「避難地域が帝都全域に拡大したわ!」
「帝国華撃団が防いでる間に、ここも移動して!」
「大きいのがまた新手出してきてます!」
薔薇組の三人が、逃げ惑っている避難民を誘導し、動けない者をかついで避難用の蒸気トラックへと乗せてゆく。
「もう大丈夫だよ。じゃあ他に怪我してる人は?」
避難の車が出るまでの間、芳佳は怪我人達に応急手当を施していく。
その様子を見ながら、上空には静夏が護衛のために待機していた。
「急いで下さい! こっちはもう予備弾倉残一です!」
「もう少しだけ持たせてちょうだい! 後少しで終るわ!」
「4時方向、飛行型が来ます! 7時から陸戦型!」
静夏の悲鳴のような通達に琴音が思わず声を荒げそうになるが、菊之丞の報告に顔色が変わる。
「斧彦!」
「お任せよ~♪」
琴音が自分達が乗ってきた蒸気自動車から用心して持ってきていた機関銃を取り出し、斧彦が軽々とそれを構える。
「急いで! 多分足止めになるかどうよ!」
「もうすぐ最後の便が来ます!」
「迎撃します!」
こちらに向かってくる飛行型に向って静夏が突撃していき、斧彦がトリガーを引こうとした時だった。
突然、向かってきていた陸戦型が何者かの攻撃を受けて吹き飛ぶ。
「あら?」
「あれは………」
陸戦型に向って、白、黄色、紫の三色の霊子甲冑が突撃し、陸戦型を破壊していく。
「あれは………」
「驚いた。三色スミレじゃない」
「三色スミレ?」
「霊子甲冑の試作機よ。誰が乗ってるのかしら」
「すいません、遅れました! 帝国華撃団乙女組、今到着しました!」
白の三色スミレから、まだ幼さの残る少女の声が響いてくる。
「乙女組って、花組の候補生達よ………呼んだのは大神大尉、じゃないわね。すみれさん辺りかしら。貴女達、ちょうどいい所に来たわ。このまま避難済むまで、警護お願い出来る?」
『了解です!』
三機の三色スミレ、そのどれもから幼さの残る声が響いてくるのに、中身を想像して琴音は僅かに眉根を寄せる。
「静夏ちゃんは?」
「今交戦中、最後の一機!」
菊之丞が双眼鏡を手に、向かってきていた数機の飛行型を静夏が美緒に教えこまれた技術をフルで発揮し、撃墜していく。
「これで、最後!」
最後の一機に残弾を撃ちこみ、撃破した所で装填済みの弾倉が尽きる。
「最後の弾倉です! 一度補給に戻らないと」
「こっちも今最後の便が出たわ」
「なんならこっちも使う?」
最後の弾倉を叩き込んだ静夏に斧彦が用意していた機関銃を差し伸べた時だった。
どこから飛来したビームが、油断していた静夏に直撃する。
「ああっ!」
かろうじてシールドで防いだ静夏だったが、疲労も重なり、吹き飛ばされて地面へと叩きつけられる。
「静夏ちゃん!」
「今の攻撃、どこから!?」
芳佳が驚いて静夏へと駆け寄り、薔薇組は周囲を最大級の警戒をする。
「い、いました! 10時方向、見た事も無い飛行型!」
菊之丞が双眼鏡越しに、かなり離れた所にいる長い砲身を持った飛行型を発見する。
「あの形状、行けない! 逃げなさい!」
「え?」
それが狙撃特化機だと気付いた琴音が乙女組に警告を発するが、僅かに遅く発射されたビームが三色スミレをかすめていく。
「きゃあああ!」「わああっ!」「ひえええぇ!」
三機の三色スミレから三人の悲鳴が漏れる中、長距離からの狙撃が確実に三機の足を止め、それを見計らったように新手が押し寄せてくる。
「2時、8時、11時方向からも来ます!」
「なんて事! 撤退、撤退するわよ!」
「足をやられました! 動きません!」
「しっかりして! 目覚まして!」
奇襲を食らった三色スミレは一機擱坐、一機が操縦者が失神し、残った一機が必至に仲間を守ろうとしている。
