Part3
「ぐははははは!! さっきまでの威勢はどうしたァァ!?」
「全く、相変わらずタフね!」
「まずいわ、姉さん……味方がモンスターに押され始めてる……」
「ッ!? ハウゼルさん、危ないッ!!」
健太郎&ラ・姉妹と、ケイブリスとの戦いは続いていた。
先程はラ・姉妹が一発づつ特大の魔法を放ったのだが、
ケイブリスは多少肉体を焦がした程度のダメージしか受けておらず、
圧倒的なパワーで三人を圧倒してしまっていた。
今は基本的に、ラ・姉妹が空中からライフルで魔法弾を撃ち込み、
健太郎が障害物を生かして"聖刀日光"による攻撃を続けている。
そんな中、ケイブリスの目が慣れて来たようで、
彼の触手が一瞬だけ余所見をしたハウゼルの隙を突いて掴もうとする。
それを察した健太郎が地面から叫んでいたが、既に遅かった。
≪ビシュルルッ!!≫
「きゃっ!」
「は、ハウゼル!?」
「おォらあぁぁ!!」
左足を掴むと、ケイブリスは掴んだ触手を地面に振り落とそうとする。
掴まれた直後僅かにだが対抗したハウゼルだったが、
たった32kgしかない彼女が、ケイブリスのパワーに対抗できるハズが無い。
よって力を込められると、ハウゼルの視界が反転し――――
≪――――バコォンッ!!≫
「うぐ……っ!!」
「うらぁ!! もういっちょー!!」
≪ブゥンッ!! ――――ばきっ!!≫
「……かふッ。」
≪――――ドドォッ!!≫
手短な岩に叩きつけられると、ぶつかった勢いでバウンドする。
その反動を活かし、ケイブリスはハウゼルを大きく放り投げると、
彼女の体は触手からは離れたが大木に激突し、そのままバサりと地面に落ちた。
ダメージ高いようで、動きが見られないハウゼルに、サイゼルは瞳を見開く。
「は、ハウゼル……ハウゼル!!」
「ぐがはぁははは!! 今度はテメェを黙らせてやろうか!?」
「さ、させるかぁーーッ!!」
≪ばばっ!!≫
「チッ!!」
≪ギャリイイィィン……ッ!!≫
「くっ……(やっぱり"必殺技"じゃないと、正面からじゃ……)」
「ヤケクソかぁ~? あらよっと、オレ様アタックッ!」
≪バキィ……ッ!!≫
「ぐぅっ!!」
ハウゼルが心配で無防備になったサイゼルを、ケイブリスが叩き落そうとした矢先。
健太郎が飛び出してケイブリスの注意を向けようと、正面から斬り込む。
しかし、真っ向勝負のぶつかり合いこそケイブリスの十八番。
ケイブリスは彼の太刀を片手で受け止めると、健太郎をもう片方の腕で殴り飛ばす。
やる気の無い声だったが、威力は抜群のようであり、
咄嗟にパンチを"聖刀日光"縦に構える事でで防御した健太郎だが、
そのまま真っ直ぐ、10メートル以上も弾き飛ばされる。
その飛ばされた距離は、後方の大型テントまで届き――――
≪ボォォンッ!!≫
「――――がっ!?」
≪……ばさばさばさぁっ!!≫
健太郎はテントに激突し、テントはその衝撃で崩れてしまった。
幸いテントがクッション代わりになり、ハウゼルのようにダメージは、
そう大きく無いようだったが、テントが崩れた事により、
"中に居た人物"が何事かと、慌てて外に出てくる。
その"人物"は二人で、健太郎が見知った顔だった。
「け、健太郎君! 大丈夫!?」
「あわわっ……ま、魔人がこんな所まで~!」
「み、美樹ちゃん、シィルさん……? し、しまったッ……」
『まずいですね、これは……』
健太郎が吹き飛ばされた所にあったのは、美樹とシィルが寝ていたテントだったのだ!
