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No.34189の一覧
[0] 星の在り処(英雄伝説 空の軌跡【TS】)[けびん](2015/07/20 18:27)
[1] 01-00:ブライト家の兄妹(FirstChapter開始)[けびん](2015/04/01 00:03)
[2] 02-01:パーゼル農園の魔獣退治(前編)[けびん](2015/04/01 00:04)
[60] 02-02:パーゼル農園の魔獣退治(後編)[けびん](2015/04/01 00:05)
[61] 03-01:二つの冒険(Ⅰ)[けびん](2015/04/02 00:01)
[62] 03-02:二つの冒険(Ⅱ)[けびん](2015/04/02 00:02)
[63] 03-03:二つの冒険(Ⅲ)[けびん](2015/04/02 00:02)
[64] 03-04:二つの冒険(Ⅳ)[けびん](2015/04/02 00:03)
[65] 03-05:二つの冒険(Ⅴ)[けびん](2015/04/02 00:04)
[66] 04-01:終わらぬクエスト(前編)[けびん](2015/04/03 00:01)
[67] 04-02:終わらぬクエスト(中編)[けびん](2015/04/03 00:02)
[68] 04-03:終わらぬクエスト(後編)[けびん](2015/04/03 00:03)
[69] 05-00:兄妹、旅立つ(ロレント編エピローグ)[けびん](2015/04/03 00:04)
[70] 06-01:消えた飛行船の謎(Ⅰ)[けびん](2015/04/04 00:01)
[71] 06-02:消えた飛行船の謎(Ⅱ)[けびん](2015/04/04 00:02)
[72] 06-03:消えた飛行船の謎(Ⅲ)[けびん](2015/04/04 00:03)
[73] 06-04:消えた飛行船の謎(Ⅳ)[けびん](2015/04/04 00:03)
[74] 06-05:消えた飛行船の謎(Ⅴ)[けびん](2015/04/04 00:05)
[75] 06-06:消えた飛行船の謎(Ⅵ)[けびん](2015/04/04 01:15)
[76] 06-07:消えた飛行船の謎(Ⅶ)[けびん](2015/04/04 00:06)
[77] 06-08:消えた飛行船の謎(Ⅷ)[けびん](2015/04/04 00:07)
[78] 07-01:進撃、ブレイサーズ(前編)[けびん](2015/07/10 20:12)
[79] 07-02:進撃、ブレイサーズ(後編)[けびん](2015/04/05 00:02)
[80] 08-00:祭のあと(ボース編エピローグ)[けびん](2015/04/05 00:03)
[81] 09-01:導かれし者たち(Ⅰ)[けびん](2015/04/06 00:01)
[82] 09-02:導かれし者たち(Ⅱ)[けびん](2015/04/06 00:01)
[83] 09-03:導かれし者たち(Ⅲ)[けびん](2015/04/06 00:02)
[84] 09-04:導かれし者たち(Ⅳ)[けびん](2015/04/06 00:02)
[85] 09-05:導かれし者たち(Ⅴ)[けびん](2015/04/06 00:03)
[86] 09-06:導かれし者たち(Ⅵ)[けびん](2015/04/06 00:04)
[87] 10-01:マーシア孤児院放火事件(前編)[けびん](2015/04/07 00:01)
[88] 10-02:マーシア孤児院放火事件(中編)[けびん](2015/04/07 00:01)
[89] 10-03:マーシア孤児院放火事件(後編)[けびん](2015/04/07 00:02)
[90] 11-01:ジェニス学園の黒い花(Ⅰ)[けびん](2015/04/08 00:01)
[91] 11-02:ジェニス学園の黒い花(Ⅱ)[けびん](2015/04/08 00:01)
[92] 11-03:ジェニス学園の黒い花(Ⅲ)[けびん](2015/04/08 00:02)
[93] 11-04:ジェニス学園の黒い花(Ⅳ)[けびん](2015/04/08 00:03)
[94] 11-05:ジェニス学園の黒い花(Ⅴ)[けびん](2015/04/09 00:01)
[95] 11-06:ジェニス学園の黒い花(Ⅵ)[けびん](2015/04/09 00:01)
[96] 11-07:ジェニス学園の黒い花(Ⅶ)[けびん](2015/04/09 00:02)
[97] 12-01:ヨシュアとクローゼの大冒険(前編)[けびん](2015/04/10 00:01)