「避難が終る隙を狙っていたっていうの!? 陰険にも程が有るわ! 乙女組、機体を捨てなさい! こっちに乗って!」
「し、しかし!」
「あんな訳の分からない連中に捕まったら何されるか分からないわよ!」
「敵、更に接近してます!」
「来るんじゃないわよ~!」
琴音の指示に戸惑う乙女組だったが、すでに敵は目前まで迫っており、斧彦が少しでも時間を稼ぐべく、機関銃を乱射する。
「静夏ちゃん! しっかり!」
「う………」
芳佳は静夏を揺するが、ダメージが大きかったのか、静夏は目を覚まそうとしない。
「菊之丞! 二人を連れて来て! もう持たないわよ!」
「分かりました! 芳佳さん、こっちへ!」
菊之丞が手を貸すべく、芳佳の方へと近寄ろうとした時だった。
再度狙撃機の砲撃が、両者の間に命中する。
「きゃあ!」
「邪魔するつもり!? こちら薔薇組、大至急救援を!」
「させない!」
芳佳がかたわらに転がっていた九十九式二号二型改機関銃を手に取り、魔力の無い今の芳佳には重すぎるそれを抱え上げ、迫ってくる陸戦型へと向ってトリガーを引く。
いかなる偶然か、放たれた弾丸は砲撃寸前だった陸戦型の砲口に飛び込み、誘爆させて一体を撃破する。
「や…」
芳佳が声を上げそうになった瞬間、爆発に巻き込まれた他の陸戦型の狙いが狂い、威嚇のために放っていた銃撃が、芳佳の腹部を貫いた。
「宮藤さ………!」
自分の顔に何か生暖かい物がかかった事で目を覚ました静夏だったが、それが自分を守っていた芳佳から飛び散った鮮血だと気づくと、一気に覚醒した。
「宮藤さん!」
「芳佳さん!」
地面へと倒れこんだ芳佳に、静夏と琴音が絶望的な声を上げる。
「菊之丞!」
「は、はい!」
先程まで芳佳が使っていた医療箱を手にした菊之丞だったが、陸戦型が素早く間に入り、二人を取り囲んでいく。
「誰か、誰か来てください! 宮藤さんが、宮藤さんが!」
「宮藤少尉が重傷! 超大至急で誰か来なさい!」
静夏と琴音の報告は、電撃のようにその場で戦っていた者達へと伝わっていった。
「芳佳ちゃんが重傷!? 待ってて、今行くから!」
「全機、零神を援護して宮藤少尉を救出!」
急いで向かおうとする音羽だったが、その隙を作りまいと、空戦型が立ち塞がる。
「どいて! 急がないと!」
音羽は全力で届いたばかりのMVソードを振るい、包囲を突破しようとする。
「アーンヴァル!」
『こちらも包囲されてます! でもなんとか行ってみます!』
「急いでくれ!」
美緒がアーンヴァルから送られてくるデータを元に、最短通路を導こうとする。
だが敵は多く、周りには防戦一方の新人ウィッチ達がおり、不用意に離れる事も難しかった。
「頑張れ宮藤! 今救援が向かう!」
「ポイント確認! オペレッタ!」
『相次ぐ転移で、周辺空間が不安定です。回収は不可能』
「じゃあ私が行く! 待ってて芳佳ちゃん!」
亜乃亜がビックバイパーの機首を回すが、周辺の敵は数を減らす度に更に増援が来る。
「どいて~~!!」
亜乃亜の絶叫は、何よりもの焦りの証拠だった。
「私が向かいます!」
「援護するわ!」
「カルナ、治療ポッドの準備を!」
急行しようとするエグゼリカだったが、運悪く目的地からは一番遠い。
十重二十重の敵陣を突破するのは、極めて困難だった。
「芳佳さん、今行きます!」
それでも、エグゼリカは向かう事をためらわなかった。
「芳佳君が重傷!?」
「大神さん!」
「行ってくれさくら君! ここはなんとかする!」
「ボクも向かおう!」
「私も行くわ!」
さくらとムルメルティア、ポリリーナが救援に向かうが、突出を阻むように敵が現れる。
