1998年・2月5日--- 京都・帝都城--- 「クッソ~!!またタケルに負けた~!!」模擬戦闘での訓練で、椿率いる第1中隊と、政弘率いる第2中隊の対戦をしていた。タケルに負けて悔しがる孝志を政弘が宥める姿は、最早いつもの光景になっていた。 XM3が完成し、今現在は斯衛軍・帝国軍・白陵基地所属の国連軍の約二割程が搭載されていた。 XM3の存在に歓喜した帝国軍と斯衛軍の衛士達は、自分の機体に搭載されるのを、今かと待ち望んでいた。そして、XM3の開発が帝国・極東国連軍のもので、斯衛軍の一人の衛士が発案者と情報が流れたおかげで、帝国内部の頭のお堅い連中の考えを少し変えるきっかけにもなった。そして今、そのXM3を搭載し、タケルが教官となり、教えた第1・2中隊の模擬戦闘をしていた。 結果は第1中隊の勝利。やはり、XM3の経験の長さと、タケルの変態機動に付き合って、メキメキ腕を上げた結果だった。 第1中隊の皆が言葉を揃えて語る…『あれ…もはや人間技の領域を超えてるから…』彼等もやはり、タケルの『恐怖の全力変態機動』の犠牲者であり、何度となく、エチケット袋に御世話になった事か… そして、歩けない衛士達はタケルにオンブ(お姫様抱っこは沙耶に止められた)して降りる羽目になった。そして、オンブして降りる際、男性衛士は別に問題は無いが、女性衛士がオンブされた際、顔が赤くなるという現象が発生した為、男性衛士達は悔し涙を流しながら訓練に励んだのは言うまでもない。そんな事もあり、第1中隊のみんなは、メキメキと成長し、実力を上げていった。「白銀中尉…普通、あの一騎打ちの際に、『ジャイアントスイング』をかけるか…?」「いや…普通に挑んでも面白くないし…。」「そういう問題!?」呆れる政弘の質問に、当然のように答えるタケルそして、ジャイアントスイングをされて敗北した孝志はタケルの返答に驚く 孝志との一騎打ちの際---タケルが、真耶戦のと同じように、タックルをかまして、孝志機の両脚を掴み、気分良くブンブンと回し、ぶん投げる。勿論戦術機の方で、自動的に受け身をとり、体勢を立て直すが、中の孝志は目を回していた為、その隙にKOされる。その行動を見て唖然としてた第2中隊は、その隙を突かれ、致命的な損害を受ける。 第1中隊曰わく---『いつもの事だし、まだ優しい方だよ?』…だそうだ…。 「いやぁ…もしこれがシミュレーター訓練なら、『もず落とし』を出してたのに…残念。」「…何…もず落としって…?」「相手の背中に回り込んで掴み、上空に飛んでから、真下に回転しながら落ちる技」「「…………」」タケルの言葉を聞いて言葉を失う政弘と孝志当の本人は、本当に残念そうにしていた。 この後、整備長にこっぴどく怒られ、スパナをナイフスルーで投げられ、タケルの頭に命中し、大きなタンコブを作り、みんなに笑われる事になる。「しっかし、オレの時はアレだったけど、政弘の時のタケルの攻撃は凄かったな。」「ああ…油断して部隊が危機に陥った時、白銀中尉の接近を許すとは…まだまだ未熟だな…。」政弘は、タケルのジャイアントスイングで茫然とした際、椿達の強襲を許してしまい、タケルから視線を逸らす。その隙を突いたタケルは、巧みに障害物に隠れながら、噴射地表面滑走で政弘の背後に回り込み、接近する。政弘がタケルに気づいた時は既に遅し。長刀を構えたタケルが、すぐ其処まで接近していたのだ。 政弘も長刀を抜き、タケルの接近戦に備える。そして、二人の長刀が鍔迫り合いになった瞬間に--勝負は決まっていた。お互いの長刀がぶつかり合った瞬間---白銀機の膝蹴りが政弘機の腹部に入り、動きが止まる。その僅かな隙を突いて、腕部のナイフシースを展開し、短刀を抜き取り、コクピットに一突きし、撃破判定を貰う。 「あの流れるような入力と動作。膝蹴りの後の素早い短刀抜刀からの一突き。…まったく…見事と言うしかあるまい…」グウの音も出ない程の攻撃を喰らい、タケルに『見事』と誉めるしかなかった。 「流石は紅蓮大将や神野大将に鍛えられてるだけはある。あの方達に中破判定を与えた事の有る者は、白銀中尉以外は誰も居ない。」「オレ達ですら、せいぜい少破判定が良い所だ。」「…いや、あの二人は反則以上の存在だから…。」ヒクヒクと顔が痙攣するタケル。タケルが紅蓮大将と神野大将に鍛えられてから半月が経つが、あの二人のチートっぷりに、流石のタケルも勝てる気はしなかった。紅蓮機は基本長刀による攻撃だが、真なる強さは『無手』になった時こそ、発揮するのだ。タケル以上のインファイトで、正拳・回し蹴り、なんでもござれで、仕舞には、胸部から光線(整備兵の話によると、光線を放つ装置なんて付けて無いらしい…)を放ち、ビルをも破壊する威力だ 神野機も、基本は薙刀の攻撃だが、36mmの弾丸スピードでさえ、薙刀を回転させて弾いて防ぐタケル曰わく-- 『なんで戦術機で光線放ったり、36mmを防げる回転って…おかしくね?』…と二人に文句を言った所、二人の返答は『気合いぢゃ!!』の一言で済まされたらしい…。「…オレ…あの二人に勝てる日が来るのかな…?」