目下の情勢を勘案するに、我々は戦線整理に基づく人類防衛線の再構築を必要とする。そのためにならば、如何なる後退をも甘受するべきであるだろう。それは、全線崩壊によるユーラシア失陥の危機に比較すれば論ずるまでもなく自明なのだから。ターニャ・デグレチャフ国連軍統合代替戦略研究機関局長による第七次欧州方面概括報告序文:1978年11月15日 国連軍参謀本部宛エーゲ海は、その魅力で数多の来訪者を魅了している。古来よりの文明と文化の基盤として。ギリシャ文明の内海として。偉大な交易と都市国家群の母なる海として。ヨーロッパを、世界を、魅了し続けてきた偉大な海。そして、数多の詩人と思索家を惹きつけるオリンポス山の荘厳さは今なお歌と詩に残され語り継がれている。蒼き麗しいエーゲ海。古の時代は、ガレー船が帆に風を受けながら盛大に行き来したであろうアテネ。時代が変わろうとも、湾口都市としての地理は変わらない。故に、今日も昔と変わらずにアテネの港は外からの来訪者を招き入れる。「まったく、素晴らしい光景だ。」港の埠頭。着岸した大型輸送艦から降り立ったばかりのデグレチャフ事務次官補も、エーゲ海とギリシャの山々にベクトルは違うにしても魅せられた一人である。泥沼と、雪だらけの北欧・東欧戦線からアテネの埠頭に降り立ったとすればある意味では当然だ。所謂パレオロゴスなるレミング的自殺で崩壊した欧州戦線。全く、くだらないこととはいえ防衛線の再編は緊急かつ最大の案件とならざるを得ない。それ故に、本来の戦略模索機関としてJASRAは極々まっとうに欧州防衛のための戦略案策定を安保理より命じられていた。まあ命じた安保理にしても、それを促した米国にしてもJASRAが『マトモ』でないことは重々理解している。極秘裏に葬り去られたとはいえ、BELKA計画のインパクトはこと国防総省上層部に深刻な影響を及ぼした。一部では、対BETA戦闘における長期的な地球規模での影響の調査必要性まで喚起されたほどだ。早い話が、地球環境が対BETA戦争で崩壊するのではないかと一瞬誰もが危惧するほど戦争は激化しているといえよう。だが、ある意味で米国国防総省の動揺は彼らがきわめて常識的かつマトモな戦争観を抱ける程度に安全であるという事情も大きい。結局のところ、米国はカナダでBETA着陸ユニットの早期撃滅に成功して以来対BETA戦争を常に外地で戦っているのだ。故に、彼らの意識はどうしても眼前敵を撃ち滅ぼさねば駆逐される運命を定められた国家のそれとは異ならざるを得ない。だからこそ、ルナリアンの警告は彼らの良識と真っ向から対立する。故に、彼女は指揮権を穏便に取り外された。有能でも、狂気に染まった防衛線指揮官というのはちょっと統制が効かない危険性があるからだ。実際、核地雷を活用した防衛戦は前線でこそ激烈に称賛されたが後方の印象は最悪である。なにしろ、数発程度かと思いきや何処からか持ち出した戦略核まで地雷に使う始末。吹き飛ばされたBETA群を遅滞させたという事情や、友軍撤退に貢献したといわれようともあまりに過激だった。お陰で、ターニャは本来の仕事であるデスクワークに専念できているので本人としては特に不満もないのだが。そんなわけで、欧州防衛は極めて困難だとターニャは欧州の部分的橋頭堡維持を念頭に総撤退を提案。フランス及び低地地方で持久陣地を構築して時間を稼ぎつつ、ジブラルタル-スエズラインを死守するためのピレネー・シチリア絶対防衛線構想を提出。ピレネー以東は放棄した方がよほど堅実であるなどと6度にわたり提言した結果、嫌々ながらも欧州方面情勢視察を安保理から許可された。だが、この時点でも前線国家と後方国家は依然として意識の面では危機感に差があるのだ。愛すべき資本主義的観点からすれば、やや遺憾なことだがこのことは安保理での議論に如実に表れた。安保理で戦線再編を一番強く支持してくれたのが中露であるあたり前線国家と、後方国家の意識の違いが如実に表れているといわざるを得ないだろう。そして、極端に前線よりどころか、それすら超越して末期戦的思考に至っているターニャにしてみればすべては戦略と戦術の観点からのみ議論が行われる。だからこそ、ターニャはエーゲ海の地理的条件を称賛する。なんと素晴らしく理想的な陸海共同作戦の条件を満たした地理条件であることか、と。