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No.35089の一覧
[0] 薄刃陽炎(ネギま×BLEACH 第八話投稿)[ドレイク](2013/09/08 15:09)
[1] 第一話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[2] 第二話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[3] 第三話[ドレイク](2012/09/18 22:46)
[4] 第四話[ドレイク](2013/09/09 22:17)
[5] 第五話[ドレイク](2012/10/08 20:46)
[6] 第六話[ドレイク](2012/10/28 18:56)
[7] 第七話[ドレイク](2012/11/10 17:33)
[8] 第八話[ドレイク](2013/09/08 15:08)
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[35089] 第四話
Name: ドレイク◆f359215f ID:12861325 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/09 22:17

 翌朝。おもむろに真名が口を開いた。

「――――物凄いクマだぞ、刹那」

 誰だってそうなる、と言いかけるのを無理矢理飲み込む。確かに真名の言う通り、今の刹那はものすごいクマができているのだろう。だってものすごく眠いし。気を抜けば女としてやっちゃいけないレベルの大きな欠伸が出てしまいそうだ。

「まぁ……何だ……」
「同衾したから緊張した、か?」

 その言葉を聞いた途端、刹那は愛用の野太刀である<夕凪>をベッドの下から即座に取り出し、一瞬で抜き放った。まだ体が未成熟な女子中学生である刹那だが、その動作は“気”を使わずとも滑らかなものだった。
 選択した軌道は余分な所作など無い横薙ぎ。居合抜きの形で振るわれた刃は、狙い過たず真名の顔面へと飛来する。

「何だ図星か?」
「そんなわけないだろうがっ!!」

 それを同様に一瞬で取り出した愛用のデザートイーグルの銃身で防ぐ真名。近接戦闘時の防具としても使えるように、真名が色々と改造を施した銃身は、刹那の放った斬撃を小さな火花が出る程度の被害に抑え込む。

「……ちっ」
「おい、峰を返せ峰を」
「返したらお前を斬れないだろうが」

 そして真名の言う通り、刹那が放った斬撃は“気”こそ纏っていないものの、防がなければ確実グロ直行の行為である。日常会話の中でのツッコミにしては確実に行き過ぎの行為であるが、刹那にしても真名にしてもそれほど深刻に受け止めていないあたり、実はこの二人かなり常識外れなんじゃないかなぁ、と見る者に思わせてしまう光景である。

「全く、私が防ぎきれなかったらどうするつもりなんだ? 御嬢様と剣ばかりにかまけていないで少しは常識というものをだなぁ……」
「そんななりで中学生だとぬかすお前には言われたくはない」

 刹那の言うとおり真名の身長は184cm、それで14歳なのだから発育とかそういう言葉に真っ向から喧嘩を売っている。
 無論真名のスタイルが悪い、と言うわけではない。その背の高さと胸とかそういった部分の発育の良さも相まって、年に見合わぬ色香を持つスタイルなのだが、当人にしてみればそれはコンプレックスの元でしかなく、

「よし、宣戦布告と見なす」

 その怜悧な美貌に氷の様な怒りの色が宿り、引き金にかかっていた指に、“つい力がかかり過ぎてしまった”のは不可抗力であった、少なくとも真名当人にしてみれば。
 ここが室内だとかそう言うのぶっちぎって放たれる弾丸が、轟音を響かせる。

「先に喧嘩を売ったのは貴様だろうがっ!!」
「フン、やっぱりあの子との同衾で緊張して眠れなかったのか? 何だ、随分とまぁあの子にご執心じゃないか」
「ああ、少なくともお前より万倍素直でいい性格だからなっ!!」
「ぬかせ、激昂してすぐに真剣持ち出すお前よりいい性格、の間違いだろう」
「実弾ぶっ放すお前が言うなっ」

