side:織斑一夏
「あー……」
第一声がこんなので申し訳ないが、俺は参っていた。
正直、もう駄目だ。ノ―センキューだ。この後の授業を受ける気力すらない。
一時間目のIS基礎理論授業が終わった休み時間、織斑一夏は机に突っ伏していた。
周りからは奇異の目が授業中、休み時間を問わず絶え間なく注がれている。
なにせ全世界において男でISを動かせる人間がここにしかいないのだ。否が応にも目立ってしまう。
そうなると俺はもう客寄せパンダ。俺を一目見ようと休み時間の度、全学年からここまで俺を観察しに足を運びに来ることになるのだろう。
これは精神的にかなりきつい。
女の園をロマンだとかほざいていた悪友にじゃあ、代わってみるか? と言ってやりたい。
しかも追い打ちをかけるように授業はチンプンカンプン。
IS学園に入学してくる奴は事前学習しているというのは本当らしい。
前の授業でも俺が頭を抱えているその横ですらすらとノートを取っていたのだ。
うう、こんなことなら『必読』と書かれていた参考書に目を通しておくべきだった……。
古い電話帳と間違って捨てそうになる時に気付いてよかったがそれきりだ。
だいたい、あんな分厚いものに目を通せというのに無理がある。
開始、三秒で止められる自信がある。
(誰かこの状況を助けてくれ……)
「……ちょっといいか」
「え?」
天に俺の願いが届いたのか突然かけられた懐かしい声に顔を上げる。
「……箒?」
目の前にいたのはさっき助けを求めていたのに助けてくれなかった薄情な幼なじみ、篠ノ之箒だった。
剣道を続けていたのか平均的な身長よりもポニーテールと相まって長身を思わせる。
そのうえ彼女の纏う雰囲気は六年前に比べると凛としたものになっていた。
「着いて来い」
それだけ言ってすたすたと先に行ってしまう。
「早くしろ」
「お、おう」
箒に叱咤されると急いで後をつける。
もっともあの空気にいたんじゃ気が休まらない。それなら幼なじみの箒といた方が気が楽だ。
それにあの箒から声をかけてきてくれたんだ。積もる話もあるんだろう。
教室の外まで溢れ返っていた女子たちが箒の行く道をざあっと道を空ける。モーゼの海渡りかよ。
箒というモーゼがいるおかげで一人では行けそうもなかった屋上に出ることが出来た。
外ということで緊張感から解き放たれた解放感が心地よい。
それでも何人かの視線を感じるが教室や廊下に比べれば幾分かましなものだ。
「で、何の用だよ?」
「………………」
「六年ぶりに会ったんだ。何か話があるんじゃないのか?」
「う……」
箒はそこでばつ悪そうに黙りこんでしまう。
気まずい。教室にいるとはまた何か違った意味で気まずい。何か会話をせねば。
ていうかそれしなかったらなんで人目を気にして屋上まで呼んだんだ箒……。
「そういえば」
「何だ?」
ふと言わなければならないことを思い出した。
「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」
赤らめながら口をぽかんと空けている。
「なんでそんなこと知ってるんだ」
「なんでって、新聞で見たし……」
「な、なんで新聞なんか見てるんだっ」
いや、逆に聞くがなんで俺は新聞を読んではいけない?
あれ、褒めた筈なのになんで俺怒られてるんだ?
「あー、あと」
「な、何だ!?」
興奮しすぎだ。ちょっと落ち着け。
「久しぶり。六年ぶりだったけど、箒だってすぐに分かったぞ」
「え……」
「ほら、髪型一緒だし」
そう指摘すると顔を赤らめながら長いポニーテールを弄り出す。
「よ、よくも覚えているものだな……」
「いや、忘れないだろ。幼なじみのことぐらい」
「………………」
その一言で急に視線が厳しくなる。いやいや、なぜそこで睨まれなきゃならない!?
