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No.35776の一覧
[0] Muv-Luv Lunatic Lunarian; Lasciate ogni speranza, voi ch[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[1] プロローグ[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[2] 第一話 地獄への道は、善意によって舗装されている。[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:50)
[3] 第二話 善悪の彼岸[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:52)
[4] 第三話 Homines id quod volunt credunt.[カルロ・ゼン](2012/12/05 04:02)
[5] 第四話 最良なる予言者:過去[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:59)
[6] 第五話  "Another One Bites The Dust" [カルロ・ゼン](2012/12/13 02:31)
[7] 第六話 Die Ruinen von Athen[カルロ・ゼン](2013/02/19 08:41)
[8] 第七話 Si Vis Pacem, Para Bellum[カルロ・ゼン](2013/02/27 07:44)
[9] 第八話 Beatus, qui prodest, quibus potest.[カルロ・ゼン](2013/06/26 09:01)
[10] 第九話 Aut viam inveniam aut faciam (前篇)[カルロ・ゼン](2013/03/08 07:24)
[11] 第一〇話 Aut viam inveniam aut faciam (中篇)[カルロ・ゼン](2013/03/12 05:11)
[12] 第一一話 Aut viam inveniam aut faciam (後篇)[カルロ・ゼン](2013/04/25 09:45)
[13] 第一二話 Abyssus abyssum invocat.(前篇)[カルロ・ゼン](2013/05/26 07:43)
[14] 第一三話 Abyssus abyssum invocat.(中篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:38)
[15] 第一四話 Abyssus abyssum invocat.(後篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:37)
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[35776] 第一〇話 Aut viam inveniam aut faciam (中篇)
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/12 05:11




一般的な軍事の常識において全滅とは、字句通りの意味ではない。
それは、部隊が組織的戦闘行動を維持し得なくなる損耗を意味する。
この点において、BETA大戦以前と以後では一切の基準が変わった。

それ以前の軍事ドクトリンに於いては損耗率が3割を超過した時点で全滅と判定されている。
以後は、予期される通常の損耗として3割が計画に盛り込まれるのが基本となった。
言い換えるならば、三割程度の損耗は通常の損耗率として計画に盛り込まれるのだ。

通常の戦闘の損耗がたった三割?
とんでもない。
二回繰り返せば、単純に考えても元の戦力は半減だ。
そもそも、10割で3割の損耗に抑え込めていたBETAを7割で押さえられるかという疑問もある。

こんな世界において、BETA攻勢の真正面に立たされる国家の損耗率は異常な速度と化す。
生身の歩兵に至っては、陣地戦でも行わない限りBETAの波に飲まれるだけだろう。
機甲部隊にしても、突撃級の突進を喰らえば、まずただではすまない。

とかく、損耗が激しすぎるということをいくら念頭においても困ることはないだろう。
あるソ連軍将校の言葉を借りれば、人員が一瞬で溶けていくのを懸命に補填し続ける戦いでもある。
そして、それは、地雷原の突破に歩兵を使えるソ連軍ですら損耗に耐えかねているということだ。

なればこそ、ソ連軍は非人口密集地帯の防衛を早々に断念し徹底的な戦力温存に走っている。
徹底的な焦土作戦と、なりふり構わぬ核攻撃で持っての遅滞戦闘行動。
だが、それすら時間稼ぎにしかならないのが大陸中央部の現実である。

そして、背後に守るべき工業基盤と人口密集地帯を抱える欧州戦線において後退は許容できなかった。
否、後退は人類抗戦能力に響きかねない、と認識されている。

この状況において、ルナリアンの提唱したハイヴ成長・拡大抑止プランは安保理に置いて秘密裡ながら熱心に討議される。

結果は、仮説に過ぎないながらも「検証実験」の価値ありと認めるものだった。
各国ともに、ハイヴの分化が意味するところは理解し憂慮するだけに阻止可能性は歓迎されるもの。
なにより、ある意味においては対BETA戦の専門家が受け入れ可能な「まともそうな」提案を出したことは大きかった。

曰く、ハイヴの分化及び成長はBETA個体数の飽和がトリガーの可能性あり。
検証のためハイヴの分化及び成長阻害のため、BETA個体数の漸減を目的とした作戦行動を勧告す。

同時に、検証のため作戦行動によって各国防衛線を無用のリスクに晒さないために防衛線を支える範疇で可能な検証実験に務めることを提案。
その目標としては、ミンスク・ハイヴを想定。
具体案としては艦隊の艦砲射撃を基軸に、極力機甲戦力の損耗を抑制しつつBETA個体数を漸減。
他のハイヴと比較しつつ、個体数を観察し、トリガーの把握に務めることを勧告す。

