2000年・1月1日仙台・榊家別邸「…ふう…こんな感じで良いかしら?」朝早くから、いそいそと朝ご飯の準備をする千鶴今日は元旦、忙しい父も今日は正月休みで、家に帰って来ていた。 今日は正月な為、朝から忙しい時間だったが、前回の仲直りの件で、自分から改善しようと動いていた。 朝ご飯は勿論正月故に重箱豪華とは言えないが、それでも汗を流しながらも、味を重視して料理を作っていた。材料は合成食材。本来ならば自然食材を食べれるのだが、父・是親が『民は高価故に自然食材を食べれないのに、私が食べる訳にはいかない。』と断言し、余程の時以外は自然食材には手をつけないのだ。食べる時は、民間のコミュニティーセンターなどで市民と一緒に食べたり、娘・千鶴の誕生日の際に外食で口にする程度しか食べる機会を作らなかった。因みに、前回のタケルの結婚式の際も、お酒のおつまみ程度にしか口には入れなかった程、徹底していた。それ故に千鶴は少しでも美味しく食べれるように日々料理の修行をしていた。そして後の話だが、千鶴が国連軍に所属した際、京塚のオバチャンの下で料理を学び、メキメキ腕を上げる事になる。「さてと…料理は終わったから…正月らしく着物でも着ようかしら。」エプロンを抜いで、そのまま自分の部屋に行き、箪笥(たんす)から母の形見である着物を出し、着替える。それから30分後、父・是親が目を覚まし、欠伸をしながらも、居間のソファーに座り、自分で入れた茶を啜りながら新聞を読み出す。「明けましておめでとう。」「ウム、明けましておめでとう。ホゥ…良く似合ってるぞ、その着物」「ありがとう」未だに少しぎこちない榊親子以前に比べて親子関係が良い方向に向かった為、とりあえず挨拶や会話をする程度には改善した。 (白銀君…やはり君に頼んで正解だった…。千鶴の着物姿を見られるなんて…新年早々縁起が良いぞぉっ♪)心の中で親バカっ振りを発揮する是親もし素直になっていれば、間違いなく握り拳をしながら『千鶴タン…萌え☆』…と呟いていたのかもしれない…。 「ハイ父さん、朝ご飯よ」「ホホゥ…これは目移りしそうだな。」二段重ねの重箱の蓋を開けると、一段目は玉子・黒豆・車海老等の定番の正月料理が箱一杯に詰められ、二段目にはちらし寿司と赤飯と2つに分けられ、是親の食欲をそそっていた。 「では、頂きます。」「ハイ、頂きます。」礼儀良く『頂きます』と手を合わせてから、食事する。「父さん、これからどうするの?」「今日は休みだからノンビリするが、明日は皇帝陛下に新年の挨拶の為、朝から出かける。とはいえ、明日はそれだけしか用は無いから、すぐ終わるだろう。」「そう、なら今日は一緒に何かする?」「そうだな…」うーん…と腕を組みながら考える是親…すると…。「そうだ、白銀君の下に行かないか?」「白銀…大尉の下に?」「ウム、彼には色々と礼を言わないといけないからね。確か今日は第二帝都城ではなく、月詠家の別邸でノンビリと年を越すと殿下が言っていたな…。」「で、殿下もっ!?流石に正月早々は拙いんじゃ…?」「そうだな…一応連絡を入れておこう…。もし都合が悪ければ、今日行くのは諦めておこう。」「そ、そうね…。」流石に殿下(悠陽)も居るのなら都合が悪いのではと、告げる千鶴そして食事が終わった後、是親が電話で確認すると--- 「千鶴、構わないそうだ。…どうやら向こうは早速ドンチャン騒ぎをしてるみたいだぞ?」「はっ?」「既に五摂家の人達や部隊の仲間達が集まって、騒いでるようだ。…受話器越しからも、賑やかな声が聞こえたから間違いないだろう…。」