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No.43735の一覧
[0] EVE -forever-[ポチョポチョムキムキン](2021/05/09 20:59)
[1] トゥー・スクープス編[ポチョポチョムキムキン](2021/06/14 17:50)
[2] トランスポーター編[ポチョポチョムキムキン](2022/05/29 18:34)
[3] 梶原シーゲル編1日目[ポチョポチョムキムキン](2022/07/10 17:35)
[4] まりな編1日目[ポチョポチョムキムキン](2022/08/11 22:08)
[5] 鈴木源三郎編2日目[ポチョポチョムキムキン](2024/03/20 22:43)
[6] まりな編2日目[ポチョポチョムキムキン](2024/04/03 06:42)
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[43735] まりな編2日目
Name: ポチョポチョムキムキン◆afcad83c ID:68145018 前を表示する
Date: 2024/04/03 06:42
まりな編2日目

『内閣情報調査室』の本部は霞が関の内閣府庁舎にある。

しかし私が向かうのは、甲野本部長が居を構えるセントラルオフィス街の合同庁舎に間借りしている『分室』になる。

大きなエスカレーターが正面にあるのが大きな特徴のビルよ。関係者の間では『本部ビル』って呼ばれてるんだけど、何の本部なのか実はよく分からない。

「はろはろー」

「うむ、来たね」

内調の分室には甲野本部長が常に務めている『役員室』があり、隣はガラス張りのコンピュータールームになっていて、何人かの内調の職員が常に業務を行っている。

「法条まりな調査官、本日付けをもって復帰着任しました」

「…どうしたの、まりなくぅん?今回はやけに普通じゃない?僕ぁてっきり、偽札の原版回収任務の途中で呼び戻したのを怒ってるかなって」

「…あのねぇ、本部長。公僕なんだから、仕事に私情は挟まないわよ。ちゃんと真面目にやるわよ」

「…本当にぃ?」

「何でそこで疑うの?」

「別にぃ?ほら、日頃の行いとかあるからねぇ。それから考えるに、今回のパターンは既にやらかしてるんじゃないかなぁって」

「ぎくぅ」

「何をしたんだい?別に怒らないから、正直に話してみなさい」

「いえ、煽り運転するバカを、とっ捕まえてやっただけなのよ」

「煽り運転んんん~?」

「ちゃんとNシステムに映像が残ってる筈だから」

「それだけを聞くと、別に何も問題無いように聴こえるけど、まりな君ならそれだけじゃ済まないよね?」

「私がGT-Rで湾岸線を走ってたら、後ろから来たポルシェ911GT2RSに滅茶苦茶煽られたの。横にでっかく『埼玉県警察』って書いてあるし、白黒ツートンのどこからどう見てもパトカーなのに。世の中にはとんでもないバカがいるのね。だからパトライト回して取り締まってやったわ」