 そしてその至近距離で撃ち出される銃弾をいとも簡単に弾き返す刹那。重ねて言うがここは室内である、だと言うのに野太刀が振り回され銃弾が撃ち出され続けているのは、いろんな意味で見るに堪えない光景である。
 おまけにそんなことをやらかしているのに、室内の被害を壁だけに留めているのだ。斬撃と銃撃の軌道を精緻に制御しているおかげか、調度品やら各々の私物やらには一切の被害は無い。ついでに言えば壁のほうも真名が入寮する際に「普通の壁では心もとないから防弾加工を頼む。勿論窓も防弾ガラスで」とのたまったせいで、ここまでやらかしておきながら被害は実質壁紙だけという有様である。




「ふぁ……何なんですかこれは~!?」




 訂正しよう。どうやら新参の同居人の精神衛生に多大な被害をもたらしたようである。




「もうっ、こんなことしちゃ駄目ですよ?」
「「……わ、わかりました」」

 壁だけが器用にボロボロになった部屋の中で仁王立ちするさよが、正座した刹那と真名に対して欠片も威圧感のない説教を繰り広げていた。とはいえそれが無視できるか、と言われると、刹那にしても真名にしても「部屋で刃物やら銃やら使って暴れるな」という至極真っ当な正論を振りかざすさよに対して、流石に言い逃れはできないらしい。

「ほんとに……目を覚ました時は目を疑いました」

 幽霊とはいえ、さよ当人は実に常識人である。何せ文字通りの幽霊生徒でありながら、数十年間ずっと授業を真面目に受け続けていたほどだ。
 だから、今も彼女は珍しく心の底から怒っていた。

「一歩間違えれば大怪我ですよ、もう……」
「「……す、すみません」」

 その怒りが、被害が自分にも及んでいたかもしれないからではなく、純粋に刹那と真名の身を慮ってのものであるから、二人にしてみればただただ頭を下げるほかなかった。人間余程のことがなければ、こういう純粋さには勝てないものだ。

「それで? どうしてお二人は喧嘩してたんですか?」
「えっ!?」
「……さて、なんだろうなぁ、あはは」

 そして喧嘩の説教であるならばその原因を尋ねるのは当然だ。だが、あなたと一緒にベッドに入ったせいで緊張して眠れなかったのをからかわれました、などと馬鹿正直に言える筈もなく、二人は殊更に視線を泳がせて言葉を濁す。


「はぁ……こんなことならもう少し早く起きてればよかったですねぇ。――――あれ、そう言えば何で私眠ってたんでしょうか?」


 溜息から一転、首を傾げてそんなわけのわからないことを口にするさよ。

「はい?」
「だって私幽霊ですから、今までずっと眠ったことなんてなかったんですよ」
「ちょっと待ってください、だって昨日は――――!?」

 刹那が思い返すのは、初戦闘とその後の話し合いで疲れたのか、眠たげに欠伸を漏らしたさよだ。しかも夜遅くにいきなり同居が決まったことだから、さよの寝床を確保するのを忘れてしまったのだ。
 仕方なく刹那のベッドで一緒に寝る、ということになったのが昨夜の顛末なのだが。

「……よくよく考えれば変な話だな。幽霊って寝るのか?」

 刹那と同じく、真名も疑問の表情を浮かべる。

「昨夜の戦闘の消耗とか、未知の力を手に入れた影響とかいろいろ考えられるが……」

 ただ麻帆良の敷地内を彷徨うだけの日々から一転したのだから、刹那の推論には一定の説得力があった。

「まぁなんにせよ、幽霊らしくないな」
「幽霊らしくありませんね」
「……どうやれば幽霊らしくなるんでしょうか?」

 やはりこの少女は呆れるほどに幽霊らしくないなと思いつつ、そんなことを生きてる人間に聞かないでくれと願う二人であった。







 その日の夜、さよは再び刹那の練習場所へとやってきていた。理由はこれまでのように、刹那の練習をただ眺めるだけ、というわけではない。
 未知の力、つまり異端というものは往々にして厄介事を呼び寄せやすい。魔法という、身も蓋もない言い方をすればオカルトに関わる魔法使いにとって、それは不文律として刻みこまれている。
 となれば当然、さよがこれから先平穏で居られる保証など無い。今は麻帆良内部においてもごく一部しか知らない存在ではあるが、ひとたびその情報が外部に漏れれば、この麻帆良の地にある貴重な蔵書やマジックアイテムと同列の扱いを受けるかもしれないのだ。


