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No.26956の一覧
[0] 【ネタ】とある騎士(ナイト)の七罪装備(グラットン)【習作】[オニオンソード](2011/05/18 23:19)
[1] BA・仕様変更・近況報告 [オニオンソード](2011/05/19 01:13)
[2] 第1話 上 #1改~#10[オニオンソード](2011/05/18 23:05)
[3] 第1話 中 #11~#14[オニオンソード](2011/05/23 22:39)
[4] 第1話 #15 New! [オニオンソード](2011/06/05 20:43)
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[26956] 第1話 中 #11~#14
Name: オニオンソード◆3440ee45 ID:fb0bbf73 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/23 22:39
「ええと……ブロンドさん、と申されましたか?」

「おれが金髪の雑魚に見えるならお前の目は意味ないな後ろから破壊してやろうか?」

「アンタだって散々人の名前間違えてんだから、いちいち噛みついてんじゃないわよ」

「俺がどうやって名前を間違えてるって証拠だよ!」

「ブロントさん、私の名前を呼んでもらえますか?」

「家財r」

「ほら、間違えてるじゃない」

「ブロントさんにツッコんじゃ駄目ですよ御坂さん、話がどんどん逸れちゃいますって」


ブロントさんがなにやらかなり訳ありの様なので、近くにあったファミレス、《ジョナサン》へ入り、
そこで落ち着いてから話を聴くことにした。

店内へ入ると、誰もがブロントさんを3回連続見つめる。
ブロントさんが光属性のリアルモンク属性だから一目置かれる存在であるため致し方ないのだ。


(西洋鎧だ……)
(西洋鎧が中学生と仲良くしてる……)
(通報……)

「そ、そうね……」
(ううっ…視線が痛い……!)


自分たちで連れてきておいてなんだが、ブロントさんと店に入ったことを少し後悔し始めた美琴たちだった。

黒子が気を取り直して話を再開させる。


「失礼しました、ブロントさん…ですわね?
 アナタの仰ることをまとめてみますと、アナタはこの《学園都市》の住人――
 いえ、この世界の住人ではない、と」

「うむ」

「本来アナタは、ええと――」

「《ヴァナ・ディール》ですよ、白井さん」


初春がササッとサポートへ回った。
まぁ2りのコンビネーションはまさしく鬼の力と言ったところかな。


「そう、その《ヴァナ・ディール》という世界を旅する冒険者で、
 お仲間の危機に駆けつけようとしたところ、なにやら不思議な場所に出てしまい、
 そこを抜けだしたと思えば、気が付いたらこの《学園都市》に来てしまった、ということですのね?」

「流石ほくろの読解スキルはA+といったところか」

「ほくろじゃなくてくろこですの!!」


この間違いは許されざる間違いだ。
黒子がツーテールを威嚇するようにおっ立てて怒る。


「おっととちょっとわずかに読み方が誤用だっただけのこと。
 ホメていることにえmんじて許すことが必要不可欠」

「ふん、次はありませんからちゃんと覚えてくださいな」


ぷいっ、と黒子がそっぽを向く。
どうやら今のはなかなか機嫌を悪くさせてしまったらしい。


「そっ、それにしても異世界から飛ばされてくるなんて、まるでファンタジーものの主人公みたいですねっ!」
   

初春が場の空気を和まそうと無邪気を装ってブロントさんに話題を振る。
中一に気を遣わせる恥知らずな内藤がいた!

だがブロントさんの心には、そんなことよりも『主人公』という言葉の方が琴線に触れた。

   
「俺は本能的に主人公タイプだからヒュンな事から異世界に賭場される系の話は稀に良くあるのだが
 事前に飛ばさるるとわかっていれば対応も出来るが今回は分からなかった場合なので手の打ち様が遅れてしまったらしい。
 貧弱一般主人公ならここで諦めが鬼なって人工的に淘汰されるのが目に見えているのだが一級主人公はフレがフレを呼ぶ(暴風)。
 二個とと戻子のフレが国家権力だったことでおれは世界がよく見えると思った」


目を輝かせてにわかに饒舌になるブロントさん。
どうやらその様子は美琴たちには可笑しかったらしく、その証拠に笑顔が出てしまう。


「ええ、学園都市の治安維持はわたくしたち風紀委員の務め――」

「困っている人を放っておくわけにはいきませんからね。
 私たちが全力でサポートしますよ!」

「ホント、運が良かったわね。 感謝しなさいよ?」

「でも初春は頼りにならないんじゃないかなぁ?」

「えぇー、ひどいですよ、佐天さーん……」

「「「「「あはは、あはは、あはははは!
    あはは、あはは、あはははは!
    あはは、あはは、あはははは……(フェードアウト)」」」」」


ブロントさんたち5りが座っている席を中心にレストラン内に笑顔が溢れていく。
その光景に心打たれたレストランの店長が後日、その光景をモチーフに黄金の鉄の塊で出来た油絵を描き上げ店内に飾ったところ、
大変評判が良く、その絵を一目見ようと足を運ぶ貧弱一般人で店の売り上げがばつ牛ンに上が――


「って!! んなわけあるかーーーーーっ!!!」


今まで空気を読んでいたが、ヒャア がまんできねぇ 0だ!
とばかりに、美琴がリアクションを取りつつ勢いよく立ちあがった。
肘を脇腹につけて両の掌を上に向け背筋を伸ばした支配者のポーズが光る。

ブロントさんの自分は異世界から来た系の発言にいよいよ御坂美琴の電子メス(ツッコミ)が入れられた。


「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」

「おいあもりビリビリするなハゲるぞ」

「ハゲてない!
 百歩譲ってアンタが無能力者か、まあありえないだろうけど外部の人間かなんだかってことを納得してもいいわ……
 でもね、異世界人だなんてそんな突飛な話を誰が信じられるのよ!!」

「お姉様、落ち着いてくださいですの」


怒涛の勢いの美琴を、黒子が優しい声でなだめようとする。


「だって《学園都市》ですのよ?
 なにがあったって不思議じゃありませんの」

「…そりゃそうよねー。 学園都市だもんね!」


そう、此処は《学園都市》。
最先端の科学技術の粋が集められて作られている街なのである。
だから、この街ではどんな不可思議なことが起ころうとも《学園都市》ということで――


「納得できる訳ないでしょ!!
 え、ていうかなに、黒子、コイツの言うこと信じてるの?
 MMRのノリなの?」

「進み過ぎた科学が異世界への扉を開いてしまう――
 ロマンがあって素晴らしいとは思いませんこと?」


黒子は、古いSF映画やB級映画の未来的な描写に出てきそうな現象とかアイテムとか、
それ系のおバカな近未来が好きだった。


「なにそれこわい。
 …初春さん! 初春さんは信じてないよね!?」

「私も夢があっていいと思いますけど……」

「風紀委員としてそれでいいの!?
 かたってるだけで不審者かもしれないのよ!? もう十二分に不審者だけど!」

「お前いきなり不審者扱いされる奴の気持ち考えたことありますか?」

「アンタは黙ってなさい、私は初春さんに聞いてるのよ。
 かもって言ってやってるのがせめてもの情けなんだからね!」


ぎりぎり、と歯を食いしばって睨み合うブロントさんと美琴。
苦笑しながら初春が美琴の問いに答える。


「あはは…でも、ブロントさんがなにをしたってわけでもなく、言動と格好以外は不審な点も特にありませんから……」

「うぅっ……! さ、佐天さぁ~~~ん……」


藁にもすがる思いで美琴は佐天さんに話題を振る。


「ま、まあ、あたしは別に信じてませんよ?」

「佐天さん……っ!」


大袈裟だろうが、窮地に味方が現れることのなんと心強いことか。
佐天さんマジ佐天使。


「でもホントだったら面白そうですよねー」

「佐天さああああああああああああああん!?」


佐天使は堕天使だった。
自分の意見の支持率の低さにショックを受け、美琴はテーブルへ突っ伏す。


「異世界人という証拠を出せといわれても出せるわけがないと言う理屈で最初から俺の勝率は100%だった」

「勝ったと思ってんじゃないわよ……」

「もう勝負ついてるから」

「ぐぬぬ……!」


ブロントさんが美琴にどや顔で追撃を入れると、再び2りで睨み合い。
なんともまあらちが開かないので、黒子が口を開いた。


「と、冗談はさておき――」


その前置きに、ブロントさんを除く少女3りが微妙な顔をする。


(冗談だったんですか?)

(冗談だったんだ?)

