第13話:大天使
「(来やがった、速ぇッ!)」
『これはどうだっ!?』
≪ガキイイィィン……ッ!!≫
「ぐぉッ!」
『……ほぅ。』
≪ぐっ、ぐぐぐぐっ……≫
素早く突進してくるメタトロンの(機械染みた)拳を、ランスは雷神剣で迎え撃つ。
すると激しい音と共に互いの攻撃が交差し、そのまま力比べを開始した。
かなりパワーを持つランスの雷神剣での太刀に対し、
素手でやり合うなど非常識にも程があるが、メタトロンにはそれだけの力があるのだ。
しかし、ランスも迎え撃っただけの太刀だったので、
拳を受け止める両手に力を込めると、反撃に出るべく拳を弾く!
「うおりゃぁっ!!」
≪ガッ……!!≫
『うぉっ!?』
「香ッ、やれッ!!」
『はい! アギダインッ!!』
≪ボヒュウゥ~ッ!!≫
『おっと!』
≪ずがああぁぁんっ!!≫
いきなりの力で少し上に押し戻されたメタトロン。
その直後、香姫の"アギダイン"がランスの頭上を通過し、
メタトロンを襲うが、既に態勢は戻っており、難無く回避されてしまう。
そのまま流れ弾となった香姫の魔法は、遠方で地面に落ちて地面に弾けた。
よって次に、リアがメタトロンに黄金銃の銃口を合わせていたのだが――――
「死んじゃえ!!」
≪ガァンッ! ガァンッ! ガァンッ!!≫
『(避けられんな)……喝ッ!!』
≪――――キィンッ! キィィンッ!!≫
「あ、あれぇっ?」
「卑怯臭ぇッ、バリアーか……よォッ!!」
『おぉッ!?』
≪……ぶぅぅんっ!!≫
「(くそっ、避けやがった!)」
『やはり、簡単には……』
『(これは驚いた、思った以上にやるようだ。)』
発射された何発もの閃光弾が、メタトロンの目が光ったと思うと、
目の前の"見えない壁"に弾かれてしまい、ダメージを与える事ができなかった。
しかも、その硬直を狙ったつもりで斬りかかったランスの攻撃も避けられる。
それにより、やはりメタトロンは今までの悪魔とは相場が違う事を実感する三人。
だが……メタトロン本人もランス達の力にはかなり驚いていた。
攻撃は凌いだが、こうも連携が出来ているとは思ってはおらず、
軽い気持ちで捻(ひね)って来た相手とは段違いのデビルサマナーだ。
"こんな連中がいたのか"……と、メタトロンは気を改めて戦う事にした。
……
…………
「はぁあッ!!」
≪キィンッ、キィンッ、キィンッ!!≫
『ははは、どうしました? 貴女の力はそんなものですかッ?』
「うぃ~、うぃ~ッ……(マリスさんが戦っているうちに~……)」
一方、マリスの剣撃を軽く捌いている"クシエル"も油断している。
いくらランス達を偵察で"手馴れ"と感じたとは言えど、
たかが"人間"であり、サマナーの部下(と彼は思った)風情が強いとは思っていない。
今現在では、クチナワの剣で素早く攻撃をしてくるマリスの太刀を、
魔力によって実体化させた右手のエネルギーソードで受け流している最中だ。
そんな中、クシエルはアニスが自分に向けての魔法を詠唱しているの確認した。
「(やっぱり、剣じゃ無理ね……)」
『貴方の攻撃はなかなか"速い"ですが、いささか力が足りません……』
≪……ガシッ!!≫
「え……ッ!?」
『このようにねっ!!』
≪ドカァ……ッ!!≫
「うくっ!!」
エネルギーソードの魔力を掌(てのひら)に全て集めると、
クシエルはマリスのクチナワの剣を、なんと右手で掴んでしまう!
それにより、マリスの動きが止まってしまうが、
慌てる事無く彼女は剣を引っ張ろうと力を入れようとした。
しかし、それよりも早くクシエルは"蹴り"をマリスの腹部に叩き込み、
クチナワの剣を手放させただけでなく、後方に一直線に吹き飛ばした!
