side:セシリア・オルコット
「くっ、そんな……!」
セシリアは焦っていた。対戦相手はカスタム機とはいえ所詮は第二世代。第三世代のブルー・ティアーズと代表候補生の自分なら造作もなく捻じ伏せられるという絶対の自信を持っていた。
しかし、現実はまるで逆。捻じ伏せるどころか相手に叩き伏せられそうな嘘のような本当。
機体スペックは確実にこちらが上回っている。操縦技術も同年代では抜きん出ているという自負を持っている。
ではどうして。自分は今、相手に押されているのだろうか?
「ええい、ちょこまかと……!」
こちらの照準も相手の三次元躍動旋回により思うように定まらない。
仕種はそんな様子を嘲笑うかのようにBT兵器する。そして、言うまでもなく自分は翻弄されている。翻弄すべき武器に自分が翻弄されては本末転倒もいいところだ。
そんな思考の間にもまた一つ、ハンドガンによってブルーティアーズが撃墜される。
「二つ」
爆散するブルー・ティアーズを尻目に冷たい声で宣言する。
「くっ!」
残るビットはあと二つ。冷静でありたいのに焦りはますます加速する。
あちらにはまともな被弾がない。それは自分が一度も命中させられなかったから。
なのに相手が動き出した途端にこちらの被害だけは増してゆく。まるで眠れる獅子を起こしたように……。
冗談ではない。代表候補生でもない人間など赤子の手を捻るくらいに簡単に撃墜せる。いや、そうでなくてはいけないのだ……!
「いい加減にまともに当たりなさい!」
「そんな無茶苦茶な命令は聞けませんよお嬢様。ほら後一つ」
こちらの叫びも虚しく、またひとつBTが破壊され仕種のカウントは続く。
(たかが島国の庶民の生意気に……! どうして、どうして!)
先ほどの挑発も相まってこちらの苛立ちと焦りが最高潮に達する。
戦闘ではいかに自分が冷静でいられるかが求められる。そのことは重々理解している。しかし理屈では分かっていてもそうは言っていられない。
ならば、どうしてこんなにも追いつめられる。こんなにも歴然とした差が存在する。
「ラスト」
最後のBT兵器が破壊された時にと心に一雫が波紋を立てた。
……ああ、理解した。
これは機体スペックの問題ではない。認めたくないことだが相手の操縦技術が私よりもずっとかけ離れているだけなんだ。
「さて、これで全部ですか」
作業終了、と何事もなかったかのように言ってのける。
ああ、わたくしを邪険に扱ったあの時の彼女の振る舞いは正しい。
わたくしは露崎仕種にとってその辺に転がっている有象無象に過ぎない。
彼女の実力からすれば、IS学園の一年生は等しく「下」なのだろう。
そう考えると何故かさっきまで沸き立っていた頭が不思議と冷めていく。
その現実を思い知らされた戦慄。
それを認められない己の矜持。
板挟みになりながらも相手の瞳を睨み返す。そう、まだこの心が折れる訳にはいかない。
わたくしはイギリスの代表候補生。敗北は許されない。強くあらなければ、オルコットの名を守れない。これくらいの障害を乗り越えられずしてこれからどうIS学園を過ごしていくことになるのだろうか。
「……どうやら立て直したようですね」
仕種はそう感心したように呟く。
「ええ、おかげさまで。頭の方が冷めて参りましたわ」
軽口で牽制しながら心に闘争心を再投下するとすぐさまに状況判断に移る。
残された武器はスターライトmkⅢと近接戦闘用のインターセプター。
そして弾道型のブルー・ティアーズが二機。
そのうえこちらは前半戦で撃ち過ぎたためエネルギーも残り弾薬も少ない。
対する相手はシールド・エネルギーもまだまだ安全域。おまけに武装の把握もままならない。ホントにキツイ。
とりあえず、あのハンドガンは射程距離がスターライトmkⅢよりも短いらしい。となれば、あれは必然的にこちらに近づかなければ当たらない。
ならば近づいてくるのを誘いだして……。
そう作戦を立てると後ろに飛ぶと距離を詰めるために追うように相手も動いた。
(かかりましたわ)
あまりの作戦のハマリ具合に思わずにやりと口角が釣り上がる。
「お生憎様。ブルー・ティアーズは六機あってよ!」
スカート状のアーマーを外しミサイルの砲身を向ける。このタイミングならいくら相手も回避は……!