[98] 12-02:ヨシュアとクローゼの大冒険(中編)[けびん](2015/04/10 00:01)
[99] 12-03:ヨシュアとクローゼの大冒険(後編)[けびん](2015/04/10 00:02)
[100] 12-04:ヨシュアとクローゼの大冒険(おまけ)[けびん](2015/04/10 00:03)
[101] 13-01:学園祭のマドモアゼル(Ⅰ)[けびん](2015/04/11 00:01)
[102] 13-02:学園祭のマドモアゼル(Ⅱ)[けびん](2015/04/11 00:01)
[103] 13-03:学園祭のマドモアゼル(Ⅲ)[けびん](2015/04/11 00:02)
[104] 13-04:学園祭のマドモアゼル(Ⅳ)[けびん](2015/04/11 00:03)
[105] 13-05:学園祭のマドモアゼル(Ⅴ)[けびん](2015/04/12 00:01)
[106] 13-06:学園祭のマドモアゼル(Ⅵ)[けびん](2015/04/12 00:01)
[107] 13-07:学園祭のマドモアゼル(Ⅶ)[けびん](2015/04/12 00:02)
[108] 13-08:学園祭のマドモアゼル(Ⅷ)[けびん](2015/04/13 00:01)
[109] 13-09:学園祭のマドモアゼル(Ⅸ)[けびん](2015/04/13 00:01)
[110] 13-10:学園祭のマドモアゼル(Ⅹ)[けびん](2015/04/13 00:02)
[111] 13-11:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅠ)[けびん](2015/04/13 00:03)
[112] 13-12:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅡ)[けびん](2015/04/14 00:01)
[113] 13-13:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅢ)[けびん](2015/04/14 00:01)
[114] 13-14:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅣ)[けびん](2015/04/14 00:02)
[115] 13-15:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅤ)[けびん](2015/04/15 00:01)
[116] 13-16:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅥ)[けびん](2015/04/15 00:01)
[117] 13-17:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅦ)[けびん](2015/04/15 00:02)
[118] 13-18:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅧ)[けびん](2015/04/15 00:03)
[119] 13-19:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅨ)[けびん](2015/04/16 00:01)
[120] 13-20:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩ)[けびん](2015/04/16 00:01)
[121] 13-21:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩⅠ)[けびん](2015/04/16 00:02)
[122] 13-22:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩⅡ)[けびん](2015/04/17 00:01)
[123] 13-23:学園祭のマドモアゼル(ⅩⅩⅢ)[けびん](2015/04/17 00:01)
[124] 14-01:ルーアン最終攻防戦(前編)[けびん](2015/04/18 00:01)
[125] 14-02:ルーアン最終攻防戦(中編)[けびん](2015/04/18 00:01)
[126] 14-03:ルーアン最終攻防戦(後編)[けびん](2015/04/19 00:01)
[127] 15-00:海都夢譚(ルーアン編エピローグ)[けびん](2015/04/19 00:01)
[128] 16-01:漆黒の福音(Ⅰ)[けびん](2015/04/20 00:01)
