Part2
カミーラが魔王城で目覚めた2時間後。
時刻は23時……リーザス軍の駐屯地では、夜戦が行われていた。
相手は1000体規模のケイブリス軍であり、
ランスとマリスが欠けた事で、何時まで経っても動かないリーザス軍を奇襲。
よってリーザス軍は混乱しており、迫り来る巨大な"魔人"を遠目に、
"日光"を片手に"小川 健太郎"は唇を噛み締める。
≪ズゥンッ、ズゥンッ、ズゥンッ!!≫
「ぐぅがァははははははッ!!」
「くそっ……こんな時に奇襲なんて!!」
『健太郎殿ッ、此処は何としてでも……』
「わかっています!」
「おらァ! 人間の王は何処に居やがるんだぁーッ!?」
リーザス軍が攻めて来ない5日間で、削られた体力の大半を取り戻したケイブリス。
彼は幾つものテントと兵士を掻き分けながら、指揮官用テントを探している。
だが、ランス・リア・マリスはいまだに目を覚ましておらず、
無抵抗の三人にケイブリスを近づける前に追い払わなくてならない。
よって健太郎が物陰から出ようと、聖刀日光を握る腕に力を込めた時だった!!
「いくわよぉ、ハウゼル!! 仲良しビ~ム!!」
≪ビシュウゥ……ッ!!≫
「はあぁッ!! ファイアー・レーザー!!」
≪バシュウゥーーッ!!≫
「うおぉッ!?」
≪ずがガああぁぁんっ!!≫
何処からか発射された二発の攻撃魔法が、ケイブリスを襲う。
放ったのはラ・サイゼルとハウゼルであり、
ケイブリスは片腕で完全な防御態勢に入って魔法をガードした。
並みのモンスターであれば一瞬で絶命する魔法なのだが、
ケイブリスには全く効いていないようで、彼は空中のラ・姉妹を睨み上げる。
「相変わらず、タフな奴ねぇ。」
「こうなったらもっと強力な魔法を……」
「痛ッてぇな~、鬱陶しいカトンボがァー!!」
≪ビシュシュシュシュッ!!≫
「きゃあ!」
「危ない!」
≪バササァッ≫
大して痛くは無いが鬱陶しく感じたケイブリスは、数多くの触手のうち、
数本をサイゼル・ハウゼルに放ち、二人は左右に分かれて回避する。
ケイブリスにとってリーザスの兵など敵のうちに入らないのだが、
魔人だけは別格であり、向かってきたのであれば倒す必要があるのだ。
それにより、一旦彼の注意はラ・姉妹に向いたので――――
≪ばっ!!≫
「はあああぁぁぁ……ッ!!」
≪ざしゅぅっ!!≫
「ぐぉあッ!? この野郎っ、何しやがる!!」
「えっ……うわっ!?」
≪ブォ……ッ!! フォンッ!!≫
物陰から飛び出してきた健太郎が、一本の触手を切り落とす。
しかしダメージは少なかったようで、健太郎は寸前で巨大な片腕の、
薙ぎ払いによる攻撃を紙一重で回避した!
不意打ちに焦った所を一気に決めようと思ったのだが、
思った以上にケイブリスの体力が回復してしまっていたようで、
大して怯ませる事が出来ず、直ぐ彼は反撃をしてきたのだ。
よって慌てて態勢を整える健太郎の頭の中に、日光の言葉が響いてくる。
『接近戦では不利のようですね……彼女達に期待しましょう。』
「と言うことは――――(時間稼ぎか)」
「何ブツブツ言ってやがんだァァ~ッ!?」
≪ズシンッ、ズシイイィィンッ≫
ランスとのタッグでもなく、兵もおらず、健太郎だけでケイブリスとの接近戦は不可能。
兵士は現在魔物兵達と小競り合いをしているのだが、今回は条件が悪すぎる。
敵領に攻める時の場合は、例え相手が魔人であっても、
しっかりと一般兵との連携で健太郎が確実にダメージを与える。
また、防衛であれば、攻めて来た規模を確認し、相応の対策をして迎え撃つ。
だが今回は、タダでさえ軍を仕切っていたランスとマリスが目を覚まさず、
完全な"奇襲"であるので、いくら頭の悪いケイブリスであれど、
指揮官が行動不能と言う前代未聞の状況から、動くに動けないリーザス軍の不意を突くのは、
難しくは無かった(魔物将軍やバトルノートのアドバイスもあるが)。
≪ブゥンッ! ぶぅんっ! フォォンッ!!≫
「くっ! うわっ、と……ッ!」
「こんの野郎~、チョコマカしやがってぇ!!」
「くそっ……(まずいな、これ以上は避けられないかも……)」
「よ~し、ソレだけ避けてりゃ十分よ!!」
「ケイブリス! こっちよ!!」
≪ブイイイイィィィィ~~ンッ……≫
人間離れした素早い動きで、ケイブリスの力任せの攻撃を回避する健太郎。
彼とケイブリスでの対格差は人間と猫以上の差があるのだが、
これも健太郎の今までの経験により成せる事なのだ。
かといって避け続けている中、どんどん周囲のテントやリーザス兵、