彼女達はテントで大人しくしているよう指示を受けていたが、
いつの間にかケイブリスとの戦いの場が近付いてしまったようだ。
(二人のテントを護衛していたリーザス正規兵は近場で戦闘中)
最初から気をつけていればこんな事にはならなかったが、
彼らは"ランスのテント"にケイブリスが向かうのを避けて戦っていたので、
彼女二人のテントの事を踏まえて戦う事を忘れてしまっていたのだ。
そんな中、美樹がなんとか立ち上がろうとしている健太郎を気遣ったとき、
前進してきていたケイブリスの顔色が変わった。
「おォ~ッ!? 何処の砂利(じゃり)が出てきたと思ったら、
リトルプリンセスじゃねぇかッ! こんな所に居やがったのか!!」
「えっ? ひっ……!」
「み、美樹ちゃんッ……下がって……」
「ねぇ、ハウゼルってばッ、しっかりしてよぉ!!」
「っ……姉さん、それよりもッ……リトル、プリンセス様が……」
「えぇッ!? そんなァ、何時の間に――――」
「ぐがはははは!! こりゃ良いぜ、これで俺様が"魔王"だあぁッ!!」
≪ズゥン、ズゥン、ズゥンッ!!≫
「い、嫌ああぁぁ~~っ!!」
「(ランス様ッ、助けて……!!)」
もうひとつの目的である存在の、"美樹"を発見したケイブリス。
彼がこうして人間界と戦うようになったのも、彼女の存在からと考えても良い。
よって彼は喧しく大笑いしながら、健太郎・美樹・シィルの方へと更に足を速める。
それに対し、よろけながらも身構える健太郎、体を強張らせるシィルと美樹。
ラ・姉妹は遠方の大木の根元におり、健太郎だけでケイブリスに対抗するのは不可能。
しかし美樹を守らなくてはならず、もはや絶体絶命と思ったその時――――
≪バヒュゥ……ッ!!≫
「うぉあッ!?」
≪ドゴオオォォンッ!!≫
「だ、誰が……?」
「ケイブリス! 好き勝手やり過ぎだぞ!!」
「ケッ、誰かと思ったらサテラかよ……舐めやがって。」
ケイブリスと健太郎たちの間の地面を、横から飛んできた魔法が直撃した。
それを放ったのは"サテラ"であり、数十体のガーディアンを従えながら、
彼女は鋭い眼付で、自分に振り返ったケイブリスを睨んでいた。
サテラはそれほど魔法の潜在能力が高いというワケではないが、
ガーディアンらの力も重なり、地面を破壊した事により大量に散布した瓦礫と煙から、
ケイブリスの動きを止め、注意を向けるには十分だったようだ。
そんな中、サテラはラ・姉妹のほうを見ると、鞭を構えながら大きく叫んだ!!
「サイゼルは動けるんだろ!? もう少しだけ、ヤツを抑えるんだ!!」
「で、でもハウゼルがぁ~。」
「姉さん、私は大丈夫だから……サテラを助けてあげてッ。
あの様子だと、何か策があるのかもしれないから……」
「あ~もう、しょうがないわね! わかったわよッ!」
≪バササッ!!≫
「よ~し! 行けぇぇッ!!」
≪ドドドドドドォ……ッ!!≫
「雑魚共がうざってぇな!! まとめてぶっ潰してやるッ!!」
サテラが鞭を地面に叩き付けると同時に、シーザー除くガーディアン達が、
一斉にケイブリスに向かって勢い良く突進する。
これが再戦の合図となり、サイゼルとサテラ・シーザーを含む乱戦となった。
しかし、相手が一体だけと言えど、ケイブリスは圧倒的な力で、
ガーディアン達を次々と薙ぎ払い、最強の魔人の動きはナカナカ止まらない。
かといって、部下が居るというだけでかなり違い、サイゼルとサテラは効率よく戦えている。
だが、所詮は決定力に大きく欠けるので、軋む体をハウゼルはなんとか動かし、
姉とサテラの援護をしようと立ち上がった時だった。
「わ、私も援護を……しに行かなくっちゃ……」
「あ~、駄目駄目っ! 魔人だからって、無茶しちゃ駄目だよぉ~?」
「えっ……? そんな……あ、あなたは……」
「動かないでね? できるだけ早く治しちゃうからッ。」
「リア様……(ど、どうして?)」
「――――ディアラマ~。」
≪キュイイィィンッ……≫
いつの間にか"眼を覚ましていないハズ"のリアがハウゼルの傍に居たのだ!