「――――というわけで、学園長からの指示で神鳴流を教えることになりました」


 薄刃陽炎が刀である以上、一番無理なく教えられそうなのは神鳴流であった。そんなわけで刹那がさよに色々と戦闘方法を教授することになったわけだ。
 勿論刹那としては、初めて受け持つ弟子の様なものだから相応の気恥ずかしさもあるが、後輩ができたささやかな優越感からくる嬉しさもある。

「はいっ、頑張りますっ!!」
「フフッ、そんなに肩肘張らなくていいですよ」
「え~、だって私も刹那さんみたいにカッコよくなれるかもしれないんですよ? あっ!! だったら師匠、とか呼んだ方がいいでしょうか?」
「それは勘弁してください」
「あはは、わかりました刹那さん」

 師匠とは呼ばないことで落ち着いたことに安堵した刹那は、まず夕凪を鞘から抜いて見せる。
 その刃を食い入るように見つめるさよに苦笑しながら、刹那はまず、神鳴流の成り立ちから語っていくことにした。

「さて、私がならっている京都神鳴流は、文字通り京の都に跳梁跋扈する魑魅魍魎を相手取るために生まれた剣術です。――――さてさよさん、人間が妖怪を相手取る際に最も重要なことは何だと思いますか?」
「え? う~ん……魔法とか、そういう力を使うことでしょうか?」
「確かにそうですね、それも一理あります」

 妖怪とは異端である。尋常の生命とは違う成り立ちで発生し、人とは隔絶した規格の性能を誇り、人には扱えぬ異能を行使する。人とは違うもの、それが妖怪であると言っていい。

「ですが規格外の体躯に異能の力の増幅を加えた場合と、脆弱な人間の体に増幅を加えた場合とでは、性能だけを見れば前者のほうが有利なのはわかりますね?」
「成程~」
「重要なのは、攻撃よりも防御。如何にして人外の攻撃から生還するかが重要になってくるわけです。神鳴流の場合、敵の攻撃を受け流す技法と、“気”による身体能力の強化、それによる防御力の向上を真っ先に習います。なのでまず、今日はそれを教えたいと思います」
「わかりましたっ」

 そんなさよの可愛らしい決意の言葉を聞きながら、刹那は自分の体に気を纏わせる。放出される生体エネルギーが、飛散することなく刹那の体を瞬時に覆う。今回はさよに“気を纏う”ということがどういうことかを教えるために、僅かに制御を甘くする。その結果、小さく散らばる気の粒子が、ほのかな輝きとなっていく。

「うわぁ……これが“気”ですか?」
「ええ、まずはこうして気を扱うことが神鳴流では重要なんです。……確かに剣技を磨くことも重要ですが、単純で圧倒的な力の前には文字通り力不足になるんですよね」

 磨き抜かれた業だけを用い、人外の攻撃を防ぎきる。気の遠くなる様な鍛錬の果てにできるかもしれない、その領域に辿りつけた者もいるだろう。だがしかし、神鳴流は一子相伝の暗殺剣ではない、無辜の民衆の生活を脅かす人外に対抗するために絶対不可欠な“戦術”なのだ。
 必要にかられて練磨された戦術理論であるが故に、個人の資質、天与の才に頼った理論の構築をしてはならない。気という資質を必要とする部分があるために、尚更単純化して、間口を広げる必要があったのだ。
 だからまずは気による防御力の向上、これが絶対に必要になってくる。攻撃は二の次。まずは人外と対峙して生き延びること。これが神鳴流の骨子だ。