既にドンチャン騒ぎになっている月詠邸の様子を伝えると、唖然とする千鶴… 少し抵抗はあるが月詠邸に行く事になり、車で移動する事15分… 「明けましておめでとうございます~☆どちら様ですか~☆」「「…………」」流石に驚く榊親子朝っぱらから酔っ払っているやちるが、ハイテンションで迎えに来た事に驚く。 「やちるさん、酔っ払ってお客さん迎えたら駄目ですよ。」「あら、タケルさんったら~☆私は酔ってませんよ~♪」「………駿、済まないけど、やちるさん連れてって…。」「ハイ…」後からタケルと駿が駆け出し、酔ったやちるを駿が連行する。 「ハハハ……新年早々みっともない所見せてスミマセン。」「い、いや…それは構わないが…いつから呑んでるのかね…?」「確か…………………………除夜の鐘なる前から?」「ハァッ!?」「先生…香月博士が昨日から泊まってましてね………まあ、そういう事で、昨夜からぶっ通しで…。」新年早々はっちゃける香月博士に、既に呆れを通り越して諦めモードに入っているタケル「で、殿下は…?」「酔い潰れて、まだ寝てます。まあ、みんなは道場で騒いでますから、居間にどうぞ。」「う、ウム…」「お邪魔します…」少し予想外な事に戸惑う榊親子そして居間に入ると、マトモな人間が数人居座っていた。「おおっ!?これは榊殿…新年明けましておめでとうございます。」「明けましておめでとうございます。神野大将も此方にいらっしゃってましたか…」「ハイ、殿下の護衛に参ったのですが…この通り、殿下が酔い潰れてしまい、今は正月らしく護衛も兼ねながら息抜きをしておる所です。」居間の隣の部屋で眠ってる悠陽を見て苦笑いをする神野大将その様子を見て、是親も同情するように『大変ですなぁ…』と声をかける。「……明けまして…おめでとう御座います。」「明けましておめでとう。」「ハイ…お茶です…」「うむ、済まない。」霞が千鶴に挨拶をした後、やちるの代わりに榊親子にお茶を入れて差し出す。「…随分と賑やかだね…向こうは…」「今向こうは先生を筆頭として、一部の五摂家の方々や部隊のみんなとドンチャン騒ぎをしてるんですよ。」「…そうか…随分と凄いメンバーだな…。」「五摂家の方達は色々と大変ですからねぇ…今日みたいな日でない限り、こうやって開放的になれないんですよ。」「確かに…五摂家は日本を代表する家柄民に示す存在故に、本来の自分の感情を殺してでも『仮面』を被る日々だからな……開放的になる気持ちが分からんでもない。」本当の自分をさらけ出す事の出来ない五摂家の人間達その気持ちを理解する是親は『今日ぐらいは良いではないか』と賛同する。 「し~ろ~が~ね~☆アンタこんな所で何ノンビリしてるのよ~……あら、榊首相ではありませんか?」「香月博士、明けましておめでとうございます。随分と賑やかですな。」すると香月博士が酒瓶握り締めながら居間にやってくる。 「明けましておめでとうございます。今日ぐらいパ~っと楽しまないと、息抜きなんていつ出来るかわかりませんからね。日頃の疲れを癒やして、タップリと楽しまないと、損ですからね。」「確かに、今日ぐらいは楽しまないと損だ。香月博士、そのお酒…一杯頂けないですかな?」「勿論ですわ。ささ…コレで一杯…。」「頂きます」香月博士から一杯貰う是親コップについだお酒を一気に飲む。「豪快ですね。」「やはり酒は楽しんで飲まないと美味しくはない私も向こうに参加するとしよう。」「と、父さん!?」『今日ぐらいは』と政治家としての顔を止め、『一人の親父』として宴会場へと向かう是親その姿に驚く千鶴だが、楽しんでる父の姿を久しぶりに見て、止める事が出来なかった。「あんな父さん…久しぶりに見たわ…。」「ふぅん…大体何時ぐらいから見なくなったのかしら?」「多分…総理大臣になってからだと思います…。」「成る程ね。まぁ、確かに総理大臣にもなれば、あんな風に『本来の自分』をさらけ出す事なんて出来ないからねぇ。」