実に、まっとうな代物である。
何というか、コンパクトに纏まり各国の利害に配慮しつつも有用に見える提案。

ハイヴの分化で、国土の縦深すら意味を失いかけていた中ソにしてみればその賭けに文字通り飛びついたと形容すべきだろう。

中国側からの戦力派遣こそ、戦線の地理的な事情ゆえに断念されるもソ連軍は大盤振る舞いとして新鋭の戦術機甲連隊の投入を早々に決定。
名目上、DDRの防衛支援という名目でWTOに動員までかけ、実に2個戦術機甲連隊の投入を実現してのけた。
呼応する形で、国連が後方国家に呼びかけかき集めた多国籍大隊が一個。
同時に、NATOを含めた西側戦術機部隊が同じく2個連隊。
数にして、13個大隊相当。
予備機を含めれば、実に500機弱の戦術機をかき集めた漸減作戦行動が北欧で敢行されに至る。

もっとも、この規模の戦力派遣については多少の紆余曲折を経ることとなった。
「仮説」を提示されていない前線各国からの反発と、自国への展開希望。
当たり前だが、防衛線を再建するために一滴でも血と鉄が必要なDDRもその例外ではない。
無論、BETA個体数が漸減される分戦線の維持は容易になるやもしれないだろう。

だが、DDRにしてみれば、北欧に全戦力を展開するのではなく半数程度の配属を希望してやまない。
なにしろ、プロパガンダで勝利を謳い続けようとも逆らい難い物理法則というのが世にはあるのだ。
なまじ、宗主国から物理的に離れてしまい、かつ西側との微妙な関係にあるDDRにとってみれば多国籍の援軍というのは喉から手が出るほど渇望されて久しい。





「・・・・・・この時期に、ミンスク・ハイヴ攻撃!?正気とは思えません。」

故に、表向きの作戦計画を告げられた東独の連絡武官が吐き捨てるのは故なきことではない。
苦々しげに、そんな戦力があるならばこちらに回すべきだ。

少なくとも、『西側』の盾として奮戦してやっているのだから相応に支援されてしかるべきだ、と。

「あくまでも、限定的な攻勢が目的です。こういってはなんですが、ハイヴに突入せず敵個体を漸減することならば可能でしょう。」

対する国連側事務官の対応も、真っ当な事務手続きを経て決済された軍事計画をすでに既定の方針として告げるだけだ。
顔色一つ動かさず、官僚的手続きの一環において国連事務機構がDDRに及ばずとも硬直的対応は可能であることを示して見せる。

「BETAに補給線の概念があるかは不明ですが、少なくとも一定程度の個体数が間引ければ欧州主戦線への負荷は軽減できます。」

理屈の上では、国連の安全保障理事会が議論した国際的な承認を集めた大規模攻勢。
それも、バンクーバー協定に基づき国連の旗に集った諸国を有機的に運用することを前提にした計画的攻勢。
それらが主戦線の防衛に支障をきたさぬように配慮したうえで、実務のための運用試験を兼ねての限定的な行動というのは理屈ではマトモだ。

「反対です。戦力が足りるとは思えません。悪戯に、消耗するだけでは?」

「火力が足りない分は、艦隊戦力で補いましょう。」

そして、もっともらしく整合性を揃えられた国連軍の言葉は官僚的な東独の風土に馴染んだ連絡武官にとって嫌でも意味するところを理解させる。
不愉快だ。言葉に出さずとも、眉を歪め、暗に東独の感情を代表して異議を顔で唱える彼らに分かっているのは簡単な事実だ。

「…動かしうるのですか?」

「大日本帝国をはじめとした国連加盟国から艦隊が展開している都合上、地中海艦隊から米第六艦隊を抽出しえました。」

…散々、東独が戦力の必要性と、支援の必要性を声を枯らし訴えてもろくに手も貸さない国際社会。

それが、どうだろう。
一体全体、戦力不足だのなんだのはどこに消えたのだろうか、と。
連中、その気になればすぐにでも大規模な部隊を用意しえるのだ。

「誘引して砲撃で仕留めるならば、十分かと。」

国連の事務官が、どうということでも無いように語る作戦の計画。
戦術機甲部隊を機動性の高い快速部隊として包囲・誘導に使いつつ火力でBETAを徹底的に叩くというシンプルな作戦。

