Part5
……魔王城に遠征したランスの軍が戻ってから、1ヶ月後が経った。
その間、"創造神ルドラサウム"が大軍を大陸に送り込み、
地上の至る所を破壊し、面白みが無くなった世界を消そうと企んだ。
それに対し、ランスは全軍を率いて"黄金像"を使い、彼の元に出向き、
"ワーグ"の能力を使ってルドラサウムに長い夢を見せるという事に成功した。
結果、無事生還したランスは、暫くの間リーザス城でのんびりとしていたが……
……
…………
「ふんふんふ~ん♪」
「がおがお~。」
午前10時、リーザス城内の廊下を鼻歌交じりに歩くリア。
頭にはまだ眠たそうな"はるまき"が乗っかっている。
創造神の大破壊の後始末に追われ、朝から忙しそうにリーザス兵が走り回り、
五月蝿い事この上ないが、何故だかリアは機嫌が良さそうだった。
周囲の忙しさと、彼女のマイペースさのギャップが激しい。
「はるまきー、今日も良い天気だね~。」
「がお、がおがお。」
……何故なら、ランスとの冒険は終わってしまったが、
こちらでも残っている自分の"レベル"と東京で覚えた数多くの"魔法"。
また、資金不足故にマリスがランスに"ハーレムの解体"を訴えたのだが、
"良いぞ"と二つ返事でOKを出し、リアは大いに喜んでいた。
流石に東京に居た時程ランスの傍に居れる様になったという訳では無いが、
"東京に飛ぶ前の自分"の立場と比べれば、遥かにランスに近付いたので嬉しかった。
そんな"幸せオーラ"を振りまいて歩くリアの進行方向に、見知った顔が立っていた。
「リア様。」
「あっ! マリス~、どうしたのぉ?」
「ふふ、今日もお元気そうですね。」
「うん! マリスはどうなのぉ? 忙しそうだけど~。」
「確かに忙しくはありますが、特に問題ありません。」
「そうなんだ~。」
それはマリス・アマリリスであり、リアの二番目に大切な人。
東京で多くの死線を乗り越えた、信頼できる仲間でもある。
マリスは、創造神との戦いが終わってから非常に忙しい毎日を送っており、
本当ならリアと話している暇さえ(会釈程度はあるが)無いのだが、
彼女はその忙しい間に、ある"計画"を立てていた。
それはまだ判らないが、笑顔のリアに軽く微笑み返すと、マリスは表情を改めて口を開く。
「ところでリア様、お話があるのですが……」
「えっ? 話ってなにぃ~?」
「とても、重要な事です……此処では何ですので、こちらに。」
「あっ、うん。」
「がお~っ?」
……
…………
……十数分後。
場所は変わって、ランスの部屋である高級寝室。
その部屋の片隅で、ランスは机に向かいながら"何か"を書いていた。
地面に正座していたシィルは、そんな彼の背中をポカンと見ていたが、
暫くしても書き終わらないようなので、恐る恐る聞いてみる。
普段雑務は全て自分に任せるランスが"こんな事"をしているのは非常に珍しいからだ。
「あ、あの……ランス様?」
「かきかきっと(できたできた)。 ……ん、何だシィル?」
「一体何を、書かれているのですかッ?」
「あ~、大したモンじゃねぇよ、ただの"離婚状"だ。」
「り、離婚~!?」
「何を大袈裟に驚いてやがるッ?」
「そ、それは驚いちゃいますよ~! 離婚と言う事は、まさか王様を――――」
「あぁ、辞める。(当初の目的も果たしたしな)」
「それでは……こ、これからどうするんですかぁ?」
「そんな事は心配するな! お前は黙って俺様に付いてくりゃ~良いんだ。」
「!? ら、ランス様~……」
「おいッ、返事はどうしたッ!?」
「あ、はいッ! 私は何処までもランス様に付いて行きますッ!!」
「ふん、当然だ! お前は一生俺様がコキ使ってやるんだからなッ。」
なんと、ランスが書いていたのは離婚届け。
字は非常に汚いが、書いてある事はまさに離婚を促す内容だった。
つまり、ランスはリーザス王を辞め、再び冒険者に戻るつもりなのだ。
流石にその大胆な判断にシィルは大きく慌てるが、
今のランスの立場があまり好きでなかったシィルの感情が、
"驚き"から"嬉しさ"に変わるのに、そう時間は掛からなかった。
よって興奮気味にシィルが立ち上がり、ランスがニヤリと笑った時だった。
≪コンコンッ≫
「きゃっ!」
「……(来たか)」
「ランス王、私です。」
「おう、開いてるぜ? 入れ。」
「失礼します。」
≪ガチャッ≫
「~~……」
突然ノックの音が響き、シィルがビクりと体を強張らせる。
対してランスは冷静であり、応答してノックをした者を部屋に入れた。
その者はマリスとリアであり、リアは何故か俯いて暗い様子だった。