しかもそれだけでなく、軌道にしっかりとアニスがおり――――
『ふふふッ、それに――――』
「えっ? わわっ!」
「……っ!?」
≪どどぉっ!!≫
『"撃たせ(詠唱させ)る"ワケにはいきませんしね。』
「アニスさん……平気ですかッ?」
「だ、大丈夫ですけどぉ、今ので詠唱が~……」
『さて、私は楽しむ気は無いので、終らせて貰いますよ……?』
アニスは吹っ飛んで来たマリスに激突され、詠唱が中断される。
結構な速度で飛ばされたので、普通ならかなり痛いのだろうが、
打たれ強くもあるアニスは、詠唱が止まっただけでダメージは少ないようだ。
一方、マリスはアニスがクッションになったので大して痛くは無かったが、
その前にクシエルに食らった蹴りのダメージの方が問題だ。
だが……もしもマリスが装備無しでクシエルの蹴りを食らっていれば、
内臓が破裂していただろうが、彼女は寄って来るクシエルに対して、
直ぐ様"予定していた"行動に出る為に立ち上がれていた。
≪すくっ≫
「(流石は最高級の鎧ね、大して堪えては無いわ。)」
「ま、マリスさんっ?」
「私は大丈夫ですから、"衝撃"の魔法をお願いします。」
「!? 了解ですッ。」
『さ~て、行きますよッ!?』
≪バササッ!!≫
「(来た) はああぁぁッ、シバブーーッ!!」
≪ギュイイィィン……ッ!!≫
『うぁッ!? こッ、これは……!?』
クシエルに向かって緊縛魔法"シバブー"を放つマリス。
彼程の悪魔が相手であれば、そうそう当たるモノではないが、
マリスの"知力"と、クシエルの"油断"で完全に魔法は命中していた。
これまでの行動も、"実力の差"を錯覚させてクシエルを油断させる為だったのだ。
実はクシエル蹴りも避けれない事は無かったが、
あえて"シュツルムアーマー"の強度に頼り、ワザと攻撃を受けたのである。
よって暫く動けないクシエルに対して、冷たく言い放つマリス。
「緊縛魔法です、わかりませんか?」
『くっ……わ、私がこのような手にッ……!!』
「マリスさん、いきますよぉ~っ?」
「どうぞ。」
≪キュイイィィ~~ンッ!!≫
『なっ!? こ、この魔力はッ……』
「マハザンッ……ダイイィィンッ!!」
≪ズドオオォォンッ!!≫
「(この角度ね)――――マカラカーンッ!!」
≪ズドッ…(反射)…ズドオオォォンッ!!≫
アニスが詠唱した、"最強衝撃全体攻撃魔法"が放たれる。
相手は一体しかいないのだが、一応これには意味があった。
マリスが唱えた"マカラカーン"で絶妙な角度で、
"お決まりに自分に飛んでくる魔法"を反射する事により、クシエルに飛ばし、
更なる"マハザンダイン"のダメージの上昇を計ったのだ。
知力に優れるマリスにとって、咄嗟の角度の計算など些細な事。
よって、二発分の大砲のようにクシエルに向かって飛んでくる衝撃魔法。
それを緊縛状態のクシエルに、避ける術(すべ)は無い。
『ぐッ、ぐああああぁぁぁぁ……ッ!!』
≪ガオオオオォォォォンッ!!!!≫
「(良かった、旨くいったわ。)」
『くッ……まさか……こ、これ程とは……恐れ入りましたね……』
「はぁっ、はぁっ……」
『人間も……なかなか……』
≪シュウウウゥゥゥ~~ッ……≫
"マハザンダイン"によって切り刻まれたクシエルは、
この時点でやっと、相手を甘く見すぎていたと言う事が判った。
特に決定打のアニスの魔法……完全体である自分に匹敵する程の魔力。
それを食らったクシエルは、もはや原型は留めておらず、力尽きようとしていた。
最初から手加減無しでやっていれば、少しは状況が変わったかもしれないが、後の祭。