そして、動員される艦隊規模は空母打撃群を含む圧倒的な物量を投射しうる規模。
いとも容易く、東独が渇望してやまない戦力があっさりと集まり、あっという間に投入されるのだ。

「ローコストで、ハイベネフィット。誰も損をしない投資ですよ。」

「…大盤振る舞いですな。」

東独への支援が、ひたすら損耗を前提としての軽火器や砲弾薬であること。
あからさまな時間稼ぎだけを望んでいるかのように振る舞う国際社会の態度。

…嫌でも、東独という国家の立ち位置を彼らは改めて自覚せざるを得ない。

ソ連は、東独を信頼しきれない国家と常に猜疑心で見ている。
いずれは、西につきかねない、と。

そして、西は東独など欧州におけるソ連の衛星国であり真剣に同盟者としての価値を見出そうとしないのだ。

「国際社会は、北欧並びに欧州主戦線の安定を重視しております。当然のことを、人類が団結して実地するにすぎません。」

国連事務官ののたまう言葉。
祖国のプロパガンダ並に空疎であれば、まだいっそ救いもあったのかもしれない。
だが、現実はさらに過酷なのだ。

確かに、国際社会とやらは人類を統合し防衛する必要を認識している。

東独にとって問題はたった一つ。
その統合される世界に、彼らの居場所は未だ用意されていない。



静まり返ったブリーフィングルーム。
居並ぶ、米ソ軍人と英仏に中国の連絡武官ら。
彼らを前に立って見渡すと、何処を見ても呉越同舟具合が垣間見られる。
正に、敵の敵は味方に直結しない典型例だな、と。
至極謹厳実直な表情の裏でターニャは密かに苦笑いする。

「作戦を説明する。国連軍統合代替戦略研究機関局長、ターニャ・デグレチャフ事務次官補だ。」

今更、准将などという肩書で指揮権を発動する必要は当面ないだろう。
なにしろ、本質的には軍人上りの文官というのがターニャの立場なのだ。
国連に出向している、合衆国の元軍人。

階級だけでいえば、それこそブリーフィングルームにいる米ソ将軍連中をはじめとして幾らでも上位がいる。

「国連軍統合参謀本部と、国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)は欧州主戦線の援護のために北欧戦線において限定的な攻勢計画を企図している。」

故に、誰もが此れから発表される作戦計画の立案者を知っている。
居並ぶ高官連中を前に、感情を伺わせないルナリアンがマトモな提案を繰り出すのだ。

口にされた、限定的な攻勢計画という言葉にしても驚くには値しないもの。

BETAの大規模侵攻で想定されている最低でも師団規模のBETAに対し、国連が動員したのは13個大隊。
ほぼ、真正面からなぐり合える戦力を集めた上でバンクーバー協定以来整備されている統合的な指揮運用の試行。
無難に石橋を叩きながら試行錯誤しようという国連の意図は実に無難かつ手堅い。

「目的はDDR以下ヨーロッパ諸国を圧迫しているミンスク・ハイヴへの限定攻勢によって主戦線への圧力を軽減。猶予を稼ぐことである。」

その目的として、提言されているのはかつて人類が大敗を喫したミンスク・ハイヴ。
苦々しい思いに駆られるのは、一人・二人という数ではないのだろう。
目標として、ミンスクの名が挙がった瞬間に少しばかり場の雰囲気が重くなるのは自然だった。

勝てると確信し、彼らは負けたのだ。
そこで、失った戦力を今なお欧州は完全には取り戻せていない。
さらに言うならば、自国防衛に専念し派兵を渋ったフランスへの微妙な感情も。

「当然ながら、欧州防衛を最優先とするものでありBETA個体数の漸減に主軸を置いた限定攻勢となる。」

とはいえ、それらの失敗から高い授業料と共に学ばされた人類はハイヴを何としても抑え込まねばと知っている。

「北欧戦線の安定を保ちつつ、限定攻勢を実現すべく国連軍は現在加盟各国より提供された戦力をもとに攻勢計画を立案中である。当然、海上戦力として艦隊戦力も万全を喫してある。」

故に、国連は統合的運用の模索を行いつつも欧州正面を支えるための梃入れに乗り出していた。
だからこそ、だからこそ本来ならば自国防衛に走りがちな英仏両国までもが将来の防衛戦における有機的運用模索のために派兵に同意している。
戦術機こそ出し渋ったフランスでさえ艦隊を中心に相当数を派遣していることを思えば欧州において望みうる海軍戦力はかき集められたも同然。

