<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.26956の一覧
[0] 【ネタ】とある騎士(ナイト)の七罪装備(グラットン)【習作】[オニオンソード](2011/05/18 23:19)
[1] BA・仕様変更・近況報告 [オニオンソード](2011/05/19 01:13)
[2] 第1話 上 #1改~#10[オニオンソード](2011/05/18 23:05)
[3] 第1話 中 #11~#14[オニオンソード](2011/05/23 22:39)
[4] 第1話 #15 New! [オニオンソード](2011/06/05 20:43)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26956] 第1話 上 #1改~#10
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/18 23:05
5種族の人間と、幾種類かの獣人が争いながら住んでいる、
剣と魔法と広大な大地の幻想世界、《ヴァナ・ディール》。

その世界の一部に、モンスターと冒険者が跋扈する3つの大陸と、大小の島々がある。

冒険者は主にモンスターを狩って日々の生活を営んでいるため、
逆にモンスターに狩られてしまうことも決して少なくはない。

此処、《クフィム島・ベヒーモスの縄張り》はHNM(ハイレベルノートリアスモンスター)という凶悪なモンスターの巣窟で、
それらを狩る者たち、HNMLSという冒険者の集団が多くこの場所で戦利品欲しさに張り込んでいるのだが――


アアッ、ニンジャサンガヤラレター!
メインタテナシジャカテナイヨー!
ヤメロ!シニタクナ-イ!シニタクナーイ!シニタクナーーーーイ!!
ブロントサンハヤクキテーハヤクキテー!


現に今も、強敵《キングベヒーモス》にパーティーを支える要となる冒険者が倒れされてしまったらしく、
防戦ぎみとはいえなんとか保たれていたパワーバランスが崩れ、生き残りの冒険者たちの悲鳴がこだまする。

その悲鳴が、集合時間に遅れてしまったので急ぐ最高の騎士の長い耳に届いた。


「おいィ? また忍者はアワレにもメイン盾の役割を果たせずくずれそうになっているっぽいな?
 おれは今日も《とんずら》を使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦することになった」


貧弱一般人と一線を画す一級廃人にして、どのLSでも引張りだこなナイトである彼――
ブロントさんは、「はやくきて~はやくきて~」と泣き叫んでいるLSメンバーを守るため、
《ヴァナ・ディール》の大地をカカカカッと《とんずら》を使って駆けてゆく。

《とんずら》を使ったブロントさんはまさに俊足、氷で覆われた荒野もなんのその。
LSメン達の元へ普通ならまだ付かない時間で助けに入ることが出来るのだ。


「そのように急いて何処へ行く、大極の騎士」

「!?」


が、もう少しでベヒーモスの生息地の手前というところで、ブロントさんの行く手を塞ぐように、妙な男が現れた。

ざんばら髪に、無精ひげ、体格や身体の特徴的にヒュームのようにも見える。
絶望でも味わったかのように表情で、死んだ魚みたいに淀んだ目をする、どこかくたびれているような男。

妙と言えば格好も妙だ。
ボロ布のようなってしまっているローブ―頭の無い《エラント装備》のようにも見える―の上に、
もはや鉄くずにしてしまった方が良いぐらいの鎧―ボロボロだが形状は《アビスキュイラス》に似ているような気がする―を着けるという、
なんだか良く分からないけったいな装備をしている。

男の装備は全て白を基調としているようなのだが、全て黒くくすみ、汚れていて、男が纏うくたびれた空気をより一層強調している。
ブロントさんの身につけるまっさらな装備、《ガラントアーマー》とは、まさしく雲泥の差である。

ブロントさんが驚いたのは、男の妙な格好もあるのだが、それだけではない。

ベヒーモスの縄張りは、多くの冒険者がモンスターを狩りに来る場所だ。
ただ人間が居て声を掛けられただけ。
その程度の事、驚くような理由ではないのだが……

この男は、『突然目の前に現れた』のだ。

以前に、時間の流れをパラパラ漫画で例える話をどこかで見聞したことがあるのだが、
この男は、その時間というパラパラ漫画に突然描き足されたかのように現れたのだ。

そして、不思議なことに、この場には普段ならば居るはずの他の冒険者やモンスターが、今はどこにも居ない。


「…どうした、怯えているのかエルヴァーン。
 怯懦はタルタルが持つ心の闇であろう?」

「お、おもえは……?!」


ブロントさんに問い掛けながらも、ブロントさんを見ていないかのように投げやりな態度の、くたびれた男。

ブロントさんは不良界でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無い。
だが、今回はおかしい。
この男を見ていると、なにか心の昏い部分が…魂が……ちりちりとざわめくのだ。

胸の奥底から来る妙なざわめきに、身体から力が抜けて、ガクッと膝が折れそうになる。
それでも懸命に食いしばって、ブロントさんは謎の男を睨みつけた。


「お前は、いったい…なんなんですかねぇ……!?」


ブロントさんからの問いに、くたびれた男は、
怯えているかのように視線は反らす癖に、憎悪や嫉妬に溢れたような表情をしながら、尊大な口調で答えた。


「我は汝、汝は我。
 我は汝ら人間の父であり、汝は我が断片の一つよ」

「…「訳わからんね」「笑う坪どこ?」。
 【電波】【いりません】【かえれ】。
 おまえの言葉を菊ぐらいなら、おれは牙をむくだろうな!」


男がなにを言っているのかブロントさんには本当に理解不能状態だった。
ただ理解可能なのは、このまま男を放っておけば、なにかヤバそうな予感がするという事だけだ。

地面を蹴って一足飛びにくたびれた男へと肉薄し、腰から愛刀・グラットンソードを抜き放つ。


「ほう…それでこそだエルヴァーン。
 驕慢の身で振るう暴食の刃、我が身に突き立ててみるか?」

「グラットンスウィフトで!!」


Burontは、《スウィフトブレ――もとい、《グラットンスウィフト》の構え。
高速の刃による目にも止まらぬ三連撃が、くたびれた男を襲い――


「バラバラに引き裂いてやろうか?」


バラバラに引き裂いた。
大物ぶっていた割には、男は呆気ないぐらい簡単にブロントさんに斃されてしまった。
ヒットポイントが0になったのか、地面に倒れプリケツを晒す。

避けもせず防ぎもせず、ただ棒立ちでブロントさんにズタズタにされたところを見ると、ただのバカだったのかもしれない。

男が動かないことを見届け、ブロントさんは剣を収めて目的地に目を向ける。


「…おっととこんな奴に窯っている暇はにいだよ。
 今度こそ俺は普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦するぞ」


男のレイズ待ちの死体を跨ぎ、再び《とんずら》で駆けだそうとするブロントさんを、


「…だから、そのように急いて何処へ行こうというのだ、大極の騎士よ」


誰かが後から声を掛けて、それを中断させた。


「ぬっ!?」


驚き振り向くブロントさん。
振り向いた瞬間、いつの間にか背後に立っていた誰かに首根っこを掴まれ、ワンハンドネックハンギングツリーのように
持ち上げられた。


「ぐっ…!」
(7、721(ナニィ)っ!?)

「ははは、なにを驚く。
 父は子を持ち上げてあやすものではないか?」


ブロントさんを持ち上げているのは、先ほどブロントさんが斬り捨てたはずのくたびれた男だった。


(あ、あり得ぬえ! 確かにコイツはさっきバラバラに引き裂いたんだが!?)


確かにバラバラに引き裂いた手応えがあったし、男は確かに戦闘不能のようだったのに……

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「ブロントさんは 男の死体を跨ごうと思ったら いつのまにか男に背後に回られていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが ブロントさんも 何をされたのか わからなかった…
頭がおかしくなって死にそう―今は窒息で死にそうなんですがねぇ?―だった… リレイズ掛けてあったとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

首から手を離させようと必死にもがくブロントさん。
だが、くたびれた男は先ほどの脆弱ぶりはどこへ行ったのか、蹴っても殴ってもビクともしない。


「汝が向かう先は友の元に非ず」


男の言葉とともに、男の背後で地面が割れ、地中から《禁断の口》が現れた。

《禁断の口》、それは《ヴァナ・ディール》各地に存在する不気味な意匠の謎の門。
《禁断の口》の向こうは、通常ならば行けぬ場所へ繋がっている。

だが、この《禁断の口》は過去世界やアビセアを繋ぐものとはどこか異なるような……

男がブロントさんを掴む手とは逆の手で指し示す。


「この門の向こう、だ」


ブロントさんを締める男の指に、
ブロントさんを持ち上げる男の腕に、
より一層力が籠る。


「がッ…あァ……ッ!!」
(門の中に投げ入れるツモりか!?)