そしてモンスター兵が犠牲になってしまっており、
何時までも回避する事はできず、ランスアタックでも使おうかと考えた健太郎。
……だが、時間稼ぎは十分だったようで、ラ・姉妹のライフルの銃口からは、
青と赤の光が凝縮されており、ケイブリスを捕らえていた。
「あぁあんッ!? そうだそうだ、すっかり忘れてたぜ。」
「馬鹿にすんじゃ無いわよ! クール・ゴー・デスッ!!」
≪ドシュウウゥゥ……ッ!!≫
「タワー・オブ・ファイアッ!!」
≪キュボオオォォーーッ!!≫
「うぜぇぇーーっ!!」
≪ドゴオオオオォォォォンッ!!!!≫
……
…………
同時刻、戦場から少しだけ離れた位置の指揮官用大型テント。
幸いまだ戦火には巻き込まれてはないが、中に居る者の耳には、
激しい戦いを連想させる音が遠くから聞こえてくる。
そんな"中に居る者"とは、サテラ・ワーグ……そして目を覚まさない三名。
「全く、こいつら……何時になったら目を覚ますんだよッ。」
「おにいちゃん……」
「くそッ、こうなったら、サテラも"あいつら"の加勢をしに行かないと――――」
「ま、まってよぉ、サテラ! ワーグ(+ラッシー)をひとりにしないでっ!」
「!? 何を言ってるんだ、お前も魔人だろうッ?
魔物くらい夢でも見せて追い払えっ、ケイブリスはサテラ達が止める!」
「だめ、だめなのっ! ワーグ、おにいちゃんたちが おきるまで、
もう"ゆめ"はだれにも みせたくないの~!」
未だにランス・リア・マリスが目を覚まさない事は、
サテラ・ワーグ・健太郎・日光・ラ姉妹で秘密にしていた。
よって"テントの中"でランスを守るのはサテラとワーグだけであり、
健太郎とラ・姉妹は、互いの部下達(450名+50名)と、
ランスの部下であるリーザス正規兵(450名)、計950名を魔物兵とぶつけていた。
(シーザー含むサテラのガーディアン50体はテントの外で警戒中)
だがケイブリス軍を迎え撃つのには不安が有り余るので、
ようやくテントを出て行こうとしたサテラだが、慌ててワーグが彼女を止める。
コッソリ入ってきた魔物程度であれば、ワーグの"夢操作"で簡単に追い払えるのだが、
今のワーグは"自分の所為でランス達がこうなった"という思い込みから、
持ち前の"夢操作"に対する自身が無くなってしまったのだ。
ここ四日間のワーグの落ち込み具合から、その気持ちが判らなくもないサテラは、
呼び止められた立位のままランスを見下ろしながら、拳を握る。
「くそっ……でも、このままじゃ皆が……」
「うぅ~っ、ごめんねっ、ワーグがしっぱい しなかったら……」
「わふわふぅ~。」
「こらッ、何を言ってるんだ! まだ勝負は――――」
ベットの上で俯き、ラッシーを抱く両手に力を込めるワーグ。
対して、サテラはワーグに近付き、彼女をどうにか安心させようとする。
サテラは、ワーグに何とか立ち直って貰い、"夢操作"を使わせ、
自分も戦いに行くことにより、この状況を切り抜けようと思ったのだが――――
「……んっ? お……おぉ~ッ!?」
≪むくっ≫
「えっ!?」
「おっ、おにいちゃ……」
「がははははは!! 戻って来たぜぇ! 俺様ふっかあァ~~つ!!」
「ら、ランスッ……?」
何の前触れも無く、ランスは目を開け、むくりと上半身を起こすと、
そのままベットの上に立ち上がってキメポーズをとった。
あまりにも突然で、唖然としてランスを見上げるサテラとワーグ。
その驚きが"喜び"に変わるのにそんなに時間は掛からず、
サテラは思わずランスに飛びつきそうになったが、ワーグが居るので若干躊躇ってしまう。
しかし(見た目が)子供であるワーグは、すぐさま素直な行動に出た。
「おにいちゃああぁぁ~~んっ!!」
≪がばっ!!≫
「うぉっ!? ……ワーグか。」
「グスッ……よかったよぉ! ワーグ、このまま ねちゃってたら、
どうしようかと おもってたんだよぉッ……うぇ、うぅぅ~っ……」
「そ、そうだぞ、ランス! いったい今までどうしてたんだ?
やっぱりワーグが見せた"夢"が原因だったって言うのかッ?」
「いや、全然そんなんじゃねぇぞ。 ワーグ、お前の所為じゃねぇから泣くな。」
「えぇっ? そ、そうなのぉ? ……けど……」
「なら、何が原因だったって言うんだ!?」
「ただ単に、ちょっとばかし長く寝ちまってただけだ! 四の五の言うなッ。」
「ふぁぁ……うぅ~ん……良く寝たあぁ~っ……」
「はい、長い間、"寝て"しまいましたね。(戻ってこれたのね)」
「うわっ!? リアとマリスも起きた!!
