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No.2605の一覧
[0] 運命の使い魔と大人達(「ゼロの使い魔」×「リリカルなのは」ほぼオリキャラ化) 完結[らっちぇぶむ](2008/12/21 12:58)
[1] 運命の使い魔と大人達 第一話[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:32)
[2] 運命の使い魔と大人達 第二話前編[らっちぇぶむ](2008/02/08 00:27)
[3] 運命の使い魔と大人達 第二話後編[らっちぇぶむ](2008/02/10 00:31)
[4] 運命の使い魔と大人達 第三話前編[らっちぇぶむ](2008/02/13 23:07)
[5] 運命の使い魔と大人達 第三話後編[らっちぇぶむ](2008/02/17 17:14)
[6] 運命の使い魔と大人達 幕間その1[らっちぇぶむ](2008/02/20 02:31)
[7] 運命の使い魔と大人達 第四話前編[らっちぇぶむ](2008/02/24 14:21)
[8] 運命の使い魔と大人達 第四話後編[らっちぇぶむ](2008/02/27 22:29)
[9] 運命の使い魔と大人達 第五話[らっちぇぶむ](2008/03/02 20:58)
[10] 運命の使い魔と大人達 第六話[らっちぇぶむ](2008/03/05 20:10)
[11] 運命の使い魔と大人達 第七話前編[らっちぇぶむ](2008/03/12 23:57)
[12] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その一[らっちぇぶむ](2008/03/16 22:03)
[13] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その二[らっちぇぶむ](2008/03/19 23:20)
[14] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その三[らっちぇぶむ](2008/03/23 21:17)
[15] 運命の使い魔と大人達 第七話中篇その四[らっちぇぶむ](2008/03/27 19:28)
[16] 運命の使い魔と大人達 第七話後編[らっちぇぶむ](2008/03/30 20:14)
[17] 運命の使い魔と大人達 第八話[らっちぇぶむ](2008/04/02 23:24)
[18] 運命の使い魔と大人達 第九話前編[らっちぇぶむ](2008/04/05 22:29)
[19] 運命の使い魔と大人達 第九話中篇[らっちぇぶむ](2008/04/09 15:33)
[20] 運命の使い魔と大人達 第九話後編[らっちぇぶむ](2008/04/15 00:00)
[21] 運命の使い魔と大人達 最終話[らっちぇぶむ](2008/04/15 09:18)
[22] 運命の使い魔と大人達 後書き[らっちぇぶむ](2008/04/15 20:34)
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[2605] 運命の使い魔と大人達 第四話後編
Name: らっちぇぶむ◆c857d2f4 ID:49f6089b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/02/27 22:29
 二つ月の照らす夜道を、黒いローブをまとった二人を乗せて、馬が疾走している。
 手綱をとり、馬を走らせているのは、久しぶりに仮面を脱いだ「土くれ」のフーケ。その後でフーケの腰に手を回して相乗りしているのは、同じく仮面を脱ぎ捨て氷の微笑みを浮かべたフェイト。二人の瞳は、あくまで冷たく冴えた殺気を放っている。

「そこの道を左にまっすぐ進めば、モット伯の屋敷さ。あたしは指示通り「仕込み」にトリスタニアに行く」
「ええ、お願いします。それで、モット伯が「飲む」「打つ」「買う」の三つを趣味として伊達男を気取っているというのと、マザリーニ枢機卿のお気に入り、というのは確実ですね?」
「ああ、あたしの頭の中には、トリステイン中の大貴族のネタがしっかりつまっているのさ」

 きっぱり言い切って、フーケは、にやりと凄みのある笑みを浮かべた。

「なにしろお偉いお貴族様をあたふたさせるのが、「土くれ」のフーケが怪盗と呼ばれている所以だからね」
「では、今回も存分にお楽しみ下さい」
「楽しみにしてるよ。で、あんたの指示通りに作った「それ」、なんなのか後で説明しておくれよ」
「ええ。何しろ今回の「ヤマ」の肝ですから」

 フェイトはわずかに眼を細めると、走る馬の上から地面に飛び降りた。そのまま地面を一回転して立ち上がると、停まることすらなくフーケに指示された道を走り始める。フーケは、フェイトに視線だけで挨拶すると、そのまま王国の首都トリスタニアに向けて駆け去った。