ブロントさんも先ほどよりも力強く足掻こうとするが、呼吸が上手く出来なくて力が上手く入れられない。
どんどん意識が遠のきそうになっていく……


「我が復活と死への礎となれ…ブロント……!」


このまま命ロストなのかよ、とブロントさんがあきらめ顔になり、
いよいよ《禁断の口》へブロントさんが放り込まれるというところで――


『待ちなさい!!』


凛とした女性の声が、寒々しい荒野に響き渡った。


「…遅かったな、《女神》よ」


くたびれた男の指から少し力が抜け、ようやくブロントさんは地面に足がついた。


「げほっ! がはっ!! はぁ……げふ……!」


今度はなんなんですかねぇ?、とブロントさんが霞む目を開けると、クフィム島の分厚い曇り空が割れ、一筋の温かな光が差し込んできた。

その差し込む光とともに、誰かが此処へ降りてくる。
遠目にはヒュームの女性のようだが、ヴァナ・ディールではレビテトは禁呪だ。

ティアラを着けた光り輝く長く美しいブロンドの髪をなびかせ、
ウィンダスの《星の神子》っぽい白いドレスローブのようなものをはためかせて、ブロントさんたちの元に飛来した。

本来は優しい表情が似合うであろうその神秘的な美貌は、今は険しさしかない。


「…何処へ向かうつもりなの!?」


飛来した女の問いに、くたびれた男は、


「何処へ、か……ああ、もう分かっているのだな、《女神》よ。
 識る為ではなく確認の為に我が口から聞きたいのだな、《女神》よ」


芝居でも演じているかのように、答えた。


「クリスタルの光が届かぬ地へだ!」
 

答えと異変は同時だった。
《禁断の口》が突然鳴動し、空気をぐんぐん吸い込み始めた。
吸引力の変わらない唯一つの掃除機であるダイソンもびっくりの吸引力だ。


「なっ!?」

「おっ、おいィ!?」

「はっはっはっはっはっ!!」


《禁断の口》の傍に居たブロントさんとくたびれた男は、当然ながら《禁断の口》に吸い寄せられる。


「お、お、おっ、おいやめろ馬鹿! このイベントははやくも終了ですね!
 不意だま重力物体199とか汚いなさすがアトモスきたない!
 俺はこれでアトモスきらいになったなあもりにもひきょう過ぎるでしょう!?
 やはりアトモスよりやはりディアボロスだな今回のこと、でッ……!
 ぬわーーっ!!」


懸命に抵抗しようにも、時既に時間切れ。
既に身体は浮いてしまって踏ん張ることも出来ない。
ブロントさんとくたびれた男は《禁断の口》に吸い込まれてしまった。


「ま、待って!!」


女が慌てて駆け寄るも、呼び出した男が居なくなってしまったが為か、《禁断の口》はうんともすんとも言わない。

女が自らも飛び込もうと門に触れようとしたところで、何処からともなくくたびれた男の声が響き渡る。


『止せ、《女神》よ。 汝は我とは違う。
 この門の中は、直にクリスタル無き世界に通じる。
 もし汝が我を追いこちらに来れば、汝は神としての力を失うことになるやもしれぬぞ?
 汝の守護無きヴァナ・ディールは、一体どうなるのであろうな?』

「っ! それは……!」


男の言うとおりだ。
自分はこの世界を見守らなければならない。
彼から生み出した人の子らが生きる、この世界を……


『聞こ――か、女神よ』


どこからともなく響く声が、どんどん聞こえづらくなってきた。
男の言うとおり、門の中はクリスタルの光が届かない世界と繋がりつつあるのかもしれない。


「待って! 行かないで!」

『我が命を守――者…よ 、――再び「復活」する 。
 そしておまえの望――死へ…と…虚―る闇の―へ――
 永遠の―黙を――落ちるべ…く……
 今度こそ…――こそが、永劫―別れ――ルタ――――』

「行か…ないで……」


女は男の目的を知っている。
彼が何をするためにあの騎士を連れ去ったかを……
それでも、彼女は、彼女は愛する人に……


「…ロ…マシ……」


《禁断の口》の前で泣き崩れる女。
もう聞こえぬであろうことを知りながら、声にならない声で、愛する人の名を呼んだ。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


ブロントさんが飲み込まれた門の中は、光あふれるクフィム島とは打って変わって無明の暗黒空間だった。


「真っ暗で、なにも見えにい……」


落ちているのか飛んでいるのかも分からない。
とりあえず妙な浮遊感を感じるため、地に足がついてないのは確かなようだ。

一緒に吸い込まれたであろうくたびれた男も見当たらない。
ターゲットする対象もないし、《フラッシュ》や《ホーリー》で一瞬でも辺りを照らそうとするも、
発生した光はなにもない闇の中に飲み込まれるだけで視界を確保することも出来ない。

もう、どこから此処に入ってきたのか分からなくなっちゃった。
小さな明かりが集まってオカエリクダサイ(←なぜか反転できない)と文字を作ることもない。
これでは流石のナイトもお手上げネガ侍だった。


「おれのリアル生活より充実したヴァナ生活も、此処で幕ギレんあんですかねぇ……
 我がヴァナ人生に一片のクイナ氏と言いたいんだけどよ……
 LSメンを守れずこうやって裏世界でひっそりと幕を閉じるあるさまでは……
 m理炎でいっぱい、なのは…確定的に……明らか――」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




時を少し遡らせて、ブロントさんが奇妙な《禁断の口》に飲み込まれる少し前へ。

時も違って、場所も変わる。
しかし、流れ出せばいつかは二つの世界が交わるかもしれない。

そこは、幻想的な世界《ヴァナ・ディール》とは真逆な場所、科学技術の最先端が集まった閉鎖的な空間。
一つの街でありながら一つの世界。
その街の総人口の8割を学生が占め、その学生たちは授業の一環として、日夜ある特殊な技術を学んでいる。

《学園都市》、それが、もう一つの世界の名前。

《学園都市》には23の学区が存在する。
その23学区の中でも取り分け巨大な面積を持つ《第七学区》の広場で、4人の少女たちが知り合ったばかりの友人同士、
交友を深めるため、仲良くじゃれたり談笑しながらクレープ屋で買ったクレープをベンチでパクついていると、
その内の一人、花飾りを付けた少女が、なんでもない日常風景の中にある違和感に気がつく。


「ん? どうかしたの? 初春」

「いえ、あそこの銀行なんですけど……
 なんで昼間っからシャッターを下ろしているんでしょう?」


花飾りの少女が指し示した銀行は、確かに完全にシャッターが降りていた。
平日の昼日中、余裕で営業時間だというのに確かにおかしい。

花飾りの少女・初春飾利の疑問に、セミロングの少女が同意しようとしたところで――

銀行のシャッターが突如内側から爆発した。


「な、なんなの!?」


誰もがその異変に驚く中、初春、そして連れの一人が即座に反応、対応をする。


「初春! 警備員(アンチスキル)への連絡と、怪我人の有無の確認! 急いでくださいな!」

「は、はい!」

「黒子!」


黒子、と呼ばれたツーテールの少女は、スカートのポケットに忍ばせていた腕章を付けながら、
「いけませんわ、お姉様」と、セミショートの少女をやんわりと制した。


「《学園都市》の治安維持は、わたくしたち《風紀委員》(ジャッジメント)のお仕事――
 今度こそ、お行儀良くしていてくださいな」


『お姉様』、と呼ばれたセミショートの少女は、自分も彼女らと一緒に、
真昼間から騒ぎを起こした馬鹿をとっちめてやろうと思ったのだが、
それはいらぬ心配だと言われてしまった。

黒子には、朝にも一般人が事件に首を突っ込まないようにと釘を刺されている。


「分かったわ。
 それじゃ、バシッと解決してらっしゃい」

「ええ、どうぞそこでごゆるりとしていてくださいませ」 


――――――――――――――――――――――


「おらっ! グズグズすんなっ!!」


黒煙が上がる銀行のシャッターから2人ほど男性が出てきた。
中肉中背のと肥満な巨漢の二人組。


「ま、待ってくれよ……へっへへ、大量に詰め込んだぜ」


そこへ、さらに奥からひょろっとした小男が合流する。
男らは皆揃ってバンディットマスクのようにバンダナで下半分を隠しており、
そして手にはものを入れすぎて膨らんでいる安っぽい鞄を持っている。
小男の鞄からは札束が覗いているので、十中八九彼らの持つ鞄の中身は全て奪った現金であろう。

奴らが強盗をしていたため、銀行のシャッターは閉まっていたのだ。


(火災から現金を守る、煙を吸わないように布を口に巻いた銀行員にはとても見えませんものね)

「ったく……
 よっしゃ! じゃあ引き揚げるぞ! さっさとしねえと――」

「お待ちなさい!」

「「「!?」」」


黒子は先回りをし、銀行から逃げ出そうとする強盗たちの行く手をさえぎった。
そしていつものごとく名乗りを上げる。
犯罪者たちをおののかせる自らの所属の名を。


「風紀委員ですの!
 器物破損、および強盗の現行犯で、拘束します!」

「ジャ…! じ……?」

「あ……?あ……?」

「ああ……?」

「む?」
(こ、この反応は……)


腕章を見せつけ、自らを風紀委員であることを誇示することによって、強盗を足止めすることができた。
だが、これは……


「「「ふっ、ふへひゃはははははははははは!!wwwww」」」

「あんだよこんガキ!www」

「じゃ、風紀委員も人手不足かぁ?ww あはひゃwww」

「むっ……」ムカチン


強盗たちは、最初こそ風紀委員という単語に肝を冷やした。
だが、その自分たちを拘束しに来たという「じゃっじめんと」がただの子供だったため、
警戒するどころか笑いだしたのだった。

この反応には慣れているものの、いや、慣れているから腹が立つ。
黒子はオーラとして見えそうな怒気を纏ってツカツカと強盗に歩み寄る。

笑い転げていた強盗らのうち、肥満の巨漢がそれに気付いた。


「! ぅおら、おじょーちゃんww」


黒子の前に一歩ずしん、と脅しを込めて踏み出す。

女子中学生の黒子と、成人に近いぐらいの肥満の強盗犯。
二人の体格差は、圧倒的だった。


「けーさつごっこはよそでやりな。
 とっととどっかにいかねえとぉ……ケガしちゃうぜえ!?」


下卑た笑いを上げて黒子に掴みかかろうとする肥満強盗。

ただの正義感が強いだけの子供に対する示威行為であるならば、それで十分だろう。
だが、学生によって形成された治安維持組織、風紀委員の一員である黒子が、
ただの子供であるはずがない。