[129] 16-02:漆黒の福音(Ⅱ)[けびん](2015/04/20 00:01)
[130] 16-03:漆黒の福音(Ⅲ)[けびん](2015/04/20 00:02)
[131] 16-04:漆黒の福音(Ⅳ)[けびん](2015/04/21 00:01)
[132] 16-05:漆黒の福音(Ⅴ)[けびん](2015/04/21 00:01)
[133] 16-06:漆黒の福音(Ⅵ)[けびん](2015/04/21 00:02)
[134] 16-07:漆黒の福音(Ⅶ)[けびん](2015/04/22 00:01)
[135] 16-08:漆黒の福音(Ⅷ)[けびん](2015/04/22 00:01)
[136] 16-09:漆黒の福音(Ⅸ)[けびん](2015/04/22 00:02)
[137] 16-10:漆黒の福音(Ⅹ)[けびん](2015/04/23 00:01)
[138] 16-11:漆黒の福音(ⅩⅠ)[けびん](2015/04/23 00:01)
[139] 16-12:漆黒の福音(ⅩⅡ)[けびん](2015/04/24 00:01)
[140] 16-13:漆黒の福音(ⅩⅢ)[けびん](2015/04/24 00:01)
[141] 16-14:漆黒の福音(ⅩⅣ)[けびん](2015/04/25 00:02)
[142] 16-15:漆黒の福音(ⅩⅤ)[けびん](2015/04/25 00:03)
[143] 17-01:ラッセル博士救出作戦(前編)[けびん](2015/04/26 01:10)
[144] 17-02:ラッセル博士救出作戦(中編)[けびん](2015/04/27 03:41)
[145] 17-03:ラッセル博士救出作戦(後編)[けびん](2015/04/28 06:55)
[146] 18-00:要塞始末記(ツァイス編エピローグ)[けびん](2015/04/29 06:22)
[147] 19-01:魁・武闘トーナメント(Ⅰ)[けびん](2015/04/30 00:01)
[148] 19-02:魁・武闘トーナメント(Ⅱ)[けびん](2015/05/01 09:11)
[149] 19-03:魁・武闘トーナメント(Ⅲ)[けびん](2015/05/02 07:35)
[150] 19-04:魁・武闘トーナメント(Ⅳ)[けびん](2015/05/03 05:37)
[151] 19-05:魁・武闘トーナメント(Ⅴ)[けびん](2015/05/04 00:01)
[152] 19-06:魁・武闘トーナメント(Ⅵ)[けびん](2015/05/27 01:26)
[153] 19-07:魁・武闘トーナメント(Ⅶ)[けびん](2015/05/06 02:29)
[154] 19-08:魁・武闘トーナメント(Ⅷ)[けびん](2015/05/07 09:40)
[155] 19-09:魁・武闘トーナメント(Ⅸ)[けびん](2015/05/08 01:11)
[156] 19-10:魁・武闘トーナメント(Ⅹ)[けびん](2015/05/09 06:10)
[157] 19-11:魁・武闘トーナメント(ⅩⅠ)[けびん](2015/05/10 04:47)
[158] 19-12:魁・武闘トーナメント(ⅩⅡ)[けびん](2015/05/26 15:41)
[159] 19-13:魁・武闘トーナメント(ⅩⅢ)[けびん](2015/05/12 00:01)
[160] 19-14:魁・武闘トーナメント(ⅩⅣ)[けびん](2015/05/13 00:01)
[161] 19-15:魁・武闘トーナメント(ⅩⅤ)[けびん](2015/05/15 03:09)
[162] 19-16:魁・武闘トーナメント(ⅩⅥ)[けびん](2015/05/16 02:58)
[163] 19-17:魁・武闘トーナメント(ⅩⅦ)[けびん](2015/05/19 00:04)
[164] 19-18:魁・武闘トーナメント(ⅩⅧ)[けびん](2015/05/18 02:22)
[165] 19-19:魁・武闘トーナメント(ⅩⅨ)[けびん](2015/05/19 00:01)
[166] 19-20:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩ)[けびん](2015/05/20 00:01)
[167] 19-21:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅠ)[けびん](2015/05/26 15:48)
[168] 19-22:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅡ)[けびん](2015/05/22 00:01)
