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No.2605の一覧
[0] 運命の使い魔と大人達(「ゼロの使い魔」×「リリカルなのは」ほぼオリキャラ化) 完結[らっちぇぶむ](2008/12/21 12:58)
[1] 運命の使い魔と大人達 第一話[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:32)
[2] 運命の使い魔と大人達 第二話前編[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:27)
[3] 運命の使い魔と大人達 第二話後編[らっちぇぶむ](2008/02/10 00:31)
[4] 運命の使い魔と大人達 第三話前編[らっちぇぶむ](2008/02/13 23:07)
[5] 運命の使い魔と大人達 第三話後編[らっちぇぶむ](2008/02/17 17:14)
[6] 運命の使い魔と大人達 幕間その1[らっちぇぶむ](2008/02/20 02:31)
[7] 運命の使い魔と大人達 第四話前編[らっちぇぶむ](2008/02/24 14:21)
[8] 運命の使い魔と大人達 第四話後編[らっちぇぶむ](2008/02/27 22:29)
[9] 運命の使い魔と大人達 第五話[らっちぇぶむ](2008/03/02 20:58)
[10] 運命の使い魔と大人達 第六話[らっちぇぶむ](2008/03/05 20:10)
[11] 運命の使い魔と大人達 第七話前編[らっちぇぶむ](2008/03/12 23:57)
[12] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その一[らっちぇぶむ](2008/03/16 22:03)
[13] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その二[らっちぇぶむ](2008/03/19 23:20)
[14] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その三[らっちぇぶむ](2008/03/23 21:17)
[15] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その四[らっちぇぶむ](2008/03/27 19:28)
[16] 運命の使い魔と大人達 第七話後編[らっちぇぶむ](2008/03/30 20:14)
[17] 運命の使い魔と大人達 第八話[らっちぇぶむ](2008/04/02 23:24)
[18] 運命の使い魔と大人達 第九話前編[らっちぇぶむ](2008/04/05 22:29)
[19] 運命の使い魔と大人達 第九話中篇[らっちぇぶむ](2008/04/09 15:33)
[20] 運命の使い魔と大人達 第九話後編[らっちぇぶむ](2008/04/15 00:00)
[21] 運命の使い魔と大人達 最終話[らっちぇぶむ](2008/04/15 09:18)
[22] 運命の使い魔と大人達 後書き[らっちぇぶむ](2008/04/15 20:34)
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[2605] 運命の使い魔と大人達 第三話後編
Name: らっちぇぶむ◆c857d2f4 ID:49f6089b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/17 17:14
 「土くれ」のフーケが見事トリステイン魔法学院の宝物庫から「破壊の杖」を強奪した翌朝、学院は蜂の巣をつついたかのような騒ぎになっていた。
 なにしろ、秘宝の「破壊の杖」を、巨大なゴーレムが壁を破壊する、という大胆不敵な方法で盗んでいったのである。幾重にも魔法で強化された城壁ほどもの厚みのある壁を、強引にぶち抜いて侵入するなど、誰も想像もできなかった事態であったのだ。
 というわけで学院中の教師が集まって、壁にあいた大きな穴を見て、口をあんぐりをあけて呆然としていたのであった。
 ちなみに、というか、当然のごとく壁には「土くれ」のフーケの犯行声明が刻まれている。

「破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ」

 とりあえず一通り茫然自失の状態が過ぎると、次は責任のなすりあいとなる。

「衛兵は何をしていたんだ!」
「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! それより当直の貴族は誰だったんだね!」

 シュヴルーズは震え上がった。昨晩の当直は、彼女であったのだ。まさか魔法学院を襲う盗賊がいるなどとは夢にも思わずに、当直をサボって自室でぐうぐう寝ていたのである。本来ならば、夜通し門の詰め所に待機していなければならないのに。

「ミセス・シュヴルーズ! 当直はあなたなのではありませんか!」

 教師の一人が、さっそくシュヴルーズを追求し始めた。オールド・オスマンが来る前に責任の所在を明らかにしておこうというのだろう。
 シュヴルーズは、とうとう泣き出してしまった。

「も、申し訳ありません……」
「泣いたって、お宝は戻ってはこないのですぞ! それともあなた「破壊の杖」の弁償ができるのですかな!」
「わたくし、家を建てたばかりで……」

 シュヴルーズは、よよよと床に崩れ落ちた。

「これこれ、女性を苛めるものではない」

 はやシュヴルーズに対する糾弾大会になりそうになったその時、オールド・オスマンが登場した。とりあえずシュヴルーズに対する非難の声はおさまったが、皆口々にオスマンに訴える。