「どいて下さい! 芳佳さん!」
「芳佳!」
さくらとポリリーナは、声を上げずにはいられなかった。
「宮藤さん、今みんなが来ます! もう少しだけ頑張ってください!」
静夏は自らのインカムを外し、芳佳へと付ける。
そしてそれまで芳佳を守るべく、銃を手に立ち上がった。
「この人は渡しません! 絶対に!!」
絶望的な状況に、涙を流しながらも、静夏はありったけの銃弾をばら撒く。
薬莢が飛び散る中、芳佳は朦朧とした意識の中、声を聞いていた。
『芳佳ちゃん!』『宮藤!』『芳佳ちゃん!』『芳佳さん!』
音羽が、美緒が、亜乃亜が、エグゼリカが、共に戦った仲間達が必死になって自分を呼んでいる。
(みんな…………)
傍らでは、静夏が残った力の全てを持って、戦っている。
(静夏ちゃん………)
ぼやける視界に、戦っている者達の姿が映る。
そこに向って、芳佳は手を伸ばしていた。
(呼んでる………みんなが………行かなくちゃ………)
芳佳は伸ばした手を、強く握りしめる。
今そこへ、戦場へ向かわんと。
「これは!」
かえでは、最早直視出来ない程に輝いている白羽鳥に愕然とする。
そこで、突然白羽鳥は台座から外れたかと思うと、まるで自らの意思でもあるかの様に窓を突き破ってどこかへと飛んでいった。
「白羽鳥が………誰かを、選んだ?」
乾いた音を立てて、残弾が尽きる。
「あ………」
静夏は何度もトリガーを引くが、すでに放たれるべき弾丸は全く残ってなかった。
「そんな………宮藤さん………ごめんなさ…」
絶望に包まれながら、静夏が謝罪を口にした時、閃光が天空から降ってきた。
「何!?」
「何か来ました!」
「今度は何よ!?」
奮戦していた薔薇組の三人も、予想外の事に思わずそちらへと振り向く。
降ってきた何かを確認する間もなく、目がくらむほどの閃光が、辺りを染め上げた。
(あれ、ここは………)
芳佳は、自分が淡い光が満ちた空間にいる事に気付く。
「私、ひょっとして、死んじゃったの?」
『いいえ、貴女は死んではいません』
「誰?」
響いてきた声に、芳佳はそちらを見る。
淡い光の中に、人型の影がおり、そこから穏やかな女性の声が響いてきていた。
『貴女はまだ死ぬべき宿命ではありません。そして、貴方の力も失われたわけではありません』
「え、本当ですか!?」
『貴女の力は、眠っているだけです。もし必要ならば、その力を目覚めさせてあげましょう』
「それじゃすぐに…」
『しかし、それは戦場を離れ、平穏な人生を歩む機会を失う事にもなります。よく考えなさい。貴女は何故、再び戦おうとするのですか?』
諭すような声に、芳佳は迷う事無く、答えた。
「友達が、戦っているんです。私はあそこへ、戻らないと」
『………それが貴女の答えですか。分かりました』
声は頷くと両手を前へと差し出す。
その手に光が集まり、やがてそれは一振りの剣となった。
『この神剣・白羽鳥が貴女の眠っている力を呼び起こしてくれるでしょう。そして行きなさい、貴女の居場所へ』
芳佳は手を伸ばし、白羽鳥を受け取る。
その時、相手の顔が僅かに見えた。
ある人物に似た、柔和で自愛に満ちた顔に。
「かえでさん、じゃない?」
そこで一気に芳佳の意識は覚醒していく。
閃光が晴れると同時に、別の光がその場を照らし出す。
とてつもなく巨大な、魔法陣の光が。
「何が起きてるの!?」
「あれ、芳佳さんが!」
訳の分からない琴音が、菊之丞の指差す方向を見た。
そこには、重傷を負っていたはずの芳佳が立ち上がり、手に一本の剣を手にしている。
鞘に収まっていたその剣を芳佳がゆっくり抜き放つと、体から魔力の燐光が漏れだし、頭と腰にはウィッチの証である使い魔の耳と尻尾が出現していた。