むしろ、覚えてたことに対してもう少しだけ感動して欲しいんだが……なんて希望を箒に持てる筈もない。
「まあ、仕種の方は自己紹介されなきゃちょっと分かんなかったけどさ」
「仕種か。私もあの変わり様に驚いたが、あれは変わり過ぎだ」
「だろ? あれを仕種だって言われても分かんねえっての」
露崎仕種。
箒と同じく、俺の幼なじみの一人。
あいつは箒とは別の意味で見違えた。
箒の場合、俺の持っている箒像そのままに成長した感じだったためすぐに判った。
無銘の日本刀みたいな感じが名匠が作り上げた日本刀にランクアップしたような……そんな雰囲気だ。
しかし仕種の場合、何もかもが違っていた。
当時の面影すらない、虫の変態に近い感覚だ。
アオムシがチョウに変わるのと同じようなあの感じ。
あんな綺麗な紫がかった黒髪の似合う子になっているなんて思いもしなかった。
目元は子供の頃の名残があるが、それ以外はまるで同一人物とは思えない変身振りだ。
だから名乗られるまでホントにあの子が仕種だって判らなかった。
会ってない期間は箒よりも短い筈なのに……月日というものはこうも人間を変えてしまうのか。
「なあ、一夏……」
箒が何か言いかけたところで二時間目の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「俺たちも戻ろうぜ」
「わ、分かっている」
他の奴と同じように教室へ戻っていく。流石はIS操縦者、行動が早い。
(ああ、この後もあの訳の分からない授業か……)
帰り道で次の授業のことが頭をよぎる。
そう考えるだけで頭が痛くなる。
よし、後で箒か仕種に聞いてみよう。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うし。
土下座でもなんでもしたらきっと教えて貰えるだろう。
side:露崎仕種
一夏と箒が外に出たそんな頃。
私はちょっとした厄介事に絡まれていた。
「ちょっとよろしくて?」
金の縦ロールに青のカチューシャ、そして淡いサファイアのようなブルーの瞳。そして『いかにも』今の女子という雰囲気を纏ったこの感じ。
そう、これが厄介事である。
今の世の中、ISの登場によって大きく女性が優遇されている、というか女性=偉いという式が完成してしまっている。
そうなると男性の立場は完全に労働力、奴隷のそれと変わりない。そのため男性が女性のパシリとして走り回る姿が度々目に映る。
それにこういった自分様は偉いという手合いはあまり好きではない。
今まで偉そうな奴と散々相手にして来ただけあって適当なあしらい方は知ってはいるがそれでも好きになれない人種に変わりないのだ。
「なんでしょう?」
「貴女も教官に勝ったと聞きましたけど、その情報は間違いじゃなくて?」
私が試験官に勝ったことを認められないと言いたげな雰囲気を醸し出す。
彼女の雰囲気からすると実際いいとこの身分なのだろう。
「生憎と、その情報は事実ですが。それとも教官に勝った人物が二人もいては不服?」
私の言葉に一瞬、悔しそうに顔を歪めるがすぐに体裁よく取り繕う。
「っ。いえ専用機持ちなら当然のことだと思いまして。イギリス代表候補生、このセシリア・オルコットに同じクラスで学べることを幸運に思いなさいな」
要は自分は代表候補生だから偉いと、選ばれた人間―――エリートだから偉いんだと。だからラッキーなんだと。
なんちゅう飛躍した思考してるんだ。それにホントに偉い人間って自分を誇らないらしいですよ?
「……まあ、そうですね。一年のこの時点で専用機持ちと同じクラスになれるのは運がいいといってもいいでしょうね」
「ええ、そうでしょう。そうでしょうとも!」
私が調子を合わせてやっただけなのにえらくご機嫌だ。
だって半分事実で半分投げやりな回答を全部真に受けているんだもの。
あれ? もしかしてこの人、案外ちょろい?
「しかしそれを他人に押し付けるのはあまりよくないので次からは考慮していただきたいのですが」
「む。どうしてですの? わたくしの素晴らしさを理解してくださったのですから他の方も理解してくださるはずなのですが」
勝手に理解したことにされちゃったよ。理解したつもりはないんですけど、ね……。
「……理解したつもりはないんですけどね」
「? なにかおっしゃいました?」
いけないいけない思わず本音が漏れてしまった。しっかりせねば、口チャックっと。
「それにしても、どうしてあの男はここに入学できたのかしら? 前の授業でも一つも理解してなさらなかったようですし」
……後半の点だけは同意。いくら今までISとは無関係だったとはいえここは入学前に事前学習が必要な学校だ。そのための参考書を読んでなかったのだろうか?