「……そうゆう三下のセリフは――」

「おっ!?」


黒子は肥満強盗の力任せに突き出した腕をひらりとかわし、腕をとる。
次に隙だらけの足を払い、相手の力を利用して投げ、肥満強盗を地面に叩き伏せた。


「ぬぐおっ!?」

「死亡フラグですわよ?」


背中から地面に叩きつけられた肥満強盗は、目を回して気絶した。


「んなあ!?」

「て、テメエ……!」


仲間の一人がやられて、遅まきながら前に立ち塞がった子供が、
自分たちの恐れていた脅威だとようやく認識した強盗たち。
だがもう遅い、風紀委員がすぐ傍にいることを知らず犯罪を犯した自らの不幸を呪うしかないのだ。


「…すごい」

「さっすが黒子ー」


初春と黒子の連れの少女たちは友人の活躍に感嘆の声を上げる。
だが二人のその感嘆は、言い争う声に打ち破られた。


「ダメですって! 今広場から出たら――」

「でも!」


広場には、事件に巻き込まれぬよう銀行周囲にいた一般人を、黒子と同じく風紀委員である初春が誘導しているのだが、
その初春が、要救助者の女性となにやら揉めているではないか。

犯人の鎮圧は黒子に任せるとしても、誘導ぐらいは手伝えるかもしれない。
『お姉様』と呼ばれた少女とセミロングの少女は初春を手伝いに向かった。


「どうしたの?」

「それが……」


何があったのか二人に事情を尋ねると、この女性バスガイドが引率してきた子供の一人が、
バスに忘れ物を取りに行ったきり、どこにも見当たらないと言う。

もしその子が事件に巻き込まれでもすれば、黒子もその子も危ない。
事情を聴いた彼女らは、手分けして子供の捜索に当たることにした。


――――――――――――――――――――――


仲間があんなちんけなガキに片手で捻られてしまった。
その事実と風紀委員の実力に怯えて、小男の強盗が、リーダー格である中肉中背の強盗に詰め寄る。


「ど、どうするんスか!? 丘原さん!?」

「!? 馬鹿野郎! なんのために顔隠してると思ってんだ!」

「ひ、ひぃ……! す、すいません!!」

「ちっ…!」


《学園都市》には、《書庫》(バンク)と呼ばれる総合データベースがある。
今聞かれた自分の名前と、シャッターを破壊した『方法』からきっとすぐに
自分の身元が割れ、足がついてしまうだろう。

強盗のリーダー格、丘原燎多が逃げ切るには、目の前の風紀委員の口を封じる以外になくなってしまった。


「やるじゃねえか、さすがガキでも風紀委員、見た目どおりじゃねえって訳だ。
 だが俺だってな――」


丘原は、自らの『武器』を取りだす。
それは鈍器でも銃器でも刃物でもない、学園都市の学生ならではの『武器』。
丘原の掌の上に、突然ゴウッと炎が生まれた。


「《放火能力者》(パイロキネシスト)……ったく」

「今さら後悔してもおせえぞ。
 俺はこれでも強能力(レベル3)の能力者なんだぜ?」

「はっ。
 戦う前から手の内を見せてどうするつもりですの?
 そういうものはぎりぎりまで隠しておくものでしょうに」

「んだと……!
 俺を本気にさせたからには――」


この驚くべき光景に、ドイツ軍人――もとい、白井黒子はうろたえない。
相手が放火能力者と見るや否や、突然あさっての方向に走り出した。


「テメエにはケシズミになっ…て……へ?」


急な出来事に一瞬呆けそうになる丘原。
でかい口を叩いていたので、目の前の風紀委員もてっきりそこそこの能力者だと思ったのだが、
一目散に走り出すその有様では、ただ虚勢を張っていただけなのだろうか?


「丘原さん! あのガキ逃げちまいますよ!」

「言われるまでもねえ! 逃がすかよぉ!」


仲間の声で我に返り、走り出した黒子に向かって火球を放った。
放たれた火球は、当たればとてもただでは済まなさそうな勢いだ。
おそらく銀行のシャッターもこれで吹き飛ばしたのであろう。

丘原の狙いは正確に黒子を捉えている、走っては避けられそうにもない。
哀れ少女はこんがりと上手に焼け死んでしまうのか?
いやいや、そんなことはありえない。
この恐るべき灼熱の魔弾を黒子は――


「誰が――」


空気を裂く、ヒュンという小刻みな音と共に、その場から消えることで回避した。


「消えた!?」

「逃げますの?」


消えた黒子は一瞬で丘原の顔前に現れる。


「なぁっ!?」


また消えたと思えば、今度は丘原の後頭部にドロップキックを放つ。
また消えたと思えば、今度は倒れた丘原を、太もものホルダーに仕込んだ金属矢を《転移》させ、
丘原の服と地面を縫い付けることで拘束した。


「ひっ、ひいいいいいいいいい!?」

「て、《空間移動能力者》(テレポーター)……!?」

「これ以上抵抗するなら――」

「はっ…」


自分たちの相手がどんな《能力者》か知った小男は逃げだした。
逃げられない丘原の顔は恐怖で歪む。


「次は金属矢(コレ)を、体内に直接《空間移動》(テレポート)させますわよ?」

「ま、参りました……」


黒子は拘束した相手を嗜虐的な表情で見下ろした。
《空間移動》、それが黒子の《能力》。

物理法則を捻じ曲げて超常現象を起こす力、《超能力》。
これこそが、この《学園都市》で学生たちが学ぶ特殊な技術なのだ。


――――――――――――――――――――――


黒子が丘原をズバッと鮮やかに鎮圧した一方――


「初春さん、そっちは?」

「だめですー!」

「どこいったのよぉ、もう!」


初春たちはバスガイドの証言のもと、忘れ物を取りに行ったまま戻らないという男の子を捜している。
『お姉様』と初春はバスの中と周辺を、バスガイドはバスの近くの茂みや物影を――


「うーん……」


そしてセミロングの少女は、バスより少し離れた位置で男の子を探していた。
小さな子供がどこにも見つからないという事実が捜索に熱を入れ、少女の感覚を研ぎ澄ませる。
その研ぎ澄まされた耳に、不穏な声が届いた。


「ひっ、ひぃ……あん? なんだお前……!
 ちょうど良い! 一緒に来い!」

「え? なにおにーちゃん、だれー?」

「んっ?」
(一緒に、来い?)

小さな子供の声と切羽詰まったような男の声。
セミロングの少女が振り返ればなんと、黒子が丘原に気を取られている隙に逃げ出した小男が、
子供を人質に取ろうとしているではないか。


「え……あ……!」


風紀委員の初春と、強力な能力を持つ『お姉様』、二人に知らせて助力を乞う暇は、ない。


「うん……!」
(あたしだって……!)


彼女たちのようにといかなくとも、力のない自分にだってやれることはあるはずだと、
セミロングの少女、佐天涙子は子供を助けようと駆けだした。


「やっぱり、広場の方をもう一度さが――」

「アアっ!?んだテメェ!? 離せよ!!」

「!?」


バス周辺では一向に子供が見つからないため、近くにいた初春とバスガイドに出そうとした『お姉様』の指示は、
より大きな声にかき消されてしまった。
突如響いた男の怒鳴り声に、その場に居る全員の視線が集中する。


「ダメぇ!!」


なんとそこには、強盗に連れていかれる子供を必死に助けようとする、佐天さんの姿があった。

どれだけ小男が恫喝しても佐天さんは子供を抱き締めて離さない。
このままではあの空間移動能力者から逃げられないと判断した小男は――


「クソッ! クソッ! クッソォ!!」

「きゃあ!!」


佐天さんを蹴り飛ばすことによって、自分だけでも逃げ出しそうとした。
蹴られても、佐天さんは子供を決して離さない。
小男はその気迫に圧されて尻尾を巻いて逃げだした。


「ッ!!」


佐天さんを、蹴った。
よほど風紀委員に捕まるのが怖かったのだろう、恐怖から逃げる時、人は必死になるものだ。
だがその行為は、絶対に選んではいけない選択肢だった。
強能力者も相手にならないような能力者が『お姉様』と慕う、最強の電磁砲の引き金を、小男は引いた。

――――――――空気が/帯電/する。


「佐天さんっ!!」

「なっ……くうっ!!」


目の前で親友が蹴られ、初春は無事を確かめに駆け寄った。
黒子は自らの失態を悟り、挽回せんと逃げた小男へ金属矢を放とうとしたところで――


「黒子ぉっ!!」


尊敬する『お姉様』からの一喝に、あの強盗犯を怯えさせた風紀委員が、強力な空間移動能力者が、萎縮してしまう。


「……え?」

「こっからは私の個人的なケンカだから――」


それまでは後輩に任せておけば大丈夫だと静観していた電撃姫が、
友人を傷つけられることによって燃え上がった怒りの炎を電気に変えて、動き出す。


「手、出させてもらうわよ?」

「あー……」
(これは、止めるだけ無駄ですわね)

