ドーバー基地から出撃したタケル達今回は本隊とは別行動な為、シェルブールを迂回するルートを通る事になった。―――――――――――――――――――――――――――――――――「カスミ…あんまり無理しちゃ駄目よ。」「……大丈夫です。皆さんが思い通りに動けるように調整しておきます。」延々と長いコードを繋げたパソコン三台を使って、ツェルペルス大隊の機体調整をする霞心配して声をかけるイルフリーテ達だが、霞は笑顔で返答を返す。バグの処理や修正を素早いタイピングでこなしていく。額に多数の汗を流すが、まるでそんな些細な事には眼中が無い程、凄まじい集中力で画面と睨み合う。まだ幼い少女がここまで必死に打ち込む姿を見て、皆が心を打たれる。「カスミ…。」「大丈夫です…。ですから…皆さん無事に帰って来て下さい。一人でも失ったら……とても悲しいです。」ルナテレジアが声をかけるが、霞の切実な言葉を聞き、胸を撃ち抜かれるような衝撃を受ける。何故このような少女が戦場に赴かねばならない?このような幼い少女にまで、我等以上の覚悟を背負わせなければならないのだ?本来ならば、同年代の子供達と遊び回る年代だというのに、何故この子はこの過酷な世界で戦わなければならないのだ?手のひらを拳に変え、力強く握り締めるその場にいた衛士や整備兵達は唇を噛みしめ、己の不甲斐なさに責め続ける。「………自分を責めないで下さい…。」「カスミ……。」その場にいた一人であるブラウアー少尉の握り拳に、優しく、暖かい、小さな手のひらが包みこみ、癒してくれる。「衛士の皆さんは戦場で必死に戦ってくれてます…。整備兵の皆さんは、衛士の皆さんが無事に帰ってこれるように日夜頑張ってくれてます…。ですから…私も出来る事で…皆さんと一緒に戦いたいです…。ただ…安全な場所で待つのは嫌なんです…。」霞の切実な言葉を聞き、責め続ける皆の心を癒す。小さな勇気で戦う少女の姿を見て、改めて自分自身を見つめ直す。「ですから…私も些細な力ですが…皆さんを支えたいんです。」「些細な力だって……?とんでもねぇ……すっごくデケェ力だよ…。」声を僅かに震わせながら、切実な気持ちを伝えるブラウアー少尉その言葉は、その場にいた者達の代弁でもあり、素直な気持ちでもあった。「ありがとうございます…。また…皆さんと一緒に…思い出いっぱい作りたいです…。」「ああ…一杯作ろうな…。まだ滞在期間は4日もある…。それまでにいっぱい…忘れられないような思い出を…いっぱい…しような…。」「ハイ……楽しみにしてます。」満遍な笑みを浮かべる霞に全員が誓う。―――必ずこの子を悲しませる結果にはさせるものかっ!!強い決意と共に持ち場へと戻る整備兵達そしてブラウアー少尉も後ろにいたイルフリーデ・ヘルガローゼ・ルナテレジアの三人に言葉をかける。「テメェら絶対に生還するぞ。カスミの想いを無駄にするんじゃねぇぞっ!!」「ええっ!!」「無論だ。」「勿論ですわ。」イルフリーデ達の強い想いを見て安堵する霞そんな皆に『ありがとうございます…。』と小さな声で呟く。―――――――――――――――――――――――――――――――――「強い…子なのだな…。」「そうですね…あの子も一緒に戦ってるんですね…。」離れた場所から一通りの事を見ていたアイヒベルガー・ジークリンデ・ララーシュタイン・ブリギッテの四人霞の強さを遠くから眺め、心を打たれる。「…これで生き残らねばならない理由がまたひとつ出来ましたね…。」「ウム、あのような可憐な少女を悲しませる事は紳士としてあってはならない事必ず笑顔で迎えられるよう応えてやらねば。」ブリギッテとララーシュタイン大尉が共に笑顔を作る。小さな少女の強さに応えるように改めて決意を強める。「我々の責任は重大だ。何があっても、全員で生還するぞ。」「「「了解ッ!!」」」笑顔で敬礼をするジークリンデ・ララーシュタイン・ブリギッテの三人そして駆け足で準備に向かう中、アイヒベルガー少佐が足を止め、再び霞に視線を向ける。「このような子まで強い気持ちで戦うとは…。何時からこのような残酷な時代になったのだ…。」守るべきモノの為に必死に立ち向かう姿それは自国でもそうだが、まさか幼い少女まで戦場で戦う姿を見て、心を痛める。このような時代を終わらせる事を決意し、アイヒベルガー少佐も持ち場へと走って行く…。―――――――――――――――――――――――――――――――――『やれやれ、まさかこちらが先に着くとはな。』『だが、そのお陰で防衛線を充分に取れる事が出来たんだ、幸運な事だと思えばいい。』『そりゃそうだ。』最前線であるシェルブールでは、予想外にもBETAの到着が遅く、A‐6・イントルーダーとA‐10・サンダーボルトが戦闘する事なく上陸し、防衛線を張る事が出来た。流石に拍子抜けした隊員達だが、この幸運を喜び、これから来るBETA群をいまかいまかとトリガーにかけてる指がひきつる。すると、CPから通信が入り、BETAが近づいてると報告が入る。