しかし何だッ、お前らも似たようなことを言って~。
(なんだかサテラが除け者にされてるみたいじゃないか……)」
泣いているワーグを宥めていると、リアとマリスもあっさりと目を覚ます。
同時に、ただ単に"長く寝てた"と言うだけで誤魔化す三人。
"東京"での三週間は内緒であるし、説明するのが面倒な上、どうせ信じ難いからだ。
かといってサテラは納得がいかない様子だが、ランスは話を変える。
「しっかし、何だか騒がしいな、どうしたってんだ?」
「あッ、そうだった! 大変だぞ、ケイブリスの奴が攻めてきたんだ!!」
「と言うことは、この音は戦闘が行われている故での……」
「遠くの方で、戦ってるみたいだねぇ~。」
「今は健太郎とサイゼルとハウゼルがケイブリスを迎え撃ってる!
でも、モンスターの数が多くて、健太郎達はとにかく、
このままじゃ兵隊は全滅するかもしれないぞッ!?」
「へッ、あっちからきやがったか! そりゃ上等じゃねぇか……おぉっ?」
≪ひょいっ≫
話題を逸らす事は楽に成功し、慌てた様子でケイブリス軍のことを言うサテラ。
その話を聞いたランスは全く動じはせず、むしろ"手間が省けた"と考えていた。
よって"自分も行くか"とようやくベットから降りたとき、ランスは一振りの剣を拾った。
"東京"で重宝した、唯一の"こちら"に持ってくることが許された武器だ。
刃(やいば)は鞘に納まっているので一見只の"刀"にしか見えないが、
聖刀日光にも劣らない、強力な"合体剣"の"雷神剣"なのである。
「ッ? 何だ、その剣は?」
「サテラ、俺様に丸腰で外に出ろとでも言うつもりか?」
「そう言う訳じゃないけど……」
「では、ランスさん。」
「その前にだが……マリス、体の方はど~なんだ?」
「このように幸い、スキルは継承しているようですね。」
≪――――ボォウッ!!≫
「ほぉ。」
こちらでは火炎魔法が使えなかったマリスだが、指を弾いて炎を出現させる。
それを見ると、ランスはニヤリと口元を歪ませてから、リアに視線を移す。
するとリアは、何やらランスの注意が向くのを期待していたようで、言葉を待っていた。
しかし彼女の場合、スキルが継承されているだけでは駄目なので、ランスは叫んだ。
「ウィリス! 出て来い、ウィリ~ス!!」
「(これで、リア様の運命が……)」
……
…………
『それではランスさん、ごきげんよう~。』
≪ぽんっ≫
「まぁいいか……リア、お前も来い。」
「はぁ~いッ!」
「ち、ちょっと待て! こんな奴を連れて行っても足手纏いになるだけじゃないのか!?」
「何言ってんだ、今は才能限界だとしても聞いた通り"64"だぞ?
リスは無理だろうが、モンスターの相手くらいは出来るだろ。」
「私は66/67のようですね……」
オカシな音をたててウィリスが消えると、リアの同行を許可するランス。
なんと、リアの才能限界は"東京"でのレベルが上書きされ、20から64になったのだ。
(技能を挙げるのであれば、魔法Lv1&神魔法Lv2あたりだろうか)
マリスは才能限界値が元々高い(67)のでレベルそのものが高くなっただけだが、
しっかりとスキルが継承されているので、"ムド"と"マカラカーン"があるだけで、
"こちら"では相当なパワーアップを遂げたと言っても良いだろう。
(彼女の技能は、神魔法Lv2&剣戦闘Lv1に追加して、魔法Lv2あたりだろうか)
そして、ランスはどうなったかと言うと……それは後のお楽しみである。
リーザス王の鎧をいつの間にか装備していたランスは、
気休めであるが軽装の戦闘服を着用したリアとマリス・そして、
いまいちランスたちの交わす"才能限界"の意味がわからないサテラに向かって言う。
「まぁ、さっさと行くぜ! あいつらだけじゃ足止め程度しかできんだろうしな!」
「そうですね、この音からすると、そう遠く無さそうです。」
「ダーリン、急ごッ。」
「こらッ、待てランス! まだ話は――――」
「うるさい、そんなん後にしやがれッ!」
「わ、ワーグもいくぅ~っ。」
「(美樹ちゃんは勿論として、シィルの奴も助けてやるか……ついでにな。)」
もう"東京"での戦いは終わり、もう"あちら"に戻ることは無いだろう。
多少未練はあるが、気持ちを切り替えることのほうが先決だ。
よってランスは"いつもの"自分を装い、早足にテントから外へと出て行った。
……リーザス王として、残り僅かの戦いを終結させる為に。