「お、思い出した……!」

「ん?」


そんな怒れる『お姉様』の様子を見た丘原が、地面に縫い付けられたまま実に説明的なセリフを喋りだした。


「風紀委員には捕まったが最後、身も心も踏みにじって再起不能にする、
 最悪の空間移動能力者が居て――」

ィィィィ……

「誰のことですの、それ?」


小男は逃走用に停めてあった車に逃げ込めたものの、


「クソガキどもがぁ……!
 ガキにナメられたままでおめおめ逃げられるかよ……
 ひひひ、丘原さんとスプーキー(肥満強盗)の弔い合戦だ!」


と一矢報いる腹積もりでいた。
そんなことをするぐらいなら、逃げた方が良かったと思うことになる相手が居るとも知らず。


イィィィィィィィィィィ……
                             
「更にはその空間移動能力者の、身も心も虜にする、最強の《電撃使い》(エレクトロマスター)が……!」

「へっへっへっ……こうなりゃてめえらまとめてえ……!」


乗り込んだ車で全員轢き殺そうと、小男は車を旋回させて、
『お姉様』…最強の電撃使いに向かいあい、脅しとばかりにエンジンを吹かす。
だが、そんな程度のこと、彼女は気にも留めない。


オイィィィィィィィィィィィィィ……

「そう、あの方こそが、学園都市230万人の頂点――」

オイィィィィィィィィィィィィィィィィ……

「7人の超能力者(レベル5)の第三位――」

「おいィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……」

「んもぅ!さっきからなんなんですの!?
 人がお姉様の素晴らしさを讃える口上をしてる時は静かにしてくださいまし!!」

「し、白井さん! あれ見てください!」

「あれ?」

「上ですって! 上!!」

「うえ?」


佐天さんと初春の二人の言葉に従い、空を仰ぐ黒子。
「いったい何があると言うんですの?」、と少々不機嫌気味に視線を移せばそこには――

「な、なんですのぉ!?あれは!?」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


小男が佐天さんを蹴った直後ぐらい――

少女らが強盗相手にすったもんだしてる間もブロントさんはまだ謎空間でぷかぷか浮いていた。

これはバグかもしれないと思い、GMコールをしたりしても無反応だったり、
勝利条件が限られすぎて手も足も引っ込んだ状態(カメェ)。

とりあえず今は暇つぶしにくだらないことを考えている。


「さっきのログに「いっぱい、なのは…」とかあるんだが、管理局の白い悪魔がいっぱいとかちょとsYレならんしょ……」


……聞いてくれる人がいないと、むなしい発見だった。

いったいいつまでこうしていなければならないのか、流石に退屈を通り越してムカついてくると――
それまで一筋の光も射さない扉の中の謎空間に、急激に変化が起き始めた。


「うおっまぶしっ。
 いくら俺が光と闇が両方備わった思考のナイトといっても不意だまフラッシュとかあもりにもひきょう過ぎるでしょう…?
 …お、なんだ急にPOPしてきた>>風」


光が満ちて、風が起こる。
日の光を浴びることは、空気の流れを感じることは、こんなにも素晴らしいことなのか。
目が眩んでいるので言葉だけは憎々しいものが滲んでいるが、ブロントさんは心の中で喜び、安堵していた。


「……しかす妙に風が強すぐるんですがねぇ?
 だが、なんというかふじきと寒くはにいな?」


元々ブロントさんがいたクフィム島は氷で覆われた荒野のエリア。
こんなにも明るい場所ではなく、こんな勢いの風が吹けばもっと寒いし、
風は湿ったような風であって、こんなにもカラッとした心地よいものではない。

冷静に考えるとおかしいことだらけなので、眩んだ目の視界も即座に元通りにしちぇしまう超パワー!で目を開き、
ブロントさんは今、自分がどこにいるかを確かめてみる。

光に慣れた視界に飛び込んだのは青。白。青の美しいコントラスト。
今、ブロントさんは空に抱かれていた。

つまりは……なぜかとんでもない高所から落下している最中である。


「oili misu みうs。
 おいィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!?」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――




「鳥だ!」

「飛行機ですよ!」

「スーパーマンですの!ってやってる場合じゃありませんの!!」


『お姉様』と小男、人対車が向かい合ってのチキン・レースをしている間に落下しようとしているあれは明らかに……


「お姉様ぁー! 空から鎧姿の男が!!」

「ふえっ?」


『お姉様』は後輩からの突然の意味不明な言葉に驚きつつ、指でコインを弾いた。

それは、彼女の通り名にして必殺技、《超電磁砲》(レールガン)の予備動作。


――――――――――――――――――――――


空ばかり見てもいられない。
落ちるのは勝手だがそれなりの落ち方をしなければ、このままでは命ロストしてしまうのは確定的に明らかである。

ブロントさんはなんとか身体を捻って、ちょうどスカイダイビングをするような形にした。
視界からは青と白がなくなり、代わりに広がるのは灰色が豊富なコンクリートジャングルだ。

とても氷で覆われた荒野とは思えない。
というか、いったい自分がどこへ向かって落ちているのかも、ブロントさんには分からなかった。


「だが今はソルを郵貯に考えている時間はないんですわ!?
 こっ、このままではおれの寿命が地面とキッスでマッハなんだが!?
 命ロストが怖いなら>>1カバチ化やるしかぬえ!!
 /sh うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


ここで問題だ! この絶体絶命の状況でどうやって生き残るか?
3択―ひとつだけ選びなさい。

答え①ハンサムのブロントさんは突如起死回生のアイデアがひらめく。
答え②LSメンがきて助けてくれる。
答え③どうしようもない。現実は非情である。
答え⑩<死ぬよ。 ②<【えっ!?】 ⑩<このまま死ぬ。


「/sh 俺の答えがどうやって③だって証拠だよ!
 /sh メチャメチャきびしい人達がふいに見せたやさしさのせいだったりするんだろうねという
 /sh 名セリフを知らないのかよ真実はいつも①つしかにいので以下レスひ不要です!」


――――――――――――――――――――――       


「やってやるぅ! やってやんぞぉ!!
 どうせやっちまうなら一人や二人ぐらいじゃ済まさねえぜえ!!」


完全にぶち切れた小男は、アクセル全開で走り出す。
人間が作り上げた高速で動く鉄の塊。
これにかかれば脆い人間なんてイチコロだ。


「まずは短髪のガキィ……!
 なにも怖くないって顔しやがって気に入らねえんだよ……
 テメエからだぁ!!
 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


実際『お姉様』は彼らになんの危害も加えていないのだが、
どうやら目の前に立ち塞がっているのが気に入らないらしい。
追い込まれすぎて発想が狂人の域に達している。

『お姉様』まであと僅か、というところでエンジンがうるさいはずの車内なのに、不思議とどこからか叫びが聞こえてきた。


「――にいので以下レスひ不要です!」

「ひゃひゃひゃひゃ……ひょ?」

「生半可なナイトには真似できない……!」


小男はきっと、自分の身に何が起こったかまったく理解不能状態だっただろう。
空から黄金の鉄の塊が降ってくるなど、誰が予想出来るだろうか。


「《インビンシブル》!!」

「ぎょはぁーーー!?」


黄金の鉄の塊で出来たナイトが、鋼装備に遅れをとるはずがない。
貧弱一般乗用車は、天から舞い降りた一級廃人の持つプレシャーに耐え切れずアワレにもズタズタになり、小男は交通事故に等しい衝撃を受けて気絶した。


――――――――――――――――――――――


車は急に止まれないという法則を、上からとんでもない衝撃を叩きつけるという荒業で、
一瞬ジャックナイフの様に後輪を上げ、強盗の車は止まった。
だが、急に止まれないのは車だけではない。


「ええっ!?なに!?
 なにいきなり降ってきてるわけ!?」

「み、御坂さん!ストップですって! ストップ!!」

「電撃を収めてくださいましお姉様!!」

「そ、そんなこと言われても!!」


全てが急すぎて時既に時間切れ。
佐天さんと黒子の必死の呼び掛けも虚しく、《超電磁砲》・御坂美琴の腕では何輪ものスパークの火花が咲き続ける。


「れ、《レールガン》だって急に停められないわよー!!」

「ドラグスレイブみたいなものなんですかぁ!?」


初春のツッコミは少々マニアック過ぎるきらいがあるのだが、
今は誰にもそこへ更にツッコむほどの余裕はなかった。


――――――――――――――――――――――


「……実際俺は不良界でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無かったが生まれて初めてほんの少しビビった」


むくり、と、ルーフとボンネットが著しく凹んだ車からブロントさんは起き上がる。
ブロントさんが取った行動は、ナイトの《アビリティ》の一つである《インビンシブル》を使うことによって自分の身を守ろうという方法だった。

《インビンシブル》――

この《アビリティ》は、効果が続く間物理攻撃に対して無敵になれるという強力な《アビリティ》だ。
ただし効果時間は30秒、再び使用するのにしばらく時間を置かねばならないという面も備えていて実に謙虚である。

高高度からの落下ダメージをも防げるかは分からない―ヴァナにはにいからな―がゆえの賭けだったが、身体に異常は見受けられない。

「ほむ……なんとか上手くい――」


った感、と、ブロントさんは言葉を続けることが出来なかった。
追撃の《レールガン》で、ブロントさんの危機は更に加速したからだ。

《レールガン》――

御坂美琴の指先から放たれたコインは、
丘原の用いた火球とはその威力も火ではない威力というあるさまだ。

それは必殺技、正しく必殺の威力を持つ代物である。

音速の3倍以上のスピードで飛んでくる砲弾を避けることや防ぐことなど……常人には到底不可能だ。
音よりも早い攻撃、予めでなければ察知することすら出来はしない。
これを凌げる存在、それは、彼女と同格の能力者かあるいは、とある少年だけだろう。

圧倒的な破壊の波に遅れて、その威力を物語る衝撃音が辺りに鳴り響いた。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「あ…あ……」

