第7話:妖魔
……都庁南の塔、41階。
あれから何度か戦闘を行ったが、40階を満遍なく回っても、
もう悪魔が出現しなくなったので、一行は41階に上がったのだ。
すると、ランス達を待ち構えるように3体の悪魔が出現した。
その悪魔は"妖魔"であり、ランスが狙っていた悪魔の種族だった。
『こ、こいつら! 一体何処から……』
一体目は"妖魔 キンナラ"で、メズキのように馬の頭。
そして黄色い長身の人間の肉体と、大剣を持っている。
魔法にも優れ、マハラギオン・スクカジャ・ラクカジャを使うのだが、
ランス達の登場に一番慌てている様子だ。
『むぅ……下の部隊はどうなったと言うのだッ?』
二体目は"妖魔 ガネーシャ"で、青いゾウの頭の悪魔だ。
即死魔法の"ムド"と、アトラスも使った"ディアラハン"をも使う。
キンナラと違って若干冷静な悪魔のようだが、
やはり来るはずの無い敵が来て驚いている様子。
『やられたと言うのか? どちらにしろ、通す訳にはいかんな……』
最後の三体目は"妖魔 ハヌマーン"、通称"猿の神"。
速さと手数に優れ、"タルカジャ"を使う最高クラスの妖魔だ。
三体の中では一番強いのか、キンナラとガネーシャよりも一歩前に出ている。
……こんな三体は、メシア側の都庁の悪魔達の中では、
頭数は少ないが非常にバランスの取れた編成であり、
戦うのであればランス達は"五体満足"で済むか際どい所だろう。
キンナラとガネーシャは抜刀しているのだが、
ランスの目的は彼らと戦う事では無いので、雷神剣を抜かずに近付いた。
「(ピピッ)妖魔……"ハヌマーン"だな?」
『いかにも……ガイアの者よ、死にたくなければ引き返すが良い。』
「いや、俺様はガイア教徒なんかじゃねぇぜ? お前に用があったんだ。」
『ケッ! 何デタラメ言ってやがる!?』
『ハヌマーン殿、耳を貸してはいけませんぞッ。』
『……悪いが彼らは聴く耳を持っていないようだが?』
「(う~む、確かにガイア教と思われるのは仕方ねぇよなぁ~……)」
≪くるっ≫
一番強いと思われる"ハヌマーン"と交渉を始めようとするランス。
しかし、キンナラとガネーシャが口を挟み、本題に移れない。
よってどうしたものか……と考えるランスだったが、
リア達が自分を見守る背後を振り返って、ハッと閃いた。
『一瞬であれど我々に背を向けるとは、大した根性だな。』
「へっ、お前らもそんなに余裕で良いのかァ?
後ろの、間抜け面で"欠伸(あくび)"をしている奴を見てみろッ!」
『何ィッ?』
『それがどうしたッ?』
『むっ!? (あやつは――――)』
「ふわ~~あぁあァ……」
前を向きながら、ランスは親指で後ろを指し、
ハヌマーン達は後方にいる"アニス"を注目した。
この時のアニスは、もう10回程マリスに"マカジャマ"を掛けられ、
ややイジけているのか、緊迫した状況でだらしなく欠伸をしていたのだ。
戦わせられない只の部外者の呑気な欠伸でしかないのだが、
その欠伸を、"ハヌマーンだけ"は違う捉え方をしたようだった。
ランスはそれを察して、"しめた!"と思いながら口を開く。
「くくくっ……お前には感じたか? あいつの"魔力"がよ。」
『確かに、あの余裕……只者ではないようだな……』
「だろぉ? 例え俺様たちと戦おうとしてもな、
お前らはあいつの"メギドラオン"で一瞬であの世逝きだぜ。」
『な、なんだとぉ!?』
『ぶざけおって!!』
≪がばっ!!≫
『――――待て、命を無駄にしたいか!!』
『えぇ!? そ、そんなに強いのかよ、あいつらッ……』
『は、ハヌマーン殿……』
確かにアニスが"メギドラオン"を使えばハヌマーンたちは消し飛ぶだろう。
だが、只では済まないのはランス達も一緒なので、使わせれる筈が無い。
つまり……"ハッタリ"であり、アニスは余裕ぶっているのではなく、
ただ不貞腐れて欠伸をしているだけなのである。
よってリーダーたる者、部下の命は大事にせねばならず、
その志を持っていた"ハヌマーン"だからこそ、
アニスの存在は驚異的なものである事から、罠に引っ掛かってしまったのだ。
キンナラとガネーシャは戦う気のようだったが、