「あれは、神剣・白羽鳥! 何故彼女が!」
「な、何かすごそうよ………」
溢れ出る魔力の光に、その場にいた者達が唖然とする。
「宮藤、さん?」
「静夏ちゃん、ありがとう。後は休んでて」
自分とは比べ物にならない、ケタ違いの魔力を放つ芳佳に静夏は信じられない物を見るような顔をしていた。
芳佳はそっと礼を言いながら、確かな足取りで静夏の前へと出た。
「宮藤 芳佳、行きます!」
力のこもった宣言と共に、芳佳は駆け出し、手前にいた陸戦型へと白羽鳥を振り下ろす。
莫大な魔力のこもった斬撃は、一撃で陸戦型を両断、文字通り吹き飛ばした。
「すごい………」
「これが、あの子の本当の力………」
静夏や琴音、他の薔薇組や乙女組の者達も、圧倒的な芳佳の力に呆然とするしかなかった。
それに目をつけたのか、他の敵は一斉に芳佳へと狙いを定め、向かってくる。
「はああぁっ! たああっ!」
芳佳は白羽鳥を振るい続け、敵を次々撃破していくが、数の多さに不利を悟っていた。
そこで横目に、失神した搭乗者を降ろしている最中の三色スミレが入ってくる。
(ひょっとしたらウィッチでも動かせるかもしれないな)
父の言っていた事を思い出した芳佳は、三色スミレへと駆け寄る。
「すいません、コレ借ります!」
「え?」
乙女組が唖然とする中、芳佳は白羽鳥を鞘に収め三色スミレへと搭乗し、ハッチを閉める。
「霊子甲冑はそう簡単に…」
琴音も思わず声を掛ける中、新たな搭乗者を得た三色スミレが蒸気を吹き上げ、再起動した。
「………ウソ」
「な、な、なんやさっきの!? 霊力計が吹っ飛ぶかと思ったで!」
「霊力、と微妙に違う。これはウィッチの魔力反応のようだ」
「それにしてもすさまじい力やで!? 一体誰や!」
紅蘭とレニが突然出現した魔力反応に驚く中、機能停止していたはずの三色スミレの再起動に気付く。
「すごい出力や! 誰が乗ってるんや!?」
『宮藤 芳佳です!』
「宮藤はん!?」
通信に映る芳佳の顔に、紅蘭は再度驚く。
「ちょ、いきなりで動かせるんかいな!?」
『やってみます!』
「無理だ、そう簡単には」
『お願い、動いて!』
声と共に、三色スミレが動き出す。
膨大な魔力に突き動かされ、先程とはまるで違う動きで、敵へと向かっていった。
「たああぁぁ!」
芳佳は三色スミレを駆り、陸戦型へと巨大な白刃を振り下ろす。
一撃で敵を両断したのみならず、余波だけで周辺の陸戦型を巻き込み、数体まとめて粉砕していた。
「そこです!」
霊子甲冑用拳銃を構えて速射、一発で一体ずつを確実に破壊していく。
「すご過ぎ………」
「こ、これが宮藤少尉の実力………」
圧倒的な戦いに、誰もが絶句していた。
その戦いが、別の問題を起こす事に、見ていた者達は気付いていなかった。
『な、なんやこの凄まじい数値は!? あかん、機体が耐えられへんで!』
「なんですって!?」
紅蘭からの大慌ての通信に、琴音の声が裏返る。
それを証明するかのように、三色スミレの各所から、蒸気漏れが起きつつあった。
「まずいわ! やっぱり誰か早く来て!」
「間違いありません、これは宮藤少尉の反応です!」
「彼女は、力を失ったと聞いていたが………」
「まあ、完全に失ってなかった、という事ですかね?」
七恵の喜色を含んだ報告に、門脇と冬后は若干首を傾げる。
「敵、宮藤少尉に向かい始めました! 完全に狙われてます!」
「そりゃあ、あんだけ目立つ事すりゃあな………」
「ソニックダイバー隊を宮藤少尉の援護に」
「ソニックダイバー達、宮藤少尉の元に向って下さい」
『了解!』
「ソニックダイバーレスキュー隊、帰投しました!」
「すぐに再出撃の準備を…」