もうもうと黒い煙が立ち込め、アスファルトには美琴が撃ったものの爪痕がくっきりと、
つけられている。
…やって、しまった。


「~~ッ!!
 初春! 怪我人の容体の確認と救急車の手配を! 一刻を争いますわ!!」

「は、はい!!」

「……あっ……え……ええ?」

「お、奥津ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!(小男強盗)」


黒子の即選即決の指示に初春は従い、携帯を片手に恐る恐るレールガンの着弾地点へと向かった。
佐天さんは目の前の急な出来事を理解は出来てもついていけないという感じだ。
丘原は子分が目の前で爆発させられて、磔にされたまま子分の名を叫んだ。

…急なことだった。
本当に急なことだった。


「ああっ……あああ……!!」

「お姉様……っ!」


美琴は、自分がしてしまったことを真っ向から受け止めて、ショックを受けているようだ。
黒子は後輩として先輩を、風紀委員として能力使用者を、そのショックから和らげるための対応をする。


「しっかりしてくださいましお姉様!!
 まだ死傷者が出たとは限りませんの!!」

「……無事な訳、ないじゃない」

「…おね――」

「無事な訳ないじゃない!! 黒子、アンタも見たでしょ……?
 私のレールガンが、人間に、直撃したのよ……?」

「それ…は……」


美琴は、本当は車の手前ほどにレールガンを着弾させて、爆風をぶち当てて車を吹っ飛ばすつもりだった。
でも、実際のレールガンの軌道は、突然のことに演算が乱れたのか、
空から降ってきた人間に、直撃するコースだった。

空から落ちてきたのだから、車の上に落ちた時点で普通なら死んでいるだろう。
だが、車の上の人間は着弾する前に、確かにむくりと起き上がった、生きていた。
助かったはずの命を、自分がこの手で奪い去ってしまったのだ。


「テメェ…! 《超電磁砲》……!
 よくも俺の子分をやりやがったなぁ!!」


丘原の怨嗟に、美琴はビクッと身体を震わせる。
丘原は尚も恨み節を吐こうとするが、黒子が強く睨むと言葉を詰まらせた。


「黒…子、私……人を、人を……」

「お姉様!!」


黒子は美琴をぎゅうっと抱き締めた。
「事故だった」、「仕方なかった」。
そんな言葉は自分から言うことは出来ないし、責任感の強い美琴も望んでいないだろう。
だが、このままでは、美琴が壊れてしまうように思われたのだ。


「黒、子……黒子、黒子ぉ……!」

「お姉様……」


普段の美琴なら、抱きつけば真っ赤になって黒子に電撃を浴びせるであろう。
だが今、そこに常の《超電磁砲》はいない。
そこにいるのは、自身の能力で強盗も無関係の人間も無差別に殺めてしまった重責に苦しむ、ただの少女だった。

ならば、白井黒子は、例え自他が望まぬかもしれない行為でも言葉でも、
御坂美琴を守るために言葉を紡ぎ、そして行おう。
例え歪んでいても、それが黒子の美琴への愛なのだから。


「お姉様! 此度のことは不幸が積み重なった事故でした!
 …もし、お姉様が罪に問われるならば、それはお姉様だけの罪ではありません。
 黒子にも責任がありますの。
 わたくしが、わたくしが慢心などせず犯人を即座に確保していればこのようなことには……!」

「ううん、そんなことない!
 私がレールガンを使わなければ良かったんだから……!」

「……あのー」

「いえ! お姉様はわたくしの尻拭いと佐天さんの仇討ちをされただけですもの……!
 全ての咎は、元を辿れば全てわたくしにありますの!!」
    
「いや、でも、私が手を出さなければこんなことには――!」

「すいませーん、もしもし?」


美琴と黒子が二人して「私が悪い」「いえわたくしが悪いんですの」と罪を被りあっていると、
佐天さんが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あら、佐天さん……
 色々言いたいことがあるでしょうが……
 申し訳ありません、まだ少しお姉様をそっとしておいて差し上げてくれませんこと……?」

「大丈夫よ、黒子……
 ごめんなさい、佐天さん……折角友達になれたのに、私……」

「ああ、いやぁ、その……大変盛り上がってるところ悪いと思うんですけど……」

「? どうかしまして?」


佐天さんの妙な歯切れの悪さに、今まで抱きあって号泣していた二人はキョトンとしてしまう。
二人が落ち着いて聞く態勢に入ったので、ある方向を指さし、
佐天さんは、ゆっくりと自分にも言い聞かせるように話しだした。


「ええと、信じがたいんですけど……
 なんか、無事っぽいっていうか、ほぼ軽傷みたいですよ、降ってきた人も、強盗も」

「………………」

「………………」

「「な、なんですってー!!」」


それは確かに信じがたい内容だった。
二人は佐天さんが指さした方向を見ると、立ち込めていた黒煙はすっかり晴れ、
そこにはまるで、レールガンが撃ち込まれる前のような光景が広がっている。


「「…………オウフ」」


車中には昏倒する強盗、そして車の上には鎧姿の男が大の字になって呻いていた。


――――――――――――――――――――――


「…い、いったい今度は、なにがおこったのあk……
 理解不能状態なんです、が、ねぇ?」


妙なエリアに飛ばされてしまったかと思えば、次はブロントサンインザスカイ、
槍なしハイジャンプを乗り切ったかと思えば訳も分からず攻撃されてご覧のありさまだよ。

インビン防御が発動していなければ即死という状況であったが、
そんなこと、ブロントさんは知るよしもない。
直接のダメージは無効化できたものの、それでも爆音とある程度の衝撃は追加効果か追加ダメージの範囲なのか、
無効化出来ずにくらってしまったようだが。

それでも「RPG-7をぶっ放されたかと思えばスタングレネードだったでござる」、
そう思えば安いものだ。


「むう……」

「あの、大丈夫ですか? 私の言ってること、分かりますか?」


頭を振りながら着地時と同様に車からむくりと起き上がると、
見たこともないような装備をしたヒュムっぽい♀がおずおずと話しかけてきた。


「ご無事ですか? どこか痛むところはありませんか?」


倒れていたところを見られていたのか、そう思ったブロントさんは咳払いをひとつ。


「ナイトは名実ともに唯一ぬにの盾だからよこのぐらいぜんえzんHEAD-CHA-LA。
 …ちょとくらくあrするような気もするがそんなことはなかった」

「は、はあ……?」


ブロントさんは強さを口で語ったりしないので、優雅に車から降り、
その両カモシカの足で、決して、決して足元をふらつかせることなくしっかり大地に立つことによって、
メイン盾は健在であることを知らしめた。
ヒュムっぽい♀はブロントさんの扱う美しい日本語に聞き入って呆然としている。

しかし、このヒュムっぽい♀の装備は本当に変わっている。
頭装備が《コサージュ》にしては花が多すぎるし、胴装備も両脚装備も防具っぽくないし、ジョブもなんだかよく分からない。
せいぜい近そうなものがあるとしたら学者辺りだろうか?


マア… ホントニイキテマスノ。
ホントニ!?ホントニシンデナイノ!?
ダイジョウブデスヨミサカサン、イッテミマショウ。


ちょっと離れたあたりから、このヒュムっぽい♀と似たような装備のキャラが近づいてくる。

とりあえず今は玄奘を把握すべきでFA!、と頭の中で結論付け、ブロントさんはヒュムっぽい♀に話を聞くことにした。


「それよりもなにが起こったのか説明してくださいますか^^; JOJOで言うと重ちー。
 「ゴブ字ですか?」とか聞くと言うことはお前はおれになにが怒ったか知っているのだと思った」

「しげ……? ええと、実はかくかくしかじかでして――」


ブロントさんはヒュムっぽい♀から、
自分が空から降臨したら後からきた短髪のヒュムっぽい♀の《レールガン》―WSか?―に巻き込まれた系の
伝説があったことを聞きだした。


「まるまるうまうまという訳なのか。「」なるほどなというか鬼なる。
 (俺のインビンがヘイトがおれに鬱ったという意見もあるんだが)
 ならばそこの短髪は俺になにか言うべきこちょがあるのではにいか?」


ブロントさんの指摘に、短髪ヒュムっぽい♀がギクリとしたか鬼なった。


「なっ……!
 だ、だって、アンタが落ちてこなかったら、全部丸く収まったんだし……」

「はぁー……お姉様?」

「ここは一応きちっと謝っちゃった方がいいですよ、御坂さん」


ツインヒュムっぽい♀が深いため息をつき、ロン毛ヒュム♀っぽい♀がやさしく忠告してやっていた。
ナメタ言葉を使った短髪ヒュムっぽい♀はツインテールとロン毛に頭が上がらないらしく、
少し逡巡してから――


「うう…わ、分かってるわよ! その……ごめんなさい!!」

「……良いぞ。
 おれが降ってこなければというロンにもいちちあるしな。
 俺は心が広大だからな過ぎ去ったことをネガネガしないし相手の言葉も受け止める。
 自分の心に広さが怖い」


素直に謝ってきたので許してやった。
これこそまさに礼儀正しい大人の対応、ヒュムっぽい♀たちは「素晴らしいナイトだすばらしい」と神格化することになるだろう(リアル話)。


「あ、ありがとう……(苦笑)」

「…なにやら変わった喋り方をする殿方ですのね……」ヒソヒソ

「まさか言語野に障害が……」ヒソヒソ

「いやぁ、そんなことはないんじゃない?」ヒソヒソ


ヒュムっぽい♀がなにやらこそこそ話しているようなので、目の前で内緒話は良くないと注意してやろうとしたら、
ウウウウウウウウウウウウウっと遠くからサイレンが聞こえてきた。

花飾りヒュムっぽい♀とツインヒュムっぽい♀―長いから偽ヒュム♀でいいべ―が、
安心したような顔をする。


「どうやら、警備員(アンチスキル)と風紀委員の応援が来たようですわね。
 初春は怪我人の有無を報告、わたくしは犯人を警備員に引き渡してきますの」

「了解です」


花飾り偽ヒュム♀はツイン偽ヒュム♀の命令されてどっかいった。


「お姉様、佐天さんとその殿方の介抱をお願いしてもよろしいですか?」

「任せといて。
 いってらっしゃい、黒子」

「ええ、それでは――」


ツイン偽ヒュム♀は短髪偽ヒュム♀にブロントさんの回復を頼んだと思ったら、
ブロントさんが下敷きにしていた車の中に居たレイズ待ちしてたっぽい♂と一緒に消えた。


「なん…だと……」


ほんの少しビビったので周りを見回したら、ツイン偽ヒュム♀はちょと遠くでさっきの♂を引っ掴んで立っていた。


(即ログアウトしてログインしちぇいるんだとしたら、ひょっとしたらこいつらはGMなんですかねぇ?)

