第1話:ノア
カテドラルに到着したランス達は"カテドラルカオス"を目指していた。
まずは長い廊下を歩く中、左手……つまり、
スティーブンに言われた通り、北にあったドアを抜けた。
そして"この場所"がカテドラルの地下一階と言う事から、
上り階段を探しながら戦闘を行っている最中だった。
『ウオォォ……ッ!!』
≪ギャリィーンッ!!≫
「ふんっ、調子に乗るんじゃねぇぞっ?」
「いけませんッ、その悪魔に剣で攻撃しては……!」
「!? チッ……そういやそうだったな。」
3体の"邪鬼ギリメカラ"……一つ目の像の頭と、
180センチほどの人間の肉体を持った、全身黒檀の戦士型悪魔。
そのうちの、一体を軽く捌いていたランス。
攻撃を受けると、自然と反撃に移ろうとしてしまった彼だったが、
それは"やってはいけない"ので、二体目を相手にしているマリスが口で止めた。
何故剣攻撃を"やってはいけない"かと言うと、
このギリメカラは"物理攻撃を反射する"という異例の相性を持っているからだ。
ランスの世界には"無効"にする敵はいても、
"反射"してしまうモンスターは居なかったので、はじめは驚いたものだ。
物理反射をもし、マリスが剣で攻撃した"一太刀目"で気付かず、
ランスが"雷神剣"で斬りかかってしまったら、大変な事になっていただろう。
マリスの初っ端の一撃が反射された時は、キクリヒメの回復魔法で、
直ぐに癒えたが、雷神剣のダメージが反射されてしまうと、
ランスは死なないにしてもかなりの重傷を負っていた筈だ。
『死ネエェッ!!』
『…………』
≪――――バシッ、バシィッ!!≫
一方、残り一体の"ギリメカラ"の攻撃を翼で弾くカミーラ。
彼女も"デスバウンド"を仕掛けてしまったら冗談では無かっただろう。
邪鬼最高クラスである"ギリメカラ"は確かに強い悪魔だが、
現在の力を付けたランス達にはさほど脅威では無いのが幸いだ。
たった今はカミーラが"ラクカジャ"を掛けているので、
より楽に"時間稼ぎ"をすることが可能だった。
そんな中、やはりいち早く反撃に移ったのは、マリスだった。
「死んで貰います! ……ムドッ!!」
≪ボシュシュウッ!!≫
『グォ……ッ!?』
≪――――ドドォッ!!≫
「ふぅ……("あちら"では神魔法をマスターしたつもりだったけど……
まさか相手を"呪い殺す"魔法を使う事になるなんて。)」
ギリメカラの攻撃を回避中心に抑えていたマリスが、
右手で詠唱していた"ムド"を相手に放つと、
食らった"ギリメカラ"はバッタリと後ろに倒れ、そのまま動かなくなった。
なんと、一瞬で相手を"即死"させてしまったのだ。
"魔法効果"が高いマリスは、現在この魔法によって、
かなり楽に敵悪魔を倒せるようになっていた。
だが、物理だけでなく"この魔法"も反射する悪魔が存在するので、
"即死魔法"を反射されると間違いなく死ぬ事からリスクがあり、
確実かつ安全に使ってゆきたいのであれば、
一度倒してランスの"デビルアナライズ"で効くかどうかを調べなければならない。
かといって、逆に"呪殺魔法"を反射してしまえばその悪魔は大抵即死するので、
マリスは"マカラカーン"も使えることから、より高いスキルが求められている。
道場主に訓練を受けていたのも、マリスはこのように、
多々ある魔法を更に使いこなしたかったからなのだ。
『二回目行きます! マカ・カジャ!!』
≪ギュイイィィンッ!!≫
「行くよぉ!? ダーリン、下がってっ!」
『(……良し。)』
「やっとか、早くやっちまえ!」
『ゆくぞよ? マハ・ブフーラ!!』
『……マハラギオン。』
「マハ・ジオンガぁぁ!!」
≪ずがああぁぁぁぁんっ!!!!≫
香姫が魔法威力が上がる"マカカジャ"を唱える。
今唱えたのは二回目のマカカジャで、いわゆる"重ね掛け"。
これは雷太鼓がよく行っていた手段でもあり、もはや常用手段だ。
直後、キクリヒメ・カミーラ・リアが一斉に攻撃魔法を放ち、
魔法には大して強くないギリメカラは、一瞬で蒸発してしまった。
……
…………
……そんな調子で、カテドラルの敵悪魔を捌いていたランス達。
時間は一時間半弱経ち、行った戦闘は10回程。
その(数えていないらしく恐らく)10回目の戦いが終ると、ランスは愚痴をもらす。
「くっそ~、上り階段は何処なんだぁ?