『宮藤博士はそこにおるか!?』
指示が飛び交う臨時指揮所に、紅蘭の慌てた通信が飛び込んでくる。
「今格納庫の方ですが………」
『芳佳はんが霊子甲冑乗っ取るんやけど、芳佳はんの力が高過ぎるで! このままじゃ持って数分や! 専用武装がいるで!』
「何だって!? 宮藤博士に至急連絡!」
「でも確か、宮藤さんのストライカーユニットって、彼女専用って言える特殊な物だって坂本少佐が言ってたような………」
「取り敢えず連絡を!」
紅蘭から告げられた情報に、冬后と七恵が顔色を変え、タクミが慌てて格納庫に繋ぐ。
「宮藤博士! 今華撃団から通信がありまして…」
『状況は分かってる。可能性は考えていた。震電型ストライカーユニットも持ってきてはいたが………問題は、どうやって芳佳の元まで運ぶかだ』
『今宮藤はどうなっている?』
「戦場のど真ん中で孤軍奮闘してます!」
『高過ぎる魔力が、かえって敵の目標に
なってしまっているか………どうすれば………』
『冬后大佐! 私達が持って行きます!』
そこに帰投したばかりのソニックダイバーレスキュー隊からの提案が飛び込んでくる。
『映像資料は見させてもらいました!』
『彼女の能力なら、戦況を変えられます!』
『私達に運搬命令を!』
「…長官」
「宮藤少尉は、ウィッチの中でも抜きん出た力を持っているのは知っている。あの大型航空母艦と戦う以上、彼女の力は必要になるだろう」
『先程の解析不能なエネルギー源が個人の物だと言うのなら、こちらも援護する』
判断を迷う冬后に、門脇は芳佳の有用性を解き、群像も援護を申し出てくる。
「ソニックダイバーレスキュー隊、宮藤少尉のストライカーユニットを当人の元まで輸送せよ!」
『了解!』
『タカオ、輸送部隊を援護攻撃!』
『もう何がどうなってんのよ!』
ナノスキンの再塗布を終えたソニックダイバーレスキュー隊が次々と発進していき、イー401から援護攻撃が始まる。
「間に合ってくれ………」
宮藤博士は、ただ娘の無事を祈るしかなかった。
「敵は宮藤少尉に集中してる!」
「そりゃ、あれだけ目立つ事したら………」
「けどあの包囲、どうやって突破したら………」
勢い込んで輸送任務を受けたソニックダイバーレスキュー隊だったが、芳佳を包囲する敵の多さに、僅かに躊躇する。
『こっちで突破口開いてあげる! つうか武装くらいしときなさい!』
「これはレスキュー用の練習機なんです!」
「一応武装は借りてきましたけど………」
援護のミサイルを放ちながらタカオが文句をつけてくるが、ソニックダイバーレスキュー隊は用心のために持参した霊子甲冑用の武装を手にしながら、速度を上げる。
『敵群の一部が向ってきています! こちらの動きを察知された模様です!』
『こっちにも向かってきてるわ! ミサイルが撃墜された!』
「そんな!」
「来た!」
タクミとタカオの通信が示すように、敵群の一部が、恐ろしい程的確かつ迅速な動きで、ソニックダイバーレスキュー隊を包囲していく。
「冬后大佐!」
『戦闘は自衛に留めろ! つうかお前ら戦闘訓練なんて受けてねえだろ!』
「了解!」
震電型ストライカーユニットを守るべく、ソニックダイバーレスキュー隊が有時用にインストールされていた戦闘プログラム頼りで戦闘態勢を取ろうとした時だった。
「アールスティア、フルファイア!」
「ドラマチック・バースト!」
速射されるビーム砲撃と無数のサーチレーザーが、包囲しようとした飛行型を次々と撃ち落としていく。
「それをこちらへ!」
「後は任せて!」
エグゼリカがそう言いながらアンカーを伸ばし、亜乃亜は素早くガードにあたる。
『一任しろ! そいつらなら任せられる!』
