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No.35089の一覧
[0] 薄刃陽炎(ネギま×BLEACH 第八話投稿)[ドレイク](2013/09/08 15:09)
[1] 第一話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[2] 第二話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[3] 第三話[ドレイク](2012/09/18 22:46)
[4] 第四話[ドレイク](2013/09/09 22:17)
[5] 第五話[ドレイク](2012/10/08 20:46)
[6] 第六話[ドレイク](2012/10/28 18:56)
[7] 第七話[ドレイク](2012/11/10 17:33)
[8] 第八話[ドレイク](2013/09/08 15:08)
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[35089] 第七話
Name: ドレイク◆f359215f ID:12861325 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/10 17:33




「――――日陰に舞え、薄刃陽炎!!」




 飛来する霊子の矢、それに対し硝子の刀身を翳すことができたのは、さよにとっては全くの偶然に近かった。硝子の刀身に車線を狂わされた霊子の矢はさよの髪先を僅かに焦げ付かせながら、背後の壁に深々と突き刺さり、そして霧散した。

「なっ……!?」

 その焦げ臭いにおいを鼻腔に感じながら、さよはようやく、千雨の突然の凶行に対する驚愕を漏らした。とはいえそれも言葉の体を成していないものであったが。
 それでもどうにか、薄刃陽炎の刃を正眼に構える。刹那の指導が、まかりなりにも実を結んだが故だった。

「何で……」

 次いで漏れる言葉は、突然このような凶行に及んだ付き合いの薄い同級生に対する困惑だった。
 訳が分からない。憎しみはもとより、好意すら醸成するには長谷川千雨という人物は、さよにとって縁の薄い存在であり、こういう行為に行きつくための時間が決定的に不足しているにもかかわらず、現状はこの有様だ。何を以って、彼女がこの凶行に及んだのか、さよには皆目見当がつかない。


「どうしてってか? ああ、実に個人的な理由だよ、吐き気がするほどにな」


 どうして、と続ける筈の言葉は、千雨の切り捨てる様な言葉により断ち切られ、再び霊子の矢がさよに向かって撃ち放たれる。
 それは間断なき連射であり、そのどれもがさよの体の正中線に狙いを付けていた。言うまでもなくそれは人体の急所が並ぶ線であり、千雨の言葉に虚飾がないことの証左だった。

「……!!」

 瞬間、さよは五体に気を張り巡らせる。賦活され、増幅される身体機能が放たれる矢の射線を認識し、捻りの所作を咥えられた体が、辛うじての回避を成功させた。
 振り乱される己の長髪を視界の端に捉えながら、さよはともかく逃避を選択した。幸運にもここはいくつもの下駄箱が立ちならぶ校舎の玄関であり、身を隠す遮蔽物には事欠かない。
 捻りの所作の勢いが残る体はそのままに、無理矢理、地面を転げ回るかのような無理な跳躍を行い、さよはとにかく手近な下駄箱の裏側に、自身の体を隠すことに成功した。

「はぁ……はぁ……」

 下駄箱の外壁に背中を張り付け、ようやく自身の呼吸が荒ぶっていることに気付くさよ。視界は必然的に、先程までとは180度反転しており、校舎の柱や壁、玄関の硝子戸に穿たれた矢の風穴が視界に入り、思わずそれが自分の体にも刻まれた様を想像してしまい、更に呼吸を荒げさせた。
嫌だ、死にたくない。
 矛盾を孕むその感情。しかしそれが、今この瞬間において、さよの心中を支配していた。
 兎にも角にも、今はまず生き延びる。現状の勝利条件をそう設定し、まずは彼我の戦力を分析する。

「……うわぁ」

 分析する、したのだが、言うまでもなく薄刃陽炎を用いた近接戦闘しかできない自分に対して、千雨は見ればわかる通り、あの矢による射撃戦が主体の筈。
 間合いが思いきり違うのだ。逃げるにせよ立ち向かうにせよ、まずはこの間合いの差をどうにかしなければならない。
 間合いが長いほうが先制攻撃を仕掛けられる。戦術に疎いさよでさえ、それぐらいの理屈はすぐに浮かんでくる。しかも、抜き打ちの様に放った最初の一発、次いで放たれた矢の連射を見る限り、速射性と連射性にも優れているらしい。

「弾切れは、……狙わない方がいいんでしょうねぇ」

 そもそもあれが、主体として扱っている武装なのか、それともサブウェポン的な武装の扱いなのか。
 真っ先に使ってきたことから見れば、恐らく前者なのだろうし、そんな楽観的な推測に基づいて戦い方を組み立てるのは、あからさまに危なすぎる。

