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No.34189の一覧
[0] 星の在り処(英雄伝説 空の軌跡【TS】)[けびん](2015/07/20 18:27)
[1] 01-00:ブライト家の兄妹(FirstChapter開始)[けびん](2015/04/01 00:03)
[2] 02-01:パーゼル農園の魔獣退治(前編)[けびん](2015/04/01 00:04)
[60] 02-02:パーゼル農園の魔獣退治(後編)[けびん](2015/04/01 00:05)
[61] 03-01:二つの冒険(Ⅰ)[けびん](2015/04/02 00:01)
[62] 03-02:二つの冒険(Ⅱ)[けびん](2015/04/02 00:02)
[63] 03-03:二つの冒険(Ⅲ)[けびん](2015/04/02 00:02)
[64] 03-04:二つの冒険(Ⅳ)[けびん](2015/04/02 00:03)
[65] 03-05:二つの冒険(Ⅴ)[けびん](2015/04/02 00:04)
[66] 04-01:終わらぬクエスト(前編)[けびん](2015/04/03 00:01)
[67] 04-02:終わらぬクエスト(中編)[けびん](2015/04/03 00:02)
[68] 04-03:終わらぬクエスト(後編)[けびん](2015/04/03 00:03)
[69] 05-00:兄妹、旅立つ(ロレント編エピローグ)[けびん](2015/04/03 00:04)
[70] 06-01:消えた飛行船の謎(Ⅰ)[けびん](2015/04/04 00:01)
[71] 06-02:消えた飛行船の謎(Ⅱ)[けびん](2015/04/04 00:02)
[72] 06-03:消えた飛行船の謎(Ⅲ)[けびん](2015/04/04 00:03)
[73] 06-04:消えた飛行船の謎(Ⅳ)[けびん](2015/04/04 00:03)
[74] 06-05:消えた飛行船の謎(Ⅴ)[けびん](2015/04/04 00:05)
[75] 06-06:消えた飛行船の謎(Ⅵ)[けびん](2015/04/04 01:15)
[76] 06-07:消えた飛行船の謎(Ⅶ)[けびん](2015/04/04 00:06)
[77] 06-08:消えた飛行船の謎(Ⅷ)[けびん](2015/04/04 00:07)
[78] 07-01:進撃、ブレイサーズ(前編)[けびん](2015/07/10 20:12)
[79] 07-02:進撃、ブレイサーズ(後編)[けびん](2015/04/05 00:02)
[80] 08-00:祭のあと(ボース編エピローグ)[けびん](2015/04/05 00:03)
[81] 09-01:導かれし者たち(Ⅰ)[けびん](2015/04/06 00:01)
[82] 09-02:導かれし者たち(Ⅱ)[けびん](2015/04/06 00:01)
[83] 09-03:導かれし者たち(Ⅲ)[けびん](2015/04/06 00:02)
[84] 09-04:導かれし者たち(Ⅳ)[けびん](2015/04/06 00:02)
[85] 09-05:導かれし者たち(Ⅴ)[けびん](2015/04/06 00:03)
[86] 09-06:導かれし者たち(Ⅵ)[けびん](2015/04/06 00:04)
[87] 10-01:マーシア孤児院放火事件(前編)[けびん](2015/04/07 00:01)
[88] 10-02:マーシア孤児院放火事件(中編)[けびん](2015/04/07 00:01)
[89] 10-03:マーシア孤児院放火事件(後編)[けびん](2015/04/07 00:02)
[90] 11-01:ジェニス学園の黒い花(Ⅰ)[けびん](2015/04/08 00:01)
[91] 11-02:ジェニス学園の黒い花(Ⅱ)[けびん](2015/04/08 00:01)
[92] 11-03:ジェニス学園の黒い花(Ⅲ)[けびん](2015/04/08 00:02)
[93] 11-04:ジェニス学園の黒い花(Ⅳ)[けびん](2015/04/08 00:03)
[94] 11-05:ジェニス学園の黒い花(Ⅴ)[けびん](2015/04/09 00:01)
[95] 11-06:ジェニス学園の黒い花(Ⅵ)[けびん](2015/04/09 00:01)
[96] 11-07:ジェニス学園の黒い花(Ⅶ)[けびん](2015/04/09 00:02)
[97] 12-01:ヨシュアとクローゼの大冒険(前編)[けびん](2015/04/10 00:01)
[98] 12-02:ヨシュアとクローゼの大冒険(中編)[けびん](2015/04/10 00:01)
[99] 12-03:ヨシュアとクローゼの大冒険(後編)[けびん](2015/04/10 00:02)
[100] 12-04:ヨシュアとクローゼの大冒険(おまけ)[けびん](2015/04/10 00:03)
[101] 13-01:学園祭のマドモアゼル(Ⅰ)[けびん](2015/04/11 00:01)
[102] 13-02:学園祭のマドモアゼル(Ⅱ)[けびん](2015/04/11 00:01)
[103] 13-03:学園祭のマドモアゼル(Ⅲ)[けびん](2015/04/11 00:02)
[104] 13-04:学園祭のマドモアゼル(Ⅳ)[けびん](2015/04/11 00:03)
[105] 13-05:学園祭のマドモアゼル(Ⅴ)[けびん](2015/04/12 00:01)