(黒子、結構本気のトーンだったような気がしたけど……)

「? なんですの、その顔は。
 …とにかく、ブロントさんは身元不明ということもありますし、一度《一七七支部》に来て頂いた方がよろしいですの」

「七七七イブ?」

「《風紀委員活動第一七七支部》、私たち風紀委員の詰め所ですよ」


ブロントさんが聞き慣れない言葉に疑問の声を挙げると、初春が補足を入れてくれた。
だが、その補足を聞いたブロントさんは渋い顔をする。


「…それって間接的とはいえ警察署と同様だろ……
 おれは汚い取り調べで色々調べられて人生がゲームオーバーになる」


ヴァナでは有名人のブロントさんも、此処ではよそ者でしかない。
先ほど美琴に反発はしたものの、一応自分が彼女らにとっては不審者でしかないことを、ブロントさん自身も良く分かっていた。
故に、助けてもらえる分には助かるが、公的機関に引き渡しとなると、即座に首を縦に振ることが出来ない。


「取り調べなどと言うほどのものではありませんが、やはりわたくしどもとしましては、
 少し検めさせて頂かねばなりませんの」

「だーいじょうぶですよ、やましいことがなければきっとなんにもありませんって」

「それに、もし行くあてがないなら支部に泊めてあげられると思います。
 といっても、一時的に犯人を留置するための簡易な場所なってしまうんですが」

「願ったり叶ったりじゃない、路頭に迷うよりはいいでしょ?」


美琴たちがそれを汲み取ってくれたのか、フォローを入れた。

突然の事態に戸惑う自分を励まし、そして突飛な話―ヴァナ的には時空間移動も異空間移動も珍しくはないのだが―をしたと言うのに、
こうも親身になって話を聞いてくれる。

憎まれ口を叩く美琴だって、なんだかんだと言いながらこうして付き合ってくれている。


(奈良ここはリア♀4りの遺稿に沿うべきではにいか?)


そう考えたブロントさんは――


「激しく同意ですね。
 詰め所連行は悪者にとっては地獄の宴だが俺にとっては神の賜物だからよ、権力者にはへたにさかららない方がいいと思った」


首肯し、彼女らの指示に従ってやるという旨を伝えた。


「決まりですわね」


黒子が軽く手を打った。
議朗はこれで終いだ、ということである。


「それじゃ、そろそろ出ましょうか?
 あ、此処の支払いは、今日は全部私がやっとくわね」

「ええっ、そんなの悪いですよ」


美琴の申し出に、佐天さんが驚く。


(お姉さまはどちらかと言うと気前の良い方ではありますが……?)


黒子は珍しいこともあるものだと思い、


(流石お嬢様学校の生徒さんです! 格好いいなぁ…)


初春は憧れの眼差しを向けるのだった。


「いいのよ、ドリンクバーとデザートだけって程度なら割り勘するの面倒だし、さっきのお詫びも兼ねてってことで」

「「おわび?」」


どうやら先ほど佐天さんを電撃に巻き込んでしまったことへの、美琴なりの償いのつもりらしい。
そんなことを知らない初春と黒子の頭の中でクエスチョンマークが飛び交う。


「そんな…気にしなくてもいいのに」

「私の気が済まないの。 だから、ね?
 それに、どうせそこの首長さんはお金を持ってないってオチでしょ?」

「おい人の身体的特徴で呼ぶなよそういう悪口は名誉毀損で犯罪行為だからお前は死ぬ」


ナイトは美琴よりも高みにいるから不審者扱いにも笑顔だったが、
アルパカ呼ばわりにはいい加減にしろよと言わざるを得なかった。

だが流石にブロントさんの扱い方が分かってきたのか、
「はいはいごめんごめん」と、美琴はこれをさらりと流す。


「で、お金持ってるの? 日本円よ、円。
 他のお金は使えないわよ」

「【むむむ】」


ブロントさんはリアル世界よりも充実したヴァナ生活が認可されているが、リアル生活もあまりに充実している。
日本円がなければ支払いが出来ないことなど言われるまでもない常識なのだ。

が、


「……《ギル》しかにい;;」

「? 《ギル》って、なんですか?」


今のブロントさんの手持ちには日本円などなかった。
今度はブロントさんが初春に聞き慣れない言葉の説明をする。


「ほむ…実物を見たほうがはやいな」


ブロントさんがアイテム袋とは別の、腰に提げた袋をテーブルに置いた。
ジャラリ、とその中身が少しテーブルにこぼれる。


「わっ、金貨だ!」

「まあ…これは……」

「これが、ブロントさんが普段使っているお金なんですか?」

「うむ、《ギル》はヴァナの胸痛通貨だな。
 もとおmとはジュノだけで使われていたものなんだが、まああその辺の説明はいいだろ」

「ふーん…ホントに予想通り持ってないとはねー……」
(…小道具にしちゃあ妙に良く出来てるし、この金貨、かなり使い込まれてる感じがする。
 てことはコレ、本当にどっかのお金なのかしら……)


美琴はテーブルの上の金貨を一つ拾い、観察する。
自分が扱うゲームセンターのメダルや500円玉と変わらぬぐらいの大きさ、重さ。
見たことのないデザインが彫り込まれた、外国に行けば普通に使われていそうな硬貨だ。


(これがなんであれ、コイツの正体が余計に訳が分からなくなるだけね。
 学園都市にだって外国人が住んでない訳じゃないし、まあ黒子が風紀委員活動支部に連れてくって言うなら、
 それで私がコイツの件に首を突っ込む必要もないんだろうけど……)

「? なんだ急にギルを三回連続で見つめだした>>巫女兎」

「……え? ああ、別になんでもないわよ」


美琴が熱心にギルを見つめているので、なんとなく気になったブロントさん。


「そうか? お前も欲すければ持っていって良いぞ」

「持っていっていいって――」


言われて、美琴が他3りを見れば、


「それじゃあ、1枚頂きますね」

「じゃああたしも1枚もーらおっと」

「ではわたくしも」


と、一枚ずつギルを自らの懐にしまっている。


「いいの? 一応これってどこのか知らないけど、お金なんでしょ?」

「良いぞ、使えない金なんて無用の超物ではないか?
 一級廃人のギルの貯蔵は十分だからよ、欲しければ隙に持ってけ」


仮にも金銭なのだが、ブロントさんはしれっとしたものだ。
遠慮は余計であるらしい。


「…そうね、それじゃあ此処の代金の代わりに貰っとくことにするわ」

「ほう、見事な等価交換だと感心するがどこもおかしくはないな。
 英語で言うとアルケミー」


美琴はギルを一枚ポケットにしまい、伝票を持って席を立った。


――――――――――――――――――――――


「Alchemy!?」

「こんな序盤でですか?!」


店を出たら突如佐天さんと初春が空を仰いで意味不明の言葉を叫んだ。


「店を出るなりいきなりどうしたんですの!?」

「いやぁ、なんだか言わないといけないような気がして(・ω<)」テヘペロ

「私は口が勝手に……」

「洋式美という異常な超状現象だな」

「は、はあ…そうゆうものですの?」


ブロントさんは驚きもせず、うんうんと頷いている。
今の黒子には理解出来ない領域の話のようなので、黒子は考えるのをやめた。

そうこうしていると、支払いを終えた美琴が扉を開けて出てきたので、


「お姉様、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした、御坂さん」

「なんか、ホント、ありがとうございます」

「地層になったぞ」


それぞれ美琴に礼を言った。


「一人だけ化石でも発掘出来そうなんだけど……
 さて、それじゃあ今日はこの辺で解散かしらね」


もう少しするとこの街では、学生たちが一斉に帰らなければならない時刻になる。
《完全下校時刻》というもので、午後6時以降は交通機関、学生が利用しそうな店も閉店、
おまけに夜の街を歩くことで学校の自分への心証が悪くなってしまうかもしれない。
普通の学生は完全下校時刻をなるべく守って学生寮へ帰るのだ。

「そうですわね」、と黒子もそれに賛同する。


「では、わたくしと初春、それとブロントさんはこのまま第一七七支部に向かいますので、ここで失礼させていただきますの。
 初春、ブロントさん」

「はい、白井さん。
 佐天さん、御坂さん、さようならです」

「うん、初春はまた明日学校でね。
 白井さんとブロントさんは、またいつかってことで」

「二人とも、風紀委員とはいえ遅くならないように気をつけるのよ?
 まあ悪意とかは無さそうだし、そのコスプレバカのこと頼むわ」

「バカって言う方がバカだという名セリフを知らないのかよ」

「さっきの金貨叩き返して、アンタの食事代今すぐに耳を揃えて払ってもらってもいいのよ?」

「すいまえんでした;;」


別れの場でもビリビリする美琴に、プリケツ土下座をするブロントさん。
第1印象は決して良いものではない二人だが、いや第2第3の印象もまあ良いとは言えないのだが。


「まったく……」

「むう……」


こういう奴なんだ、と、短時間しか共に過ごしていない相手を、互いに面白いやつだと思えるようになっていた。

だから、新しく出来た二人の友人と同じように、美琴はブロントさんに別れを言う。


「またね、ブロント」

「さんをつけろよデコ助野郎!!」
「さんをつけろですのデコ助野郎!!」
「さんをつけてくださいよデコ助野郎!!」
「さんをつけなさいよデコ助野郎!!」

「きゃぁっ!?」


さんをつけろよデコ助野郎!!