「――逃がすかっ!!」

 下駄箱越しに響く千雨の声が、さよの短い推測の時間を断ち切る。直後、うっすらと響く風切音を鼓膜で捉えながら、さよは再び走り出した。
 同時、さよの背後を射抜くように、千雨の矢が下駄箱に風穴を穿つ。金属板がひしゃげる音が鳴り響き、何処の誰のものとも分からぬ上履きが飛散していく。
 恐らくはそんな状況になっているだろうと、さよは鳴り響く音で想像しながら、とにかく駆け続ける。

「逃がしてくださいよぉっ!!」
「無理だ」
「即答っ!?」

 少しばかり緊迫感に欠ける会話を繰り広げながらも、さよは留まることなく走り続ける。
 背後では未だに穿つ音が間断なく響き、足を止めればどうなるか、その想像をさよの脳裏に叩きつけている。
 どうにかして逃げなければ。その思いが体を動かすものの、それを成すためには玄関から外に出るか、校舎内へと続く廊下に進まねばならない。それがさよの勝利条件であり、千雨にとっての敗北条件であるのだろう。

「させねぇよっ!!」
「うわわっ!?」

 その証拠に、やはりその方向に足を進めようとすれば、先回りの様な射撃がさよの直前の空間を穿つ。
 その脅威に、靴底を削りながら無理矢理反転、軋む体に鞭を打ってさよは全力で後退する。


――やっぱり、ここは薄刃陽炎を使うべきなんでしょうか。


 続く窮地、その最中にさよの思考が導き出す一手は、やはり己が手に握る刃の力だった。
 虚と実、本体と偽物を自在に入れ替えられる分身の構築。なるほど、その力は正に闘争においてうってつけではある。ただ一つの問題――射程距離の問題を考慮しなければ、であるが。
 これまでの攻撃からも、千雨の射撃は弾速・速射生・連射性といった、この玄関という室内戦闘において射撃戦に必要不可欠な要素を高いレベルで実現させている。
 そのような状況下において、分身による攪乱、及び逃走を実現させようと思えば、分身と本体の距離をよほど大きく広げなければ意味がない。中途半端な距離では諸共に撃ち抜かれる可能性が高いからだ。理想を言えば、それこそ千雨を起点として正反対の方向に分身と本体を展開させる、ぐらいはしたいところなのだ。

――こんなことなら、もっと薄刃陽炎を使いこなす練習をするべきでしたっ……。

力を得て、刹那の指導を受けてはいるさよだったが、当然の方針として気を使った戦闘の基礎を身につけることに重点を置いていた。
つまりは碌に、薄刃陽炎の昨日の習熟に時間を割いてはいなかった。その不安こそが、さよにその一手を使わせることをためらわせる原因だった。作り出す分身がどこまでいけるか、何処までやれるかの指針がないのだ。

――どうしましょう。

 その不安の束縛が、さよの脳裏から光明を奪う。使えるかもしれない一手が、使えない一手かもしれない、その一手を使えるようにするための手を考えた方がいいのか、それとももっと別の手を考えた方がいいのか、それとも――暴力には暴力で立ち向かうべきなのか。
膨れ上がる思考の連鎖。それを断ち切るには、さよには経験も何もかも、依って立つものがない。


「――――悪いな、これで詰みだ」


 故に、膠着の打開という一点において、さよが後れをとるのは必然だった。
 故に、さよはその言葉と共に、破滅の足音を聞いた。







「畜生、意外にすばしっこいなあいつ……」

 そう呟く合間にも、千雨は矢を撃ち続け、撃ち続け、撃ち続ける。
 それはあたかも、一つの行為に純化した機構へと己を作り変えているようでもあり、

「ああ糞、ほんとすばしっこいな……」

 苛立ちを乗せて紡がれる再びの呟きは、千雨の内心を表わしていた。
 殺害、という人にとっての最大の禁忌。それを犯そうとしている自分と止められない自分が、何よりも汚らわしいものだと思えて仕方がない。
 それでも、時計の針は戻せない。引き絞った矢を放った瞬間から、千雨に後戻りする道は無くなっている。
 発作的な覚悟、とも言える矛盾した感情はリセットなど効かず、さながらブレーキと行く先の線路を無くした暴走列車のようだった。