「だいたい、男というのは無能なのよ。あの男もきっと何かの偶然が重なってここに来てしまっただけに決まってます! その点、貴女は物分かりが良くて大変聡明な方。よろしければわたくしが仲良くしてあげてもよくってよ?」
つまりはわたくしと近しい立場にいる人間だから友人になってあげてもよくってよ? そういうことを言いたいらしい。
二つ返事で返せばいい。それが穏便にすませる反応だ。
「ふっ。冗談を」
しかし、彼女の放ったその前の一言が私の琴線に触れたためそれが出来なかった。いや、しなかった。
「は―――――――?」
ピシリとセシリアの笑顔が張り詰める。
「私は友人を卑下する人間とはとてもではないですが仲良くは出来そうにないですね。残念ですが」
「あ、貴女それってどういう……」
突然の出来事に訳が分からないといった風にうろたえる。
セシリアは当然、肯定してくれるものだと思っていた。先ほどまで自分の意見を肯定してくれたし好印象だった。おまけに専用機持ち。この人物は自分に相応しいと彼女は勝手に思い込んでいた。
だから私という人間が手のひらを返したように否定したということに思わぬ事態に狼狽した。
「織斑一夏、彼は私の友人ですが」
セシリアはその言葉に完全に絶句する。
「半分は認めましょう。しかし偶然とはいえ男がISを動かしてしまったらその時点でここ以外に選択肢がなくなってしまったと考えるのが一番妥当でしょう」
「それに、一夏は馬鹿であれ無能なんかじゃない」
私の静かなプレッシャーに気押されてセシリアはたじろぐ。
「あ、貴女身の振り方を弁えた方がいいじゃありませんこと!? それはわたくしとブルーティアーズを敵に回してこれから平穏な学園生活を送れると思っての物言い?」
挑発ともとれる言葉にふと過ったアレと今後の学生生活を天秤にかける。
「ええ、送れるでしょう。何の不自由もなく」
鼻で一蹴しながら自信あり気に応える。
自信を持ってこれは言える。
私は人間としての最底辺を知っている。
アレには一切の妥協は許されず、一切の自己意思は存在しない。
あるのは繰り返し行われる作業、作業、作業の数々。
そんな場所に比べ比べればここは極楽浄土のようなものだ。
それに、私自身目の前で他人を見下して驕る人間には負けないだけの力は備えているつもりだ。
「それは私が取るに足らないということですの!?」
「そう思うのであればそうなのでしょう?」
怒りがある点を超えると冷静になるらしい。目をすっと細める。
「日本は礼儀を重んじる国だと聞きましたが、貴女は些か口が過ぎますわね」
「生憎と大和撫子とは程遠い育ちで。平民の不作法くらい寛大な器で流して欲しいんですが、無理でしょうか?」
にらみ合った二人の間にタイミングよく二時間目の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「まあ、いいですわ。詳しい話はまた後ほど」
そう言い残してセシリアは自分の席へ戻って行った。
言い過ぎたかな。まあいいか。あんな驕った人間に対しては言い負かすくらいでちょうどいい。
二時間目の終わり、一夏も私とおんなじように絡まれていた。ご愁傷様。
三時間目は一、二時間目とは違い山田先生ではなく千冬先生が教壇に立っていた。
「それではこの時間は実践で使用するための各種装備の特性について説明する」
それに関しては既に詰め込んであるため特段問題はない。
むしろ、私がヤバいのは一般教養。特に古文、漢文、英文法、数学……あれ、詰んでない?
