ナデシコに乗り込んだ俺を待っていたのは、モアイとちょび髭だった。
機動戦艦ナデシコ~紫銀の剣士~第二話前編
ドサクサ紛れにナデシコに乗り込む事が出来た俺こと神崎紫錬。
格納庫に降り立った途端整備員にもみくちゃにされた事以外は概ね平穏だった(危うく斬るとこだったぜ)。
…後はプロスペクターとの交渉だな。
前史のアキトのような借金生活はご免だ。
…契約書はちゃんと読まねば。
……コツコツコツ……
とか考えてる内に、プロスが格納庫にやってきたようだ。
《SIDE YOGUSOTO》
「…誰だ、あんたら?」
紫錬の目の前に、二人の男がやって来ていた。
一人は武骨な大男。
一人はちょび髭の、飄々とした男。
ゴートとプロスペクターである。
「どうも始めまして。――私こういう者です」
差し出したのは、一枚の名刺。
紫錬はとりあえず受け取り、軽く目を通す。
「……プロスペクター? 渾名みたいなもんか?」
「ええ、そう思って結構です」
この挨拶を皮切りに、二人の戦いが始まった。
――――二時間経過――――
「…ぜぇ…ぜぇ……なら、この条件で契約成立ということで…」
「…はぁ…はぁ……良いでしょう。パイロット兼保安部員の役職、喜んでやらせていただきます…」
何故か二人とも汗だくで、フルマラソンを全力で走りきった後の如く、もの凄く息が荒い。
…一体この二時間、どんな交渉をしていたんだ?
「……では此方へ。まずはブリッジの皆様方に挨拶という事で」
「…その前に水分補給しましょう」
そう言いながら、格納庫を後にする二人の後姿は、まるで数多の戦場を共に駆け抜けた歴戦の戦友同士を思わせた。
…そして、その場に残されたのは、ゴートのみ。
「…交渉に、ついていけなかった」
さいですか。
《SIDE SIREN》
なんとか契約完了か。
保険もバッチリだし、戸籍云々もプロスさん頼んでおいたし、抜かりは無いな(一応、職場恋愛の項目も削除しておいた)。
…しかし、プロスさんただモンじゃねぇな。
今まで交渉した相手の中で、最強だぜあの人。
白熱した戦いだったな(思いっきり、ゴートを無視していたけど)。
戸籍のところで少し怪しまれたが、まあ何とかなるだろう。
「――着きましたよ、神崎さん」
俺の前を進んでいたプロスさんがそう言って立ち止まった。
どうやら、考え事をしている内に着いてしまったらしい。
…さぁて、次も正念場だ。
人間、第一印象が大切だからな。
気張って行かなくては。