 モット伯は、寝室でゆったりとソファーの上でくつろぎながら、ガリア産ポートワインのヴィンテージを楽しんでいた。時折グラスを傾けては、内面に残る澱のすじを楽しむ。三十年もののそれの肴は、目前で控えている今日屋敷に連れてきたメイドの少女である。胸元を大胆にVの字にカットし、スカートも膝上二十サントにまで短くしたメイド服にも見えないことは無いそれは、あくまで主人の目を楽しませるためのものであって、実用性などかけらもありはしない。
 シエスタという名前の少女は、これから起こる事に怯えているのか、ノースリーブのメイド服もどきからのぞく肩が細かく震えていた。

「くくっ、そう怯える事はない」

 モット伯は、わずかに口ひげをひねって、声色だけは優しげにシエスタに声をかける。
 もっとも、その酔いの回って赤くなった瞳は獣欲にぎらぎらと光り、シエスタの怯える姿を楽しんでいる様がありありと判る。

「何、痛いのは最初だけだ。すぐに気持ち良くなる。何しろこのジュール・ド・モット、何人もの生娘に天国を味合わせてやったからなあ」

 びくっと震えて、顔をうつむかせるシエスタ。
 モット伯は、少し声を低めてあごをしゃくった。

「それ、そこで顔を下げるでない。せっかくの可愛い顔を楽しめぬではないか」

 その言葉に、シエスタは、嫌々そうに顔を上げる。
 そんな姿に一層嗜虐心を刺激され、さてどういう手順で楽しもうかと、あれこれ算段を始めるモット伯。
 と、そんな彼がもてあそぶ淫らがましい妄想は、寝室の扉を叩く無粋な音でやぶられた。軽く舌打ちすると、モット伯は苛立たしげに声を張り上げた。

「何だ! 誰も邪魔してはならぬと命じたであろうが!!」
「それがお館様、ただいま玄関に来客が」
「こんな夜更けに何者だ。かまわぬ、追い返せ!」
「それが、……ヴァリエール家の方から参られた、と」
「何!?」

 ヴァリエールといえば、トリスタニア王家とも血縁の、この王国随一の格式と伝統を誇る大貴族である。その当主は、現宰相であるマザリーニ枢機卿と仲が悪く、早々に隠棲して領地にこもってしまってはいる。だがしかし、今だ国内の古参の大貴族らには大きな影響力を持つ、非常に厄介な相手であった。
 モット伯とて、王政府の勅使役としてマザリーニ枢機卿の手足となって動いている身である。ここでヴァリエール家の関係者を無碍に扱い、いらぬ騒動を巻き起こすほど愚かではなかった。むしろ、この夜更けに前触れも無しに屋敷に押しかけてきた無礼をとがめ、何がしかの貸しを作る方が賢いというものであろう。

「まあよい。すぐに戻る故、ここで待っているがよい」

 シエスタにそう命ずると、モット伯はガウンの上からマントをまとい寝室を出て行った。
 一人残されたシエスタは、緊張の糸が途切れたのか、床の上に座り込み声にならない嗚咽をもらし始めた。


「余がジュール・ド・モットである。貴公、ヴァリエール家より参ったと申したな。この夜更けに何用か?」

 その者は、全身をすっぽりと黒いローブでつつみ、わずかに朱色の唇がのぞいている。わずかにのぞくその唇の端はゆがんだまま、杖を持ち周囲を取り囲む家人らの威圧感にもまったく臆する様子がない。
 玄関ホールの階段の踊り場から見下ろすモット伯は、その者が余程の手だれである事を確信した。自らも水のトライアングルのメイジである彼は、その者がまとう黄金色の魔力のオーラの力強さに、まずはヴァリエール公爵の懐杖であろうと見当をつけた。

「夜分、突然の来訪にも関わらず、面会をお許し下さいました伯爵閣下のご厚情、まこと感謝にたえませぬ」

 その声は、聞く者の背筋をそろりとなで上げる様な艶に満ちていた。女はその場でローブをするりと脱ぐと、床にそれを落とす。

「……ほう」

 周囲を囲む家人のみならず、モット伯自身も感嘆のため息を漏らした。
 それほどに目前の女は美しく、また官能に満ちていた。女は、その豊かで形の良い胸から、細くくびれた胴を経て引き締まり張りのある腰までの肢体のラインを見せ付ける黒く長いドレスに身を包み、深い胸元を惜しげもなくさらしている。その肌は室内灯でもよく判る程に白く透きとおり、きめ細かくなめらかであった。彫りの深い顔立ちの中で、深紅の瞳が、細められた切れ長の眼の中で光もなく、のぞき見る者の魂を深淵へと誘い込む様な深さをたたえている。温かみのある金髪が腰までうねり、この女の艶気を一層際立たせている。
 モット伯は、直感的に、この女がヴァリエール公爵の愛人であろうとあたりをつけた。少なくとも、これだけ官能的な女に手をつけずに傍に置いておける男が想像もできない。この女のためならば、さてどれほどの男達が持ち得る全ての財を投げ打とうとするであろうか。