「そんなことだろうと――――――」
考えを呼んでいたかのように腕に光が集まる。そして、またたく間武装を展開し構える。この間、僅かに零コンマ五秒。
「っ!?」
ここの来ての大誤算。相手は回避ではなく迎撃を選んだのだ。
いや、それ以上にこちらが誘い込んだと思っていたのがまるで逆でそれを読んだ相手にいいように誘い込まれたとでもいうの!?
しまったと思ったところで時間は巻き戻らない、ミサイルは既に発射してしまっている。
それをレールガン≪ストレリチア≫がミサイルを発射した直後、スカートのアーマーに偽造した左のブルー・ティアーズを打ち抜いていた。
「きゃああああっ!」
至近距離でのミサイルの爆発に大きくシールド・エネルギーが大きく削られる。
「――――――思ってましたけどね」
再び引き金は引かれ銃弾が放たれる。右側が打ち砕かれる。
「これで正真正銘、ビットは全滅ですね」
そういうとレールガンを収納しハンドガンを再び構える。
それよりも煙幕によって隠されているその上から右のチェスト部分を撃ち抜くなんてどういう技術をしているのだ。まったく技量の差が一々表れてゲンナリする。
とにかく、もう一度立て直そうと考え直す。
相手は自分と同じ射撃型。射撃型の弱点は懐に飛び込まれると弱いところだ。故に間合いを詰めさせてはならない。近距離型は逆に距離を詰めなければ勝てない。
ならば、ブレードの届くような間合いを詰めてくることはない。
そう結論づけた瞬間。空中で停滞していた花は紫の閃光となり、爆ぜた。
side:露崎仕種
瞬時加速。
内蔵される全てのスラスターを吹かし一気にトップスピードに持っていく強襲戦法。
おまけにあれだけの数のスラスターが一気に稼動しようものならその速度は現行の第三世代ですら余裕で上回る。
紫電の如く相手に向かって突貫する。その速度は形容した通りまさしく雷。
セシリアが間違えていたところはオルテンシアがブルー・ティアーズと同じ中距離射撃型ではなく、高機動射撃型ということだ。
「な――――――!」
セシリアが驚愕の表情を浮かべる。しかし、その一瞬ですら私にとっては十二分な隙だ。
こちらの接近に驚きながらもスターライトmkⅢを構えようとした瞬間に、銃身に向かって思い切り鋭い回し蹴りを入れる。
加速度による威力も相まって蹴りの衝撃で銃身が曲がってしまい使い物にならなくなってしまう。それにたとえライフルが無事だとしてもこれだけ接近された状態でライフルを取りまわすことは無理だ。
「くう……!」
「これで武装は全壊。そろそろ終幕と参りましょうか」
近接武器を呼び出しさせる時間すら与えない。
両手にフタリシズカを構え離脱させる間もなくそのまま零距離射撃。
撃ち出す有らん限りの光弾の嵐。あるいは数の暴力とでもいうのだろうか。
前半戦と先程のミサイルの爆風によってかなり消耗していたエネルギーでは堪え切れる筈もなくは相手がようやく離脱に光を見出した頃には、
『試合終了。勝者、露崎仕種』
勝利のブザーが鳴っていた。
「すごかったぞ仕種!」
試合が終了してピットに入ったいの一番にそう感激の声を上げた。興奮冷めやらぬ状態を見るとやっぱり男の子なんだなあってしみじみ思う。
「ふん、勝てたからよしとしよう」
箒も多少言葉に刺があるが喜んでくれている。持つべきは幼なじみだ。
「お前ならこれくらい当然だろう」
そんななか千冬先生だけは辛辣だった。この人に褒められた試しがない。
「ちょっとくらい褒めてもいいんじゃないですか織斑先生?」
そうそう、山田先生もっと言ってください。私って褒められて伸びるタイプなので。
「真剣勝負でIS戦のレクチャーする馬鹿に誰が褒めるか馬鹿者」
酷い……。馬鹿って二度も言いましたよね? ……まあ、言われるだけのことをしたんだから当然といえば当然か。