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
そう思い出したように口にした。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスに実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度、決まると一年間変更はないからそのつもりで」
色々と大変な役柄がごっちゃになったのだが、要するに小学校でいう学級委員みたいなやつだ。
選ばれる人にはご愁傷様としか言いようがない。
もっとも、選ばれる人間なんて決まっているようなものですけどね。
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思います」
次々と一夏が推薦される。
まあ、当然といえば当然。物珍しさとクラスの看板の意味を込めたら彼以外に適役はいないか。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないのか? 自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺!?」
いや、織斑一夏は貴方しかいないでしょう。
「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな―――」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
おおう、なんという帝政。ここの国は民主政治じゃなかったのか。
「いや、でも―――」
「待って下さい! 納得いきませんわ!」
一夏が反論しようとしたところでバンと机を叩いてて立ち上がるセシリア。そういえば、さっき一夏と揉めてたなあ。
「そのような選出は認められません! 大体、クラス代表が男なんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにその様な屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
おーおー、言いますねえ。いまどきの女の子ってこれほどなまでに男嫌いだっけ。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこの様な島国までISの修練来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」
男を猿呼ばわり、ね。一昔前は男女平等とか言っていたのによくもここまで身分が落ちたものだ。というかイギリスも島国でなかったか?
「いいですか!? クラス代表には実力があるものがなるべき、そしてそれは国にも選ばれた代表候補生であるわたくしですわ!」
怒涛の剣幕で捲し立てる。普通ならここで一回落ち着くのだろうが、セシリアの自分自慢は益々熱がこもっていく。
まあよくもこうも自己主張出来たもんだ。その一点にだけは感心させられる。
ただ、相手を貶して自分の方が優れているという言い方が気に喰わない。
それに私自身、恥ずかしい話だが気の長い方ではない。
だから、もしこれ以上貶されるようなことが続くのであれば。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い屈辱で――」
我慢の限界だ、と思うより先にセシリアの言葉が私の堪忍袋の緒を切った。
ああ、もうこれ以上エリート様の演説を聞いているのは耐えられない。
「イギリスだって「じゃあ、悪いですが帰っていただけません?」……し、仕種?」
何かを言おうとした一夏よりも早く私の口が言葉を吐いて出た。
「な……! 貴女、何を言って!」
予想外の方向から一言だったのだろう、自称英国淑女様は思わず狼狽している。
「こんなところにいるのが耐えられないのでしょう? なら、とっとと荷物まとめてお国へ帰っていただけませんかと言ってるんです」
「だ、誰がそのようなことを! 貴女、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「私が侮蔑しているのは貴女であって貴女の祖国ではないんですが。それともあれですか? 私が祖国ですとかいうクチですか貴女は?」
くつくつと笑う。ああ、ダメだ。あの高慢ちき金髪縦ロールが赤くなってく表情が面白くて仕方ない。
人の不幸は蜜の味……とはいかないが気に入らない相手を言い負かすことに関しては不本意ながら自分の好きなことの一つなのかもしれない。
「日本人を黄色人種と馬鹿にするのも構いませんよ。貴女がどういう教育を受けてきたかの質がそこで図れますしどういう風に考えているのか分かるので」
こう言う時に限って相手の上げ足を取るような言葉がスラスラと出てくる。
舌好調女、露崎仕種です。どこの野球選手だ。
「しかし、貴女の言う猿がISを開発したと言うことを忘れていただいては困りますけどね。それすらも理解出来ていないなんて猿以下ということでしょう?」
