第6話:新必殺
≪――――シュンッ!!≫
「う、うおぉっ!?」
≪ずだんっ!!≫
「きゃあっ!?」
≪がしゃんっ!!≫
「え、高っ……」
≪ざしゃっ!!≫
"トラポート"が掛かってから数秒で、木造の道場では無く、
コンクリート造りの視界が一行に飛び込んでくる。
結構心配であったが、アニスの転送魔法が"一応"成功したようだ。
……あくまでも、"一応"である。
「いったぁ~い、でも此処が~……」
「都庁……ですか。」
「そうみてぇだ……
≪――――ぐしゃっ!!≫
……ぎえぇ~~ッ!?」
「はい! 到着しましたッ!」
しかし、ランス達が現れた地点は2メートルほど空中だった。
よって空間に現れてから落下し、装備の重量があるので、
身を縮めて着地した三人だったが、ランスが立ち上がろうとした時、
遅れて現れたアニスが落下してきて潰される。
このように高さに誤差があったが、成功といえば成功だろう。
むしろ、アニスの魔法にしては相当な上出来と言っても良い。
よってこれでテレポートによる命の危険は無かった事となったが、
階層が違う可能性があるので、アニスの尻に潰されてうつ伏せになった格好のまま、
オートマッピングを操作して現在位置を確認するランス。
「(ピピッ)……良し、"都庁南の塔40階"で間違い無ぇみて~だな。」
「そうですか! 階層は勘だったんですけど、旨くいって良かったです!」
「か、勘だったのぉ~!?」
「こらっ、サラりと恐ろしい事を言うなッ!」
「(気にしたら負けね……)……ではランスさん、召喚をお願いします。」
「毎度の事なんだが、面倒なんだよな~これ。」
「へぇ、それで"ナカマ"を召喚するんですか、私初めて見ます!」
「それはいいから……いい加減どけ、仕舞いにゃ怒るぞ。」
「あッ、これは失礼! 心地良いので、すっかり忘れていました!」
……
…………
……メシアサイド・都庁40階。
戦いは上層と下層で繰り広げられているのか、
問題なく3体の仲魔を召喚出来たランス。
現在は4人+ご存知の3体の7名編成となっている。
その7名の中心で、ランスは雷神剣を片手に偉そうに言う。
「良しッ……都庁は今回が初めてだ、初見の悪魔にゃ、
最初にやる事は判ってるだろうなぁ?」
「リアは、"テトラジャ"でしょっ?」
「私は"マカラカーン"ですね。」
『わらわは、様子を見て回復魔法じゃな。』
『私は"マカカジャ"でしたね。』
『……"ラクカジャ"か。』
この時期、初登場敵悪魔には、いかなる相手でも、
これらの手で最初は様子を見る必要がある。
いきなり状態異常や呪殺の魔法を使われては大きな被害を受けるからだ。
勿論、一回でも倒してしまえばアナライズで"手"が判るので、
様子を見る必要は無くなり、弱点を突いてさっさと倒してしまうのだ。
そんな中、今では定石である手段を知らないアニスは、
自分もこの流れに合わせようと、意気込みながら続いた。
「それではッ、このアニスも自慢の魔法で敵を――――」
「いや……お前は戦わなくても良いから、戦い方を見てろ。」
「え、えぇ~!? どうしてですかッ!?
私が皆さんの足を引っ張ってしまうとでもっ!?」
「(それが殆どの理由でもあるけどな……)
さっきテレポートだけしてくれれば良いって言っただろッ?
"そんな体"で無理する必要なんてねぇしな。」
「この程度大した事はありませんッ、私はどんな相性の敵にも効く、
"万能系魔法"が使えますッ、それで悪魔など一発でずが~んと倒せますからッ!」
「(聞いてねぇなぁ……)……マリス。」
「はい、"マカジャマ"。」
≪ぶいぃ~~んっ≫
「え……ッ!? はが……ッ、……!? ~~……っ!!」
「無駄だから、喋らないほうが良いと思うよぉ?」
「これも貴女の為ですから。」
『しかし元気な娘じゃのう。』
『私も少し、あやかりたいものですね。』
『……いらんな。』
「これは命令だぞ? 大人しくしてろッ、それじゃ行くぞ~っ!」
「~~……っ……!!」
アニスはいわゆるNPC扱いであり、戦いには参加させないようだ。
確かにどんな悪魔にも通用する"万能魔法"で初見の悪魔をさっさと倒してしまえば、
様子見の戦いで消耗せずにアナライズのデータを追加できるが、そうもいかない。
アニスの敵味方を全滅させる魔力の暴走が一番恐ろしいのだが、
それを差し引いても、今の彼女は巫女の回復魔法により、
何とか動けている状態の筈故、本人は戦うと言っても許可は出来ないのだ。
やる気があったので納得のゆかないアニスだったが、
マリスが今や一瞬で詠唱可能となった沈黙魔法を掛け、
知力が低いアニスにはアッサリと"知力の高いマリスの魔法"が効いてしまった。
それによって一定時間喋れなくなってしまったアニスは、
必死にぶんぶんと手を振って何かをアピールしているが、
