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No.3920の一覧
[0] 白銀武の娘がニートを目指しているようです(短編)[男爵イモ](2008/08/26 02:31)
[1] [男爵イモ](2008/08/26 02:31)
[2] [男爵イモ](2008/08/27 06:47)
[3] [男爵イモ](2008/08/27 06:46)
[4] おまけ・とある訓練兵の日記[男爵イモ](2008/08/27 07:09)
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[3920] おまけ・とある訓練兵の日記
Name: 男爵イモ◆16267a69 ID:23e52052 前を表示する
Date: 2008/08/27 07:09
 ○月×日(晴)

 毎日毎日ボクらは軍曹の 罵声聞かされ 嫌になっちゃうよ♪

 もう数日、ずっと同じことの繰り返しで、昨日と今日の区別がつかなくなりつつある。日記をつけることにする。
 今日もひたすら走り続ける。もしかしたら国連軍は走る機械を作りたいのかもしれない。

 涼宮軍曹は間違いなくドS。



 ○月×日(晴)

 どうも初日から熱い視線を送ってくるゴリラがいるようだ。名前は知らない。幸いにして別小隊。
 野生動物は希少なのだから、最近できたという動物園とかいう施設に行けばいいと思う。

 ひたすら走らされる。
 あと四本くらい脚が欲しい。

 父さんはこんなところを一ヶ月半程度で易々と卒業。その期間中にXM3発案。
 怪物すぎる。



 ○月×日(雨)

 軍曹・今日の名言。
「貴様たち、雨の中を走りたいか? そうか、走りたいか。ではまず20キロメートルだ」
 独り言はほどほどにしてほしい。

 さば味噌定食、美味しい。



 ○月×日(雨)

 実はわたしは衛士訓練部隊の分隊長に任命されていたりする。
 でも隊員たちの名前が思い出せない。
 姓は涼宮軍曹が怒鳴りまくるので知っている。忘れないうちに書いておく。
 ・白銀分隊
白銀:♀:分隊長。わたし。
オウィシー:♀:変な笑い方をする。んっふっふっふっ。笑うな。
剛田(ごうだ):♂:性欲の対象が絵であるらしい。初日にカミングアウト。みんなドン引き。
瞬(またたき):♂:不能らしい。初日にカミングアウト。みんなドン引き。
所御須(しょごす):♀:なんかスライムっぽい。新種のBETAやもしれぬ。



 ○月×日(雨)

 軍曹・今日の名言。
「貴様は本当に人類なのか?」
 指示を守らない(守れない?)ゴリラを楽々張り倒す。すごい。
 ゴリラ泥まみれ。うほ。



 ○月×日(曇)

 雨がやんだ。
 今日も雨なら所御須が溶けていたかもしれない。
 うちの分隊、変な人が多い気がする。

 『ザガク』は『ザ・学問』の略称ではないことが判明。正しくは『座学』。
 U子せんせーに騙されていたらしい。危なかった。



 ○月×日(晴)

 屋上から見下ろす。町がまるでゴミのようだ。実際廃墟だらけ。
 連日続く雨で、桜の花が地面に落ちてしまった。



 ○月×日(晴)

 軍曹・今日の名言。
「貴様はBETAや敵を前に『生理だからちょっと待ってください』というのか? だったらいまここで死ね。それが嫌なら走って死ぬかお家に帰れ」
 オウィシーを容赦なく走らせる。

 連帯責任。オウィシーの代わりに分隊みんなで走る。意外と話がわかる軍曹。
 オウィシー、謝る。
 剛田、イインダヨー。
 瞬、グリーンダヨー。

 なんという連携。ちょっと見直す。



 ○月×日(晴)

 今日は連帯責任で距離追加されることを前提に体力配分を行おうと皆で決める。
 体力配分を考えられる程度に成長していた。驚き。
 オウィシー、謝る。
 剛田、友情は。
 瞬、見返りを。
 所御須、テケリ・リ。

