諏訪子達と別れを告げた後、ハジは少女を連れて、二人が出会った場所へと転移をした。村に寄り、神への礼を済ませた後、歩いて少女の住処へと向かう。
神へ礼を済ませている途中、少女の目が、その輝きが、饒舌しがたいことになっていたのには、触れない方がいいだろう。
現代で言う、90年代、アイドルの追っかけをしている少女のような顔をしていたとは、絶対に言えない。
途中、ハジは不穏な気配を感じていたが、その正体を掴むことは出来なかった。少女はお年頃であった。
少女の住処へ向かう途中、ハジは河へと歩いて行く。少女はそれ拒絶し、されども耳を掴まれ引きずられていた。
なぜハジがそんなことをするかと言えば、簡単に言えば反省させるためだ。心を込めて謝らせるためである。
長年の経験から、子供をあまり甘やかすのは良くないと学習していた彼は、無理やりにでも反省させることにしていた。
河へたどり着くと、ハジは大声で河の住民達を呼ぶ。呼ばれた妖怪達は、最初は子供の姿に舐めてかかっていたが、すぐにそれを直す。
ハジの顔は守矢の国だけではなく、さらに広範囲に知られていた。ただ、強いと。日頃の行いの成果である。あまりいい意味ではない。
そんな河の妖怪達も、少女の姿を見るや否や声を荒げる。よくも俺たちを騙してくれたな、と。
実際のところ、妖怪達は既に殺す犯すといったことをしようとは思っていない。少し苛立っているが、その程度である。
だが、そんな妖怪達の様子に少女は顔を真っ青にし、震え、怯える。ハジの後ろへ隠れようとしても、そのハジ自身に前に出される。
首を振り、後ずさりをする。だが、ハジに耳を掴まれ妖怪の前へと連れられる。
少女にとって、それは地獄だ。拷問だ。
目の前に、自身の明確な『死の象徴』が居るのである。少女が受けた精神的ダメージは、既にトラウマレベルなのだ。
そんな少女へハジは一言、謝れ、と言う。心を込めて謝れ、と。そうすれば、彼らは許してくれる、と。
それだけを言って、ハジは少女から離れていく。少女はハジに縋るように手を伸ばすも、腰が抜けていて立つことが出来ない。
妖怪達と少女の間は、既に二歩、三歩で埋まる距離。その十歩後ろ程度にハジがいる。
既に彼女たちを遮る物は何もない。どちらかが一歩前に出れば、手が届く距離。
少女は自身のトラウマを目の前にして、動くことも、話すことも出来ないでいた。
妖怪は少女を睨む。既に手を出す気などない。
虚仮にされた時は、気に入らなかったから殺そうとした。それだけだ。
彼らにしてみれば、兎妖怪など取るに足らない存在である。いくら死のうが、殺そうが、彼らの何かが変わる訳ではない。
殺すも殺さないも、同じなのだ。
彼らは少女の言葉を待つことにしていた。少女を見ても少し苛立つ程度。
それは、当初、少女が全てを舐め切っていた態度を取っていたから。
だが、今は違う。自分たちに怯え、震え、動くこともままならない。それに、これから自分たちに謝罪をするという話である。
少女がその謝罪を『することができれば』綺麗さっぱりと水に流そうと、そう思っていた。
少女は妖怪達から目を逸らすことが出来ない。目を逸らせば、自分が死ぬような気がするから。
妖怪達も、少女を見つめる。『本当に』、謝罪をすることができるのか、と。そして、動きの無い少女に行動を起こさせるため、
少しの仕返しを込めた『悪戯』をすることにする。少女を『脅す』という方法で。
先頭にいた妖怪が、自身の長い爪を少女へと突きつける。他にも、霊力を噴出させたり、少女を睨みつけたり、各々が様々な方法を取る。
少女の反応は劇的だ。さらに怯え、震え、今にも気を失いそうなほどに青い顔をしている。だが、逃げることも、気を失うことも許されなかった。
逃げ出したいほどに恐ろしいのだが、それ以上に、後ろから感じる視線が重い。
思い込みかもしれない。だが、全身に重りを付けられたかのような重圧を背中から感じてしまうのだ。
そのせいで、気も失うことが出来ない。ギリギリの所で保ててしまうのだ。正気が。
体を丸め、目を閉じ、耳をふさぎ、全てを自身の世界から消し去りたい。だが、許されない。することが出来ない。
やっとの思いで少女は決心をする。声を出そうと。
少女は既に反省をしていた。むしろ、此処までされて反省をしない方が稀だろう。
ごめんなさい、ごめんなさいと、少女は心の中で謝り続けている。それを、声に出す。ただ、それだけ。だが、できない。