[169] 19-23:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅢ)[けびん](2015/05/23 00:21)
[170] 19-24:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅣ)[けびん](2015/05/24 00:01)
[171] 19-25:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅤ)[けびん](2015/05/25 00:01)
[172] 19-26:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅥ)[けびん](2015/05/26 00:01)
[173] 19-27:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅦ)[けびん](2015/05/27 00:01)
[174] 19-28:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅧ)[けびん](2015/05/28 00:05)
[175] 19-29:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅨ)[けびん](2015/05/29 00:01)
[176] 19-30:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅩ)[けびん](2015/05/30 00:01)
[177] 19-31:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅩⅠ)[けびん](2015/05/31 00:01)
[178] 19-32:魁・武闘トーナメント(ⅩⅩⅩⅡ)[けびん](2015/06/01 00:01)
[179] 20-01:女王面談(前編)[けびん](2015/06/02 00:01)
[180] 20-02:女王面談(中編)[けびん](2015/06/03 00:01)
[181] 20-03:女王面談(後編)[けびん](2015/06/04 00:01)
[182] 21―01:攪乱するグランセル(Ⅰ)[けびん](2015/06/05 00:01)
[183] 21―02:攪乱するグランセル(Ⅱ)[けびん](2015/06/06 00:22)
[184] 21―03:攪乱するグランセル(Ⅲ)[けびん](2015/06/07 00:01)
[185] 21―04:攪乱するグランセル(Ⅳ)[けびん](2015/06/08 00:16)
[186] 21―05:攪乱するグランセル(Ⅴ)[けびん](2015/06/23 02:22)
[187] 21―06:攪乱するグランセル(Ⅵ)[けびん](2015/07/03 08:52)
[188] 21―07:攪乱するグランセル(Ⅶ)[けびん](2015/07/04 21:31)
[189] 21―08:攪乱するグランセル(Ⅷ)[けびん](2015/07/11 20:52)
[190] 21―09:攪乱するグランセル(Ⅸ)[けびん](2015/07/18 17:13)
[191] 21―10:攪乱するグランセル(Ⅹ)[けびん](2015/07/25 00:02)
[192] 21―11:攪乱するグランセル(ⅩⅠ)[けびん](2015/08/08 00:01)
[193] 21―12:攪乱するグランセル(ⅩⅡ)[けびん](2015/08/22 00:01)
[194] 21―13:攪乱するグランセル(ⅩⅢ)[けびん](2015/08/22 00:02)
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[34189] 10-02:マーシア孤児院放火事件(中編)
Name: けびん◆6e0becf3 ID:13917592 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/04/07 00:01
「うわっ、こりゃ酷えな」
 マーシア孤児院の跡地に到着したエステルは、予想以上の惨事に憤慨する。
 屋敷は完全に焼け崩れ目も当てられない有り様だが、一般人ならいざ知らず遊撃士である二人は目の前の現実から目を背ける訳にはいかないので、早速調査を開始する。
「半焼といった所かしら」
「はあ、どこが半焼なんだよ、ヨシュア? どこからどう見たって全焼しているだろうが」