[106] 13-06:学園祭のマドモアゼル(Ⅵ)[けびん](2015/04/12 00:01)
[107] 13-07:学園祭のマドモアゼル(Ⅶ)[けびん](2015/04/12 00:02)
[108] 13-08:学園祭のマドモアゼル(Ⅷ)[けびん](2015/04/13 00:01)
[109] 13-09:学園祭のマドモアゼル(Ⅸ)[けびん](2015/04/13 00:01)
[110] 13-10:学園祭のマドモアゼル(Ⅹ)[けびん](2015/04/13 00:02)
[111] 13-11:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅠ)[けびん](2015/04/13 00:03)
[112] 13-12:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅡ)[けびん](2015/04/14 00:01)
[113] 13-13:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅢ)[けびん](2015/04/14 00:01)
[114] 13-14:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅣ)[けびん](2015/04/14 00:02)
[115] 13-15:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅤ)[けびん](2015/04/15 00:01)
[116] 13-16:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅥ)[けびん](2015/04/15 00:01)
[117] 13-17:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅦ)[けびん](2015/04/15 00:02)
[118] 13-18:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅧ)[けびん](2015/04/15 00:03)
[119] 13-19:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅨ)[けびん](2015/04/16 00:01)
[120] 13-20:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩ)[けびん](2015/04/16 00:01)
[121] 13-21:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩⅠ)[けびん](2015/04/16 00:02)
[122] 13-22:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩⅡ)[けびん](2015/04/17 00:01)
[123] 13-23:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩⅢ)[けびん](2015/04/17 00:01)
[124] 14-01:ルーアン最終攻防戦(前編)[けびん](2015/04/18 00:01)
[125] 14-02:ルーアン最終攻防戦(中編)[けびん](2015/04/18 00:01)
[126] 14-03:ルーアン最終攻防戦(後編)[けびん](2015/04/19 00:01)
[127] 15-00:海都夢譚(ルーアン編エピローグ)[けびん](2015/04/19 00:01)
[128] 16-01:漆黒の福音(Ⅰ)[けびん](2015/04/20 00:01)
[129] 16-02:漆黒の福音(Ⅱ)[けびん](2015/04/20 00:01)
[130] 16-03:漆黒の福音(Ⅲ)[けびん](2015/04/20 00:02)
[131] 16-04:漆黒の福音(Ⅳ)[けびん](2015/04/21 00:01)
[132] 16-05:漆黒の福音(Ⅴ)[けびん](2015/04/21 00:01)
[133] 16-06:漆黒の福音(Ⅵ)[けびん](2015/04/21 00:02)
[134] 16-07:漆黒の福音(Ⅶ)[けびん](2015/04/22 00:01)
[135] 16-08:漆黒の福音(Ⅷ)[けびん](2015/04/22 00:01)
[136] 16-09:漆黒の福音(Ⅸ)[けびん](2015/04/22 00:02)
[137] 16-10:漆黒の福音(Ⅹ)[けびん](2015/04/23 00:01)
[138] 16-11:漆黒の福音(ⅩⅠ)[けびん](2015/04/23 00:01)
[139] 16-12:漆黒の福音(ⅩⅡ)[けびん](2015/04/24 00:01)
[140] 16-13:漆黒の福音(ⅩⅢ)[けびん](2015/04/24 00:01)
[141] 16-14:漆黒の福音(ⅩⅣ)[けびん](2015/04/25 00:02)
[142] 16-15:漆黒の福音(ⅩⅤ)[けびん](2015/04/25 00:03)
[143] 17-01:ラッセル博士救出作戦(前編)[けびん](2015/04/26 01:10)