かといって死ぬワケでは無く、天の"本体"に戻るだけなので、
冷静に状況を受け入れ、自分の敗北を認めたような様子で消えていった。
マリスはクシエルの消滅を確認すると、クチナワの剣を拾って一声漏らす。
「ひとまずこれで、一体ですね。」
「師範ッ、敵は討ちましたよ~!」
「何度も言うようですが、生き返られますから……」
……
…………
≪ガシィッ、ガシィィンッ!!≫
『ほぉ! 使い魔風情にしては、なかなかやるようだなッ。』
『…………』
『それなら、これではどうだ!?』
『……!!』
≪ガシッ、ガシガシッ、ガシッ!! ガシイイィィンッ!!≫
そして、カミーラ&ジルと交戦していたサリエル。
今はカミーラとサリエルが互いに攻撃を捌き合いながら様子を見ている。
カミーラは自身の翼で、サリエルは持ち前の鎌で。
常人であれば、速すぎて何をどう捌いているのかさえ見えないだろう。
……と、次第に捌き合いが激しくなってきており、
互いの大きな一撃を受け止めあったところで、ジルが間に入る。
『……どけっ!!』
『…………』
≪ばばっ!!≫
『ぬぅっ!?』
『はぁあっ! リムドーラッ!!』
≪ヒュゴォォ……ッ!!≫
空中での小競り合いをしていたので、垂直に跳躍したジルは、
サリエルに向かって一直線に"リムドーラ"を放った。
同時にカミーラは相手から離れ、そこで初めてサリエルはジルの魔法に気付く。
……"リムドーラ"とは、全ての呪文で最も大きな威力を持つ魔法。
アニスの場合は、彼女自身の魔力が桁違いなので、
そこまでの威力は無さそうだが、ジルの場合はコントロールが完璧なので、
発射された衝撃属性の魔力の塊は、一直線にサリエルを捉えていた。
『ふんッ、なめるなよおぉ!?』
≪――――ゴキィィィンッ!!≫
『ちぃッ!!』
≪(サッ)……ドコォォンッ!!≫
『(う~む、想像以上だな……)』
それをクシエルは鎌で打ち返し、ジルはそれを難無く避ける。
あっけないものだが、実はこの"リムドーラ"は大して魔力を使ってはおらず、
サリエルの注意を少しだけでも払うのが目的だったのだ。
その硬直を狙い、サリエルから一旦離れたカミーラは、再び攻撃に入る!!
『……何処を見ているッ。』
『!?』
『デスバウンド……ッ!!』
『面白い、それが貴様の必殺技かッ!?』
≪バキイイイイィィィィーーンッ!!!!≫
『……(止められたかッ。)』
『(なんと、このような技まで持っているとはな……)』
必殺技の"デスバウンド"とサリエルの力が交差する。
相手が一体なので、ハサミのようにサリエルを挟むが如く、
鋭い翼を振り下ろし、サリエルは両翼を鎌の二箇所で受け止めた。
必殺技を持たないのに、カミーラのデスバウンドを受け止めるのは、
流石に大天使と言ったところだが、彼は少々焦っていた。
無名サマナーの仲魔如きがここまで戦えるとは思わなかったからだ。
しかし、ややサリエルは力で押しているようなのでここを凌ぎ、
反撃で目の前のカミーラを仕留めれば、後はジルのみと思った矢先だった。
≪ギリッ、ギリギリッ……≫
『……っ……』
『なかなかの腕だったが、楽にしてやろうッ!』
『……そうかな?』
『なにっ!? ぐぁッ……!!』
≪ミシッ、ミシミシッ……≫
『終わりだ。』
『な、何故だ!? 何故ワシが押される……ッ!?』
『おおおぉぉぉッ!!』
≪ズシュウウゥゥ……ッ!!≫
『馬鹿なッ!? ぐッ、グワアアあぁァぁーーッ!!』
『……(やったか……)』