「しかしですな! オールド・オスマン! ミセス・シュヴルーズは当直なのにぐうぐう自室で寝ていたのですぞ! 責任は彼女にあります!」

 オールド・オスマンは、長い口ひげをこすりながら、口から唾を飛ばして興奮しているその教師を見つめた。

「ミスタ……、なんだっけ?」
「ギトーです! お忘れですか!」
「そうそう。ギトー君。そんな名前じゃったな。君は怒りっぽくていかん。さて、この中でまともに当直をしたことのある教師は何人おられるかな?」

 オスマン氏は、あたりを見回した。教師達はお互いを見合い、そして恥ずかしそうに顔を伏せた。名乗り出る者はいなかった。

「さて、これが現実じゃ。責任があるとするなら、我々全員じゃ。この中の誰もが、もちろん儂も含めてじゃが……、まさかこの魔法学院が賊に襲われるなど、夢にも思っていなかったのじゃ。何せ、ここにいるのは、ほとんどがメイジじゃからな。誰が好き好んで、虎穴に入るのかっちゅうわけじゃ。しかし、それは間違いじゃった」

 オールド・オスマンは壁にぽっかりあいた穴を見つめた。

「この通り、賊は大胆にも忍び込み、「破壊の杖」を奪っていきおった。つまり、我々は油断していたのじゃ。責任があるとするならば、我ら全員にあるといわねばなるまい」

 シュヴルーズは、感激してオールド・オスマンに抱きついた。

「おお、オールド・オスマン、あなたの慈悲のお心に感謝いたします! わたしくはあなたをこれから父とお呼びすることにいたします!」
「ま、それはさておき、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」

 とりあえずシュヴルーズのお尻をひと撫でしてから、オールド・オスマンは、ぐるりと周囲の教師らを見回した。

「この三人です」

 コルベールがさっと進み出て、自分の後ろに控えていた三人を指差した。
 ルイズにキュルケにタバサの三人である。フェイトもそばにいたが、使い魔なので数には入っていない。

「ふむ……、君達か」

 オールド・オスマンは、興味深そうにフェイトを見つめた。そのフェイトといえば、目を伏せたまま、相も変らぬ口の端をわずかに歪めた表情で黙って主人であるルイズの後ろに控えている。

「詳しく説明したまえ」

 ルイズが進み出て、見たままを述べた。

「あの、大きなゴーレムが現れて、ここの壁を壊したんです。そして、あいた穴から黒いメイジがこの宝物庫の中から何かを……、その「破壊の杖」だと思いますけれども……、手に持ってゴーレムの影に隠れました。ゴーレムは城壁を越えて歩き出して……、最後には崩れて土になっちゃいました」
「それで?」
「後には土しかありませんでした。黒いローブを着ていたメイジは、影も形もなくなっていました」
「ふむ……」

 オスマン氏はひげを撫でた。しばらく無言でそうしていると、気がついたようにコルベールに尋ねた。

「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
「それがその……、朝から姿が見えませんで」

 オールド・オスマンはコルベールに軽く目配せすると、少々声のトーンを高めた。

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」
「どこなんでしょう?」

 同じように軽く目配せして答えたコルベールが、なんというか困った様子で答える。
 と、そんな風に噂しているところに、ロングビルが駆け込んでくる。

「ミス・ロングビル! どこに行っていたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

 興奮した調子で、コルベールがまくし立てる。しかし、ロングビルは落ち着きを払った態度でオールド・オスマンに告げた。

「申し訳ありません。朝から、急いで調査しておりました」
「調査、かね?」
「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこの通り。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪盗の仕業と知り、すぐに調査におもむいたのです」
「仕事が早いの。ミス・ロングビル」

 そこにコルベールが割って入り、慌てた調子で促した。

「で、結果は?」
「はい。フーケの居所と申しますか、隠れ家がわかりました」

 おおう、と、教師達からどよめきが起きる。

「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい、近在の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋は隠れ家ではないかと」

 ルイズが叫んだ。

「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」

 オールド・オスマンは目を鋭くして、ロングビルに尋ねた。

「そこは近いのかね?」
「はい、徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「すぐに王室に報告しましょう! 王室衛士隊に頼んで、兵隊を差し向けてもらわなくては!」

 コルベールが叫んだ。
 しかしオールド・オスマンは首を振ると、目をむいて怒鳴った。年寄りとは思えない迫力であった。
「馬鹿者! 王室なんぞに知らせている間にフーケは逃げてしまうわ! その上……、身にかかる火の粉を己で払えぬようで、何が貴族じゃ! 魔法学院の宝が盗まれた! これは魔法学院の問題じゃ! 当然我らで解決する!」