[144] 17-02:ラッセル博士救出作戦(中編)[けびん](2015/04/27 03:41)
[145] 17-03:ラッセル博士救出作戦(後編)[けびん](2015/04/28 06:55)
[146] 18-00:要塞始末記(ツァイス編エピローグ)[けびん](2015/04/29 06:22)
[147] 19-01:魁・武闘トーナメント(Ⅰ)[けびん](2015/04/30 00:01)
[148] 19-02:魁・武闘トーナメント(Ⅱ)[けびん](2015/05/01 09:11)
[149] 19-03:魁・武闘トーナメント(Ⅲ)[けびん](2015/05/02 07:35)
[150] 19-04:魁・武闘トーナメント(Ⅳ)[けびん](2015/05/03 05:37)
[151] 19-05:魁・武闘トーナメント(Ⅴ)[けびん](2015/05/04 00:01)
[152] 19-06:魁・武闘トーナメント(Ⅵ)[けびん](2015/05/27 01:26)
[153] 19-07:魁・武闘トーナメント(Ⅶ)[けびん](2015/05/06 02:29)
[154] 19-08:魁・武闘トーナメント(Ⅷ)[けびん](2015/05/07 09:40)
[155] 19-09:魁・武闘トーナメント(Ⅸ)[けびん](2015/05/08 01:11)
[156] 19-10:魁・武闘トーナメント(Ⅹ)[けびん](2015/05/09 06:10)
[157] 19-11:魁・武闘トーナメント(ⅩⅠ)[けびん](2015/05/10 04:47)
[158] 19-12:魁・武闘トーナメント(ⅩⅡ)[けびん](2015/05/26 15:41)
[159] 19-13:魁・武闘トーナメント(ⅩⅢ)[けびん](2015/05/12 00:01)
[160] 19-14:魁・武闘トーナメント(ⅩⅣ)[けびん](2015/05/13 00:01)
[161] 19-15:魁・武闘トーナメント(ⅩⅤ)[けびん](2015/05/15 03:09)
[162] 19-16:魁・武闘トーナメント(ⅩⅥ)[けびん](2015/05/16 02:58)
[163] 19-17:魁・武闘トーナメント(ⅩⅦ)[けびん](2015/05/19 00:04)
[164] 19-18:魁・武闘トーナメント(ⅩⅧ)[けびん](2015/05/18 02:22)
[165] 19-19:魁・武闘トーナメント(ⅩⅨ)[けびん](2015/05/19 00:01)
[166] 19-20:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩ)[けびん](2015/05/20 00:01)
[167] 19-21:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅠ)[けびん](2015/05/26 15:48)
[168] 19-22:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅡ)[けびん](2015/05/22 00:01)
[169] 19-23:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅢ)[けびん](2015/05/23 00:21)
[170] 19-24:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅣ)[けびん](2015/05/24 00:01)
[171] 19-25:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅤ)[けびん](2015/05/25 00:01)
[172] 19-26:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅥ)[けびん](2015/05/26 00:01)
[173] 19-27:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅦ)[けびん](2015/05/27 00:01)
[174] 19-28:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅧ)[けびん](2015/05/28 00:05)
[175] 19-29:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅨ)[けびん](2015/05/29 00:01)
[176] 19-30:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅩ)[けびん](2015/05/30 00:01)
[177] 19-31:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅩⅠ)[けびん](2015/05/31 00:01)
[178] 19-32:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅩⅡ)[けびん](2015/06/01 00:01)
[179] 20-01:女王面談(前編)[けびん](2015/06/02 00:01)
[180] 20-02:女王面談(中編)[けびん](2015/06/03 00:01)
[181] 20-03:女王面談(後編)[けびん](2015/06/04 00:01)
