「では、これから高町家第三十二回家族会議を始める。議題はこの冷蔵庫(?)を家に入れるかどうかだ。」
現在高町家には父・士郎、母・桃子、兄・恭也、姉・美由希そして末っ子のなのはがそろっている。
本来ならば、あんな怪しさが具現化したような冷蔵庫など入れたくはないが、滅多に甘えてこないなのはが珍しく父である自分に[お願い]をしてきたのである。
[お願い]を聞いてあげたいのはやまやまだが、だからと言って自分一人であれを家に入れていいのか判断がつかなかったので家族会議を開いたのである。
「父さん・・・その、なんだ・・それは一体何なんだ?」
長男である恭也が、心底訳が分から無いという顔で訪ねてきた。
気持ちは分かるがそんなのこっちが知りたいくらいだ。
そもそも、こいつが一体何なのかすら分からないのだから会議のやりようが無い。
まずは質問を重ねてみることにしよう。
「えーと、君の名前は?」
「前に自己紹介したような気がするが、まあ良い。俺の名前は垣根帝督。ていとくん、で良いぜ。」
普通に教えてくれた。案外見かけによらず常識のある冷蔵庫なのかもしれない。
「君は一体どこから来たんだい?」
「冷蔵庫の国って所から来た。」
前言撤回、やはりこいつに常識は通用しない。そもそも冷蔵庫の国ってなんだよ!こんな奴らがたくさんいるのかよ。嫌すぎる。
「冷蔵庫の国ってやっぱり寒いの?」
「いや、冷蔵庫の排気熱で温暖化が進んでて結構熱い。」
桃子そんなとこ無いから。信じないでくれ。あと変な所だけ現実的なんだな。恭也、美由希、まだ少し話しただけなのにものすごく疲れた顔してるな。安心しろ、父さんもすごい疲れた。
「と、まあ冗談はこれぐらいにしておくとして。」
冗談だったのかよ。やっぱりコイツとは真剣に話し合う必要があるな。それと、なのはが嘘だって分かって心無しか悲しそうな顔をしている。信じないでくれよ、頼むから。
そして垣根が急に真面目な顔?をして話始めた。
「俺がどこから来たのか、俺が一体何者なのか、話してやることは一切できねぇ。何も自分の事を何も語らないうえに、こんな怪しさを絵に描いたような奴が、信じてくれ、なんて言っても無茶なことは分かってる。だから俺からは何もいわねぇ。決めるのはあんたたちだ。どんな決定にも従うさ。」
いきなり真面目?になった垣根に戸惑いながらも、なのはが不安げに垣根の方を見て、一緒に暮らそうよーなどと、駄々をこねている。
・・・正直言うと驚いた。自分が怪しいってことを自覚していた事もそうだが、なのはがこんなにも懐いていることがだ。
なのはは結構、いやかなりと言っていいほど人見知りだ。一回仲良くなれれば、とても仲良しになれるが仲良くなるまでが大変なのだ。
冷蔵庫にしがみ付きながら、駄々をこねているなのはを見ながら悩んでいると桃子が口を開いた。
「家に入れてあげたら、どうかしら。なのはがこんなに懐く人なんて滅多にいないし。それに悪い人じゃ無さそうだし。」
そうだな、万が一のことがあっても、俺たちがなんとかすればいいだけだしな。それにこんなになのはが懐いているんだし悪い奴じゃあ無いだろう。
いまだに、なのはに駄々をこねられている垣根に近寄り、
「ようこそ、高町家に歓迎するよ。垣根帝督。」
みんなが立ち上がり、垣根帝督に拍手を送る。なのはは尻尾がついていたらちぎれんばかりに喜んでる。
「はっ!酔狂な奴らだな。こんな得体のしれない奴を歓迎するなんてな!どうなっても知らねぇぞ。」
「その時は、恭也と一緒に叩き出してやるよ。」
やれるもんならやってみな、と呟きながら冷蔵庫のドアを開けてきた。一瞬全く意味が分からず呆然としたが、握手をしたいという事が分かり俺はしっかりとドアを握った。