 オウィシーに別の分隊の人間がからんできた。
 復讐するは我にあり。
 プロジェクションで一晩中クトゥルー系のイメージを送り続ける。これを書いているいまも送り続けている。
 明日が楽しみ。



 ○月×日(曇)
 貫徹。
 眠い。

 軍曹・今日の名言。
「眠いならここで寝ろ。二度と起きなくていいぞ」
 昨日絡んできた訓練兵と一緒にボろ雑巾み



 ○月×日(晴)

 昨日は書いている途中で寝てしまったらしい。追記はしない。

 今日は祝うべき日である。親愛なる軍曹殿にあだ名が生まれた。
 『アカネちん』
 どことなく卑猥でいい感じだ。
 剛田、初日にしていきなり本人の前で口を滑らせる。
 皆揃って顔面蒼白。
 アカネちんが、お礼をしたいから誰が考えたのか教えてほしいという。超笑顔。怖かった。
 皆にプロジェクション。オウィシーに絡んできた人のイメージ。
 こうして冤罪は生まれる。

 プロジェクションは苦手。

 残念ながらアカネちんの名言生まれず。



 ○月×日(雨)

 うささんの耳すりすり。



 ○月×日(晴)

 今日までさば味噌定食だけを食べてきた。そろそろ新しいメニューを開拓すべきだといわれる。
 あまり食にこだわりがないわたしを、皆が憐れむように見る。
 楽しみは食事くらいだ、とのこと。
 だけどそんなことはない。世の中にはバルジャーノンという素晴らしいものがある。でもここにはない。

 中華丼。味は忘れた。
 大陸には中華丼しかないのだろうか。
 日本丼という料理はない。



 ○月×日(晴)

 母さんから手紙が届く。
 わかっているとはいえ、検閲されているのは気分がよろしくない。暗号でもつくろうかしら。

 父さんが、近況報告の手紙を欲しがっているらしい。
 U子せんせーと連名でスパルタ指定したように、アカネちんに訊けばいいのに。

 クララがときどき家に遊びにくるとのこと。
 その度に母さんをわたしと間違える。
 もしや勝手にわたしの部屋を探索してはいないだろうか。アレを発見されると困る。



 ○月×日(晴)

 久し振りのアカネちん・今日の名言。
「脳みそかっぽじってよく聞け!」
 死ねということだろうか。



 ○月×日(曇)

 記念すべき100回目なので書く。父さんのことが話題になった回数。
 うんざりしつつ、100回目だと文句をいったところ、ファザコンだといわれる。
 大いに不満。






 日記はここで途切れている。
 以降白紙。
 わずかに半月しか続かなかった日記。微妙に三日坊主である。

 よくわからない単語も含まれているが、内容は大体理解できた。

「まったく……。白銀の娘、か」

 浮かぶ苦い笑み。けれども苦いだけではない。
 走る機械やら足があと四本やら、このあたりの奇抜な発想は父親から遺伝しているのだろうか。もっと違うものも受け継ぐべきだったろうに。

 つい数日前に任官して巣立っていった少女の父親。
 いまでは名を知らぬ者の方が少ない。軍関係者ならば、知らぬ者はいないだろう。

 彼は茜の古い知人である。

 片や人類の英雄、片や訓練学校の教官。
 それでも、お互い軍人として一番若かった時代を共に過ごした戦友である。
 当時茜が所属していた部隊は、人数が少なく外部に対して閉じていたため、あの時代からの戦友と呼べる人たちはもう数えるほどしかいない。それどころか、現役で軍に籍を置く者は既に彼と茜との二人きりだ。

 BETAを病に、戦争を医療にたとえるならば、戦場という臨床、XM3開発という研究。彼はこの二分野で名を上げている。
 ならば自分は教育の場で神宮司軍曹の血統を、姉や友や尊敬する先達から受け取ったものを、すべて後世に残していこう。いま茜は、その心で教官を務めている。