「えっ?」香月博士の言葉に反応する千鶴その姿を見て、妖しく笑みを浮かべながら説明する。 「内閣総理大臣に限らず、『政治家』って職はね、欲望と争い・現状を突きつけられる問題点等蔓延している中で行う職でね。上に行けば行く程、甘い誘惑や困難な試練、そして理不尽な上からの圧力をかけられる事なんて、当たり前のように有る世界なのそれに負けた奴は甘い汁を覚えたり、上の圧力に怯え、従ったりする奴が殆ど…例え、それに打ち勝っても、他の奴にしたら『邪魔者扱い』され、存在を消される事も珍しくないわ。」「そんな…」政治家の中身を教えられ、驚きを隠せない千鶴 「けど、それすら打ち勝って、アンタの父親は『内閣総理大臣』というポジションに座る事が出来たのそして、それには『素顔』を見せない為、常に『仮面』を被る必要があるって訳。政治家の世界で『素顔』を見せるって事は『弱味』となる可能性があるからね…」「…それじゃあ、今まで父が私に見せてた姿って…」「アンタの身を守る為『演じてた』ってのも多少はあるでしょうね。勿論、良くある仕事の事で苛つきや疲れなどでコミュニケーションを悪化させたり、激務故に仕事に打ち込み過ぎたのも考えられるわ。」「…………」「アンタがまだ父親の事を理解出来ない所が有るだろうけど、その殆どの理由がアンタがガキだらよ」「なっ!?」突然の発言に言葉を失う千鶴だが、香月博士はそのまま言葉を続ける。「アンタに親の何を理解してるの?アンタは親の苦労を理解してるの?アンタは親の悩みや苦しみを知っているの?仕事もしてないガキのアンタが、『大人の世界』の事を何を知っているの?子供としての感情に甘えたい気持ちは分からんでもないけど、少しは『親の気持ち』も理解しなければ、お話ならないわそんなの子供のワガママと同じ事よ?」「………ッ!!」悔しい思いで下唇を噛みしめる千鶴反論したくても出来ない自分に嫌気をさす。 「悔しいならアンタも大人になるように目指しなさい。反論したいなら大人になって学びなさい。…そして理解したいなら、人として成長しなさい。それが出来たなら、アンタは父親の気持ちを理解する事が出来るわ。」「----ッ!?」最後の台詞を語った瞬間---あれほど憎たらしい台詞を語った人物の表情から---今までの苛立ちすら打ち消す程の『優しい表情』を見せる香月博士を見て戸惑いだす。「そういえば、私の知り合いでね、『ガキくさい英雄』が居てね、『世界を救ってみせる』なんて事言ってた甘っちょろい奴が居たのよ。」「えっ?」突然話の内容が変わる香月博士突然の事に意表をつかれる千鶴だが、それ以上にタケルが驚く姿を見て疑問する。「ソイツとは利害が一致しててね、協力関係だったの。意外にも頭が回る奴だったし、仲間からも信頼が厚かったし、戦術機の腕前もズバ抜けていたわ。『駒』としては便利だったけど、結構甘っちょろい事言う奴だったの。けど…ある時、恩師がソイツの目の前でBETAに喰い殺されてね…そのショックをきっかけに一度逃げ出したのよ。…けど、ソイツは戻って来た表情も少しはマシになったし、それから続く残酷な現実にも立ち向かった行ったわ。そして、最後にはソイツはとある事をやり遂げて『一人前の顔』になったわ。大切なモノを沢山失ったけど、ソイツは成長し、本当の意味で一人前になったわ。まあ、それからはソイツを『駒』としてではなく『仲間』として接する事になったけどね。」香月博士の語る『ガキくさい英雄の物語』は終わるそして、それを語った理由は--- 「アンタもソイツも同じ事を言えるわ。アンタは口だけは言えるけど、実際は何も知らないし、何も出来ないわ。それを実行したり、知るには様々な問題や試練を乗り越えなきゃならないわ。