4りがまったく同じタイミングに上げた異句同意の怒号に、美琴は思わず後ずさった。
美琴の悲鳴を聞いて、ブロントさん以外の3りがはっとする。


「ななnあ、なによいきなり!?」

「あ、あら? 申し訳ありませんのお姉様、なにやら無意識に言葉が……」

「私もです……」

「あたしも……あれ?ブロントさん?」


土下座をしていたブロントさんがゆっくりと立ち上がる。
全身からかもし出すエネルギー量がオーラとして見えそうになり、陽炎のように辺りの空気が揺らめいている(ような気がする)。


「さんつけろデンキッ!!
 相手を挑発する言葉は非常に人をふるかいにする。
 もう結構ウデとか血管血走ってるから騒ぐと危険」

「…な、なによ! そんなに怒ることじゃ……」


怒れるブロントさんを見て唖然とする美琴。
すると、そこへ初春が、


「あーあー御坂さんのせいでブロントさん怒っちゃいましたわー」

「えっ?」


まるでらしくない煽りを入れてきた。
いや、初春だけではない。


「お姉様ww早く訂正をしてくださいましwww」

「はやくwはやくwはやくw」

「ええっ!? 黒子…佐天さん……皆、どうしちゃったのよ!?」


いきなりの豹変。
彼女たちが本性を曝け出したのか?
否、そうではない。
彼女たちの変貌は美琴がブロントさんを呼び捨てにしたことから始まった。


「まさか、ブロントになにかされ――」

「さんを!!」
「つけてください!!」
「ですの!!」
「デコ助ええええええええええええええッ!!」

「ひぃっ!?」


お前まだブロントさんを呼び捨てにしよるんか!!

あまりにも綺麗なローテーショントークに美琴はドン引きだ。
突然友人たちが敵に回ってしまうほどのブロントさんが持つ絶望的なカリスマも誇るカリスマを前に、美琴はなす術もなかった。

本能的な恐怖に、口が言われたとおりに言葉を紡ぐ。


「ぶ、ロント、さん……」

「…おいィ? お前らは今の言葉聞こえたか?」

「聞こえました」

「確かに言いましたね」

「わたくしのログにもちゃんとありますの」


美琴がちゃんとブロントさんに敬称を付けた事によって、ブロントさんの全身からかもし出されていたオーラがすーっと引いていく。


「なら許すまうs!」

「…なんだってのよぉ……?」


なにがなんだか分からないが、ともかく危機は脱したようで、緊張していた美琴の体から力が抜けた。
へたり込みたい気分だったが、そこはぐっと堪える。

美琴がさんをつけなかったことにより変な空間になったので一同無言の沈黙状態だったが、
黒子は話題を戻す為美琴が落ち着くと同時に咳払いをした。


「こほん、話が反れたので改めて――失礼しますわ、お姉様。
 首を狩られる心配がないからといって、あまり遅くなりませんように」

「…うん、分かってるって。
 門限までにはちゃんと寮に帰るから心配いらないわよ」

「ええ、是非そうしてくださいな。
 初春、ブロントさん、行きますわよ」

「はい」
「うむ」


黒子とのやりとりで、美琴はいつもの調子を少し取り戻せたらしい。
それを見届け、黒子は初春とブロントさんを連れて歩きだした。


「あれ、白井さん、徒歩で行くんですか?」


いつもなら支部に用事がある場合は黒子の《空間移動》でパッと向かうので、初春は疑問に思った。


「んー、わたくしとて能力で行きたいところですが――」


黒子がブロントさんの巨躯を上から下へとねめ回した。
2m近い長身に、かなり重たそうな装備。


「3人同時なんて、明らかに重量オーバーですの。
 それほど遠くもない距離ですし、徒歩で十分ですわよ」

「黄金鉄の塊で出来たナイトのプレシャーに耐えきれないのは恥ずべきことではにいぞ黒古。
 ただそのテレポんトが体験できないのはちょと【残念です】」

「ああ、確かに初めてならどんな風なのか体験したくなる気持ちは分かるかもしれません。
 白井さん、あとでブロントさんを飛ばしてあげたらどうですか?」

「初春…能力はおもちゃじゃありませんのよ?
 まあでも、少しぐらいならいいでしょう。 近距離なら危険もありませんし」

「ゲイとクリステルとテレポINTなしにテレポる気分がどう言うものかはナイトだから味あわないのかもうダメかと思ったが
 流石一級テレポんターは格が違った。
 やっぱりテレポ出来る人すごいなーあこがれちゃうなー」

「褒めてもなにも出ませんわよ?」

「と言いつつ、嬉しそうですね、白井さん」

「だっ、誰が喜んでるって証拠ですの!?」


ワイワイガヤガヤ、あれこれと会話を交しながら美琴と佐天さんから離れていく黒子たち。

夕刻というのは、どうにも寂しさを感じる時間ではないだろうか?
夕日に照らされて歩く3りを見て、残った2り――
美琴と佐天さんは幾ばくかの寂寥感を覚えた。


「……ふふっ、楽しそうですね」

「……そうねー」


残された者同士、微妙かつ複雑な笑顔で顔を見合わせる二人。
すると――


「三言ォ! りうこォ!」

「ふぇ?」
「ん?」


ブロントさんが振り返って2りの名を大声で呼んだ。


「俺のほうからはまだお前らにKOOLな去り際に捨てセリフを言ってなかったらしいぞ!
 おれが思うにお前らにはかなり世話になってしまったのではないかまあ一般論でね! 感謝sるぞ美琴!涙子!
 また会えるだろうな!(確信) おもえらはもう俺のフレだからよー!」


別れを告げ、大きく手を振り、ブロントさんはまた黒子たちと歩き出した。
黒子が「突然叫ぶとは何事ですの!」、とブロントさんに文句を言っている。

突然のことでポカンとする2り。
こんな公衆の面前で大声で名前を呼ばれて別れるなんて、小学生ならまだしも中学生の彼女らには恥ずかし過ぎ――


「…あっ、名前……」

「……なによ、ちゃーんと人の名前呼べるんじゃない」


2りの表情に、もう寂しさの影はどこにもない。
圧倒的な光属性を前にすればそんなものはただの雑魚でしかなかった(リアル話)。


「御坂さんは、これからどうするんですか?」

「そうねえ……
 私はこのまま寮に帰ろうかな、あんまり遅くなると黒子がうるさいし」

「あははっ、じゃあ、あたしとも此処でさよならですかね。
 あたしは夕飯の買い物してから帰りますんで」

「そっか…じゃあね、佐天さん」

「はい、御坂さん」


そうして2りはそれぞれの帰路に――


「――あっ!」

「ん? どうかしました?」


着く前に、美琴は大事なことを思い出した。

美琴は佐天さんをじっと見つめた。
優しい視線に、佐天さんは同性でありながらもついドキッとしてしまう。


(な、なんだろう……?)

「色々あり過ぎて言い損ねちゃったけど……お手柄だったね、佐天さん」

「えっ、っと、なにがでふか?」
(ああ、呂律が微妙に回ってない。
 お、落ち着けあたし! 深呼吸! 転龍呼吸法!!
 ってどうやるの!?)

「強盗から助けたじゃない、男の子」


「お手柄」がなんのことだか思いつかなかった―考えてなかった?―佐天さんは、
美琴の言葉で「あ、ああー、あの事ですか」、と納得がいった。


「でも別に、あれはとっさに必死でなんとかしなきゃって思ったら身体が動いただけですし……
 あたし、能力なんてないから、あんなことしか――」


実際に犯人を捕まえたのは黒子と美琴、被害を最低限に抑えたのは周囲の人間を広場に牽引した初春。
自分は身体を張ってようやく子供一人を助けられただけ。

(ひょっとしたら足を引っ張っちゃっただけなんじゃないかな?)
(すごい能力を持ってる御坂さんたちとか、《風紀委員》の初春なら、あたしが居なくても助けられたんじゃないかな?)
能力の無い(レベル0の)佐天さんは、どうしても、そう考えてしまう。


「能力がないのにでしゃばっちゃって、あはは、蹴られ損でカッコ悪かったかなぁなんて。
 大人しく御坂さんたちに任せておけば良かったですよね」


表面上は笑顔の佐天さんだが、心は決して笑顔ではない。
強がりの自傷で、佐天さんの心が傷ついていく。


「あ、あはは……」
(あたし、なに言ってるんだろ……)


この話題は終わりにしてしまいたかった。
自分の無力さを、痛いぐらいに感じてしまうから。


「ううん、そんなことない」


だが、佐天さんは勘違いをしている。
美琴は能力の事など話題に挙げていない。


「能力がどうこうじゃない、佐天さんがやったことは凄いことなんだから――」


佐天さんの行動を、佐天涙子に敬意を表している。


「すごく、かっこ良かったよ」

「っ!」


その一言で、佐天さんの胸がきゅうっと一杯になった。

高レベル能力者から能力なんて関係ないと言われても、無能力者からしてみれば、
「そんなの説得力ないよ!」、と言ってやりたくなる。
これは妬みからくる曲解かもしれない。

