「テメェとは一回決着付けとかなきゃならねぇと思ってたんだ……そう、そうだよ。俺としたことが、ついつい馴れ合っちまったぜ」「ふん、相変わらずの物言いだな。年上に敬意を払うこともなく、自分本意に道を突き進むだけ」「うるせぇなこの狗やろう」「狗? それはそれは、最高の褒め言葉だ。僕が狗ならキャンキャン何にでも突っかかっていく君は『犬』の方だな。脅えているのかな? もう少し社会を知ると良い」「……上等だクソッタレ、ボコボコにしてやるから動くんじゃねぇぞ……」「ふ、その前にトイレに行っておかなくていいか?」「あん?」「君の反吐まみれになるのは御免だって言ってるんだ、ディフェクト・プロダクト」「おぉっと、言うねえ。……向こう岸の三歩くらい前まで俺が拳で案内してやんよ、クロノ・ハラオウンッ!」そして一枚のアクセルフィンが砕け散った。……ただいま絶賛ケンカ中。マジぬっころ。いやいや、マジでムカつくんだってコイツ。意味分かんねぇことばっかり言いやがって。フェイトの腕の分も一緒に、俺の拳でがっつり消化してやる!03/ザ・パーソン・フー・アクセラレイツ「むにゃ……」……腹減った。すげぇ。腹が減って目が覚めたぞ、俺。久しくなかったな、この感覚。大学生の時はしょっちゅう腹が減って起きたもんだけど……うん、大体水で凌いでたな。今考えると俺って結構貧乏だったのかも。仕送りは無いし、奨学金も借りたくなかったし。バイトもやってたけどバイクの維持費とパチンコとスロットで飛んでってたな。ちくしょう。大体エヴァとかガンダムとかアクエリオンとかエウレカとかナデシコとか……誰か俺の心読んでるんじゃないのかって位ニーズに合わせてきやがるもんだ。やりたくなっちゃうじゃないか。分かってる。分かってるんだ。その日一日勝ったところでトータルじゃ絶対に負けてるんだって。けど行っちゃうんだ。学校サボってよく行ってたんだ。『気持ちイィ~!!』『よっしゃキタコレーッ!!!』ってな具合だよ。へへ……俺も魅せられてたって訳だ、パチスロの魔力に。「……なんかどうでもいい事思い出しちゃった」「……ぅ、ん……? にぃ、さん……?」「お、ゴメン、起こした?」「んぅ、ねむい……」「おう、寝てな。俺ちょっとトイレとか色々行ってくる」「……ぅん……行って、らっしゃい」「ん、行ってきます&おやすみ」―――ぱっくんちょ☆軽くね、軽く。ユーノから怒られたんだ。デタラメばっか教えてるんじゃないよって。ゴメンねユーノ。俺のせいなんだ。お前がフェイトからやられたのだって、アルフからいつもおちょくられてるのだって俺のせいなんだ。でもこんなに技量が発達したのは、これは俺だけのせいじゃない。俺も怪我から目覚めての一発目は正直腰が抜けたから。超気持ちよかったから。俺が翻弄されるなんて……なんて舌技。末恐ろしい化け物を育てちまったぜ……!『はいはい・ワロスワロス』……うん。ご飯食べに行こうかな。いいよね、アースラ。夜遅くたって食堂開いてるし。てか朝も夜も何にも関係ないし。なんたって次元空間だし。皆時差ボケとかしないのかな?「さて、何を食うのかな、俺は」『月見うどんが・食べたいです。トッピングは・お任せ・します』「……お前って味覚あるの?」『イエス。マスターの・味覚・嗅覚・脳での反応・全て・掌握しています。味が・分かるかと・言われれば・ハイ・と答えましょう』「なんか怖いんだけど……」結局シェルが何者かは分かったけどさ、システム的なものは何にも分かって無いんだよね。一体何が出来るんだろうか、このデバイスは。つかデバイスで良いのかコイツ。最早デバイスに似たナニカだよね?三人分の人格データを詰め込んでたり、ナカで合体したり……どんな容量してんだ? コイツも中二ってやつか。「お前も感染者だったって訳か……」『ええ・まぁ』「程々にしておけよ。あんまりやりすぎると面白くなくなっちゃうから」『サジ加減は・マスターに・任せます』「へ、へへ、お前の事がさっぱり理解できないからそりゃ難しいぜ……!」『酷いこと言うのね、ディフェクト』「……」『どうしたの、ディフェクト?』「……」『黙ってちゃ分からないわ、ディフェクト』「……お、オマエェ……」『月見うどんが・食べたいです』「マジでやめて下さいそれ!! シェルでいいじゃん! 俺の何が不満なんですか!?」マジで恥ずかしいんだって! ちょいちょいアリシア出すの止めろ!何なんだ!? 二重人格とか意味わかんない設定なのか!? そうなのか!『二重人格とか……中二・ですか?』「お前に言われとう無いんじゃボケゴラァ!!」『月見うどんが・食べたいです』「マジ殺すぞテメェ!!」「……月見うどん下さい」負けました。「起きてから毎日毎日騒がしいねえ、君も」「聞いてくれるかネェちゃん。