「では、用件を伺おうか」

 あくまで女の美貌に興味はない、という風をよそおいつつ、モット伯は傲岸に言い放った。
 この様な女は、己の美貌に感嘆し腑抜けるような男など眼中にすら入れないものである事を、モット伯とて知らぬではなかった。

「それでは、伯爵閣下のご厚情に甘えさせていただきまして」

 女は艶然と微笑みつつ、しかし一切の媚を含ませぬ声で答えた。

「本日、伯爵閣下が身請けなさいました少女、実は主の気に入りの使用人にございます。再度こちらにて身請けさせて頂くように、と、命じられて推参つかまつった次第にございます」
「ほう。かの平民の娘を、か」
「何しろ良く気のつく娘でございます故」

 ふむ、と、考え込む様子を女に見せるモット伯。この女が先に手札をあっさり切って見せた事が気になる。光の無い女の瞳を見つめるうちに、彼は、すっと引き込まれる様にある一つの考えに至った。
 つまりヴァリエール公爵は、この女を使って自分を味方に引き入れようとしている、と。
 シエスタの様な、まあそこそこの美貌の田舎娘ごときに、わざわざヴァリエール公爵程の男が動くわけがない。むしろ、魔法学院から何らかの形で話を聞いた公爵が、この宮廷内で権勢を誇る自分を味方に引き入れる事で、これより起こるであろうマザリーニ枢機卿との権力抗争に先手を打つつもりなのであろう。
 現在進行中のアルビオン情勢をめぐって、王宮と地方の大貴族らの間の意見の溝は深い。まずは大貴族らを束ねるヴァリエール公爵が先に動いた、というところか。

「それで?」
「はい。ただご厚情に甘えさせて頂くだけでは失礼な上、伊達にて知られる伯爵閣下の興をそぐかと」
「ほほう。つまり、あの娘に換えて、という事か」
「ご明察の程、まさに感嘆にたえませぬ」

 女が一礼する様に、自分の見立てが間違っていなかった事を確認して、モット伯はニヤリと笑った。
 が、そこで女の表情に挑戦的な何かが浮かぶのを見て、モット伯は、やはりこの女が一筋縄ではゆかぬ公爵の懐杖である事を思い知らされた。

「いかがでしょう? ここは一つ、伯爵閣下の伊達振りを拝見させていただきとうございます」
「構わんぞ。余の器量を貴公の主に知って貰わねばなるまい」

 女は、今でははっきりと挑戦的な微笑みを浮かべ、はっきりと言い放った。

「トリスタニアに、面白い店がございます。なんでも、現金をチップに換金する事なく賭け事を楽しめるとか。いかがでございましょう? 伯爵閣下は使用人の娘を、こちらはこの身を賭けるという事で」
「ほう、それは面白い。だが、余とてあの娘を気に入って身請けしたのだ。そうだな、一万エキューから値いをつけさせて貰おうか」
「さすれば、この身は一千エキューという事でいかがでございましょう?」

 やはりそういう事か。
 モット伯は、すでにシエスタの事などどうでもよくなっていた。目前のこの女が自分の下で乱れる姿を脳裏に思い描き、知らず知らずのうちに笑みが浮かんでくる。公爵は恐妻家と聞くが、それ故にこの愛人を上手く処理する方法を見つけた、という事なのであろう。

「それは貴公の値いとしては百分の一にも足りぬとは思うがな。だが、貴公がそれで良いというならば、この勝負受けてたとう」


 通常、都市を囲む城壁の門は、夜は閉じられ余程の事が無い限り人の出入りが許される事はない。だがモット伯は、王政府勅使という身分をもって、あっさりと深夜のトリスタニアに馬車を乗り入れさせた。大貴族らしく豪奢に飾り立てられた馬車には、モット伯と、公爵の愛人、シエスタ、そして護衛のシュバリエが二人、乗り込んでいる。
 モット伯は、シエスタが女の顔を見た瞬間にその名前を呼ぼうとしたのを、女が制した事が気になっていた。今になって思えば、女は一度として己が何者が名乗ってはいない。そもそもが、ヴァリエール公爵家ゆかりの者とすら名乗ってはいないのだ。あくまでヴァリエールの名前は、家人に伝えた時のみ口にしただけ。
 だが、そうしたモット伯の疑問も、目前で女とシエスタが睦み合う姿を見れば脳裏から吹き飛ぶ。
 女は、シエスタを隣にはべらせると、指先や唇を使ってそのまだ脂の抜けきってはいない青い肢体をいじっては楽しんでいる。時々、我慢できなくなったシエスタの荒い息が、馬車の中にこぼれる。護衛として連れてきたシュバリエどもなど、三本目の杖の方が元気なくらいである。