「それじゃあさよさんもやってみましょうか」
「え……えぇっ!?」
「大丈夫ですよ。昨夜の戦いぶりを見る限り、さよさんは気を扱うことはできていました。必要なのは“無意識の自覚”です。歩くことは誰にだって出来ますよね? そんな感じで変に意識せず、まずできるんだと言うことを認識してください」
「わ、わかりました」

 そう言われるなり、さよは小さく己が刃の名を呼んだ。手の中に現れる刃の感触を確かめながら、言われたとおりに気を出してみようと試みる。
 瞼を閉じ、出てこい出てこいと頭の中で唱えながら気の出所を意識しようとするが、中々しっくりと来る感触が得られずに、体だけが強張っていく。

「………………ぷはぁっ!!」

 思わず息まで止めていたらしい。口を金魚のようにぱくぱくとさせ、酸素を必死になって肺に送り込んでいく。
 思わず胸元に手をやれば、そこにはドクンドクンと鳴り響く心臓の鼓動が伝わってくる。
 それは命の脈動だった。死んでいるのか生きているのか、幽霊なのかそれとも別のナニカなのか。一切合財があやふやな今のさよにとって、それは唯一自分の存在を肯定するものだった。


「――――私、生きてますね」


 ひょっとしたら幻かもしれない感触だけど、確かに感じているこの感触は、思わずそんな呟きを洩らしてしまうほどに、さよの心を感動で揺さぶっていた。

「さよさん?」
「大丈夫です。なんとなくわかった様な気がしますから」

 気は体力、魔力は精神力だと裏の世界ではよく言われる。森羅万象、万物に満ちる生命力を吸収・精製してできる力が魔力ならば、気とは自身の生命力そのものを汲み上げ、精製してできる力だ。
 幽霊だったからこそこうして湧き上がる命の感触を、さよは恐らく麻帆良の誰よりも鮮明に感じていた。
 そう認識した直後、さよの体から淡い輝きが漏れる。刹那の出した輝きによく似た日の光の様な、命の息吹を感じさせる輝きだ。

「こんな感じでいいんですよね?」

 昨日からどうにも些細なことで感激してしまう自分を少しだけ恥じながら、さよは刹那に問いかける。

「ええ、初めてにしては文句なしです」
「これで私も刹那さんみたいにカッコよくなれるんでしょうかねぇ~」

 そんな呑気なことをのたまいながら、薄刃陽炎をぶんぶんと振り回すさよに対し、多分頭の中で思い描いている華麗な女剣士なんて感じには、きっとなれそうにもないでしょうね……いくら強くなった所で、などと、割と手酷いことを思う刹那であった。
 確かに今なお呑気な様子で浮かれているさよを見ていると、恐らく誰もが刹那と同じことを思うだろう。それぐらい、さよには毒気というものが無かった。

「それじゃあ少しだけ戦ってみましょうか?」
「え、えぇっ!?」
「そんなに驚くことじゃありません。言ってみれば模擬戦みたいなものです」
「なんだぁ~、そういうことでしたか。……あ、でも?」
「刃を当ててしまったらどうしよう、ですか? だったらこう言わせてもらいます。今のさよさんに後れを取るつもりなど毛頭ありませんから」
「あぅ、それもそうですよねぇ……」

 刹那の少し辛辣な言葉に気落ちするさよだったが、少し考えてみれば、これは自分が想像していたことが叶うことじゃないのかと思い至る。
 対して刹那も、いきなりこんなことを口にしたわけではない。実のところを言えば、刹那の振るう神鳴流は、少しだけ正道から“外れた”ものなのだ。それは体質的なものが関係しているのだが、その為に自分がきちんとさよを指導できるのかという不安が少なからずある。
 だからこそまずはさよがどういう戦い方が向いているのかを見定める必要がある。おまけにその体質――薄刃陽炎と不可分なせいもあり、薄刃陽炎の性能を芯に据えて、どういった神鳴流を構築すればいいのかを考えなければならない。その為の模擬戦だ。