 ロングビルは微笑んだ。まるで、この答えを待っていたかのようであった。
 オールド・オスマンは咳払いをすると、有志を募った。

「では、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」

 誰も杖を掲げない。困ったように顔を見合すだけである。

「おらんのか? おや? どうした! フーケを捕らえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」

 ルイズはうつむいていたが、それからすっと杖を顔の前に掲げた。

「ミス・ヴァリエール!」

 シュヴルーズが、驚いた声をあげた。

「何をしているのです! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も杖を掲げないじゃないですか」

 ルイズをきっと唇を強く結んで言い放った。その毅然とした表情と、真剣な目をした彼女は凛々しく、そして美しかった。そんな主人の姿を見て、ずっと黙ってうつむいていたフェイトは、わずかに微笑みらしきものを浮かべた。
 ルイズがそのように杖を掲げているのを見て、キュルケもさっと杖を掲げた。

「ミス・ツェルプトー! 君は生徒じゃないか!」

 驚いた声をあげたコルベールに、キュルケはつまらなさそうに言った。

「ふん。ヴァリエールには負けられませんわ」

 キュルケが杖を掲げるのを見て、タバサも杖をかかげる。

「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」
「心配」

 キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。ルイズも、唇をかみ締めてお礼を言った。

「ありがとう……。タバサ……」

 そんな三人の様子を見て、オールド・オスマンは莞爾とした笑みを浮かべた。

「そうか。では、頼むとしようか。よいな、諸君」
「オールド・オスマン! わたしは反対です! 生徒達をそんな危険にさらすわけには!」
「では、君が行くかね? ミセス・シュヴルーズ?」
「い、いえ、わたしは体調がすぐれませんので……」
「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」

 タバサは返事もせずに、ぼけっと突っ立っている。教師達は驚いたようにタバサを見つめた。
 キュルケも驚いている。王室から与えられる爵位としては最下級の「シュヴァリエ」の称号ではあるが、たかだか十五歳の彼女がそれを与えられるというのが驚きである。男爵や子爵の爵位ならば、領地を買うことで手に入れる事も可能であるが、シュヴァリエの称号だけは違う。純粋に業績に対して与えられる爵位であり、実力の称号なのだ。

「ミス・ツェルプトーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」

 キュルケは得意げに、髪をかきあげた。
 それから、ルイズが自分の番だとばかりにかわいらしく胸を張った。

「そして、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女で、その爆発魔法は強烈無比と聞いておるが?」

 まさしくものは言い様である。かなり微妙な言い回しに、ルイズは思わずオールド・オスマンから目をそらした。その威力を身をもって味わったことのある教師らが、一斉に納得したようにうなずく。

「しかもその使い魔は、平民の身でありながら、あのグラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」

 すっと目を細めてフェイトを見つめるオールド・オスマンに、彼女はあくまで目を伏せたまま、口の端を歪めただけであった。
 そんなオールド・オスマンの言葉に、教師達はすっかり黙ってしまった。オールド・オスマンは威厳のある声で言った。

「この三人に勝てるというものがいるのならば、前に一歩出たまえ」

 誰もいなかった。もっとも、オールド・オスマンとコルベールが再度何か視線でやりとりしたのに気がついた者も誰もいなかったが。
 オールド・オスマンは、フェイトを含む四人に向き直った。

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族としての義務の完遂に期待する」

 ルイズとキュルケとタバサは、真顔になって直立すると「杖にかけて!」と同時に唱和した。それからスカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。フェイトはというと、相変わらず黙ってうつむいたまま、口の端を歪めているだけであった。

「では、馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地につくまで温存したまえ。ミス・ロングビル」
「はい。オールド・オスマン」
「彼女達を手伝ってやってくれ」

 ロングビルは頭を下げた。

「もとよりそのつもりですわ」
「うむ、頼んだぞ。ではこれにて解散とする。各々担当に戻りなさい。破壊された壁の修復は儂がやっておくからの」

 オールド・オスマンの言葉に三々五々に散っていく教師らを尻目に、老魔法使いはフェイトに歩みよった。

「というわけじゃ。くれぐれも「皆」を頼んだぞ」
「「皆」ですか。よろしいのですか?」
「うむ。こんなつまらん事件で、騒ぎを外へと広げたくはないからの」
「……承りました」


 四人は、ロングビルを案内役に早速出発した。
 馬車といっても、屋根無しの荷車のような馬車であった。襲われた時に、すぐに外に飛び出せるほうがいいということで、このような馬車にしたのである。
 ミス・ロングビルが御者を買って出た。
 キュルケが、黙々と手綱を握る彼女に話しかけた。

「ミス・ロングビル……、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」

 ロングビルはにっこりと笑って答えた。キュルケはきょとんとして質問を重ねた。

「だって、貴女はオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だということに、あまり拘らないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