「それ、余の騎士らをそうからかってくれるな。役に立たぬではないか」

 これから賭け事にのぞむというのに自分の頭が熱くなってしまっては、いくら女の側にそのつもりがあったとしても、賭けに勝てるわけがない。そうなれば、この女を愛人にできても、確実にこの女を通じてヴァリエール公爵にいいように操られるだけになってしまう。

「申し訳ございませぬ。なにせこの娘、余程に怯えておりますゆえ」

 そうぬけぬけとうそぶいて、シエスタの頭を自分の胸の抱きしめる。たわわに跳ねていた双球がシエスタの頭で押しつぶされ、さらにその瑞々しさを男どもの脳髄を揺さぶった。

「さて、そろそろでございます」

 女がシエスタを手放し、モット伯の目を正面から見据えた。その目には媚や艶は一切なく、なんの表情も無い深淵がのぞいているだけである。
 モット伯は、この女がまさしく男を弄ぶ術に長けた魔女である事をしっかりと心に焼き付けた。
 だが同時に、こういう思いも持ち上がってくる。この魔女に良いように弄られたならば、それはそれでこれまで味わった事の無い快楽となるのではなかろうか、と。そしてこうも思う。この魔女をヴァリエール公爵から身も心も奪うことができたならば、どれほどの愉悦か、と。


 馬車が止まったところは、貴族や裕福な大商人らがよく訪れる歓楽街の片隅であった。ここから通り一本隔てれば、そちらは平民用の歓楽街となる。
 馬車から降りたモット伯の前に、黒いローブに身を包み、顔を伏せた女が立っていた。
 ゆったりとしたローブゆえに、はっきりとは判らないが、この女も中々の上玉である。馬車の中の女が豪奢さを顕すとすれば、目前の女は触れなば切らんとする刃物の如き危なさを顕しているというべきか。さすがはヴァリエール公爵、王国の貴族について知らぬことはないと自負してきたこのモット伯すら知らぬ懐杖、それもこれだけ美しい女を二人も囲っていたとは。

「こちらへどうぞ」

 いかにも理知的な声で、目前の女がモット伯に向けて腰をかがめる。一瞬、月明かりに眼鏡のレンズが照り返し、この女が声の印象を違えぬタイプの美女である事を示した。
 月明かりと、店の窓や戸口からこぼれる明かりの中を、眼鏡の女は迷う事なく裏通りへといざなう。その歩みは一切迷いはなく、この女がこうした世界に慣れているのが明らかであった。そして女は、一件の商館ともおぼしき建物の地下へと通じる扉の前で止まった。何事か合言葉をやり取りすると、そっと扉が開かれる。
 眼鏡の女は、ローブの下、表情をうかがわせぬまま扉の中へと手を差し伸ばした。

「では、とくとお楽しみ下さいまし」


 建物の地下室は、よく吟味された上品な調度の談話室を思わせるつくりの部屋であった。照明は薄暗く、それぞれの机の上だけに明かりが当たるようになっている。そこでは、カードやサイコロ、そうした諸々の賭け事が行われ、少なくない数の金貨がやりとりされている。部屋の中でたゆとう葉巻の煙と、時々鳴るクリスタルグラスの音が、ここの客が誰もが相応の身分の貴族か裕福な大商人である事を示していた。
 モット伯は、店の従業員の案内で一番奥の部屋へと通された。そこには作りの良いソファーとチーク材の机、そしてグリーンのフェルトの敷き布と封を切っていないカードの箱があった。

「それではお客様、よろしければ室内をお確かめ下さいませ」

 つまり、探知魔法で何かいかさまの仕掛けがされていないか確かめろ、という事である。モット伯の護衛の一人が杖を振るい、特に何も仕掛けが無い事を確かめる。感じられるのは、それぞれの身体が発する魔力のみ。

「お連れ様はこちらへ」

 モット伯の護衛二人が、従業員に連れられて別室へと去る。モット伯がソファーに傲然と座るのを待ってから、女は彼の向かいに座った。シエスタは、モット伯と同じソファーの端に座る。