「すいません、後お願いします!」
冬后の即断に、ソニックダイバーレスキュー隊は震電型が入った搬送用ポッドを投擲、エグゼリカは即座にそれをキャプチャーしてたぐり寄せる。
「私がサポートするから、エグゼリカちゃんは芳佳ちゃんの所へ!」
「お願いします! アールスティア、オートファイア!」
ビックバイパーのありったけの武装をセットする亜乃亜に護衛を任せ、エグゼリカは敵の間を高速ですり抜ける事に集中する。
「敵群、更に戦力を分散。完全にこちらの目的を予測されている………けど、これをなんとか芳佳さんに!」
「増援は皆が抑えてくれてる! ここを突破すれば!」
芳佳へと一直線に向かうエグゼリカに何かを察したのか、敵の攻撃が更に激しくなる。
亜乃亜は他のトリガーハートや天使達が増援をしのいでくれている事を確認しながら、向かってくる敵を次々と迎撃していく。
そこへ、今までのより更に小さい新型の飛行型が混じっている事に気付く。
「ここに来て新しいの来た! 注意して!」
「アールスティア…」
亜乃亜の忠告に、エグゼリカが砲口を向けようとした時だった。
小型飛行型が、突然尋常じゃない速度で友軍機の間をすり抜け、一気にエグゼリカへと迫ってくる。
「え…」
「突撃機!?」
亜乃亜の反応速度を超え、搬送用ポッドを抱えて速度に欠くエグゼリカに突撃、というよりも特攻してくる小型飛行型が目前まで迫る。
だが小型飛行型はいきなり狙いを反らし、明後日の方向へと向ったかと思うと、両断されて爆散する。
「ジャミング成功!」
「間に合った! こっちへ!」
ヴァローナを連れた音羽が、MVソードを仕舞ってエグゼリカへと零神のアームを伸ばす。
「ルートを作ります! ディアフェンド、アールスティア!」
搬送用ポッドを零神へと渡したエグゼリカが、アンカーで敵をキャプチャー、最大出力でスイングしてリリース、放たれた敵が他の敵を巻き込み、誘爆していく所にビーム砲撃を更に撃ちこみ、敵の包囲に穴を開ける。
「援護お願いヴァローナ!」
「OKオーニャー! FL015 エクスタス・ジャミングユニット、最大出力!」
エグゼリカが開けてくれた包囲の穴に、音羽は零神を突っ込ませ、ヴァローナが最大出力でジャミングを掛ける。
「全機、零神を援護!」
「敵、再包囲体制に入ってます!」
「させない!」
両手がふさがっている零神の周囲を、他のソニックダイバーが囲み、敵を迎撃していく。
「芳佳ちゃんの所に行かせて!」
「距離あと300、もう少し!」
芳佳の元に向かおうと必至な音羽に、ヴァローナもジャミングを続けながら、距離を計算する。
僅かに地上で奮戦している三色スミレの姿が見えた時、飛来した光条が零神をかすめた。
「うあ!?」
「オーニャー!」
「音羽!?」
「大丈夫、でもどこから!」
僅かに体勢を崩しかけたのを、何とか立て直した音羽だったが、再度の光条がかすめる。
「気をつけて下さい! 狙撃機です!」
「ジャミングが効いてない! 光学照準!?」
可憐とヴァローナが警告する中、三度目の狙撃が、零神の腕を直撃する。
「ああ!」
零神の損傷は小さかったが、衝撃に耐えかね、搬送用ポッドが滑り落ちる。
「そんな!」
「間に合え…」
瑛花も驚き、エリーゼが何とか回収しようととするが、それよりも敵が群がる方が早かった。
「破邪剣征・桜花天昇!!」
「静寂が支配する銀の楽園、リディニーク!」
「熱く…激しく…輝け! オーソレミーオ!」
搬送用ポッドに敵の攻撃が今にも放たれようとしたが、地面から噴出した莫大な霊力を伴った斬撃が、凍てつく冷気を伴った銃撃が、バラの花弁がごとき霊子レーザーの嵐が群がった敵を軒並み吹き飛ばし、落下した搬送用ポッドはそこにいた光武二式に受け止められる。