「うーん…」「………」タケルの一言に返答出来ないでいる孝志と政弘。 「お疲れさん、また面白い戦いをしてるわね~♪」「せっ、先生に…エルヴィンさん!?」すると、タケル達の前に、香月博士とエルヴィンが現れる。「どうしたんですか、先生?」「私は殿下に用事が有ったのよ。その用事を終わらせて、今ハンガーに来てアンタに会いに来たって訳。エルヴィンは、例の不知火の改良機を持って来たのよ。そして、そのテストパイロットとしてアンタを探してたって訳。」「そういう事だ、シロガネ中尉。今回は改良機をキミの機動で『イジメて』くれ其処から得られるデータを元にして更なる改良をしたいのだ。キミの機動に耐えられるならば、他の衛士達が使っても充分に耐えられるって事だからね。」「あっ、ハイ、わかりました。休憩後に早速テストします。」「済まないね、頼むよ。」以前話に有った不知火の改良機のテストパイロットをする事になったタケル。そんな話を聞いて『タケルすげーな…』と尊敬する孝志と、興味津々の政弘 「あれが不知火の改良機か…」「見ろよ政弘…肩部が『肩部スラスターユニット』が着いてるぜ?」「ウム、あと脚部にもなにやら付いてるぞ。」梱包していたシートを剥ぎ取られ、注目の的になる不知火・改良機以前話に有ったように、肩部に『肩部スラスターユニット』を装備し、脚部にも『脚部スラスターユニット』を装備していた 「あれ?随分変わったジャンプユニットですね?」「ああ、あれは脚部スラスターユニットと同じく、新開発したモノだ。本来、ジャンプユニットには『ジネラルエレクトロニクス・YFE120-GE-100』を使用する筈だったが、XM3が完成した際に、君の機動特性を見てから、考えを改めて、変更したのだよ。」変更したジャンプユニットに就いて説明するエルヴィン。 「今回開発したジャンプユニットは、『二連式ジャンプユニット』の『TE180-A-01』と言ってね、扇状にスライドして使用する新しいジャンプユニットなんだ。主機の上に半分程の長さのジャンプユニットを取り付け、扇状にして使う事により、本来の出力を上回るスピードを出す事に成功した。勿論戦闘の邪魔にならないように、ちょっと小さくした事により、戦闘の邪魔にもならず、重量の問題もクリアした。…とは言え、まだ『完成品』ではないのでね、それを兼ねてテストをしたいのだよ。」『なる程…』と納得するタケル新たな開発をウキウキする気分で待ち望んでいた。 改良機のテストプレイの準備をし、再びコクピットに搭乗するタケル。そして、その様子を椿達も一緒に見学する。 『白銀、始めて頂戴。アンタの機動を見せつけてやりなさい。』「了解!!」返答を返した後すぐにカウントが始まり、スタートの合図と共に全力噴射をする。 障害物を使った三角飛びからの倒立反転。反転中、キャンセルを入れて、着地し、しゃがみながら噴射地表面滑走をする。 「グウ…ッ!!まだまだァァァッ!!」しゃがみ噴射地表面滑走から、機体を捻り、低空での反転最中にナイフシースを展開し、抜刀して短刀装備する。着地と同時に肩部スラスターユニットと二連式ジャンプユニットを全力噴射し、右側に噴射地表面滑走をしながら急旋回する。 「…相変わらずアイツの変態機動はデタラメね…益々進化してきてるじゃない…。」呆れながらタケルの機動を見る香月博士タケルの機動が益々磨きがかかってる為、もはや『凄い』を通り越して、『呆れる』しかなかった。「まだまだァァァッ!!」 予想だに出来ない機動を繰り出す姿を見て、言葉を失う椿達「すげぇよタケル…チクショウ…必ずあの機動をモノにしてやる…!!」「ブラボー!!流石はシロガネ中尉だっ!!」そして、予想以上の機動を見て、目を輝かせる孝志とエルヴィン。「なかなかの結果ね…あとは、あの機動を生かせるように、武装を強化するだけね。」タケルのテストプレイを見て手応えを感じる香月博士。そして、次の段階に進む事を考える。 「ふぅ~…」少し疲れた表情を見せるタケルそばに沙耶や孝志達が集まり、歓喜する所に香月博士が近寄って来る。「お疲れ様~、貴重なデータをバッチリ取ったわ。」「あれ、エルヴィンさんは…?」香月博士のそばにエルヴィンが居なかったので、探すタケルしかし、香月博士が指を指す方角を見ると---またブツブツと独り言を呟くエルヴィンの姿があった。「ふむふむ…やはり関節部の蓄積ダメージが溜まり易いか…。脚部スラスターユニットや二連式ジャンプユニットのデータもまずまずの結果だ。このデータを生かして、更なる改良をしなければ…!!」テストプレイの結果のデータを見て、自分の世界に入り込むエルヴィンその表情からは、まずまずの結果が出たと読み取れた。「とりあえず今回はこれで終わり。エルヴィンはこの後すぐに帰るけど、私は一泊していくわ」『一泊する』と言った際、タケルにアイコンタクトを送る香月博士。タケルもその意味を悟り、この後の予定が決まる。 「今日は月詠中尉の家に泊まり込むから、宜しくね、白銀。」「…お手柔らかにお願いします、先生…」何気ない会話をするタケルと香月博士だが、この意味を知る者は、椿と沙耶しか居なかった。