 ロングビルは優しい微笑みを浮かべた。それは言いたくないのであろう。

「ミス・ツェルプトー。それ以上は許して差し上げてはいただけないでしょうか?」

 馬車に乗ってからずっと黙ったままであったフェイトが、優しげな声をかける。ぎょっとしてキュルケは、フェイトの方に振り返った。
 フェイトは珍しく顔をまっすぐに上げ、柔和な微笑みを浮かべてキュルケを見つめていた。

「えーと、あのね、暇だからちょっとおしゃべりしようと思っただけよ。他意はないから」

 柔和な微笑みの後ろに鋭い警告の意味を察し、キュルケは慌てた様子で弁解する。そして、ばつが悪くなったのか、ルイズの方に向き直ると、とってつけたように憎まれ口をきいた。

「ったく……、あなたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。何が悲しくて泥棒退治なんか……」
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あなた一人じゃ、危なっかしくてみてられないじゃない。ま、あなたがあのゴーレム相手にあたふたするのが見たくてついてきたようなものだし」
「なによ、今日のわたしは一味違うわよ! 昨日みたいに、魔力がつきる直前だったり、筋肉痛でへたばっていたりしていないんだから! 朝ごはんもしっかり食べてきたんだから!」
「はいはい。でも、あなたの魔法は通用しなかったわねえ」

 二人は再び火花を散らし始めた。タバサは相変わらず本を読んでいる。
 そんな二人を見ながら、フェイトはまた視線を伏せた。ただ、浮かんだ微笑は消えることはなかった。


 馬車は深い森に入っていった。鬱蒼とした森が、ルイズ達の恐怖をあおる。昼間だというのに薄暗く、気味が悪い。

「ここから先は、徒歩で行きましょう」

 ミス・ロングビルがそう言って、全員が馬車から降りた。
 森を通る道から、小道が続いている。

「フェイト、どうしたの? なんかさっきから遅れているじゃない」
「申し訳ありません。この靴では歩きにくくて」

 ルイズが振り返り、最後尾をついてくるフェイトに向かって声をかける。何しろフェイトは、時々立ち止まっては、地面を見やったり、耳をつけたりと、どうも皆から遅れがちであったのだ。
 そんなフェイトの様子を、タバサとロングビルは真剣な表情で見つめていた。


 一行は、ひらけた場所に出た。森の中の空き地といった風情である。およそ魔法学院の中庭ぐらいの広さであった。そして真ん中に、確かに廃屋があった。元は木こり小屋かなにかであったのだろうか、朽ち果てた炭焼き用らしき窯と、壁板が外れた物置が隣に並んでいる。
 五人は小屋の中から見えないように、森の茂みに身を隠したまま廃屋を見つめた。

「わたしくしの聞いた情報ですと、あの中にいるという話です」

 ロングビルが廃屋を指差して言った。外から見る限りでは、人が住んでいる気配はまったくない。

「それでは、ミス・ロングビルと私とで中を探って参ります。お嬢様はフーケが飛び出してきたら魔法で足止めをお願いいたします。ミス・タバサはウインド・ドラゴンで上空から周辺を監視してください。ミス・ツェルプトーは、周囲にフーケが隠れていないかどうか、捜索をお願いいたします。
 皆様、とにかくフーケを見つけたら、自分ひとりで相手をしようとせず、必ず大声を出して皆に知らせて下さい。皆が力を合わせれば、いかな「土くれ」のフーケといえどかないはしないのですから」

 それまで皆の後ろについてくるだけであったフェイトが、顔を上げ、真面目な表情で全員に指示を下す。その光の無い視線の重さと強さに、思わず全員がうなずいてしまっていた。


 小屋の中には、真ん中に埃の積もった机と、転がった椅子、そして部屋の隅に薪が積み上げられていた。その薪の隣にチェストがあった。木でできた、大きい箱である。中には人の気配はなく、人が隠れられるような場所はなさそうであった。
 フェイトは先に小屋に入ると、ロングビルを中に招きいれ、後ろ手に扉を閉めた。

「どうやら誰もいないようですね」

 部屋の中をぐるりと見回して、ロングビルがそうつぶやいた。

「はい。というわけでミス・ロングビル、お手数をおかけしますが、外に声が漏れないように魔法をお願いできますでしょうか?」
「何故です? 早く「破壊の杖」を探しませんと」
「どうせそれは、そこのチェストの中に入っていますから。それよりも、ちょっとした「話し合い」をさせて頂きたいのですが。ミス・フーケ」