「本作戦は、以後ブルー・ドリルと呼称する。」

そして、贅沢なことに、是だけの戦力を。
これだけの物量を投じての目的は、主戦線の安定化と国連の旗で統合的な運用を試行錯誤し新戦術を試してみるという事に尽きるのだ。
なればこそ、皮肉を込めて国連の軍事官僚が割り振った作戦名は『ドリル』。

このご時世に、膨大な物量で演習じみた限定攻勢を行えるのだなと誰もが不謹慎な笑みを浮かべざるを得ないものだろう。

とはいえ、動員される部隊規模は米ソを始めとした大国が本気で物量を投じていることを物語る。

「地中海艦隊から抽出したと戦艦ミズーリと国連方面大西洋方面第1軍からもぎ取った米国第二艦隊を中心とする海上第一打撃戦隊が展開予定。」

合衆国は、地中海方面から一時的に抽出した第六艦隊と大西洋方面軍の第二艦隊で正規母艦打撃群2個を基幹とする海上第一打撃戦隊を編成。

「合わせて、英仏並びにWTOの戦艦群の展開も予定されている。」

空母の展開こそ劣るものの、砲力では引けを取らない数を英仏とWTOもかき集めて運用を行う覚悟を見せている。
戦艦群であれば、遠距離砲戦に徹する限り消耗はあっても致命的な損害は避けえるという打算が見えないでもないが貴重な火力は火力だ。

「こちらは、ソビエツカヤ・ベロルーシヤとHMSヴァンガード、それにジャン・バールを中心としての、海上第二打撃戦隊を編成予定である。」

呉越が船を並べるという違和感が拭い難いとしても海上第二打撃戦隊の火力だけで、旅団ないし師団程度のBETA群には規定を上回る火力とされている。
これらが、全て500機弱の戦術機に対して緻密かつ密接な火力支援を投射し続けるだけの砲弾は米国が本国の工廠と倉庫から引っ張り出している。

「最低でも、BETA個体数を間引くには十二分な火力が用意されている。」

大規模反抗作戦の一歩手前の戦力。
かき集められた部隊が勢ぞろいする姿は、壮観其の物だろう。
少なくとも、ともすれば人類が追いつめられているという現実を忘れかけさせるほどの光景ではある。

なればこそ、国連は人類団結というそのメッセージと共に勝利を世界にもたらす希望を提供しうるのだ。

「最悪の場合、カール・マルクスを含むWTO艦隊による後詰も想定されているが…主戦線からの引きはがしは望むところではない。あまり期待するな。」

ここまでお膳立てされたのだ。
間違っても、国連は失敗できない。
有機的な統合指揮と、ドクトリンの違う各軍の混成運用。

「これでもって、防衛戦では難しい主導権を確保しての攻勢によりBETAを間引くことで欧州主戦線を支えること。」

それらを考慮した上での、摺合せのための大規模『実戦演習』

「以上が、オペレーション・ブルー・ドリルの概要である。」

望みうる大半の努力が注がれたうえでの戦略次元で勝利を追求した備え。

「戦果に期待する。以上だ。」






大規模攻勢につきもののどこか、浮ついた基地の雰囲気。
活気づく基地のかしこで積み上げられた各種弾薬が積み出され前線の事前集積場へと搬送されていくさまはすでに鉄火場だ。
戦史に類を見ない機動力を保ち、大規模に展開しうる戦術機甲部隊への補給。

全兵装撃ち尽くすことも稀でない射耗速度を勘案すれば兵站デポの展開は兵站担当者らの頭痛の種だ。

正規空母をはじめとする艦隊の存在によって幾分緩和されるとはいえ、BETA支配地域に隣接エリアまでデポを築く時点ですでに前哨戦。
小競り合いのレベルであるが、定期便を押し返すための出撃は始まっている。
もっとも、戦域への慣熟を兼ねつつ問題の洗い出しを行える余力がある軍隊にとっては良い経験の機会であるのもまた事実。

特に、なまじ規模こそ大きくとも戦闘経験が乏しすぎるが故に『脆い』新着の合衆国戦術機甲部隊に取っては貴重な実戦経験が蓄積出ている。
現地戦術機甲連隊指揮官であるジョン・ウォーケン大佐にしてみれば、それでもなお不安が取れないレベルであるがないよりはましだ。

「で、ドリルの進捗具合は?」

基地の喧騒とは裏腹に、底冷えするような淀んだ作戦室の空気。
苛立たしげに書類を見遣りながら、誰もがぶつぶつと頭を抱えながらままならぬトラブルに追われている。
無論、それらは予期された問題だ。

