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No.2605の一覧
[0] 運命の使い魔と大人達(「ゼロの使い魔」×「リリカルなのは」ほぼオリキャラ化) 完結[らっちぇぶむ](2008/12/21 12:58)
[1] 運命の使い魔と大人達 第一話[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:32)
[2] 運命の使い魔と大人達 第二話前編[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:27)
[3] 運命の使い魔と大人達 第二話後編[らっちぇぶむ](2008/02/10 00:31)
[4] 運命の使い魔と大人達 第三話前編[らっちぇぶむ](2008/02/13 23:07)
[5] 運命の使い魔と大人達 第三話後編[らっちぇぶむ](2008/02/17 17:14)
[6] 運命の使い魔と大人達 幕間その1[らっちぇぶむ](2008/02/20 02:31)
[7] 運命の使い魔と大人達 第四話前編[らっちぇぶむ](2008/02/24 14:21)
[8] 運命の使い魔と大人達 第四話後編[らっちぇぶむ](2008/02/27 22:29)
[9] 運命の使い魔と大人達 第五話[らっちぇぶむ](2008/03/02 20:58)
[10] 運命の使い魔と大人達 第六話[らっちぇぶむ](2008/03/05 20:10)
[11] 運命の使い魔と大人達 第七話前編[らっちぇぶむ](2008/03/12 23:57)
[12] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その一[らっちぇぶむ](2008/03/16 22:03)
[13] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その二[らっちぇぶむ](2008/03/19 23:20)
[14] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その三[らっちぇぶむ](2008/03/23 21:17)
[15] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その四[らっちぇぶむ](2008/03/27 19:28)
[16] 運命の使い魔と大人達 第七話後編[らっちぇぶむ](2008/03/30 20:14)
[17] 運命の使い魔と大人達 第八話[らっちぇぶむ](2008/04/02 23:24)
[18] 運命の使い魔と大人達 第九話前編[らっちぇぶむ](2008/04/05 22:29)
[19] 運命の使い魔と大人達 第九話中篇[らっちぇぶむ](2008/04/09 15:33)
[20] 運命の使い魔と大人達 第九話後編[らっちぇぶむ](2008/04/15 00:00)
[21] 運命の使い魔と大人達 最終話[らっちぇぶむ](2008/04/15 09:18)
[22] 運命の使い魔と大人達 後書き[らっちぇぶむ](2008/04/15 20:34)
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[2605] 運命の使い魔と大人達 幕間その1
Name: らっちぇぶむ◆c857d2f4 ID:49f6089b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/20 02:31
※今回のお話は、大変に毒の詰まった黒いお話です。特に「リリカルなのは」ファンの方で、ノワールに脳を犯されていない方はお読みになられない事を警告させて頂きます。
 あくまで「リリカルなのは」の原作イメージを大切にしたい方は、絶対にお読みにならないで下さい。




 時空管理局第103師団(カテゴリーC相当)分遣業務隊隊長八神はやて2等陸佐の一日は、業務隊先任陸曹兼守護騎士のヴィータに起こされるところから始まる。

「はやて、起きろ。局旗掲揚に遅れるぞ」
「あー、あと五分だけ寝かせてやー」

 とりあえず布団を引っぺがされる前にもそもそと起き出すと、はやては、眠そうに目をこすりながら作業服に着替える。これが一桁師団やカテゴリーAの戦闘即応師団なら従卒がつくところであるが、生憎三桁師団の上、器材管理師団にはそんな隊員の余裕はなかたっりする。

「なんや、晴れかー あー、隊内放送で済ませられへんなー」

 ヴィータが持ってきた本日の業務予定表にざっと目を通すと、かまぼこ型隊舎の前に整列している隊員らのところに悠々と歩いていく。

「局旗掲揚! 気ぉをぉつけっ! 頭ぁー、中ッ!!」

 ヴィータの号令とともに、全員が気をつけの姿勢を取り顔をポールに向ける。当番の隊員が、するすると時空管理局局旗を揚げてゆく。

「頭ぁあー、戻せ。休めっ。隊長訓示っ!」
「はい、お早うございます。本日の業務内容ですが、442連隊への需品発送があります。1300に輸送機が到着予定やから、フォークリフトの充電と発送品の間違いが無い様、きちんと確認しておくように。あと、午後から第3分隊は警衛訓練があります。事故や怪我のないよう、各員気ぃつけるように。隊長からは、以上」
「気ぉをぉつけっ! 業務開始!!」

