第12話:ラストバトル
……22日目、朝10時。
起きた直後に一緒に寝ていたリアが"朝エッチ"を要求してくるが、
へそ曲がりな彼はOKせずに武装して部屋を出た。
(こんな時にHする気にはなれなかったのが大きいだけだが)
すると既に自分の準備を済ませていたマリスと、
彼女に起こされたのか寝ボケ顔で床に座っているアニスが居た。
若干ランスが現れるまで時間があったのか、
この時のアニスは道場夫婦の命が助かったと言う事を聞かされていた。
しかし、詳しく説明してもアニスには理解し難いと思った事から、
(寝ボケている事よりも、彼女の性分の方が問題だろう)
マリスは"命は助かるそうですがお別れの挨拶は残念ながら出来ません"と、
手短に説明する事でアニスを無理矢理納得させた。
そして更に1時間ほど経過すると、道場広間には7名の姿がみえた。
言わずとながら、香姫・カミーラ・ジルが召喚されたのだ。
……
…………
『何故……私が"このような姿"をする必要がある?』
「ならお前~、そのまま外に出ても良いってぇのか?」
『当然だ、もう2000年以上衣服など着た事は無い。』
「それが"魔王ジル"の特徴でもありましたからね。」
「だがなぁ~……お前は良いとしても、
"俺様の女"の裸を他の奴に見せまくるのはどうも気に食わん。」
『ふんッ、いつから貴様の女などになった?』
『……(魔王様が、あのような……)』
ダンジョン内と言う訳では無いが、もはやマグネタイトの出番も無くなるので、
此処で召喚しようと大して痛手にはならないだろう。
そんな三体の中……ランスはジルの全裸の姿が少々気になった。
アルケニーのように亜人系の姿ならまだしも、
ジルは雰囲気違えど、見た目は人間そのものなので着衣を強制した。
リアの時のように、彼女を苛める目的で全裸を晒させたのは良いのだが、
そんな気も無いのに他人の晒し者にさせるのは納得がいかない。
よって現在のジルにはマリスが一昨日の夜にランスの部屋を訪れた時の、
黒い半袖のシャツと薄茶色のショートズボンを着用していた。
(裸足だが、元々全裸なので魔力によって岩場を歩いても痛くない)
ちゃっかりと上下の下着も着させられ、ジルは機嫌が悪そうだった。
『何だカミーラ、お前まで私を侮辱する気か?』
『……ッ? いえ……そのような事は。』
『と、とっても似合っていますよッ?』
『ふ……ふん、不愉快だ。』
召喚されて香姫は当然、流石のカミーラもジルの存在にはかなり驚いた。
香姫はランスに寝物語で聞かされたダケなので、
"魔王"と聞かされて、初めて"ジル"の正体に気付いてびっくりしたのだが、
カミーラは1000年以上ジルの下で魔人として生きていた経験がある。
既にジルはランスの世界で言えば、美樹が魔王なので、
彼女はもはや魔王では無くなっており、立場はカミーラと同じ"仲魔"なのだが、
カミーラはジルに対して昔の記憶を尊重させた。
ジルは少し態度がデカいが、ランスを"貴様"と言うのに、
カミーラを"お前"と言っている事から、多少彼女に気を遣っているようだ。
さておき、香姫はドキドキしながら衣服を褒めてみるが、
あまり悪い気はしないのか、ジルは腕を組みながら瞳を閉じた。
……もう、この話題については"終わり"にして欲しいようだ。
「うし! それなら出るぜ、準備は良いなァ?」
「大丈夫だよぉ~。」
「はい、済んでいます。」
「それでは行きましょう! 師範の無念を晴らす為、敵討ちに出発です!」
「あの、今は亡くなっていますが、お二人はちゃんと生き返られますから……」
こうして準備をすべて終了させ、回復道場を出てゆくランス一行。
3週間程世話になったが、彼らが再び回復道場に足を踏み入れる事は無いだろう。
そんな回復道場の、道場夫婦の部屋の机の上には、残った全てのマッカと、
いらなくなった宝石や使いそうに無いアイテムを置いておいた。
そして一枚の紙切れに、アニスの汚い字で一言だけ記されていた。
命が助かった嬉しさを込めて、"ありがとうございました"……と。
……
…………
……カテドラルのカオス側、外周。
"カテドラル"は円形の非常に広く高い建物となっており、
一階の上半分の180°がカオス側の陣営で、
その中の一部が街となっており、"カテドラルカオス"と呼ばれるのはご存知の通り。
そんな内部は勿論だが、一階の外部も半分に分かれている。