「それでは、何かお飲み物をご用意させて頂きますが」

 戻ってきた従業員が、うやうやしく頭を下げる。
 モット伯は、左手を振って従業員を下がらせた。

「伯爵閣下はカードがお得意だとお聞きいたしました。それゆえ、カードを用意させて頂きましたが、よろしかったでしょうか?」
「構わぬ。むしろ貴公の心遣いが嬉しいぞ」

 にやりと笑って、モット伯はカードの箱を手に取った。そして、封を切って中のカードをあらためる。ごく普通のカードで、特に何か仕掛けがある様には見えない。もっとも、このゲームそのものが茶番である以上、カードに仕掛けをする事自体があり得ないわけであるが。 

「ベットが十エキュー、一回のレイズの上限が百エキュー、こんなところでいかがでしょう?」
「そうだな、それが妥当だろう。それではまずは余が「親」で始めようか」

 モット伯は、護衛に持たせてきた金貨をテーブルの上に積み上げ、慣れた手つきでカードをシャッフルし始める。それにあわせて、女もあらかじめ店に用意させておいたのであろう、自分の手持ちの金貨を場に並べ始めた。

「では、始めようか」


「コール」
「二十」
「……十九」

 モット伯の手元から、場に積み上げられた金貨の山が女の元へと引き寄せられる。女はまるであらかじめ知っているかの様に、無造作にベットとレイズを繰り返し、着実にモット伯の金貨の山を崩してゆく。
 何故かは判らないが、どうしても場の流れがつかめない。モット伯は、内心の焦りが表情に出ないようにするので精一杯であった。勝率そのものは互いに五分前後で女の側に極端に偏っているという事はない。だが、何故か手持ちの金貨は着実に女の元へと流れてゆく。

「ベット」

 十エキュー分の金貨の山を場に積み上げる。女もそれに合わせて十エキューを場に積み上げる。最初の二枚のカードが互いに配られる。
 モット伯のカードは、六と八。

「ヒット。……レイズ、百」

 女がカードを求め。配られたカードをちらりと確認すると、後は口の端を歪めたまま、金貨の山を場に積み上げた。しめて百十枚の金貨が、女の場に積み上げられてる。
 モット伯も、カードを一枚手元に引く。三。微妙な数値だ。

「レイズ、さらに百」

 モット伯と女と、同時に金貨の山を積み上げる。

「スタンド。レイズ、五十」
「スタンド。レイズ、さらに百。コール」

 女の開いたカードは、六と六と七。

「十九」
「……十七」

 さらに三百六十枚の金貨が、女の元へと引き寄せられる。

「くっ!」
「如何なされましたか? 伯爵閣下」

 全く感情を感じさせない声で、ゲームの最初から変わらぬ表情のまま、女が声をかける。モット伯は、怒鳴り散らしたくなるのを必死になって押さえ込むと、あくまで冷静さを保っている風を見せつつ答えた。

「何、今日は調子が悪くてな」
「それはそれは。そういえば、こちらにいらせられる前に、随分とお酒を召していらっしゃったご様子でしたが。酔い覚ましを持ってこさせましょうか?」
「いや、それには及ばぬ。もう酔いは醒めておるゆえ」

 そう、すでに酔いは醒めている。
 ここまで一方的にあしらわれるなど、初めての経験である。女がイカサマをしていない事は判る。それならば、もっと余分な動きや気配が現れるはずだ。しかし、女は淡々と配られるカードと金貨の山をさばくだけ。
 どこかでこの流れを崩さないと、このまま一方的に負けて終わる事になる。

「ベット」

 女の表情の無い声に、モット伯の背筋に一筋冷たい汗が流れた。


「コール。十九!」
「二十一」

 モット伯の手元から、最後の金貨が女の元へと引き寄せられる。
 怒りの余り右手で顔を掴み、なんとか表情を悟られまいとするモット伯。余りにもあっけない敗北であった。時間にすれば半刻とかかっていないであろう。
 と、自分の手元に一万枚の金貨が戻される。

「それでは、使用人はこちらの席でよろしゅうございますね?」

 つまり、シエスタは女に取り戻された、という事になる。と、女を見やれば、その光の無い瞳に、この程度の男であったか、と言わんばかりの冷たい澱みが見て取れる。あまりの屈辱に、モット伯はぎりりと奥歯を噛み鳴らした。

「……これで終わりというわけではあるまい。ゲームを続けさせて貰うぞ」
「はい。ですが、よろしいので?」
「構わぬ。ここで終えては、貴公の主も余を見限ろうよ」
「承りました。そういえば……」
「なんだ、申してみよ」