しかも衝突に"回復"すると言ってハウゼルの体に手を当てている。
ハウゼルは、リアが"このような事"が出来るとは全く思っていなかったのだが、
リアの手から伝わってくる感触は、紛れも無く"回復効果"のあるものであり、
彼女は大人しくリアの"ディアラマ"を受ける事にした。
聞いた事の無い魔法の名前だったが、次第にハウゼルは痛みが消えてゆくのを感じた。
「健太郎さんッ、大丈夫ですか? 痛いの痛いの、飛んでけー!」
「た、助かります。」
「健太郎君……」
一方健太郎も戦いに参加する為、シィルに回復魔法を掛けて貰っていた。
その様子を、美樹が心配そうに見守っている。
しかし、相手はケイブリスだけではなく、闇から三人を狙う者達が現れる!
≪ガサガサッ≫
『まだ居たぜぇ~! 人間だぁ!!≫
『ヒャヒャヒャヒャ!! 殺せ殺せ~!!≫
「!? い、何時の間にッ!」
『味方が決壊したようですね……』
「こ、こんなに沢山~……」
それはモンスター兵であり、リーザス兵が全て全滅したのでは無いが、
一部の魔物が新たな相手を求めて紛れ込んできたのだろう。
"一部"と言っても10匹近くおり、そう簡単には捌けそうにも無い数だ。
よって健太郎はケイブリスからモンスター兵に注意を変え、
シィルも魔力を両手に集める事によって何とか役に立とうと思ったが――――
「……マハラギオンッ!!」
≪ズゴオオォォン……ッ!!≫
『えっ……うぉッ!?』
『ぐわああぁぁっ!!』
≪だだだだっ!!≫
「おりゃぁぁ! 死ねぇい!!」
≪ざしゅっ! ざしゅぅっ!!≫
『うぎゃああぁぁーー!!』
『き、貴様ァ!!』
「今度はテメぇか!? 達磨返しィィッ!!」
≪ずヴしゅぅ……ッ!!≫
突如放たれ、モンスター兵を焼き尽くす火炎魔法。
また、魔法を逃れたモンスター兵は一人の男が一太刀で斬り捨てる。
その二人は知っての通り"ランスとマリス"であり、
モンスター兵と対峙していた健太郎とシィル(+美樹)は、
驚きのあまり構えた体勢のまま固まってしまっていた。
対して、ランスは最後のモンスター兵を斬り捨てると、雷神剣を肩に言う。
「(大して鈍って無ぇみてぇだな、安心したぜ。)」
「お、王様ぁ~……」
「良かった、眼を覚ましてくれたんだ……」
「らっ、ランス様ぁぁ~~っ!!」
≪たたたっ≫
「あん? 何だ、お前も居たのか。」
「(わかっていたでしょうに……)」
「王様ッ、もう大丈夫なんですね!?」
「おぉ、見ての通りだぜ! それよりもシィル、"カオス"はどうしたッ?」
「あ、はい! 直ぐに取って来ます!!」
ベソを掻きながら近付いてくるシィルの頭をくしゃくしゃとするランス。
まるで"ついで"のような扱いであるが、彼女が居も事は当然知っていた。
さておき、再会に浸っている場合ではないので、
ランスの指示を受けると、シィルはパタパタとテントの中に潜っていった。
この時、シィルは健太郎の"目が覚めたんですね"という言葉が気になったが、
ランスが来てくれたのには変わりないので、深くは考えない事にした。
その間、ランスは健太郎・美樹・マリスを前に偉そうに言う。
「美樹ちゃんはナンともないか?」
「は、はい……大丈夫です。」
「健太郎、お前は動けるのか?」
「なんとかいけます。」
「それならお前は俺様に続けッ! 良し……後はマリス、
お前は美樹ちゃんを守ってやれ、"今のお前"にならやれるだろ。」
「わかりました、やりましょう。」
