程度教えてるから、この隊形にしたんだと思うけど…もしかすると、この隊形って後方からの追撃部隊に対しての隊形なのかもしれないなぁ…。」「でしょうね。けど、それならば何故神代達三人を前線に配置したのかしら?普通、後方に対しての隊形を組むのなら、中央に神代達が配置されなきゃおかしいわよ?」「なら、他にも理由があるんだろうね~。」「理由……ねぇ。」冷静に考えるタケルとまりもそしてひとつの答えに導かれる。「そっか…この隊形は今回の演習に合格する為の隊形か。」「どういう事?」「つまり、前衛以外は追撃部隊を抑えてる間に前衛部隊は脱出する為の隊形なんだよ。特に連携が上手い神代達三人ならば、万が一仮想敵部隊が追撃してきても、他の者達を配置させるより神代達の方が生存率が有ると考えて神代達を前衛に配置したんだ。」「成る程ねぇ…考えたねぇ~。」納得する結城しかし同時に怪しい笑みを浮かべていた。「けど、それで本当に良かったのかな?今回の『イベント』は僕が出すんだけど…その作戦が吉と出るか凶と出るか…楽しみだねぇ~♪」怪しい笑みを浮かべる結城とは対称的に、タケルとまりもはナスターシャ達に同情するのだった…。それから暫くし、仮想敵部隊の出撃時間がやってきた。タケルは再びマイクを取り、仮想敵部隊である冥夜達に連絡を取る。『みんな、そろそろ時間だ。』『了解、いつでも良いわよ。』今回の仮想敵部隊の隊長である千鶴がタケルの通信に返答を返す。本来ならば冥夜が隊長に任命される予定だったが、千鶴を除いた全員が『榊が隊長』と推薦したのである。タケルも当初はそうしようとしたのだが、経験を積み、現在唯一の現役衛士である冥夜がした方が良いのかもしれないと考え、当初は隊長を冥夜にしたのだが、みんなの要望もあり、結局は千鶴が隊長になったのだ。『全く…現役衛士を差し置いて、私が隊長だなんてね…。』『フフ…ならば隊長らしく隊長機でも用意するべきだったかな?』『やめてよ。まだまだヒヨッコな自分には不釣り合いよ。』自分が隊長である事に溜め息を吐く千鶴そんな時に珍しく冥夜が冗談を言うと、『やめてよ。』と苦々しい表情で拒否をする。『やっぱり私達の隊長は榊さんですよ~☆』『だよね~♪ボクもそう思うよ。』『………どっちでも良い?』『彩峰……アンタってひとはねぇ~…。』壬姫と美琴の言葉を聞いて少し照れる千鶴だが、相変わらず慧の一言にブチ壊されてしまい、ジト目で睨む。『ホラホラ、始まる前からケンカするなよ。いいか、今回委員長達のコールは『A207』(仮想敵207部隊)だ。隊長である委員長はA20701だ』『A20701了解』『ならば私はA20702だな。』『ボクはA20703だね~♪』『……ならA20704は貰い。』『壬姫はA20705ですね♪』『なら、余った私はA20706だね。』『やれやれ…。』コールナンバーを馴染みのあるナンバーを選ぶ冥夜達晴子だけ余ったナンバーを貰い、全員のコールナンバーが決まる『それじゃ、カウントするぞ。』そんなやり取りを見て、苦笑いしながらカウントを唱えるタケルそして―――― 『2…1…ミッションスタート!!』タケルの開始の合図と共に噴射跳躍をする千鶴達全力噴射で開いた差を縮めようと飛び立つ。『A20701から各機へ。隊形を『縦型』にし、敵との距離が500になったら『槌壱型』に隊形を組むわよ。』『『『『『了解ッ!!』』』』』千鶴の指示に従い、縦型隊形を組みながら追撃する。その追撃者達の姿は、熟練の衛士達のような動きを見せていた。「……嘘…これが訓練兵ですら無い者達の動きだというの…?」その様子を見たまりもが絶句する。冥夜はわかる。だが、その他の者達は衛士はおろか、訓練兵ですらないと聞いていたからだ。タケルからは『中には中尉クラスもいる』と聞いていたが、やはり実際に見るまでは何処か信じられなかった。(一~二機はまだ少尉クラスって所ね。けど、他の機体は良い動きをしているわ。)少し驚きながらも、冷静に分析するまりも戦術機の動きを見て、評価するが、まさか六人中四人が『違う並列世界の自分』が育てた衛士とは予想は出来まい。(連携に関しては良いわね。上手く連携が取れて隊形にムラが無いわ。この様子だと…直ぐに追い付くわね。)冥夜達の動きを見て、訓練兵達との実力の差を理解し、追いつかれるのも時間の問題と考える。(この演習……合格する鍵は……ナスターシャね。彼女がどう動くかで全てが決まるわ)唯一の衛士であるナスターシャが訓練兵達の合格の鍵を握ってると考えるまりもあまりにも厳しい条件に流石に不安になる。「まりもちゃん、スミマセンけど、あとは頼みます。」「……貴方も気をつけてね。」すると、タケルが苦笑いしながらまりもに後を任せる。我が夫の身を案じ、言葉をかけるまりも「じゃ…行ってくる。」まりもに背を向けて立ち去るタケルだった……。