side:織斑一夏
「おおおおおっ!!」
「はああああっ!!」
試合開始直後、鈴の青龍刀と模した双天牙月と俺の雪片弐型がぶつかる。
「ふうんやるじゃない、初撃を防ぐなんて」
けど!と言葉を続け鈴は青龍刀をもう一本を取り出す。
「はあっ!!」
鈴はスラスターを吹かして間合いを詰める。
左右から繰り出される剣戟の嵐。
二本の鈴と一本の俺では手数が圧倒的に違う。
そもそも代表候補生に選ばれるくらい技量の高い鈴だ。こちらの攻勢に転じる隙すら与えさせない。
事実、俺は反撃することも出来ずに鈴の双剣をさばくのがやっとだ。
その手数の差に段々と圧倒されていく。
鍔迫り合いになった時に突き離す勢いを生かして一端、距離を離す。
「いつ終わりって言った? まだまだいくわよ!」
今度は二本の青龍刀を連結させバトンを扱うかのようにくるくると高速で回転させて構え直す。
上空に急上昇したかと思うと思い切りよく縦に両断する。
「ぐ、ぅ……!」
手に受けた鈍い衝撃が雪片越しに伝わる。
手数で圧倒していた先程とは違い、今度は一撃一撃の攻撃が重い。
高速で回転しているのだから慣性の力も加わるのだから当然といえば当然だがそれ以上にこちらの支点を的確に狙った攻撃は情けない話だが剣を弾き飛ばされないようにするので精一杯だ。
連結して重撃を加えたかと思えば、次の瞬間には刀を切り離し双刃による乱舞。
その戦い方はまさしく変幻自在。蝶のように舞い、蜂のように刺すとはまさしくこのことだ。
(このままじゃ消耗戦になるだけだ。ここは一度距離を取って……)
鈴の攻撃の切れ間を読んで、鈴との間合いを離そうとする。
「甘いわよ!」
そう言うと肩のアーマーが開き中心のクリスタルが光るのが見えた瞬間、殴られたような衝撃が走る。
「……がっ!?」
意識が刈り取られそうな一撃をどうにかISのブラックアウト防御のおかげで踏み止まる。
「ふふふ、今のはジャブだからね」
もう一度、しかし今度は反対側の水晶体が光る。
「しま―――――!!」
頭で理解するが既に遅く、先程の牽制に足を止めてしまった俺は本命を真正面から受けて殴り飛ばされる。
勢いそのままに地面に叩きつけられる。
セシリアの時には感じたこともない直接的なダメージが痛覚を襲う。
シールドエネルギーもかなりのダメージを食らっている。このままでは、拙い。
side:露崎仕種
「なんだあれは!」
箒がモニターを目の前にし声を荒げる。
「『衝撃砲』ですね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す兵器です」
山田先生が一夏が吹き飛ばされた正体を説明する。
「仕種の言ってた通り、あれもおそらくブルー・ティアーズと同じ第三世代兵器ですわ」
セシリアも声を落とす。同じ第三世代を扱う身としては複雑な心境なのだろう。
「あれの厄介なのは砲身も砲弾も見えないところだ。おまけに射角はほぼ無制限と来たか。中々中国もえげつないものを作る」
「つまり、あれには死角がない?」
「そういうことになりますね」
衝撃砲に関する情報を列挙する内に、相手の圧倒的な兵器の前に全員が押し黙る。
「結局はそんなのは理屈。扱うのはあくまで一夏と同じヒトなのですから、やりようはいくらでもあります」
そんな通夜のように意気消沈した空気を一蹴するべく私はわざと強気な発言に出ることにする。
「ほう興味深い意見だな。では露崎、お前ならどうする」
だが藪蛇だったか、千冬先生はこれ見よがしに甲龍に対する攻略法を投げかけてくる。無茶振りもいいとこです。
「そうですね……。まず煙幕で相手の視覚を奪い、相手の死角を作りそこを徹底的に苛め抜く。それが出来ないとしたら、死角から急襲して隙を突くってとこですか」
前者は一夏には無理だ。生憎と一夏の白式には射撃武器が一切積まれていない。
それにこれは相手の視覚を奪うと同時、自分の視覚も奪うことになる。そんなリスクの高い破れかぶれな戦法が一夏に出来る訳がない。