 すっとロングビルの顔から表情が消え、彼女の杖がフェイトに向けられる。

「なんの事です? そういう侮辱は看過しえませんが」
「それは失礼いたしました。ならば、時間の経過と足跡の付け方にはもっと慎重になられた方がよろしいかと」
「……つまり、最初から気がついていた?」
「疑ってはおりました。貴女であると確証を得たのは、学院に戻られた時間によってです。もう少し遅く、汚れた格好で戻ってこられるべきでしたね」

 その瞬間フェイトが浮かべた笑みに、ロングビルは背筋が凍りついた。目尻の下がった昏く濁った瞳にどろりとした殺気がこもり、弧を描いた唇は耳まで裂けそうにゆがめられている。脅しとは判っていても、ロングビルは突きつけた杖の先が震えるのを止められなかった。素手でぼんやりと立っている様に見えても、彼女はロングビルが呪文を唱えるより早く、文字通り致命的な一撃を送り込めるのであろう。
 長いこと裏街道を渡り歩いてきた彼女であるからこそ、フェイトの殺人者としての技量を見誤ることはなかった。一体全体どれだけの数の人を殺めてきたのか見当もつかないほどの血臭が、部屋に満ちたように彼女には感じられた。

「判ったよ。で、何を話し合おうっていうんだい?」

 ロングビルという皮を脱いだのか、はすっぱな口調と表情になって、フーケはため息をついた。そして、フェイトの要求通りに部屋全体に「サイレント」の呪文をかける。

「いえ、そう込み入った話ではないんです。ただ、「裏側」でやっていくための手助けをして欲しいんです」
「は? あんた、ヴァリエールのお嬢ちゃんの使い魔なんだろ? ヴァリエール公爵家といえば、この国でも一、二をあらそう大貴族だよ。何を好きこのんで陽の当たらないところにもぐりたがるんだか」
「だから、ですよ」

 それまでの従順な使い魔という仮面を脱ぎ捨てたフェイトは、昏い微笑みを浮かべて楽しそうに声を低くめた。

「こちらの召喚される前は、権力の狗として反吐が出そうなほど楽しい毎日を送ってきました。今更、愛玩犬として飼われたくはないんですが」
「くくっ! 随分と贅沢な事を言うねえ。明日のおまんますらままならない身になってどうするのやら」

 心底可笑しそうに、嘲りの笑いを漏らすフーケ。フェイトの言い草が余りに甘っちょろいものに聞こえたのであろう。だが、フェイトの続けた言葉に、その嘲笑はすぐに消えた。

「何しろ上官の利権のために、政敵の弱みを握り、作り出して脅し、それでも駄目なら事故に見せかけて消えてもらうとか、そんな濡れ仕事ばかりしてきたんです。貴族に飼われるということは、結局はそういう仕事をさせられる事になるでしょうし。ならば、まだ仁義が通じる裏側の世界の方がマシですから。それに、この世界では平民である限り貴族のおもちゃにされるのが判りきっていますし」
「……あんた、随分と楽しい人生を送ってきたみたいだね」
「重大犯罪人の娘として犯罪の片棒を子供の頃から担がされてきて、恩赦と引き換えに「猟犬」として濡れ仕事をしてきたんです。折角ですから、一度くらいは自由というものを満喫してみたくて」

 濁り腐って光の無い瞳のまま、そう微笑むフェイト。
 そんな彼女を冷たい視線で見つめたまま、フーケは低い声で呟いた。

「で、あたしを裏切らない、という保障は?」
「互いが互いを必要とする間は、互いに裏切る必要はないかと」
「いいねえ、いい答えだ。あんた、いい悪党になれるよ」

 くっくと哂うフーケ。次第にその哂いは高まっていく。

「判った。こんなドジを踏んだ以上、盗賊ごっこも店じまいにするしかないからね。で、あんた何か稼ぎネタはあるんだろうね? わざわざあたしを仲間に引き込もうっていう事は」
「ええ。なにしろそういうネタを嗅ぎまわるのが仕事でしたから」

 心底嬉しそうに微笑むフェイト。そしてフーケに向かって右手を差し出す。その手を同じく右手で握り返したフーケは、まっすぐフェイトの瞳を見つめ返し言った。

「どうやらあたし達は、いいコンビになれそうだよ。よろしくね」
「はい。末永く「お友達」でいられるとよいですね。よろしくお願いしますね」


 しばらく微笑みあいながら握手をしていたフェイトとフーケ。そして手を離したフーケはつまらなさそうな表情であごをしゃくってチェストの方に視線を向けた。

「それにしても、あの「破壊の杖」、なんだか判るかい? あたしには全く使えなかったんだけれども」
「ああ、それでわざわざ戻ってきたんですか」
「そ。学院の教師なら、誰か杖の使い方を知っているかと思ってね」