「(ままま、マリス様とリア様~……)」
「何の用なんだ?」
「ランス王……"離婚状"は書かれたのですね?」
「おう、たった今な。」
「……ッ!!」
"離婚状"と言う言葉に、リアはビクりと体を揺らした。
確かに当たり前の反応であるが、実はリアの"ビクつき"は、
ただ単にランスが離婚状を書いたと言うことダケが原因ではない。
一方、シィルのハートもドッキドキである。
てっきりランスとコソコソとリーザス城を離れるのだと思ったが、
いきなり最重要人物であるマリスとリアが現れ、しどろもどろになっている。
そんなシィルの感情はさておき、マリスは真剣な表情で続ける。
「その件について……リア様からお話があります。」
「ほう。」
「……さあ、リア様。」
「うっ、うん……」
「がおがお、がおがお。」
「(はるまき……リアを応援してくれるのッ?)」
「あわわわっ。(ランス様ぁ、どうなっちゃうんですか~っ?)」
いつの間にか立ち上がって腕を組むランスに、
リアはまるで告白する下級生のような足取りで彼の前に歩み寄る。
非常に緊張している様子であり、今までのリアからは想像できない覇気の無さだ。
彼女はマリスの母のような眼差しとはるまきの声で勇気付けられながら、
息を吸い込んで吐き出すと、ランスを見上げて言った。
まさに、一世一代の大告白と言っても過言ではない。
「ダーリン、わたしも――――!」
……
…………
……数時間後、午後2時。
昼を挟んで謁見の間には、リーザスの将軍達が集められていた。
いずれも大陸制覇の戦いで、大きく貢献した将軍達だ。
「エクス、何か"重大発表"があると言うらしいが、どのような事なのじゃろうか。」
「復興支援活動についての会議は先週終わりましたから、僕にはなんとも……」
「会議とは相場が違うでしょう、キングとリア様による重大発表なのですから。」
「マリス様も凄ぇよなぁ、何せ俺達全員が出席出来る様に時間を調節したんだからな。」
まずは黒の将軍バレス、白の将軍エクス、赤の将軍リック、青の将軍ゴルドバ。
そろそろ時間が近いが、まだ現れないランス・リア・マリスを待って、
召集による些細な考えを口々にしているようだ。
「ランス王とリア王女の事だ、くだらない事で無ければ良いが……」
「ハウレーンさ~ん、そんな事いっちゃダメですよお。」
「……(うぅむ、もしかして、私が復興活動に手を抜いていた事がバレたのだろうか……)」
「もうそろそろ、時間だけど……(ランス君、まさか……)」
前途の彼らは当然として、副将のハウレーン・メナド・キンゲート、親衛隊のレイラ。
この者らも、マリスの力によってスケジュールが調整され、この場にやってきた。
中には遠い所から戻ってきた者も居るが、不満がある筈も無い。
何せ、リーザス全ての将軍と顔を合わす機会は非常に少ないのだから。
「……(王様、私は判っています。 リーザスはこれから……)」
「……(アールコートの言ってた事が正しければ、今度は私がッ……)」
「(どんな内容であれ、私に出来る事であればやらないと。)」
「ふぁ~、ねむい、ねむいろぉ~。」
そして、アールコート・ラファリア・メルフェイス・アスカという、
リーザス国の幹部全員が謁見の間に集められているのだ。
他の国の者は出席していないが、これは"リーザス国"だけに関わる問題故だ。
……と、将軍達が待つ中、彼らが待っていた三人が姿を現した。
十数人の将軍達が見守る中、偉そうに王座へと歩き、
その前で止まると向きを変え、両手に腰を当てながら、将軍達を見下ろす。
そんな彼の左右やや後ろにマリスとリアが控えると、ランスは大声で言った。
「おう、お前ら! 今日はリアから大事な話がある!!」
「なんと、リア様からですとッ?」
「(一体、どのような事なのでしょうか……)」
「みんなーー、静かにしてぇーーっ。」
≪……しーん……≫
王女である"リアから"の重大発表による召集。
今までこのような召集では、ランスとマリスが内容を言うのが殆どだった。
だが今回はリアが言うという事で、少し将軍達はザワつくが、
一歩足を踏み出したリアが口を開くと、あっさりと沈黙が訪れた。
それを確認すると、リアはまるで小学生低学年の先生のような口調で叫ぶ。
彼女にとっての"本当の幸せ"を、これから歩んでゆく為に。
「わたしは……わたしは今日限りで王女様を辞めちゃいまーーーーす!!」
『え、えええぇぇぇ~~~~ッ!!!?』
……
…………
リーザス国の王女リアの、突然の辞任。
