Part4
……翌日、魔王城へとやってきたランス達。
500名弱残ったリーザス兵は城の外に駐屯させておき、
ランス、シィル、リア、マリス、健太郎、美樹、サテラ、ラ・姉妹、ワーグ、カミーラと、
更に数十名のリーザスの騎士を従えて魔王所の中を歩く。
(カオス、人間形態の日光、シーザーも共に行動している)
先頭は魔王城に来るのがはじめてなランスが歩いているのだが、
サテラに"王座へは真っ直ぐに行けば良い"と言われ、ズカズカと歩みを進めている。
「しかし広ぇトコだな、何時まで真っ直ぐ歩きゃ良いんだ?」
「そうだねぇ~、リーザスのお城よりも全然広いよぉ。」
「黙って歩け、もう少しだ。」
二・三百メートル歩いても王座に辿り着かない。
"王座がある広間"が見えたきたと思ったら、ただ十字路の広間であり、
その"フェイント"のようなモノが何度か続いていたのだ。
よって何となくランスとリアが不満を漏らすと、サテラが強めに答えた。
その彼女の言葉は正しかったようであり、謁見の間に差し掛かった一行が目にしたのは――――
「おっ、あいつ……(あんな所に居やがったのか)」
「そう言えば、"ここ"に飛ばされてたんだったねぇ。」
「ですが、何だか納得してしまいました。」
「……(あの方らしい)」
魔王城の王座に腰を下ろしている、ラフな服装をした女性の姿だった。
その王座に"座り慣れて"いるのか、足を組んで背中を預けており、
一行がやってきても、その姿勢を崩そうとしていなかった。
対して、ランス・リア・マリス・カミーラ以外の者は、
まだリアクションが起こせていないが、彼女の成り行きを知っている4人は、
何故か納得したような様子で、上記のように口々にしていた。
その次に口を開いたのは、彼女を全く知らない健太郎と美樹だ。
「美樹ちゃん、あの人、誰なんだろうね……?」
「わからない、でも何処か私に"似てる"気がする……」
「似てる? そう言えば、確かに何か雰囲気が……」
『なッ、何と言うことじゃ! ジル、生きておったのか!!』
『ふ……封印されていたと、聞いていましたが……』
『こりゃ日光、"魔王"に対して"そんな姿"でどうするッ!?』
『ッ!? そ、そうでしたね。(刀にならなければッ)』
『(しかし変じゃのお……以前は素っ裸だった筈じゃが。)』
「えぇ~、ままま魔王ですってぇ~!? って事は~……」
「今までの歴代魔法から考えれば……ジル様ッ?」
「あれが、ジル様なのか……(サテラがノス達と復活させようとしていた……)」
「ど、どうして そんなひとが、こんなところに いるんだろうねぇ~?」
ジルの存在から"今の姿"になったと言っても良いカオスと日光は、驚きを隠せない。
一方、二人(?)の言葉を聴いて、4人の魔人達も驚きを隠せなかった。
ケイブリスを倒し、抵抗する敵が皆無であるはずの魔王城に"彼女"が居たのだから。
そんな注目の的である"ジル"はニヤリと口元を歪ませながら、ゆっくりと立ち上がった。
「待ちかねたぞ、貴様ら……ようやく来たか。」
「おう、ちょっくらゴタゴタ(戦い)があってな。」
「…………」(ランスを睨むジル)
「…………」(ジルを睨むランス)
「それでは、始めるとしようか?」
「……そうだな。」
≪――――チャキッ≫
他の者は眼中にないようであり、ランスと視線をぶつけるジル。
対して、珍しく真剣な表情で"カオス"構えるランス。
その表情を見上げて、カオスは心の中で武者震いしながら思う。
