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No.43867の一覧
[0] 双日のアレス[理科係](2022/12/28 18:02)
[1] 1 双日ー1[理科係](2023/07/14 23:47)
[2] 2 双日ー2[理科係](2022/05/30 11:48)
[3] 3 獅子身中?[理科係](2022/09/07 18:15)
[4] 4誘導と告白[理科係](2023/08/02 09:55)
[5] 5ここが本丸?[理科係](2023/11/24 16:25)
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[43867] 2 双日ー2
Name: 理科係◆0b5ca150 ID:18f1beb8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2022/05/30 11:48
数日経ったある日。
 この日の四時間目は世界史の授業で、教壇には初老の男が立っている。髪は薄く、痩せこけてはいたがはきはきとした物言いで授業をしていた。

「で、ここにはハプスブルク帝国があって――」

 初老の教師は一定のスピードで板書をする。説明口調な喋り声と板書を追いかけるクラスメイトのペンの音が教室にこだまし、クラスに奇妙な一体感が生まれていた。
 六月の中旬になれば正午になる前に既に日は高く昇り、それが高い湿度と合わさることで不快指数が高まる。生徒達は無言でノートを取っているが、皆一様に疲れをはらんだ顔つきで、ちらほらと居眠りする者もいる。授業終了まで時間は十五分程度残っている。

「亜門、何してるんだ?」
「見りゃわかるだろ。授業サボってんだよ」

 皆が真面目に授業を受けるその一方で、校舎裏には二つの影があった。亜門と丈瑠の影だ。
 等間隔で起立している木から生えた厚みのある葉が日陰をつくり、二人を覆っている。時折風が吹いて、さわさわと葉を揺らし、二人に涼しさをもたらす。

「授業サボるのはよくないぞ」

 丈瑠が言う。どこか間伸びした声が、その呼びかけが本心からのものではないことに亜門は気付く。

「お前が言えた立場かよ」

 もっともな意見だった。幅広の段差に腰を下ろし本を読む丈瑠のその姿は、注意するものとしては不相応だった。

「言えた立場だ」

 ページをめくりながら言う。さっきと同じく声に力はこもっていなかった。

「なんでだよ」
「本を読んでるからな。だから言える」
「なに読んでんだ?」
「ラノベだ」

 亜門はぷっと笑いをこぼした。表紙に目を向けると、デフォルメされた女の子が大きく描かれていた。男子の欲望を現実に下ろした表紙を一瞥した後で丈瑠の横に座り、嘲笑するように鼻息を鳴らす。

「おまえラノベも読むんだ」
「これが意外と面白くてな。昨日からずっと読んでる」
「ふーん、あっそ」
「そういうお前は何してたんだ? さっきから木の根元で蹲うずくまってたが、宝でも埋まってたか?」
「あー、あれ? 蟻に資本主義教えてた」そう言いながら、亜門は木の根元を指差す。
「……は?」

 聞きなれない単語の羅列に丈瑠は困惑する。
 指差す方を本の隙間から覗くと、黒い点が列を成しているのが見えた。その傍に――蟻たちからしてみれば長い距離ではあるが――蝶か何かの死骸があり、黒点はそれに向かって移動している。

「時々お前のことが分からなくなる」

 本に視線を戻した丈瑠が呟く。芯のある声だった。

「じゃあわかってるじゃん」
「……お前のそういうとこ好きだわ」
「ありがと」

 その時、四限の終わりを告げるチャイムが鳴った。さっきまでの静寂から途端に校舎の中に音が溢れ返り、その幾つかが外にこぼれた。

「ほら、四限終わったぞ。飯食おう」

 そう言いながら亜門は立ち上がる。制服についた土埃を軽く手で払い除けながら、校舎の中へと戻る。丈瑠も、ああ、と返事をして本に栞を挟み、亜門の後を続く。

 木陰の下では、蟻が蝶の死骸をせっせと巣に運んでいた。


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