「じゃあ佐天さん、風紀委員と警備員の邪魔にならないように向こういこっか。
 たぶん鞄の中に絆創膏とかあるからさ」

「そうですね、分かりました」

「ほら、アンタもいらっしゃい」

「…うむ」

短髪偽ヒュム♀がブロントさんについてくるように言ってくる。
権力者にはへたにさかららない方がいいと考え、ブロントさんはその言葉に従うことにした。


――――――――――――――――――――――


美琴と佐天さん、そしてブロントさんの3りは、要救助者のいる広場に戻った。
鞄を置いておいたベンチにケガ人2りに掛けて貰い、美琴が2りの介抱に回る。


「さて、それじゃあ佐天さんから診てみよっか」

「ええっ! いいですよ、あたしは大したケガした訳じゃありませんし、
 この人を優先させた方が良いと思いますけど……」


佐天さんはちらり、と同じくベンチに座っている鎧姿の男性を見上げる。
仏頂面で変な喋り方をする変な格好の変な人。
平気そうにしてるけど、確実に自分よりは大事に至っているのではないかと佐天さんは考えた。

さて、佐天さんに心配をされているブロントさんはと言うと――


(…こんな場所、見たことも聞いたこともないんだが?)


不意だまでくらった少々のダメージのことなど気に留めている場合ではなかった。
見慣れぬ景色、建物、PC、NPCなどが乱れるリージョンに、ブロントさんは仏頂面を歪ませることなく困惑している。


「そう?
 っていうことなんだけど、アンタ、ケガとかしてるの?」

「………………」
(ひょとすると此処は今度実装される予定の新エリアのようななにかではないか?
 おれは本能的に主人公タイプダから実装前にToLoveるかテストprayで来てしまったのだと考えれば
 areはイベントという結論に見事な推理だと関心はするがどこもおかしくはないな)

「ちょっと、聞いてる?」

「…む? 何か用かな?」


美琴は、「聞いてなかったんかい」、と呆れが鬼なるも、一応佐天さんの手前、もう一度ブロントさんに聞いてみる。


「だから、アンタは平気かって聞いてるの。
 ケガとか、してないわけ?」

「ああ、そうううことか。
 最高の武器と最強の防御力を持っているおれにはお前の持ってるWSすら効きにくい(頑固)。
 男ならこれくらいチョロイ事だからレディーファウストにすろ(この辺の心配りが人気の秘訣)」

「それを言うなら、レディーファーストでしょうが。
(まあ、防いだか何かしてない限りケガどころか死んでてもおかしくないはずだしね……)
 ほらね、そうゆうことだから、蹴られたところ診せて」

「は…はい」
(い、いいのかなぁ……?)


佐天さんが遠慮がちにそう答えると、美琴が患部を診るために佐天さんの顔を覗き込む。
佐天さんの頬には内出血と少しだけとはいえすり傷が出来ていた。
それを見て、美琴は少し悲しそうに顔をしかめて悪態をつき、手当てにかかる。


「ああ、もう……女の子の顔を蹴るなんて信じられないわねあんにゃろう!
 ウェットティッシュで消毒して、と……大きめの絆創膏、あったかしら……?」

「あ、あいたたたた……」
(うわぁー、今あたしレベル5の人に手当てしてもらってるよー……
 やっぱり辞退して自分でした方が良かったかな?)


美琴が佐天さんのケガの大きさに見合う絆創膏を自分と黒子の鞄から探っていると、横で座っていたブロントさんが首を突っ込んできた。


「ふむ、この程度か」

「ちょっとちょっと、ケガしてる女の子の顔なんてマジマジ見るんじゃないわよ。
 邪魔だから大人しく座って――」

「コレなら《ケアル》で十分ではにいか?」


Burontは、Satensanに《ケアル》を唱えた。
暖かな光とともに佐天さんの傷が癒えていく。


「なっ!?」


佐天さんの頬の傷があっという間に綺麗さっぱり治ってしまった。
美琴が目の前の出来事に愕然としていると、ブロントさんが「うむ」と納得いったかのように頷く。

       
「我(オレ)ながら見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない。
 自慢じゃないがPT組んでる時に「ヴァナの佐古下柳ですね」と言われた事もある」

「え、あれっ?」


佐天さんは自分に何が起こったか理解できていないようで、ケガのあった頬を触ったり突いたりしている。


「痛く、ない……
 おぉー! ありがとうございます!」


佐天さんも美琴も、今ブロントさんが使った白魔法、《ケアル》に驚いていた。
もっとも、佐天さんと美琴では驚きの意味合いが違うのだが。


「困ったときは御館様だからよ迷惑にならないていおdの辻ケアルはとうえzんの行為」

「えっと、良く分からないですけど…凄いんですね!」

「それほどでもない」


褒められて嬉しいのか、ブロントさんは仏頂面を少し緩ませて、謙虚にそれほどでもないと言った。
だが、どうやら今の行為が行えることは、この街では必ずしも良いことではないようだ。


「……それほどでもあるでしょう?」

「えっ、御坂さん……?」


美琴が、佐天さんを守るようにブロントさんとの間に割って入った。


「今、佐天さんを治療した能力はなに? 《肉体再生》(オートリバース)かしら?
 でも、軽傷とはいえあっという間に他人の傷まで治せる《肉体再生能力者》(オートリバーサー)なんて、
 聞いたことがないんだけど、ね」

「…はー?」


美琴とブロントさんの間に不穏な空気が流れ始める。
といっても、美琴が警戒色を発するので、ブロントさんもそれに警戒しているだけなのだが。

佐天さんには、いったいどうして美琴が警戒色を強めているのか分からなかった。


「仮にアンタの能力が――そうね、強能力者以上の《肉体再生》だとして、
 どうやって私のレールガンを凌いだのかしら?
 無理なはずよ、どんな《肉体再生能力者》だって――
 『レールガンのダメージを全て受け止めて、すぐ近くに居た人間も軽傷で済ませられるように守って、
 そして負ったはずの重傷を即座に回復する』ような――
 そんな凌ぎ方は、防御する能力じゃない《肉体再生》には出来ないはずだわ」

「…お前がなにを言いたいのか皆目拳王がつたないんですがねぇ。
 たしかにミステリーを残すのは勝手だがそれなりのやり方があるでしょう?
 言いたいことがあるならしゃっきり言うべき死にたくないならそうすべき」

「ふ、二人とも急にどうしちゃったんですかっ?」


どんどん喧嘩腰に近くなっていく二人をなだめる為に、今度は美琴に庇われていた佐天さんが二人の間に割って入ろうとする。
だが、美琴もブロントさんも、どちらも引く気はないようだ。


「じゃあ言ってやるわ――」 
(空から降ってくるし鎧に剣に盾って格好で既に怪しいってレベルじゃないんだけど……
 レールガンを平気で凌いで他人の傷も治せるような能力の持ち主。
 どんな能力にしても、そんな能力者がまともな立場の人間な訳がない!
 もしコイツが危険なやつなら……佐天さんたちを守らないとっ!)

「御坂、さん……?」


佐天さんは、美琴が自分を見る目になにか真剣みが混じっていることに気がついた。
だが、その意図はただの学生である佐天さんには分からない。


「アンタ、何者よ……!?」


問いかけながら、いつでも攻撃が可能なように帯電する。
ブロントさんの返答は――


「そう言うお前は何ももなんだよ。
 見ろ、見事なカウンターで返した調子に乗ってるからこうやって痛い目に遭う」


美琴はブロントさんの言葉を受けて、吉本新喜劇ばりのズッコケを見せた。
空気が張り詰めていたような気がしたが、別にそんなことはなかったぜ。


「み、御坂さん、大丈夫ですか?」

「あ…ありがとう、佐天さん」


見事なズッコケを見せた美琴を、佐天さんが手を差し伸べて立たせる。


「アンタねえ、それ言う!? 自分で言えって言ったくせにそれ言う!?
 こう…もっとそれらしい返し方ってあるんじゃないの!?」

「そももも人に名前を聞くときは自分から名乗るものだと思った(しきたり)」

「んぐっ……! そりゃあ、そうだけど……」

「だがなんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けだからよ、今カイは答えてやっても良いぞ」

「どっちなのよ!」

(大変だなぁ、きっとツッコミ体質なんだね、って……あれっ、なんかあたし空気になってない?
 全然話についていけてないんだけど、頑張って喋った方がいいのかなぁ)