ランスの登場が嬉しかったか、健太郎は回復魔法も受けた事から、
しっかりと立位を保って戦える事を告げる。
それと同時にシィルがこちらに戻って来たので、
マリスに"雷神剣"を手渡しながら、ランスは美樹の護衛を命じた。
モンスターの攻撃で美樹がダメージを受ける事は無いが、
連れ去られたりでもすれば面倒なので、そのままには出来ないのだ。
「ランス様~、お待たせしましたぁ。」
『ふぅ~、危うく生き埋めになるところだったわい。』
「(不本意だが、"こいつ"じゃねぇと魔人を斬れねぇからな。)」
『おぉッ? お前さん少し見んうちに、雰囲気が変わっておらんか?』
「そうかぁ? 気のせいだろ。」
「あのぉ、ランス様~……私は何をすれば~。」
「お前はマリスと居ろ。 すぐ終わらせるから待ってろよ?」
「は、はいっ!!」
ランスは"雷神剣"を気に入っていたので、
少し口喧しい"カオス"に持ち替えるのに違和感があったが、
彼(?)を無くしてケイブリスを倒せないので、妥協した。
一方、カオスを手渡したシィルだったが、
ランスが何も指示をしてくれないので彼女自信から恐る恐る聞いてみる。
あえて彼女から話を振らせようと、ランスは何も言わなかったのだが、
シィルの言葉を受けた彼から"待ってろ"と告げられ、彼女はその一言で安心した。
戦いが終われば、ランスは自分の元に戻ってきてくれるという、
事実があるだけで、シィルにとっては十分だった。
そんな瞳を輝かせるシィルは無視して、ランスは遠方で乱戦を続けている様に向き直る。
「健太郎、カオス! いくぜぇー!!」
「はいっ!!」
『張り切ってゆくぞい!!』
「サテラぁ! もう良いぞ、邪魔なのを下げろ!!」
「ランス、"邪魔なの"は余計だ! チッ……もういい、下がるんだッ!」
≪ばしいいぃぃんっ!!≫
「ッ!? 人間の王! 出やがったか!!」
ケイブリスとの戦いで、サテラのガーディアンの大半がすでに破壊されていた。
しかし残った十数体は、彼女が鞭を地面に叩き付けると同時にケイブリスの元を離れる。
背を向けて離れているので丸っきり無防備なのだが、
ケイブリスの注意は走って来る"ランス"に変わり、空中のラ・姉妹も気付く。
「あれはランス王ッ? と言う事は――――」
「や~っと"起きた"みたいね、全く迷惑な話だわッ!」
「まあまあ姉さん、そんな事より。」
「わかってるわよ! 援護すりゃイ~んでしょ!?」
≪ばささぁっ!!≫
「おい健太郎、先ずはお前が行け!」
『健太郎殿、今度は"時間稼ぎ"の必要は無いでしょう。』
「そうですね……なら、王様の"あの技"で!!」
≪バシュゥッ!! バシュシュゥッ!!≫
「ファイアレーザー、ファイアレーザーッ!!」
「そ~れッ、それッ!!」
「ちっ……今はお前らと遊んでる程、暇じゃァ無ぇんだよ!!」
≪ボヒュッ、ボヒュゥゥ……っ!!≫
ケイブリスに向かって走り出すランスと健太郎を見たラ・姉妹は、
彼らを援護するためにケイブリスに接近する。
直後、妨害狙いである威力の低いレーザーを何発も発射し、
ケイブリスの注意を空中の自分達に向けさせようとする。
対してそれを邪魔に感じたケイブリスは、片腕を振りかざす事によって、
数発の魔法弾を発射したが、攻撃を読んでいたラ・姉妹は魔法を回避する。
その隙にランスと健太郎は、走るスピードを上げて一気にケイブリスに接近し、
健太郎はランスの指示を受けると、高く跳躍して日光を振り下ろそうとする!!