だけど、それと同時に憧れもある。
自分が目指す場所に一足早く辿り着いた者に対する憧れ。

その憧れの高みにいる人間から認められた。

ネガティブな気持ちが、誇らしさで塗り替えられていく。


「それが言いたかっただけだから、引き止めてごめん。
 じゃあね」


美琴が帰ろうとすると、


「み、御坂さんも!!」


今度は佐天さんが引き止めた。


「ん? なぁに?」

「御坂さんも……」


御坂美琴は、「佐天涙子」と知り合った。
佐天涙子は、「レベル5」の御坂美琴と知り合った。

今はコンプレックスが少し邪魔をするかもしれない。
でもきっとこれが、その壁を取り払う第一歩になる。


「御坂さんも、すごく、カッコ良かったです!」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「ブロントさん。
 支部の中ではくれぐれも! くれっぐれっもっ!
 大人しく普通にしてくださいましね!?」

「おいィ…お前にはそのセリフを何度も言った実績があるようなんだが?」

「大事なことなので4回言っていますよ。
 でもブロントさん、言っても無駄かもしれませんけど、喧嘩を売るような真似をしないでくださいね?」

「喧嘩を売りたくてうるんじゃない売れてしまう者が不良」

「…はぁ……
 わたくし、ひょっとしてとんでもない判断ミスをしてしまったのでしょうか……?」


とあるビルディングの2階に、通常のビルディングには不似合いなほどセキュリティが施された扉がある。
その扉を開くには、今黒子が受けているような指紋・静脈・指先の微振動パターンのチェックをクリアしなければならない。
そうしてようやくロックが外れた扉の先にある場所、そここそが、《風紀委員活動第一七七支部》なのである。

黒子がガチャリと扉を開く音に、デスクワークをしていたメガネを掛けたグラマラスな女子高生が反応する。


「あら?
 白井さん、初春さん、こんな時間にどうしたの?」

「ああ、固法先輩。
 ええ…まあ、少しばかり支部に野暮用…がありまして……」

「そ、そうなんですよー……」


いざ支部にブロントさんを連れてきてはみたものの、もし他の風紀委員に遭遇した場合、
ブロントさんをどう説明したらいいか名案が出なかったので、2りはしどろもどろになってしまう。

なんとも行き当たりばったりな話だが、3りには他に行く場所もなかった。


「野暮用って、今日の報告書は明日で――って、そちらの方は?
 ……随分と変わった格好をしているようだけど」

「あ、ああっ! こちらの殿方は――」


黒子がそれっぽい誤魔化しをしようとしたところで、


「俺はただの通りすがりの古代からいるナイト。
 ブロントという名前だからブロントさんと呼んで良いぞ」


ブロントさんがスパッと自己紹介をした。


(あちゃー……)

(先ほどあれだけ普通にしてくださいましと申したのになにをしてくれやがってますのおおおおおおおお!?)

「通りすがり……? 2人の知り合いじゃないの?」

「ええと! ええっと……! ブロントさんはですねー……!」


このままでは疑われて、ブロントさんの補導歴に新たな伝説が刻まれてしまう。
初春は必死にフォローに回ろうとする。


「さっきフレ登録要求を承認した」

「へ?」
「え?」


が、速さが足りない。


「? つまり、どうゆうことなの?」


某シノビ漫画の主人公のように聞かれた。
これは説明せざるを得ない。


「俺は新しいフレとだべっている時に見知らぬリージョンに来てしまったことに気づいたんだが
 シャウトで助けを求めると偶然ジャージメントが近くでシーフ捕まえていた。
 俺はああヒロインは本当に偶然常に近くを通りかかるもんだなと納得した。
 しかもおれにこのリージョンのことを教えて「もう大丈夫ですか?」といって必要最低限以上の
 施しだけでなく自分たちのHPに案内してくれる不器用だが細心の心配をしている姿に孤高の風紀委員だったな。
 俺がそのあるさまを「素晴らしいじゃんジメットだすばらしい」と褒め称えると
 急にもじもじしだしたですのリア♀と花畑リア♀からフレンド登録の要請が来た。
 ナイトは最強だと思った(リアル話)」


ブロントさんの明白に明瞭な説明を受け、固法は吟味しているのか、固まってしまった。
しばし沈黙した後、口を開く。


「……白井さん、初春さん」

「は、はいっ!」(も、もうダメですの……)
「は、はいっ!」(おしまいですね……)


ですのリア♀と花畑リア♀は覚悟を決めた。
もう確実に不審人物と思われただろう、貧弱一般風紀委員では先輩廃風紀委員からブロントさんをかばえない。

さよならブロントさん!

終わったッ! 第1話完!

来週のこの記事からは新SS、【ネタ】ファイナルφなる・あぷろーち【FF11×φなる】をお送りし――


「強盗確保後に迷子の手助けだなんて、凄く頑張ってるわね!
 疲れてるでしょう? 冷蔵庫の中の牛乳を飲むといいわ」

「「【えっ!?】」」


だが固法は微塵も疑わない。
助かった、終わったと思ったよ。


(借りに終わったら誰がこのおれの代わりを升めるんですかねぇ?)

「ブロントさん、とおっしゃいましたよね?
 ようこそ、一七七支部へ。
 私は彼女たちの……上司みたいなものですね。 固法美偉と言います」

「ほう、三井は2りのBA後といったところかな。
 2りの未来は明るいのではにいかまあ一般論でね?(戦闘力話)」

「まあ、お世辞が上手ですね。
 ブロントさんもどうですか、ムサシノ牛乳。
 やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳ですよ?」

「ウルガランミルクをおごることはあっても武者志乃牛ン乳をおごられることは初めてだな。
 今のところ我慢してるけどいつノドの渇くが爆発するかわからない」

「あら、じゃあパックでそのままお渡しした方がいいのかしら?」

「9杯でいい」


ブロントさんと楽しそうに会話をし、固法は給湯室へと入っていった。
目を丸くして顔を見合わせる黒子と初春。


「なにやら……」

「上手くいってますね……?」

「余計な気苦労でしたの?」

「白井さん、ちょっといいかしらー?」


が…駄目っ……!
安心出来るかと思ったところで、固法から呼び出しが掛かった。


「」


絶句する黒子。


「……白井さん! ガンバです!」

「…はぁー……本当に覚悟を決めた方が良いかもしれませんわね」


黒子は意を決して、トボトボと給湯室へと入った。


――――――――――――――――――――――


流し台にはカップが2つ。
固法の手にもカップが2つあった。


「ごめんなさいね、プラスチックのお盆がこの前割れちゃったの。
 そっちが貴方たちの分だから、お願いね」

「は、はいですの」


言われたとおりカップを2つ手に取る黒子。


「ねえ白井さん、あのブロントって人……」

「ッ!?」
(き、来ましたわねっ!?)


取り乱し、黒子は思わずカップを落としそうになる。
平常心ですのよ黒子、と心中で唱えて立て直す。

…先輩から話しかけられてこの反応は実に失礼な気がして少し反省もした。


「ブロントさんがどうかされまして?」

「ええ、外国の方なのよね?
 アッシュブロンドの髪色にあの顔立ち、背も随分と高いし日本語が変わってるし。
 甲冑姿だけど、最近はああゆうのが流行ってるのかしらね?」

「あー……」


無邪気に語る固法の姿、黒子の肩の力がぐんっと抜けた。
もうゴーストやらガイアは囁きまくるし神も言っている気がする。
ここで先輩は丸めこめると。


「そうですわね、その通りですの。
(自称・異世界人ですし、まあ間違ってませんわね。
 かといって迷い込んで不法侵入されたんですのよー、などと言えませんし……)
 なんでも学園都市の進んだ技術や学問に関心があってこちらに来たとかで――」

「へえ、学生か研究者なの?」

「ええと、そうではないようですが……」
(前もって用意しておいたカバーストーリーなら良いですが、即興でどう取り繕えば……!
 というかわたくしが此処までする必要は――)

「じゃあ、あの人はいったい――」

「…そう!
 あの殿方は手違いで子供向け学園都市案内ツアーでこの街に来てしまったんですの!」

「え、それって、今日現場に居合わせた、あの保護者同伴でバスに乗って都市内を巡るってやつ?
 でも、普通あんな日帰りツアーに――」


自分が頑張る必要があるかはどうかを考えている暇があるなら、
口から出た嘘を少しでもそれらしく取り繕うほうに回した方が良いようだ。

嘘を一度吐いてしまえばもう行くところまで行くしかない。
黒子は自分から作り出した舞台でひたすら即興詩を歌うことになった。


「外国の方ですから! そのような間違いがあったようなんですの!
 まあ、それでも途中で気付かれたようなのでバスが停留している時にこっそりと抜け出したのですが、
 その後に《武装無能力者集団》(スキルアウト)に襲われて金銭や他の着替えを含む荷物は奪われてしまったそうですの」

「まあ…そうだったの……それはいつ頃くらいか――」

「これから! これからその聴取等をしようと思ってますの!
 だから心配いりませんのよ! 固法先輩の手を煩わせたりは決して!致しませんから!」

「そ、そう? それならいいんだけど」

(もう一息! 今日の黒子は阿修羅すら凌駕し欺く存在ですの!)
「つきましては、ブロントさんは行くあてがないようですし、今夜は此処にお泊めしたいのですが、
 よろしいでしょうか?」

「えっ、そんな事しなくても警備員に事情を話せばたぶんホテルを取ることも出来るし、
 外部の人間を支部に置いたままにしておくのは――」

「本人たっての希望ですの!
 暴漢にみすみす金品を奪われた自分がまっとうな場所に泊まるわけにはいかないという、
 ええと、お国の風習、だとかで…それで支部にある留置用の部屋を紹介しましたら、
 「そんな場所があるのか!」「ひどい!」「きた! ブタ箱きた!」「メインブタ箱きた!」「これで泊まれる!」、
 と大歓迎状態だったんですの」
(こ、これは流石に我ながら無理がある気がしますの!!)