しかし後者は一夏の白式には一応それが出来る。
「どちらも死角を突くこと前提ですのね……」
「死角からの攻撃は定石ですからね」
見えない場所からの攻撃は脅威だ。それにこれは戦闘の基本である。セシリアのブルー・ティアーズの戦法にしかり、一夏の現状にしかりだ。
「死角がないというのに、死角を突くというのか?」
箒が矛盾している言葉を訝しげに尋ねる。
「言った筈ですよ。ヒトが扱う以上見えない死角は存在する。自分の真後ろとか真下、真上は目で直接視認出来ない場所はISの補助があるとしてもどうしてもそこの反応には弱い」
ヒトの視野は草食動物に比べるとそれほど広くはない。つまり、それだけ見えていない盲点が存在する。
ISのハイパーセンサーがいくら万能だとはいえ、所詮扱うのはヒト。見えていない場所は頭の中で一度整理する必要がある。その結果、視野外への対応はゼロコンマ何秒の遅れが生じる。
つまりは、人間である以上どこかしら反応が僅かにでも遅れてしまうスポットは存在する。それがたとえ代表候補生であったとしてもだ。
説明しているうちにモニター上の一夏の動きが変わった。回避優先といえば回避優先のままなのだが距離の取り方を非常に気にした、そんな飛び方だ。
「織斑くん、何かするつもりですね」
「イグニッション・ブーストだな。私が教えた」
「イグニッション・ブースト……?」
「瞬時加速は一瞬でトップスピードに乗り敵に接近する奇襲攻撃だ。出し所さえ間違えなければ、アイツでも代表候補生と渡り合える筈だ」
「それって仕種が使ってた奴と同じ……」
今日までの時間を近接武器しか積まれていない白式と一夏は近接格闘と移動の基礎訓練に費やした。
その中で一夏は千冬先生に近接戦闘におけるとっておき、瞬時加速を教わっていたのだ。
指導者が千冬先生とあってか、だいぶ扱かれてまだ不安は残るがなんとか実戦で使える形になった。
それに一夏は以前、既に似たようなことをしていた。
セシリア戦で見せた最後の一撃前の加速はその片鱗であった。
元々武装が刀一つの白式だ。近づいて切るしか選択肢がない以上、その間合いの取り方は様々な技量が要求される。
しかし、そこは姉譲りの天性の剣の才能のおかげで間合いや状況判断の目は代表候補生並に肥えている。
一夏がこれを使いこなせれば千冬先生の言う通り、鈴と互角に戦うことが出来る。
「問題なのは通用するのが一回だけということだ」
千冬先生が厳しい表情で言葉を続ける。確かにイグニッション・ブーストは出しどころさえ間違えなければ状況をひっくり返すことが出来るだろう。
相手が即座に対応出来なければ。
鈴は腐っても代表候補生。一度見たものを二度も食らうほど馬鹿じゃない。二度目には即時対応して返り討ちにされるだろう。
つまり、鈴がどう足掻いても対応出来ない位置で使い、なお且つ必殺の一撃を打ち込まなければ相手の牙城は崩せない。
勝負の行方をモニタールームの全員が一夏の行動に注目を集めていた。
side:織斑一夏
「っ!!」
右からの衝撃砲≪龍砲≫を避ける。
そのまま付かず離れず、衝撃砲をかわせる距離を保ちながら鈴の周りを旋回し続ける。
今まで訓練で仕種やセシリアから一方的な攻撃を受けて来たためか焦れることなくとにかく回避優先で飛び回る。
「ちょろちょろと鬱陶しいわね! いい加減に当たりなさいよ!」
対する鈴は回避し続けかわされ続ける現状に対して焦れ始め、さっきまで掠っていた衝撃砲の精度が徐々に落ち始める。
代表候補生というエリートだった鈴はこんな展開になった試しがないのだろう。
それにエネルギーだって無限じゃない。衝撃砲が実弾でない以上、そのエネルギーはISのエネルギーから持ってくることになる。
千冬姉から教わった瞬時加速による奇襲をしかけるべく見えない弾を一定の距離で回避を続ける、反撃の機会を窺いながら。
「っ!」
今まで即座に対応してきた鈴の反応が一瞬、遅れる。
(ここだ……!)