 フェイトは、チェストに近づき、蓋を開けた。
 中に入っているのは、ぼろぼの金属製の杖。
 その杖の先端の方に埋め込まれている水晶体を見ると、彼女は突如震え始めた。

「おいおい、大丈夫かい?」

 これまでとあまりに違ったフェイトの様子に、フーケが眉をひそめて近づこうとする。
 だがフーケは、数歩近づいたところで歩みを止めざるを得なかった。
 フェイトは笑っていた。
 右手で顔を掴み、両目を狂気にも似た輝きに見開き、唇はめくれ上がり犬歯がのぞいている。

「あぁあっ!!」

 一声吠える。

「ぁはああああああああぁっっ!!」

 そのまま仰け反り、一層狂気に満ちた声で吼える。

「ああっ、もう、本当に何でこんなところにまでッ!!」

 じろりとフーケに向けた眼は、大きく見開かれ、血走り、そして瞳孔が開いている。額のルーンがこうこうと輝き、フーケの瞳を焼く。
 フェイトのそんな表情を初めて見るフーケは、恐怖のあまり後ずさり、扉に背をぶつけた。思わず「ひいっ」と声にならぬ悲鳴が漏れ、膝が震える。
 そんなフーケの様子を見て、ぐにゃりと笑ったフェイトはあくまで優しい声で語りかけた。

「確かにこれは貴女では使えないでしょうね。だって、これは私の世界の「杖(デバイス)」ですから」

 そして、杖を両手で握ると、そっと呪文を唱える。

「Recovery」

 ぼろぼろだった杖が光り、まるで新品同様の輝きを取り戻す。

「Set Up」

 杖に埋め込まれた水晶体にルーンが浮き上がり、膨大な魔力がフェイトと「破壊の杖」との間で循環する。
 その有様に、フーケはただひたすらおののき、震えて見ているしかできない。

「ミス・フーケ」
「ぁひぃ」
「そんなに怯えないで下さい。ひとつお願いがあるのですが」
「な、なにさ」
「これの元の状態の物と同じ形状のモノを「錬金」してもらえます?」
「あ、ああ。ちょっと待っとくれ」

 フーケは震える手で杖を振り、手近の薪から元のぼろぼろの状態の「破壊の杖」を造りだした。
 フェイトはそれを拾うと、水晶体を中心に魔力を込め、細かいところを手直ししてゆく。その間、彼女の額のルーンは、こうこうと輝き続けている。
 新品同様になった「杖(デバイス)」と、元のぼろぼろの「破壊の杖」を見比べ、フェイトは満足そうに微笑んだ。一瞬前の狂気そのままの笑みは消え、普段の穏やかな微笑みに戻っている。

「Hold」

 「杖(デバイス)」は、光とともに小さな宝玉と化した。フェイトは、それをポケットにしまうと、「破壊の杖」を抱えてフーケを促した。

「「破壊の杖」も取り戻しましたし、学院に戻りましょうか」


 フェイトとロングビルが小屋の外に出ると、そこにはルイズ達三人が杖を構えて待ち構えていた。先ほどのフェイトの発した魔力が、三人にフーケが出現したと思わせたらしい。
 二人は、普段学院で振舞っている通りの表情と物腰で、三人に向かって微笑みかけた。

「大丈夫ですよ。どうやらフーケは一旦「破壊の杖」を隠して、どこかに移動したみたいですね」

 ロングビルがそう言って、三人を安心させる。フェイトも、抱えていた杖を三人に見せて、穏やかに微笑む。
 ルイズ達は、ほっと安心した様子で、杖を下ろした。

「なんか、あっけなかったわねえ」
「皆無事で良かった」

 ゆっくりと息を吐いたキュルケに、ほっと一息ついたタバサがまとめる。

「それにしても、すごい魔力だったわ。やっぱり、その「破壊の杖」?」
「みたいですね。今ではただのぼろぼろの杖ですが」

 ルイズが破壊の杖を覗き込むと、フェイトはそれをご主人様に手渡した。

「へ? 取り返したのは、あんたとミス・ロングビルでしょ? あんた達が持っていきなさいよ」
「いえ、奪還に志願なさったのは、お嬢様方ですから。どうぞお持ち下さい」
「あー、気持ちは嬉しいけど、手柄を横取りするつもりはないから」

 あさっての方を向き、困ったようにぽりぽりと指先で頬をかくルイズ。そんな主従二人に、ロングビルもフェイトに同意してみせる。

「教師の皆様さえしり込みした任務を、見事果たされたのです。どうぞミス・ヴァリエールがお持ちになって下さいな」
「そ、そう? うーんと、じゃあ、手柄はみんなのものだからね。あくまであたしが持つだけってゆう事で」
「ま、そんなところねー」
「妥当なところ」