最初からボロボロだが更にどんどんボロが出始める後輩風紀委員、黒子のカバーストーリー。
それに対して先輩風紀委員、固法の返答やいかに――


「……変わった風習があるのねえ」

「…固法先輩、それでいいんですの?」

「えっ、なに? 私、なにか変なこと言った?」

「いえ、是非そのままの先輩で居てくださいまし……」ホロリ
(こんな先輩に嘘をついて、黒子の良心はズタズタにされましたの……)


罪悪感に営まれながらも、黒子は、「メゲナイ、ショゲナイ、泣いちゃダメですの」、と自分を鼓舞し踏ん張った。


「留置用の部屋でしたら内部から鍵を開けることは出来ませんし、
 少しぐらいでしたら外部の人間を支部に泊めても問題ないのではありませんこと?」

「そうね……まあ、いいでしょう。
 分かったわ、許可します」

「ありがとうございます、きっとブロントさんも喜ばれますの」
(完 全 論 破 ですの!)


ブロントさんが得たもの――豚箱での宿泊権利。
黒子の胃をストレスでマッハにしながらの苦労――priceless。

お金で買えない価値はあったのだろうか?


――――――――――――――――――――――


「天使のように白く夜風のように冷たく月のようにまろやかで恋のように甘い。
 これが武者志乃牛ン乳の味か」

「ねっ、美味しいでしょう?
 やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳ですよ」

「うわぁー、グルメ評論家みたいなコメントですね」

「どこかで聞きかじったセリフを使いたくて言っただけではありませんの?」


固法たちが運んできた牛乳を受け取り一服する一同。

我々の放課後ミルクタイムだ――
こう表記すると間違ってはいないのに…いやらしい…


「下ネタはやめておけと言っているサル!」

「下ネタなんて誰も言ってませんの!!」

「お前らじゃにい、第四の壁がまほろ系の仕事なので気にしないふぇ下さい(約束)」

「?」
(やっぱり、この人の言っていることは良く分かりませんの……)

「ふふっ、本当に変わった人ね」

「あ、あははは……」


固法先輩の無邪気な言葉に苦笑で答える初春。


「変わっていると言えば、ブロントさんのお国の風習もかなり変わってらっしゃるみたいですね」

「んぶふぅっ!!」

「わあ! いきなり噴き出してどうしたんですか白井さん!? 汚いですよ!?」

「」ゲフッ!ゴヒュ!


追撃の無邪気な言葉に、黒子は白い霧を噴いて応えた。


「なん…だと……」


ブロントさんは、どこかで誰かの霊圧が消えてしまったかのように驚く。


「当たりに船とはこういうのを言うのではないか……!?
 美偉はヴァナのことを知っているという事実にああこれで帰れるのかと今後の展開に大きな希望を持った!」

「きゃ!?」


ずずい、と固法に詰め寄るブロントさん。
鎧姿の巨漢が突然詰め寄ってきたので、少々肝を冷やす固法。


「あの…いえ、知っているという訳ではないんですけど、さっき白井さんから――」

「せせ先輩とのお話も良いですがそろそろ聴取を始めますのよブロントさん!
 さあさあ! さあさあっ!!」


このままではブロントさんに自分の並べ立てた嘘八百をばらされるのは必定。
固法が余計なこと―かなり失礼―を言う前に、黒子はブロントさんを引き剝がしにかかった。


「白井さん口元を拭いてください!! 牛乳が垂れてますからぁ!」


良い判断だが、衛生面ではいただけない。


「ちょっ、ちょっとどうしたの? 白井さん?」

「おいィ? おれは今民意と話を――」


黄金の鉄の塊重すぎワロエナイ。
多少鍛えてはいても黒子の細腕では、ブロントさんの腕を引っ張ってもぜんえzんビクともしなかった。

あまりに動かないものだから、


「いいから向こうにいきなさいっ!!」


Kurokoの《テレポート》!

つい力が入って、掴んでいたブロントさんを飛ばしてしまった。


「してるんd」


ブロントさんが消えたのち、壁の向こうの隣室から重たいものが落ちる音と、「ム牛ン」といううめき声が聞こえてきた。


「…白井さん、今日の貴方、少しおかしいわよ?」


能力者は、能力が日常でも扱いやすい便利なものであると多用しがちである。

だが、今のはおかしい。
今日の黒子の妙な慌てっぷりがなにか隠し事でもしているかのように、今更ながら固法はそう感じたのである。


「いいーえー? 黒子はいつも通りの平常運転ですの」


口元の白い顎鬚を拭いながら視線を反らして誤魔化そうとする黒子。


「固法先輩、白井さんが変なのはいつものことじゃないですか――
 っへいひゃい! いひゃいでふよひはいふぁん!!」
[訳:って痛い! 痛いですよ白井さん!!]


黒子は初春の両頬をつねり上げた。


「誰がいつも通りの変態で平常運転ですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」

「へんはいはあんへいっへらいふゃらいへふふぁぁ!」
[訳:変態だなんて言ってないじゃないですかぁ!]

「だとしてもそんなフォローが――!」

「そっか、それもそうよね」

「え゛」


固法はあっさり納得した。


「それじゃあ私は先にあがるから――
 二人とも、ちゃんと消灯とか施錠とかは忘れないようにするのよ?」


そして帰り支度を始める。


「いたた……
 ヒドイですよ、白井さん……白井さん……?」

「」
(黒子は、黒子はもう少し、日頃の行いを改めるべきなのでしょうか……?)


――――――――――――――――――――――


固法が支部から出た後、のっそりとブロントさんが隣室から出てきた。
少々埃を被っているあたり、どうやら物置にでも空間移動させられたようだ。


「不意だまテレポとかいらないですストレス貯まるので(苦笑)」

「わっ、わたくしはただ約束通り、少し飛ばして差し上げただけですの!」

「約束を守るのは勝手だがそれなりのやり方があるでしょう?
 いきなり天井近くにみょんな体勢で鳥羽されて尻モチつかされたんですわ?お?
 おい、ワレの尻か?」

「どしたー?
 …んですか、ブロントさん」
(ブロントさんと出会ってから、勝手に口が言葉を発しているような……
 気のせいですかね?)

「それについては、わざとじゃありませんの……」
(この殿方、予想以上に重いですの。
 長身鎧姿のせいでわたくしの飛ばせる限界質量―130.7kgですの―に近いのではないでしょうか……
 距離がなかったからいいものの、咄嗟とはいえ軽率でした。
 この方を飛ばすときは、集中してないとケガをさせてしまうかもしれませんわね)

「あまり白井さんを責めないでください、ブロントさん。
 白井さんが口八丁と能力、自己犠牲を払って支部に泊まれるようにしてくれたんですから」

「…ええ、そうですわね……」
(第三者の口から改めて言われると、黒子はなぜここまでこんなののために身体を張ってしまったのでしょう……)


黒子にしてみれば訳が分からないことは言うし、威圧的なのか友好的かも分からないブロントさん。
よくまあ「こんな殿方、守る価値なんかない!わたくしはもうブロントさんのために動きたくない!」、となってしまわないものだ。

初春の言葉を受けて、ブロントさんは少しばつが悪そうにした。

「それを言わるると何も言えなくなっちぇしまう感。
 「」確かにな、感謝はスレどモンクを言うスジがないのは確定的に明らか。
 くおrこにも理由があったんだなと俺はここで一歩引くことにした(謙虚)。
 おもわずいさぎよい武の心がでてしまった結果だった」

「いえ…まあ……わたくしも少々強引過ぎましたので」
(そこで素直に謝られてしまうと…どうにもこの方を相手にすると調子が狂いますわね。
 なんというか、見た目とギャップが…そう、まるで生意気盛りの子供と年上の男性をいっぺんに相手にしているような気分ですの……)

「ほう、自分のひを認めてしまったその謙虚さは慎ましい流石美床のフレだな。
 ジュースをおごってやろう」


佐天さんたちにそうしたように、ブロントさんはアイテム袋から1本缶ジュースを取り出し、黒子にそれを差し出した。


「牛乳を飲んだばかりなのですが……ありがとうございますの。
 …つぶ入りコーンスープ? なんであったかいんですの、これ」

「えっ、ちょっと良いですか?」


黒子の感想に興味を持った初春が、黒子の持つ缶ジュースに触れる。


「わ、本当に温かいですねえ。 今自販機から買ったみたいに――」


温度が保たれている缶ジュース――
初春には、この現象に覚えがあった。


「ひょっとして、ブロントさんも《常温保存》(サーマルハンド)が使えるんですか!?」


《常温保存》、それは読んで字のごとく、持っているものの温度を一定に保つ能力である。


「そのサンバルカン度もテレポんとと同じで超能力派閥のやつなんですかねぇ?
 おれは超能力とかいう《アビリティ》を持ってないって俺は言ってたぞ。
 これが証拠ログ。
 