その隙を逃すまいと瞬時加速を発動させる。
「うおおおおおおおおっ!!」
見事に不意を突かれた鈴は虚を突かれた表情をする。完全に出し抜いた。
そしてもう少しで鈴に刃が届く――――――――――、
その数歩手前、巨大な光の柱がアリーナのシールドを貫いた。
「な―――――――!?」
突然の事態に思わず絶句する。何が起こったのか理解できない。いきなりビームがアリーナのシールドを突き破って……?
「な、なんだ? 一体何が起こって……」
『一夏! 試合は中止よ! すぐにピットに戻って!』
こちらがうろたえてる所に鈴からプライベート・チャネルが飛んでくる。
それとほぼ同時、ISのハイパーセンサーから警告のログが知らされる。
――――――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。
『一夏、早く!!』
「お前はどうするんだよ!?」
「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」
「逃げるって……女を置いてそんなこと出来るかよ!」
「馬鹿! アンタの方が弱いからしょうがないでしょうが!」
「別にあたしも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、すぐにでも学園の先生たちがやってきて事態を収拾―――」
「鈴、あぶねえっ!」
鈴を掻っ攫って飛ぶ。その直後、元いた場所は熱線が通り過ぎていた。
「ビーム兵器かよ……。しかもセシリアのよりも出力は上だ」
「い、一夏下ろしなさいよ! 下ろせってば!」
「お、おい、暴れるな! 今、下ろすからじっとしてろって!」
下ろそうとするよりも早く俺の腕をするりと抜ける。むう、そんなに嫌だったのか。
朦々と黒煙が立ち上る中、さきほどの攻撃の主は姿を現した。
「なんなんだ、こいつ……」
そのISを一言で言うならば、果たしてあれをISと呼べるのかという疑問に尽きる。
地面に付きそうなほどに長すぎる両腕、首なしの頭、そして『全身装甲』。
機械的なデザインはその身体にも表れていて全身の至るところに姿勢制御用のスラスターがいくつも配置され、頭部には剥きだしのセンサーレンズが不規則に並んでいる。
「お前、何者だよ」
「…………」
相手は返事を返さない。当然といえば当然か。戦国時代じゃあるまいし名乗れば名乗り返してくれるような気骨ある時代ではない。
『織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に向かいます!』
山田先生からプライベート・チャネルが飛んでくる。いつもと違いはっきりした口調は少しばかり教師としての威厳があった。
「―――――いや、先生たちが来るまであれは俺が食い止めます」
先生の言い分を拒絶する。大切に思ってもらっていることはとても嬉しく思うがここで素直に逃げ帰っても、客席に被害が及ぶ可能性が高い。
なにせ、あいつは俺を狙っているのだから。それならば狭いピットに戻るより、広いアリーナで戦う方がよほど賢いと言える。
「ちょっと待ちなさいよ一夏! なんでそこにあたしの頭数が入ってないのよ!」
鈴が俺の言い分が気に入らないのか食ってかかる。
「俺はなんかアイツからロックされてるみたいだ」
「はあっ!?」
鈴は訳が分からないと言ったふうに堪らず聞き返す。
「だから、アイツの狙いは俺と白式みたいなんだよ! だから、俺がアイツの注意を引きつけてる間に鈴はここから……」
「ふざけんじゃないわよ! 素人のアンタ残してあたしにおめおめ尻尾巻いて逃げだせって言うの!? 冗談言うのは緊急事態以外にしてよね!?」
鈴はいきなり噛みついて来た。代表候補生としての意地があるらしい。
「それにあんたあの機体にロックされてんでしょ。だったら尚更あたしが逃げるわけにはいかないじゃない。さっきまでの戦闘であんた一人でアレの相手出来るだけの余裕ないでしょうが」
そう言われるとぐうの音も出ない。リーグマッチの戦闘に引き続き、乱入したISの相手だ。回復のピットインすら与えられないこの状況では正々堂々もクソもない。
「あたしが衝撃砲で道作ってあげるから、一夏はそれで思いっきり叩き斬ってやりなさい」
「そうだな。それでいくか」
『だ、駄目ですよ! 生徒にもしものことがあったら―――――』
「鈴、来るぞ!!」
そこまでしか山田先生の言葉は届かなかった。突っ込んでくるISをかわす。
幼なじみによる即興のコンビネーションを見せることになった。
side:露崎仕種