「これを芳佳さんの所に持っていけばいいんですね?」
下で搬送用ポッドが落下してくるのを見た帝国華撃団らがとっさに敵を迎撃し、さくら機が搬送用ポッドを無事に回収した。
「お願い! 早く芳佳ちゃんの所へ!」
「はい!」
「急いだ方がいい、向こうの機体の限界が近い」
「追手はここでなるべく食い止める!」
「これで役立たずだったら承知シマセ~ン」
さくら機の肩にいるプロキシマがナビを務め、マリア機と織姫機が殿を務める中、さくら機が搬送用ポッドを手に走り出すと、その横にイオナが併走し始める。
「貴女は…」
「エグゼリカが言っていた。友達のために戦っていると。それはその友達のための物?」
「そうよ」
同じくさくら機の横へとついたポリリーナが、イオナの問いに答える。
「分かった、援護する」
「ありがとうございます!」
「お礼は、届けてからにして」
イオナが率先して前に出て、包囲しようとする陸戦型をドリル型フィールドと重力球で露払いし、ポリリーナがバッキンビューで左右や後方の敵を牽制する。
「見えました!」
「芳佳!」
さくらが視線の先に芳佳の乗る三色スミレを捉え、ポリリーナが思わず叫ぶ。
だが芳佳の高過ぎる魔力にとうとう限界を迎えた三色スミレは、機体の各所から蒸気を噴出し、その場に擱坐してしまう。
「ああっ!」
「いけない!」
芳佳を助けようとポリリーナがテレポートしようとするが、その脇を小さな純白の影が高速で通り過ぎる。
「行きますマスター! これこそ天翔ける天使の騎馬!」
アーンヴァルが叫ぶと、体の各所の武装がパージ、合体して支援機《ラファール》へと変化、それにアーンヴァルが飛び乗る。
「グランニューレ!!」
ラファールが周辺に弾丸をばら撒きながら更に加速、アーンヴァル共々白い閃光と化して三色スミレに群がろうとしていた陸戦型へと突撃、次々と貫通破壊していく。
「ボクも行くぞ! 今が駆け抜ける時!」
サクラ機の肩からプロキシマが飛び降りると、背部パーツが展開、人身四脚の文字通りケンタウロス形態となると、フィールドを纏いながら突撃していく。
「オメガスターロード!!」
四脚で一気に空中を駆けながら、プロキシマは双刃の鎌ケイローンを振りかざし、アーンヴァルと共に陸戦型を穿ち、斬り裂いていく。
「武装神姫、データよりも更に戦闘力が増強
されてる」
「カッコいい………」
「今の内に!」
アーンヴァルとプロキシマが文字通り包囲に穴を開けている間に、三人は三色スミレへと駆け寄る。
「芳佳! 無事!?」
「大丈夫です!」
「これ持ってきました!」
ポリリーナの掛け声に芳佳は三色スミレから降りながら元気よく答え、さくら機が搬送用ポッドを地面に置いて展開、中から震電型ストライカーユニットが姿を表す。
「震電………私、帰りたいの。みんなのいる、あの場所に………だから、お願い………もう一度、飛ばせて」
呟きながら、芳佳は震電型ストライカーユニットへと足を入れる。
すると、先程よりも更に巨大な魔法陣が相場に発生、震電型ストライカーユニットが力強い音と共に起動する。
「エネルギー構成不明、人体のオルゴンエネルギーに酷似」
「みんな、ありがとう。今、そこに行きます!」
「芳佳ちゃん、使って!」
「こ、これを!」
イオナも流石に驚く中、芳佳は激戦の続く上空を見つめ、斧彦が使っていた機関銃を手渡し、静夏は空になったマガジンベルトを芳佳の腰に回すと鞘に収めた白羽鳥をそこに挿した。
「宮藤 芳佳、出撃します!!」
掛け声と共に、仲間達に見送られ、芳佳は魔力の残光を振り巻きながら天空へと飛び上がっていった………