震える口を、かすれる喉を必死に動かす。少女の口から零れる音は、声とは言えないような声。
何度繰り返しただろうか。少女は音とも言えないような音を出し続けた。そして、やっと、やっと一言。
「ごめんなさい」
謝罪。
ごめんなさい。貴方達を騙してごめんなさい。
その言葉を聞いた妖怪達は、矛を収める。少女は恐怖に包みこまれながらも、必死に謝った。きちんと反省し、心を込めて。
ならば、許そう。水に流そう。彼らは河の妖怪。水に流れるのも、流すことも、得意なのだ。
謝罪が出来た少女は仰向けに倒れ込む。
緊張の糸が切れたのだ。少女としては、丸一日走り続けてもこれほどの疲労感は味わえないだろうという感じであった。
ハジは倒れている少女へと近づく。そして、河の妖怪たちへ礼を言い、少女を掴んで河を渡った。
ハジは河の妖怪達へ手を振り、少女を担ぐ。ここから先は、全て歩きで行ける。少女が一人で河まで着いたのだから、当然なのだろうが。
途中ハジは少女を休ませつつも、少女が歩けなくなったら担いで歩き続ける。少女が眠る時以外、全ての時間を歩き続けていた。
普段の移動ならば、飛んでいっても能力を使って移動をしてもいいのだが、ハジの能力の発動に必要なものはイメージだ。
イメージが明確でないと発動ができない。故に、知らない所への転移は出来ない。知らない場所へは、地道に歩くか飛んでいくしかないのだ。
ハジは知らない場所へは、全て歩いて進むと決めていた。全てを、自分の目に収めるために。
その為、少女としては飛べるのなら飛んで、早く住処へと連れて行って欲しかったのだが、立場上、それを言うことが出来なかった。
それ以上に、旅が終わってしまうのが惜しいという気持ちもあったのだが。少女自身、その想いはよく分かってはいない。
そしてハジ達は、半月ほど歩き続け群れの住処へとたどり着く。距離自体はさほど長くはない。
少女がその道のりを一年以上もかけていたのは、大量の寄り道と一日の移動距離が短かったためだ。
少女はすぐに、自分の家族が居る所へと駆け出す。それを眺めつつ、ハジは自分の役目は終わったと群れを一瞥し、旅を再開することにする。
近くにいた兎妖怪へ、服は中位の妖怪程度の攻撃ならば無傷、と少女への伝言を頼み、群れを後にする。
少女は、礼を言う暇もなく別れを迎えたのであった。
少女がそれに気がついたのは、伝言を頼まれた兎が彼女の下へとたどり着いた時である。
ハジは現在不機嫌であった。
簡単に出来ると思っていたことが、なかなか成功しないからだ。
彼が兎の少女と別れてから、またしても数千年の時が流れた。
ハジはあの後、海から旅を再開させ、地道に歩みを進めていた。旅を始めてから万に近い月日は経っただろう。
初めは思いつく限りの、知らない場所へと移動を繰り返していた彼であったが、次第に飽きと場所がなくなってきた。
そうして彼は、自身の住む大地の形を把握しようと、海片手に方向を変えず、進み続けていた。
海を片手に歩き始めて、最初は右から昇っていた太陽も、今では左から昇っている。
彼に逆走をした覚えはない。つまり、それは大地が何処までもまっすぐに続いている訳ではないということ。
空を飛び、大地の形を頭の中に収めつつ、折り返し地点も突破した。太陽の位置から考えるに、南へと進んでいた旅も、今では北へと進んで歩いている。
そして、彼の前に細い道が現れていた。そして彼はいつもの行為を済ませ、その日の旅を済ませることにしたのだ。
彼の一日の移動距離はそれほど多くはない。地を歩いた後、歩いた場所の地形を空から把握するという作業を繰り返すので、時間がかかるのだ。
ハジ自身がそれほど急がないというのも大きく関係している。
彼は不機嫌である。
なぜなら、彼の『いつもの行為』がうまくいかないからだ。
その行為とは、百年に一度だけする、子作り。人気のない場所へ行き、誰も居ないことを確認してからソレをする。
最初は軽い気持ちでやっていたのだが、思わぬ惨事が起きたため、以後誰も居ない所でやるのが主流となっていた。
そして、わざわざ人気のない所へ行き、ソレを行い、失敗。爆発。
彼は百近いの失敗を繰り返している。何が悪いのか、彼には分からない。
彼の周りには大きなクレーターが出来ている。子供が十人以上でも充分に遊べるほどの広さだ。
しかし、それは出来ない。なぜなら、クレーターには土が見えず、そこから木々が覆っているからだ。
大地は抉れ、木々は傷ついた。だが、自然は再生する。彼の力の余波により、新たな命が始まったのだ。