「いやさ、まりなくんさあ…キミは交機じゃないんだから」

「公務執行妨害と妨害運転罪で、引継ぎの交機に引き渡してやったわよ。二つ合わせて6年100万以下ってところかしら」

「うむ。だからねぇ…それの事後処理は誰がやってるか知ってるかい?」

「さあ?」

「僕がしてるの」

「ぇえ?本部長がぁ?何で?部下にやらせなさいよ」

隣のガラス張りの部屋に視線を向ける。

「あのね、部下は君なの。でも君はやらないの。だから僕がしてるの」

「それは酷い部下ね。後で文句言ってあげるわ」

「頼むよぉ、まりなくぅん。お願いだから、他所のテリトリーを侵さないでくれないかい」

「むっ。真面目にお仕事してきた部下に随分な言いようね。誰のおかげでその椅子に座ってられると思ってるのかしら!」

両手でぎゅうぎゅうとチョビ髭を引っ張ってやる。

「いたたた!髭を引っ張らないでくれたまえ!君のおかげだよ!」

「でも、それとこれとは別の話。あまりこういう事してると、また香川君が怒鳴り込んでくるんだからさぁ」

「まーた、あのヒスメガネの名前。あの人、単に本部長に会える口実に使ってるだけじゃないのかしら」

「あー、もう!この話はやめやめ!一向に話が進まないんだからさぁ。ほんと、頼むよぅ」

「そんなシイタケの断面図みたいな涙目を浮かべられたらキモいわ。ダンディ中年とは到底呼べないわね」

「さて、では本題に入ろう」

「加齢にスルーしたわね」

「……何か漢字が違わないかい?」

「気のせいじゃないかしら」

「こほん。えー、では早速だが、あの大山田氏が亡くなった」

「誰?」

「大山田博士だよ。ウチのドローンの産みの親の」

「あら、それは日本国にとって痛い損失ね…それに本部長。その言い方は引っかかるわね」

「ほう、気付いたかね」

「長い付き合いなんだから、それくらい分かるわ。まず一つ目。ウチに話が来ているという事は、大事件だという事」

「うむ」

「二つ目。『亡くなった』という言い方に違和感があるわ」

「ほう、どんな?」

「ウチに持ち込むほどの大事件なのに、まるで自然死のような表現よ。『殺された』『不審死を遂げた』とか事件性のある表現では無いし、事件性が無いならウチに持ち込む話ではないわよね」

「相変わらず鋭いねぇ、まりな君は。仰る通り、事件性は無い。『今のところは』」

「…どういう事?」

「死因不明なんだ」

「何よそれ」

「所謂『異常死』かも知れないんだ」

『異常死』とは、病気など特定の原因が不明な突然死を差すものの、法令上には定義されていない言葉になる。

「自然死なのに、死の状況が不自然という事かしら」

「そうなるね。大山田氏の遺体はどんな状態だったと思う?」

「さあ?腹上死とか?ナイスなチャンネーの上でそれそれーって」」

「それは確かに不自然かも知れないが…そういう事では無くてね。何と、ミイラ化していたんだ」

「死後何日?って、分かる訳ないわね。ミイラ化には通常、70日程度は掛かると言われているわよね」

「そうなんだよねぇ。ただ、僅か16日でミイラ化した事例というものがあるそうだよ」

「大山田博士の生前最後の目撃情報は?」

「3日前だね」

「つまり…3日でミイラ化した、という事になるわね」

「結果は覆らないからねぇ…つまり、遺体の乾燥を早めた原因がある。しかし鑑識はその原因を特定出来ていない…全く、お手上げだよ」

「事件の概要は概ね理解したわ。で、内調が動く理由が他にあるのよね?」

「うむ…ここからが本題だ。防衛省整備計画局が大山田博士と研究中であった試作型ロボット兵器が盗まれた」

「……何ですって?」

「ロボット兵器が盗まれたんだ」

「…それは、イスラエル製が自衛隊に納入予定というものと関係あるのかしら?」

「無い。完全に日本オリジナルの研究だ。自立型致死兵器システムLAWS(Lethal autonomous weapons systems)の研究をしていたようだ」

「なんだか純粋な攻撃機みたいね?」

「イスラエル製ドローンは1970年代のマスティフやスカウトといった無人偵察機UAV(unmanned aerial vehicle)から始まり、防衛省が現在導入を検討している有力な機体はIHIハロップというステルス型対レーダー用無人攻撃機などが挙げられているそうだよ」

「本部長、随分と詳しいわね」

「そりゃあ、ウチも一枚噛んでる訳だからして」

「そういえばそうね。ただ、イスラエル製を輸入するなら大山田博士の研究は無駄になるんじゃないのかしら」

「イスラエル製ドローンの導入は、主にアメリカからのお達しだよ」

「当然そうなるわよね。日本に買わせてイスラエルを間接的に支援しろって話なんでしょうけど」

「そこらへんは僕らにはどうしようもない。僕らは精々、第二プランを用意して、選択肢を増やしてあげるしか出来ないのさ。それが大山田博士の研究だった」

「何が違うの?」

「イスラエル製ドローンは主にレーダーを破壊する為、ステルス能力を持たせた無人航空機だ。大山田博士のドローンは航空機というよりは、ロボットとしての性能を追求している」

「ロボットとしての性能?」

「人型兵器としての汎用性を重視したんだ。ステルス能力を持ち、空を飛び、地上で制圧行動を取る事が出来る。これにより北朝鮮の移動式核ミサイル設備を攻撃・無効化し、自衛隊の人員不足も補えるという算段だった」

