第三話:魔法Lv3
……どうして……ですか……
……千鶴子ッ……さ……ま……
……わたし……頑張った、のに……
……どうし……て……
……私が……
……
…………
「……はっ!?」
『目覚めたか。』
「あ、あれっ? 此処は……私、死んじゃった筈じゃ……」
『驚くのも仕方ない、貴女は私が生き返らせたのだからな。』
「えぇっ!? ど、どうして私を生き返らせ……
あなたは天使みたいだし、ここは天国なんですかぁ~ッ?」
『……私は大天使ラファエル、此処は天国などではない。』
「それじゃあ、何処なんですかッ? もしかして地獄なんじゃ……」
『だから貴女は復活したのだと、言っているだろう。
貴女の魂は泳がせておくには惜しいモノだったからな……
神の指名を果たすべく、"救世主"として貴女を生まれ変わらせたのだ。』
「き、救世主……?」
『いきなりこんな事を言われて驚くのも判るが、貴女にはその"素質"がある。』
「…………」
『とりあえず話を聞いてみる気はないかな?』
「あの~、難しいことは判りませんけど、それでも良ければ……」
『……懸命だ。』
……
…………
ランスは拘束されて動かない女性に近付き、彼女を見下ろしていた。
だが俯いているので肝心な顔が見えず、膝を落として、
虚ろな表情を覗いてみるのだが、正直記憶に無かった女性だった。
続いて"失礼"と言いながらマリスも彼女の顔を覗きこんでみると、
マリスは立ち上がり、何かを思い出そうとしている様子だった。
「(なかなか可愛いけど、"こんなん"だしなぁ。
助けてやっても良いが、メシア教徒は気に入ら無ぇし……)」
「…………」
「んっ?」
「…………」
「マリス~、どうした?」
「……思い出しました。」
「何をだ?」
「見た事があるのは一度限りですが、
この女性……"あちら"の世界の方です、間違いありません。」
「な、何だとォ~?」
「一度だけリーザス領に攻め入ってきた、ゼスの魔法使いですね。
あれからもう戦場には現れないままゼスを落とせてしまい、
そのうち忘れてしまいましたが、まさかこんな所に居るとは……」
「名前は何て言うんだ?」
「名は判りませんね、ゼス4将軍でも四天王でも無いようです。
噂ではゼスに一人だけ"魔法Lv3"の魔法使いが居ると聞きましたが。」
「それが、この娘なのかッ?」
「恐らくそうかと……何故か奴隷兵を引き連れず、
一軍だけで攻めて来たので、4軍で楽に追い返せましたが……」
「ふ~む、じゃあ何で"メシア教徒"に入ってたんだ? しかも幹部だしな。」
「お客さん、どうしたんスかぁ~?
気に入ったんなら、丸ごと買ってくれても良いですよぉ?」
彼女が"あっち"の存在と気付いたマリスは、ランスに報告。
その会話の内容が小さな男に判る筈も無く、適当なタイミングで口を挟んで来た。
勝手にランスが彼女に興味を持っているのだと思ったのだろう。
確かにそうなのだが、ランスは男を睨んで言った。
「おい……この娘は何処で拾ってきたんだ?」
「い、言ったら買ってくれますか~ッ?」
「良いからさっさと言わねぇかッ!!
とりあえず、吐けば殺しはしないでおいてやる。」
「ひぃ! か、勘弁してくださいよぉ……
この女は街の門の外に出て、命懸けで拾ってきたんですよ。
メシア教徒とガイア教徒が戦ってたけど共倒れしたみたいなんで、
良いモンが落ちてないかと見に行ったら、この女が倒れてたんスよ……」
「ほぉ。」
「お、俺も生きる為に金が要るんですよ、わかってくださいよぉ~。
そんな訳で、5000マッカでどうっすかッ?
ホントは20000ってトコなんですけど、
客が色々と無茶するモンだから結構"痛んじゃって"るんで……
あぁ、ちなみに俺は何もしてませんよ~?