「何処を見てる、こっちだー!!」
「んっ!? やべっ……」
≪だだだだだッ! ……ばっ!!≫
「せ~のッ、ラーンス・アタックッ!!」
≪ずがああぁぁんっ!!≫
「うごぁあああ……ッ!! この野郎ォ~!!」
≪――――ズボォォンッ!!≫
「うわっ!!」
成り行きで習得してしまった健太郎の"ランスアタック"が直撃し、
彼の両手での一撃はケイブリスの一部の皮膚を吹き飛ばした。
もし完全にケイブリスが防御に回っていたらダメージはもっと少なかっただろうが、
健太郎のスピードを活かした"ランスアタック"はランスの振りの速さを上回るほどあり、
ケイブリスの体勢は整っておらず、ダメージを与える事ができた。
しかし決して大きなダメージではないようで、頭に血が上ったケイブリスは、
健太郎に瞬時に放った魔法を御見舞いして彼を遠ざけた。
そんな時、ランスもケイブリスにカオスを横に構えて駆け出していた。
「がははははは! 終わらせてやるぜぇッ!」
「ッの野郎!! 人間が調子に乗るんじゃねーー!!」
≪――――ダンッ!!≫
「おおおおぉぉぉぉーーッ!!!!」
『(なんじゃ、ランスに"違う力"が……)』
「いくぜぇ~!! ランス・ストライイィィクッ!!」
≪ギュドオオォォ……ッ!!≫
「なっ……ぎ、ぎゃああああぁぁぁぁ~~ッ!!!!」
≪ゴブシュゥゥ……ッ!!!!≫
ケイブリスは"魔王城"で篭城し、何度かランスの軍と戦っていた。
その時では、健太郎とランスの"必殺技"の威力に大きな差は無かったので、
健太郎の攻撃で眼が覚めたケイブリスは、正面からランスとぶつかり、
逆に返り討ちにしようと、構えてランスを迎え撃とうとした。
しかし、健太郎を遥かに上回っていた、ランスのパワー。
"ランスアタック"と"東京"で習得した"メガストライク"が合わさり、
今までの"必殺技"とは桁違いの"ランス・ストライク"がケイブリスに炸裂した!!
ランスが"こちら"戻って得た能力はたったこれだけなのだが、
"鬼畜アタック"さえも凌ぐ威力に、ケイブリスの両腕が激しく吹き飛んだ。
更に余波は彼の肉体を軋ませ、その激痛でケイブリスは地面にどうと倒れる。
『ら、ランス……なんじゃ? その技は。』
「知らねぇよ、自分でもビックリだぜ。(半分は嘘で、半分本当だがな。)」
『むぅ……(一週間ほど見ないうちに、何かが変わったようだが~……)』
≪ぐっ、ぐぐぐっ……≫
「ちッ……ちょっくしょおぉぉ……痛ぇッ、痛ぇよぉ~~……」
「ランスのヤツ、"俺様に任せておけ"とか言ってたけど、本当にやった……」
「あったりまえでしょお? だってダーリンだもんッ。」
一転して絶体絶命はケイブリスとなり、遠くで見ていたサテラは驚きを隠せない。
いつの間にかサテラのほうまで下がっていたリアは"東京"での戦いで、
ランスのパワーアップを予想していたのであまり驚かず、何故か得意気になっていた。
そんな思いがけない事にケイブリスの醜い顔が更に歪むが、
それ以上に"思いがけない事"が、彼に直面してしまう事になる。
夜戦を終わらせる為、ケイブリスに止めを刺す必要のあるランスが、
どうしてかケイブリスを無視して、明後日の方向を眺めていたのだ。
それが気になった健太郎は、ランスのパワーに対する驚きを隠しながら声を掛ける。
「…………」
「お、王様? どうしたんですか?」
「んっ? いや、ど~やら"来た"みてぇらしくてな。 マリス……お前も見えるか?」
「よく見えませんが、"あれ"は間違い無さそうですね。」
「来た? それってどう言う――――」
≪バサッバサッ……≫
「えぇッ!? 姉さん、あれって……」
「か、カミーラ!!」
≪――――バサァッ!!≫
「う、嘘だろ!? カミーラだってッ!?」
「丁度良かったみたいだねぇ~。」
「こらリア! お前、さっきから何なんだッ? サテラに何か隠してるだろッ!?」
「それよりホラぁ、すぐソコまで来てるよぉ?」
「うっ、ホントにカミーラだ……まさかケイブリスに加勢をッ?」
ランスが遠くを見ていたのは、魔王城を飛び立った"カミーラ"の気配を感じたから。
ランス・リア・マリスを除く全員は彼女の接近に気付くのが遅かったが、
思った以上にカミーラは高速で接近してきたので、そんなに間は無かった。
よっていつの間にかカミーラは、空中のラ・姉妹の間に止まると、