効力射がほぼ半島の平野部をカバーできる圏内にあり、かつ山岳地帯によってBETA展開可能地域は制約可能。しかも、一番警戒を要する地中侵攻も火山地帯がある程度とはいえカバーしてくれるという随喜ものの条件。結論としてみれば、文明発祥の地の一つであるギリシャほど人類防衛線の要たりえる地理的条件を備えている地形も少ないのだ。だから、ターニャはそれらの万感の思いを込めて呟くのだ。「エーゲ海はやはり素晴らしい。」しかし、その呟きは背景にある情勢を知らない応接係にしてみれば月並みな言葉にすぎない。応接を命じられたアテネ駐在の国連軍事務官にしてみれば、ターニャは極々平凡な来客だ。彼らから見たターニャの年は、20代とも、或いは30代半ばだろうか。一見した限りにおいては、判断しかねる不思議な容貌である。或いは、年若くして出世した文官と紹介されれば年齢に関係なくそんなものかと思うだろう。年齢が容貌に出ないこの事務次官補は、一見すれば単なる国連の一事務官だ。実際、ブリーフケースを抱え埠頭に降り立ったターニャは慌ただしく行き来する人波の中でその程度の存在感しか有していない。公式には文民であるがために、既定の軍装でなく事務的なスーツの小柄な彼女は知らない人間には作業の邪魔とすら扱われるのだ。そして、労働効率を阻害していることに気が付くや否や謝辞を述べ移動する事務官はせいぜい良識的な国連事務官僚と見なされる。これが、東部戦線帰りの歴戦の将官という風貌であればその言葉も別の感慨を持って受け止められたやも知れない。だが、事務官然とした人間の穏やかそうな口ぶりと素直に風光明媚な地を愛でるに聞こえる言葉だ。それは、一般の観光客と同レベルの感想と取られる。なにしろ実際、字面だけ見ればそこにあるのは有り触れた言葉だ。月面で生き残り、あの東部帰りの指揮官が、こんな後方士官じみた大凡軍人然としたところのない『化け物』。知らなければ、それは素直な賛嘆の言葉としか聞こえないだろう。「事務次官補も、やはりオリンポスの山々は素晴らしいとお考えになれるのですか?」だから、送迎を命じられた国連の担当者は特に配慮することなく世間話程度のつもりで言葉を拾う。彼にしてみれば、調査機関の人間が各地を回る一環でアテネに立ち寄った程度の認識。故に、彼は研究機関の長というのは特に考えることなく自然と文官だろうと捉えていた。まあ、名前しか聞いたことのない研究機関のそれも他部署の長などそんなものだ。「うん?いや、全くその通りだな。海上支援が可能なうえに周囲は山岳だ。防衛線には、理想的ですらある。」担当者の対応は、別段間違ってはいない。ただ、埠頭に立っている来訪者が古のそれに比すると、酷く無粋で虚無的ですらあるだけだ。東欧の主戦線と異なり、北欧戦線は良く言えば平穏であり悪く言えば戦力が足りないため邀撃戦だ。時折、気まぐれに北上してくるBETA群を迎撃しつつフィンランドの撤退と疎開を支援するというのが現地の任務となっている。言い換えれば、負け戦の戦線整理だ。そんな戦線において、基本的に主力となるのはスカンジナビア三国とごくまれに派遣されてくるだけのNATO軍。僅かに敗戦時の撤退戦で北欧に押し込まれたWTO軍残存部隊もいるには居るがこれらは撤退待ちの途中である。さすがに湾口防衛程度に参加してくれているものの、順次輸送艦に収容されて東欧の主戦場に移転している。まあ、最前線という事で共通している東欧諸国軍にしてみれば貴重な戦力であり北欧に派遣しておく余裕がないという事だ。だから、防衛線を構築している部隊が慢性的に足りていない北欧戦線ではやりくりが大変であった。つい先日、戦線視察に来訪した国連事務次官補が気前よく連隊規模の戦術機甲部隊を送ってよこしてくれるまでは。「旅団規模のBETA群を撃滅か、悪くないな。」盛大に撃ちこまれた砲撃支援の中、F-4の編隊が見事に突入。無論、支援があればこその突入だが米軍衛士がここまで思い切りよく突入するとは北欧司令部は予期していなかった。故に本来ならば、支援と後続の投入に手間取り混乱することもありえたのだが国連が送ってよこした援軍は驚くべきことに近接戦へ移行。曰く、BETAを盾とすれば別段光線級の脅威もなく時間さえあれば排除は容易だとか。お陰で、意外なまでに少ない損害でBETA前衛を足止め出来たために中隊規模で抽出できたスウェーデン軍のJ-35が光線級吶喊に成功。