[182] 21―01:攪乱するグランセル(Ⅰ)[けびん](2015/06/05 00:01)
[183] 21―02:攪乱するグランセル(Ⅱ)[けびん](2015/06/06 00:22)
[184] 21―03:攪乱するグランセル(Ⅲ)[けびん](2015/06/07 00:01)
[185] 21―04:攪乱するグランセル(Ⅳ)[けびん](2015/06/08 00:16)
[186] 21―05:攪乱するグランセル(Ⅴ)[けびん](2015/06/23 02:22)
[187] 21―06:攪乱するグランセル(Ⅵ)[けびん](2015/07/03 08:52)
[188] 21―07:攪乱するグランセル(Ⅶ)[けびん](2015/07/04 21:31)
[189] 21―08:攪乱するグランセル(Ⅷ)[けびん](2015/07/11 20:52)
[190] 21―09:攪乱するグランセル(Ⅸ)[けびん](2015/07/18 17:13)
[191] 21―10:攪乱するグランセル(Ⅹ)[けびん](2015/07/25 00:02)
[192] 21―11:攪乱するグランセル(ⅩⅠ)[けびん](2015/08/08 00:01)
[193] 21―12:攪乱するグランセル(ⅩⅡ)[けびん](2015/08/22 00:01)
[194] 21―13:攪乱するグランセル(ⅩⅢ)[けびん](2015/08/22 00:02)
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[34189] 13-13:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅢ)
Name: けびん◆6e0becf3 ID:13917592 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/04/14 00:01
 解体ショーの興奮が未だに醒めならぬ今、外が騒がしくなる。
 突然、扉が開け放たれて、暗室の内部に明るい日の光りが射し込み、眩しさに来客は目を瞬かせる。
「困ります、お客様。今回は外国者限定の特別イベントでして」
「ええい、離さんか、小娘。私を次期国王デュナン・フォン・アウスレーゼと知っての狼藉か?」
 遮ろうとする二人の女子生徒を強引に押し退けて、デュナン公爵がクラブハウスに乱入してきた。
「ふふん、こう見えても私は寿司には煩くてな。次期国王の私に鮨を握らせるという栄誉を授けてやるので感謝するように」
「申し訳ありませぬ。閣下は一度こうと決めたらテコでも動かぬ御方。全てはわたしくの不徳と致す所で」
 相変わらずの押しつけがましい尊大さで公爵は周囲に不快感の渦を巻き散らし、苦労人の執事が必死にフォローを繰り返す。恒例の凸凹コンビの登場である。
 エレボニアと違って鮨文化が浸透していないので、大部分のリベール人は寿司を解さないが、一部の上流階層の人間なら国外で食する機会があっても不思議ではない。
 アナウンスでは外国籍向けのサービスと明記したが、己が意志は総ての規則に先んじると妄信している模様。ついさっき寄付の善行を施したと思いきや、早速トラブルメーカーの本領を発揮する。
「おい、何だ。あのいかれた髪型のおっさんは?」
「リベールのお偉方みたいだけど、ルールも守れないのか、この国の上層部は?」
「なんか次期国王とか僣称していたけど、もし、あんなのが本当に最高権力者になるなら、エレボニアが侵略して真っ当な占領官を配置してやった方が、この小国の為なんじゃないか?」
「なっ? なっ? なっ?」
 非常識な闖入者に周囲の酷評が集中砲火。デュナンマンセー一色の寄付会場との温度差に自分は現界とよく似たパラレルワールドにでも彷徨い込んだのかと公爵は錯覚したが、実は旧校舎の方が彼の脳内妄想を忠実に再現した芝居小屋のまやかしに過ぎず、今の風評こそが混じり気のない真実。
「ちょっと不味いわね」
 単にブルマの上に纏っていただけの八卦服を脱ぎ捨てて、エプロンと三角巾の調理用ユニフォームに着替えたヨシュアは軽く舌打ちする。
 既に寄付金は搾取し終えたので、今更仕込みがばれても完全に後の祭り。このまま知らん顔しても特に支障はないが、貢いでくれた殿方には気分良く最後まで夢を見させてやるのが少女のポリシー。
 「俺が馬鹿公爵を力ずくで追い出してやろうか?」というエステルの有り難い申し出をやんわりと断ると、営業スマイルでデュナンに挨拶する。
「お待ちしていましたわ、公爵閣下。次期国王に直々に訪ねていただけるとは光栄ですわ」
「ふぇっ? ふっ、ふふんっ、そうであろう。そうであろうぞ」
 水が低きに流されるように、先程感じた都合の悪い違和感は記憶から抹消され、ヨシュアの演じる理想のリアクションに縋り付いた。
「本来ならリベール籍の者は対象外なのですが、将来の王様の頼みは断れないわね。けど、他に大勢のお客様もいらっしゃることだし、節度は守ってもらえますよね?」
「当然であろう。無識な一般庶民でなし。このデュナン、社交場での礼儀作法は心得ておるわ」
「常々迷惑をかけて申し訳ありません、ブレイサーのお嬢様。御厚意に篤く感謝致します」
 公爵は頼もしそうに誓約するが、この場に強引に押しかけたこと自体が既に重大なマナー違反であるという矛盾に本人は気づかず、代わりにフィリップが陳謝する。
「おいおい、本当にいいのかよ、ヨシュア? こうやって甘やかして好き放題させると、ますます増長して彼方此方に迷惑を掛けまくるぞ」