ハヌマーンに止められると、彼は聞く態勢に入ったようで言った。
『くっ……できるな、用を言ってみろ。』
「がははは、懸命だぜ! じゃあ、これを見てみろッ!」
『ふむ、デビルサマナーの証……か。』
「知ってたか? なら話は早ぇな! 俺様の"仲魔"になれッ!」
……
…………
『リーダーの事、頼んだぜッ?』
『不本意だが、仕方あるまい……』
「おう、お前らは帰って寝とけ~!」
交渉の末、"妖魔 ハヌマーン"はランスの仲魔になった。
Lv63……ランスを若干上回るのだが、
アニスのレベル(70以上)が適用されたようなので、
ハンドヘルドコンピューターへの受け入れが完了した。
しかし、彼が仲魔になる条件は色々とあった。
ひとつ、部下であったキンナラとガネーシャには手を出さない事。
ふたつ、キンナラとガネーシャに多少のマッカを支払う事。
みっつ、この後の"都庁・北の塔"での戦いにハヌマーンを参加させる事。
「ランスさん、これで仲魔探しは終ったのですか?」
「いや、まだだぜ? もう一体仲魔が必要だ。」
「合体には、二体居ればいいんじゃなかったのぉ?」
「何を言うか、次で最後なんだから、"三身合体"に決まってるだろうッ。」
『ランス様、一体何を作られるのですか?』
「ふっふっふっ、それは見てのお楽しみだな。」
『それは楽しみじゃのぅ~。』
『……(私を凌ぐ……"あちら"の悪魔……か。)』
「それじゃ、今度は"北の塔"に行かねぇとな。
CHAOS属性の悪魔を仲魔にせにゃあならん。」
「それでは、もう"こちら(南の塔)"に用は無いと言う事ですか?」
ハヌマーンの三つ目の願いは、ガイア側の悪魔と戦いたいと言う事。
ランスがどちらにも属さないデビルサマナーと言う事は言われて理解した。
しかし、この後同じように"トラポート"でカオス側の塔に行くようなので、
"三身合体"に使われて戦線を完全に離脱してしまう分、
それなりにガイア教徒を叩いておきたいと言うのだ。
対してランスは、ハヌマーンは普通に強い悪魔なので、それを許可した。
「そうなるなぁ、此処にゃあもう用無しだ。
時間もあるようだし、さっさと二体目を仲魔しねぇとな。」
「……では、"戻らないといけません"ね。」
「何、戻るだとぉ? まだ時間があると――――」
「アニスさん。」
「えっ? わわっ!」
≪ぐいっ!≫
「どうして、ずっと我慢していたのです?
先程の欠伸までも、演技だったと言うのですかっ?」
「そ、そんなッ……この程度ッ大した事はッ!」
「えぇっ? ち、ちょっとぉ、凄い血が滲んで……」
『なんと、痩せ我慢じゃったのか?』
『いけませんね、道場でゆっくりと傷を塞がなければ……』
「これは違う、違うのです! え~っと……
ち、ちょっとリキんだら赤い汗が出てしまっただけですッ!」
「……もうちょいマシな言い訳できねぇのか?」
「良いですか? "トラポート"が使えるのはアニスさんだけです。
そのアニスさんが倒れれば、私達全員、生きて帰れなくなります。」
ランスはまだまだやる気だったが、マリスが急に帰還案を持ち出した。
アニスは隠していたが、彼女の病み上がりの体は、
一時間足らずだが、戦わずにせよ動いただけで、
傷口が少しづつ……少しづつ、開いてしまっていたのだ。
道場夫婦には許可を受けておらず、内緒で同行していたらしい。
滲み出た血はまだ少なく、包帯の途中で止まっているのか、
巫女服を汚してしまってはいないが、マリスに引っ張られた弾みで、
露出した包帯は赤く染まっているのが見えており、
アニスは痩せ我慢での脂汗を滲ませているほどだった。
(ちなみに、不貞腐れて欠伸していたのは演技ではない)
しかしアニスは"まだいける"ような事言うのだが、
(実際拘束されていた時の陵辱により、感覚が麻痺しつつあり間違いではない)
マリスに真っ向から定説を言われて、少し項垂(うなだ)れながら言った。
「わ……わかりました~、貸して貰った服が汚れるのは嫌ですし、
戻る事にしましょうか……ぶつぶつ。」
「(そっちかよ……)だったらそれで決まりだ、前の場所に送れるかッ?」