驚く二人を無視して冷めた表情でケイブリスを見下ろしていた。
"見下ろしていた"というのは、カミーラの接近が早すぎて、
ラ・姉妹がカミーラの急接近を確認したとき、既にケイブリスを見ていたからだ。
「!? か、カカカカミーラ……さん……」
「…………」
「カミーラ、生きて……」
「な、何よカミーラ! ケイブリスの味方するんだったら、容赦しないわよ!?」
「……サイゼル……腰が引けているぞ?」
「なッ、なんですってぇ~ッ?」
この時誰もが思ったのは、カミーラはケイブリスに加勢をしに来たのではないかと言うこと。
それをサイゼルが確認しようとライフルをカミーラに向けているが、
彼女に言われたように腰が引けており、カミーラの登場による動揺は隠せていなかった。
タダでさえサイゼルの力を遥かに上回るカミーラに、今回は何故か更に強い"力"を感じたのだ。
そんなサイゼルに視線を移したカミーラの態度が、ケイブリスにとってどう感じたのか……
「た、助けて……か、カカカカミーラさん……
助けに来てくれたんだよね? こいつらが俺をよってタカって~……」
「……(これで、私は……)」
「って事はカミーラ! やっぱり敵ってことなのッ!?」
「姉さん落ち着いて、何か様子が……」
「(――――解放される。)」
≪ババ……ッ!!≫
ケイブリスはカミーラを"味方"と勘違いし、助けを請う。
対してカミーラはランスをチラりと見ると、彼はは黙って彼女を見上げて頷いた。
余計な事を言って、ケイブリスの警戒心を高めないようにする為だ。
するとカミーラは視線を戻し、一瞬だけ瞳を閉じると、
すぐ見開きケイブリスを捕らえながら、彼に向かって急降下した!!
自分に長きに渡って付き纏っていた者との関係を、完全に断ち切る為。
≪ザザシュウウゥゥ……ッ!!≫
「がァ……ッ!?」
「……(デスバウンド。)」
「ゲハッ……な、なん……でぇっ……」
≪ずうううぅぅぅん……っ!!≫
「ね、姉さん……カミーラって、"あんな事"出来たのッ?」
「そんな事、あたしに聞かないでよ!」
「ほぉ~、ありゃあ"タルカジャ"が掛かってたのかもな。」
「そうかもしれませんね。」
≪たたたたたっ≫
「ダーリーーンッ!!」
「ランスッ、これはどう言う事なんだッ?」
「見りゃわかるだろ? カミーラがケイブリスを殺ったんじゃねぇか。」
「そんな事はわかってる! それよりも、
どうしてカミーラが生きていて、"こんな所"に来ているのかって聞いてるんだ!」
「そんなの俺様が知るか、さっきまで寝てたのによ。」
「うっ……(言われてみれば、サテラはずっと寝てたランスを見てたじゃないか……)」
カミーラの"タルカジャ"をMAX掛けをしてでの"デスバウンド"。
その"鋭い翼"がケイブリスのカラダに深く食い込み、
なんとか起き上がろうとしていたケイブリスは汚い血液を散布させながら、
再びどうと地面に倒れて、そのまま動かなくなった。
同時にリアとサテラがランスの元に駆け寄り、疑問を投げ掛けるが、
やはり"あちら"の事は秘密であるので、ランスは常識的な事を言ってしらばっくれる。
よって一番"寝ていたランスの近く"に居たサテラは、何も言えなくなってしまい、
間が空いたことを確認して、マリスが横から声を掛けて来る。
「ランス王、ケイブリスは倒れました。 ですから……」
「そうだったな、良し! 勝鬨を上げろッ、俺達の勝ちだ!!」
≪うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!≫
「モンスターたちが逃げて行くわね。」
「はぁ……一時はどうなる事かと思ったわ~。」
残ったモンスター兵の数は、リーザスの兵士の数を上回っていたが、
総大将が倒れてしまっては戦う気力など無くなるだろう。
リーザス側には多くの"魔人"も居るので、慌てて逃げてゆく魔物たち。
対してランスの周辺で戦っており、彼の言葉が聞こえたリーザス兵達は、
大きな歓声で剣を天に翳(かざ)して、勝利を自分に称えた。
その様子を空中から見下ろしているラ・姉妹は大きく溜息を漏らしていた。
「良し、終わったか……健太郎、マリス、後は任せた。」
「はいっ。」
「わ、私も健太郎君と行きますッ。」
「了解です。 ……動ける者はテントの回収に当たって下さい!