 デュナンの姿を見かけるや否やクローゼは厨房内に姿を隠す。筋を通さない公爵の何時もの我が儘と特権者に追従し節を曲げたヨシュアの変節にエステルは遺憾の意を示す。
「うーん、確かにエステルの言う通りなんだけど、今日ぐらいは大目に見てもバチは当たらないじゃない? 実はデュナン公爵は恵まれない子供達の為に百万ミラも寄進させたのよ」
「ひゃ、百万ミラ? この馬鹿…………いや、閣下がか?」
 鼻高々で昂然と胸を反らすデュナンを珍獣でも発見したような驚愕の眼で見つめるが、直ぐに裏事情を把握する。かつて公爵をスペードのキングに譬えたヨシュアの手厚い程の優遇振り。
 恐らくは公爵に気前良くミラを吐き出させる何らか策略をジョーカー役のオリビエを使って講じており、現在はアフターサービスを継続している最中。
 デュナンの寄付動機やヨシュアの遣り口は置いておくにしても、ミラ自体に貴賤はない。これで早くもマーシア孤児院を再建する目処は達成されたので、仕方なく目の前の小さな不正に目を瞑ることにする。
「ふふん、どうやら判ったようだな。おい、お前たち。きちんと話はつけたから、入ってきて構わないぞ」
「お前たち?」
「すいません、失礼致します」
 デュナンが扉の外に声を掛けると、更に複数のコンビが恐縮しながら入場してきた。
「申し訳ありません、ヨシュアさん。地位や特権を笠にきて、ルールを捩じ曲げるのはいけない事だと判ってはいるのですが」
「お嬢様は新鮮な甘エビとイクラが大好物ですからね」
「ほうっ、ヨシュア君はここにいたのか? 彼女の握る寿司を食べられるとは楽しみな事だね」
「ダルモア市長、目が少しイヤらしいですよ」
「だから言ったでしょう、レイナ。私は帝国人だから、きちんと条件は満たしているって」
「後夜祭まで待てなかったのですか? 本当に食い意地が張っていますね、フラッセは」
 顔馴染の市長コンビとお付きの二人に帝国からの留学生のフラッセとレイナの主従。
 市長クラスや貴族子弟の生徒のような上層階層なら寿司に馴染みがあるのも自然だが、公爵と違いきちんとモラルを弁えている彼女たちは、自分らが本当に混じっても良いのか扉の外からデュナンの交渉振りを伺っていた。
「なんか、どんどん部外者が増えてきたけど、大丈夫か、ヨシュア?」
「デュナン公爵を招き入れたのに、今更他は駄目とは言えないわよね」
 元々外国旅行者限定と銘打ったのは他の屋台の客層を奪わない処置に過ぎず、寿司の価値を理解し求めてきたのなら断る理由はない。
 デュナン他一部の特権者の本当のスペシャルゲストを隅っこの席に纏めて押し込める。大口寄付の特種情報をリークして公爵の対応をナイアルに任せると、ヨシュアは今か今かとソワソワしている来客にマイクを持ってアナウンスする。
「ご来場の皆様、長らくお待たせしました。これより寿司の模擬店を開催するので、ごゆっくりとご賞味ください」
 ヨシュアが宣言すると同時に給仕の女子生徒が次々と厨房から姿を現す。丸い寿司桶に盛られた作りたての鮨が全てのテーブルに置かれる。
 桶内には大トロ、中トロ、鯛、エビ、ウニ、イクラ、アナゴ、イカ、コハダ、ねぎとろ巻き、かんぴょう巻き、玉子などが綺麗に盛られている。新鮮で神々しい海の幸の煌きに帝国人はゴクリと生唾を飲み込むが、直ぐに手をつけようとはしない。
 どうやら、お値段を気にしている模様。校内放送では格安と謳われたものの、何しろ世知辛いご時世。特に大トロのような稀少なネタを時価という名目で価格を曖昧に暈している店も多く、何も知らずに腹一杯食べたら数万ミラもふんだくられた、ぼったくりバーさながらの被害に遭うケースも珍しくない。
 そんな帝国人の警戒心を和らげるが如く、ヨシュアは多くの殿方を惑わしてきた一点の曇りのない笑顔で掲げたバーゲンセールの看板に偽りがないのを確約する。
「今回は遠方よりのお客様を労うのが目的の謝恩祭なので、収益については考えておりません。そこで、代金はお客様ご自身によって決めてもらいます」
 訝しむ来客にヨシュアは更に補説する。ようするに精算は食べ終わった後に各自の客が自己申告する方式で、各々が好きな額を支払えば良いという画期的なシステムだ。
 帝国内にも極稀に存在する己の技量に絶対の自信を持つシェフが営む料金自由設定レストランのようなものだが、それを寿司屋で行うのは前代未聞。夢のような接待に観客が大いに沸騰する。
「何をどれだけ食べても、こちらの方から所定の金額を請求することはありませんが、寿司ネタの数には限りがございますので、その点だけはご了承ください」
 パンパンと両掌を叩いて合図すると同時に、肩の荷を下ろした客は我先にと近くにある寿司樽に手を伸ばす。手頃な鮨ネタを掴んで軽く醤油皿につけると、胃の中へと押し込んだ。
「ふごおおおー、脂の乗った中トロの旨味が、口の中一杯に広がっていくぅー」
「これがジパング三大珍味のウニかよ。甘くてコクがあって、本当にサイコぉー」
「新鮮なイカもコリコリして歯ごたえと甘みがあって、まるでイカが海を泳いでいる情景がアリアリと目に浮かぶみたいだせ」
「あああああっー! 大トロの濃厚な脂が身体の隅々まで染み渡って、溶けていくー」
「これいくら食べても、ほとんどロハだろ? 俺太り気味だけど、今日だけはカロリー計算を気にせず、たらふく喰いまくるぜー」
 彼方此方から、阿鼻叫喚の称賛の声が聞こえてきた。三十個を用意された寿司樽の半数近くは既に空になり、ヨシュアは注文があり次第、追加の鮨を握る態勢に入る。
 実に旨そうに寿司をガブ喰いする餓鬼道の地獄絵図に触発され、エステルは一瞬手を伸ばし欠けるも自重。意外と律儀な彼はフライング行為を潔しとせず、美味そうに鯛を頬張る同級生のフラッセ嬢の姿を尻目に後夜祭までの我慢と自分に言い聞かせる。