以前は何とか撃退できたが、一筋縄でいかない相手なのは明白……
『(ワシの力が通用するかはわからんが、やるしかあるまいて。)』
「ら、ランス! どうしたって言うんだ、何で戦う必要があるッ!?」
「サテラ、お前は手を出すな! ほかの奴らもなッ!」
「えっ、ランス様! 相手は"魔王"なんですよッ? お一人では……!」
「そうですよ! ケイブリスよりも強ければ、いくら王様だって!!」
「五月蝿ぇぞッ! 黙って見てろ!!」
「う……(嫌ッ、ランス様……折角"戻ってきてくれた"のに――――)」
「お、おにいちゃん……」
「ふっ、だがその前に……来いッ!!」
≪――――パチンッ!!≫
数では遥かに勝るのだが、どうしてか一人で戦う事を望むランス。
彼の決断に驚きを隠せないサテラ達だったが、ランスに強く言われて言葉を失う。
シィルやワーグに至っては、ランスを想うあまり涙目になってしまっている。
そんな中、ジルはまだ構えてはおらず、余裕の笑みを浮かべながら指を鳴らした。
すると、玉座の後ろから二つの人影が現れ――――
「…………」
「…………」
≪ザザッ……≫
「くくく……"観客"は多い方が良いしな。」
「し、シルキィとホーネット様ッ!? ど、どうして……!!」
「ほぉ~、あれが"ホーネット"なのか。」
「そうだ、貴様を血祭りにした後は……存分に暴れさせるとするかな。」
無言でジルの左後方と右後方に佇む"魔人"。
その二人を見てサテラは思わず二人の名を叫んだ。
ランスは二人を見たのが初めてだったので少しだけ瞳を見開いたが、
それだけであり、"カオス"を構えるのは止めていなかった。
この緊張感が膨れ上がる中、ハウゼルは冷や汗を流しながら言う。
「シルキィ、ホーネット様……こ、これはまさか……」
「は、ハウゼル? どーしたのよ?」
「もしかして二人はあの"魔王様"に逆らえないんじゃ? だから今みたいに無表情で……」
「逆らえない? だ、だったら何であたし達は平気なのよッ?」
「良く判らないけど……今の魔王様は"不完全"なんじゃないかしら?
だからまだ、私たちには"絶対服従"の効果が出ていなかったり……」
「……不完全だと? 言ってくれるなッ。」
≪ギロッ!!≫
「ッ!? ひっ……う……」
≪がくんっ≫
「は、ハウゼル!? 大丈夫よ、気を確かに持って!!」
ハウゼルは咄嗟に前途のような推理をするが、ジルの勘に触ったか睨みつけられる。
その威圧感により、ハウゼルはその場で膝を崩し、サイゼルが慌てて気遣う。
このままジルの威圧に負けてしまっていれば、彼女の言いなりになってしまいそうだったからだ。
魔人にとって、魔王に服従するのは当然の事なのだが、
ジルの正体がまだ判らず、今は"リトルプリンセス"という魔王候補が居る事から、
最悪"ホーネットとシルキィを助ける"という事も考えなくてはいけないのだ。
プレッシャーに潰されそうになりながらも、ハウゼルが立ち上がると、
既にジルの注意は再びランスに向いており、彼女の長髪がふわりと浮いた。
「少々、お喋りが過ぎたようだな。」
≪シュオオォォォォッ……≫
「うっし馬鹿剣、行くぜぇ~?」
『う、うむッ。』
「ゆくぞ!!」
≪――――ダンッ!!≫
「うおおぉぉっ!!」
≪だだだだっ!!≫
ジルの魔力が高まり、空気の流れが変わり、彼女は戦闘態勢に入ったようだ。
パワーは判らないが、魔力として感じる力は、ケイブリスを大きく勝っている様子。
直後、ジルはランスに向かって突っ込み、ランスもジルに向かって走り出す!