「過去形?失敗したの?」

「いや、その前に亡くなってしまったという話でね」

「つまり、博士の死因を調べたいという訳じゃないのね」

「いやぁ、それが分かればそれに越した事は無いよ?でも、僕らは警察じゃあないからね。ミイラ化の真相は警察に任せるとして、まりな君には大山田博士の研究成果を回収して欲しい」

「完成してるの?」

「分からない。ただ、何らかの形にはなっていたんじゃないかと踏んでいる」

「防衛省が何も知らないって事は無いでしょう?」

「そこも分からない点でね。防衛省からはこちらには何も情報が来ない」

「いやねぇ。相変わらず縦割り行政なんだから…昔は陸幕二部とか2別とか、内調の下部組織だったのに。今の情報本部の電波部長も元内調の人でしょうに」

「正確には『僕に』情報を出してくれないんだろうねぇ…」

「あらら。本部長、嫌われてるわねぇ…さすがカミソリ甲野と呼ばれただけの事はあるわ」

「半分くらいは、まりな君のせいだと思うんだけどねぇ……」

「主に現場でやらかしてるのは私ですけどね、お偉方の痛い腹に探りを入れてるのは本部長でしょうが」

「……自覚はあるんだね、まりな君?」

「いい事、本部長。私は現場で最良の判断をしているの。それをあーだこーだと難癖付けて来る頭の固いお役所連中の心が狭いのよ」

「あー、まりな君まりな君。キミもお役所なんだが?」

「私は国民に忠誠を誓っているのであって、お偉方に忠誠を誓っているのでは無いのよ」

「そりゃ結構な話なんだけど、一応この部屋もモニターされてるって事を考えてくれたまえ」

「それをどうにかするのが本部長のお仕事でしょうが」

「トホホ」

「さて、まずはセーフハウスの確保ね。いつも通りサン・マンション403号室よね?」

「ああ、そういえば言ってなかったんだけど、キミのお友達、行方不明になってるよ」

「え?弥生が?」

「うん。桂木探偵事務所と、あまぎ探偵事務所で爆発火災が起きた。桂木弥生さんは退避していたそうで無事だったが、天城君と氷室君の両名は爆破に巻き込まれたようだ。それが二か月前の事件で、現在は桂木さんも行方が分からなくなっている」

「ちょっと本部長ぉ!こっちの方が私にとっては重大な事件じゃないの!」

ぺしっ!ぺしっ!

「痛い痛い!頭をペチペチと叩かないでくれたまえ!」

「その事件、私に担当させてちょうだい!」

「それは無理だよ、まりな君。こちらは杏子君が担当になった。何せあの『爆弾魔スネーク』が生きていたのだからね」

「あの見城が生きていたの!?あいつ一体、どうやって!?」

「当時、ロストワン事件の殺人ウイルス『LOVID-99』の影響で世界中が混乱し、あらゆる経済活動は停止した。それによって見城の生死は確認出来なかった。見城の死亡はあくまで日本の法律上の『認定死亡』と見做されただけだ」

「そりゃそうでしょうけど、あの状況で生きていたの?あいつだって『LOVID-99』に感染してたでしょうに」

当時、世界中の水道水が殺人ウイルス『LOVID-99』に感染し、PCの操作一つでウイルスが広まるという大事件が起きた。

コンピュータウイルスと思われた『ロストワン』が、現実の病原菌となった。

このカラクリは、水に含まれるミネラル成分を介して『水系感染ウイルス』による糞口経路感染で、これの有名な例には『肝炎ウイルス』がある。人間は雑菌と共存しており、あらゆる菌が人体には侵入する。しかし免疫力のおかげで雑菌やウイルスは人間と共存している。

つまり、ウイルスというものは潜伏期間があり、『LOVID-99』もおよそ2週間から3ヶ月程度の潜伏期間があったとされている。

世界中の浄水システムはPMMoV(PepperMildMottleVirus:トウガラシ微斑ウイルス)という腸管系ウイルスと類似した性質を持つトウガラシに感染するウイルスを測定する方法で水系感染ウイルスの管理をしている。