突然カミーラの力に押され始めたと思うと、対抗するも叶わない。
直後、カミーラが気合を入れると、鎌ごと真っ二つに両断されるサリエル。
力を隠しているようには見えなかったので、何故自分がやられたのかが判らない。
だがしっかりと"理由"と言うものがあり、後方でジルがこう呟(つぶや)いた。
『"ランダマイザ"か……良い術だな。』
『!? そ、そうか……まさか"ランダマイザ"……とは……』
『……甘く見過ぎだ。』
≪シュウウウゥゥ~~……≫
『く、口惜しや……(お許しくだされ……め、メタトロン様ッ……)』
サリエルの気付かぬ間に、ジルが"ランダマイザ"を唱えていたのだ。
"ランダマイザ"とは、敵の"攻撃・命中・防御"の全てを下げる、
非常に使い勝手の良い、上級特技だと言える。
サリエルはランダマイザより能力値を下げられ、カミーラに力負けしたのだ。
使える者は滅多に居ないので、サリエルが予想しなかったのは仕方ない事かもしれない。
よって"こちら"から消滅する彼を見下ろしているジルの側に、カミーラが降りて来る。
≪――――トッ≫
『魔王様。』
『くくくっ……カミーラ、なかなかのものだったぞ?』
『…………』(黙って頭を下げる)
『さて、残るは一体のようだな。』
……
…………
『……はっ!?』
「んんっ? 何だまだ終ってねぇぞ!」
『クシエル、サリエル! やられたと言うのかッ!?』
「えっ? やったんだぁ~。」
『流石ですね……』
「おぉ~、そうか! なら残るはお前ダケって事だな。」
クシエルとサリエルが倒されたのは、ほぼ同時だった。
若干サリエルが遅れて倒されたのは些細な事として、
ランスら三人と交戦を続けていたメタトロンは、彼らが倒された事に気付く。
よって一旦ランス達とメタトロンは動きを止めると、
マリス・アニス・カミーラ・ジルが三人の左右に近付いてきた。
これで7対1となり、普通であればランス達の勝利が確定した事になる。
……だが、メタトロンは逃げようとする様子は無く、それはプライドが許さない。
負ける気はまだ無いが、もし今の自分が"本体"で負ける戦いだったとしても、
メタトロンは最後の一体となっても戦って散る事を選ぶだろう。
そんな彼は7名の相手が見上げる中、浮遊し続けながら静かに言った。
『ふむ……まさかクシエルとサリエルを倒すとは……
どうやら、貴殿らを甘く見過ぎていたようだな。』
「確かに、油断されていたようですね。」
「でも、もう謝っても許しませんよ~!」
『そろそろ、帰らせてもらう。』
『腐っても魔王、甘く見られる筋合いは無い。』
『それは失礼……では、"本気"でゆくとしようかッ!?』
「(何ィ~、まだ本気じゃなかったのかアイツ。)」
もしメタトロンが、二体の大天使とあまり実力が変わらなかったのであれば、
既にランス・リア・香姫によって倒されていただろう。
しかしまだ殺られていないのは、それだけメタトロンが強いからである。
そんな彼の言葉を聞いて、結構必死で戦っていたランスはちょっぴり驚く。
対してメタトロンは浮遊しながら、右手を握り締め、天に突き上げたと思うと――――
『ぬううぅぅんっ!!』
≪ぐぐぐっ……≫
「おっ? なにしてんだありゃ?」
『!? ランス様いけません、あれは……!!』
『神に逆らう愚か者に剣をッ! 受けよ……天・罰!!』
≪ズドオオオオォォォォン……ッ!!≫
「天罰だとぉッ!? ぐわ……ッ!!」
「きゃああぁぁ~~ッ!!」
「あぐ……っ!!」
「あ痛ぁ~ッ!!」
右手をそのまま振り下ろし、ランス達全員に激しい雷を落とした!!
