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No.43867の一覧
[0] 双日のアレス[理科係](2022/12/28 18:02)
[1] 1 双日ー1[理科係](2023/07/14 23:47)
[2] 2 双日ー2[理科係](2022/05/30 11:48)
[3] 3 獅子身中?[理科係](2022/09/07 18:15)
[4] 4誘導と告白[理科係](2023/08/02 09:55)
[5] 5ここが本丸?[理科係](2023/11/24 16:25)
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[43867] 4誘導と告白
Name: 理科係◆0b5ca150 ID:ed5c0f94 前を表示する / 次を表示する
Date: 2023/08/02 09:55
 空は灰色だった。
 日の光は分厚い雲に遮られて地表は鈍く照らされる。曇天の影響か、教室の雰囲気も沈んでいた。教師の声もいつも以上に張りがなく、鬱屈とした気分が表情から見てとれる。海の底のような静けさと暗さが体と心を勝手に疲弊させる。

 そんな中での救済が授業の合間にある小休憩の時間だった。十分という短い時間ではあるが、この限られた時間で、喋ったり廊下に出て体にたまった陰険な気を少しは吐き出すことができるのはありがたい。
 亜門と丈瑠も廊下に出て開いた窓のそばに立っていた。ひんやりした風が体を撫で付ける。

「で、結局どうするんだよ」

 亜門がそっけない口ぶりで言う。手をズボンのポケットに突っ込み、廊下の壁に体重を預ける。会話がいきなり接続詞から始まったが、その言わんとすることはお互いに理解していた。

「一応考えはある」

 腕を組んだ丈瑠は平然としていた。会話は亜門に、目線はクラスにいる花宮周に向けられていた。
 花宮周は、クラスの後ろで何人かの女子と話している。透明感のある肌と対比するかのように髪の色は黒く、毛先がゆるくウェーブしている。放物線を描く二重瞼はくっきりとその形を表していた。

「なんだよ、その考えって」
「簡単な話だ。まず――――」

 説明を一通り終えても二人の表情に変化はなかった。休憩の時間が終わりに近づき、次々に教室に入っていく。やや遅れて二人も教室に入った。教室の中は騒々しく、休憩終了の最後の一秒まで余すことなく三々五々言葉が飛び交う。
 小休憩とて侮れない。


 
 花宮周の席は窓際の列の真ん中だった。昼時になると、周の席に数人の女子がやってくる。手にお弁当箱を持ち、空席を集めて輪を作るようにして楽しく談笑するその空間が、周にとって数少ない癒しになっていた。会話の合間にリズムよく箸を動かす。

 そんな輪の外から、見慣れない人影が現われた。

「花宮さん、ちょっといいかな」

 周は体を硬直させた。それから示しをあわせたようにまわりの女子達が振り返る。遅れて周も視線を上げると、そこには丈瑠が立っていた。目線をやや下に、申し訳なさそうに和顔して周を見ている。

「楽しくおしゃべりしてるとこ悪いんだけどさ、ちょっと……着いてきてもらえないかな」
「あ……はい」

 周が席を立つ。先導する背中について行く。丈瑠の顔立ちに見とれてなぜ呼び出されたのか聞けずじまいだったが、あまり深く考えることはしなかった。
 渡り廊下を渡って南舎に入った。そのまま階段を上り、四階についた。目の前には屋上につながる扉があるだけで、昼間でも薄暗く、どこか落ち着かない。

「ねえ、今更言うのもなんだけどさ、私に何のよう?」

 思い出したように尋ねる。はじめに感じた胸の高鳴りは元に戻りつつあった。

「それはこの先で伝えますよ。さ、入ってください」

 丈瑠は質問に答えず、扉を開け中に入るよう催促する。その様子に周は訝りながらも素直に足を踏み入れた。直後に丈瑠も入り、後ろ手で扉を閉める。午前中の曇天から一転、空には薄雲がたなびいていた。気持ちの良い澄んだ空気にあてがわれて、周は思わず伸びをする。

「で、式嶋君、私に何の――」

 振り向いてすぐ異変に気付いた。体が動かない。
 足を踏み出そうとしても、手を前に出そうとしても、体が動いてくれない。いや、正確には頭で指令は出せているのだが、手足に届いていない。水をせき止めるダムのような分厚い壁がある感覚。
 何が起きているのか理解できず、目を丸くして言葉を飲み込む。

「そのままだ、花宮」

 眼前の丈瑠が言う。しかし、明らかにさっきまでの丈瑠とは様子が違う。温和な顔つきも、柔らかい雰囲気も、丁寧な話し方も、どれひとつとして当てはまらない。

「ねえ! これ何なの!」

 周が声高に叫ぶ。その後で、首から上は自由に動かせることを知った。助かった、叫び続ければ誰かが来てくれるかも知れない、と一抹の安堵を覚える。

「大きい声を出すな、おい亜門」

 直後、首筋に悪寒が走る。周の視界の端に、青光りする刀とそれを持つ亜門が現われる。首と刀、薄皮一枚ほどの間隔が明確な死のイメージを植え付ける。

「私……どうなるの?」

 声量に気をつけながら声を出す。数十分前まで楽しく喋っていたのに、今は数センチ右に死が待ち構えているこの状況に色々な感情が入り交じって嗚咽が漏れそうになるが、必死にこらえる。

「簡単な話だ、俺たちととある場所へ行ってもらう」
「とある場所……?」
「お前が知る必要は無い」
「知る必要はないって……で、でも今学校だよ、連れ出すなんて無理だよ!」

 丈瑠はにやりと笑う。目線の高さまですっと手を上げ、指をぱちんと鳴らす。
 すると、三体の人影が現われた。はじめはのっぺりとしていたそれは、うねうねと動きゆっくりと見覚えのある形になる。それはこの場にいる三人にそっくり、というよりは三人そのものだった。頭のてっぺんからつま先まで、寸分違わぬ精巧な影が直立している。

「こいつらが代わりになってくれる。だから心配は無用だ」

 影が人になったこと、突然現われたこと、そもそも不思議なこの状況、現実の中の非現実に周はただただ圧倒されるばかりだった。気づけば考えることは放棄して、大人しくしていた。

「あらかた説明し終えたな。じゃあ行くぞ亜門」
「おっけ」
「えっ……ぅわっ!?」

 亜門が周を担ぎ、丈瑠とともに屋上の床を勢いよく蹴る。そのまま忍者のように屋根をつたって三人は目的地まで向かった。

 だんだんと小さくなる三人を見届けて、コピーたちは校舎へと戻った。かちゃんと扉に鍵がかかった音がした。


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