そしてそれを本当の意味で乗り越えた時こそ---アンタは『答え』を得る事が出来るわ。」千鶴を導くように語る香月博士話が終わり、『よっこいしょ…』と呟き、足をふらつかせながら宴会場へと向かう。 「さて、新年早々辛気臭い話をしたわね。私はまた飲みに行くから、白銀も後から来なさいよ?」「ハハハ…りょ~かい。」酒瓶握り締めながら再び宴会場へと向かう香月博士取り残された千鶴を見て、声をかける。「悪いな、委員長別に先生は委員長を悪く言っている訳じゃないから…」「わかってるわ…ただ、あれだけ言われて腹立ててたのに…今はそれすら無くなって逆に戸惑ってるわ…。」「まあ、それが先生の話術だし、あの人も素直じゃないからね…一応委員長の事を思って激を飛ばしたんだよ…………………………多分」「……多分は余計よ。」タケルの最後の一言を指摘する千鶴タケルもその事に関して、苦笑いをして誤魔化す。 「……さっきの話の『ガキくさい英雄』…あれ…オレの事なんだ。」「えっ!?」突然先程の話の『真実』を口にするタケルその事に千鶴は驚愕し、同時に複雑な想いが生まれる。 「…以前『委員長』の呼び名の理由…言ったよな?」「え、ええ…確か私にソックリな人物のあだ名だって…。」「そう、それ。実はさ…その委員長も、以前居た部隊の仲間の一人でさ…さっき言ってた『とある事』…機密情報だから詳しくは言えないけど………そのとある戦場で……亡くなったんだ。」「----ッ!?」予想だにしない事実に驚愕する千鶴一秒一秒が長く感じてしまう程、空気が重くなるが、タケルの話は続く。 「結局その戦いはオレを含んで二人しか生き残れなかった…訓練兵からずっと一緒に居た仲間達…そのみんなが、オレなんかを守る為に…その命を散らしてでも守ってくれたんだ…。」タケルを守ろうとする仲間達の想い…その壮絶な結末に千鶴は言葉すら出せる状況ではなかった。「だからさ、もう仲間達を失わせない為にも…二度と大切なモノを壊さないようにする為にも…色んな意味でオレは強くなるしかなかったんだ…!!」そしてその覚悟と想いの強さを見た千鶴は---心の底からタケルの事を尊敬する。 「最初は『力』が無かった---二度目は『覚悟』が無かった---けど、今は『力』や『覚悟』があるそして…こんなオレを支えてくれる仲間達が居る---今度こそは…絶対に守ってみせる…そう決意したんだ…。」タケルの決意の強さに驚き、そして自分と見比べ、どれだけ自分が甘えてたのかを知る(凄いわ…白銀それに比べて、私は---) 自分とタケルを比べて、どれだけ今までの自分が小さかったのかを思い知る千鶴そして---とある決意をする。「私---衛士になるわ。そして上を目指して、自分が納得するぐらい成長する事が出来たなら…私…政治の世界に入ってみるわ。」決意を決めた表情をする千鶴隣に座ってたタケルは勿論、その後ろで茶を飲んでいた駿や神野大将も、その強い表情を見て驚き、同時に感心する。(ほほぅ…良い顔をする…流石は榊殿の娘じゃ…)(凄いや…うん…僕も今以上に頑張らなきゃ!!)(流石は委員長だな…こうなった時の委員長は本当に凄いからな…。)「うっ…何よ…みんなして…そんな顔してジロジロと私を見て…」ジロジロと千鶴を見ていると、可愛らしく顔を赤くしながら質問すると…「いや、素直に感心しただけぢゃ。」「凄いと思いますよ、僕は。」「同じく流石は委員長だ。」「んもぅ…」恥ずかしながら視線を逸らす千鶴もし、父・是親が居たならば『グハァッ!!……千鶴タン……GJ☆』とかなってたかもしれない…。そしてそれから数時間経った後、月詠家のお抱え運転手に家まで送って貰う榊親子… しかし、この後…まさかあのような事になろうとは…誰も予想だにしかなった…。