 Mikoto>こんにちはBurontさん
 Buront> 何か用かな?
 Mikoto> 超能力持ってますか?
 Buront> 持ってない
 Mikoto> そうですかありがとうグラットンすごいですね
 Buront>それほどでもない

 やはり持っていなかった!
 しかもグラットン持ってるのに謙虚にそれほどでもないと言った!」

「勝手にお姉様の発言を捏造しないでくださいまし!
 金属矢を体内に直接ぶち込まれたいんですの!? この首長!」

「お、おいィ……なにいきなり頭ヒットしてるわけ?」

「ふんっ……!」


美琴を軽口―ブロントさんにその気はない―に使われたようで、黒子のフラストレーションが少し爆発する。

いつもなら、「俺がどうしてログ捏造したって証拠だよ!」、と返すブロントさんも、烈火のごとく怒る黒子にはたじたじだ。

黒子は今ので少々スッキリしたようで、ちびちびとコーンスープを飲み始めた。


「………………」
(冷房の効いた屋内で熱いコーンスープ…これはどうなのでしょうね)

「おいィ……?」
(いったいなんだったんですかねぇ…?)

「ぐらっとん……?
 じゃあ、どうやって保温してるんですか?
 ひょっとして、その袋に秘密があるんですね!」

「む?」


ブロントさんの提げるアイテム袋に興味を示す初春。
頭がヒットした(?)黒子のことは一先ず置いておいて、初春の疑問に答えることにした。


「"A secret makes a man man..."
 あさり、男はイミフを装備して男らしくなるものだからな。
 禁則事項をまさぐる真似はしないふぇください(約束)。
 代わりにお前にもジュースをおごってやろう」

「むぅ……わかりました」
(…って、言っておかないと、ジュースをおごってもらえませんからね…)

「まああ違う技術でもたまたま同じ現像が起こる事がまれによくあるらしい。
 いつか教えることもないかもしれないということで飾るは気長に待つしかなかった」


そう言ってまた1本、ジュースを取り出して初春に渡した。


「はい、期待しないで待ってます」
(アンバサのいちごウォーター? ……こんな味、あったんですねえ)

「…どうしても話したくないことは話さずともよろしいですが――
 話して頂かねばならないことは話して頂きますの」


黒子は手にしていたコーンスープを一気に音を立てて飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てた。

ちょっとまだ熱かったのか、食道辺りを擦りながら、


「よろしいですわね、ブロントさん?」


と涙目で黒子はブロントさんに向き合った。
キメ顔でそう言った、ならともかくこれではどうにも締まらない。


「…うむ」
「…はい」


空気を読んだ2り。
ブロントさんは机に座り、初春はPC前にスタンバイした。
形式がそれっぽくなれば、流石に弛緩していた空気が若干引き締まる。

此処には牛乳を飲みに来たわけではない、ブロントさんの事情を更に詳しく聞くために来たのだから――


「さあ、それでは今度はわたくしどもと《お話》をしましょう。
 アナタのことを、詳しく聞かせてくださいな」




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


「そういえば、初春はよく《常温保存》なんて能力がパッと思いついたものですの。
 わたくしは該当しそうな能力なんて、とんと思いつかなかったものですが……」

「【えっ!?】
 あ、や、と、友達がちょうどそういう能力の子だったものですから……
 ひょっとしたら同じかなぁ、同じだったら嬉しいなぁなんて思っただけで、
 べ、別に他意はないんですよ?」

「ああ、そうでしたの……?」

「そ、そうなんですよ、あっはははははぁ~あー……」

「……おれが思うに此処は追球ンしては池ないのではないか?
 うむ、知らにいが絶対そうだという意見」


―――――――――


―――


コトコト…クツクツ…
鍋の中では肉と野菜が泳ぎ、周囲には何とも言えない良い香りが漂っている。


「ふんふふ~♪
 Du brachstふんjahrein barふふ~ん♪」


黒子たちがブロントさんへ聴取をしている一方、佐天さんは買い物を終え家へ帰り、エプロンを着けて夕飯を作っていた。

中学生とはいえ、この姿を見てときめかない男がいるだろうか? いやいない! 反語!!
うろ覚えなのに歌なんか歌っちゃうところも……ガハハ! グッドだー!

…閑話休題。
学園都市は人口の8割が学生の街。
学生の殆どはこうしてアパートやマンションにも似た集合住宅のような学生寮の一室で生活する。

どこぞのお嬢様学校のような名門校ならば、食堂などで食事を取ることも出来るし、ある程度の家事もメイドがしてくれるのだが、
佐天さんと初春の所属する第7学区立柵川中学は、言ってしまえば普通の公立中学である。
家事は全て、自分たちの手でせねばならないのだ。


(今日は凄かったなぁ…初春、白井さんに…御坂さん……)


鍋の中身をおたまで混ぜながら、佐天さんは先ほどのジョナサン前での美琴との事を振り返る。


――――――――――――――――――――――


「御坂さんも、すごく、カッコ良かったです!」


佐天さんは自分が感じたこと、今出せる思いの丈を美琴へ打ち明けた。


(い、言った! 言っちゃった!)


言ってから、なんだか自分は会ったばかり人間に凄く恥ずかしいことをしているのではないか、という気分にもなってくる。
さて、そう言われた美琴の反応は、


「………………」


顔を少し赤らめて固まる、というものだった。

画面の前の貴方は次に、
「この作品って人が硬直することが多すぎじゃね?」
と思う!

…再び閑話休題。
美琴が反応しない=自分はかなりヤってしまった。
佐天さんは瞬時にそう結論付けた。

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 
 いきなりカッコいいですとか言われてもそりゃ訳分かんないよね!
 こ、此処はもうあれしかない!)
「じゃ、じゃあ! あたしはこれでっ!!」


しゅばっ!と佐天さんは美琴に手を振った佐天さんは回れ右をして、


「さ、さらだばーっ!!」
(逃げるんだよォォォーーーーーーッ!! どいてーッ、ヤジ馬の人たちーッ!)


そのまま、美琴から逃げ出した。


「えっ!? さ、佐天さん!?」


美琴の制止の声も聞く耳持たず、スタコラサッサと一目散に逃げ出した。


――――――――――――――――――――――


「…今度会う時、どうしたら良いのかなぁ……」


ため息をつき、鍋を混ぜる手が止まる。
今こうして思い返しても頭を抱えて床を転がりまわってしまいたい。
なんであんな事言っちゃったんだろう、と考えていると、ふと、佐天さんは思い至る。


(今度、か…今度なんて、あるのかな?)


よくよく考えれば向こうは―あんまりお嬢様っぽくなかったけど―常盤台のお嬢様、
初春・黒子という中継点があったから今日たまたま知り合えたものの、今度なんていつあるのだろう?


(相手は学園都市の上から数えたほうが早いぐらい凄い人で、あたしは一介の無能力者。
 また会うかも分からないんだからぐちゃぐちゃ考えてもしょうがないよね)


――能力がどうこうじゃない、佐天さんがやったことは凄いことなんだから――


「…なんていうか、御坂さんって、高レベル能力者っぽくもないよね」


柵川中学は学園都市の中でも、本当に並ぐらいといった感じの学校なのだが、それでも一応高レベル能力者が何人か在籍している。
だが、佐天さんの知る限り、そいつらは皆ロクな奴らじゃない。

高レベルの学校に通えば十把一絡げの実力しかないのに、わざわざ自分のレベルより下の学校に通うことで、
自分より下の人間がいる愉悦に浸る為に通っているような奴ばかり。

でもこれは柵川中学に限ったことではないようで、どこの学校にも高レベル能力者というのは、
決して評判が良いとは、言えないようだった。
学校外の友人たちから、高レベル能力者に対する愚痴はよく聞かされる。

能力を笠に着た、上から目線のいけすかない奴――それが高レベル能力者。
そう、思っていた。

御坂美琴。

学園都市第3位で常盤台のエース、高レベル能力者の最たる人間と今日半日接したことで、
佐天さんはその考えを少し改める必要があるのかもしれないと、感じた。

美琴とそれ以外の高レベル能力者、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い――
なんて、考えたところで美琴のことをまだよく知らない佐天さんには分かりはしないのだが。


(あっ、ぽくないって言えば、あの人もあんまりそれっぽい感じはしなかったなぁ……)


美琴のことを考えていた佐天さんが次に思いついたのは、ブロントさんだった。

そっと自分の頬に触れる。
今頃ならば、少し腫れだし、触れれば鈍い痛みを生む傷があるはずの頬。
だが今は、いつも通りの若さ溢れるなめらかなでスベスベな頬。

痛みも傷跡も、どこにもない。

ブロントさんは決して自分の実力を誇ってないという感じではなかった。
どちらかと言えば、自分に自信が溢れているといえる。
だというのに、決して嫌味にならず、むしろ頼れるように思えた。


(ブロントさんは、自分には能力なんてないって言ってた…それって、能力開発を受けてないかレベル0ってことだよね。
 じゃああたしの顔の傷を治したのはなんだったんだろう……?)