本来ならば、彼の子が出来るはずなのだが、うまくいかない。
彼も毎回やり方を変えているのだが、どれもうまくいかなかった。周りに及ぼす結果が、変わるだけだ。
ひどい時には山が一つ生成された。現在、そこには様々な生物が住みついている。山自体に霊力が溢れているので人気のスポットなのである。
いずれ、此処も生物が住み始めるのだろう。
ハジは爆発により引きちぎれた腕をくっつけつつ、百年後の計画を立て、眠る。百年後は子作りをしてから、諏訪子達に会うのだ。
前回諏訪子達に会ってから九百年目の日であった。
潮の満ち引きが激しい道を通り、海に足を取られつつも、やがて開けた場所へとたどり着く。
見たところ、生物の気配は無かった。ハジはしばらく歩き続けていたが、生物どころか植物もあまり見かけることが無かった。
なぜなら、そこは雪で覆われた土地だったからだ。
ハジに特別想うところはない。雪自体、そこまで珍しい物ではなかった。折り返し地点前後ではほとんど見かけることが無かったが、
海を回り始めた時と、先ほどまでの場所では、雪が多かったからだ。つまり、北へ向かうほど雪が多い、ということである。もちろん、気温も低い。
ハジはのんびりと歩き続ける。たまに、雪を丸めて巨大な雪玉を作って暇をつぶしたりもしていた。
雪玉は、ハジの身長のおおよそ十倍はあるだろうか。それが、ハジの通った道にポツリポツリと置かれている。
何気に、雪国を満喫しているハジであった。
ただし、傍から見れば、サラシとスカートのような腰巻をつけた、非常に寒そうな格好の少年である。決して楽しそうには見えず、とても寒そうだった。
ハジとしては、雪国は初めてである。
彼は海を片手に歩いていたが、好奇心を抑えきれず、海を離れ突貫。途中、村とも言えぬ集落を見つけたり、
マンモスと呼ばれる大きな獣と遊んだりと、充実した毎日を過ごしていた。そして、時が経ち丁度百年目。
それは彼が子作りをする日でもあり、諏訪子達に会いに行く日でもあった。
まずは、計画通りに人気のない場所へ行き、子作り。
彼は思いのほか、雪でテンションが上がっていた。それと、本人は数えていなかったが、今回が百回目。
彼に転機が訪れた。
彼はいつものように、力を溜める。
氷の張った湖の上へと立ち、瞑想。
そして、自らの霊力を媒体とし、新たな命を作りだそうとし、失敗。
いつものように爆発が起こり、湖に貼っていた氷は全て砕けた。
今回で、百回目。
そう、百回目だ。彼は各地で、百回、巨大な霊力をまき散らしていた。
あらゆる場所で、あらゆる土地で。彼は始まりの力をまき散らし、力を持った自然を作りだしていた。
そして、その力が、とうとう、溢れた。大地は、きっかけを欲していた。
湖の上には一人の少年が浮かんでいた。
湖に浮かぶ氷の上で、一人の少女が座っていた。
この日、各地から新たな存在が生まれた。
それは自然から生まれ、自然が具現した形。
大地から生まれたと言ってもいいだろう。ある意味、妖怪と似たような存在である。
自然がある限り、彼女たちは生まれてくる。自然がある限り、彼女たちは存在する。
ハジは、思いもよらぬ結果にただ呆然とし、彼女を見ているだけであった。
そして妙な電波を受信し、彼女たちを『妖精』と名付けたのはその数秒後。
ちなみに、ハジも大地から生まれた存在である。何故か、彼には『妖精』だと分かった。
どう反応すればいいのだろうか。
またしても失敗したかと思いきや、新たな存在は生まれていた。
だが、私から生まれた訳ではない。この感覚を当てはめれば、私の力を『利用された』と見るべきだ。
そして、この感覚は、もう無いと思っていた大地との接触。生まれ、妖怪を自覚した時に感じた感覚と似ている。
目の前の存在の名は『妖精』。自然の具現した者。
私は妖精ではないから、妖精の役割は分からない。
何のために生まれたのか。何をしようとしているのか。知らないが、私には関係のないことだろう。
だが、このままこの場に置き去りにするのも気が引ける。そもそも、私がきっかけで生まれた存在だ。
私は、生まれたばかりは自身の自覚が出来ていなかった。ならば、こいつも、こいつ等も恐らくそうなのだろう。
自身の役割に気がつくまで、しばらく付き合うか。
そう思い高度を下げて氷の上へと立つ。この氷の欠片では、こいつと私だけであまり空きは無い。
とりあえず、この妖精が何かを話すのを待つ。待つ。待つ。
待っていても、何も話さない。いや、話せないのか?