「じゃあ、遠慮なくいきますよ」
「勿論、全力で来てくださいね」
 神鳴流の稽古で使われる、防護の術式を組み込み、余計な怪我を負わせないようにした模擬戦用の符を夕凪と薄刃陽炎それぞれの刀身に張り付け、二人は初めての模擬戦を開始した。







 さよにとって二回目の戦闘。しかしさよの脳内に戦術など無い。在るのは見よう見まねの刹那の剣技と、手に持つ薄刃陽炎だけだ。

「だったら、当たって砕けろでいくしかありませんよね」

 となれば思うままに行くしかない。そもそもがド素人と言って差し支えないのだ、さよは。どうするか、などこの後に考えればいい。
 そう決めたさよは、昨日行った様に自身の側へと分身を出現させる。自身の視界と分身の視界、重なる二つの感触を、しかし鮮明に捉えつつさよは前進する。

「いっきますよぉ~!!」

 間延びした声を響かせながらさよは先ほど感じた気の感触に注意する。現状では唯一刹那から教えられたことを守ろうとしたのだ。
 しっかりと気の感触を確認して、その気を全身の張り巡らせる。意識して行われたその行為は、出力という面において昨夜の戦闘とは比べ物にならない。
 振りかぶる刃は正に風を斬るほどで、踏み出した足は大地を踏み割ってしまいそうだ。その感触の正しさを示す様に、今のさよは素人のチャンバラごっこのようなぎこちない体捌きでありながら、目にも止まらぬスピードで刹那へと向かっている。例えて言うなら、ペーパードライバーの乗る軽自動車にF1のエンジンを積んだようなものだろう。




「――――って、うわわわわぁっ!?」




 つまりどう考えた所で制御不能。刹那に対し薄刃陽炎を振り下ろすどころか、幻と二人揃ってその背後の草むらへと盛大に突っ込んでしまう。

「……大丈夫ですか?」
「うぅ……痛いって言うより恥ずかしいです」
「よくよく考えれば、気をすぐに戦闘に活用する、って言うのは無理があったかもしれませんね」
「分かりました、次はちょっと加減してみます」

 絡みついた草木を払いのけながら、さよは全力を出すことを諦め、気を少しだけ出す様にイメージする。先ほどとは違い、心なしか体が軽くなった様な感触だが、今はそれで十分過ぎるぐらいだろう。

「それじゃあ行きますっ!!」
「どこからでもどうぞっ」

 そしてさよは気を取り直して、先程よりも遅い速度で刹那へと向かっていった。何も考えずに薄刃陽炎を振りかぶり、だいたい間合いに入ったかな? という心もとない目測の元に真っ直ぐに振り下ろす。

「踏み込みが足りませんよ。それは野太刀の間合いです」

 その時脳内で刹那の剣技をイメージしたのが悪かったらしい、指摘通りに振り下ろした刃は実態と幻も共に切っ先すら刹那の体に届いていなかった。刹那の振るうのは長大な野太刀である夕凪、対してさよが振るうのは刀身の長さは至って普通の刀である薄刃陽炎だ。その誤差を脳内で補正しきれていなかったらしい。

「どんな戦い方にもいえることですが、自身と敵の間合いを見定めるのは重要なことです。――――こんな感じのように」

 その言葉と共に刹那が振るった夕凪の刃は、さよの首元ぎりぎりで止まっていた。

「は、はいっ!!」
「何せ三寸斬り込めば人は死ぬ、と伝える流派もありますしね」
「さ、三寸ですか……」
「ええ、その程度だと柄を握り変えるぐらいで稼げてしまいますから」

 そんな些細なことが致命的な敗北に繋がりかねないと聞かされ、さよの顔から血の気が引いた。幽霊のリアクションとしては甚だ不適当であるが仕方がないことだろう。

「とにかく、よく見ることです」
「わかりましたっ」

 刹那の言葉にさよは気を取り直し、先程より深く踏み込むことを心がけて薄刃陽炎を振るう。目標としてはしっかり間合いの中で振るうこと。初歩中の初歩としか言えないが、正直言ってさよはそこから始めなければいけないレベルだからだ。
 幸いと言っていいのか、刹那の稽古を一年近く見続けてきたおかげで、基本的な剣の振り方はある程度は覚えていた。
 その記憶の中の刹那の動きを、見よう見まねで自分用に修正しつつ、とにかくさよは遮二無二剣を振っていった。