外部に出て横は数キロ、前は数百メートルにも平らな地面が広がっており、
まっすぐ進めば海にぶつかり、時計回り・反時計回りに進めば、
"カテドラルロウ"との境界線である高い壁にぶつかる。
生憎重要なのは"カテドラル"そのものなので外で戦いは殆ど行われていないが、
ランス達にとってはそれが好都合であり、彼らは其処に居た。
「ここで良いか?」
「そうですね。」
≪ヒュオオオォォォーーッ……≫
一行は外に出ると、何百メートルか前方に歩き、
前後左右は平らなカテドラルの地面がただまっすぐに広がっている。
風当たりは抜群で、ランス以外全員の頭髪が風に泳がされる。
(リア・マリス・アニス・香姫・カミーラ・ジルと全員長髪)
そんな風の強い音だけが響く中、ランスはマリスと一言だけ交わすと――――
≪ズダアアァァンッ!!≫
ランスは二丁のデザートイーグルを抜き、まずは右手の銃で一発空に発砲。
発射された"閃光弾"は、風の音を掻き消して空を突き進む。
だが、それだけで発砲は終らず、ランスは両手を上げ――――
≪ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ、ズダアアァァンッ!!≫
「何処に居やがるッ!? 俺様を狙ってんだろ、出て来やがれーーッ!!」
≪ズダンッ、ズダンッ、ズダンッ!! カチッ! カチ、カチッ!!≫
「ちっ……終わりか。」
「本当にこんな方法で来るのぉ?」
「良い方法かと思います……何せ、恐らく相手は……」
≪人間ではないと思いますから……≫
空に"閃光弾"をありったけ発砲しまくる……弾切れになるまで。
勿体無いものだが、最後に戦う相手には、もはや銃なと不要だと感じたからだ。
それに"このような行動"をしたのは、大きな理由がある。
自分を殺そうとする者と、いちはやく接触する為のアピールなのだ。
相手が極力"暗殺"を狙う相手であれば無駄な事だと思われるが、
どうやらそうでは無かったようで、直ぐに状況に変化が起きた。
『ふぅむ、まさか"そのような行動"をして来るとは……』
『只の馬鹿か? それとも……』
「!? しました、声が……」
「なんだとッ、何処にいやがる!?」
『馬鹿め、後ろだッ。』
突然、一行の耳に"何者かの"声が聞こえた。
少々強い風の音で察し難かったのだが、ジルの声で全員が後ろを向く。
すると、空中がなにやら光っていたかと思うと、
左右二箇所に光が集まり、すぐさま形を成してしまい――――
≪ブイイィィンッ……≫
『……私は大天使クシエル、神に遣える"処罰の天使"なり。』
≪キュイイィィンッ……≫
『ワシは同じく"サリエル"……全ての生き物の運命を定める者。』
「出やがったな!?」
「て、天使ぃ~?」
「この天使が、御二人を……」
「てめぇらだな、勝手に人の塒(ねぐら)荒らしやがって!」
≪――――ガシャンッ!!≫
現れたのは、大天使・サリエルとクシエル。
前にも述べたが、サリエルは死神でクシエルがのっぺらぼうのような天使の姿。
彼ら二体は、ランス達が人気の無い場所まで行ってから、
叩いを挑むつもりだったのだが、ランス自身から挑戦をするような行動に、
少し意外だったと同時に馬鹿にしたような感じで姿を現す。
"暗殺者"というイメージとは大きくかけ離れてはいるが、
サリエルは死神の姿であるし、悪魔の犯行の可能性も十分に考えていた事から、
今更そのような事で驚く程でも無いので、状況を受け入れる。
それによりランスはデザートイーグルを二丁とも地面に捨て、
背中の雷神剣に手を掛けながら二体に向かって叫んだ。
すると、サリエルは首を動かすと、クシエルに向かって言った。
『クシエル殿、どう言う事だ?』
『アジトで彼らに加担していた者が居たのでしてね……
あまりにも隙だらけだったので、偵察"ついで"に始末しておきました。』
『成る程な。』
「ですが、それは意味の無い事です!」
「そうだよッ、ガイア神殿の人に治して貰うんだもんね!」
『そうですか? しかし、もう一度死んで貰えば良い事でしょう?』
『その通り! 貴様らを葬った後でなッ!』
「と言う事は、あなたが師範を!? ゆ、許しませんよーーッ!!」
≪キュイイィィンッ……≫
「アニスさんッ?(マカラカーンが必要かしら?)」
彼らにとって、少しでもカオスに傾いている者は死んで当たり前。
"千年王国"に行く事のできる権利を持つ者以外は、
生きている価値が無いというのが二体にとっての常識なのだ。