 煩悩を追いやり気分をリフレッシュさせる為、ブルブルと軽く首を横に振ると改めてヨシュアの寛大さに感心する。
「しかし、まあ、あの守銭奴にしては随分と奮発したものだな。考えてみれば鮨ネタは俺たちが釣ってきて元手が掛かっているわけじゃなし。たまには慈善事業を施す気分になったのかもな」
「くっくっくっ、んな訳ねえだろ、エステル。お前の義姉はそんな菩薩のような殊勝なタマかよ?」
 公爵の寄付自慢に霹靂しインタビューを途中で切り上げてきたナイアルは、そのまま隣に陣取ると素朴な見解を嘲笑い、エステルは首を傾げる。
 ヨシュアの腹黒さに異存はないが、既にフィーフリーを声高らかに宣言済。極端な話、壱ミラの端金でお腹一杯食べられても文句の言いようがない。いかな知恵者といえど、今更小細工のしようがない。
「そりゃ、お前さんなら小銭で躊躇なく食べられるだろうな。だか、ここに集まっている帝国貴族のお偉いさんには、いささか事情が違ってくのさ」
 リベール人でありながらこの場に招待された新聞記者のナイアルもヨシュアの仕込みの一部。『世の中、只より高いモノはなし』の諺通り、ある意味では最初から数千ミラの大金を吹っ掛けるよりも遥かにえげつないシステムだ。
「どいつもこいつも、どうして回りくどい言い回しか好きなんだ? 他人に好意を抱いたら、『好きだ』の一言で十分意味は通るだろうに」
 またぞろ始まったお利口さんにしか通じない韜晦トークにエステルはウンザリしたが、別段ナイアルは意地悪している訳ではない。一から全てを説明するよりも、実地を交えて小出しに解説する方か理解が早いと思っただけ。
「まあ、大人しく見物してろよ。最終的には万札の雨が飛び交うことになると思うぜ。故意か偶然かは知らないが、お誂え向きの人材が顔を出しているしな」
 ヨシュアの方角に歩を進める一人の初老の男性を指差す。羽織を纏い太眉の風格溢れる御仁で男の正体に騒然となる。
「おい、あれって帝国の美食倶楽部(グルメクラプ)総帥のエドガーじゃないか?」
「政財界に多くの会員を持ち、人間国宝と称された陶芸家で稀代の美食家でもあったっけ?」
「何でそんな大物がこんな場所に? って、偉そうにしていても中身は俺らと同類か。けど、折角安く食べられると思ったのに、何か面倒な流れになりそうだな」
 最後に触れてはいけないタブーを囁いた帝国人もいたが。グルメクラブ総帥たらいう大層な肩書を所持するエドガーは周囲の雑音を気にすることなく、ヨシュアの前に仁王立ちする。
「あのー、お客様、何か? まだお寿司の在庫は残されて」
「娘、お前の鮨を握る姿が見たい。鮪尽くしを所望する」
 シンプルにそれだけを言い捨てると握る側のご都合もお構いなし。両腕を長襟の内部に隠したまま、花崗岩の如くその場に立ち尽くす。
 『マグロに捨てる所なし』という有名な格言があるように、鮪は皮、骨、腸、目玉に至るまで、全てを食することが可能な海の王者。
 その黒鮪の最高肉のオオトロなど、よほどの下手糞が握らない限り美味いのは必然。敢えて他の劣化部位を注文することで、少女の力量を見極めようという魂胆だ。
「お客様のご希望とあれば……」
 ここが正念場と悟ったヨシュアは、公爵とは異なった意味で傲岸不遜な目の前の食通の無理難題を受け入れて、公開調理へと移行する。
「おい、どうやらあの解体ショーのチャイナガールが寿司を握っているみたいだぞ?」
「ネタもシャリも人肌の温度をまるで感じなかったし、何手で握ったのか楽しみだな」
「やっぱり五手かな? 俺は三手以内の名人芸だと思うけどな」
 比較的安価で庶民も口にする機会の多い赤身と呼ばれる部位を切り分けたヨシュアは、酢飯の樽の蓋を開いて更にワサビをおろす。
 この至高の鮨がどのように握られたのか興味津々の一堂は、ヨシュアの一挙一動に注目する。
「五手? 三手? 詰め将棋の話じゃねえよな。ナイアル、観客が何を呟いているのか判るか?」
「俺に聞くな。こちとら薄給の貧乏記者だから、取材はしても食べたことはねえよ」
「ふっ、ならばここは世紀の音楽家でエドガー氏に匹敵する美食家でもある僕が解説させてもらおうか」
 行儀悪く口元を醤油で濡らしたオリビエが二人に近づいてきて、頼まれてもいないのに勝手に講釈を垂れる。
 彼らが言う『手』とは、鮨を握るまでに掛かる手数のこと。本手返し、小手返し、親指握りなど手法は様々だが、一般的に少ない手数で握れるほど人肌の体温が付着しなので優秀とされる。
 もちろん、単に手数の大小を競うだけでは何の意味もない。食べやすい均一の米粒数で御飯粒同士を圧縮せず、同時に食事中に型崩れしない適度な柔軟さの維持が成されなければならない。飯炊き三年、握り八年と習得に十年の修行が必要と言われる所以。
 見習いの小僧で七手、ツケ場に立てる一般的な職人でも平均五手かかり、ベテラン職人の血の滲むような修練の成果を経て、四手、三手と減らしていき、寿司ネタと酢飯を組み合わせる製法上、二手がこれ以上減らすことはできない究極の手数とされるが、その領域まで辿り着けた寿司職人は本場ジパングでも数える程しかいない。
「さてと、それでは始めますか」
 右手の指先で軽くネタの裏側にワサビを塗り込んで、同時に左手でシャリを掬う。少女の寿司歴は不明だが、年齢を考慮すればそれほどキャリアがないのは簡単に想像がつく。
 ただ、寿司に限ったことではないが、ヨシュアは『才能は努力を上回る』という世の摂理と教育の悪手本を忠実に体現した存在。見習い職人の下積み期間の長さを知れば凡夫の苦労を憐憫したかもしれず、既存の常識を遥かに超越した離れ業を衆目に披露する。