妖精と私の視線が重なり合ってからそれなりの時間が経っている。妖精は私を見つめ、私は妖精が話すのを待つ。
このやり取りも飽きてきたので、私から話しかけることにする。
だが、何を話せというのか。
そもそも、言葉を理解出来るかすら危ういのだが。
「おい、お前は言葉が理解できるか?」
「……」
反応がない。依然、此方を見ているだけである。その瞳はから感じられるのは、興味。
喜びも、恐れも、悲しみも。何一つ感じられない、ただ、興味を示しているだけ。
観察するように、私の一挙手一投足を見る。
右手を上げる。妖精の視線が動く。下げる。妖精の視線も下がる。
座っている妖精の横へと移動する。首を捻り此方を見る。
後ろへと移動する。首を捻るが限界が来た。後ろへと倒れ、此方を見る。
元居た場所へと戻り、正面に立つ。顎を引き、必死に視線だけを此方に向ける。
起こしてやることにする。妖精は私の顔を覗き込む。
少し面白いが、少し鬱陶しい。
とりあえず、妖精を掴んで陸地へと飛ぶ。妖精は氷から足が離れた途端に暴れ出す。
陸地へつく。妖精はへたり込み私を見る。心なしか、怒っているように見える。
感情が、無いわけではない。恐れもあれば、怒りもある。ただ、知識がない。だからこそ、興味を持つ。
つまり、妖精たちは『まさしく』生まれたばかりの存在という訳か。
「立てるか?」
「……」
反応は無い。妖精の腋の下に手を入れ、立たせる。最初は抵抗されたが、構わずに立たせた途端に動きを止めた。
私が手を離すと妖精はよろける。転びそうだったので受け止めてやったが、立ち方すら分からないのか。
何度か姿勢を正してやり、立たせる。すると、妖精が私を掴んできた。
好きにやらせていると、私が手を出さずとも一人で立とうとしている。そして、何とか立つ。私を支えにしているのだが。
そのまま私が後ろに下がると、妖精は前のめりになり転びそうになる。
とりあえず妖精を座らせ、目の前で歩き回ることにする。しばらく歩いた後、妖精に手を差し伸べる。
すると、私の手を引き、立ちあがろうとする。うまく立ち上がれなかったが、手を引いてやると立ちあがった。
その後、私の手を支えにして立っているが、その手を引き後ろに下がる。
先ほどのように前のめりになってきたが、妖精は片足を前に出した。思惑通りだ。
ゆっくりと、転びそうになったら支え、手を引く。歩き方も様になってきた。
手を離しても大丈夫かと思い、手を離す。すると、妖精は歩みを止め、棒立ち状態。
私が数歩後ろへ下がると、前へと進もうとするも、転ぶ。
起こしてやり同じことを繰り返す。妖精の顔は、何度も雪に叩きつけられ赤くなっており、少々涙目になっている。
泣きそうな目で此方を見る妖精は、幼き頃のアマツのようだ。アマツにも、同じようなことをしてやった。アマツの場合、飛べるようになる方が早かったのだが。
何度か繰り返している内に、一人で立ち上がれるようになっていた。そして、やっと私の下にたどり着く。
口元は動かないが、目だけは嬉しそうな感じだ。
「えらい。えらい、えらい」
そう言いながら、頭を撫でる。目を細め、成すがままにされている。
そして妖精をひきはがし、距離を取る。引き剥がされた妖精は驚いたように目を大きくさせ、此方を見ているが、やがて泣きそうになっている。
構わず距離を取り、立ち止まる。
「来い。来い、来い」
「……」
理解は出来ないだろうが、声をかける。会話が出来ないというのは不便だ。早く言葉を覚えて欲しいものだ。
此方へ向かってきた妖精に、来い、来いと声をかけ続ける。そして、たどり着いたら、えらいと褒め、頭を撫でる。
何度か繰り返していると妖精も慣れてきたのか、引き剥がしても涙目にはならなくなってきた。すぐに私に着いてこようとする。
今度は私に追いついた妖精を座らせる。そして、『待て』。
立ちあがろうとする妖精を、待て、と言い、押さえ、座らせる。
成すがままに座らされている妖精も、何度も立ちあがろうとし、そして座らされる。