負傷兵は後方の衛生班のテントで治療を受け、休んでいて結構ですッ!」
「シィル、リア、お前らは兵隊の治療でもやってろ。」
「はい、ランス様。(良かった、本当に……)」
「まぁ良いかぁ~、どれ位まで(回復魔法)を使えるようになってるか、
もっと試してみたいと思ってたし~……」
「り、リア様? それってどう言う……」
「とにかく、明日になったら魔王城を制圧しに出発だ! 急げよッ!?」
……こうして、ケイブリスの襲撃を抑えたリーザス軍は、
次週には魔王城を制圧し、大陸全土を治めるに至る。
その前に燦々な状態となった駐屯地の整理などが必要だが、
もはや抵抗する勢力は皆無なので、作業を行う者達の表情には覇気があった。
ランスはその場で何分か作業に当たろうとしている部下達を、
カオスを肩に眺めていたが、少し目を横に移すと、
サテラ・サイゼル・ハウゼルに囲まれているカミーラの姿があった。
余談だが、この時点でケイブリスは"魔血魂"となっている。
「何を話してんだ、お前ら?」
「あっ、ランスッ丁度良かったぞ。」
「今、聞こうとしていたんです。 どうして彼女が味方になってくれたのかを……」
「それと一度死んじゃったらし~に、生きてるのかも気になるじゃない?」
「何だそんな事かよ……それよりカミーラッ、また"やる"からこちへ来~い!」
≪ぐいっ≫
「ま、待てランス! まだ何も――――」
「…………」
「こいつは嫌がって無ぇみてぇだけどな、がははははは!!」
≪すたすたすた≫
様々な疑問を今まさに投げかけようとした時、ランスが横から割って入る。
この時三人の魔人はランスが"何かを"知ってそうだったので、
横槍を受け入れたが、真実を話すつもりのないランスは、
カミーラの事を誤魔化してしまう為に、彼女の腕を強引に取った。
するとそのまま引っ張って、大型テントの方へと去ってゆき、
しかもカミーラはランスに対して全く抵抗しようとする様子はなかった。
その様を見せ付けられたサテラ達は、"唖然"として二人の背中を見送る。
ハウゼルはそんなにでも無く、むしろ心を誰にも開かないカミーラが、
ランスには心を開いたらしいので、嬉しい方向に持っていくようにしたようだが、
サテラとサイゼルにとっては、相当ショッキングだったようで、額に縦の線を引く。
「あのカミーラが、ランス王と……」
「サテラぁ? あ、あの二人……何時の間にあんな関係になってたのぉ~?」
「そんな事、知るかっ……(ま、まさかカミーラに出し抜かれるなんて~ッ……)」
「それよりワーグ、もう戦いは終わったわよ? 出て来なさい。」
「う、うんっ……」
≪ぽんっ≫
ランスとカミーラが去ると、取り残されるサテラとラ・姉妹。
そのまま数秒の沈黙の後、ハウゼルがワーグの気配を察して話すと、
何もない空間からワーグがラッシーと共に出現した。
サテラは、まだ表情が優れないワーグを見て、再度彼女に聞き直す。
ワーグに聞いても、もはや彼女はランスの昏睡と関係無いので仕方ないのだが、
どうしても納得がいかない事態が多過ぎて、機嫌が悪いようだ。
「ワーグ! 絶対何か隠してるだろッ、何でもいいから話すんだ!」
「わ、ワーグは なにもしらないよぉ~っ。」
「サテラぁ~、八つ当たりしても始まんないわよぉ?」
「第一、カミーラがワーグと絡んでる筈無いでしょ?」
「くそっ……もうサテラは自分のテントに戻るぞ! 行くぞ、シーザーッ!」
『ハイ、サテラ様。』
サテラの気迫に押されるワーグを、サイゼルとハウゼルが助ける。
それにサテラは頬を膨らませると、ガーディアンを従えて去って行った。
ずっとランスのテントに入り浸りで、ようやく久しぶりに、
自分に用意されたテントにへと戻ってゆくようだ。
そんな小さな後ろ姿を、ランスに付きっ切りだった気持ちが判らなくもない、
ラ・姉妹は、苦笑しながらお互いの顔を合わせると、
ワーグと共にその場を飛び立って自分の成すべき事へと移るのだった。