「千冬先生、今日のIS戦のVTRって借り出しとか出来ませんか?」
「確かに資料として録画されるが……。週末になるが別に構わないか?」
「ええ。試合前に一度でも見られれば充分です」
口頭で教えてもいいが映像資料があった方が分かり易いだろう。なにせ一夏だし教えるのならば懇切に懇切の二乗ぐらい丁寧でもまだ足りないぐらいだ。
「次は貴方の番ですよ。一夏」
「ああ! 俺も勝つからな!」
私の試合を見たことにより気合いの入りようが違う。だが、
「どうだか。変なミスで負けるんじゃないですか?」
一夏が気合いが空回りした場面をしょっちゅう見かける気がする。こういう手合いは調子づかせてはいけないとガイアが囁きかけてくるような……。
「待てえええっ!! 持ちあげた瞬間に落とすって何様だてめええ!? ワレモノの如く丁重に扱えよ!?」
「男の子なんだから多少ガサツでもいいじゃないですか。千冬先生はどう思いますか?」
「調子に乗った織斑ならありえんこともない話だな」
「ち、千冬姉ェ……」
この二人に容赦の二文字はない。
ちなみに千冬姉と呼んだ一夏にはおなじみの出席簿がお見舞いされた。いい加減学習せい。
「一夏、箒。今日、千冬先生が言ったこと覚えてますか?」
夕暮れの寮へ帰る道、二人に問いかけた。
「なんのことだ?」
「私もどれか見当がつかないんだが」
二人とも私の言いたいことを読み取ってくれない。これでは主体性がなかったか。むう、日本語ってこれだから難しい。
「一夏の機体のことですよ」
「あ、ああ。たしか刀一本がどうとかのくだり?」
一夏の答えに頷く。
「千冬先生は刀一本で世界を極めた。ならばその人が弟に託す機体も刀一本っていうのが道理っていうんじゃないのですか?」
「んなこと言っても俺は千冬姉じゃないしなあ……」
そういいながら一夏は腕を組む。
「謙遜しなくても一夏は剣の素質は充分あるんですよ。なにせ、一夏は箒を圧倒してたんですから」
「む、昔の話だ! 今では私の方が強い!」
箒が真っ赤になりながら怒鳴る。あー確かにそのこと根に持ってたな。それに不甲斐なさがプラスされればむきになるのも無理はない。
「だいたい! 何故おまえたちは剣をとることをやめてしまったんだ! 剣の腕は三日欠かせば七日を失うというのだぞ!?」
やべー。思いっきり地雷踏んづけたかも……。
「あー、それは……」
「一夏、素直にゲロンティしてしまいなさい」
「ゲロンティってなんぞ!?」
「説明がめんどいので省略します。どうせ、一夏のことだから千冬先生にいらん気を使って剣をとる時間がなかったんでしょう? このシスコン」
「な! そんな理由で剣を止めたのか!? 不埒だぞ一夏!!」
これ以上は余計に遠回りになりそうだ。早く話題転換せねば。
「……とにかく、ISのことを教えるより一夏は箒との鍛錬に集中してください」
「え。なんでだよ」
「ISも所詮は人の延長、パワードスーツです。剣みたいな道に通じるものはそのまま腕がダイレクトに反映されますからね」
ISそれを動かすのは所詮はヒト。ヒトの技術をISの知識と融合させることで真にISは強さを発揮する。
「そういやさ、仕種も剣強かったけどなんで銃なんだ? あんなに強かったのに」
「……あの人の影響ですよ。それに剣よりも適性が高いんです。僅かだけですけどね」
一夏の問いに少しだけ戸惑いながらくすりと苦笑いする。それにたとえ剣の方が適性が高かったとしても私は銃を選んでいただろう。……なんていうか私も一夏のこと笑えないな。
「それに私のスタイルだとIS戦に合わないんですよ。後の先、確実に先手を許すのは大きなアドバンテージになりますし。巧くさばけたからといって決定打が与えられる訳ではない、リスクが大きいんですよ」