押さえるたびに待てと言い、座らせる。そして、距離を取り立ちあがろうとする妖精に、『待て』。
立ちあがり此方へとたどり着いた妖精をの頭を撫で、座らせる。そして、待て。
繰り返す。繰り返す。様々な事を繰り返す。
妖精は、待て、と言ったら動かない。来いと言ったら着いてくる。えらいと言われれば褒められているということを覚えた。
他にも、走り方、飛び方、力の使い方などを教えようと思ったが、辺りは暗くなってきた。
経験上、寒くなるほど日が沈むのが早い。
とりあえず妖精を背中に担ぎ、諏訪子達の社へと転移を開始。
一瞬にして辺りの景色が変わったことに驚いたのか、私にしがみ付き辺りを見回している妖精。
アマツも、初めて転移を体感した時はこんな感じであった。そういえば、アマツはいつから一人で過ごせるようになったのだったか。
諏訪子と神奈子に会い、旅での話を聞かせてやる。そして、妖精について説明。
諏訪子たちも私の横にいる妖精の事が気になっていたのか、すぐに聞き入る。
自然が具現した形だと。大地から生まれた存在だと。おおよそ私が知っていることを話してやる。
「私が知っているのは、この程度だ。あと、こいつ等には知識がない。見かけたら何か教えてやってくれ」
「まあいいけど……妖精はどうやって見分けるのさ?
それに、今頃獣にでも襲われて怖い思いでもしてるんじゃないのかね」
「む、それはいかんな。我が人間にも呼び掛けておくか?」
「やめておけ。妖怪と間違われて争いでも起こったら面倒だ」
「むう……」
人間にしてみれば、妖怪と妖精など大差はないだろう。
力を見れば、人間以下だろうが、それでも霊力を吸って現れた存在だ。本能的に感じとるだろう。
この妖精の物覚えは、それほど悪くはない。ならば、他の妖精も同じ程度なのだろう。
しばらくは旅を中断して妖精を見て回るか。
こいつも、仲間が出来れば独り立ちをするだろう。あまり懐かれても困る。
「とにかく、見かけたら言葉でも教えてやってくれ。妖精は全員羽があると思う。
見かける程度にそいつが歩けるのならば、それで十分だ。私は各地を巡って妖精を見て回るさ」
「そう?ならそうするよ」
「うむ、分かった。我もそうすることにしよう」
「私も他の妖怪にも声をかけてみるか」
とりあえず、私の旅は一時中断と言ったところだろう。
それに、今回妖精を『作らされた』ことにより、何かが掴めたような気がする。
新たな存在を作る、その感覚。一瞬だが、何かが分かった気がする。
光明が見えた。ならば、後は実践するのみ。
うふふ……百年後が楽しみだ。
「そういえば、その子の名前は」
「知らん」
「え、また?んー……じゃあ、名前を付ける?」
「む、我も付けてみたいものぞ。空色の髪に青い瞳、氷の羽か……むむむ」
「神奈子はやめときな。名付けは下手なんだから。意外とかわいい物好きなのは知ってるけどさ」
「だ、誰がそんなことを言った!?べ、別に我はそんな」
「アホどもが。おい、お前はどんな名前がいい?」
「……?」
「あ、抜け駆けはずるいよー!」
「む、我だって名付け程度!」
「……?」
雪国生まれの妖精さんの名前は、なかなか決まらないようです。
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あとがき
またしても新キャラ。最近新キャラが増えましたが、皆さん登場人物の把握が出来ますでしょうか。
登場人物の特徴をとくに挙げておらず、しかも名前が出ていないので分かりづらさ大幅アップ。
前回は兎のみだし、今回は妖精妖精と言っていて、見た目に関してはかるーくしか触れていない。皆さんの想像力に託すしかない……!!!
今回は会話を少なく出来た予感。やっぱり、喋らないキャラって大事だと思う。むしろ、誰も居なくてもいいや。
それにしても、こいつ等かわいいのかな?
自分で書いてるとかわいいかとか良く分からなくなってくるけど、かわいいなーとか思ってもらえれば。
神奈子様マジ乙女。
分かる。私には分かる。金髪のあの人がそろそろ出てくる。そんな気がする。