 激昂するエステルに、微かに焼け残った真っ黒焦げの一本の支柱を指差す。
「この申し訳程度に生き残った柱に、何の意味があるんだよ?」
「ボースで携わった手形と同じくリベールでは馴染みが薄いと思うけど、エレボニア帝国には民間の保険会社が業務を担当する火災保険という制度があってね」
 火災保険に加入した家屋が全て焼け落ちていた場合『全焼』として保険金が満額支払われるが、もし、柱一本でも焼け残っていたら『半焼』ということになり、半額しか貰えない。
「何だよ、それ? 柱が一本ぐらい残ったからって、再建には何の役にも立たねえじゃないか。保険って万が一のサポートが趣旨なのに意味ねえだろ、そんな曖昧な制度じゃ」
「生命、事故、医療、地震と保険の種類も色々あるけど。結局は営利主義で作られた制度だから、法律に無知な者が泣きを見るようになっているわ。今回の火災保険の場合、半焼か全焼かでよく被保険者と保険会社でトラブルになり、満額の保険金を受け取る為に焼け損じた柱を被害者が蹴倒す例もあるみたいだしね」
 手形同様にリベールでは全く普及していない制度の上、月々の保険金は決して安い額ではない。清貧経営のマーシア孤児院が保険に加入しているとは思えないが、遊撃士として上流階級と交われば必ずといっていい程にこの種の保険金詐欺と携わることになるので、後学の為に覚えておいた方が良いとヨシュアに通告される。
「まあ、保険のマメ知識はこのぐらいにして、本格的に調査を始めるわよ」
 そう宣布を発し、今回の火災の原因を見極めようと孤児院の跡地を探索する。
 いくつかの検証結果から結論に近いものを導き出すと、テレサ院長と面談する為にマノリア村に向かった。

        ◇        

「率直にお聞きします。誰か孤児院に怨恨を抱く者に、心当たりはないでしょうか?」
 白の木連亭二階の休憩所にいたテレサは、その単刀直入すぎる質問に困惑する。
 ヨシュアが検分した結果、今回の火災は火の元の不始末や偶然による事故などではなく、孤児院を全焼させる明確な悪意に基づいた放火の可能性が高い。
「有り得ないです。テレサ院長に限っては、人から恨みを買う様な真似は絶対にないです」
 本人が抗弁するよりも先に、クローゼがむきになって否定する。クラムらは外で地元の子供たちと遊んでおり、今、この場にはテレサ院長の他には遊撃士兄妹とクローゼに、彼と同じく慰問に来たルーアン市長と秘書のペアも控えていた。
「有り難う、クローゼ君。でも、私も至らない所がある未熟な人間です。もしかしたら、意図せず人様を不快にさせたことがあると思います。ですが、あんな小さな子供たちを巻き込んでまでの大それた恨みとなると」
 テレサは首を横に振る。自分だけならいざ知らず、未来ある子供たちが殺されかけたことにショックを受けているようで、「あの銀髪の青年が助けてくださらなかったら」と身震いする。『銀髪』という単語にピクリとヨシュアの眉が動いたが、この場では無言を貫いた。
「ヨシュア君と言ったね。先程から放火を前提にしているみたいだか、何か確たる証拠でもあるのかね?」
 ダルモア市長の重厚な声が響き、ヨシュアは掌の花の種のような真っ赤な粒を見せる。
「何かね、これは?」
「『可燃燐』という闇市場(ブラックマーケット)に出回っている危険物で、火をつけると体積の数十倍の規模で爆発的に発火し火の広がりを助長します。効果を実際に観察した方が早いですね」
 店の従業員からコーラの瓶を借り受けると、空の瓶の内部に可燃燐の一粒を放り込んで、同時にマッチでつけた火を中に落とすと急いで蓋をする。
 可燃燐に火が触れた途端、凄まじい炎の渦が瓶の内部を駆け巡り、思わずギルハートは腰を抜かす。火は十数秒ほど瓶の中を暴れ狂い、内部の酸素を根こそぎ喰い尽くすとようやく鎮火して、ビンの内部には煤一つ残されていない。
「ご覧の通りの威力で、十粒もあれば木造の住宅を全焼させ、百粒程用意できればコンクリート造りのビルさえも半焼させます。厄介なのは燃焼後には一切の証拠を残さない機密保持向けの性質で、紛争地帯での諜報部の破壊的な工作活動には必ずといって良いほどこの実が関わっています」
 ヨシュアはハーブ畑でこいつを数粒発見し、恐らくは火に触れる前に風でここまで飛ばされたのだろうと推測する。
 火と関わらなければ全く無害な代物なので、二人の前に調査に来ていた王国軍はハーブの種だとでも思って見逃したが、それはエステルも同様なので早速無理を推して物識博士を引っ張ってきた甲斐があった。
「恐ろしいことです。このような邪物を使ってまで、子供たちを害しようとするなんて」
 テレサは顔を青ざめさせてフラフラと目眩を起こし、慌ててクローゼが彼女の肩を支える。真っ当な世界で慎ましく生きていた婦人にとって暗黒街の争いなど遠い異界の夢物語で、今の話は刺激が強すぎた。
