「うおぉぉぉぉぉっ!!どきやがれぇぇぇぇぇっ!!」全速力で噴射跳躍をするタケルその動きについて来れないBETA達の攻撃を掻い潜り、飛翔する。光線級対策として、低空飛行をするタケルだが、最低限突撃級や要撃級の攻撃が届かない程度のギリギリ高度を保ち、心臓をバクバクしながらも果敢に単機突撃する。今―――光線級に撃たれれば、地上に降りるしか助かる手段は無い。しかし、地上に降りれば―――幾多のBETA群を相手にする事になる。「……だから…なんだっていうんだよ…。」『前の世界』では、尊敬する先任と共に狭い空間内で光線級のレーザーを回避したではないか―――佐渡島では、囮役として単機で要塞級を撃破したではないか――――何より―――あの地獄ともいえるオリジナルハイヴでは、彼女達は賢明に戦い、己の命と引き換えに自分を助けたではないか―――「これしきでの戦いで死ねる程、俺は暇じゃあねぇんだよっ!!」まだ死ねない―――否、死ぬ訳にはいかないのだ―――仲間達の命を守る為に―――彼女達の『死の運命』を変える為に―――初めて手に入れた『幸せ』の為にも―――「うおぉぉぉぉぉっ!!!」徐々に母艦級との距離が縮まる白銀機チラリとレーダーを確認すると、仲間の最後尾がもう少しで危険地域より外れる事を確認する。「―――――ッ!?」一瞬の隙、前方で要撃級が仲間の残骸の上に上がり、攻撃を入れる。「喰らうかっ!!」白銀機は急遽回避行動と共に左腕で要撃級の前腕部を叩きつけ、回避を成功する。しかし、その犠牲として、左腕部が肘まで大破する結果となる。「邪魔するんじゃねぇぇぇぇっ!!」前方で邪魔なBETAのみを背中のマウントに装備していた突撃砲で一掃しながらも、その足を止める事はなかった。―――その背中にズシリとのし掛かる、重圧。Gによる重圧ではなく、全く別モノ。――その正体はタケルは知っているそれは『恐怖』と『責任』自分が死ぬかもしれないという恐怖ではなく、『失敗したら、仲間を死なせてしまう』という恐怖失敗した場合、自分にふりかかる責任ではなく『仲間達の命を守る』という責任そのとてつもない重圧がタケルの背中にのし掛かる。今までだって、オルタネイティヴ計画だの未来を変えるだの、タケルの背中に重圧を背負っていた。しかし、それは香月博士や仲間達が一緒に背負っていた為、乗り越える事が出来た。しかし―――今、この瞬間においては、タケルがこの戦場の―――欧州の未来を一人で背負う事になったのだ。その重圧は、計り知れない程だ。仲間達を失ってしまう―――欧州がBETAに占領され、彼等の希望を失ってしまうかもしれない――――そんな恐怖と責任に押し潰されそうになるタケルだが――――唇の端を噛み締めながらも、その重圧に耐える。母艦級との距離がドンドン縮まる。まるで、スローモーションのように、一秒が数十秒に感じてしまう程、タケルの集中力は高まり、その最短ルートを跳ぶ。そして、遂に―――目的の距離に到達する。「これでも喰って、弾けてなっ!!!」閉じようとする母艦級の口の中にS‐11を投擲する。タイムは10秒さあ――――生と死の逃走劇の始まりだ―― 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!解放状態発動ッ!!」最後の切り札である解放状態を発動し、逃走するタケル音速で回避しながら、ドンドンと距離を離す。残り5秒――――要塞級の胎内から現れた複数の光線級がタケルの背中にめがけてレーザー照射をする。ギリギリで回避しながらも、距離を離していく。残り3秒―――機体に幾度とレーザーが掠りながらも、逃げ回る白銀機一度でも陸に降りてレーザーを回避すれば、爆発に巻き込まてしまう。残り1秒―――爆発に備え、歯をくいしばり、最後の1秒まで生き残る事に専念し、仲間達の背中を目指す。そして――――自身の身体を粉砕するかの如く、轟音と共に大爆発が起こる。無論、その衝撃波を受けたタケルは体勢を崩し、地に不時着する。「タケルッ――!!」その様子を目的した冥夜とまりも背中に悪寒が走り、煙の中に消える白銀機の救助に向かう。「タケル!!タケル!!何処だッ!?」「クソッ!!通信が今の爆発で使えないなんて…。」煙の中をかき分けて白銀機を捜索する冥夜とまりも通信もレーダーも一時的に使えない中、必死に白銀機の捜索に専念する。見つかるのは、BETAの残骸艦砲射撃や爆発で肉片と化したBETAの残骸があちらこちらに散らばっている。徐々に襲ってくる最悪のイメージ不安が膨れ上がる中、ガシャンと音が鳴る。「「―――ッ!?」」音が鳴る場所へと向かう冥夜とまりも其処には―――大部分大破していた白銀機があった。「タケルッ!!」「……………ういぃ……頭がクラクラしやがる……。」「……良かった…。」冥夜の問いに反応するタケル情けない声を聞き、安堵し、涙を流すまりも冥夜も涙を拭いながらも、タケルの救助に向かう。