 女はこの部屋に入ってから、初めて嬉しそうな表情で微笑んだ。

「いえ、伯爵閣下は私めに十万エキューの値いをつけて下さいました。いかがでございましょう? この身を見事実力で身請けしては頂けませぬでしょうか?」

 そういえば、そんな事も言ったか。
 モット伯は、ぎらりと輝く眼で女を正面から見据えた。それをまっすぐに受け止めて揺らぎもしない女の深紅の瞳。彼は、この魔女をなんとしても弄らずには済ませまい、と、固く心に誓った。このままでは逆に、ヴァリエール公爵にマザリーニ枢機卿へのカードとして使い捨てられてしまう。

「では、始めようか。今度は貴公が「親」だ」
「はい。ではベットとレイズの金額を、それぞれ十倍に」
「良かろう」

 女も、慣れた手つきでカードをシャッフルし始めた。


「レイズ一千!」
「レイズ、さらに一千。コール、十六」
「くッ、十五!」

 モット伯の手元から、またも最後の金貨の山が女の手元に移った。

「さて、伯爵閣下、み気色も優れぬご様子ですし、今日はこのあたりでいかがでしょう?」

 憐れみのこもった声で、女がシエスタを促して腰を上げようとする。

「……待て。たかだか十万やそこら負けたくらいで、余が貴公をあきらめると思うてか」
「そこまで高く評価して頂きまして、まことに嬉しゅう思います。ですが、よろしいのですか?」
「構わぬ」
「ですが、もうお手元には金貨はございませぬご様子ですが」
「……ぬう」

 両手で頭を抱えるモット伯。と、女はわずかに口の端をゆがめると、ごくごく慣れた様子で卓上の水晶の鈴を鳴らす。同時にノックの音と、入ってくる従業員。

「お呼びになられましたでしょうか、お客様」
「借用書を。十万エキュー」
「了解いたしました。ただ今お持ちいたします」

 女は、優しげに微笑むと、モット伯に向かってなだめるような調子で話しかけた。

「それでは、十万エキューご用意させていただきましょう」

 すぐに戻ってきた従業員が差し出した書類の一番下の空欄を指差し、女は言葉を続けた。

「では、こちらにサインと花押を」 


 モット伯は、両腕の肘を机につき、頭を抱えて突っ伏していた。
 あれから何度も女に金を巻き上げられ、その度ごとに借用書にサインと花押を記させられていた。

「これで合計二百二十万エキューとなりますが、いかがいたしましょう?」

 いかな宮廷で権勢を誇るモット伯といえど、今すぐに用意できる金ではない。いっその事、踏み倒そうかと思い、女をにらみつける。

「今すぐ用立てが必要ではあるまい」
「はい。借用書には毎年二十二万エキュー、十年で完済となっております」
「ほう。随分と気の利いた事をしてくれる」

 十年もの間、生真面目に金を返し続けるわけがあるまい。そう内心思い、手っ取り早くはした金をくれてやってこの場から逃れる事を考えるモット伯。だが、女の次の言葉に、何もかもが脳裏か吹き飛び、愕然とした。

「利子ですが、年利一分、二十二万エキューとなります。借用元はロマリアのコルレオーネ商会となりますね」
「な、なんだと!? 借用書を見せてみよ!!」

 女が鈴を鳴らすと、従業員が借用書の束を持って現れる。その借用書をよくよく見れば、確かに借用元はロマリアのコルレオーネ商会であり、借金全額の十パーセントづつを利子として毎年支払う事、と書いてある。そして、自分のサインと花押。
 コルレオーネ商会といえば、ロマリアの宗教庁と仲も深く、その金融関係の事業の多くを手がけているハルケギニア最大の金融商会のひとつである。相手がロマリアの宗教庁とあっては、いかにトリステインの王宮勅使である自分であっても、所詮は一貴族に過ぎない扱いをされよう。
 そして何より、この事がマザリーニ枢機卿の耳に入ったならば、即座に自分は切り捨てられる事になるのが目に見えている。かといって、こんな醜態を見せた今となっては、ヴァリエール公爵も自分をあえて拾おうとはしまい。つまり、自分はすでに公爵の使い捨ての駒という事になる。
 呆然としてぼんやりとソファーにへたり込んだまま、モット伯の脳裏は、真っ白になってしまっていた。もはや何も考える事すらできはしない。
 そんなモット伯に対して、女は改めて姿勢を直す。その深紅の瞳に、初めて獲物にしっかりと喰らいついた猟犬の様な熱が灯る。