「――――早く終わりたいんだよ、私は」




 最早、その終わり方など頓着する余裕など無い。破滅であれ何であれ、とにかく何がしかの終わりを得たい、それが後戻りの効かない選択をしてしまった千雨が唯一望めることだった。
 希望というには、あまりにも残るものがないそれは、自殺を望むことと同義だった。
 故にこそ、彼女を突き動かす心情に恐れや躊躇いなどある筈もなく、逃げ惑う者と追い詰める者という構図で膠着している現状を突き崩す一手を、千雨は何の躊躇いもなく取った。
 上半身は弓を引き絞り、矢を放つという動作を間断なく続けながら、下半身が追加の動きをとった。
 それは跳躍、目指すは視界を遮り立ち並ぶ下駄箱の上。そこと天井の間には、千雨が直立できるほどの余裕を有していた。
 結果として得たのは、先ほどよりも大幅に高さを得た射点の確保。逃げを打つさよが目指す校舎と外を仕切る硝子戸も、校舎の中へと繋がる廊下の入り口も軽々と見渡し俯瞰できる、そういう場所を、千雨は確保した。
 逃げを打つなら打てばいい、その背中は今の千雨にとっては容易く撃てる。仮にさよが千雨に対し突撃を仕掛けたとて、無謀な突撃か、或いは無様な跳躍が必要となる。


「悪いな、これで詰みだ」


 だからこその勝利宣言。勝って利を得ることなど無い、空虚なその宣言が玄関全てを睥睨する千雨の口から放たれた。







 その宣言は、一言一句欠けることなくさよの聴覚に響き渡っていた。
 逃走経路は千雨の射線によって塞がれ、自分に彼女の射撃を斬り払う技量など存在しないことも痛感している。
 客観的に見ても主観的に見ても、さよは詰んでいる。
 そして、彼女は自分に対し、手心など加えないことも。
 それは彼女の射撃に乗せられた感情が、言葉以上に雄弁に物語っている。
 歯の根が合わず、ガタガタと無様な震えを起こす。足元が喪失したかのような感覚に襲われ、闘志するような寒気が体全体を包む。

「う……ぁ……」

 喉から絞り出すのは、言葉にならぬ呻き声だけ。それは間違いなく、死への恐怖だった。
 死にたくない、せっかく“生き返った”のだから、もっと生きていたい。やりたいことはそれこそ山の様にあり、確かな実感を得ているこの体は、その山に手が届くのだと思わせてくれるのだから。

「何で」

 だから、その恐怖は当然の帰結として、一つの所に辿り着く。

「何で……あなたに……」

 迫る死を前にしての、生命としての必然。死への恐怖に抗えるのはいつも決まって一つなのだから。




「何であなたに――――殺されなきゃなんないんですかぁっ!!」




 そう吠えたてた瞬間、さよの体と思考を、死からの逃避ではなく死への抵抗が支配した。
 その激情が他者に対して刃を振るう罪悪感を消し去り、瞬間、さよは“逃走”ではなく“戦闘”を行う決意を持った。
 そして、身を隠していた下駄箱の影から進み出て、乱立するその群れの合間に自身を晒した。

「そうかよ、だったらどうするんだ?」

 今の今まで身を隠していた己の体が、千雨の射線に割り込んでいる。殺意の乗った視線がさよの体を捉え、その手にある弓が引き絞られる。
 霊子で形作られた鏃が瞬く間に顕現し、間をおかずにそれが放たれた。一直線に、さよの体のど真ん中へと。


「決まってます。――――戦いますっ!!」


 疾走する矢と共に放たれる問いかけに、力を込めた決意の声を以って応じる。そして、低く、地を這うように踏み込んだ。矢の下をくぐる様な、そういう踏み込みだ。
 その勢いにふわりと舞うさよの髪の合間を、矢が一直線に突き抜けた。だが、低く踏み込んださよの視線の先では、既に第二射の体勢を整える千雨の姿がある。
 引き絞られた弓。低く踏み込んだ体制では更に下に避けることなどできないし、左右には下駄箱の壁が回避の隙間を無くしている。

――薄刃陽炎っ!!