「そうです、そのかんじですよ」

 だがやはり、幻と共に振るうその剣は刹那の夕凪に阻まれていた。幻のほうはそのまま刃が通り抜け、実態のほうは刃鳴りを響かせ弾かれる。実質二対一、使う得物も刹那のほうはとり回しに劣る野太刀を使ってこれなのだから、さよは自身と刹那の間に横たわる技量の壁を痛烈に感じていた。







「はぁはぁ、やっぱり刹那さんは強いです」

 そんな練習をかれこれ三十分ほど続けたころだろうか、とうとうさよは疲労困憊で音を上げた。幻なんて当に消してへたり込み、至って涼しげな表情を浮かべている刹那を見上げる。

「フフッ、ありがとうございます。でもさよさんも筋がいいと思いますよ?」
「ほんとですか?」
「ええ基本はある程度身についていますから、あとは気の扱いと、自分にどういった戦い方が合っているのかの模索ですね。やっぱり自分なりの戦術があるのとないのとでは全然違いますから」
「ちなみに刹那さんの戦い方ってどんなのなんです?」
「私ですか? そうですね……私の場合だと気の総量と元々の身体能力が人並み以上にあるので、それを生かした力技でしょうか。相手が防御したならそれごと断ち切る。遠くにいるなら瞬動で距離を詰めてとにかく斬る。戦術というには少々、考えがなさ過ぎる気もしますが、どうしてもそういう方向性のほうが効率がいいので」
「刹那さん、瞬動って何ですか?」
「あ、そう言えばまだ教えてませんでしたね。瞬動って言うのは気を使った高速移動術のことです」

言うなり刹那は自分の足元を指さしながら、瞬動のことに対して説明を始めた。

「簡単に言ってしまえば、自分の足の裏で気を爆発的に放出して、その勢いを使って素早く動くことです。――――こんな感じに」
「うわ……全然見えなかったです」

 言うなり刹那の姿がさよの視界からかき消える。正に目にも映らぬ速度だった。気付けば刹那の姿は元いた位置から数メートルは動いており、さよは感嘆の言葉を漏らすことしかできなかった

「欠点としては技の性質上、直線移動しかできないことですが、結構基本的な技でもあるので覚えておく必要と、使われても見切る必要がありますね」
「わ、わかりましたっ。……え、え~と足の裏足の裏」

 重要性を言われたこともあってか、さよは少しだけチャレンジしてみようと思い、技の概要を呟きながら足元に気を込めた。直後、刹那と同じように目にも映らぬ速さでさよは動く、結果は――――


「――――うわわわわわぁっ」


 先ほどと同じような悲鳴を上げ、先程と同じように草むらへと突っ込む。つまりは失敗だ。しかし、それは刹那にとっては単なる制御不能の失敗ではなかった。




(――――馬鹿な、今のさよさんの動きは“弧を”描いていた。瞬動が気の爆発に自身の体を乗せて行う以上、その軌道は直線しか描けないはず。…………見たところ、気の爆発力ではなく、気の流れを作り出してその流れに乗り、それで高速移動したようだが。恐らく、その構築が甘かった故に歪んだ気のレールを作ってしまったのか?)




 その技法が瞬動ではなく、とある世界において“瞬歩”と呼ばれるものだと、刹那も、そしてさよも未だ知ることはない。






<あとがき>
 この作品内では
瞬動・直線移動しかできない。曲がるためには連続行使が必要。ただし比較的簡単。
瞬歩・作り出す気(霊子)の流れによっては、一回の行使で曲線移動も可能。ただし比較的難しい。
 こんな感じで差別化を図ろうと思います。あくまでこれは作者オリジナルの設定ですので、突っ込みとかは無しでお願いします。


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