農民兵、総勢500名。
普段は農業をしている彼等だが、戦になった場合徴兵され兵士の一員と数えられる。
しかしそれは普段から調練されている兵士と比べると、単純な命令しか実行できないので数合わせとしか見られていなかった。
そんな彼等が大事な戦前に屋外の広い広間に集められた。
彼等も何事かと互いにぼそぼそと相談しながら集まったのであるが、そこでは家臣筆頭の朝倉一郎が既に居たのである。
慌てるように彼等は頭を下げ、一郎の話を聞いたのだが、それはまた彼等にとって奇妙な事だった。
『君たちには新しい武器の運用を覚えてもらいたい』
そう言って一郎の傍に控えていた者達が農民兵達に黒光りする鉄の塊を手渡す。
ずしりと重い鉄の塊を渡された農民兵はこれでどう戦うのかと思ったが、一郎の前。
了解しましたと頷き、これから手本を見せるという技師たちの挙動を目で追う。
技師たちはテキパキと流れるように動作を完了させる。
農民兵達は一度見ただけでは挙動を再現できないだろうが、そこまでは難しくなさそうだとほぼ全員が思った。
準備が終わったという技師たちがこれから実演を見せるので、よく見て欲しいと言う。そこでまた農民兵達は頭を悩ませた。
技師たちは地面に膝をつき、鉄の塊を肩に担ぎ、両手で押さえ込む。
そして密集するわけでもなく、一列になって横並びに構えたのである。
戦場で地面に膝をついてジッとする。それは今までの彼等の常識からはかけ離れた行動だ。
――――そして、次の瞬間に耳にした音も常識からはかけ離れていた。
<ドガーーーーン!!………>
空気を震わせる轟音と破壊力に、その場にいた誰もが腰を抜かして恐れ慄く。
体を固くして見逃した者が多いが、なんと鉄の塊の先端が火を噴いたのである。
一郎は二度目ではあるが、改めて鉄砲の凄まじいまでの轟音と威力に度肝を抜かれた。
敵として見たてられた的は蜂の巣になっていた。
鋼鉄の弾丸が通り過ぎ、鎧さえも容易に突破して後ろに通り過ぎている。
JAPANの戦術思想に大きな革命を起こす兵器が目の前にあった。
「…裕輔君。君のお陰で、勝てるかもしれない」
これほどまでの威力を有する鉄砲だが、扱いは素人でも一日あれば使えるようになるらしい。
そう一郎は事前に種子島家から来ていた技師たちに説明を受けていた。
命中率を無視すれば、弾を装填して撃つくらいまでの動作はどんな奴でも一日で習得できると。
もっとも敵が眼前を覆い尽くす戦場で、まっすぐにさえ撃てれば誰かには当たる。
下手な鉄砲数打ちゃ当たるという諺があるが、撃った分だけ当たると言った塩梅に。
誰にでも扱えて、高い効用。
それが優れた兵器としての概念である。
その点で鉄砲は何十年もの修練を必要とする刀や弓などに比べて、遥かに兵器として優秀だった。
「各自、種子島家よりの使者の指導を早速受けてくれ!
時間は明日の昼までには必ず習得するように! わかったな!」
悲鳴を上げて鉄砲を落とした農民兵達はおそるおそる足元に落ちている鉄砲を拾う。
彼等に残された時間というものは余りに少ない。
(まだ間に合うはずだ…織田の本隊が到着するまでには)
織田軍、尾張の城より出兵。
その報せを一郎が受けたのは、つい先ほどの事だった。
■
夜が明け、裕輔は浅井朝倉の領内にまで帰ってきていた。
【報酬は豆200粒でどうよ? 年間契約もやろうと思えば出来るけど】
「いや、別にそれは構わないんだけど…豆200粒って高いの? どうなの? 雀業界的には」
【そんなことはないっすよ! ねぇ、玄さん】
【おうともさ】
さて、ここで裕輔以外にも人がいたら大層気味悪がるに違いない。
何故なら裕輔は先ほどから『一人』で、虚空に向けて話しかけているようにしか聞こえないのだから。
しかし裕輔の頭が狂ったというわけではなく、ちゃんと話し相手がいるのである。
「それで、年間契約とやらをすれば話せるし、ずっと従わせられるわけだな」
【そういうこった。別に雀はどこでも集められるが、その時その場にいる雀しか集められねぇ。
その点年間契約した雀ならラインが出来るから会話もできるし、ずっと会話もできるって寸法よ】
【雀を集めるって言っても、ちょっと時間がかかりますからねぇ】
それはなんと、裕輔の頭の上に乗ってチュンチュン囀っている雀なのだ。
なんと裕輔は雀と会話する事が呪い付きになる事で可能になったのである!