ランスは軽く流すと、仲魔を探す為に都庁の散策を開始するのだった。
……
…………
≪モコモコモコッ……!!≫
『オオオぉぉぉっ!!』
『血だッ、血を捧げよッ!!』
「来たぜ、"地霊アトラス"だ!!」
『LAW属性のようですね、如何しますッ?』
「狙ってる種族じゃねえな、やっちまうぜ!?」
「念には念をですから……マカラカーンッ!!」
『……ラクカジャ。』
やはり戦力は出払っているようだったが、十数分後悪魔が出現する。
数は3体……今は交渉可能な巨人型悪魔"アトラス"だったが、
ランスが狙っていた種族ではなかった様で、戦闘が開始される。
初見の悪魔なので、マリスの"マカラカーン"、
そしてカミーラの"ラクカジャ"から始まり、他のメンバーも行動に入った。
だが、その様子見の戦法が意味の無い悪魔だったようで、
一体のアトラスが突進し、ショルダータックルを繰り出してくる。
体長3メートル近くありそうな巨体での突撃は、かなりの迫力だ。
『くらええぇぇい!!』
≪ドドドドドド……ッ!!≫
「ど~やら判り易い奴みてぇだな……散れッ!!」
「ひゃあ~っ!」
「ふ……っ!!」
≪ざしゅしゅっ!!≫
アトラスの突撃を散開して回避するランス達。
そんな中、マリスが開始しながらクチナワの剣で連斬を放つが、
硬い悪魔の為か、たいして効果が無いようだった。
一方、もう一体のアトラスと向かい合っていたランスが振りかぶり……
「どりゃああぁぁーーっ!!」
≪ザシュウゥ……ッ!!≫
『ぐぬぅぅッ!?』
≪――――ドサッ!≫
雷神剣の一太刀で、アトラスの片腕を叩き切った。
ランスの腕力と、雷神剣の威力が合わさり、
地霊最高クラスであるアトラスの腕を落とす事など、もはや安易。
そして、一番後ろに居た最後のアトラスには……
『はぁ! ブフダインッ!!』
「ジオンガぁ~~ッ!!」
≪ズガオオォォン……ッ!!≫
『うおおぉぉ……ッ!?』
香姫とリアが的確に攻撃魔法を命中させていた。
これにより、数に上回るランス達は楽に勝利が可能だと思われたが、
ランスに片腕を落とされたアトラスは転がる自分の腕を掴む。
そして傷口に腕をくっ付けると、一瞬で腕が繋がってしまった。
「な、何い~っ?」
『ふんぬ……っ!!』
≪ビキビキッ、バキイィン!!≫
『そんな、氷が……』
香姫によって凍らされたアトラスも、怪力で氷を早くも破ってしまう。
マリスに斬られたアトラスも既に傷が癒えており、驚異的な回復力を持つようだ。
実はこのアトラス……口では言っていないので皆気付いていないが、
最高回復魔法である"ディアラハン"を使うのだ。
その魔法を使わせてしまえば、中途半端な攻撃ではアトラスを倒せない。
ランス達の攻撃によって断末魔を挙げなかったのも、
この戦い方で今迄相手を捻じ伏せて来たので、感覚が鈍くなっている為だ。
『ははははッ、この程度では我々は倒せぬぞ!!』
『何処から入ったかは判らぬが、覚悟する事だな!!』
「だ、ダーリン、どうするのぉ?」
「ふんっ……一発で倒せねぇなら、倒せるようにすりゃ良いだけだ。」
「あやっ? 絶体絶命ですねッ、ここはやはり、わたしアニスが――――」
「(敵に掛けた方が良い気もしますが……)マカジャマ。」
「えぇ!? ま、また……~~ッ!? ……っ、……ッ!!」
『ほれほれ、大人しくしておるのじゃ。』
「カミーラ、済んでるだろうなッ?」
『……二回掛けた。』
「がはははは、それならイケるな! やるぜぇ~ッ。」
『…………』
≪ババ……ッ!!≫
沈黙が治った10秒後に、再びアニスが沈黙させられているのはさておき。
沈着状態の中、突然ランスとカミーラが3体並んでいるアトラスに飛び掛る。
対して、アトラス達は迎え撃とうと構えるが、彼らは気付いていない。
マリスと共に最初のアトラスを相手にしていたカミーラが、
気付かれぬうちに"タルカジャ"を二回掛けていたのだ。
最大4回まで掛けれるが、アトラスを二名が一撃で倒せるのは十分な回数。
「新・必・殺!! 達磨返しィィーーッ!!」
≪ずぶしゅぅ……っ!!≫
『(デスバウンドッ。)』
『な、何ッ!? この力――――』
『ごッ、ごああああぁぁぁぁ……ッ!!』
≪――――ズドドォッ!!≫
「くくくっ、流石俺様……(他にもまた、何か閃きそうな気がするぜ。)」
パワーアップされたランスとカミーラに気付いても、今既に遅し。
ランスは閃いた"達磨返し"という、ランスアタックと違い、
下から上へと突き上げる斬撃で、アトラスの体を二分する。
そして、カミーラは更に磨きの掛かった翼での、
"デスバウンド"の薙ぎ払いで二体のアトラスを一瞬で葬った。
これで倒したとは言え、久々にニュートラル悪魔と遭遇出来たランスは、
ようやく閃いた"必殺技"の手ごたえを感じながら機嫌を良く口元を歪ませた。
最後の合体の為の仲魔を探す為……都庁の探索は続く。