 だからこそ、さよはここにきてついに、自身の刃の力を使う。
 硝子の刃が主の意を受けきらめきを見せ、その結実を、




「――――なっ!? 後ろっ?」




視線の先の、千雨のその背後に結び上げる。瞬間、重なる二つの感覚がさよの五感に現れる。それは分身が捉える感覚であり、分身を操作する感覚だ。
そして、二つの感覚、それが持つ虚と実を、入れ替える。本体が分身に、分身が本体に、入れ替わるそれは千雨を起点にした瞬間移動であり、動揺しながらも引き絞った弦から解き放たれた矢は、駆け抜けるさよの分身を貫く。

「そっちが本体かっ!!」

 それを捉えながらの旋回、その回転の動きの中で千雨は背後に現れた二人目のさよに対し狙いを定める。
 それを視界の中に収めながら、さよは疾走を止めない。駆けて、駆けて、弓を構える千雨を己が刃の射程に収めるべく、再び矢が発射されるその時まで駆け抜け続ける。千雨の背後で駆ける、先程まで己であった分身と共に。
 三度、矢が放たれる。それを前にして、さよは再び己の虚と実を入れ替える。
 結果として、矢は分身を穿つに留まり、

「なっ、こっちも!?」

 驚愕する千雨の“背中”を見ながら、さよは下駄箱の上へと飛びあがり、硝子の刃を振りかぶる。確かな戦意を受けて煌めく刃は、一直線に千雨の無防備な背中に振り下ろされる。
 それを、千雨は矢を放つと同時に背後に迫る脅威を振り払うように、力任せに弓を振り回すことで対応する。振り下ろされる剣閃と弓が描く大振りな弧が噛み合い、火花を散らす。

「……なるほど、それがあんたの斬魄刀の始解の能力ってわけか」

 噛み合う刃と弓、それが散らす火花の先で、千雨の殺意に塗れた笑みが顔をのぞかせる。
 それは、確信を深めた殺意であった。やはり、という思いのままにさよの体を床へと押し落そうと力を込める。

「斬魄刀……?」

 そうはさせまいと、頼りない足場の上で押し込まれまいと力を振り絞るさよは、至近距離で千雨が漏らした言葉に中に引っかかりを覚えた。
 その単語こそ、確信を深めたかのような殺意の焦点であると、さよは感じ取った。理由なき明確な殺意、それはこの正体不明な力にこそ原因ではないのかと。
 押し固めた戦う意思はその理解と共に僅かに削れ、未だ以って欠片も理解していないこの力に対する疑問が顔をのぞかせた。

「“コレ”って何ですか……!!」
「私が、あんたを殺すに足る理由だ。あんたがその様で居る限り、私に安堵は訪れない。だから殺そうと思ったんだよ」
「それほどまでに、この力が危険だっていうんですか?」
「違うな……、不快ってだけだよ」

 不快、そう漏らしたその言葉は、力そのものに焦点が当たっていなかった。――――まるで、そう、その背後を見据えているかのような、そんな響きがあった。

「あぁ、でも……」

 一転して、その呟きには疲れ切った老人の様な響きがあった。




「――――なんで私、さっきの一撃を防御しちまったんだろうなぁ」




 あふれる特大の自己嫌悪と諦観が、間近で聞いていたさよの背筋に怖気を走らせた。
 それが持つ意味は、こうして立ち向かう彼女には未来への展望が何一つとしてないのだと、さよは直感で理解した。
 生を希う死者と、死を希う生者。この戦いは正にそういう構図なのだと理解して、さよに戦意とも疑問とも違う、別の感情が溢れ出た。


「――私、あなたが嫌いです」


 それは嫌悪。長い孤独の果てにようやく得た、生というモノに欠片も喜びを得ていない千雨のその様は、温和なさよをして、嫌悪という感情を抱かせるに十分だった。

「ハッ、そうかよ」
「ええ、そうです」

 瞬間、拮抗していた力は、同時に弾け飛び、両者は互いに狭い足場の上から飛び降りた。
 遠く離れた間合い。同時に、玄関へと近づく複数の足音を、二人は聞きとっていた。あれほど激しく戦闘を行っていたのだ、放課後とはいえ、耳目を集めるには十分であったと言うことだろう。

「何だ、時間切れか」

 逃走は、千雨の方が一歩速かった、手近な位置にあったガラス窓を矢で撃ち抜き、飛び散るガラスの煌めきの中を突っ切って、校舎の外へと逃走を果たす。




「――――じゃあな、“死神”。また殺しに行くから覚悟しておけ」




 溢れ出る殺意と共に投げかけられるその言葉は、先の会話の中に垣間見えた複雑怪奇な感情の揺らぎを知ってしまったさよの脳裏には、単純に殺意として捉えることはできなかった。
 故に、さよもまた、千雨に対して恐怖とも嫌悪とも付かない複雑な感情を抱きながら、その場からの逃走を果たす。
 そうして、一方的な交戦から始まった短い戦いは、千雨の一方的な逃走によって一旦の幕を閉じた。






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