 隊員達が、ひじを九十度に曲げるとばたばたと各自の部署に走っていく。ここでもたもたしていると、鬼より怖い先任陸曹のヴィータに怒鳴られたあげく、無限腕立て伏せが待っているので皆真面目である。
 全員部署に向かったのを確認すると、はやては、ひときわ大きなあくびをひとつして、ヴィータに向かって拝むように右手を顔の前に上げた。

「んじゃ、書類のほう、頼むわー」
「おう」

 はやての午前中は、大体のところ副官兼守護騎士のシグナムと一緒に、近くの川で釣りをして過ごす。とりあえず、隊員に新鮮なたんぱく質の供給を、というのがお題目なので、誰も文句はつけない。というより、カテゴリーC師団らしく一日の食事のうち一食は必ず期限切れ直前の戦闘糧食になるので、隊長と副官に対する隊員の期待はとっても大きかったりする。

「シグナム、なんか釣れたー?」
「イワナが八のヤマメが四」
「あー うち、オケラやぁ」

 昼食の時間になると、釣り道具一式かついでまず厨房に向かう。午前中の戦果を糧食係に渡し、幹部食堂兼応接室に向かい、幹部ら全員、といっても副官のシグナムと隊付医官兼守護騎士のシャマル、そして通信班長のリィンフォースの三人で他愛も無いおしゃべりをしつつ、暖められた戦闘糧食を食べる。ちなみにはやての好みは、たくあんとチキンステーキと赤飯である。冷えた赤飯は食べられた代物ではなくなることもあって皆あまり好きではない様子で、はやては毎日大喜びである。これくらいは隊長特権だとか。
 守護騎士ザフィーラは、相変わらず犬の格好で、皆と同じく暖かい戦闘糧食を三人と一緒に食べていたりする。ちなみに、はやてが「犬には塩気がきつすぎんかー」とか聞いたところ、ニヒルに笑って「大事無い」とか返してくるので、皆と同じものを出させていたりする。
 なおヴィータは、この時間でも大抵は書類整理が忙しくて、自分だけ執務机でモニターに向かいつつ仕事中の事が多い。

 さて食後のお茶を済ませると、今日は需品搬送がある事もあって、はやては需品倉庫に向かい、担当班長に業務手順の確認をとった。

「手順はどないなっとるー?」
「搬入順にこの通り並べ終わりました。伝票はこの通りです」
「了解ー。それでええよ。じゃ、頼んだでー」

 はやては、ここで隊長執務室兼隊事務室に初めて向かい、ヴィータに書類関連の確認をとる。ヴィータは何気に書類仕事が早くて上手いので、ざっと目を通しただけでサインをして隊長印をぺたぺた押し、画像に取り込んで関係各所にメールを送って、はい終わり、となる。
 そうこうしているうちに、442連隊の輸送隊指揮官が需品受領の書類を持ってくるので、それにサインして隊長印を押してこれも終わる。

「んじゃヴィータ、警衛訓練の方、頼んだでー」
「おう」

 そしてはやては、自分宛のあちこちからのメールに目を通し始める。

「あー、304部隊から五トントラックのトランスミッション二十台分かー えーと、うちの「倉庫」にはー、あ、八台分しかないんか。しゃあないなあ。あ、そうだ、前に23師団飛行隊のOHのギアボックス融通したってやったか。23師団の補給隊に吐き出させるかー。えーと、代わりに燃料とオイルと訓練実包融通させてっと」

 大抵の場合、後方部隊間での「員数外物品」のやり取りのメールである。実は何気にあちこちに顔の利くはやては、あちこちの隊や師団にたくさんの「お友達」がいて、山ほど貸しを作っていたりする。おかげでこの業務隊は、年度末に暖房用燃料や車両用燃料に不足した事は一度として無い。
 ちなみに年度末は、どの部隊も、訓練用はおろか、幹部の車両移動のための燃料すら不足する事になるので、はやては大もてだったりした。

「で、と、お、クロノはんからの「定期連絡」か」

 今までのほほんとした表情でメールをさばいていたはやてが、一瞬だけ真面目な表情となる。そのメールだけデバイスのメモリーに解凍もせず移し、さっさとキャッシュも含めて端末やサーバの中から完全に消去する。
 そして、室内にリインフォース以外誰もいないのを確認してから、結界を張り、デバイスを起動させた。