 照れた様子で杖を受け取ったルイズは、しっかりと「破壊の杖」を抱きしめると、あらためて皆に向かって頭を下げた。

「ありがとう、みんな。助けてくれて」


 学院長室で、五人はオールド・オスマンに事の顛末を報告していた。

「ふむ、そういう事ならば仕方がないの。まずは皆が無事に戻ってこれた事を始祖に感謝しようて」

 うんうん、と、満足がいった様子で、オールド・オスマンは目尻を下げた。

「さてと、君達はよくぞ「破壊の杖」を取り返してきた」

 誇らしげに、フェイトとロングビルを除いた三人が礼をした。

「「破壊の杖」は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」

 一瞬、フェイトとロングビルに視線を向けてから、オールド・オスマンはルイズ達三人を一人づつ頭を撫でた。

「君達に褒美として、ささやかではあるが、単位について考慮するよう各教員に伝えておいた」

 三人の顔がぱあっと輝いた。なにしろ実技の授業が壊滅的成績なルイズと、自主休校の多いキュルケとタバサにとっては、下手な勲章よりもありがたいご褒美である。

「ほんとうですか?」

 キュルケが驚いた声で言った。

「ほんとじゃ。いいのじゃ。君達は、そのぐらいの事をしたんじゃから」

 ルイズは、先ほどから黙って後ろに控えているフェイトを見つめた。

「……オールド・オスマン。フェイトには、何もないんですか?」
「うむ、当然彼女にも考えておる。で、だ、それにはミス・ヴァリエールの許可が必要での」
「はい?」

 そこで、傍らに控えていたコルベールが前に進み出る。

「あー、その、なんですな。ミス・フェイトを正式に魔法学院の職員として迎え入れたい、と、そう考えておるのです。ただ、彼女はメイジではないので、教員ではなく、私の助手という形でですが」
「「えええっ!?」」

 さすがに驚きの声をあげるルイズとキュルケ。貴族の子弟の通うこのトリステイン魔法学院で、一介の平民を職員として迎え入れるという事がどれほど大変なことか、判らない二人ではない。ロングビルも、唖然とした表情でフェイトとオールド・オスマンの顔を交互に見やっている。
 で、肝心のフェイトといえば、何が起きているのかさっぱり判らない、という困ったような表情をして固まっている。

「で、ミス・ヴァリエール、どうかの?」
「え、え、えーと、フェイトは、わたしの使い魔で平民ですよ?」
「うむ、それを踏まえた上で、じゃ」
「その、……フェイトが良いなら、わたしも異存はありません」

 その場の全員の視線が、フェイトに集まる。
 心底困った表情でしばらく考え込んでいたフェイトは、意を決した様に微笑むと、オールド・オスマンに一礼した。

「私はあくまでルイズお嬢様の使い魔です。その上での雇用であるならば、謹んでお受けさせていただきます」
「うむ、判っておる。主人と使い魔は一心同体。生涯を通じてのパートナーじゃ。それを邪魔するつもりは毛頭ないから、安心してよいぞ」
「まあ、そういう訳ですので、これからもよろしくお願いいたします。ミス・フェイト」

 同じようにフェイトに向かって一礼したコルベールを見やりつつ、オールド・オスマンはうんうんとうなずいて、次にロングビルに目を向けた。

「というわけで、じゃ。ミス・ロングビル、お主にも何か褒美をと考えたわけじゃが、どうかの、これくらいの昇給ということで」

 そう言ってオールド・オスマンは、一枚の書類をロングビルに手渡した。

「……この額は、トライアングル級の教員と同額ではないですか」

 唖然として、オールド・オスマンの顔を見やるロングビル。
 すっと眼を細めたオールド・オスマンはそれでものうのうと言ってのけた。

「何、お主にはそれくらいが妥当かと思うがの? どうじゃろ」

 すっ、と、冷や汗が一筋額を伝うロングビル。あわてて取り繕うように眼鏡をなおすと、深々と一礼し、震える声で答えた。

「ご厚情、まことに感謝いたします」
「うむ、というわけで事は一件落着じゃ。さてと、今日の夜は「フリッグの舞踏会」じゃ。この通り「破壊の杖」も戻ってきたし、予定通り執り行う」

 キュルケの顔がぱっと輝いた。

「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」
「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

 三人は、一礼するとドアに向かった。ルイズは、フェイトに視線を向けた。そして、立ち止まる。

「お先にお行き下さいませ、お嬢様。これから、雇用条件についてお話がありますので」
「そう、じゃ先に行っているわ。あんたも来るのよ。ドレスなら、キュルケので合うだろうし」
「そうね、じゃ、先に行って似合いそうなのを用意しておいてあげるわ」