他人の傷が治せる、そんな事はそれなりのレベルでなければ出来ないはずである。

ブロントさんが言うとおり、ブロントさんが異世界の住人だから?とも思ったが、
ゲームやマンガの話じゃないんだから、とその考えを捨てた。


(能力じゃなくてそれ以外のなにかなら…もしかして、あたしも、ああゆう風になれるのかな?
 レベル5の能力をものともしない…強力な力から誰かを守るために立ち塞がれる……
 そう、まるで、本当にゲームやマンガのヒーローみたいに――)


佐天さんが物思いに耽っていると、コトコトという鍋の中身が煮える音だけが響く台所に、
突然ジュウウウウウウウ!という激しい音が飛び込んだ。


「ふえっ!? あっ!やばっ! お鍋が……」


鍋が思いっきり噴き零れてしまった。
佐天さんは慌ててコンロの火―IHだから火はないけど―を緩める。


「あっちゃあ…料理してる時にボーっとしちゃダメだよね……」


考え込むなんてあたしらしくないなぁ、そう内省しつつ、佐天さんは料理を再開した。




――――――――――――――――――――――


――――――――――――――――


―――――――――


―――


「ただいまですの、お姉様」

「おかえりー、随分遅かったわね?」


第七学区にある常盤台中学学生寮の二〇八号室、美琴と黒子は此処で二人で暮らしている。

現在時刻は午後8時を少し過ぎたぐらいだ。
常盤台寮生としてはあまりに遅すぎる帰宅をしたルームメイトに、美琴は自習をしながら
声を掛ける。


「ええ、まあ……色々と難航していたもので」

「仕事熱心なのもいいけど、頑張り過ぎないように気をつけなさいよ?
 風紀委員活動があったって言っても、寮監が居たら、アンタ今頃首が狩られてるんだから」

「仕事熱心なのは寮監の方ですの。
 過労が祟り、階段からすべり落ちて足を骨折……
 いかず後家は仕事しか楽しみがないからああなるんですの」

「こぉら、陰口叩かないの。
 多少やることは過激だし融通は利かないけど、悪い人じゃないでしょ?
 同じ寮に住んでる家族みたいものなんだしさ」

「ふん……まあ、わたくしどものために働き過ぎたのは事実ですの。
 今度お見舞いに行ってやっても、良いかもしれませんわね……」

「ふふっ、アンタもたいがい素直じゃないわね」

(……お姉様、それはツッコミ待ちですの?)


ある程度キリの良いところまで学習したのか、美琴がペンを置く。


「よし、と……それじゃ、ご飯食べに行こっか」

「え……?
 お姉様、まだ夕食をとっていらっしゃらなかったんですの?」

「なんとなく、アンタが遅くなるんじゃないかって思ったからねー。
 みんなが食べ終わった後に一人でってのも、味気ないでしょ?」

「お姉様……」

「ま、まあ!
 まだ遅いようだったら、もうほっといて食べに行こうかなぁって――
 …黒子?」


顔を伏せてぷるぷる震えている黒子。
美琴が声を掛けると、黒子がゆっくりと顔を上げた。


「お姉様が…黒子のことをそんなにもっ! 想ってくださるなんてっ!
 わたくしは今! 猛烈に感っ動っ!していますのッ!!」


目の幅涙を滝のように流していた。


「そ、そんな大げさな――」

「いいっえ!
 お姉様のその優しさは! 値千金では納まらぬほど素晴らしいものですのよ!
 黒子が! 黒子がその優しさにお応えするにはもう、こうするしかぁ!!」


Kurokoは、《裸神活殺拳》(Cast Off)の構え。
黒子は着ていた衣服を全て脱ぎ捨てた。


「ちょ! バカ! なんでそうなるのよ!?」

「うふふひひひ……
 さあ! 夕食の前に黒子を召し上がってくださいませ!
 おっねえっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」


Kurokoは、《伝統的な女体への飛び込み方》(ルパンダイブ)の構え。
黒子は一糸纏わぬ姿で、美琴へと飛び掛かった。


「だったらアンタには、これでもご馳走してやるわよぉ!!」


Mikotoは、《対自販機用回し蹴り》(チェイサァァァァァァァァ!!)の構え。
気合の入った掛け声とともに、学生寮全体に、何かが壁に叩きつけられる音が響いた。


――――――――――――――――――――――


「もう…お姉様のツン照れ屋さん!」

「表出なさい。
 照れ隠しにエレクトリッガーしてあげるから」

「す、すいまえんですの;;」
(それは某スーパーロボットの技でしょうか?
 それともあのシンプ○ンみたいな殿方の技でしょうか?
 ……どっちも出来ますわね)

「ふんっ」

美琴たちは学生寮内に設けられている食堂で食事を取っていた。

常盤台の学生寮は、古めかしい洋館のような建物となっているのだが、内装も外装通りまるで貴族の邸宅のような作りになっている。
食堂、とはいっても言葉通りの雰囲気ではなく、テーブルがなければ落ち着いた感じのするちょっとしたパーティホールのような場所である。

常ならば、生活リズムが厳しく定められているため、この時間帯に食堂を利用する学生はまあ多くはないのだが、
今は美琴と黒子以外にも何人かの寮生が食事をとりながら談笑をしている。

美琴は自分のサラダのレタスをフォークで刺しながら、不機嫌そうに―主な理由は黒子だが―黒子に尋ねた。


「で、どうだったのよ?」

「? どう、とは?」

「アイツよ、あの鎧バカ。
 アイツが何処の誰かは分かったの?」

「ああ……
 率直に申し上げますと…その……なにも分かりませんでしたの」

「なにも……?」

「ええ、なにも」


黒子は美琴たちと別れてからのことを話し始めた。


――――――――――――――――――――――


時間が少し戻って、第一七七支部にて――


「さあ、きりきり話して頂きますわ!」


威勢良くブロントさんへ聴取開始、まずは簡単な質問から。


「まずはフルネームをお教え願ってもよろしいですの?」

「Brilliant Unruly Razer Of Noble Tether」

「【えっ?】」

「古ネんムはBrilliant Unruly Razer Of Noble Tether」

「ぶ、ブリリアント……
 ――申し訳ありませんが、こちらに書いて頂いても……?」

「良いぞ」


黒子が手元に置いていた紙とペンをブロントさんへ渡すと、サラサラと筆記体で書き上げた。
まあ、自分の名前なので当然である。


「ははぁ、これでブリリアント・アンルーリー・レーザー・オブ・ノーブルテザーと読むんですのね?
 なるほど、頭文字を取ってBurontですの……初春!」

「はーい、むわ~っかしてください!
 それにしてもカッコいい名前ですね、中二病な感じがします」

「おいィ…?」


褒め言葉です、気にしてはいけない。


――――――――――――――――――――――


「結論から言いますと……
 ブロントさん…Brilliant Unruly Razer Of Noble Tetherという人物は、《書庫》(バンク)にも、
 ここ数日で学園都市へ『正規』にアクセスした外部の人間の中にも、どこにも存在しませんの」

「ふうん……
 となると、『不正』にアクセスしてきた人間ってことで片付くんじゃない?」

「お姉様は、外部から正規のルート以外で学園都市に入ってきた人間だと思いますの?」

「思わないわね」


美琴の否定は、ブロントさんがそんなことをする人間とは思えない、という理由から来るものではなく――


「来るもの拒むし、去るものは地の果てまで追っかける――
 ある種、監獄よりもセキュリティーが厳重なのがこの街よ。
 不正アクセスなんて普通なら出来っこないし、やろうとする馬鹿も…まずいないんじゃないかしら?」

「その通りですの」


黒子は、はぁ、とため息を吐いた。


「となると、あの殿方はどこの誰なのか……
 年齢・人種も不明。
 能力、と言いますかあの方のチカラも正体不明。
 正直、わたくしどもでは今のところお手上げといった感じですわね」

「実はあいつが虚言妄言並べ立ててるだけで、そのフルネームも偽名でしかないって感じはしないの?」


美琴の言葉に、困ったような笑顔を見せる黒子。


「ブロントさんの話される内容自体は、とても空想溢れるものばかりですから、わたくしも、そう疑いはしているんですの。
 ですが――」


――――――――――――――――――――――


再び時は第一七七支部での黒子たちの聴取に戻る。

一通り聞き終えたところで、聴取は一旦中断。
黒子はブロントさんの言葉を軽くまとめたメモに目を落とした。


(なんですの、これは……
 まとめのメモがまともじゃなくなってしまいましたの)


黒子が戸惑っているメモの内容を少し取り上げてみると、

職業・ナイト、メイン盾……職業不明
人種・エルヴァーン……人種というか民族?
年齢・プライバシーの心外は犯罪だぞ!……年齢不詳

などと書かれている。

(わたくし、詳しく聞かせてくださいと言いましたわよね?
 プライバシーの侵害は犯罪だぞ!ってなんのためにアナタに来てもらったと思ってるんですの!?)