それこそが決定的にして致命的な一撃。セシリアが後進的と称したことの最大の矛盾点。
周知の通りISを発表したのはまぎれもない日本人、篠ノ之束である。その彼女の多大な功績あっての今の世の中だ。
つまりは彼女がISを作らなければ女尊男卑の世の中は有り得なかったのだ。
このような世の中を作った人物の祖国を後進的と称するのはあまりにもおこがましい限りである。
「……あ、貴女、わたくしに喧嘩売ってますの?」
顔を真っ赤にしながら睨みつけてくるセシリア。しかしその言葉は矛盾点を指摘された動揺が見て取れる。
「日本侮辱して喧嘩吹っ掛けたのはそっちが先でしょうに。私はそれに見合ういい値で買ったまで」
それを席に座ったまま冷ややかな目で流す。
「あ、あの仕種、さん……?」
一夏には何故かさん付けで呼ばれる始末。
周囲の女子も険悪な雰囲気におろおろしているが、そんなことは別にどうでもいい。
これほど言われっぱなしというのは周りがよくても私が我慢ならないのだ。
耐え忍ぶというのは日本人の美徳かもしれない。
しかし、言いたいことを飲み込んでしまっては駄目だと私は思う。
自分に正直に。言いたいことははっきりと。
強制に囚われていた自分とは違う。選択権を与えられなかったあの場所とは違う。
ここには、私の求めていた『自由』がある。
日の当たらないジメジメした空間ではない。
ここには、私のしたいように出来る場所があるんだ。
「私、今の時代に珍しい男女平等思想の持ち主ですので男のこと、見下してる人にはどうにも我慢できないんですよね」
くすくす笑いながらも言葉を続ける。
「男は奴隷なんかじゃない。ましてや猿なんかじゃない。彼らはれっきとした人間です」
はっきりと全男の意思を代弁せんが如く侮辱したセシリア対して宣言した。
「決闘ですわ!」
私に指差し、そう宣言する。手袋をしていたら投げつけてくれるんだろうか。
「受けて立ちましょう。それで、時間は何時がよろしいですか?」
「そんなもの聞かれるまでもありませんわ! 今日の放課後、第三アリーナで……」
「何を勝手に決めている馬鹿者。そういうことは教師を通せ」
パァンッ! と小気味よい音が頭蓋骨に響く。
いいのは音だけ。実際は無茶苦茶痛い。うおおおおお……何故私だけ……。
「明らかにお前が言い過ぎだからだ。それで、露崎は織斑を推すのだな?」
「はい。クラス代表は全体の意見を聞ける人間がいいと思いますので。強さなんて追々身につければいい話ですし」
頭を押さえながらそう言ってちらりとセシリアの方を見るとぐぬぬと言い負かされて悔しそうに睨み返してくる。いい気味だ。
「では露崎が勝てば織斑が、オルコットが勝てばそのままオルコットがクラス代表となる。両者、それでいいな」
「ま、待てよ千冬姉! 俺はそんな……」
反論しようとした矢先にガンと机に叩き伏せられる。
「織斑先生だ。それにこれは決定事項だ、お前の意見は聞く耳を持たん」
「……はい、織斑先生」
目の前の光景はまさしく女尊男卑の体現。
女子の無理が通れば男子の道理が引っ込む。
クロすらシロに変えてしまうとはこのことだ。
「待って下さい。わたくしは織斑一夏とも決闘を申し込みますわ!」
「はあ!? なんで俺まで……」
「あら、露崎さんが男性に対してこれほど買っていらっしゃるのに貴方はそれを無碍にするおつもりですの?」
「ぐ……」
セシリアにしては間違ったことを言っていないため一夏は反論できない。
「ここで買わなきゃ男が廃りますよ一夏」
「そうだぞ一夏。男を見せろ」
私の面白の茶化しに何故か箒の援護攻撃。嬉しい誤算である。
「こう二人は言ってるが織斑、どうする?」
「だー! もう分かったよ! その勝負買ってやるよ!」
一夏がそうやけっぱちに声を荒げるのを見ると千冬先生は口元をニヤリと釣り上げる。これは確信犯だな。
「決まったな。露崎とオルコットの勝負は二日後の水曜、織斑とオルコットの勝負は一週間後の月曜。それぞれ放課後の第三アリーナで行う。織斑と露崎、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
手をパンと鳴らして千冬先生が話を締める。
準備するための期間は一夏よりも短いがまあ、経験もあるし後は相手のISのデータだけなんだが相手は代表候補生なんだからどこかに露出はあるだろうしなんとかなるか。
そこに考えが行き着くと、授業に集中し直した。
* * *
あとがき
東湖です。
みんな大好きちょろいさんことセシリア・オルコットの初登場。
本作では仕種に絡んでますが、実は一夏に絡むのをちょっと変えただけっていうのは内緒だぞ(マテ
マジでどうしてこうなったと言わざるを得ない。仕種とセシリアの会話。当時は変なテンションだったからなあ……。テンプレの中にちょいちょいオリジナルを混ぜていかないと。
次で文庫の一話「クラスメイトは全員女!?」が終わります。一夏と箒と仕種の語らいを予定しています。