「タケル、無事か!?」「一応は……けど、機体がやられてベイルアウトが出来ねぇ。」「機械化歩兵には?」「それもちょっと無理ぽい。腕部がポッキリと折れてるから脱出出来んわ。」現状を報告するタケルベイルアウトも機械化歩兵での脱出も不可能と分かり、冥夜機と天狼が白銀機を担ぐように運ぶ事になる。「怪我はないの?」「頭に少し怪我して血を流している以外は打撲程度だな。骨折とかの心配は無いから安心してくれ。」「……心臓が止まるかと思ったぞ…。解放状態からの不時着だ…。最悪のイメージが頭に浮かんでばかりでハラハラしたぞ…。」「運が良い事に要塞級の死骸がクッションになってくれてな、何とか死なない程度に不時着したよ。」あの瞬間――衝撃波でバランスを崩し、不時着する白銀機バランスを崩した事で多少減速した事と、最後まで体勢を直そうとしたタケルの生への執念。そして、地上へ不時着する瞬間、要塞級の肉片がクッションの役割になってか、更に減速……まあ、その代わり、派手にバランスを再び崩して不時着してしまう結果になったのだが…。「うわぁ……胴体以外はド派手に大破したなぁ…………良く生きていたな、オレ」「全くだ。」「結城君に感謝した方が良いわよ?多分、彼のおかげよ。」「そうだな………出撃前に格好つけたからなぁ……土下座して謝ろう。」機体を大破した事に責任を感じてしまうタケル………まあ、後々結城からのタノシイタノシイ……お仕置きが待っているとも知らずに…。「イグニス36(まりも)からイグニス1へ。イグニス10の生存を確認した。しかし機体はかなり大破した上、ベイルアウトが不可能故にイグニス26(冥夜)と共にイグニス10の機体を運搬する為、護衛をお願いしたい。」「イグニス1了解。イグニス1から第二・第四中隊へ。イグニス10の生存を確認した、しかし現在戦術機が大部分大破した為、イグニス26・36が機体を運搬する。従って、第二・第四中隊は三機を護衛安全圏内まで避難した後、イグニス43(美琴)がイグニス10を救助作業し、同乗させ第四中隊は艦隊まで一旦退却、イグニス10を治療班に受け渡し、再び戦前復帰・第二中隊は海岸で第四中隊を見送った後復帰せよ。イグニス6(真耶)がイグニス10の代わりに第四中隊を指揮をせよ。」「イグニス6了解。」椿からの指示に従い、タケルの代わりに真耶が隊長代理となり、第四中隊でタケル・まりも・冥夜を護衛する。そしてそのすぐ側には孝志・政弘率いる第二中隊も護衛として配置される。「スミマセン、孝志さん・政弘さんご迷惑かけます。」「馬鹿野郎、誰が迷惑だって?仲間を守る事は当然の事だから気にするんじゃねぇ。」「そうだぞ、タケル更に言うならば、今回の任務、タケル一人に任せる形になった自分達の不甲斐なさで逆に謝罪する立場だ。だから気にする事はない。」「………スミマセン。」自分達の不甲斐なさに猛省する政弘同じように孝志も自分自身に苛立ちながらも、グッとこらえ、冷静さを保つ。そんな姿を見てか、やはり謝るべきと考えるタケルは、再び謝罪の言葉を呟く。―――――――――――――――――――――――――――――――――「ふぅ……危なかったな。念のために管制ユニットの骨格を特別製にしておいて正解だったよ…。」ため息を漏らす結城タケルが生還したと聞き、安堵する。「夕呼、白銀君に異常は無いみたいだよ。一応怪我は負ったみたいだけど、そんなに酷くはないみたいだよ。」『そう…ありがと、結城』タケル生還の報を知り安堵する香月博士現在、結城と通信を取っていた。S‐11の爆発の影響か不明だが、一時的に白銀機からの通信手段が途絶えてしまい、流石に結城も焦っていた。そんな時、偶々香月博士から戦況を知る為に通信が入ったのだが、タケル墜落の報告を受け、流石の彼女も背筋に悪寒が走った。しかしタケルが生存してると知り、彼女も安堵からのため息が漏れる 『流石に今回は焦ったわ…。』「僕だって焦ったよ…。まあ、一応墜落する対策として管制ユニットの骨格とか色々特注品にしたからね…それでもヒヤヒヤしたよ。」『それで、今回の墜落の原因はなに?』「簡単に言えば、S‐11の爆発から発生した衝撃波だね。S‐11は戦術核にも匹敵する爆発だからね、簡単に音速に達するよ。幾ら解放状態使ったって、BETAを回避しながら逃げたんじゃ、衝撃波に捕まった途端、バランスを崩すのは当たり前だよ。」『空に逃げれば良かったんだろうけど……光線級が居るんじゃ、良い的になるだけね。』今回の墜落の原因を考え、再びため息を吐く二人。しかし、今回ばかしはタケルの行動が最善策だった為、文句が言えないでいた。『あとで白銀の怪我の状態を教えて頂戴。』「わかったよ。それじゃ――――」ピッ、と通信を切り、『やれやれ』と苦笑いする結城どんなオシオキをしようかと考えながら――――― 「―――早く完成させないと……駄目か…。」難題を頭に抱えながら、タケルの下へと歩んでいく…。