佐天さんはとりあえず二人の間で、美琴とブロントさんの掛け合いを見守りつつ、此処だというところで口を挟むことにした。
美琴がじたんだを踏み終えると、ブロントさんが誇り高く名乗りを上げる。


「おれはブロントだし謙虚だから呼ぶときはさん付けで良い。
 種族は見てんお通りエルでジョブは黄金の鉄の塊で出来たナイト、名実ともに唯一ぬにの盾だぞ。
 最強の武具装備をしているから全身からかもし出すエネルギー量がオーラとして見えそうになり
 リアル世界よりも充実したヴァナ生活が認可されているがリアルでも伝説の不良としておソルられてる。
 FFではナイトだがリアルではモンクタイプだからなケンカも強いしみんなが俺に注目する」


明白に明瞭な自己紹介が終わっても、それを聞かされた2りはどう返事をしていいか分からなかった。
入ってきた情報は多い、多いのだが……


「…名前以外意味が分かんなかったのはあたしだけですかね?」

「奇遇だね、私も分かんなかった……まあそれは置いとくわ」

「置いといちゃうんですか!?」

「コイツにいちいちつっこんでたら話が進まなそうなんだもん。
 で? アンタからはまだ肝心なことが聞けてないんだけど?」

「【えっ!?】」


ブロントさん自身としては会心の名乗りだったがために、ブロントさんには今の名乗りになにが足りなかったか分からない。


「えっ、じゃないわよ。
 能力とレベルを言えっつってんの」


美琴が足りない点を忠告してくれたみたいだが、ブロントさんの頭にはクエスチョンマークが溢れかえる。


「俺は能ろyくがなにを指してるか謎みたいだった。
 レベルはナ75/シ37だが俺は強さを口で説明したりしない。
 口で説明するくらいなら俺は牙をむくだろうな。
 おれパンチングマシンで100とか普通に出すし」

「75とか37ってなにそれ、ふざけてんの?
 ていうか、能力が分からないってどうゆうことよ?
 まさか、アンタも身体検査(システムスキャン)では無能力者(レベル0)判定とか言い出すんじゃないでしょうね……?」
(それとも能力じゃなくて、ひょっとしてあの鎧に秘密があるのかしら……
 ふざけた格好だけど実は最新鋭の《駆動鎧》(パワードスーツ)だとか?
 ……《駆動鎧》ってよりは、どうみてもただのコスプレよね)


彼我の常識と知識の食い違いがまだはっきり見えないため、双方ともに違和感を覚えるより先に相手がわざとはぐらかしているように思えてしまう。
美琴は相手の素性がまったく見えてこないからいまいち警戒が解けないし、
ブロントさんは美琴たちが情報源である以上、訳の分からない質問をされようとコミュニケーションを取らざるを得ない。


(パンチングマシンで100ってあたしらからすれば凄いけど、男の人でそれって凄いのかなぁ?)


一方、佐天さんは双方の思惑に関係なくブロントさんの言葉に真っ当な疑問を感じていた。


「「システムスキャン?」「誰それ?」「外人?」「歌?」こんなもんだから、
 お前の今までのレスみとも「訳分からんね」「笑う坪どこ?」ほらこんなもん」

「ケンカ腰な上に言ってることは分からないんだけど、言いたいことはなぜか伝わってきますね……」

「理解しても腹が立つけどね。
 それにしても身体検査が分からないってどうゆう……?」


ブロントさんの言葉の内容にそろそろ違和感を覚え始める2り。
黙り込んで考え込んでしまうが、放置されるブロントさんとしては堪ったものではない。


「さっきからずっとお前らのターンだがそれは犯罪だぞ!
 おれが名乗ったんだからお前らも名乗れよ俺が埃高い四魂の騎士じゃなかったら既にお前らは海の中。
 それくらいも出来ない卑怯者はマジでかなぐり捨てんぞ?」


ブロントさんにはまだ現状を把握するための情報が足りない。
とりあえず名前を名乗らせることで会話を続行させる。


「ん、それもそうね。
 私の名前は御坂美琴、制服見りゃ分かるかもしれないけど常盤台中学に通ってる学生よ。
 能力判定はレベル5、常盤台の《超電磁砲》って言えば分かるでしょ?」


美琴はこの《学園都市》では超有名人だ。
名前、所属、二つ名、どれをとっても《学園都市》の住人に名乗るには十二分なのだが――


「「御坂美琴?」「誰それ?」「川本真琴?」「1/2?」こんなもんだから、
 お前の言葉から思いどそうも「聞いたことないね」「常盤台ってどこ?」ほらこんなもん」

「ええっ!?」


学園都市第三位のレベル5、《超電磁砲》の御坂美琴といえば常盤台のエース^^
常盤台といえば強能力者以上の学生しか通えない超名門お嬢様学校。
これは《学園都市》にいる人間にとっては常識である。

ところがぎっちょん、このブロントさんに常識は通用しにい。


「ほ、ホントに知らないの?」

「うーん、ちょっと言葉を変えて似たようなセリフを続けて言うあたりマジっぽいですねえ」


別に美琴は、自分が有名人であることを鼻に掛けたりはしない。
自分のことを知らない人も居るであろうことを分かっている。
でも、常盤台も《超電磁砲》も知らない、という相手が《学園都市》に居ることは衝撃だった。


「ふむ……
 美心、自分のことをただももではないと思いこんえdしまうことは中学生には稀に良くあるらしいぞ?
 リアルで痛い目を見る前で良かったなリアルだったらお前はもう死んでるぞ。
 俺は不良だからよお前の黒歴史をふれてまわらないし馬鹿にするやつはズタズタにする。
 お前全力で安心していいぞ」

「うわぁ……」
(あれは、憐みの眼だ……)


ブロントさんとしては、目上の者として目下の者に優しく接したつもりなのだが――


「ひ、人を中二病扱いしといて…あまつさえ名前も間違えるとはいい度胸ね……!!」


美琴としては屈辱以外の何物でもない。
知らないのはまだいい、1ヶ月前のバカだってそうだった。
だが、このいかにも可哀想な年下の子を相手にしています、という態度が気に入らない。


「なんだ急に顔を真っ赤にしてビリビリしだした>>いm琴。
 やはり思わずナイトをしてしまっている真のナイトだからもててるという事実だな。
 だが俺はみんなのメイン盾だからなお前だけを守ってやるわけにはいかないのだよ(誠実)」


ぷちっ。
美琴の中で、なにかが音を立てて切れた。


「誰がオマエみたいなやつに惚れるかあああああああッ!!」


怒りのボルテージが振りきれたのか、美琴は辺り構わず電撃を放った。
だが近くにいるのはブロントさんだけではない。


「え、ちょっ! きゃあ!?」

「おい馬鹿やめろ!!」


ズガッシャァっという轟音とともに、広場の一角が電光で輝いた。


――――――――――――――――――――――


「奥津ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
 本当に無事で、無事で良かったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「スプーキー…丘原さん、どうしちまったんだ?」

「いや、俺もさっき起きたばっかでなにがなんだかよ……」


銀行前では、警備員と風紀委員の現場整理と検証、そして犯人の搬送が行われている。
犯人の護送車へ乗り込む際には、警備員だけでなく実際に彼らを捕縛した黒子も立ち会った。


「アナタの能力もなかなかでしたわよ。
 それだけ子分を大切に思えるなら、今度は道を外さず、もう一度出直すことが出来ますわよね?」


黒子は子分の無事を喜ぶ丘原に、そう声を掛けた。
丘原は涙を拭いて答える。


「…ああ。 こいつらの為にも、出てきたら真っ当な生き方を探さねえとな……
 あの光景を見たら、もう危険な目には合わせられねえよ」

「お、丘原さん……ッ!」

「あの光景って俺になにが起こったか分かんねえッスけど、感動したッス……!
 一生アンタについていきます!!」

「お、おまえらあああああああああああああああああああああ!!」


手錠をされているため、手の自由が効かず、おしくらまんじゅうのようにして額を突きあわせて号泣する男3り。


「ま、まあ、アナタがたが社会に復帰できるよう、わたくしも祈っておりますわ。
(あ、暑苦しいにもほどがありますの……! これだから殿方というのは……)
 さ、そろそろ乗り込んでくださいまし」

「ふぐぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~ッ!!
 …そうですね、分かりました! 《空間移動能力者》の姐さん!」

「「姐さん!」」

「…姐さんはやめてくださいな」


そろそろ犯人を乗り込ませないと先輩に怒られてしまう。
風紀委員と話しこんでいる犯人たちに眼鏡の警備員が乗り込むよう促さそうとしたところで――

ズガッシャァ、と突然広場の一角で放電現象が起こった。

その場に居合わせた警備員と風紀委員が全員新たな事件かと構える。


「! なななななんですか何事ですかぁ!?」


訂正、犯人の護送車乗り込みを任されている眼鏡の警備員だけ、驚いてその場で縮こまった。
皆が構える中、黒子だけは誰の仕業か即座に理解したのでため息をつく。


「はぁ……
(お姉様ったら、お上の目が近くにありますのになにをしてらっしゃるんでしょう?
 軽率な行動はお慎み頂きたいものですが……)
 皆さま、申し訳ありません。
 あれはわたくしの友人によるものですので、どうかお気になさらぬようお願い致しますの」