カテドラル……広いにも程があり過ぎるったら無ぇぜ。」
「"オートマッピング"があるので迷う事は無いですが、
こうも広いとなると、いずれ消耗して……」
「だ、大丈夫だよねぇ?」
ランスの言うよう、カテドラルは広すぎる。
今までの千人規模で攻略していたダンジョンは別として、
数人単位で攻略してきたダンジョンの中では、群を抜いて広い。
東京ドーム2個や3個では済まない広さの上、全域が入り組んでるダンジョン。
例えば、もし分かれ道の片方に階段があったとしても、
気付かず反対に進んでしまえば、致命的時間のロスとなる。
しかも強力な悪魔達が徘徊しており、時間が経つに連れて不安になってくる。
本来ダンジョンを攻略する場合、消耗すれば戻って出直すのが基本だが、
間も無く東京が沈没する事から後には引けない攻略なのだ。
つまり、なんとしてでも、這ってでも"カテドラルカオス"に行く必要がある。
「仲魔になりそうな悪魔も出てこねぇし、どうなってやがんだ全く……」
「私達も、スティーブンさんに転送をして貰った方が、
良かったかもしれませんね……」
「ぐ、ぐぐっ……それは言うな。」
『まぁ……まだ始まったばかりじゃ、そのうち見つかるじゃろう。』
『そうですね、後ろ向きな考えは良くありません。』
『…………』
また、仲魔になりそうな悪魔にも一切遭遇していない。
先程から知識が無いダーク悪魔ばかりと戦っているのだ。
メシア教徒とガイア教徒が小競り合いをしているのはよく見かけ、
何度か勘違いされて戦いを挑まれているのだが、
重要なのは"仲魔"を増やす事なので、不回避な戦闘以外相手にしない事にしている。
(ガイア教徒は、スガモプリズンで無罪になった事を言って大抵回避可能だった)
さておき、ランス達は判らないが、洪水後戦力は"都庁"に集まる。
"知能"があるニュートラル悪魔達は、皆都庁の戦いに出払う予定なので、
こんな場所をウロウロしている場合ではないのだ。
全く居ないと言う訳では無いが、絶対数の低下により運が絡み、
ランス達は残念ながら遭遇できていないのだろう。
三体の仲魔はランスとのエッチでまだまだ疲労には程遠いようだが、
それらの事から、少しよからぬ事を考えてしまうランスだったが――――
≪ゴゴッ……ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!≫
「うぉッ……何だ?」
「じ、地震~?」
「どうやら……起こってしまったようですね。」
突然、激しい揺れがランス達を襲った。
立つ事すら難しいそれは予定されていた"大洪水"の揺れであり、
今現在、東京が洗い流され、沈没してしまったのだろう。
……揺れは直ぐに治まったが、ランス達の表情は優れない。
「これで、後戻り出来なくなっちまったな。」
「だ、ダ~リン~……本当に大丈夫なのぉ?」
「何だ、俺様が信用できねぇのかッ?」
「そんなワケじゃないけどぉ……」
「…………」
「ん? マリス、どうした?」
「お静かに……何か、聞こえてきませんか?」
「えっ、何がぁ?」
「リア……ちょっと黙ってろ。」
≪ざわっ、ざわざわ……≫
『微かに……』
『聞こえるのぉ。』
黙っていたマリスに問うと、何かが聞こえるらしい。
ランスに言われ、リアが律儀にも口を両手で塞ぐ中、
6名が沈黙してみると、確かに多数の声が聞こえる。
実はこの声……洪水に驚く大衆のザワつき声なのだ!
お察しの通り、これは"カテドラルカオス"から聞こえてくるものだった。
それをキクリヒメとカミーラも察し、香姫は声がする方向を指差す。
『ランス様、ひょっとすると、あちらのほうに階段がある気が……』
「うむ、俺様もそう思ったぜ!」
「ではランスさん。」
「当然だ! 俺様に続けぇ~!!」
≪だだだだっ!!≫
大洪水の直後なので、聞こえる声だけが頼り。
それの声が近くなるほど、階段に近づくという訳だ。
逆に聞こえなくなってしまうと遠くなり、
もしくは手掛かりが無くなってしまう事になるので、ランス一行は足を速めた。
……
…………
こうして……間も無く、彼らは"カテドラルカオス"に到達する事になる。
またこの2時間後、セラフ達の"話し合い"が行われる事になるのである。
……四大天使達にとって、大洪水は"当たり前"の事であり、
千年王国を築く計画のホンの通過点に過ぎない。
大洪水が彼らの話題にすらならなかったのは……その為なのだ。