"神の右腕"と呼ばれるメタトロンに相応しいスキル……"天罰"。
これは香姫も使える特技の"天罰"であり、違う属性の者に大ダメージを与える。
ランス達(アニス含む)は全員メタトロンとは違う属性だったようであり、
皆揃って雷を受け、体からはプスプスと煙が出ていた。
決して致命傷にはならず、体力を奪うだけの特技なのだが、
ダメージを受けた事には変わらないので、若干怯んでしまうランス達。
≪シュウウゥゥ~~ッ……≫
『さ、流石に……堪えますね……』
『ぐっ……(天罰……? そうだ、"四天王の館"で……)』
『な、なんなんだ……これはッ……』
「(効いたぜ畜生~ッ) 香ッ! お前もアレやれ、アレ!」
『わ、私が今"天罰"を使うわけにはいきません、
私の"天罰"ではNEUTRALである、ランス様達も巻き込んでしまいますッ。』
「そうですね、私達は……もうCHAOSではッ、ありませんから……」
「ち、ちょっと大丈夫ぅ?(リアも痛いけど……)」
「くぅっ……ちょっと、古傷に沁みました~……」
もしランスの属性がCHAOSのままだったら、香姫も天罰が使えたかもしれない。
(リア・マリス・アニスは強制的にランスの属性と同じになる)
しかし今ではメタトロンだけでなく、NEUTRAL属性の、
ランス・リア・マリス・アニスも巻き込むので、うかつに使用できなかった。
よって正攻法で倒すしかないのだが、ダメージですぐさま反撃に移れないランス達に対し、
メタトロンは一気に決めようと"神々しい翼"をバサりと動かす。
『悪魔共々、これで止めだッ! 羽ばたき!!』
≪バサッバサッバサッ、バササッ……≫
『アははははッ! 私を殺るだとッ!?』
≪がばぁっ!!≫
『何ッ!?』
『死ね! アカシャアーツッ!!』
≪ギュィン……ッ!!≫
『ちっ……』
今まさにランス達を海のモズクとするべく、
メタトロンの高威力の"羽ばたき"が放たれようとした時。
見た目に反して打たれ強い仲魔である"ジル"がメタトロンに向かって飛び掛かる。
そして放った特技である"アカシャアーツ"……素早く相手を殴りつける技であり、
一気に距離を詰める事でメタトロンの行動を止めに入ったのだ。
見かけは普段着姿の女性なので、まるでサイキッカーのような戦い方だ。
対してメタトロンは目を光らせ、リアの銃弾を弾いたようにシールドを張る。
≪ガキイイィィンッ!!≫
『まだまだぁッ!!』
『う、うぉッ!?(なんだ、この悪魔はッ!)』
『ジルさん!?』
"アカシャアーツ"は防がれるが、ジルの攻撃は止まらず、
魔力に集めた拳をメタトロンに次々と打ち込む。
(ジルの場合、パワーでなく魔力による打撃での白兵をしている)
それによりメタトロンは防戦になってしまい、その様を遠目で見ていたランス。
彼も男性であり体力が高い事から、ダメージがそんなには堪えてなかった一人だ。
「おぉ~、良いぜ! そのままのしちまえッ!」
『ランス。』
「ん? カミーラか。」
『……終らせろ、お前の一撃で。』
「!? ……そうだな、やっぱ閉めるのは俺様だろ!!」
『ケイブリスを倒すのは、私だがな。』
「わかったわかった、それより"いつもの"をしやがれッ。」
『判っている……タル・カジャッ。』
何だか他人行儀のランスの横に、やや後方に居たカミーラが飛んで来た。
彼女もダメージがあまり体に堪えておらず、たった今の状況からすると、
ランス・ジル・カミーラにメタトロンを倒せる事が出来ると言える。
しかし、この中でメタトロンに止めを刺せる程の役者はランスしかいない。
よってカミーラの言葉で気を改めたランスは、雷神剣を両手に構えると補助魔法を貰い、
小競り合いをしているメタトロンとジルの戦いに走って行った!!
≪バシッ! ガシッ、バシィンッ!!≫
『くっ! (やはり楽には倒せんか……)』
『私とここまでやれる仲魔だとは驚いた! しかしッ。』
≪――――ドォンッ!!≫
『ぐぅっ!?』
≪ズザザザザ……ッ!!≫
『その程度で私は倒せぬ!!』
手数に優れるカミーラ程まで、ジルは白兵特化な能力ではない。
オールラウンドの、万能型の"魔王"であると言える。
よって本気になったメタトロンに正拳を打ち込まれると、
ジルは腕をクロスして防御したままの格好で10メートル以上吹き飛んだ。
だが、その直後メタトロンの視界に、自分に向かって突っ込んでくるランスが入る!
ジルが時間稼ぎのような戦いをしていたのも、これが狙いでもあったのだ。
≪だだだだっ!!≫
「くたばりやがれッ! 天使野郎が!!」
≪ダンッ!!≫
『……ッ!?(こ、この気迫は一体……)』
「いくぜぇ、タケミカヅチ~ッ!!
ランスアッ…(じゃなかった)…メガストライイィィクッ!!」
≪キュドォ……ッ!!≫
浮遊している最中のメタトロンより高くジャンプしたランスは、
上段に"雷神剣"を構え、大きく太刀を振り下ろす!!