ロストワンウイルスは当時PC用に多く用いられていたCPU特定の脆弱性を利用し、パソコンを熱暴走させ、その時に発生する電気信号のノイズを介し、既に水に感染済みのウイルスが、電磁波の影響によって急速にミネラル分が腐敗し、たちまち『LOVID-99』が活性化するという。

水は腐るとよく言われるけど、これはミネラルが腐敗する事で起きる。カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、カリウムの4つが水に含まれるミネラル成分だ。

「いや、それはどうだろう。見城はウイルスをバラまいたアルタイル社の桜把の共犯者だ。自分は感染しないよう防御手段を取っていた可能性があるよ。要は水に触れなければいいのだから、ミネラルウォーターしか飲まないとか、何らかの対策を取っていたんじゃないかと思っている」

「当時、ミネラルウォーターしか飲まない人は感染してない人が多かったらしいわね」

「そうなんだ。いずれは生の水に触れる可能性はあるだろう。しかしあの時点で可能な対策は、やはりミネラルウォーターしか飲まないという方法が有力だね」

「それで見城が死んでなかったという根拠は他にもあるのよね?」

「アメリカで、クマのぬいぐるみが爆発するという無差別テロ事件が多発しているそうだ。差出人は共通して『スネーク』と書かれているそうだよ」

「見城が弥生と小次郎を狙う意味が分からないわね」

「二人に共通するのは、アイドラーの探偵だという事くらいかねぇ。FBIはその方向で捜査をしているらしいよ」

「……とにかく、弥生の無事を確かめなくちゃ。いいわよね、本部長」

途端に渋い顔をする本部長。でもすぐに諦めたように溜息を吐く。

「…はぁ、まあ、まりな君ならそう言うだろうと思ってたよ。本業を疎かにしない範囲で許可しよう。但し、見城に関する捜査は杏子君に主導権があるから、それは忘れないように」

「さすが本部長。愛してるわ。それじゃあ行ってくるわ」

「あ、忘れてた。銃の携帯許可、まだだからね。太股のソレ、出して」

「もう、このままの勢いで行けるかと思ったのに!」

愛銃ベレッタM1919ー愛称イクイクーを本部長の机の上に置き、外へ出る。まずは桂木探偵事務所に向かいましょうか。

GT-Rを走らせてオフィス街の桂木探偵事務所の前に停めると、変わり果てた建物の残骸を目にすることになった。

「……完全に吹っ飛んでるわね」

桂木探偵事務所の自社ビルは地上8階のオフィスビルだったけど、その半分の4階辺りから上が無くなっていた。

「これじゃあ、かなり残骸が周辺に飛散したんじゃないかしら?」

黄色い規制線テープとバリケードによってビルの周りは覆われ、白い工事用の幕で外壁は隠されていた。

バリケードに設けられた入口の両開きのサッシの前には、警察官が立って立哨警備をしていた。

「はろはろー」

「何用でしょうか」

「ここは桂木探偵事務所よね?ここの所長はどうなったのか、あなたご存じないかしら」

「…さあ。本官は実況見分が終わった後にここに回されてきましたもので。ただ、怪我人などはいなかったそうですよ」

「そうなの?こんなに派手に壊れてるのに?」

「何でも爆破予告があったらしく、それで関係者は事前に避難していたらしいですね」

「ふぅん……分かったわ。お話ありがと」

警察官は少し不審そうにこちらを見ていたけど、特にこちらに探りを入れるような態度は取らない。今の自分の仕事を忠実に守っており、そこから逸脱しそうな事には首は突っ込まないタイプらしい。