 時空管理局本局武装隊直轄独立第503空中強襲大隊大隊長である高町なのは2等空佐は、第38管理世界で起きた暴動事件の半年間にわたる鎮圧任務が終了し、ミッドチルダにある官舎に戻ってきたばかりであった。大隊本部付の黒塗りセダンで官舎に到着したところで、自室に明かりが灯っている事に気がつく。

「ご苦労様。誰が尋ねて来ました?」
「はいっ、お疲れ様です。ハラオウン統括執務官殿と、御令嬢がお待ちです」

 官舎の警衛隊員の答えを聞いて、なのはは、足早に自室へと向かう。
 制服のポケットからもどかしげにカードキーを取り出し、扉を開け、中に飛び込む。

「クロノ君! ヴィヴィオ!」
「ママ!!」

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、なのはの胸に飛び込んできたヴィヴィオの様子に、一瞬何があったのか緊張が彼女の顔に浮かぶ。
 そんな二人を光の無い昏い目を優しげに細めて見つめているクロノは、抑揚の無い声でヴィヴィオに話しかける。

「ちょっとなのはと話があるから、今日は先に寝ていなさい」
「ねえ、何があったの?」
「ヴィヴィオが寝たら、な」

 珍しく制服姿でありながら、ネクタイをほどき、ジャケットをソファーの上に放り出したままぐったりと座り込んでいるクロノの姿は、何があったのかは判らなかったが、とても疲れている様になのはには見えた。
 泣きじゃくるヴィヴィオを寝室に連れて行き、寝かしつけると、なのはは何度も深呼吸をしつつクロノの元へと戻った。
 当のクロノは、自分で持ち込んだのであろう、スキットルからそのまま中身を喉に流し込んでいる。

「まずは生還おめでとう。相変わらずの有能ぶりで、本局でも噂になっていたよ」
「挨拶はいいわ。何故ヴィヴィオがあんなに泣いているの?」
「相変わらずだな。「クールダウン」が済んでないのか?」
「そうじゃなくて!!」

 くつくつと嘲うクロノの姿に尋常ではない何かを感じ、なのはは彼に詰め寄った。戦技教導官としてエリート部隊をあちこち廻り、その有能さを買われ、彼女を崇拝する隊員を集めて編成された503大隊を率い、極めて危険な任務に投入され続けている彼女の迫力は、常人をして容易に震え上がらせる迫力を持っている。
 しかしクロノは、よほどに強い酒を飲んでいるにも関わらず、冷酷さすら湛えた瞳でなのはの瞳を見返した。
 しばらくそうしてにらみ合いが続き、そしてなのはが目をそらす。

「判ったわ。だから説明して」
「ああ。フェイトが失踪した」
「!?」

 愕然としてクロノの顔を見つめるなのは。本当に嬉しそうに彼女の表情を楽しむと、クロノは話を続けた。

「銀色に輝くゲートに飛び込む彼女を、ヴィヴィオが見ている。呼ばれて確認したが、未確認の管理外世界からの召喚ゲートの様だったよ。一応関係者に口外は禁止したが、まあ本局ではそういう噂ほど早く伝わるという事さ」

 そこで何が可笑しいのか、げらげらと笑い出すと、クロノはもう一度スキットルに口をつけた。その強烈なアルコール臭に、なのはは眉をひそめる。

「一応公式には、俺の命令で無期限の単独潜入捜査にあたっている、という事で書類上の処理は終わっている。もっとも、彼女の配下の捜査官連中は、新しいボス犬探しにやっきになっているがね」
「あなた、一体全体何をフェイトちゃんに捜査させていたの?」
「なんて事はない。年少者の売春組織に本局の幹部が絡んでいてね。それを追いかけさせていた」
「で?」

 射殺さんばかりの殺気に満ちた視線を向けてくる彼女に向かって、クロノは心底嬉しそうに下卑た表情を浮かべ、歌うように答えた。

「その幹部が俺だった」
「嘘!!」

 ソファーの背もたれに両腕を回し仰け反りながら狂ったように笑うクロノの姿に、なのはは、幼馴染でもあり二児の良い父親であるはずの、彼女の知る彼とは余りに違う様子に呆然とし、そして一歩退いた。そんな彼女の姿が嬉しくてならないのか、クロノの表情は卑しく歪んでいく。

「事実さ。もっとも我が麗しの義妹は、俺を守るために肝心なところで捜査官を引き上げさせてくれたがね。最初はおとり捜査用に作った組織だったんだが、実入りが良い上、色々と弱みを握るのに都合が良くてね。おかげで随分と楽をさせてもらったよ。ついでに俺もたっぷり楽しんだがね」