匍匐飛行能力の高いドラケンを光線級吶喊に回すことが出来たことで戦闘は比較的堅調に推移。残敵掃討も、これまでの苦戦が嘘のようにスムーズに推移し最悪放棄も想定されていた地域の防衛に成功していた。「ええ、派遣されてきたNATO軍の戦術機甲部隊は良く働いてくれています。」それ故に、派遣されてきた戦術機甲連隊の能力に期待していなかったスカンジナビア三国の将官らはそれとなく反省している。「悪いことをしたなぁ…」「いかがされたのですか?」「いやさ、主体が米軍だろう?それも、パレオロゴスでは撤退戦が初陣だったという。」派遣されてきた米軍部隊は西ドイツ経由で派遣されてきた所謂新編の部隊。装備、規模ともに中々のものだが如何せん米軍部隊というのは砲撃戦に走りがちで規模の割に脆いというのが最前線の苦い評価だ。兵站が確立されていれば兎も角、泥沼の消耗戦になると米軍はどうしても粘りに欠けるとスカンジナビアでは貶されるほど。そんな視点で、新たな増援部隊の資料を読めばあまり期待しないほうがよさそうだった。なにしろ、元は国連の調査機関に割り当てられていた部隊。パレオロゴス作戦での国連軍調査部隊護衛が任務だ。本格的な対BETA戦闘はパレオロゴス作戦失敗後、撤退する最中に後衛戦闘で経験したばかり。「そうですね、撤退戦が初の本格的な対BETA戦だったと。」いっちゃなんだが、逃げながら砲弾撃っていただけで本格的な対BETA戦闘の経験に乏しいのではないだろうか?そんな危惧を北欧の国家は有していたのだ。規模の割に過大評価はできないなぁと派遣されてきた部隊を司令部が期待せずに見てしまったのは無理もない。「てっきり、碌に実戦経験もないだろうと危惧して派遣指揮官に大丈夫かと聞いてしまったんだ。」「…閣下、さすがにこの結果を見ると失礼だったとしか。」だから、期待していないと口にこそ出さなかったもののどの程度戦えるのかと訝しむような発言を散々してしまっている。実際、派遣を決定した国連のデグレチャフ事務次官補からして『まあ、足止め程度には使えるでしょう』と評する部隊なのだ。足止めというので、てっきり撤退戦時にちょっと遅滞戦闘ができる程度かと受け止めた指揮官は少なくなかった。「全くだよ。派遣指揮官のジョン・ウォーケン中佐が平然としているから、てっきり経験していないだけかと危惧してしまったんだがなぁ…。」その偏見を強くしたのは、皮肉なことに対BETA戦を前に何も知らない他の米軍指揮官と同じように平然としているジョン・ウォーケン中佐の存在だ。旅団規模のBETA北進中との報を受けたとき、この中佐は平然と、『その程度ならば安心ですな』、とまで口にしていた。全く碌に戦場を知らない米軍指揮官かと思わず、誰もがため息を内心でつきかけたほど事態の深刻さを理解していないような口ぶり。「混乱どころか、平然としているじゃないですか。米軍といっても、ほとんど東側衛士並に戦場を経験している口ですね。」だが、終わってみてみれば彼の部隊は実に冷静かつ沈着にBETA群を処理してのけた。錯乱する衛士くらい出てくると覚悟していたスカンジナビア勢の予想とは裏腹に、実に手慣れた手際でBETA群先鋒を迎撃。突入から近接戦まで平然とやってのけるところを見ていたが手練れしか生き残れないような激戦に放り込まれている東側衛士並の技量だ。前線国家群が求める水準での戦闘能力・戦闘経験を十二分に保有している米軍戦術機甲連隊。ぶっちゃけ、それほどの部隊が米軍に居るとはちょっと想像がつかないほどである。「そう、そこだ。なんで、あれほど練成度が高くて装備も良好な連隊規模の部隊がわざわざ北欧に?」「まあ、考えても仕方ない。折角来てくれたんだ。頑張ってもらおうじゃないか。」良くも悪くも、国連のあるニューヨークは後方としての意識が強すぎる。前線国家の外交官でさえも、本国から長く離れ外交の舞台であるニューヨークで執務しているとその傾向が出る。その為か、敗勢にある祖国の運命を回天せんという愛国心からか時として無謀な攻勢を望むことすらあるほどだ。頭を抱えたい気持ちになりつつも、ターニャとしてはこれらを相手取って視察の報告を行わざるをえない身分である。一応、これでも国連所属の調査機関の局長だ。