私は一夏や箒のようにがしがし攻めるタイプではない。相手のほんの僅かな隙を縫うように埋めて攻める。それが露崎仕種が得意とする戦術だ。
そのことは当然、ISにも反映される。セシリアの焦りを生じさせ、隙を作りそこを攻め立てる。それが私の戦術。
「とにかく、私はいつも通り一夏を鍛え直せばいいんだな?」
意気揚々と言う箒。
「ま、そういうことです。あ、試合前の日は軽めにしてくださいね。セシリア対策をしますから」
「まかせておけ」
「こう箒は言ってるので、頑張りなさい一夏」
「お、おう……」
明日からはきつい扱きになるでしょうね。頑張りなさい一夏。これも勝つために必要なことです、ええ。
「ふああ……」
相変わらず駄々っ広い部屋の中に緩みきった欠伸が一つ。
いつものように一夏たちと夕食を取り、その後室内のシャワーを浴びて寝巻に着替え後は寝るだけだ。
今日はなるべく早く寝たい。模擬戦ではそれほど疲れていないが慣れない学校生活の方にかなり労力を持っていかれておりいつも以上に疲れている。
身体を横たえ眠りに入ろうとしたそんな時、控えめで上品なノックする音が聞こえる。
「む、う。寝るつもりだったのに誰ですか?」
ベッドに預けた身体をゆっくり起こしてのろのろと扉を開けるとそこには、
「少し時間よろしいかしら?」
放課後に戦ったセシリア・オルコットがいた。
「よろしくないです。眠いので明日にしてください。失礼します」
扉を閉める。ふう、危なかった。
「ちょっとお待ちなさい! その態度はあんまりですわ!!」
がしっとドアに足をかけ閉じられないようにしている。うわ、なにこの人しつこい……。
「キンキン甲高い声で喚かないでください。こっちはもう寝るところだったのに……」
「わたくしが用があると言ってわざわざここまで足を運んでいるのですのよ!? 客をもてなすのが礼儀ではなくて!?」
えー、相変わらずの上から目線、非常に面倒くさいです。
「だいたい、あの勝負は……」
「喧しいぞ」
その一言と共にずがんと、出席簿ではなく拳骨がブロンドの頭に落ちる。ちなみにずがんというのは形容ではなく実際にそういう音がしたのだ。
殴ったのは言うにあらず千冬先生。一夏の話によるとここの寮長をしているらしい。現れる時にダースベイダーのテーマが流れたのは私だけではないだろう。もしくはターミネーター。
「何を部屋の前で騒いでいる。他の連中に迷惑だ馬鹿者」
頭を押さえながらセシリアは縮こまっている。うわ、ご愁傷様。
「露崎も少しくらい聞いてやれ。それでこいつが黙るんだろう?」
「え、しかし……」
反論しようとしたノータイム、すがんという音が脳天に落ちる。実際受けるとずがん、ではなくずどんというのが正しいニュアンスだった。体験してみないと分からないこともあるものだ、まる。
「しかしも駄菓子もない。これは命令だ」
「い、イエスマム」
教師の命令は絶対らしい。一体、どこの軍隊だ……。
ドアの隙間から覗き見ていた野次馬たちも千冬先生が振り返ると一斉にドアを閉める。
そうして廊下に取り残されるセシリアと私。
「……入りなさい」
「ど、どうしてわたくしが貴方の指図など……」
「また殴られたくなかったらさっさと入ってください」
先程の痛みを思い出したのかセシリアはびくっと肩を震わせた後、渋々頷く。人間、痛みには弱いらしい。
ドアを閉めてパチンと部屋の明かりを点ける。そのまま備え付けの冷蔵庫を開ける。
「なんか飲み物とかいりますか?」
「いいえ。お気付かないなく」
そう言うと上品にベッドに腰掛ける。そうですか、と短く返答すると椅子に腰かける。
そして、そこに訪れる気まずい沈黙。
(何故そこで黙るんですか!? 話すことがあってここまで来たんでしょう!? なのにどうして黙りこくるんですこのパツキンロールは!?)