「さて、念のため、サン:マンションの方も確認してみようかしら」

サン・マンション402号室の弥生の部屋に向かう。

2.6リッターの直列6気筒ターボエンジン、最高出力280馬力の重低音サウンドが閑静なマンション街に響く。

「こういうゴリゴリのスポ車でこういう所に来たら場違い感ハンパ無いわね…まあ外観からモロにパトカーだから文句言う一般人もいないとは思うけど」

402号室の前に立つ。しかし人がいるような気配は無い。チャイムを鳴らそうかと思ったけど、インターホンの電源ランプが付いていないわ。

「これは弥生が自分でマンション管理人に長期留守にすると伝えている?」

長期出張なんかある人はマンションの管理会社に連絡して、ブレーカーやガスなど止めてもらう事もある。

「って事は、少なくとも自らの意思で不在なのね。少し安心したわ」

弥生本人とは会えなかったけど、あの子もそう簡単にくたばるような人間じゃない。

「ついでだから、自分の荷物を部屋に置いてっちゃいましょうか」

R34のトランクに入れてあるスーツケースを403号室に置き、ふかふかのベッドを堪能する暇も無く外に出る。

「日が暮れる前に、小次郎の事務所も確認しておきたいわ」

弥生に一大事があったなら、それは小次郎か、今は亡きオジサマ関係しか考えられない。それならやはり、同じく爆破されたという小次郎の安否も気になる。

「まっ、あいつに限ってその程度でやられるとは思わないけどね」

確かオジサマも自分の身を守る為、収監されていた留置所を爆破して死を偽装してロス御堂の手から逃れたと聞いたわね。小次郎の事だから、同じ手を使って偽装死をしてるんじゃないかしら。

「やっぱり師匠と弟子って似るのよねぇ」

R34を飛ばして日の出埠頭の小次郎の事務所へ向かう。

やがて到着した寂れた港湾の倉庫街は、桂木事務所よりも派手に吹っ飛んでいた。

「……えっと、これは建物の耐久性の違いなのかしら?」

あのボロっちい倉庫は跡形も無く、隣接する倉庫は綺麗に残っている。小次郎の事務所だけが屋根も壁も吹き飛び、煤けた鉄骨製の柱が何本か突き立っているだけ。規制線もバリケードも無く、カラーコーンとポールで申し訳程度に封鎖されている。

「…規制までしょぼいわ。ケチな小次郎らしいわね」

小次郎はともかく、氷室さんは無事なのかしら。本部長が何も言わなかったから、さすがに生きてるんだろうけど。

「……ん?」

人の気配がする。

こんなうらぶれた倉庫街だけど、怪しい外国人風の男たちを途中で見掛けた。しかしこの気配は、圧倒的な存在感を放っている。

「ーーーー誰っ!?」

後ろを振り向くと、海を背に立つ、黒い長衣の神父服(キャソック)を身に纏い、円形のつばを持つ黒くて丸い帽子(カペロ・ロマーノ)を被った老齢の外国人男性がそこにいた。

「天城小次郎の居場所を探しているのだが、知らないかね。シニョリーナ(お嬢さん)?」

流暢な日本語だった。

見た感じ、白人で50代。おそらくヨーロッパの国の出身。カトリック系の聖職者のように見える。

「……残念ながら、知らないわ。こちらも探しているの」

正直に答える。

「ふむーーーー嘘は言っていないようだ」

「……どこのどなた様かしら?」

「私はイタリアのアイドラークラスAディテクティブーーードン・マテヨという」

長身だ。おそらく2メートル近くある。右手には杖を持っている。

「……確か、イタリアのクラスAはランキング17位とか。『神父』の異名通りの人なのね」

「我らカソリックの総本山バチカンが、天城小次郎に対し召喚状を出している」

「はあ?何故?」

「何故だと思うかね、シニョリーナ」

「分からないから聞いてるのよ。それと、私の注意を引きたいならもう少し上手くやるべきね。もう一人のお友達も、コソコソと隠れてないで出て来なさい」

あまぎ探偵事務所跡の隣の倉庫から、一人の女性が出てきた。金髪の内巻きボブカットの白人女性、年齢は二十代後半か三十代前半。こちらも全身黒ずくめのコートを身に纏い、アストラハン・ハットという毛皮の帽子を被っていた。