「あぁっ! それどころじゃ無いみたいですよぉ~?」
「何ぃーッ?」
≪ドォンッ、ドンドンッ!!≫
「居たぞーーッ、侵入者だーーッ!!」
「ゲッ!? メシア教徒かよッ!!」
「あれは……"ターミネイター"。」
≪フォンッ!! フオオォォーーンッ!!≫
"メシア教徒 ターミネイター"、すなわち殺戮部隊。
両手にライフルとショットガンを持ち、ジェット装置で飛行が可能。
メシア側の空中戦の主力とも言える中堅的な部隊である。
天井に右手でハンドガンを発砲した一人の"ターミネイター"は、
直ぐさまライフルに持ち替えると、ランス達に近付いてくる。
すると数秒後、弾音を聞きつけた数人の"ターミネイター"も出現し、
低空飛行によりランス達をあっという間に包囲した。
「簡単にゃあ、帰してくれねぇか。」
「どうしますか?」
「決まってんだろ! 香とキクリヒメはアニスを見ておけッ!」
『はいッ。』
「そんな、大丈夫です! わたしはッ手を借りずとも……」
『そうもいかん、気をつける事は逆にあるのじゃ。』
「(……ま、ハヌマーンに戦わせるのは明日でも良いな。)」
……
…………
「…………」
……十数分後、回復道場の広間。
その中心で、道場主が座禅を組んで瞑想をしていた。
主に客を待っているときは、基本的にこのような形で待っている道場主。
ランスが始めて彼と対面したときも、このような感じだった。
しかし、この神聖で静かな部屋の雰囲気は長く続かず――――
≪……どすどすどすぅっ!!≫
「ぐ、ぐおおぉぉ~~っ!!」
「ただいま~。」
「うむ、ナイスクッション。」
道場主の頭上から、突然現れたランス・リア・マリスが降ってきた。
ターミネイター達を倒し、仲魔を回収し、トラポートを受けたのだ。
(仲魔が一緒だと、何となく不安だったのであえて回収した)
それにより潰された道場主は、ランス達が退くと何とか起き上がる。
「あ、相変わらず……驚かせてくれる連中だ。」
「ふん、避けれないのが悪いぜッ。」
「!? それよりもだ、アニス殿を見かけなかったかッ?」
「アニスさんを、ですか?」
「えっと、あの娘ならぁ~。」
「今妻が探しているのだが、店を開けることも出来ぬしな……
むぅ……何だッ? 上に何かあるの――――
≪――――どすんっ!!≫
……ぐほおおぉぉ~~っ!!」
「だから、上を挿してやったと言うのに。」
アニスの場所を聞かれ、人差し指で天井を指差すランスら三人。
すると今度は道場主の頭上からアニスが落ちてきて、彼を再び潰した。
波状落下によりダメージが高く、少しピクピクしていた道場主は、
アニスがどいてくれるまで待っていたようだったが……
「おい、アニス~?」
「アニスさんッ?」
「……ッ……」
≪ごそごそっ≫
「むっ!? いかんッ、傷口が開き過ぎて気絶しているようだぞ!!」
「何だとぉ~ッ?」
「!? あなた、これは一体……」
「おぉ、丁度良かった! 早速治療をし直さねばならんなッ。」
「"内の傷"は昨日癒しましたが、外の傷はこれからだったので、
昨日あれ程、"無理してはいけない"と言いましたのに……」
「そうだったのですか? 私はてっきり……」
「う~む……テレポートだけしてりゃ良いって言ったのによ。
随分と余計に動いて、負担かけちまってたしなぁ~。」
「大丈夫なのかなぁ?」
「な~に、丈夫そうだし、あのオヤジが診るなら平気だろ。」
"トラポート"を唱えるまでは大きな衝撃が無かったので平気だったが、
落下の衝撃の痛みで脳が驚き、アニスは気絶してしまったらしい。
たかが2メートルの誤差と言えど、デリケートな傷口には激痛。
アニスの下からゴソゴソと這い出した道場主は、
タイミングよく戻ってきた巫女とアニスを抱えると、
ランスとリア達とは別の部屋に治療の為に入って行ってしまった。
……アニスの借りた巫女装束も、外出用で着せてもらったのではなく、
只単にそれ以外の衣服が無かったからなのだ。
「ダーリン、どうするの~?」
「アニスがあれじゃあ仕方無ぇしな、カテドラルでレベル上げだ。」
「それしかありませんね。」
「その前に、適当に買い物もしておくぜ?