 やっぱりフェイトに似合うのは黒よねー、などと話しを弾ませつつ、三人は出て行った。


 扉が閉まると、オールド・オスマンはフェイトに向き直った。

「さて、何か儂に聞きたそうじゃな?」
「はい」

 フェイトはうなずいた。

「言ってごらんなさい。できるだけの力になろう」

 ちらりとコルベールとロングビルに視線を向けてから、フェイトは口を開いた。

「あの「破壊の杖」は、私が元いた世界のものです」
「なるほど。そうすると、儂の命の恩人も、お主の世界から渡ってきたという事になるのか」
「恩人、ですか?」
「左様。今から三十年前の話になるかの。森を散策していた儂は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが、あの「破壊の杖」の持ち主じゃ。彼は「破壊の杖」でワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れた。怪我をしていたのじゃ。儂は彼を学院に運び込み、手厚く看護した。しかし、看護の甲斐なく……」
「死んでしまった、と」
「うむ」

 四人の間に、沈黙が降りる。

「彼はベッドの上で、死ぬまでうわごとのように繰り返しておった。「ここはどこだ、元の世界に帰りたい」とな。結局、どんな方法で彼がこっちの世界にやってきたのか、それすらも最後までわからんかった」
「そうですか」

 フェイトは、そっと目を伏せた。
 オールド・オスマンは、フェイトの前髪をすくいあげた。

「お主のこのルーン……」
「はい。このルーンはなんなのでしょうか? 気にはなっていたのですが」
「……これはの、「ミョズニトニルン」の印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」

 はっと息を飲む、コルベールとロングビル。コルベールの視線は厳しく細められ、ロングビルは顔色がわずかに蒼ざめている。

「伝説、ですか」
「そうじゃ。その伝説の使い魔は、ありとあらゆるマジックアイテムを使いこなしたそうじゃ」
「なるほど」

 相変わらず目を伏せたまま、感情のこもらない声でフェイトは答えた。

「ただ、儂に判るのはここまでじゃ。力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。儂はお主の味方じゃ。ミョズニトニルンよ」

 オールド・オスマンはそういうと、フェイトを抱きしめた。

「よくぞ恩人の杖を取り戻してくれた。改めて礼を言うぞ」
「とんでもありません。ただ私は、お嬢様のお手伝いをしたに過ぎません」
「お主がどういう理屈で、こっちの世界にやってきたのか、儂なりに調べるつもりじゃ。でも……」
「いえ、そのお気持ちだけで十分です」
「すまんの、だが何も判らなくても恨まんでくれよ。なあに、こっちの世界も住めば都じゃ。婿さんだって探してやる」
「それはご遠慮させていただきます」


 フェイトが退室した後、残された三人は互いに向き合った。ロングビルの顔は蒼ざめ、どうしようかと考えあぐねている様子である。そして、最初に口を開いたのは、オールド・オスマンであった。

「さて、土くれのフーケが、思ったより頭の良い男で助かったわい」
「……そうですね。しかし学院長、何故、生徒と私を探索に送り出したのですか?」
「ふむ、そうじゃの。ミスタ・コルベールでは奴を殺さずには捕らえられんと思ったからじゃ。理由としてはこれで十分じゃろう?」
「なるほど」

 ロングビルは、隣のコルベールに視線を向けた。コルベールは、相変わらず暢気そうな顔をして困った様な表情でつっ立っている。
 彼女は、コルベールが何故「炎蛇」というどうみてもそぐわない二つ名を持っているのか、ようやく得心がいった。世の中には、恐ろしい人間があちこちに隠れているものだと、心底思い知らされる。

「というわけでじゃ。ミス・ロングビル。ちょいと給料分の仕事を頼みたいのじゃがの」
「なんでしょうか、オールド・オスマン」
「何、そんな難しい事ではない。お主もミスタ・コルベールの助手になってはくれんかの?」

 つまり、あのフェイトという猫につける鈴になれ、という事か。
 ロングビルは、フェイトと交わした約束を思い、心底安堵した。同じ鈴をつけるにせよ、フェイトとはすでに「お友達」としての間柄である。彼女に自分が鈴である事を知らせておけば、上手く振舞ってくれるに違いない。

「判りました。そういう事でしたら、喜んでお受けいたしますわ」

 とにかく目一杯の虚勢を張って、にっこりと微笑んで一礼する。
 そんな彼女の内心を知ってか知らずにか、オールド・オスマンは、ほっほと嬉しそうに笑い、付け加えた。

「なに、儂の不埒な振る舞いに耐えかねた、とでも言っておけば、周りの連中も納得するじゃろうて」


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