「伯爵閣下、それではよろしければ、改めてビジネスについてお話させて頂きたく思いますが。決して悪い話ではございませぬゆえ」
「……なんの話だ?」
「いえ、この借用書をコルレオーネ商会に持ち込まずに、かつ借金を返済できるように、というお話でございます」


「で、こちらの条件は全部呑ませたんだね?」

 シエスタが、タバサのウインド・ドラゴンに乗って学院に向かって去っていくのを見送ってから、フェイトとフーケの二人はローブを被ったまま、トリスタニアの裏通りを二人して歩いていた。

「利子を半分にする代わり、こちらの指定する商会に、各種アルコールの国内での自由販売と国外への輸出の権利を認めさせる。そして、酒造組合や販売組合、衛士からの干渉は、モット伯がこれを押さえ込む、という事で」
「なるほどねえ。で、モット伯のお仲間に、例のブランデーを広めさせるわけかい」
「はい。あれだけの本数のブランデーを手土産に持たせました。売れた酒の利益の五パーセントがモット伯に支払われる、という事にしておきましたから、彼としても必死になって売り込んでくれる事でしょう」
「いや、なんとも痛快だねえ。あの店に一千エキューも支払った甲斐があったというものさ。本当に、実際にこの目で見ておきたかったよ」

 それはもう嬉しくて仕方が無い、という表情で、フーケが腹を抱えて笑い転げた。フェイトも、心底嬉しそうに微笑んでいる。

「で、例のブツは一体全体なんのマジックアイテムだったんだい?」
「ああ、あれですか。単純です」

 そう言ってフェイトは、両眼に指をつけると、何か透明の膜を取り出した。

「錬金して頂いたこの膜に、光を波長ごとに分解する魔法をかけました」
「波長?」
「はい。光は、プリズムを通す事で紫色から橙色へと、虹の様な色彩に分解されます。その色を、カードに印刷されているインクが持つ熱量ごとに分けて見られるようにしたのです」
「つまり、カードの裏側が見える、っていうアイテムかい」
「ええ。発する魔力は微弱ですので、私が発する魔力に邪魔されて、気がつかれなかったみたいですね。まあ、アルコールも入っていましたし、いやらしい格好で挑発もしましたし、色々と集中するのを邪魔しましたから。これで賭け事に勝てなければ、私もよほどの馬鹿という事になりますね」

 まあ、二度と使うつもりはありませんが。
 フェイトはそう呟くと、手のひらで魔法のかかった膜を握りつぶし、ローブのポケットにしまった。そんな彼女を見て、にやりと笑うフーケ。

「さて、で、これからあたし達がやるべきは」
「ええ、蒸留酒の大量生産のための醸造所の建設と、その販売を担当する商会の設立ですね」

 二人は互いの眼を見合わせると、しっかりとした表情でうなずきあった。

「あたしはこれからガリアに向かう。あそこはジョゼフ王の粛清で、貴族の名前を失ったメイジがごろごろしているからね。掘り出し物がたくさんいるだろうさ。連絡は欠かさないから、何かあったらよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします。私は、ブランデー以外の蒸留酒の開発にあたりますので」

 そしてフェイトは、十二万エキュー相当の小切手をフーケに手渡した。

「これを活動資金にしてください。このお金を「洗って」足がつかないようにするのは、できますよね?」
「当然さ。そうでなくっちゃ、これまで領収してきた「お宝」を売りさばくなんてできやしないからね」

 フェイトとフーケは、互いに右手を差し出しあい、しっかりと握り締めあった。

「貴女の協力がなければ、こんなにも上手く話は進みませんでした」
「あたしも、あんたと仲間になれなければ、今頃牢獄送りか、どこぞの貴族の飼い犬だったろうさ」


 夜風が半裸に近いシエスタにはとても辛そうであった。だからタバサは、自分のマントを彼女にまとわせ、その上で自分のウインド・ドラゴン、名前をシルフィードと呼んでいるが、その背に乗せて一路魔法学院へと向けて飛んでいた。

「それで、どう進んだの?」
「あの、すみません、フェイトさんに固く口止めされているんです。下手に噂が広まったら、わたしの命が危ない、って」
「大丈夫、秘密は守る。キュルケやルイズにも話さない」