 腑抜けた少年少女ら相手に鬼軍曹を演じるのは意外と大変だと、茜はいまになって神宮司軍曹の苦労を理解していた。
 一方の彼は、きっといまになってラダビノッド司令や香月副司令の苦悩を味わっているのだろう。

 月からBETAを駆逐しきって、彼は戦術機を降りたと聞く。

 XM3の搭載を大前提とし、激しい三次元機動を突き詰めた第四世代機。
 月面での戦闘のために作られた第五世代機。

 いずれの世代の機体も、ハイヴ突入のスペシャリストなどと呼ばれた彼の部隊には常に最新型が回されていたらしいので、彼は茜が触れたことのない機体を多く経験している。
 茜は思う。いつか話す機会が訪れたならば、そのあたりのことを是非とも聞いてみたいものである、と。
 しかし、閣下などと呼ぶときに笑ってしまいそうな気がするのが、目下彼女の一番の心配ごとである。

 そんなことを考える涼宮茜は、やはりいまは亡き速瀬水月の影響を最も強く受けた一人なのであった。





 椅子に座り、こちらに背を向けたままのU子せんせーが片腕を軽く掲げてひらひらと振る。
 その手には、

「ななななんでU子せんせーがそれを……!?」

 働いた悪行が人目をはばかることなく赤裸々に書き記されている日記帳。
 プロジェクション悪用の自白など、然るべきところに届けられれば、父さんとU子せんせーがまとめて失脚してもなんら不思議ではない。
 そのくらいのことはわかるようになったからこそ、唐突にその存在を思い出した日記帳が見つからずに死ぬほど焦ったというのに。

「部屋に置き忘れていたのを、涼宮が回収しておいてくれたんですってぇ。感謝しときなさいよ~?」

 これでもかと粘着質な声。
 言葉だけで全身絡めとられ身動きを制限される錯覚。自分は本当に、ちゃんと呼吸できているだろうか。

 ごくり、と喉が鳴る音がやけに響いて聞こえた。

 正直、つい数日前まで世界最恐だと信じて疑わなかった涼宮軍曹の百倍は恐ろしい。面と向かっているわけでもないのに。
 もしかしてBETA大戦を戦い抜いた軍の上層部はこんな化け物だらけなのだろうか。
 というか、自分はこんな人をU子せんせーなどと気の抜けた声で呼んで慕っていたのか。火薬庫で、そうとは知らず火遊びしていたようなものだ。あな恐ろしや。

 やっぱりかつての夢であった自宅防衛軍に出向したくなってきた。辞表って誰に提出すればいいのだろうか。

 勇気を振り絞って、口を開く。

「じゃあ、その中身は―――」
「さあ? 親愛なる軍曹殿本人に訊きに行けばいいんじゃない? 喜んでたわよ。久しぶりに若い子に名前で呼んでもらえたって」

 訓練兵のときに見つからなくてよかった。

「えっと……」

 なんと返事をすればいいかわからないわたしに、

「これ、状況の説明と併せてあんたの父親に渡そうと思ってるんだけど。そのあたりのことどう思う?」

 こうして一人の奴隷が爆誕した。

 ちなみに、父さんには涼宮軍曹から説明が行くこととなり、結局ものすごく怒られることになりました、まる。






~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

【辞書】

・別の日記帳より抜粋
■白銀分隊
 わたし。分隊長。真人間。
 クラウディア・オウィシー。「んっふっふっ」って笑う女。笑うな。
 所御須 てけり子(ショゴス テケリコ)。なんかスライムっぽい。こいつ新種のBETAなんじゃなかろか。
 剛田 徹駆(ゴウダ テック)。禁書を男連中に配ってるらしい。自称・三次元には興味ない。本当だろうか。
 瞬 金太(マタタキ キンタ)。卑猥な名前。自称・不能。本当だろうか。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 今度こそおしまいです。読んでくださった方、本当にありがとうございました。
 ゆちゃ様のご感想から『アカネちん』のアイディアをお借りしました。本当にありがとうございました。
 どう考えても涼宮軍曹にならむしろ罵られたいです。本当にありがとうございました。
 


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