「「「「「なっ!?」」」」」
 人々は己が目を疑う。
 ヨシュアが片手で酢飯を空中に放り投げると、スパーンという小気味の良い音がして、落下の遠心力を利用し僅か一手で赤身とシャリをドッキングさせる。
「アレはまさか伝説の奥義『小手返し一手』? いやはや、こんな手法で最低手数を更新するとはたまげたものだね」
 基本物怖じしないオリビエでさえも、少女の人並み外れた寿司センスに脱帽する。ヨシュアはお手玉のように次々に酢飯の固まりを宙に投げ、瞬く間に十貫の赤身をエドガーの眼前に並んだ。
「どうぞ」
 周囲のリアクション要因の観衆とは異なり、エドガーは目の前で繰り広げられた神業にさして驚いた素振りも見せず、ヨシュアの催促に無言で頷くと軽く醤油をつけて口の中に運び込む。
 この気難しい陶芸家は納得のいかない作品を容赦なく叩き割ることでも有名。彼にとって過程は何ら重要でなく結果だけが総て。それは芸術でも美食でも何ら変わりはない。
「美味いな、素材の良さを100%近く活かしておる」
 良くあるグルメ番組のような熱く長ったらしいコメントを吐かずに率直な称賛を口に述べる。ヨシュアの寿司はこの食通から最上級の評価を得られ、この瞬間に本当の意味での模擬店の成功が確約された。
「お誉めいただき恐縮です。基本を疎かにした曲芸に走るは些か心苦しかったのですが、この手法がお客様に最も美味しく食べていただく私のベストの握り方なので」
 最も欲していた一言にヨシュアは表情を綻ばせると、照れ臭そうに頭をかく。
 オリビエは奥義と称してくれたが、ヨシュアにとって小手返し一手は単なる苦肉の策でしかない。
 人より低温で繊細な作業をこなせる理想の寿司職人の掌をしているヨシュアではあるが、一般の殿方に握力で大きく劣る彼女が真っ当な遣り方で両手で寿司を握ろうとすると形の凝縮に時間を取られてどうしても体温がネタに移ってしまう。
 そこで閃いたのが慣性の法則を利用した先の小手返し一手。別段誰かに教わったわけでなく、合理性を突き詰めた結果辿り着いた方法論に過ぎない。
「ふっ、真に驚嘆すべきは、一握りで決まった米粒数が必ず掬い取るマイクロセンサーのようなヨシュア君の指先の触感とベクトルを完全に制御した小手先の器用さなのだろうね。流石は僕の未来の花嫁だね、マイブラザー」
 オリビエはしたり顔で解説する。他にも寿司素人にはさっぱりの蘊蓄が長々と語られたが、評価すべきは小手返し云々の小技ではなく、料理には愛情が大切だと常々主張していたヨシュアが相手に美味しく食べて貰おうと労った工夫の跡の方だろうと、エステルはエドガーとは真逆に結果よりも過程の方に重きを置いた。
「馳走になった。久しぶりに本物の鮨を味合わせてもらった」
 一通りのコースを食べきって満足したエドガーは、料金として一万ミラ紙幣を机に置くとクラブハウスを後にする。
 この男は己の嗜好に関しては一切の妥協を許さぬ融通の効かない偏屈者。まだ貧乏だった若い時分、飲食店で基準に満たない料理を提供されて、「俺は蕎麦を注文したのに、出されたのは単なるゴミだった」との暴言を吐いて代金を払わずに食い逃げの現行犯で検挙された犯罪歴は一度や二度ではない。
 そんな頑固一徹の著名人から本物認定されたことで、この場の流れは完全に決した。
 その後も満腹した帝国人が次々に席を立ったが、自由価格設定にも関わらずにナイアルの予言通りに次々と万札かそれに近いミラが投じられていき、エステルは首を捻る。
「不思議だな、あの食通っぽい実はブルマ好きの貫祿あるおっさんならともかく、何で皆律儀に多額のミラを落としていくんだ?」
「ふふっ、エステルさんには難しいでしょね」
 好物のイクラを美味しそうに頬張りながら、今度はメイベル市長が解説役を買ってでる。影のように尽き従っているリラは得意の仏頂面を維持しながら、硬めの赤貝と格闘している。
「金持ち貴族は、一見吝嗇のイメージがありますが、逆に風評や世間体に拘束されている面もあります。特に貴族の場合には芸術品の真贋を見抜く目利きや物品に正当なミラを支払う度量が求められていて、そこから逸脱した者は社交場で笑い物にされるのです」
 料金は自由設定の筈だか、大御所のエドガー氏が独断で相場を定めてしまい、それ以下のミラしか支払わない者は己の矮小さを露見させてしまう奇妙な雰囲気が周囲を覆っている。
 それを助長するのが、精算時に自分の姓名、食べたネタの数、支払い予定額をきちんと紙に書いて自己申告するルールで、これが実に曲者。
 何しろレジの隣には新聞記者のナイアルが陣取っていて、思わせ振りな態度で逐一メモを取っている。うかつな値段を書き込んで、それが後に世間に大々的に吹聴されたら溜まったものではない。
 例の寄付金騒動でデュナン公爵がヨシュアの謀略に面白いように嵌まったのは、そのようなスキャンダルを恐れた一面もあった。上流階級の者ほど勝手に己で自分の実像を縛ってしまい、そこから自由になれないものらしい。
「中にはそういった見栄やプライドに束縛されることがない自由奔放な兵もいますけどね」
 メイベルは苦笑しながら、外国籍の男女の一組に目を向ける。
「いやあー、満足、満足。本当にリベールに遠征してきた甲斐があったなあ」
「わたくし、お腹が一杯でもう動けません。こんなに美味しいお寿司を三十ミラで食べられるなんて、今日は何て素敵な一日なのでしょう」
 オリビエとアルバ教授は互いに背中合わせで床に腰を下ろしながら、妊娠女性と見間違うほど膨れたお腹まわりを撫でている。
 浴びるほどたらふく寿司を喰らいながらも、この二人が申告したミラはクラブハウス名物のジェニスランチ以下である。