 タバサは、自分の背中にぴったりと身体を寄せ、腰に手を回しているシエスタから、事の顛末を聞きだそうとしていた。
 なにしろ、マルトー親父の元から戻ってきたフェイトが、開口一番「シエスタさんを取り戻しにいきます。手伝って下さる方は?」と、全員に向かって宣言したのである。真っ先に手を上げたのがなんとロングビルであり、続いてその場の勢いでキュルケもルイズもギーシュも、そしてコルベールまで手を挙げたのだ。キュルケが手を貸すと宣言した以上、自分もそれに付き合おうと思い、手を挙げたのも事実ではあるが。
 そしてフェイトは、ロングビルに何かを錬金させ、ギーシュに馬を用意させ、キュルケにもっとも煽情的でいかがわしいドレスを用意させ、そしてルイズに「モット伯の門をくぐるのに、一度だけヴァリエールの名前を使うのを許して欲しい」と頼み込んだのだ。ちなみにタバサには、取り戻したシエスタを魔法学院まで安全に連れ帰る、という任務が割り当てられたわけであるが。なお、コルベールはシエスタを研究室の専属メイドにするよう、オールド・オスマンにかけあうという仕事を割り振られていたりする。

「ええと、そうですね、秘密ですよ」
「大丈夫」

 それから、シエスタが堰を切ったように話し始めた内容は、さすがのタバサも唖然とするしかない内容であった。まさかフェイトが、モット伯を博打で身包み剥いで、その借金をかさに例の蒸留酒の独占販売の権利を王政府に保障させるとは。
 自分もガリア王国のシュヴァリエとして、色々と裏側の世界について見知ってはいる。だがしかし、こうも見事に権力者に取り入り、それを裏切れないように諸々で縛りあげて、道具として使うやり方を平然と行えるとは。フェイトのあの濁って腐りきった瞳の後ろには、こんな奸智に長けた犯罪者の顔があったとは。
 タバサは、フェイトの表の顔しか知らない仲間達の事を思い、自分が彼女という猫につける鈴になるしかない、と、そう確信した。少なくとも、ちょっと不良なだけのキュルケや、世間知らずのルイズやコルベールでは、フェイトが何かやろうとしたときに抑えにすらなれまい。ましてロングビルは、「破壊の杖」事件の諸々の挙動からして、「土くれ」のフーケである可能性が高いのだ。多分、フェイトとフーケの二人は、あの時点で同盟を組んでいる。つまり、今回の一件も、シエスタの一件が丁度よいきっかけだったので、モット伯をはめただけなのであろう。
 それはもう、フェイトに対する限りない賛辞を話し続けるシエスタを背中に、タバサは、キュルケが一番最初にフェイトの危険性に気がついたその事に心から感嘆しつつ、友人のこれからを案じていた。


 シエスタが魔法学院に戻ってから一週間後。
 トリスタニアの飲み屋街の一角で、四人の男女が顔合わせをしていた。そのうちの二人は、フェイトとフーケである。そして残りの二人は、一人は銀髪の線の細い若い美男子。もう一人は修道女の格好をした金髪の少女。

「紹介するよ。彼はトマ。ガリアの王都で闇賭場の用心棒をやっていた男で、オルレアン公の使用人の息子だった」

 酒場の片隅で、周りに声が漏れないようサイレントの魔法をかけた机で、フーケがそうフェイトに男を紹介する。

「彼女は、リュシー。同じくオルレアン公のシュヴァリエの娘で、父親は処刑されている。水のスクエア級のメイジだが、貴族じゃあない」

 二人は黙ってフェイトに向かって頭を下げた。

「過去、色々と大変な経験をなさった様ですね。これから、是非お二人の力をお貸し下さい」

 フェイトは、ほんのりと優しく二人を気遣う様な微笑みを浮かべ、自身も頭を下げた。

「自分の恩人の死に水をとっていただいただけでなく、こうして無事トリステインに脱出させて下さいました。そのご恩は必ずお返しいたします」
「私も、ただ復讐の思いに身を焦がしつつ何もできずにいたのを、簒奪者ジョゼフへの復讐の機会を与えてくださって心から感謝しております。なんでも構いません、是非この身をお役立て下さい」

 二人の瞳には、深く暗い復讐の意思が炎となって澱んでいる。そんな彼らを頼もしげに眼鏡越しにみやりつつ、フーケはフェイトに向かって言った。

「というわけで、新たに立ち上げる「ラグドリアン商会」の総支配人にはトマ。研究室で蒸留酒と薬品の開発にはリュシー。これでどうだい?」
「結構です。お二人ならば、きっと期待以上の成果を出してくださいますでしょう」
「ああ、あたしもそう思っているよ。それじゃあ、新たな仲間に乾杯といこうじゃないか」

 四人は、血の様に赤いワインの入った杯を掲げ、唱和した。

「貴族どもに目にものを!」


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