「おい、ヨシュア。いくら何でも脅かしすぎだろう?」
「さっきも説明したけど、犯人は疑いようがない悪念を以て犯行に及んでいて、目的が孤児院そのものでなくテレサ院長個人だとしたら再犯の可能性は高いのよ」
 ヨシュアの容赦のない物言いにエステルは苦言を呈したが、頬被りを決め込んでも遣り過ごせない以上、なあなあで済まさず事件の背後関係を洗い出した上できちんと対策を練った方が良いと訴える。
「彼女の言う通りだ。建物は焼けてもまた再建可能だが、一度奪われた生命は二度と戻らない。誰かは知らないが、これ以上、犯人の凶行を許すわけにはいかない。ルーアンの市長としてギルドに正式にクエストを依頼しよう。事件の解決とそれまでのテレサ院長と子供たちの安全を確約してくれるね?」
「そういうことであれば、ギルドも本腰を挙げて動けます。明日には正遊撃士の何人かがルーアンに戻るので、調査班と護衛班に手分けして当たれますし」
「うむ、良い返事だ」
 ダルモア市長は満足したが、対応したヨシュアの顔色が少し良くないようエステルは見受けた。むろん、悪いといってもあくまで相対的なもので、クローゼや市長も気がついていない。やっぱり華奢な義妹を働かせすぎたのかとエステルは少しばかり悔やんだが、遊撃士として今は無理すべき状況だと己に言い聞かせ割り切ることにした。

 ダルモア市長は精神の失調を回復させたテレサ夫人に、今後の身の振り方を尋ねる。ミラが不足しているのなら、彼の別荘に一時的に逗留してはどうかという腹案を述べた。
 当然、即答可能な簡単な選択ではなく、市長も返事を急かさずに、ギルハート秘書を連れてお暇しようとしたが、その彼女が妙な置き土産をに残した。
「もしかすると、マーシア孤児院を放火した犯人はレイヴンかもしれません。奴らは市内で頻繁に騒動を起こしていますし、黒社会とも色々と繋がりがあるみたいで。いえ、決して先日わたくしが被害に遭ったから、当てつけで申している訳ではないのですよ」

        ◇        

「ヨシュア、秘書さんの推理をどう思う?」
「お話にもならないわね。まあ、ギルハートさんからすれは、彼ら程度でも十分に闇世界の住人と映るのかもね」
 白の木連亭の一階に降りたエステルが先の話題を反芻するが、ヨシュアはシニカルな笑みを浮かべて彼女の疑惑を一刀両断で切り捨てた。
 本当の裏社会の人間とは殺人や自決を躊躇しない以前ヨシュアが捕縛した黒装束の男のような冷酷無比な連中を指す。ヨシュアが見た所、所詮レイヴンはチンピラ同士の喧嘩に明け暮れるのが関の山の単なるアマチュア。そういう意味ではカプア一家と根底を同じくする。
「確かに、あいつらに放火や殺人を犯せる度胸があるようには見えないよな。そういえばテレサ院長は孤児院の再建の目処はたたないと言っていたけど、やっぱり相当のミラが必要なのか?」
 依頼する業者の質や建築レベルをどこまで妥協するかにもよるので、一概に勘定できないが、少なく見積もっても百万ミラは必要だろうとヨシュアは概算する。百万ミラは市民レベルでは大金だが、ちょうどそれだけのミラを持ち合わせている人物をエステルは一人知っていた。
「なあ、ヨシュア」
「駄目よ、エステル。困っている人間を見かける都度、そうやって身銭を切って施しまわるつもりなの? ビジネスとプライベートのミラの峻別をつけられるようにならないと近い将来に必ず破産するわよ」
 エステルが口を開くよりも先に、彼の意図を見抜いたヨシュアは明確な拒絶の意志を示す。エステルは一瞬たじろいだものの直ぐに謝罪する。
「いや、悪い。手前の持金を捧げるならともかく、ヨシュアに御布施を強要するなんて、図々しいにも程があるよな」
 バツが悪そうに赤面する。以前、空賊事件の解決後、多額のミラが身を助けるとヨシュアは予言したが、まさに今日のようなケースを想定していた。
 あの時は正しい選択をしたとエステルは今でも信じているし、高報酬を受け取らなかったのを後悔してないが、未来の選択肢を自ら狭めてしまったのもまた事実。
「ブレイサーに纏わる逸話の一つを聞かせてあげましょうか、エステル。かつて準遊撃士による窃盗が頻発して、見習いの権限が弱められる切っ掛けになったのは知っているわよね?」
 ほとんどの事件は最初から窃盗目的で資格を取得したエセ見習いの仕業だが、一度だけ正規の遊撃士による持ち逃げが発覚したことがある。
「その正遊撃士は悪人でなく、むしろ困っている人間を見過ごせない誰よりも正義感が強い人物だったそうよ。そう、今のエステルのように人助けの為なら有り金全てを差し出すのも厭わなかった」