『ブロッケン1了解。早く戦術機部隊を上陸させてくれよ?今が上陸するには絶好なタイミングなんだからな。』『CP了解。なるべく早くに到着させる。』イントルーダーの部隊であるブロッケン1がCPに戦術機部隊を早く上陸させるように進言する。やはり少しでも犠牲者を出したくは無い気持ちもあってか、戦術機部隊の到着を逸る気持ちで待つ。『こちらナルバ1からブロッケン1我々A‐10の部隊は、現在地より700程前方迄前進し、防衛線を上げる。…少しでもBETAの到着を遅らせた方が良いだろ?』『……すまねぇ。その代わり、後ろは任せておけ。お前等の背後に回ったBETAは残らずミンチにしてやる。』『頼もしい限りだ。背中は任せるぞっ!!』通信が終わると、鈍重な機体を跳躍噴射し、前進するサンダーボルト少しでも戦術機部隊の生存率を上げる為、防衛線を更に上げる。すると、戦術機部隊が到着すると同時に、BETA群がサンダーボルトの防衛線に接近し、戦闘が始まる。『カルバン1からナルバ1済まない、待たせたな。』『良いって事だ。ただ、出来れば突撃級を殲滅して欲しい。要撃級や戦車級はミンチに出来るんだか、突撃級ばかりは動きの鈍いサンダーボルトでは不向きなんでな。』『カルバン1了解。但し、全ては無理だ、それらの対処は任せる。』『了解。それぐらいならば大丈夫だ。』到着したトーネードによる戦術機部隊・カルバン部隊が地平線のように迫る突撃級に突撃し、駆逐しはじめる。その後方でサンダーボルトによる援護射撃や艦隊による砲撃制圧で突撃級達が肉片と化す。『おっと、要撃級と戦車級のお出ましだ。ナルバ1、アンタ達の出番が来たぜ。』『待ってました。カルバン1、一度部隊を後退させてくれ。そのまま前にいたんじゃ、フレンドリーファイヤする危険性がある。』『カルバン1了解。カルバン1から各機へ、これより我等戦術機部隊は一度後退し、攻撃機部隊と共に要撃級や戦車級を攻撃する。――BETAどもに劣化ウラン弾をお土産として渡してやれっ!!』『『『了解ッ!!』』』一度前に出た戦術機部隊だが、要撃級・戦車級の接近により、一度後退し攻撃、攻撃機部隊と共に反撃する。―――――――――――――――――――――――――――――――――『CPからツェルベルス大隊及び第17斯衛大隊。現在、前線ではBETAとの戦闘を開始。突撃級・要撃級・戦車級との戦闘を確認しかし、未だ後方には要塞級が健在だが、光線級は確認せず。よって、要塞級が防衛線から1000程近づいた際に突撃を開始する。』『シュバルツ1了解。』『イグニス1了解。』CPから報告と指示を受け、返答を返す両大隊長そして所属する衛士達に出撃命令を出す。「シュバルツ1から全ツェルベルスの隊員達よ。今こそ新たな力を得た我等の力を見せつけてやれ!!」「「『了解ッ!!』」」「イグニス1から各機へ。ここで力尽きる事は絶対に許さん。必ず全員で日本へと帰るぞっ!!」「「「了解ッ!!」」」「「全機出撃せよっ!!」」両隊長の出撃命令と共に揚陸艦から飛び立つ両大隊水平噴射跳躍で水面ギリギリに飛び、イギリス海峡を渡る。「――――スゲェ…。さっき訓練してた時とは全然違う。」「まるで…自分の手足のように動いてくれてる…。」「僅か数時間しか経ってないというのに…まるで違う機体に乗っているような感覚だ…。」出撃してすぐに驚愕するツェルベルス大隊の隊員達先程慣熟訓練で搭乗していた時より操作が思い通りに動く事に気付く。すると霞から通信が入る。『……皆さん。どこかおかしい所ありませんか…?』「ぜんっぜん無いよ♪寧ろ、今までに無いぐらい動きが良いよ。」「ありがとう、カスミお陰で我々は今まで以上に戦える。」心配してか、調整に不具合が無いか聞いてくる霞だが、イルフリーデとブリギッテが笑みを浮かべて問題無い事を伝える。それを聞いてか、ホッとした霞が笑みを見せると、ツェルベルス大隊全員から感謝の言葉を告げられる。『ありがとう、カスミ!!』『絶対に帰って来るから、その時はぎゅ~って抱きしめさせてね♪』『帰ったらご褒美に洋服買ってあげるから楽しみにしてね。』『嬢ちゃん、アリガトなっ!!お礼は必ず帰ってからするぜっ!!』ツェルベルス大隊のメンバーからの御礼の言葉そして霞を悲しませないように『必ず帰る』と約束すると、霞の瞳から一筋の涙が流れる。『皆さんの帰りを……待ってます。』『『『『了解ッ!!!』』』』小さな『女神』からの一言を心に刻み、帰還する決意を改めて強める。今日ばかりは、彼女が自分達の主君となる。その少女の願いを必ず叶える為にも―――――地獄の番人達は操縦桿を強く握り締め、全速力で戦場へと向かう。そしてイギリス海峡を渡りきり、遂に上陸しBETA達の背後に回る事に成功する。「イグニス1からイグニス各機。さあ、遂に我々の出番がやってきた。欧州に巣食うBETAどもに我々の力を見せつけてやれっ!!」「「「了解ッ!!」」」タケル達の欧州での戦いが遂に始まる…。