 まったく、子供は犯れば犯るほどやみつきになる。
 そう口を歪めつつ、クロノはなのはに聞かせるともなく呟いた。

「まあそういうわけで、本局の内勤連中で後ろ暗い事をしていた連中は、大喜びで踊りまわっているわけさ。ああ、お前とヴィヴィオは大丈夫だ。統幕の三部長に話をつけておいた。身の安全は保障されているから、今まで通り楽しく戦争ごっこにいそしんでてくれ。なに、その方がフェイトも喜ぶだろうさ」

 なのはは、苦いものが口の中に広がる感触に、目の前でたわ言を呟き続ける男に心底からの嫌悪感を感じた。自分の視線が汚物か毒虫を眺めるようなものになっていくのが、はっきりと自覚できる。
 そういえば、前に武装隊戦技教導隊のある幹部が酔ったついでになのはに洩らした事がある。クロノ・ハラオウン提督は、超一級の頭脳と邪悪なユーモア精神の持ち主である、と。その時は酔った勢いの事と聞き流していたが、今目の前にいる虫けらは、まさしく狡猾で邪悪であった。
 そんななのはの内心を見透かし、楽しむ様に呟き続けるクロノ。

「判ったわ」

 これ以上この虫けらを自分の傍に這わしておきたくはない。
 その一心で殺気と軽蔑を込めた一瞥を送る。

「心からお礼を言わせて貰うわ。ありがとうございました、お兄ちゃん」

 その瞬間であった。
 クロノの光の無い昏い瞳に熔けた金属の様な重い輝きが戻る。
 なのはが本能的に首から下げているレイジングハート・エクセリオンに指令を送ろうとする瞬前、全身を光の輪が拘束し、雷撃が神経を焼いた。全身を走る痛みに視界がぼやけそうになるのをこらえ、バインドを解こうと魔力を放出する。

「いい眼だ。いきり立つ」

 ぎりりと奥歯を噛み締めつつ、なのはは答える。
 ゆらりと立ち上がり、近づいてくるクロノの姿が、歪んでまともに見れない。

「ペドに欲情されても嬉しくないわね」
「生憎と、女房とはもう三年はご無沙汰でね。駄目なんだよ、そういう眼をした女じゃないと」


 のろのろとネクタイを締め、制服のジャケットを着ると、クロノは今しがた欲望のままに踏みにじった女を見下ろした。
 その乱れた姿に、いつも義妹に似た少女を陵辱した後に感じる寂寥感を感じ、甘い自己嫌悪の感情に身をゆだねる。

「知っている事全ては、はやてに知らせてある」

 感情のこもらない声を吐き出した欲望で汚した女にかけ、クロノは、リビングを出た。
 そこには、声を殺して泣き続けているヴィヴィオが座り込んでいた。

「ごめんな、ママをいじめて」

 顔を伏せたまま肩を震わせている少女に手を伸ばしかけて、自分にはそれは許されない冒涜であることを思い出す。
 クロノは、代わりにジャケットから一枚のカードを抜き出すと、ヴィヴィオの前にそれを置いた。

「ここに本局の帳簿には載っていない非合法捜査用の資金がプールしてある。お前の名義で、だ。あと、フェイトを召喚したゲートについてのデータの入ったメモリー」

 一瞬、肩を震わせるのを止めた少女に、いつも通りの優しい感情が戻ってくる。
 クロノは、そのまま部屋を出て行った。


 本局にあるクロノの執務室は、資料ファイルで壁一面が埋め尽くされているだけの、本人の内面に似た殺伐とした風景の部屋であった。
 クロノは執務机のPCを起動させると、統括執務官に許されているアドミン権限で、自分が関係した全ての捜査データを部内サーバーと各捜査官の端末から消去し始めた。すでに全てのデータは八神はやてに送っておいてある。関係各所と取引できる材料は全て使い尽くして、なのはとヴィヴィオと、そして妻と子供達の安全は確保した。
 全てのデータを消去し終わり、サーバーのバックアップデータの分も消去し終えた事を確認すると、モニターに個人用フォルダから次々と写真を呼び出す。
 それは、もう二十年以上も前、初めてなのはやフェイトに出会った頃の写真であった。無垢ではにかんだ表情をした三人の姿に、何故だか判らないが胸が切なくなる。その切なさに耐えかねて、机から封を切っていないジタンを取り出し、一本くわえて火を点ける。ゆっくりと煙が流れる様をなんとはなしにみやりながら、クロノは、自分とフェイトが一緒に並んで写っている写真を画面一杯に映し出した。