そして、ジルの魔力が圧縮された片腕と、ランスの太刀が交差しようとした矢先だった。
≪――――ピタァッ!!≫
「…………」
「…………」
「あ、あれ?(ランス様と魔王のカラダが……)」
「なんで、いきなり止まったんだ……?」
力と魔力がぶつかり合うと思った直前、二人の体が止まったのだ。
てっきり激しい一騎打ちが行われると思ったのだが、
思わぬ結果にシィルとサテラは唖然として口々にしていた。
すると、互いに近距離で目を合わせていたランスとジルから――――
「プッ……」
「ふっ……」
「くくくっ……」
「まさか、貴様が"乗って"くれるとはな。」
「俺様には、お前が"そんな事"をしようとしたのが意外だったぜ。」
「フッ、あまりにも暇だったのでな。 少し演出をさせてもらった。」
「だろうと思ったぜ。」
「私は"こんな事"を演出するのは反対だったのですが……」
「全くですよ……」
笑みがこぼれ、二人とも戦闘態勢を解いて破顔した。
何故なら、これまでのジルの態度は、演技によるものだったからだ。
お気づきの通り、カミーラよりも一時間送れて"魔王城"に転送されたジルは、
たまたま遭遇した"バトルノート"にカミーラの事を聞いたが、
結局ランスを待つ事にしたようで、魔王城に居る事にしたのだ。
(このときのバトルノートの驚きといったら、カミーラの時以上だった)
それからランス一行が魔王城に到着し、王座に現れたのだが、
"元魔王"としてさっきまで取っていた態度が、
東京での経験があったランスにとっては、演技としか思えない行動であり、
最初のアイ・コタンクトで、ジルの演出に乗ることにしたのだ。
結果対峙した時もお互い殺気は無く、寸止めに至ったと言う訳だ。
そんなリアとマリス・カミーラを除くメンバーが言葉を失う中、
"演出"に加わっていたホーネットとシルキィが、二人に近付いてくる。
それぞれの瞳には生気が宿っており、服従しているという雰囲気は無かった。
「ジル、誰なんだ?」
「あぁ……この二人は地下で囚われていたのを見つけてな。
ホーネットは私も初対面だったが、シルキィは以前の私の部下でもあった。」
「人間の王……ランス殿ですね? 私はホーネット。
ケイブリスを倒して頂き、本当に有難う御座いました。」
「う、うむ。(近くで見ると、物凄ぇ美人だな……)」
「シルキィ・リトルレーズンだ、私からも礼を言おう。」
「……シルキィよ、本来なら貴様がホーネットを守る立場だったのだがな。」
「!? も、申し訳ありません。」
「ホーネット様~ッ!!」
「良かった、大丈夫だったんですねッ?」
「サテラ、ハウゼル……」
ホーネットとシルキィが軽く自己紹介を行うと、正気に戻り駆けてくるサテラとハウゼル。
対して、懐かしい者を見るかのように二人の名を漏らすホーネット。
すなわち感動の再会となるわけだが、此処は他の者の目があるので、
ホーネットは視線をランスに直すと真面目な表情で口を開く。
「ん、なんだぁッ?」
「あの……ジル様のことなのですが、一体何故彼女が此処に居るのでしょうか?
お聞きしてみても、あまり詳しくは言ってくださらなかったので。」
「そうだぞランスッ、今度は寝てただけじゃ済まされないぞッ!!」
「(何だか面倒臭ぇ事になっちまったな。)……ジル、"何処まで"話した?」
「(言い分は貴様に任せよう)"自力"で"あそこ(異次元)"を脱出した事、程度だな。」
「ふ~む……実はだなぁ……」
説明が面倒であるジルは、ランスに全てを任せたようだ。
彼は少し"本当の事"を言うか言うまいか迷っていたが、
全てを話すと1時間や2時間で済まないので、やはり勝手な言い訳を考えた。
それは異次元でジルと"和解"した後、自分は神によって"闘神都市"に飛ばされたが、
残されたジルは数年掛りで自力で脱出し、出た場所が魔王城だったという内容だ。
その後"バトルノート"に事情を聞いたジルは、ホーネットとシルキィを助け、
ランスが来るのを魔王城で待っていたのだと言う事に至った。
異次元の脱出についてはデタラメだが、辻褄は合うので誰も疑う気にはなれなかった。
"だったら他に、ジルがど~して此処に居るのか説明が出来るのか?"