そんなことを愚痴ってみたところでこちらの思いが通じそうもない。こちらから話しかけるしかないのか。
とはいえ話題が……そういえば、
「先に言うべきことがありました」
そう告げるとセシリアに向き直りまっすぐ見据える。相手もそれに応えるように見つめ返しは何を言われるのかと心待ちにして身構える。
「ごめんなさい」
そう言って頭を下げる。
「へ?」
突然、想像もしないような一言に素っ頓狂な声を上げる。
「以前、貴女のことを侮辱しましたね? 売り言葉に買い言葉でしたが、貴女を傷つけることを言ったのに変わりありません。ですので、その非礼を詫びます」
「あ、頭を上げて下さいまし! わ、わたくしもあの時は大人げなかったといいますか……」
バツの悪そうになりながらもわたわたと慌てる。あ、微妙にかわいいぞこいつ。
「ですからっ! この件はお互いが悪かったということでおあいこということで。これでよろしいかしら?」
そう言って始めて自然な笑顔を見せた。
「そうですね。これで仲直りということで」
握手をする。白く、か細く、小さな手のひらだった。
「それで、何を話に来たんですか?」
「……わたくしの父はいつも母の顔色ばかりを窺うような人間でした」
僅かの沈黙の後、意を決したのかセシリアは自信の過去を独白する。
「名家に婿入りしたことを引け目に感じていつも……。逆に母はISが開発される以前、女権があまり著しくない時代でも自信と誇りを持って生きていた。厳しかったけれどわたくしの憧れでしたわ」
表情に華やかさが生まれるがそれも一瞬、すぐに暗いな表情に変わる。
そう、だったのだ。
「三年前、父と母を亡くしましたの。その時何故か二人一緒にいて鉄道事故に巻き込まれて……」
話の内容のせいか沈痛な表情になる。仕方のない話かもしれない。嫌だったとはいえ一応の父と憧れの母を同時に亡くしたのだ。辛くない筈ないだろう。
私の三年前といえば。あの頃か。
「それからは両親の遺産を守るのに必死でしたわ。さまざまな勉強をしているその一環でISの適性テストを受けましたらA+判定が出ましたの。そして国籍保持のためイギリス政府からISの代表候補生のお誘いを頂いて、即断しましたわ。色々両親の遺産を守るのに都合のいい条件も頂いてますし、世界最強の兵器を自身が操ることが出来るんですから、断る理由がありませんわ」
明かされていくセシリアがそうならざるを得なくなった過去。
顔色ばかりをみて過ごす情けない男を見て育ったんだろう。金に群がる男に嫌気は差したのだろう。
男を見下すのはそういう男を見て育ってきたから。誇りを守るためにそれに降りかかる害虫を払うためにそうせざるを得なかったから。
「その時からわたくしは将来、情けない男とは結婚しないと心に決めておりますの」
「露崎さん。貴女の言う通りならば、男は捨てたものじゃないかもしれない。けれどわたくしはいまいち信用することが出来ない。わたくしが見てきた男の中に少なくともそういう人間は一人もいなかったのだから」
そう一息を置いて、まっすぐな視線を投げかける。
「だから仕種。貴女からみて織斑一夏はどういう男なんですか?」
それがここに来た理由。ならば、真面目に答えてやるというのが当然の筋だろう。
「あいつは馬鹿です。愚直なほどに一直線な男。それでいて他人の気持ちにまるで気付きもしない唐変朴な男。そして心に何と言われようと曲げない一本の柱を持ってる男です」
それを聞き届けると張り詰めていた頬を緩める。
「随分と評価なさるのね。あの方に惚れてますの?」
「あいつに惚れる? 何を馬鹿な。あんな他人の心を読めない朴念仁に惚れるなんて地球が逆回転するくらいにあり得ないです」
「そ、そこまで言い切ってしまいますの……」
当然です。私があいつに惚れるなど無料大数にひとつあり得ない。
「でも、気をつけるなさいセシリア。一夏は貴女の条件を満たした強い意志を持った男ですから。あいつに惚れたら骨が折れますよ」
「そこまで言われると興味が出てきましたわね。注意しておきますわ」
くすくすと意地悪そうにそれでいて上品に笑う。
「ところで。貴女はどうして、そんなに強いんですの?」
「私の答えなんか聞いて、役に立つか分かりませんよ?」
「それでも、聞いておきたいんです。貴女はどうしてそんなに他人に媚びることのない強さを持っているのかそれを知りたいんです」
「私は巧く戦えるだけ。強い訳じゃない。それでもその根底にある強さを言ってしまうなら」
「誰にも負けたくないから」