多国籍の団結といえば聞こえは良いが、要は寄せ集め。
しかも、数は兎も角内実はBETA戦の素人共も少なくない。

「酷いものです。砲弾消耗を抑えつつ、機動戦という基本を叩きこむだけで私は老衰しかねません。」

それ故に、進捗状況を問われると彼は躊躇なく心中の憂慮を吐き出す。
伝統的に機動戦と砲撃戦を重視してきた合衆国の軍事ドクトリン。
良くも悪くも、物量で圧倒し手堅く戦うというドクトリンは無難ではある。

だが、それらは祖国の国力にものを言わせての正攻法だ。
戦術機甲部隊にその伝統が持ち込まれるのは悪いことではないが、限界もある。
それを、早々に新米どもに叩き込む必要があった。

BETAの物量相手に、常に正攻法で押し切れるならばそもそもこんな事態にはなっていない。

「当たり前だが、わかり切っていた話だ。実戦離れした訓練で苦労しなければ本国の連中め、BETAなぞ明日にでも駆逐できると誤解しかねん。」

苦々しげに頷くターニャにしても、本国の戦技研究に呆れ果てたい気分では完全に同じだった。
砲撃戦への信仰じみた思いが、近接される前に片づけられると新任どもが誤解するレベルに至っているのは頭の痛い問題だ。

国連軍という汎地球的軍でありながら、そもそも各国の運用方法が違いすぎる。
調整に追われる司令部要員らをみれば、まったく『ドリル』とは言いえたものだった。

「表向きの建前だけでも、十分教訓は集められそうなくらいだ。…ああ、一応真面目に戦争はするぞ?」

「やはり、では、ドリルは続行されますか?」

ウォーケンにしても、ある程度は覚悟できている。
なにしろ、彼は極秘扱いであるドリルの『目的』を通知されている数少ない前線指揮官だ。
ここまで多数の兵力を集めるべく、各所へ払われた政治的努力も聞き及んでいる。

「君も承知のように、現在吶喊で整備されているSHADOWが新たな降着ユニットを防いだところでハイヴの分化を阻止しえないことには意味がない。」

…ハイヴの分化。

それは、人類にとって軌道防衛のみならず地上での戦局の持つ意味が加速度的に重要性を増すことを意味するのだ。
結果、必然的にハイヴを落す必要が生じてくる。

しかし、その結果がパレオロゴスの惨敗だ。
再度の大規模攻勢を敢行する意志と余力は人類に乏しい。

だが、放置しようにも放置することが人類に味方する情勢ともいいがたいもの。
時間と共にハイヴはますます要塞化され、或いは最悪増設されかねなかった。

「BETA個体数の飽和が、ハイヴ建設・拡張のトリガーの可能性が仮説ながらも指摘されている。…故に、間引くことが仮説として浮上している。」

「事実であれば、重大な転機たりえます。」

それ故に、ハイヴの分化・増設のトリガーが個体数であるという一つの仮説は検証に値した。
事実であれば、事実であればハイヴの成長及び分化を阻害しえるとすれば。

…それを検証しうるとすれば。

最低限度の損害として、一定の損耗を米ソ両国は許容しえる。
其れが故に、本来ならば異例なほどのスムーズさで米ソ合同によって国連主導の旗が掲げられた。

「しかり。故に本作戦の究極的な目的は第二・三計画でのデータと、この仮説を検証することだ。」

そして、ターニャにとってこれは戦略次元で対BETA戦を再構築するための貴重な一歩だ。

「早い話が、間引くことが目的だ。ハイヴの成長を阻止出来れば、一切損耗は問わない。」

間引きという対BETA戦の基本。
早期確立が可能であれば、結果的には前線を抑え込むことも可能だ。
無論、定期的に戦力を消耗させるために大規模反攻は遠のくやもしれない。

だが、人類にとって貴重な時間を捻出しえるのであればそれは無駄なハイヴ突入は不要。

「こちらは、未確定情報が多い推測であるが故の機密指定であるが…上手くいけば、人類はBETAを封じ込める第一歩を歩めるだろう。」




あとがき

『補給戦』とかって、好きな人いません?
コンテナとか、港湾能力とかいろいろありますし…。

とコンテナ戦記書きかけて我に返る今日この頃。

とまれ、無事に人類を有利にすべく勝利を求める感じを。

※確認してないのですが、記憶の上では海王星作戦の頃って間引きの概念なかったですよね?間引きの概念何時頃確立か分かってないので、かなりびくびくしながら書いてます。

詳しい方、間違ってたら早めにご教示の程を。

何時も通り、誤字修正しました。


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