よって道場夫婦を殺した事を、蚊を叩く程度にしかクシエルは思っていない。
対してそこまでは判らないが、暗殺者が彼らと言う事は理解したアニスは、
早くも魔法の詠唱を開始しようとしたのだが――――
『ッ!? 避けろッ!!』
『危ないっ!!』
「えっ? わわッ!」
≪ドコオオォォンッ!!≫
「畜生、なんだぁ~ッ?」
「(気配がしなかった、もしジルさんに言われてなかったら……)」
『ふっ……気の早い人間だ。』
『メタトロン様!』
『参られましたかッ。』
『すまぬな、遅くなった。』
何の前触れも無く、放たれた攻撃魔法。
それを再びジルの声で、詠唱が止まったアニス含め、散開して回避したランス達。
魔法を放った者にとっては"軽く"らしく、殆ど無詠唱で放たれたようだ。
かといって"メギド"クラスの威力に地面は焦げており、
(カテドラルの壁等は非常に頑丈なので、余程の事が無い限り傷付かない)
サリエルとクシエル含め、全員が魔法が放たれた軌道を見ると……
"大天使メタトロン"が腕を組みながら一行を見下ろしていた。
何時の間にか放たれていたサリエルとクシエルの信号を察し、遅れての登場だ。
「こいつ……(強ぇな……)」
「一筋縄ではいきそうもないですね……」
「うん……(か、勝てるのかなぁ~。)」
『ふむ、貴殿がランスか。』
「そうだッ、だからどうした?」
神々しい翼と逞しい姿を持った、偉大なる大天使。
"あっち"の"フリーク"のようにやや機械染みた印象があるが、
感じる"力"はこれまで戦ってきた悪魔の強さとは比べ物にならない。
戦いはしなかったが、今迄一番強いと感じた"天魔 ヤマ"以上である。
これで仮の姿であるのだから、本体は更に強い事になる。
そんな"大天使メタトロン"はランスを見下ろしながら声を響かせる。
『悪魔の誘惑に負け、その身を堕落させた罪深き者よ……
邪悪な闇にと共に、地上より失せるが良いッ。』
「ふざけやがって、失せるのはテメェだ!!」
『そんな勝手な事はさせませんッ!』
『不愉快だ、殺す……』
『ふっ、鈍(なま)った体には丁度良い連中だな。』
言葉が終ると共に、メタトロンは腕を解いて戦闘態勢に入る。
一行を挟んでいるサリエルとクシエルも、互いに浮遊しながら構えていた。
互いに最初から戦う目的でやって来たので、もはや言葉はいらない。
要るとすれば、ランスや仲魔が言ったような、罵倒するような言葉だけ。
よってランス達も雷神剣を抜くなどして構える中、アニスが叫ぶ。
「ランスさん、"クシエル"という敵はこのアニスにやらせてくださいッ!」
「おう、やってみろ! マリスはアニスの援護をしてやれ!」
「わかりました!」
≪ガチャンッ……≫
『面白いですね、お相手しましょうか。』
アニスは道場夫婦の仇討ち(後に生き返るが)をする気のようで、
クシエルと対峙し、ランスの指示でマリスも援護に回る。
魔法を巧く使いこなせないアニスの力を活かせるのは、
メンバーの中でマリスしかおらず、ペアとなれば彼女以外の選択肢は無いだろう。
この時点でマリスはライフルを地面に捨てて、クチナワの剣を抜いた。
すると自然にランスと、彼の傍に居るリアと香姫が、
メタトロンと対峙する形となり、ランスはカミーラに指示を出す。
「カミーラは死神野郎をやれッ、親玉は俺様が殺る!!」
『良いだろう。』
『ほぅ、ワシとやると言うのか?』
『くくっ……カミーラ、久しぶりにお前の力を見せて貰おうか?』
結果自然とジルがカミーラの援護に回る事となる。
二体ともお互い古い関係があるが、こうして組んで戦うのは初めてだろう。
……よって、アニス&マリス VS 大天使クシエル。
次に、龍神カミーラ&魔王ジル VS 大天使サリエル。
最後にランス&リア&天魔 香姫 VS 大天使メタトロンという形となった。
この時点での、ランス達はモチベーション十分である。
「皆、手加減するなよ!? これで最後だからな!!」
「ダーリン、無茶しないでねッ?」
『どのみち本気でやらねば勝てそうもありませんが……』
『大した度胸だな……ゆくぞぉッ!!』
≪――――バササァッ!!≫
……この戦いに勝利しなければ、あちらには戻れない。
それは当たり前の事ではあるが、負けるとも誰も思ってはいない。
さておき、まずは小手調べとメタトロンが翼を羽ばたかせ突進してくると同時に、
こちら(東京)で最後の戦いが開始されようとしていた!!