商品には手を出さないのが、自分のポリシーなんでね。」
「……(おい、マリス。)」
「……?(何でしょうか?)」
「(魔法Lv3って、"テレポート"使えたりしなかったか?)」
「(Lv3いずれかのスキルを持つ人間自体、
国に一人居るか居ないかなので良く判りませんが……
"都庁"に行くのであれば、その方法を期待するしかありませんね。)」
「(なら、決まりだな。)……おい、買ってやる。」
「えッ!? ほ、本当ですかぁ!?」
「本来ならさっさと帰るところなんだが、
"良い女"だしなぁ……運が良かったな、お前。」
「どうぞ、これが代金です。」
「ま、毎度ありぃ~~っ! これが鍵です、使ってくださいッ。」
"ランスの世界の人間"であれば、その時点で彼女を買っただろう。
しかしその上、魔法Lv3を誇る者であれば、もはや決定的だった。
魔法レベル3を考えれば5000(約50万円)では安いので、
あくまで"良い女"というのを重視し、女性を買う事にしたランスだった。
マリスから現金を受け取り、魔法Lv3を知らない男は嬉しそうだった。
そのまま男は現金を受け取ると、カミーラの横をそそくさと横切り、
女性が拘束されていた部屋を出て行ってしまい、
ランスは膝を再び折ると、息をするだけで動かない女性に声を掛けた。
「おい、大丈夫か~ッ?」
「…………」
「死んでんじゃねぇだろうな? 返事しろ~。」
≪ぺしぺしっ≫
「……ッ。」
「んっ、死んでなかったか。」
声を掛けても、直ぐには反応が無い。
そこで冷たい頬を軽く叩いてみると、ピクリと体が揺れ、
焦点が合っていない瞳にようやく生命が宿ったようだ。
彼女は、ゆっくりと顔を上げると、自分を見下ろすランスを見るが、
その表情は、彼に怯えている様子だった。
「? ……あ、あぁッ……
もう……嫌、です……もぉ、許して……くださいッ……」
「あん? 許すも何も無ぇんだが。」
「余程、酷い事をされて来たのでしょうね。」
「い、痛いのッ……嫌……ひっく、うぅ~……」
「マリス、そっちを外せ。」
「はい。」
≪ガチンッ≫
「あっ……!?」
≪がくんっ≫
何度も"買われて"酷い、乱暴な抱き方をされたのだろう。
どちらかと言うと悪人面であるランスは"客"に見えたのか、
彼女は泣きそうになりながら拒むも、やはり体は動いていなかった。
……だが、只の客ではないランスは、両手の鎖を外してやり、
突然の事で前に倒れそうになる女性を抱きかかえて言った。
「俺様が助けてやるぞ、感謝するんだな。」
「えっ? い、痛い事……しないんですか?」
「やらんやらん、君にはやって貰いたい事があるからな。」
「やって貰いたい事……ってッ?
い、嫌です! もう……オチンチンは舐めれませんッ。」
「誰もそんな事言って無ぇだろッ、とにかく話は戻ってからだ。」
≪ひょいっ≫
「わわ! や、やっぱり酷い事するんですねッ?」
「だからやらんと言ってるだろうがッ! マリス、カミーラ、戻るぞ。」
「わかりました。」
『…………』
「その方の衣服は、どうしましょうか?」
「一応、聞いてみるか……こら、大人しくしてろッ。」
≪ぎろっ≫
「う……(今度は、怖い人に連れて行かれてちゃうんだ……でも、
仕方ないのかな……私、こんな事にしか、役に……立たないし……)」
彼女を抱きかかえ(お姫様抱っこし)て前の部屋を出ると、
初めの部屋で小さい男が机に向かってソロバンを弾いていた。
買った女性は最初は少し抵抗するように体を動かしていたが、
少し鬱陶しく感じたランスが睨むと大人しくなっていた。
その男はランスが戻ってくると振り返ったので、彼は男に聞いた。
「……おい、この娘が着てた服は無ぇのか?」
「あぁ、全部売っちゃいましたよ……すいません。」
「何ィ~?」
「カテドラルには高い金払って来たんで、少しでも金が必要だったんですよ~ッ。」
≪ばささぁっ!!≫
「ふぇっ……?」
「おぉ、カミーラ……気が利くじゃねえか。」
『フン……帰るぞ。』
「……お邪魔しました。」
「ま、毎度どうも~ッ!」
彼のように弱い人間は、ある程度お金が無いとカテドラルに来れなかったらしい。
よって衣服が無いようであり、そうなると、
全裸の女性を抱えてカテドラルカオスを歩く事になってしまう。