給料以上に仕事をしているとはいえ、本務をおろそかにしていい話でもない。故に、ターニャはきっちりと自らの仕事を全うするべく安保理に向き合う。「早速ではありますが、報告を始めさせていただきます。」各国代表の視線を一身に浴びながらも、かつて月面から召還され時と同様にターニャは揺るがない眠そうな表情で淡々と口を開く。一見する限り、茫洋とした表情で報告するターニャの姿は戦地帰りによる報告とは到底思えないほど穏やかかつ平穏な雰囲気。それ故に、知らなければ単なる事務的な報告と同列に聞き流されることだろう。特に、常任理事国による注目の度合いがその報告の持つ重要度を暗に示唆している。「結論から申し上げるならば、ギリシャの地形は後方拠点としては理想的な環境といえるでしょう。」だが、それらを意識することなく淡々とターニャは口火を切る。既に内々ではあるが、安保理に報告する前に本国の統合参謀本部以下関連機関との調整は完了済み。『陣地主義は結構だが、ギリシャ政府が飲むかね?』『無理でしょうな。これでは、国土の大半を放棄することを前提にし過ぎた計画だ。』『そもそも、山岳地帯をつかった防衛線構築であればギリシャに限る必要があるのかは微妙ですが。』などと、参謀本部から外交上の問題点や政治的な微妙さを散々つつかれてはいる。実際、ギリシャにしてみれば国土の大半は防衛に適しないがために放棄しろと言われるような防衛計画だ。反発は予想されるうえに、歓迎されない防衛計画であることこの上ないだろう。なにしろ、防衛上必要であるという理由だけで国土防衛を拒否される前例たりえるのだ。前線国家群にしてみれば、余り愉快な提案でないのは間違いない。だが、アテネの要塞化だけを前倒しで行えないでしょうかとターニャは提案。最悪、クレタ島などの島嶼部を要塞化することも代案としては検討したものの戦力投射能力に掛かる負荷が大きかった。海上輸送で補給を行うことを考慮するならばユーラシアを部分的にでも防衛し橋頭堡を維持すべきと判断。言い換えるならば、クレタからユーラシアへは海上輸送オンリーとなる。だが、アテネならば陸路も使用可能。『いちいち敵前上陸するよりは、橋頭堡を通じて進軍する方がはるかに容易かと。』この一言が、結局のところ兵站線の確立に神経を使う米軍にとっては受けが良かった。いちいち敵前上陸し、兵站線を構築するよりも前進拠点を確保し事前集積できれば補給は遥かに容易だ。なにより、犠牲の大きい敵前上陸を避けられるうえに仮に攻勢が頓挫しても逃げ込める後方拠点があれば損害も最小化できる。パレオロゴスの失敗後、すでに米国においても対BETA戦の損耗が如何に激しいかは学習されつつある。それらを踏まえたうえで米国は全てではなく戦略上の要地に限って死守すべきであるという観点は部分的にではあるが受け入れられつつあった。実際、同様の方針をソ連がすでに実施し戦線を再編しつつ戦力を温存しているという事も大きくものを言っている。ユーラシアにおいて、防衛に適さない地においては遅滞戦闘に留め主力と工業基盤を逃しているという事は長期的には大きな意味を持つと分析されている。これらを踏まえたうえで、合衆国は防衛に適した土地を防衛しつつ可能であればBETAを押し返したいという防衛思考を前に出しつつあった。北欧やイタリアの様に地理的に防衛が容易であれば、支援するにもやぶさかでもない。だが、開けた平野部で物量にものを言わせて突入してくるBETA群相手に消耗戦をやることは不利だと理解しているのだ。さすがに、露骨に西独・仏へ防衛断念を促しはしないものの困難ではないかと危惧を内々で表明済み。防衛できるに越したことはないが、可能だろうか?というのが米国の信条だ。そして、防衛できないのであれば遅滞戦術で人類が反攻に至れる力を養う貴重な時間を捻出すべきだと確信しつつある。矢面にたつ国家にしてみれば、人類の兵器廠たりえる米国がその防衛に条件を付きつけるようなものだろう。防衛の要衝でなければ、支援を渋るという事なのだから。そしてJASRAは露骨なまでに米国の意向を踏まえて編成された調査機関だ。その調査機関が、防衛線の再編を強く勧告するという政治的な意味合いは米国のメッセージを通告するということに等しい。言ってしまえば、安保理への報告は国連に対する米国の意志を通達するものだ。