 それ故に彼は貧困地帯で多くの絶望と向き合う形になり、多額のミラがあれば助かる現実と何もできない無力な自分との板挟みに陥る。悩みに悩んだ末、彼は一千万ミラの貴金属類の持ち逃げを敢行し、正遊撃士が犯罪に手を染めるという前代未聞の悪例を残すことになった。
「その運搬物が実は後ろ暗い一品であることや、彼が寄付した莫大なミラによって多くの生命が救われたことは何の言い訳にもならない。彼は正遊撃士の立場を悪用し、正式な依頼のクエストの運搬物品を横領して、ギルドの一般社会への信用を著しく失墜させてしまった」
 遊撃士協会、依頼人のマフィア、地元警察の三組織から追われることになったその正遊撃士は今も行方知れず。誰に看取られることなくひっそりと野垂れ死んだのか、或いは名と顔を変えてどこかで生き延びているのだとしても、二度と表の世界に浮かび上がってくることはない。弱き者を救おうとした正しい志を、間違った遣り方で叶えてしまった者の悲しい末路だ。
「なあ、ヨシュア。俺は……」
「無理に今すぐ答えを捻り出す必要はないわよ、エステル。何時かあなたが正遊撃士に昇格して、今回のような不幸を何度も目の当たりにし、その上で帰結したのなら、私はあなたの願いを尊重するつもりだから。それまでは、あなたの中でその想いを温めておきなさい」
 実体験を伴わない他人の失敗談を耳にした程度で、焦って結論を導き出そうとする愚を押し止める。シェラザードとの会話にのぼったエステルにとっての審判の日はまだ今ではない。
「ねえ、エステル。ブレイサーって何だと思う?」
 ヨシュアの禅問答じみた問いかけにエステルは戸惑う。
「僅かなミラを貰って、困っている民間人の生活を幇助する存在。本当にそれだけのお助けマンで、決してエイドスのような上位者ではない。だから、自分の力で全てを解決してやろう等と意気込むは只の思い上がりだし、反って市民に対する侮辱よ」
「侮辱なのか?」
「ええっ、民間人を単なる『救われるだけの対象』と見縊るのは同じ目線に立っていない証拠だし、彼らの自発的な意志と生きる力を軽視している訳だからね」
 少なからず英雄願望を抱えていた少年には酷な話かもしれないが、敢えて遊撃士の本質を口にする。
 医者が患者を救うのではなく、患者の自己治癒の手助けをするのと同じように、遊撃士も無辜の民の救世主となるのでなく、市民の生きざまを支援しているに過ぎない。
 その一線を見誤ると自己神格化が始まり、最悪の挫折を経て闇世界へと身を落とす顛末となる。漆黒の牙を創ったあの蛇女の所為で既に顔も名前も覚えていないが、かつてヨシュアが所属していた凄腕の集団はそういった連中の吹き溜まりだ。
「けど、私のミラを当てにしたのは、一応正解よ。ぶっちゃけた話、エステルみたいな貧乏人が全財産を投げ打っても高が知れてるけど、富める者が資産の一部を差し出すだけで多くの貧しい人間が救われるわけだしね」
 故にどうしてもマーシア孤児院の助けになりたかったら、自分のような吝嗇でなく、もっと剛腹な金持ちに援助を求めるよう薦める。
「太っ腹の金持ちって、ダルモア市長みたいな人のことか?」
 先のテレサ院長への気前の良い提案や威風堂々とした佇まいに、エステルは元貴族の市長の名をあげたが、ヨシュアは薄ら寒そうな表情で自身を抱き締めるように胸元を隠した。
「どうした、ヨシュア?」
「いえ、あの市長さんの私を見る目が凄くイヤらしかった。もっとハッキリ言うなら、女として怖かった」
 面談中は、辛うじてエステル以外を欺いたポーカーフェイスを維持していたが、義兄の前でなら躊躇なく弱みを見せられるようで軽く身震いする。
 エステルやナイアルのような変わり種を除けば、ヨシュアの肢体に性的興奮を覚えるのはオスとして自然な反応だが、殿方から視姦慣れしているヨシュアがこうまで嫌悪感を露わにするあたり、ダルモア市長はかなりの好色家なのかもしれない。
「まあ、英雄色を好むという諺もあるし、それだけで市長さんを悪人と断じるつもりはないけどね。スケベというならエステルは勿論、父さんもかなりのものだったし」
 ヨシュアが養女に来た当初は親子三人で仲良く風呂に入っていた時期もあったが、第二次性徴期を迎えて乳房が膨らみ始めた頃からヨシュアは混浴を拒絶するようになる。カシウスは泣きそうな悲しい顔をして、今でも未練たらしくヨシュアに背中を流してもらう機会を伺っているそうだ。
(目茶苦茶、心外な話だな)
 義娘に欲情するロリコン変態親父と一緒だくにされるのは迷惑だし、助平であることに異存はないが、二人の幼馴染みならともかく義妹を性的対象と捕らえたことは一度もない筈だ、多分。
 とはいえ、その見解をストレートに伝えたら、なぜかヨシュアに嬲り殺されそうな予感がプンプンするので黙っていることする。何よりも懸念していたヨシュアの体調不良はなく、単なる女としての自意識過剰(?)だったことに心の奥底から安堵した。

「大変です、ヨシュアさん。エステル君」