同時に言った名前を間違って言いそうになっていたが、
"メガストライク"といって、"ランスアタック"と見た目はあまり変わらないが、
"こちら"では命中すると、特大なダメージを与える必殺技である。
その必殺技効果により、"雷神剣"は倒れる大木のようにメタトロンを襲った!!
『ぐっ!? ぐおおおおぉぉぉぉ~~ッ!!!!』
≪ドゴオオオオォォォォン……ッ!!!!≫
「凄ぉい……」
「な、なんて威力……」
「流石ランスさんですね~ッ。」
「がはははッ、決まったぜ。」
≪ぱら、ぱらっ……≫
"メガストライク"はメタトロンを直撃し、したたか地面に打ち付けられる。
あまりにも激しい激突だった為か、アニスの"大魔法"でも焦げたりする程度だった、
カテドラルの地面に浅いクレーターのような穴が空いてしまうほどだった。
そんな穴の中心に、仮の肉体の大破させられたメタトロンが、
バチバチとショート音と響かせながら、体をめり込ませていた。
流石の大天使と言えど、多勢に無勢であり、今回限りは相手が悪かった。
『ぐぅぅッ……こ、こんな筈ではっ……』
≪ジッ、ジジッ……ジッ……≫
『(私の"タルカジャ"があったとは言え……)』
『ふん、良いザマだ。』
≪ジジッ、ジッ……ジジジッ……≫
『み、見事だ……まさか、我々が……引き返す、羽目になるとは……』
「引き返すだァ?」
「(どう言う事なのかしら?)」
『無念……ほ、法の神とッ……千年王国に……栄光、あれッ……』
≪ボシュウウゥゥ~~ッ……≫
致命傷であったメタトロンは、意味深な言葉を残すと、消えていった。
これでクシエル・サリエル・メタトロンと、揃って天界に戻らされる事となった。
ランス達は、"こちら"での最後の戦いに勝利する事に至ったのだ。
≪ヒュウウウゥゥゥ~~ッ……≫
「ダーリン、終ったねぇ~。」
「ああ。」
「ですが、"あちら"に戻ってからは、また戦いがありますね。」
「ケッ、望むところだぜ……だが、最後の一言が気になったな~。」
「そうですね……クシエルと言う天使の去り際の様子で考えましたが、
あの天使達は"幻影"のようなものだったかもしれません。」
『だ、だとすれば……本当の力は一体どれ程なのでしょう?』
『だが、もう気配は消えている……』
『ふっ……例えまたやってきても、叩き潰せば良いだけの事だ。』
「そうですそうです! またやっちゃいましょう!」
≪ピピッ、ピピッ……≫
メタトロンを見下ろすランスにリアとマリスが近付いてくる。
"天罰"のダメージはあったものの、皆動けなくなる程ではなかったようだ。
同時に仲魔たちとアニスも会話に入り、
短いようで長かった、東京での戦いの終わりを感じていた。
すると……そんな中、何処かで聴いた事のあるような音が辺りに響いた。
「あれッ? なんなのこの音ぉ?」
「恐らく、"あれ"でしょうね。」
「……うむ、相変わらずタイミングの良いオッサンだぜ。」
『では、戻れるのですねッ!?』
「良し! とりあえず中に戻るぞ、ターミナル経由だ!」
「でもダーリィン、あちこち痛いよぉ?」
「だったら回復魔法でも使っておけッ……そうだ、
回復アイテムも、もう使わんだろうし、今のうちに使い切っちまえ!」
「くすっ、そうですね。」
『(良かったです、本当に……)』
それは"スティーブン"からのメッセージであり、ランスは内容を確認した。
何を伝えられたのかはスカウターを見ている彼にしか判らないが、
スティーブンの新しい隠れ家が記されでもしていたのだろう。
よって歩き出すランスに他のメンバーは続き、特に香姫は喜びを露にしていた。
……こうして、一行が戻ってゆくと、その場にはクレーターだけが残された。
激しい戦いで舞い上がった煙や埃などは、全て風で吹き流され、
まるで何事も無かったように観客の居ない強風の演奏が再開されるのだった。