そして、ランスとの離婚、及びリーザス王・ランスの辞任。
結果"リーザス国の君主"が今日限り居なくなり、"次期国王"が必要となった。
よって"バレス・プロヴァンス"が直ぐさま国王に就任し、
荒れ果てた世界を復興させるため、マリス・アマリリスを筆頭に将軍達と、
新しい"リーザス"という国を、各国との連携も兼ねて創り上げる事になったのだ。
正直なところ展開が凄すぎるが、アールコートなど、
一部の者はこの流れを予測しており、リーザスが纏まりを欠くという事は無く、
皆ランスとリアが築いた国を守ろうと、引き続き活動を再開するに至った。
「ランス様、リア様……あっ!(来た!)」
「シィル、ちゃんと待ってたな?」
「はい! 勿論ですっ。」
「し、シィルぅ……重いよぉ、半分持ってぇ~……」
……ここで話を振り返ると、マリスが朝リアを待ち、言った事は、
"リーザスの王女を辞めてランスと冒険する"という事を促す内容だったのだ。
以前から"全てが終わったらランスはリーザスを去る"という事を推理していたマリスは、
創造神との戦いの後にランスと話し、"リアを連れて行って欲しい"という事を告げ、
ランスが"離婚状"を書き終えたタイミングでリアに想いをぶつけさせたのだ。
東京でマリスとエッチする前に、耳打ちされた彼女の"提案"とは、
"もしリーザスを去る気があるのならば、リア様をお連れください"と言う事だったのである。
その為には"リアが東京で得た強さを失わない"という条件があり、
何より"ランスの許可"が必要だったのだが、東京の3週間でランスは、
リアに対する価値観が若干変わり、"こちら"でもリアと冒険する事を認めたのだ。
離婚状を書いたランスに想いを告白する時、断れる事を考えると、
リアは"愛する者と離れてしまう"という恐怖で胸が張り裂けそうだったが、
自分の事を"わたし"と言い、精一杯の"告白"をランスにあっさり受け入れられると、
感激のあまり涙してランスに体当たりしてしまう程だった。
こうして、"リーザスの王女"とう地位よりも"ランスとの冒険"を選んでしまったリアは、
フードを纏ってマリスを別れの挨拶を済ませ、こっそりとランスとリーザス城を出ると、
城下町の外れに待たせていたシィルに"金塊"を受け取って貰いながら荒い息をついていた。
そんな地面に伏せるリアを見下ろしながら、ランスは容赦無しに言う。
「全く情けないヤツだ、その程度で根を上げるようじゃあ、俺様との冒険は務まらんぞッ?」
「そっ、そんな事言ったってぇ……はぁはぁ、全部で50キロもある金塊なんだよぉ~?」
「がおがおっ。」
「大丈夫です、リア様。 ちゃんと半分お持ちしますから。」
「シィル! お前もお前だ、リアはもう王女じゃなくって、"冒険者"なんだぞ?」
「あう……で、ですけど……」
「別に良いじゃなぁい、わたしはダーリンのパートナーだけど、シィルは奴隷なんだし~。
≪ぽかっ≫
ひゃんっ! い、痛い~……」
「調子に乗るなッ、もうシィルを苛めたら許さんからなッ!」
「は、はぁい……(でも、いつかはダーリンをぉ……)」
「ランス様……(今の一言、嬉しかったです!)」
「良いか!? シィルを苛めて良いのは俺様だけなのだ、がははははは!!」
「……(う、嬉しく……無いかも……)」
25キロの金塊と旅道具を背負うシィルとリアを後ろに、ランスが笑い声を響かせて歩く。
二人とも旅道具と一緒では若干重そうだったが、表情には笑みがあった。
そんな中……ある程度歩くと、ランスは腕を頭の後ろで組みながら言う。
「さ~て、これから何処に行くかなぁ?
アニスとジルはゴタゴタしてて結局犯れなかったし、
香やカミーラともあまり会わなかったしなぁ……そいつらの所にでも行くか!」
「ダーリン! それよりも、ちゃんと冒険しようよ~、前みたいにー!」
「えっ? "前みたいに"ってどう言う事ですか……?」
「んんっ? それは秘密だ。」
「そうそう! わたしとダーリンだけの秘密だもんね~ッ。」
「そ、そんなぁ~!」
……互いに負けないランスに対する想いがあるシィルとリア。
これから3人の間に、多くのすれ違いやトラブルが起きるだろうとランスは感じていた。
しかし、ある意味面白そうであり、新しい門出に彼は期待に胸を膨らませていた。
まるで……仲魔を求めて出発する、"悪魔召喚プログラム"を入手したときのように。
よってランス達の新しい冒険は……今ここから、始まるのである。
「がははははは!! 俺様世界一ィィーーッ!!」
――――幸福、ランス再び冒険へ……!!