「お、織斑くん!? 聞こえていますか!? 凰さんも聞こえてます!?」
モニターに向かって叫び続ける山田先生。傍から見れば危ない人認定されるだろう。
「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみたらいいだろう」
「織斑先生もどうしてそんなにのんきなこと言ってられるんですか!」
おおらかに構える千冬先生に対して、おろおろする山田先生。
「まあコーヒーでも飲んで落ち着け。糖分が足りないからイライラするんだ」
「先生、それ塩です」
それを聞いた千冬先生の腕が塩のふたを開けたところでぴたっと止まる。危ない危ない、塩入りコーヒーなんて飲めるわけがない。
「なんで塩がこんなところにあるんだ?」
「さ、さあ……? でも大きく『塩』と書かれていますし」
「や、やっぱり織斑先生も弟さんのことが心配なんですねっ!? だから、そんなミスを――――」
最後のそれは今この場において最悪の選択だった。正義の味方志望の赤髪の少年ならデッドエンド直行だ。
「………………」
「お、織斑先生……? そ、そっちは塩です! 聞いてください!ってあーっ!!」
山田先生のきゃーきゃーという声も聞く耳を持たず塩を再び取り、コーヒーの中に投入。そのままぐるぐるとスプーンでかき混ぜる。無表情のまま行う様が非常に怖い。
「山田先生、どうぞ」
ずずいと有無を言わさぬプレッシャーをかけて渡す。名誉の無駄遣いだ。
間違いない、これは故意だ。
「で、でもそれって塩入り……」
「いいから塩の入ったコーヒーも一度試してみるといい」
一介の教師である山田先生が世界最強の重圧を前に屈しない筈もなく千冬先生から渡されたそれを受け取ってしまう。
それを啜る山田先生の表情は理不尽と苦くてしょっぱいコーヒーにこの世の終わりを見たような顔だった。
「織斑先生! わたくしにISの使用許可を!」
「そうしたいところだが、これを見ろ」
電子パネルを数回叩く。どれも同じような数字が並んでいる。
「遮断シールドレベル4に設定……? しかも、扉もすべてロックされて―――あのISの仕業ですの!?」
「そのようだ。これでは非難することも救助に向かうことも出来ないな」
表面上はカリカリしていないが内心は焦れているのだろう、せわしなく電子パネルを何度も叩く。
「で、でしたら緊急事態として政府に助勢を――――!」
「やっている。現在も三年の精鋭部隊がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来ればすぐにでも部隊を突入させる」
学園側は打てる手はすべて打っている。それなのに後手に回ったせいで何も対応出来ないのが歯痒くて仕方ないのだろう。
「織斑は自身がロックされていると言ったな? ならば、こちらに無理して帰還させるより向こうで敵と戦って時間稼ぎしてくれる方が都合がいい」
そうは言うものの、一夏も鈴も万全の状態ではない筈だ。よくてあと数十分、それ以上はシステムクラックよりも早く一夏たちがダウンしてしまう。
「それに突入部隊にはお前は入れないから安心しろ」
「ど、どうしてですの!?」
「お前のISが一対多向けだからだ。多対一ではむしろ邪魔になる」
「わたくしが邪魔になるなんてそんなこと―――――――」
「では連携訓練はしたか? その時のお前の役割は? ビットはどのように扱う? 味方の構成は? 敵はどのレベルを想定してある? 連続稼働時間――――」
「わ、分かりました! もう結構です!」
千冬先生の指導にどんどんと青ざめていき、仕舞にはギブアップをした。分かればよろしいとばかりに千冬先生は頷く。
ちなみに私もほとんどがスタンド・アローンの状況を想定しているので連携訓練はほとんど行っていない。
「あら? 篠ノ之さんはどちらへ……?」
セシリアの一言にはっとして部屋中を見渡すが箒の姿が見当たらない。途端に、苦虫を噛み潰したような感触が口に広がる。千冬先生に至っては舌打ちをする始末だ。
「千冬先生、すいません。箒を探してきます」
そう断って、一礼すると駆け出した。
「あ、ちょっと仕種!? 織斑先生、わたくしも……!」
「構うな。一人いれば十分だ」
私の後を追おうとするセシリアを止める。
「あの馬鹿……。ISなしの生身の人間で何が出来ると言うんだ……」
千冬先生の忌々しげな呟きは誰にも聞こえなかった。
side:織斑一夏
「何やってんのよ一夏!!」
鈴から激しい野次が飛ぶ。敵ISに必殺の間合い、必中のタイミングの一撃がかわされたのだから仕方のない話かもしれない。
(だからって……!)