実際、安保理の常任理事国外交官らの中で合衆国の面々のみは他国の反応を注視するほうに重きを置いている。米国が戦線再編を望んでいるという事を、各国がどう受け止めるかを分析するために。「まずもって、突撃級の進撃ルートを限定しえる山脈地帯の地形構造。」大型スクリーンに映し出されるギリシャの地図。そこに表されている山脈と海に関して、統合参謀本部は陸海共同作戦の理想的な地勢であることを認めている。特に、スエズ-ジブラルタル航路へ脅威を与えかねないペロポネソス半島を防衛しうるという計画はもろ手を挙げて賛成されたほど。コリントス地峡は幸いにして岩盤が脆いために発破が容易であるためBELKA式に依らずとも発破は可能。迅速かつ速やかに、ペロポネソス半島を要塞島化すべしという提案こそ、棄却されたものの概ねにおいて計画は採用されている。基本は、アテネ以北の防衛を断念しつつもそれ以上のBETA南進を阻止しえる要塞群による防衛線構築計画。「加えて、想定されているBETAによる地中侵攻もアテネ近隣は火山帯により比較的リスクを軽減可能です。」最大の決め手となったのは、ギリシャが伝統的に悩まされてきた火山の存在だった。ある意味で、予想しにくくかつ影響の大きいBETAによる地中侵攻。火山の存在は、かなりの程度これを阻害しえることが期待されている。その意味において、黒海方面を経由しユーラシア中央部へのアクセスも可能なギリシャの地理的な優位性はかなり高い。加えて、アフリカ北岸や中東方面への支援拠点としても地理的に比較的近いことが大きな戦略上の意味合いを有している。歴史的に考えても、ギリシャの持つ地理的な戦略上の価値は決して小さくない。「そればかりか、地形的に艦隊による海上支援が可能でかつ、重光線級の照射圏のリスクを地勢状最小限にしえるのです。」それらをさらに下支えするのがアテネ近隣を中心としたギリシャの南方は海洋に面しているために砲撃支援が比較的容易という事情だ。パレオロゴス作戦の戦訓から学ばれたこと。その一つに、BETA相手に支援砲撃なしで迎撃するのは非常に困難という項目があることを思えばこれは大きい。実際、対地砲撃戦や空母艦載戦術機群が緊急展開しやすいという地理上の特性は大きく注目されてしかるべきだった。実際に統合参謀本部では、既に計画されている欧州防衛計画に加えてギリシャ防衛計画の立案を検討し始めている。近い将来、アテネに司令部が設置されるだろうというのが現状の見込みだ。「地政学的に見た場合でも、黒海方面へのアクセス・地中海の防護、ひいてはスエズ・ジブラルタル航路の安全につながるでしょう。」なにより、地中海航路という大動脈を守れるという事が内々で危惧されていた航路の寸断阻止という点で評価されている。大航海時代でもあるまいし、喜望峰回りで航海するという事に伴う時間・費用の問題が回避されるということ。それだけで、人類にとって貴重な戦略上の利点たりえるだろうということは明白だった。「並行し、北上することで西進するBETA群側面の牽制も叶うことを考慮するならばアテネは要塞化されねばなりません。」加えて、東欧の下腹部に位置するギリシャからBETA群西進をけん制することも見込める。現状では、東欧の失陥が時間の問題であると見做しているターニャにしてみれば短期的にはさほど価値がある立地ではない。だが、反攻作戦を行う時が来るとすれば極めて重要な拠点たりえるだろうと期待している。「唯一、憂慮すべき点があるとすれば山脈地帯を光線級に制圧された場合の照射ですがこれらも基本的に地形が解決しえます。」匍匐飛行による光線級吶喊。ある意味では、スウェーデンの国土に部分的に近い条件でもある。そういう観点から見た場合、スウェーデンのドラケンをライセンス生産してもいいほどだとターニャは考えていた。早い話が、シチリア・ピレネー・ギリシャの各要所において匍匐飛行に特化した戦術機は拠点防衛に最適ではないかと考えるからだ。其方についても、すでに統合参謀本部は内々にではあるがドラケンを一個中隊分ほどF-4の2個中隊との物々交換で入手する交渉を始めてくれている。「結構。ギリシャに関しては参謀本部で分析させよう。」それ故にすべてが予定調和だった。議長国の英国が、ごくごく穏当にまとめて閉幕。後は、この提案が持つ政治的な余波を各国がどのように受け止め、かつ対応するかという事だ。