黒子の額に青筋が立ちそうになる。

持ち物について尋ねたら、ハイソウビとかいう自分の身につけている物について、黒子が止めるまでひたすら語られた。

能力について尋ねた時は――


「はい! では私からの質問です。
 ブロントさんはどうやって、御坂さんのレールガンから身を守ったんですか?
 あと、佐天さんの傷も治療した方法も聞きたいです」


切り出したのは初春からだった。


「ああ、そういえば詳しくは聞いてませんでしたの。
(初春、良いタイミングですの!
 ブロントさんはハイソウビとかいう物の話でなにやら上機嫌になっているようですし、これははぐらかされずに話して頂けるやも……
 なにか身元の糸口になれば良いのですが)
 どうやったか、話して頂けますか?」

「うむ、FFでも初心者の館があるからなランク1からの質問には答えてやろうと思った。
 英語で言うとカナード」

「カナードと言うと…安定翼ですわね?」


なぜ安定翼が今出てくるのか理解不能な黒子。


「死の恐怖ですか(笑)」

「なに笑ってんだPKするぞ」


またか、黒子がホルスターから愛用している例のアレを取り出す。


「…聴取が終わりませんから話を進めませんこと?(暗黒微笑)」(E 金属矢)

「「すいまえんでした;;」」


ブロントさんとの聴取はこうやって妙に話題が反れる。
黒子と初春、どちらかがブロントさんのペースに乗ってしまったらどちらかが軌道修正するようにしなければならない。


「まああ話を戻すとだな、俺はあの時ナイトの《ジョブアビリティ》の《インビンシブル》を使っていた系の逸話があるのだよ。
 るーこに使ったのは《ケアル》、こっちはどちかというと白魔法派閥になるぞ」

「じょぶあびりてぃ?」

「白魔法、ですか?」

「……起訴厨の基礎の説明をするからおもえらは耳をカッポ汁べき」


そこからブロントさんが扱うチカラについて基礎の説明を受けたのだが、
黒子たちには不明な用語が多すぎて簡単にしか理解は出来なかった。


(糸口どころか、迷宮の入り口なってしまいましたわね……)


メモから目を離し、黒子は自分の腕を見る。

以前に犯人を拘束する際に打ち身になってしまった場所があったので、
説明ではなくブロントさんに《ケアル》を実際に使って見せてもらったのだ。
結果はご覧のあるさま、痣もなにも無くなってしまった。


(ブロントさんのチカラは本物、これは間違いありませんの。
 防御能力(インビンシブル)の方は、実践して貰う訳にはいきませんのでこれは未確認として……)


実証でもブロントさんがケガをする可能性がある以上、インビンシブルの実践は頼めない。


(ですが、お姉様の超電磁砲を防いだのは事実、未確認と言えるか……
 これはまさか、実現不可能とされている多重能力者(デュアルスキル)……
 いえ、そんなはずは…でも回復、防御を同時に行える能力とは一体……
 では、ブロントさんが仰る通り、あれは能力ではなくアビリティとかいう良く分からないチカラ……
 しかし、これを超能力ではないと断ずるのはあまりにも――
 う~む…う~~~む……う~~~~~~~~~~~~む………!)

「しかす、この街はえごいな」
   

黒子が思考の迷路で迷っていると、ブロントさんと初春の会話が聞こえてきた。


「なんといっても、最先端の科学技術が集まった街ですからね。
 外部の人には、結構驚かれることが多いと思いますよ」

「うむ」

「やっぱり、学生が超能力者っていうのには驚かれました?」

「いや、それほどでもない」

「あ、ブロントさんが住んでらっしゃる場所では、冒険者ならアビリティとか魔法が使えるんですもんね」

「落蕾は日常ちゃめしごとだからチョロイ事(リアルヴァナ史)。
 えごいところはイロイロあるが街中にロボットが掃除していたという事実には関心が鬼なった」

「清掃ロボットですか?
 あれは私も初めて学園都市に来たときはビックリしましたねえ」

「清掃ロボットがいる→街の美観が充実→環境が豊かなので性格も良い→彼女ができる。
 清掃ロボットがいない→街の美観が世紀末→心が狭く顔にまででてくる→ヒャッハー!
 清掃ロボットの治安スキルはまさしくゴミの力と言ったところかな」

「でも、実はあれって、一台7000円なんですよ?」

「おいおい(苦笑)。
 おれがそんな嘘にだまされると思った浅はかさは愚かしい。
 ヨミヨミですよ? かざちの作戦は」

「本当なんですって、前に通販番組で売ってました」

「俺が思うにぜんえzん別の商品だったのではないか?
 見た目がたまたま同じになる事はまれによくあるらしい」

「えー……でもちゃんと清掃ロボット4649って紹介してたんですよ」

「かぁりは素人だな賞品名もまれによく同じになったりする。
 だがヴァナでも魔法人形がホイホイ渡さるるという実績があるから風見の証言を異議あり!するのは難しい」

「魔法人形?
 ヴァナ・ディールにもロボットがあるんですか?」

「ロbotに煮たものはあるぞ。
 オートマトン、魔法人形、カーディアンとかがそうだな」

「学園都市以外にそんなに技術が進んでいる場所があるなんて、びっくりです……」

「…良いことばかりじゃにいけどな……
 魔法人形は聖作者に性格が煮たりするからよ……」

「え?」

「………………」


錯視『水の区のShatoto』。
想起『石の区の博士人形』。
想起『ヒロインズコンバットでのアドリブ説明』。
想起『あら! わたくし、ぶち切れますわよ』。


「………………ッ!!」

「ブロントさん? ど、どうされたんですか?」


なにかを思い出して震えるブロントさん。
どうしたら良いか分からず手をこまねいている初春。


「…………ふむ」


ブロントさんの故郷(?)の話で談笑していた2り見ていて、黒子は――


――――――――――――――――――――――


「こんなもの、風紀委員の判断としては間違っているのですが……
 自然に夢物語のような話をするあの方を見ていると、わたくしにはどうも、あの方が嘘を吐いているとは思えないんですの」

「本当だった方がロマンがあって素晴らしいからねー」


ニヤニヤしながら答える美琴。


「もう、お姉様! 茶化さないでくださいな。
 とにかく、どう判断を着けていいか分からないんですの」

「どうしたら良いか分からないなら、警備員に任せればいいじゃない」


風紀委員(コドモ)に手が負えないなら警備員(オトナ)に任せる。
これは正しい判断なのだが――


「ブロントさんを警備員に引き渡しても、たぶんあの調子ではずっと塀の中から出られなくなるのではないでしょうか」

「ま、確かにそうでしょうね。
 不正アクセスとみなされてひたすら尋問の日々、でもアイツがもしも自分の意思でこの街に来たって訳じゃないのなら、
 それはちょっと、って思ってるってとこかしらね、アンタは」

「ええ、決して悪人ではないようですし、引き渡しまでは……
 かといって、あのまま支部に拘置しておくことも出来ませんし……」


スラスラ進んでいくので、まるで拾ったペットを親にばれずにどこで飼おうか相談しているように錯覚しそうになるが、
実状は、不法入都者を匿うという自らの立場を危険にしかねない行為である。


「ていうか、大丈夫なの?
 風紀委員としてアイツを匿って」

「わたくしは別に学園都市の狗という訳ではありませんもの。
 風紀委員としては間違っていても、自分が正しいと思った時ぐらい、融通ぐらい効かせますわ」

「ふぅん、黒子がそう言うなんてねー」


後輩の珍しい一面が見れて、少し嬉しい美琴。
美琴自身としても、このままでは後味が悪いし、黒子に協力するのは決してやぶさかではなかった。


「まあ、私も関係ないわけじゃないし、黒子がそう言うなら協力するけどさ。
 アイツを置いておけるような場所ねえ」

「ただ置いておくだけではダメですわね、あの通り怪しさ全開ですもの。
 社会的保障がありそうな住み込みで働けるような場所、そんなものがあれば完璧でしょうか」

「あはは、そんな都合のいい場所が――」


その時、美琴に電流走る。


「あるじゃない」

「えっ、そんなところがありますの?」

「ふっふっふ、黒子、あとは任せなさい!
 私に良い考えがあるわ」

「お姉様! それは露骨な失敗フラグですの!」

「さて、そうと決まったら色々準備しなくっちゃね!
 黒子、悪いけど食器片付けといて!」


美琴は皿に少し残っていた料理をサッと平らげて、食堂から飛び出していった。


「お姉様! お待ちになってくださいですの!
 お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


黒子はただ、
お姉様の使った食器…はぁはぁ……、と少し興奮して、美琴に残された食器を片付けるかどうするか迷いながら、
美琴を見送る他なかった。


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