「私の名はヘルガ。ドイツのクラスAディテクティブよ」

「……確かアイドラーランキング6位に『ヘルガ・ウルフマン』という名前があったわね。小次郎のヤツ、随分とモテモテねぇ」

「どうだね、シニョーラ・ヘルガ。このシニョリーナは何者かね」

「ーーーーマリナ・ホウジョー。日本の諜報機関のエージェント。同時に『ブラック・ロッジ』第十二次席に名を連ねる大悪党よ」

「ちょっとちょっと!初対面で大悪党だなんて言われる筋合い無いわよ!『ブラック・ロッジ』ですって?それはあのアルセニオス・ル・パイン三世の所属組織でしょ!」

「私の霊視に偽りは通じないわよ」

確かに私はあの大怪盗アルセニオス・ル・パイン三世から偽札の原版を取り返さないといけないけど、何で私があの組織の一員扱いされているのか、本気で訳が分からないわ。

「霊視ぃ?これまた胡散臭い相手が出てきたわね…オカルト関係はもうお腹一杯なのよね」

「ふむ、神はこのシニョリーナの言葉に嘘は無いと仰られている。しかし、ヘルガの霊視も嘘は無いと仰られている。これは一体、どういう事か?」

神父ドン・マテヨは糸目をさらに細めて顎に手をやって考え込む。

「……まあ、神は『異教徒は断罪せよ』と最後に仰られたのだが」

そういうとドン・マテヨは右手の杖の先を、私に向けてきた。

「ーーーッ!!」

それは仕込み銃だった。

撃鉄が鳴り、硝煙を吐きながら切っ先から弾丸が発射される!

身体に染み付いた反射で横へ跳んで躱し、太股の愛銃ベレッタM1919に手を伸ばす。

「…あ!」

しまった。そういえば銃の携帯許可はまだ出ていないんだ。さっき本部長に預けてきたばかりじゃない。

「獣のような反射神経だな、シニョリーナ。この仕込み銃は古の逸品につき、単発式なのが欠点なのだよ。次は任せたぞシニョーラ・ヘルガ」

単発式の仕込み銃を構えたまま、神父はじりじりと距離を詰めている。対して後ろのヘルガは両手を広げて眼を閉じる。

「ok var sá nefndr YmirーーーーSeiðrgandr」

何語だろう。ドイツ語?

ヘルガ・ウルフマンの得体のしれない詠唱により、瓦礫の中から人型の何かが何十も立ち上がる。

「ーーーーケケケケ!」

カタカタと口を開く歪な人形たち。タキシードを着て両目はそれぞれ別々の方向を向き、ケタケタと笑う口は出っ歯が覗く。或いは首にロープを巻き付けた全裸の赤子の人形など、それぞれが手に包丁を持って襲い掛かって来る!

「何処ぞのホラー映画じゃあるまいし!」

一体どんなカラクリなのか。

十数体の人形に囲まれ、そのうちの1体が包丁片手に突進してくる。

「素手だと思って甘く見ないでよね!」

咄嗟にジャケットを脱ぎ、包丁を巻き込んで絡めとる。

「まりなウルトラ巴クラーッシュ!!」

そのまま後ろに倒れ込みつつ、人形を蹴り上げて後ろへ放り投げた。私の渾身のパンチラムーヴを前にしても、『神父』ドン・マテヨの表情は微動だにしなかった。

ーーーーグシャッ!!ーーーー

頭部から固い地面に叩き付けられ、人形の頭が割れてネジやら歯車やらが辺りに散らばった。

「何だ。オートマタ(自動人形)なんじゃない」

ヘルガ・ウルフマンは心霊術と称し、機械仕掛けのカラクリ人形を操っていたようね。

「それが分かったとして、あなたの不利は変わらないのではないかしら?」

確かに。

同じ手が何度も通用するとは思っていないし、同時に十数体から襲い掛かられたら対処は難しい。

「ーーーー待て、シニョーラ!」

その時、ドン・マテヨがあらぬ方向へ顔を向けた。そちらにヘルガの注意が向く前に、人形の中の1体の頭が、柘榴のように破裂した。

ーーーーーンーーーーーンンーーー!!

残響を残して間髪入れず、リボルバー特有のクイックリロードの回転音が響く。

ズドン!ズドン!ズドン!ズドン!

連続で放たれる4発の弾丸は、五体の人形の頭を吹っ飛ばしてしまった。

「ーーーーやれやれ。さすがに2対1は見過ごせないな」

「何者だ」

「私か?君たちと同じくクラスAディテクティブだよ。名を闇塚弥平という」

闇塚と名乗った男はS&WのM36チーフスペシャルにスピードローダーで弾丸を装填しつつ、ゆっくりと姿を現す。

そこに立っていたのは、あの桂木源三郎を思わせるような風貌をした素敵なオジサマだった。

~2日目終了~


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