そして、ターニャにとってそれは最早手の届くレベルの話ではない。おまけ 『某国連軍事務次官補の暴言集その① インペリアルジャパンの新型に対して』「それで、その新型の配備ペースの見込みは?」「30機ほどです。」提示されたスペックを吟味してみれば、悪くない。近接戦特化、整備性最悪とは整備に喧嘩を売っているような仕様だ。だが、それもハイヴ内戦闘で役に立つことを思えば。何もインペリアルガードで国内防衛に使わずとも桜花で使ったようにハイヴ突入部隊に装備させれば事足りよう。「なるほど。では、明星作戦には連隊程度は動員できると考えてもよろしいでしょうか。」「…は?」「ん?ああ、もちろん指揮権を寄越せなどと申し上げるつもりは。」そう考えれば、整備性・量産性が最悪と言われる戦術機だろうとも評価できる。だから、今度の明星作戦にもぜひ欲しかった。国土奪還作戦であること、G弾をできれば投入させたくないことを考慮すれば。是非とも、日本帝国の戦術機に突入成功してほしいと思わざるを得ないところだ。「三個大隊のインペリアルガード、カタログスペックからしてハイヴ突入部隊に最適でしょう。」だから、佐渡島でインペリアルガードが緊急展開した時の様に是非とも三個大隊程度の00式戦術歩行戦闘機がほしかった。既に京都が失陥し、仙台にまで帝都が疎開している情勢下だ。京都防衛戦時に確認されたインペリアルの新型、ぜひとも前倒しで投入したかった。「軌道降下兵団と共同していただければ、とこちらとしては思うのですが。」「××××××事務次官補、誤解があるようですが、その30機ですよ?」「ええ、月産30機ですよね?高性能機でハイヴ突入に特化している以上やむを得ないとは思いますが。」国土が侵されているときに、月産30機ペースとはさすがに生産性・整備性に難がありすぎるといわれるだけの機体ではある。だが、まあ、突入戦時の能力を考慮すれば日本帝国がハイヴ内戦闘にかける意思の表れでもあると言えよう。実際のところ、工業地帯を喪失してなお月産30機であるとすれば、決して悪い数字でないと判断した。少なくとも、その時までは。「事務次官補、月産ではありません。」「え?」月産でないとすれば、何か?まさか、四半期ごとの生産ペースだとでもいう気だろうか。そうであるならば、確かに現状の日本帝国の窮状を勘案すれば無理をしてその程度かとも考えられる。さすがに、その規模では三個大隊出せというのは酷か?と考えかけたときだ。「年間総生産で、30の見込みです。しかも、6種合計で。」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?アホか?」国土の大半が失陥し、大規模反抗作戦を国連が主導して行おうというこの時期に。量産性が最悪どころか、年産30ペースの機種を、6種も整備する?「失礼、アホですか?何か、戦争をフォーミュラ1か何かと勘違いされておいてですか?」あとがき (._. )( ・_・)(・_・ )( ・_・)?あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!な… 何を言っているのか わからねーと思うが 末期戦を書くのが自分の仕事だと思っていたらいつのまにか末期戦じみた期日で仕事をする羽目になっていた。おれも 何をされたのか わからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえもっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…ここしばらく、師走ってレベルじゃないピンチでした。ちょっと末期戦にも優しさが必要だと学びましたので、愛と優しさをブレンドして次回、ウォーケン氏の語る地獄のような後衛戦をお届けする予定!というわけで、外伝的にちょっと泥臭い地獄を書こうかと思っています。追伸外伝を抜いた次回の戦場はΠεριφερειακή ενότητα Αρκαδίαςを予定しております。欧州方面はもう、柴犬がやってくれているのであまり描写されていない中東・ギリシャ方面でもやろうかなぁと。ZAPしました。ニューカルロ・ゼン11がロールアウトしました。漢字変換に深刻なエラーがある気がします。