……と言われれば、何も言い返す事ができないからだ。
それらの話を全て聞いていたホーネットは、納得する事にしたか、静かに頷く。
"この大陸"には摩訶不思議な事、自分には到底理解がし難い、
数多くの謎がある事を、ホーネットは知っているからだ。
「成る程……和解されたという事は、今のジル様には、
ケイブリスのように、もう人間を殺(あや)めようとする気はないのですね?」
「あぁ、今更許して貰う気など無いが、もう興味は無くなった。
当分は久しい"この世界"の居心地を楽しむつもりでいる。」
「そうですか……」
「しかし殺めると聞くのは筋違いだ、私が人間をどうしていたのかが間違っているぞ。」
「ッ? ……そうでした、"家畜"として扱っていたのですね。」
「くくく、その通りだ。(その気も今は無いがな)」
『う、うぅむ……あの、あのジルが……納得いかんぞい~~……』
「がはははは、ドッキリ大成功だな!」
『全く、お前さんも人が悪いわい……』
ランスが"ドッキリ大成功"と言うと、カオスはもはや"ぐう"の音も出ない様子。
また、大げさに引っ掛かったハウゼルに視線を移すと、真っ赤になって俯いていた。
シィルも未だにポカンとしており、リアが彼女を横目でケラケラと笑っていた。
「な、なんだか判らないけど、やっぱり王様って凄いや……」
「健太郎君。 あの人も、"魔王"だったんだね。」
『不本意ですが……今は魔王では無いようです。』
「では、もう良いだろう? "それ(日光)"の言う通り、私はもう"魔王"では無いのだ。
ホーネット、後の話や交渉は貴様の好きにするが良い。」
「……わかりました。」
「ホ、ホーネット様ぁ、良いんですかッ?」
「シルキィ、貴女はジル様を良く知っているようだけど、今彼女に殺気はあった?」
「い、いえ……(あそこまでジル様を変えてしまうとは……あの男、何者なんだ……)」
話の流れから、ジルにリーザス軍と敵対する気はないと判った。
よってある者は胸を撫で下ろし、ある者は開いた口が塞がらない。
特に2000歳前後のシルキィと1500歳前後のカオスと日光は、
以前の"魔王ジル"とのギャップに最後まで動揺が隠せていなかった。
そんな彼女達を差し置き、蚊帳の外で立っていたカミーラの元まで、
リーザス正規兵を掻き分けながらやってくるジル。
「ジル様。」
「……カミーラか。」
「どちらに?」
「面倒なので暫く席を外そう……行くぞ。」
「はい。」
≪ザッ……≫
軽く言葉を交わすと、カミーラを従えて謁見の間を去ってゆくジル。
その後ろの姿を遠目に、ホーネットは話題を変えるようだ。
今度は彼女の守るべき存在であった、リトルプリンセス……美樹について。
ケイブリスが倒れ、美樹の力を手に入れようとする者は居なくなったので、
ホーネットは正式に彼女を魔王とするべく、説得をしなければいけない。
心から"来水美樹"に心から魔王になって欲しい訳ではないが、
ホーネットは魔王の娘として、彼女の本心を聞かなければならない。
「ではランス殿、リトルプリンセス様をここに……」
「わかってるぜ、マリス。」
「はい、美樹さん。 ランス王がお呼びです。」
「あっ……そのッ。」
「美樹ちゃん、王様も居るし大丈夫だよ、頑張って。」
「う、うんっ。」
≪とたとたとたっ≫
「美樹様……」
「美樹ちゃん、言ってやれ。」
「は、はい……やっぱり、私は――――!」
……この後、美樹は魔王として生きる事を完全に拒否し、
ホーネットの腹心の魔人は"美樹が人間に戻る為"の協力を心掛ける役目を承る。
さておき、これで大陸は統一され……世界に平和が訪れる事となる。
だが魔王城が落ちた報告はこれからであり、リーザス城へと帰還するリーザス軍。
その馬車で移動する行列を見下ろしながら、サイゼルは大きな溜息を漏らした。
「はぁ……なんだか、ワケの判らない事ばっかだったわねぇ。」
「そうね、姉さん。 でも思ってみれば、ジル様とカミーラが蘇っただけよ?」
「そう、そうなんだけど……頭の中で色々とコンがらがってんのよぉ~!」
「私もそうよ? けど、また仲良くできるんだから、喜ばなくっちゃ。」
「はいはい、おねーちゃんはデキの良い妹を持って幸せでーっす。」