そろそろ"戻れる"訳だし、金は使い切っておくに限るからなッ。」
「……むうぅ~……」
「(リア様……)」
……
…………
……それから、3時間後。
相手を"緊縛"させる効果のある弾丸、"閃光弾"を3セット購入し、
マリスには"シュツルムアーマー"を購入させてそのまま装着。
よりカテドラルでの悪魔との戦いを楽にさせる為、マッカは惜しまなかった。
一方ランスは未だに銀座で購入した"ドラゴンメイル"なのだが、
どうやらこの鎧が気に入っているらしい。
「ふぃ~、今日はこれくらいにしておくか。」
「結構、疲れたねぇ……」
「ランスさん、"どの程度"になりましたか?」
「"62"ってとこだな、アニスが高ぇから良いかもしれねぇが、
上げて置くに越した事はないだろうしなァ。」
「えへへ~、リアは"56"なんだぁ。」
「才能限界に縛られる事が無いのは、良いものですね。」
『羨ましいものじゃのお。』
『私も人間の体として、"こちら"に来たかったものです。』
『…………』
「でも……リアが"あっち"に戻っちゃったら、
"こっち"のレベル、無くなっちゃうのかなぁ……?」
「そればかりは、なんとも……」
「がははは、俺様はどっちでも良いけどな。」
「リアはやだよぉ~……」
そんな会話をしながら、カテドラルカオスを歩くランス達。
夜が近付き、ある程度消耗したので、今日はこれで切り上げるようだ。
そして回復道場が近づくと、ランスは仲魔達を回収し、
いつものように此処で夜を明かすべく、中にへと入った。
……
…………
……1時間後。
ランスは部屋に戻って武装解除し、一息つくと広間に出た。
すると……マリスとリア、そして道場主の姿があり、
ランスは三人の近くまで行って腰を降ろすと胡坐を組んで言った。
勝手にちゃぶ台の上にあるツマミに手を出すのも忘れない。
「おっさん、アニスはどうなんだ?」
「うむ……大半の外傷の治療も済み、今は眠っている。
このまま夜中まで交代で魔法を掛け、一晩すれば動けるだろう。」
「明日も連れ出すつもりだが、良いんだよな?」
「無理に戦わすので無ければ構わぬが……心の傷はまだ開いたままだ。
性分からか普通では察せ無いかもしれぬが、私には判る。」
「……(一度死んだ上に、レイプとかされてるみてぇだしな~。)」
「貴方~、そろそろ交替をお願いします。」
「わかった! ……では私は引き続き治療に移る、お主らも休むが良い。」
「おう、お前らもしっかり休んでおけよ~?」
「はい。」
「うん……リアもう……寝るぅ……」
≪ふらあ~っ≫
「んんっ? なんだぁ、あいつ。」
「……それでは、私も失礼します。」
「????」
道場主と話している最中、リアは何故かずっと暗そうだった。
彼女にしてはとても珍しくどよ~ん……としており、
ゆっくりと部屋に戻るリアにランスは思わず首を傾げた。
そんなリアを追うようにしてマリスも去り、
ランスが取り残されたが、彼も腰を上げると欠伸をしながら自室に戻っていった。
……
…………
……更に一時間後。
自室でシャワーを浴び、トランクス一枚のランスは、
ベットの上で後頭部で組んだ腕を枕にしながら、一人考えていた。
残り一体を仲魔にして合体で完成する、"新しい仲魔"の事をだ。
"その悪魔"を作ればランスは"あっち"に戻れるので、彼はニヤついていた。
「(最後は"あの種族"でラスト……か。
色々と梃子摺ったが、ようやく帰れるって訳だぜ。)」
最初は"こんな世界"に飛ばされて冗談ではなかったが、色々な悪魔とエッチできた。
"エルフ"で始まり、今となってはあの"カミーラ"。
それらの悪魔を抱けただけで、こちらでの手間は清算できたと言っても良い。
しかも、まだ"アニス"と"最後の仲魔"が残っているし、ニヤつきを隠せない。
「(アニスは駄目だが、今夜は香でも召喚すっかな~。
それかカミーラ……いや、いっその事3Pでもいいぜ。)」
こっちに来た当初は皆無だった、エッチでの耐久力は若干戻って来ている。
ようやく3Pであれば、無難にこなせるまでの体になったのだ。
そんな訳で、ランスは鼻の下を伸ばしてアームターミナルに手を掛けようとしたが……
≪――――コンコンッ≫
「ん、誰だ?」
「私です。」
「おぉ、お前か。 入って良いぞ~。」
≪ガチャ……≫
「……失礼します。」
部屋の入り口のドアをノックする音が響く。
その後、聞こえた声で誰だか判ったランスが答えると、ゆっくりドアが開き……
神妙そうな表情の、マリス・アマリリスが入室した。
○ステータス(初期値ALL5+ボーナス18+Lv=合計)
ランスLv62 力32 知12 魔12 体22 速22 運10
リ アLv56 力10 知20 魔30 体10 速16 運16
マリスLv60 力14 知28 魔16 体14 速28 運08
アニスLv72 力20 知10 魔40 体20 速25 運05
残金:5000マッカ