 ギルハートのレイヴン疑惑から発展した話柄の数々がようやく一段落つき、白の木連亭の外に出た二人にクローゼが取り乱しながら声を掛ける。
 エステル達とギルハート秘書の会話を扉の外から又聞きしたクラムが、「絶対に許さない」と凄い剣幕で得物の投石器(スリングショット)を抱えマノリア村の外に飛び出したらしい。
「許さないって、まさかクラムの奴、秘書さんの話しを聞いてレイヴンに仕返しにいったのか?」
「もし、本当にそうだとしたら、二重の意味で愚かな行為ね」
 ヨシュアは少しばかり醒めた瞳で、クラムの軽挙をあげつらう。
 様々な物的証拠からレイヴンが放火の犯人である可能性は極めて低く、本当の復讐相手か裏も取らずに他人の発言を鵜呑みにして行動を起こすのは軽率すぎる。また、お子様の実力でチンピラとはいえ二桁を数える大人と喧嘩して勝てる筈はないし、テレサ院長など周りに迷惑をかけるだけの愚行でしかない。
「あと、普段からエステルみたいに強くなる為の努力を惜しんでいないならともかく、継続した裏付けなしでこういう時だけ場当たり的に勝利を期待するのは虫が良すぎよね。そういう意味では二重でなくて、実は三重の……」
「そういう理屈じゃねえんだよ、ヨシュア。男というのは、譲れないものがあれば、勝ち目がなくてもやるしかないんだ。お前、まだ十歳のガキに多くを求めすぎてやしないか?」
 少しイライラしながら、合理的には正しいであろうヨシュアの発言を遮る。完璧超人の数少ない欠点で、恐らくは自分自身を基準に添えるものだから、他者への期待値がどうしても高くなり過ぎてしまう嫌いがある。
 ヨシュアは幼い頃から出来過ぎたお利口さんだが、誰しもが少女のようなハイスペックを生まれつき所持しているわけじゃない。自分が他者に比べていかに特別かを今一度見つめ直した方が良い。
「そういう問答は後回しにしましょう。今はクラム君の身が心配です。レイヴンの人たちもまさか子供相手に怪我させるような大人気ない真似はしないと信じたいですが」
 クローゼが実に建設的な意見で仲立ちしてくれたので、二人は諍いを一時保留しクラムの後を追い掛けることにする。
「よし、行くぞっ。て、ヨシュア、お前どこに乗っかっているんだよ?」
 いきなり背後からエステルの首に手を回して、背中に乗り込んできたヨシュアに当惑する。
「ミストヴルドのクエストで、エステルの全力疾走に付き合うのは懲りたから、オンブして連れてってもらうことにするわ。ルーアン市に入ったら、起こしてね、エステル」
 それだけを伝えると、エステルの背中にぶら下がったまま、船を漕ぎ始める。緊急事態での相変わらずのマイペース振りに呆れるが、疲れた所を無理に何度も借り出したのはエステルのなので、仕方なしにヨシュアを背負ったままクローゼと並走し駆け出していった。

        ◇        

「ねえ、エステル君、重くないですか? もし良かったら、代わりましょうか?」
 義兄に身を預けたまま、彼の背中で気持ち良さそうに船を漕いでいるヨシュアの姿を、クローゼは物欲しそうに見つめる。
 さっきから、少女の豊満な乳房が、エステルの逞しい背中に押し潰されていて、実に羨ま……いや、人一人抱えたままルーアンまで疾走するとは大変だろう。
「気遣い悪いな。けど、大丈夫だぜ。こいつは見た目以上に軽いし、それでへばるようなヤワな鍛え方はしてないからな」
「そうですか、ちぇっ」
「今、お前、舌打ちしなかったか?」
「そ、そんなことありませんよ、エステル君。急ぎましょう」
 クローゼは赤面すると、照れ隠しに速度を上げて、メーヴェ海道を下っていく。
「おっしゃ、ヨシュア一人背負うぐらいなら、丁度いいハンデだ。ルーアンまで競争だ、クローゼ」
 凛々しい見掛けとは裏腹にクローゼは結構なむっつりスケベみたいだが、朴念仁のエステルが彼のヨシュアへの葛藤に気がつける筈もなく、クローゼに負けじとダッシュする両膝に力を込める。
(男の子って皆、助平な生き物みたいね)
 薄目を開いてクローゼの百面相をつぶさに観察していたヨシュアは、男の悲しい生態について色々と研磨し、彼の密かな想いにどう答えていいのか思案する。
 とりあえず、今気になるのはクローゼが脇に抱えている長方体の包み。恐らくは護身用のレイピアと思われる。クローゼと握手した時の掌診断で彼の得物の種類と力量は大凡把握しており、剣狐の達人の域には遠く及ばないもののレイヴンのチンピラを蹴散らす程度には過不足ない熟練者だ。
(今度こそ楽が出来るといいのだけど)
 一応、クラムの身の上を案じながらも、自身が怠けたい一心でエッチな王子様のフェンシングの腕前に期待を寄せることにした。


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