「ごめんな、莫迦なお兄ちゃんで」

 フェイトが本当に望んでいたのは何か、それを自分が闘いとってやれなかった事が後悔として心をさいなむ。
 不思議と、妻や子供らへの感慨は沸いてはこなかった。最後の方には、扇情的な下着を身に着け、安娼婦のような奉仕までして、夫婦生活を維持しようとしてくれた健気な女であったのに。
 結局自分は、良い子としての仮面をかぶり続ける事に疲れただけなのだろう。
 そう結論を出し、フィルター近くにまで火が通ったジタンを執務机に押し付けて消した。
 そして、机の中から母親と妻が住んでいる世界で流通しているそれを取り出し、口に咥える。

 銃声とともに、血が、モニターに映るはにかんで笑っている十一歳の頃のクロノとフェイトの姿を汚した。


 八神はやては、鉛色の空の下、せめて雨が降らなかった事を、誰とも知らぬ存在に心から感謝していた。
 目前の墓標には、ただクロノ・ハラオウンという名前と生年月日と没年月日、それだけが刻まれている。
 クロノの妻と子供らは、義母のリンディ・ハラオウンにすがり付いて泣き続けており、親友の高町なのはとその義理の娘のヴィヴィオは、一切の感情を消したまま黙って墓標を見つめていた。他にも故人と関係のあった者が、黒い影となって陰鬱な風景を形作っている。

「それでは、皆さん、今日はこれで」

 ハンカチで目尻を押さえながら、リンディがそう散会の宣言を下した。
 ようやくこれで解放される。そんな思いにはやては、シグナムとヴィータに視線だけで促すと、本局から借りてきた黒塗りのセダンに乗り込もうとした。

「はやてちゃん、いいかしら?」

 声をかけてきたのは、目尻を真っ赤に泣きはらしたリンディ・ハラオウンであった。

「エイミィはん達についていてあげなくて、いいんです?」
「なのはちゃん達がついていてくれるっていうから」
「そないなら、うちでよろしければ」

 シグナムが運転席側の扉を開けてリンディを乗せてハンドルを握り、ヴィータが助手席に座る。はやては心から悲しんでいる様に見える表情を浮かべ、あらためてお悔やみを述べた。

「クロノはんは、優秀な執務官でした。お亡くなりになられた事を心よりお悔やみ申し上げます。うちでよろしければ、できる限りの事をさせていただきますから」
「ありがとう。本当にはやてちゃんは良い子ね。貴女という友人を得られて、あの子も幸せだったでしょう」
「いえいえ、ほんまうちはなんもお力になれませんで」

 リンディが心から悲しんでいるのは事実だろう。だが、それと同時に何か自分に話がある、というのも判らないはやてではなかった。二人はそれだけの長い付き合いであったのだ。はやては、この本局と部隊の間を行き来して中将まで昇進し、しかも無事退役できた、という彼女について全く油断してはいなかった。
 なにしろ、使えるものは自分の一人息子すら使い潰せる女なのだから。

「あのね、はやてちゃんはクロノから何か聞いていなかった? フェイトちゃんのこと」

 それか。
 はやては、心底残念そうに首を左右に振ると、悲しそうに答えた。

「いえ、何しろ挨拶や近況のメールのやりとりしかしておりませんでしたし。うちも今回お話を聞くまでは、何も聞いておりませんでした」
「そうなの。本当にヴィヴィオには悲しい思いをさせてまで」
「ほんま、無事でいてくれるとええんですが」

 さて、そろそろ本題がくるか。
 そうはやては察して、手持ちの札を数え直す。うん、なんとか逃げようと思えば逃げ切れるはず。

「それでね、はやてちゃんにお願いがあるの」
「なんでっしゃろ? うちにできる事でしたらよいのですけど」
「クロノとフェイトちゃんは、本当に良い仕事をしてくれたの。本局の中を綺麗さっぱり」
「そら、あの二人なら、それくらいお茶の子さいさいでしょ」
「ええ、だからあの二人の仕事を引き継いで、はやてちゃんに内部監査部に入って欲しいの」

 やはりそう来たか。
 はやては、しくしくと泣きながらしれっと重大な事をもちかけてきたリンディに向かって、これまた心底残念そうに首を左右に振った。

「うちみたいなぼんやりした女に、そんなしんどい仕事は無理です。今みたいな裏方がせいぜいで」
「そう? でも貴女、とっても「お友達」がたくさんいるし。きっとその「お友達」が助けてくれるわ」
「せやけど、うちは執務官資格を持っておりませんし」
「それなら大丈夫。指揮幕僚課程は出ているでしょう? あれを出ていれば、執務官資格保有者と同じポストにつけられるから」