ちなみに会話をリアルでどのように交わしているかというと、こんな感じになる。
「あれ…? けど、まだ契約も結んでないのに、なんでお前ら話せるの?」
「ちゅ、ちゅちゅちゅ、ちゅ【そ、それは…ふ、懐に入ってある非常食を見ればわかるんじゃねぇかな?】」
「…って、オイ! 非常用の干飯がなくなってるじゃねぇか!?」
「チュンチュン!【細かいことを気にしていると禿げるっすよ】
こんな感じになるわけである。
しかし、こんな会話副音声付の会話をしても誰得なので、翻訳したものを直で記す事にする。
今は人がいないからいいが、人がいる場所ですれば裕輔は完全に夢の世界の住人となっていた。
「それで聞きたいんだが…お前らって、俺の能力でどこまで操れる? 他にも操れないのか?
例えば鷹とかもっとカッコいい奴」
【フハハッ、ワロスwww そこは私が説明しましょう】
チチチチ、と一羽の雀が裕輔の肩にとまる。
心なしか頭のよさそうな顔をしており、キリッとしている。
なんか説明キャラっぽい奴が出たなぁと裕輔は思った。
【まず呼び出せる範囲ですが、半径2km程度ですね。
というか鷹? 貴方も好きですね、厨二病乙wwww】
「………(なんだコイツ、果てしなくウゼぇ)」
【そして操れる数ですが…今のところ50羽くらいが限界じゃないんですか?】
発言もかなりウザい物があるが、内容がとても重要な事をこのインテリ雀は言った。
裕輔は聞き間違いであってほしいと思いながら、インテリ雀に聞き直す。
「50羽が限界…? たった、そんだけ? 発禁堕山のおっさんはおかしいくらいの数を操ってたぞ?」
【彼と貴方では年季が違いますしね。
せいぜい今の貴方の呪いの侵攻度から言っても、およそ50が妥当です】
発禁堕山がもう何年も呪い付きとして生活していたのに比べ、裕輔は昨晩呪い付きになったばかり。
そこに格差が生まれるのは当然であり、発禁堕山のほうが呪い付きとして格上だった。
【まぁゆっくりやればいいんじゃないんですか?
ニュータイプだって、始めは一般兵よりちょっと強いくらいなんですし】
「…なぁ、さっきから気になってたんだけど。
何でお前らそんな言葉知っているの? この時代にニュータイプとかいないし、知らないよね?」
先ほどから雀の話す言葉の中には、到底この時代では知りえない単語が多数ある。
お前ら時代考証を無視するんじゃねぇと裕輔は雀に訊ねた。
【簡単に説明しますと、私たちの言葉は貴方に伝わる時も雀のままです。
しかし、貴方の脳が音を認識する際に、貴方の脳内で一番私たちが伝えたいものに近いニュアンスに変換されます。
つまり貴方の脳内でわかりやすい言葉に置換されるわけですね】
つまり、雀の鳴き声(雀のまま)→耳で音の振動を感じ取る(雀のまま)
→振動で伝わった音を脳で識別する(ここで変換)→ぼく、スズメのことばがわかるんだー。
という脳内メルヘンが完成するのである。
「けど、雀の脳って相当小さいはずなんだけどな…」
【お? 聞き捨てならねぇな? 雀ディスってんのか?】
【玄さん落ち着いて! 流石にくちばしで目をつついたらマズイですって】
基本的に裕輔の命令に忠実だが、命令されていない時は自由のようだ。
一度裕輔が確固とした命令を下せば命令に従うが。
(しかし、纏めてみると…)
1. 操れる動物は今のところ? 雀のみ
2. 操れる数は一度で最大およそ50。しかも、半径2kmの範囲内にいる限り
3. 雀と契約したものに限り、常時侍らせて使役する事ができる
4. 契約した雀とは会話ができる。ただし、かなりウザい。しかも意図的に聞こえなくしたりとかは不可
「なんだよこれ…全然使えないじゃねーか…」
これだったら式神のほうがよほど使えそうである。
原作では鬼などを一般兵の陰陽師も使役していた事だし。
代償として失ったものは左腕と男としての尊厳。
等価交換って何? おいしいの? いや、生きていくには問題ないけどさ。
さめざめと涙しながら落ち込んでいる間に、何時しか浅井朝倉の城の前まで辿り着いていた裕輔だった。
(着いたんだから、早く降りてくれねぇかな…)
そんな事をパンダが思っていたかどうかは謎である。
■
ステータスが更新されました。
森本裕輔(呪い付き) 職種:無 Lv.3/15
攻 1
防 1
知 5
速 1*
探 1
交 6
建 1
コ 2
技能:神速の逃げ足
命に関わる危険を察知した場合にのみ発動。
発動した場合に限り【速】が9に上昇する。
しかし意図的に発動は出来ず、また命の危険性がなくなった時点で効果はなくなる。
技能:現代知識
現代において大学生程度の学力と知識を持っている。
あくまで一般的なレベルだが、それでもこの時代からすれば高水準。
技能:動物使役
呪い付きになった事により、雀を操れる。
効果範囲は半径2km、最大操作数は50羽。
呪いが侵攻して強まる事により、操作数と効果範囲は増加する。
技能:動物使役2
使役する動物と契約する事により、意志疎通が可能。
あとがき
気がついたらドSになっていた件について。
あるぇー? 禿げを無しにしたから、Sじゃないと思っていたのですがw
これで裕輔を禿げにしていたらドS神になっていたかもしれません。