こいつの回避率の高さはおかしすぎる。全身にスラスターが付いていてかわすのが自由自在だと言えども、見えていない場所からの攻撃を四度もかわすのは異常としか言いようがない。
「一夏、離脱!!」
鈴の言葉にはっとし、その場を離脱する。
「くそ、タイミングとか絶対完璧な筈なのに……」
「だったらもっと早くにあいつが沈んでるでしょうが」
「分かってるっつーの」
「で一夏、エネルギーあとどれぐらい残ってる?」
「六十切ったとこだ。バリア無効化攻撃もあと一回が限界だな」
「そう、あたしとどっこいどっこいね」
そうなると事実、次の攻撃で決めなければいけない。
同じようにやって成功する確率は高く見込めない、ならば切り口を変えないと。
普通ではだめだ。規格外のスピードで相手にぶつからなきゃいけない。既存のどのISよりも速く、相手の反応すら追い付かない速さで。
「……鈴。死角からの攻撃、視覚に頼らないで四度も回避に成功できるか?」
「はあ? 何よその神業。千冬さんくらいしか出来ないんじゃない? それかマサイの戦士とか」
千冬姉とおんなじことが出来るって鈴の中でどんだけつえーんだよ、マサイの戦士。確かに視力とか脚力とかすげーけど。
「あいつ、俺のさっき言ったことを全部成功させてるんだ。機械的に」
「言われてみれば、あいつの行動パターンってどっか機械染みてるわよね」
攻撃の後の反撃の手段もまるで同じ。回避パターンもほぼ一定。これを機械的と言わずに何という。
「けど、機械的に行動してるからって何が変わるなのよ。ISは人が乗らないと動かない。無人機なんてありえないわ」
「だったらさ、今の俺たちの会話の最中に攻撃してくる方が普通じゃないか? 待ってたって増援が来るだけだし、さっさと俺たちを潰すのが当たり前な思考だろ?」
鈴はその言葉に息を飲む。俺の言い分に気がついたのだろう。
「つまり、一夏はあいつが無人機だって言いたい訳?」
鈴の言葉は疑ってはいるが、大凡そうかもしれないといったニュアンスが表れている。
「ああ。それなら零落白夜、白式の全力を出しても大丈夫だしな」
単一仕様、零落白夜。
それはエネルギー兵器を無効にし、相手の本体に直接攻撃する――――バリア無効化攻撃が出来る元である。
ただこの能力使い勝手が悪く、公式戦や訓練では威力が高すぎてまったく使えない。全力なんてもってのほかだ。
しかし、こういった有事に際しては最大の武器となる。
「で? どうすんのよ。どっちにしろこのままじゃジリ貧よ?」
「大丈夫だ。俺にいい考えがある」
「いや、それって絶対ロクでもないから……」
なんだよ知らないのか、この名台詞。
「まず……」
「一夏あああっ!!」
俺が鈴に作戦を説明しようとした矢先、箒の声が飛んで来た。
どこからと探して見れば、俺の飛び立ったピットに箒が立っていた。
「男なら、男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!」
ハイパーセンサーで拡大するが、箒はさっきまで走っていたのか肩で息をしていてその表情は俺の不甲斐なさに対する怒りと今の状況の焦りの入り混じったようなものだった。
「だから、勝てえっ! 一夏ああああっ!!」
それは最高の檄だった。そしてそれは致死量の毒でもある。
「拙い! あいつ、あの子狙って……!」
鈴の言っている通り、敵は今まで俺たちかた逸らさなかったセンサーレンズを箒の方に向けている。
今から鈴に説明してたら間に合わない……!
「箒、逃げろ!!」
叫ぶ。箒もそのつもりのようだが、敵のチャージが早い、早すぎる……!
箒のところまで行こうにも距離という壁が立ちはだかる。
そして、無情にもその腕から光の砲撃が放たれる。
「箒いいいいいいいっ!!」
アリーナを一夏の悲痛な叫びと絶望が支配した。