 開店前にヨシュアはオリビエの格安バイキングを予見していので、こういう面の皮が厚い貧乏人が何人か混じるのは折り込み済みなのだろう。
「それは置いておいても、きちんと適正な対価を支払うのは人として正しい在り方なのですけどね。近頃は、商泥棒(あきんどろぼう)と呼ばれる発展途上国の貧しい人々の無知蒙昧につけ込んで、詐欺同然の安値で資源を買い叩いて高値で売り捌くというアコギな商法を繰り返す悪徳商人が幅を利かせていますが、実に嘆かわしい風潮です。突き詰めれば商売というものは、人と人との信頼関係で成り立っているので…………」
 メイベル市長の長々とした経済トークが始まったので、エステルはメイドのリラに挨拶して、そっと場を離れてヨシュアの姿を探し求めた。

「まあ、寄付したミラは本来、別荘地の購入費用の一部に充てるつもりだったのですか? 流石は次期国王の閣下は下々の幸福を考えた素晴らしい御方ですね」
「ぬっふっふっ、そうであろう。そうであろうぞ」
 ヨシュアは寿司を握りながら、公爵の晩酌の相手を務める。
 百万ミラも注ぎ込んだというのに、旧校舎の寄付会場を抜け出て以来、誰も彼の偉業を讃えてくれないので、聞き上手に徹してくれるヨシュアの存在に飛びついた。
「にしても、あの帝国の道化者。どの面下げて私の面前をうろついておるつもりだ? オマケに五十万ミラも所持していながら、たった五十ミラで寿司を食べるとは帝国紳士の風上にもおけない小さい男よ」
 我が物顔で床上に大の字で横たわって幸福そうな寝顔で寝息を立てているオリビエを、デュナンは不愉快そうにチラ見する。
 見せ金の五十万ミラは既に返金済み。今のオリビエは公爵に自己紹介したように身一つの文無しなのだが、ヨシュアはその点には触れずに気紛れで接触を図られる前に対抗策を施す。
「まあまあ、公爵さん。彼はつい先程とても辛い体験をされたみたいで、体育座りでこうブツクサと呟やいていましたよ。『僕は負けていない、そう僕は負けていない。僕はデュナン公爵と逢っていないんだ』と。どうやら脳内の記憶を改変して、あなたにコテンパンに打ち負かされた過去を無かった事にしたみたいです」
「なんとまあ、呆れた現実逃避よのう」
「そう蔑まないであげて下さい、公爵様。誰しもあなたのように現実世界で大きな夢を叶えられる訳ではないのです。過酷な現実から目を背けて妄想世界に逃げ込んだとしても、その心の弱さを一体誰が攻められると言えましょうか?」
 「だから、暖かい目でそっとしておいてあげましょう」と、ヨヨヨと涙を流しながら泣き崩れる。
「ふーむ、そう考えれば確かに奴も哀れな男じゃな。次期国王たる私が真面目に取り合うなど少々大人げなかったか。言われた通りに放置してやるとしよう」
 デュナンは大トロ二貫を纏めて噛み砕きながら、憐れみの眼で精神病患者の帝国人を一瞥し、ヨシュアは軽く舌をだす。
 エステルから八方美人と呆れられようとも、関わった殿方全てに喜ばれるように個別にアドリブで対応するのが少女の処世術だ。
 ふと、公爵の側に控えるフィリップと目があう。彼は細い眼に微小な懐疑の光を認めてこちらを睨んでいる。
 まさか黒幕のクイーンオブハートであることまで突き止めた訳ではないだろうが、この場で公爵贔屓の流れを引きずっているのはヨシュア一人。クラブハウスの一連の芝居と何らかの関わりを持っているのではと疑っているみたいだ。
 基本雑魚専のヨシュアとしては真のタイマン特化型とのバトルなど御免被るので、公爵で遊ぶのは止めて彼のお気に入りの方向に強引に話題を変更する。
「公爵閣下がルーアンに避暑地を所望されたのは良く判りますわ。私たちはこの街に来て間もないですが、流石は観光都市だけあって海岸線の展望は格別ですからね」
「ふーむ、お主は本当に見所があるな。次期国王ともなれば豪華絢爛な別荘の一つぐらいあって当然だからな。なのに、ダルモアの奴。先程手付け金無しで話を進めようとしたら露骨に嫌な顔をしおったな。あれだけの豪邸に住んでいて、旧貴族とは思えぬ意外としみったれた男よな」
 少しばかり興醒めした態度でメイベルと市長同士の会話を交わすダルモアを見下した。市長達よりも、その両隣に控えるメイドと秘書から各々の主人に絡んだ単純ならざる空気を醸しだし、眺めていてとても興味深い。
 「そりゃ、頭金無しの契約など、普通の商売人は嫌がるだろう」と内心で思ったが、ここはデュナンの顔を立てる為、ひたすら彼をヨイショ。ルーアン市長の狭量さに同調し、更にはどのあたりに別荘を建てるのか尋ねてみる。
 この時のヨシュアの質問には何らの意図も作為も無い。単に四方山話を滑らかに進行させる潤滑油として利用しただけ。ただ、人類が偶然からパンをふっくらと焼きあげる術を発見したように、思いがけない切っ掛けから事件の手掛かりを得られるケースもままある。デュナンの口から候補地の具体的な場所を聞き出した刹那、軽い動揺で小手返しで握ろうとしたシャリを受け止め損ねて床下に落とした。
「どうした、ヨシュア? お前が単純ミスするなんて珍しいな。こういうのを『弘法も筆の誤り』って言うんだっけか? それとも、またダルモア市長の視姦の視線でも感じたのか?」
 床上の失敗作の酢飯の塊を掬い上げてごみ箱に放り捨てたエステルは冗談に交えて揶揄してみたが、ヨシュアは無言のままだ。
「おい、本当にどうし……」
「ねえ、エステル。もしかすると、敵を発見したのかもしれない」
 そう宣告すると、ヨシュアはまるで親の仇のような目でダルモア市長を睨み付けたが、エステルは義妹の敵意の視線と言葉を『女と敵』という別意味に取り違えていた。


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