黒子の言葉に、初春と眼鏡の警備員を除く他の風紀委員と警備員たちが顔を見合わせてどうしたものかと悩む。


「…まあいいじゃん?
 問題ないって言うなら今のはほっとくじゃんよ」


悩む人間が多い中、ジャージを着た警備員の鶴の一声で、悩んでいた全員が各自の仕事に戻っていった。
黒子はホッとして、ジャージの警備員に礼を言う。


「あの、ありがとうございますの」

「ん?
 いいっていいって、たぶん今の、今回の捕りものに協力してくれた奴だろ?」


警備員の指摘に黒子はぎくりとなるが、特に隠す理由もないのでそのまま頷く。


「ええ、その通りですの」

「じゃあ今回のお手柄に免じて、さっきのはそれで見なかったことするじゃんよ。
 でも次はないから、そう伝えとくように」


ジャージを着た警備員はそう言って、未だに縮こまっている眼鏡の警備員の元へ歩いていった。


「ほら鉄装、お前はいつまでビビって縮こまってんだ!
 早く容疑者を護送車に乗せるじゃん!」

「はひぃ!? す、すいません黄泉川先生ぇーー!!」

「まったく……」


警備員と話し終えると、応援の風紀委員に報告を終えた初春が駆け寄ってきた。


「今の、もしかして御坂さんですか?
 なんていうか、慣れてますよね、白井さん」

「ええ、お姉様の隣に居れば、これぐらいの電撃が走ったところで驚きませんわよ」


黒子は、やれやれといった感じに肩をすくめる。


「おおかた、先ほどの妙な殿方がお姉様に無礼でも働いたのではなくて?
 さ、初春、早く事後処理を終わらせてしまいますわよ。
 またお姉様が暴れだしては、わたくしも庇えませんもの」

「あっ、はい! 待ってくださいよ、白井さーん」


――――――――――――――――――――――


「あれ…あ、たし……?」
(なんとも、ない?)


美琴の電撃に巻き込まれると思って、目を閉じて身を縮こまらせていた佐天さん。
自分の身になにも起こってないのはなんでだろうと目を開けると、佐天さんの前には大きな盾が立っていた。


「フレも敵も構わずサんダーするとかちょとsYレならんしょこれは……!?」

「完全に防いだ……! なんなのよ、アンタのその装備、いや、能力……!?」


美琴の電撃は、貧弱一般能力者にとっては地獄の宴とも言える電撃だ。
だがブロントさんは美琴の電撃を「なんだこれは?」と避けまくるし、
その場に居た佐天さんをきょうきょ《かばう》で庇い、「ほう・・」て下段ガードを固め守り切る。


「今は武器防具の話を聞きたがるよるも大事なことがあるんではにいのか!?
 バカみたいにヒットした頭を冷やせ見事!
 お前フレをアワレにも骨にしたいのかよ!?」

「それは……って! 誰のせいだと思――」

「口で言い訳するくらいならおれは先に謝るだろうな。
 おまえもし化して「すいまえんでした」が、言えない馬鹿ですか?」

「うっ…… そうゆうわけじゃ、ないけど……」
(なんで人を小馬鹿にして煽るような態度とる癖に正論を振りかざせるのよ!!
 こんな理不尽な正論生まれて初めて聞いたわ……)


美琴のヘイトを稼いだのはブロントさんだが、ブロントさんの挑発に乗ったのは美琴だ。
守るつもりだった佐天さんを、ブロントさんが居なければ傷つけてしまうかもしれなかったのは事実。
ブロントさんの言うとおりにしてしまうのは実に癪だが、美琴は佐天さんに謝らなければならないと思った。


「佐天さん、ごめんね、大丈夫だった?」

「ああ、いやいや、この人があたしを庇ってくれたから……全然、気にしないでいいですからね?」
(私が御坂さんでもたぶん電撃放ってるし)

「ほう、即座にフレを許せるとはなかなか見上げた心崖と関心はするがどこもおかしくはないな。
 おもえは……左辺というのか? ジュースをおごってやろう」


佐天さんの心に広さが怖い、ブロントさんはお腰につけたアイテム袋から2本、缶ジュースを取りだした。


「ど、どうも……
 あたしは佐天です、佐天涙子っていうんですよ」
(わっ、このジュース買ったばっかみたいに冷たい! なんで!?)

「いmころ、お前もよく自分のひを認めてちゃんとフレに謝れたな。
 ジュースをおごってやろう」


取り出した2本目のジュースは美琴の分だった。
佐天さんのと同じ冷たいジュースが美琴の手に渡された。


「えっ、うん……」


ブロントさんの予想外の対応に思わず素直に受け取ってしまった美琴。


「セブ●UPって、チョイスが渋いですねー」

「ほむ、お前はなかなか分かっているようだな>>うりこ。
 7アッポは働く大人の醍醐味だからよ、飲めば元気がぽこじゃか湧いてくる感」

「ふふっ、ぽこじゃかなんて表現初めて聞きましたよ。
 どこかの方言なんですか?」

「どこでもいいだろ言語学者なのかよ」

(貶してきたと思ったら説教して、それが終わったら褒めてきて……
 もう、本当になんなのよコイツ……)


いつまでも手の中のジュースを眺めていてもぬるくなるだけだ。
プルトップを引いて、一口飲む。


「……美味しい」


なんだか、怒っていたのも疑っていたのも馬鹿らしくてどうでもよくなってしまった。
先ほどまでの怒りが気の抜けたコーラの様に落ち着き、美琴は一先ず目の前の不審者を疑うのをやめることにした。


「それにしても《学園都市》って変わった飲み物ばっかりだと思ってましたけど、ちゃんと外の飲み物とか売ってるんだぁ」


佐天さんの何気ない一言に、ブロントさんがぴくり、と反応する。


「学andトシ……?
 総入れ歯うっかり聞き損なってしまったようだな。
 みおkと、るっこ、おれは今どこにいるのか分からにいのだがここはヴァナのどの辺なんですかねえ?
 LSメンが心配が鬼なってるだろうから俺はそろろろカカッとジュノに帰らねばならないんですわ」


大事なことを忘れていた。
ブロントさんには現状把握が必要だったのだ。
今の雰囲気なら雑談の話題として聞いてもなにもおかしくはない、
そう判断してブロントさんは道を尋ねる感覚で質問をした。

「は? 此処は《学園都市》の第七学区だけど……」

「さっきも言ってましたよね、ヴァナって……
 ヴァナとかジュノって、場所のことですか?」


返ってきた答えは、ブロントさんの推理を遥かに裏切るものだった。


「お、おいィ……? 分からないわけないはずではないか?
 《ヴァナ・ディール》は俺らが冒険しる世界の名前だしジュノは《ジュノ大公国》でFA!」

「う゛ぁなでぃーる……? じゅのたいこうこく……?
 ええと、外国のことなのかな?」

「でも聞いたことないわね、そんな国」

「だが…ッ! 本当に、知らないのか……?」


なんだそれは、問い詰めたくなったが、美琴と佐天さんが嘘をついてるような感じがしない。
美琴は、さっきの自己紹介もふざけているのではないかと言っていた。

ブロントさんの顔色がみるみるうちに蒼くなっていく……


「佐天さーん! 御坂さーん! お待たせしましたー!」

「まったく、折角の親睦会でしたのに、ついてませんわね。
 …あら、皆さんどうされましたの?」


事後処理を終えて、黒子たちが戻ってきた。
3人の様子がおかしいので、首をかしげる。
ブロントさんは、先ほどGMのような動きだと思った黒子と初めて此処で会った初春に詰め寄る。


「お前ら! おもえらはヴァナとジュノを知ってるのではないか!?」

「は、はぁ? う゛ぁなってなんのことですの?
 知っていますの? 初春」

「い、いえ、少なくとも私は聞いたことのない言葉ですね……」

「なっ……」


2りの答えに、ブロントさんはよろよろと後ずさる。


「ちょ、ちょっと、アンタどうしたのよ!?」


美琴がブロントさんの様子があまりに激変したので心配になって声をかける。
ブロントさんは、先ほどケガの有無を聞かれた時のように、これぐらいチョロイ事、と答えられない。


「俺は…俺は……」


ブロントさんは、あの妙な《禁断の口》に飲まれた時、
自分のヴァナ人生が裏世界でひっそりと幕を閉じてしまうことを覚悟したが――


「本当に裏世界に来てしまったとでもいうのかよ……ッ!?」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


美琴たちが居る《第七学区》、その巨大な面積の中には大小様々な施設や建物がある。
その中でも、取り分け異彩を放つ建物があった。
その建物には窓がない。
ドアもない、階段もない、エレベーターもなければ通路もない。

建物として機能するはずもない《窓のないビル》の内部、だだっ広い空間に設置されている巨大な生命維持槽。
そこに満たされた弱アルカリ性培養液の中に、手術衣を纏った『人間』が逆さまに浮かんでいる。

男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』――
『彼』の名はアレイスター=クロウリー、学園都市の最大権力者、《学園都市総括理事長》である。

今彼は、学園都市の空に突如現れ、
その場に居合わせた第三位の《超電磁砲》と接触した《異常》(ブロントさん)をどう処理するか、その判断を付けかねていた。


「あれは、なんだ……?
 空に顕現した扉、あれは科学か、魔術か、それとも――」


アレイスターは誰に語りかけるでもなく自問自答する。


「あの鎧姿の男の正体も判断が付けがたい。
 だが少なくとも、即座に行動を起こすようには見えないな……
 刺激せず観察に徹し、『プラン』の障害になるならばこれを排除することにしよう」


未知に対する妥当な判断。
かつての大魔術師をもって未だ知らぬもの。
その事実に、アレイスターは嘲笑気味に口角を軽く持ち上げた。


「あれもまた、いくつもの可能性の一つなら……
 あれは一体なにを証明してくれるのかな?」


―――

―――――――――

――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.038886070251465