 あ、そっちから手ぇまわしよったんか。
 はやては内心で激しく舌打ちした。なにしろ六課の一件で大ドジ踏んでから、せめて同じ失敗はしないようにと、高級幹部教育課程を受講していたのだ。何しろ師団以上の規模の部隊で幕僚や指揮官になるのには、絶対に受講していないとならない課程である。その内容は極めて実務に即したものであったのだ。

「はぁ。で、部長はどなたに?」
「あのね、はやてちゃん」
「はい?」
「だからね、はやてちゃん」
「いえ、うち統括執務官試験なんて受験すらしてませんし」
「それは大丈夫。最高評議会にね、お話をもっていったら、部長心得ということでいいって」

 相変わらず制度の抜け道を見つけるのが上手いおばはんやなあ、と、はやては心底感心した。
 確かに部長を置かず、代行を置いて一時的に組織の機能不全をなんとかする、というのは、よくある事ではある。しかし、本局のこれだけ重要な部署でそれを通すとは、一体全体どれだけのコネがあることやら。

「はあ、で、何をしたらよろしいんでしょ? うち、本局勤めはもう長い事やってませんし、何がなんだかさっぱり」

 そんなはやての直球そのままの質問に、リンディはこう答えた。

「あのね、私、「中央委員会」の事務局長に、ってお話が来ているの」

 中央委員会。次元管理局を実質的に支配する三提督の集まりの事を、局員は非公式にそう呼んでいる。つまりリンディは、複役するのではなく、文官として次元管理局の予算と人事の権限を実質的に握る事になる、という事である。
 つまり自分は、彼女の文字通り目となり耳となり、長い手になれ、という事なのだ。
 しかもそれは、三提督まで話が通っているという事でもある。

「そら、おめでとうございます。クロノはんの件は、仕事で忙しければそれだけ辛さも減りますでしょうし」

 この化け物が。
 はやては内心で散々毒づきながら、表情だけはにっこりと笑ってみせた。

「だからね、是非はやてちゃんに助けて欲しいの。ね、お願い」

 すがるような目つきでそう「お願い」してくるリンディの瞳の奥にゆらぐ何かに気がついたはやては、あえて地雷となるであろう一言を発した。

「はあ、それは了解しました。で、引継ぎはどないしましょ?」
「あのね、まずはフェイトちゃんを探し出して欲しいの。彼女はクロノと文字通り一心同体だったから、捜査内容については全て知っているでしょうし」
「なるほど」
「それでね、なのはちゃんにも同じ事をお願いしたの。そうしたら、是非に、って」

 はやては、脳内に危険信号がはっきりと点滅するのを感じた。
 あの葬儀の時のなのはとヴィヴィオの様子から、何かとんでもなくヤヴァイ地雷が潜んでいそうな気がする。

「なるほど。それでは二人でできる限りの事はしますから」
「本当? 嬉しいわ。本当にお願いね」

 今までの悲しそうな表情はどこへいったのか、心底嬉しそうに微笑むリンディ。
 はやては、必死になって思考を回転させた。
 そして、ある結論に至る。

「それでは、そろそろお帰りに」


 リンディを転移ゲートの近くに下ろしたはやては、車内にリンディが何か仕掛けていかなかったか探知魔法を使って確認すると、運転席のシグナムに問いかけた。

「尾行車は?」
「大丈夫だ」

 それから、今まで被っていた仮面を脱ぐと、厳しい表情でヴィータに指示する。

「ダッシュボードの中のファイル」
「おう」
「それが、フェイトはんが召喚されたゲートの先と考えられる管理外世界のデータや。シグナム、今度竣工する次元巡航艦な、艤装委員長と配備予定先の分艦隊司令にたっぷり「貸し」がある。公試が終わったら、長期の試験航海の命令を出してもらうさかい。それに同乗して、なのはより先にフェイトを探し出し、確保せえ」
「了承した」
「ええか、多分リンディはんは腹の底ではフェイトを許しておらん。何か上手くたきつけて、なのはに消させるつもりや。そうなる前にこっちで保護するんや」

 どす黒い表情ではやては呟いた。

「ちっ、クロノの野郎、死んだ後まで面倒を押し付けやがって」


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