それはダメだ……が、カミーラが無言で自分のマントで彼女の体を包んだ。
そしてカミーラは歩き出し、ランスとマリスも、小汚い部屋を出て行った。
……
…………
回復道場に戻ってきたランスは、まずはカミーラをコンピュータに戻す。
そして、マリスもリアが寝ている部屋に行かせると、
道場主を追い払い、巫女の方に"買った女性"の回復を頼んでいた。
マリスは彼女の境遇が気になっていたようだが、
明日リアが居る時に話させると言う事で納得したようだ。
≪きゅいいぃぃん……≫
「どうです? 効いていますか?」
「は、はいっ……凄いです……どんどん痛みが、取れて来ますッ。」
「ですが、相当酷い扱いを受けていたようですね……
良く"気持ち"をしっかりと保てていました。」
「なんだとッ、なんなら殺してりゃ良かったぜ。
(何だかんだで"買った"のは、シィルとこの娘で二人目なんだが。)」
回復道場にあったパンティーを履かせて貰い、
体がシップや包帯まみれの中、回復魔法を掛けて貰っている女性。
(リアとマリスも道場夫婦の死んだ娘の下着を借りている。)
本当なら精神を壊されても仕方が無いくらいの扱いを受けたらしいが、
彼女は(実際違う意味で)なかなか強い精神力を持っていたようだ。
表情はまだまだ優れないが、今までとは比べ物にならない程の状況に、
最初はランスに対しビクビクしていたものの、今は安心している様子。
一方、全ての装備を外して普段着姿のランスは、
ソファーに腕を組んで腰掛けながら、"自分の世界の人間"である彼女に聞いた。
「そういやあ~、名前は何て言うんだ?」
「あッ、私とした事が申し送れましたッ!」
≪がばっ!!≫
「ちょっと、いけませんよ? いきなり体を起こしては……」
「あ痛たたたッ、すいません……わ、私は……アニス・沢渡と言います。」
「ほぉ、"アニス"……ね。 元はゼスに居たそうじゃねぇか。
(中々可愛くて魔法Lv3か……こりゃいい買い物が出来たぜ。)」
名前を聞かれ、ハッと思い出したように体を起こす"アニス"。
実は彼女、非常に魔力が高いが"お馬鹿"であるというのが特徴で、
激しい陵辱で精神が壊れてしまわなかったのも、ややその為なのだ。
さておき、いきなり起き上がって胸の痛みを感じ、
涙目になりながらアニスは自分の名を告げ、ランスは頷いて"ゼス"と漏らした。
その単語に、アニスが反応しない筈が無い。
「え、えぇ!? どうして貴方がその事をッ!?」
≪がばばっ!!≫
「もう、"起き上がらないでください"と言っていますのに……」
「あ痛たッ、痛い……ご、ごめんなさい……」
「……気持ちも判るが、詳しい話は明日にするぜ。
このまま話してたら、何時まで経っても傷が治らなそうだしな。」
「わ、わかりましたッ。」
「それでは、そのままで居て下さいねッ?」
「はいッ、アニスはもう動きません!」
「(大丈夫なのかァ?)まぁ俺様はもうこのまま寝るからな、後は任せたぞ~。」
「どうぞごゆっくり、お休み下さい。」
何だかんだでかなり疲労したのか、そのまま寝てしまうランス。
ソファーの上で毛布に包まり、入浴する気力も無いようだ。
そんな彼の鼾(いびき)が響く中、アニスは巫女に恐る恐る聞いた。
「……えっと、あの人の名前は?」
「ランスさんですね、凄腕の"デビルサマナー"らしいです。」
「ランス、ランス~……(どこかで聞いた名前のような~……)」
「お知り合いですか?」
「う~ん、何だか知ってる気がするんですよね~。」
元の世界で知らない者は殆ど居ない、リーザス王のランス。
あの"ランス"であれば、何故カテドラルなどに居るのか疑問に思うはず。
……だが、お馬鹿であるアニスは、ランスがリーザス王のランスだと言う事は、
思い出そうとしても結局、明日まで気付かないのであった。
こうして、長かった19日目が終了した。
○ステータス(初期値ALL5+ボーナス18+Lv=合計)
ランスLv58 力30 知12 魔12 体20 速22 運10
リ アLv52 力10 知20 魔30 体10 速16 運12
マリスLv56 力14 知28 魔16 体14 速26 運06
アニスLv70 力20 知08 魔40 体20 速25 運05
残金:60000マッカ