なんか知らないけどさ、俺のデバイスがいつも何かしらの反抗を企ててくるんだ。俺は別になんちゃないお願いしかしてないのに、なんでか反抗してくるんだ」『私は・月見うどんが・食べたいと・言っただけです』「俺は海老天の気分だったんだよ」『……? いえ・ですから・私は・月見うどんが・食べたいと・言っているんですが?』「え? 何その自分の意見が通って当然みたいな態度は。俺がマスターなんだよ? お前なんて俺がいなけりゃただの鉄くずだよ?」『マスターなんて・私が・いなければ・ただの・肉の塊・ですけどね』「―――誰か助けてくださぁぁぁああああい!!!」こ い つ ! !マジでぶっ壊したろーか。そろそろ本物の上下関係ってやつを教えてやってもいいかもしれん。デバイスってやつはな、奴隷なんだよ。ケツの穴を差し出せといわれたら『どうぞお使いください』と自分で広げるのが礼儀ってモンだろうが。まったく、何一つ分かっちゃいねぇ、このデバイスは。体育会系だった俺がどれほどの苦労をしたのかを。尻の穴を守り通すためにどれほどの苦労をしたのかを、まるで分かっちゃいねぇ!!「……テメェに身体があったら、俺が、どれほどの苦痛を与えてやったか……」『マスターの・身体制御権を・奪っても・良いのなら・何とか・なりますが?』「M心を刺激してくれる話だが……それって俺がまた戻って来れなくなっちゃうんじゃないの?」『それが・ジュエルシードのせいで・システムが・ユルユルのガバガバに・なってしまって』「……そら、無理矢理二人も三人も通ってるんだからユルユルガバガバになってもおかしくねぇけどさ」『ええ・そう・なんです。もう全然・気持ちよく・ないんです』「それなんか違くない?」「ハイ月見うどん一丁!! 痴話喧嘩は席に着いてからやってね~」「お、サンキュー」そうだな。とりあえず席に着こう。腹が減っては戦は出来ぬ。シェルと話すのは最早戦いなんだよ。舌戦。いかにしてウケを狙うのかが俺たちの戦いのポイント。クスクス笑ってる人を見るとちょっと嬉しくなっちゃうんだ☆とりあえず……。「クロノを発見しました」『いつも・クロノ様の・ツケで・食べているのですから・たまには・笑わせて・やりますか?』「名案キタコレ」コソコソと後ろから近づき、「食べている時くらい静かにしていてくれよ?」「あひぃ」そしてバレる俺。ちくしょう。驚かしてやろうとしたのに。背中に目でも付いているのか? 不思議だぜ。「あれだけ騒いで……バレないと思っている君の方が不思議だ」「あ、なーる」『『ほど』を・付けて・ください』いくら俺でもいきなり肛門とは言わねえよ。そしてクロノが喰ってるのがカレーだしね。流石にカレー食ってる人の前でそっち系のネタは封印するべきだと思いました。しかしカレーがあるのか。しかも日本風のやつ。バリバリインドじゃなくて日本風。アースラの評価がまた上がるぜ。なんだけどさ、「何だそりゃ?」クロノの対面の椅子を引きつつ、席に着きながら。カレーはスプーンで食べるのが普通だと思ってたんだが……。白飯ないね。なんかパンみたいな……ピザの生地か? なんかそんなのでカレー食ってる馬鹿発見。「……? ナンだ」「……?? いや、だからそりゃ何だって言ってんだよ」「だからナンだと言っているだろう?」「……???」よし、一旦落ち着こう。俺は正常だ。何もおかしいことなんて無い。ユーノからも完全復活のお墨付きを貰っている。脳に異常が無いのは確かだ。「うん。大丈夫大丈夫……」「……おかしな奴だな」そう言いながら何かパンっぽい何かでカレーをぱくつくクロノ。違和感を感じながらも月見うどんをすする俺。……。……。いや、おかしいよね、うん。俺はそれは何ですかって聞いたんだけど……まさか言葉が通じていないのかな?「あー、こほん。クロノ君、君がカレーを付けて食べているそれは何ですか?」「ああそうだ」「!?」あ、ああそうだって何!?これはまさかケンカ売られてるのかな?「てめぇ……だからそりゃ何だって聞いてんだよ!!」「だからナンだと言っている! 君は地球に居たことがあるんだろう!?」「ああ!? 馬鹿にしてんのか! カレーは知ってんだよ!」「馬鹿にもするさ!! 僕が食べているのはナンだって言っているんだ!!」「ひょ!? 聞いてんのはこっちだろうがボケたれ! 自分の食い物ぐらい自分で把握してろ!! ヤリ過ぎで頭イっちまってんのか!?」「貴様……っ!」「ああ? 何だおい、何だよその目は?」「目が、ナンの訳が、ないだろう……っ! そっちこそ馬鹿にしているのか!!」「目が何だってぇ!? 聞こえねぇよ!!」「分かってて言っているのか!? 僕が食べているのは、ナンだ!!」「だ・か・ら!! それを聞いてんのは俺だって言ってんだろうがボケくそアホタレがあ!! 脳に蛆が湧いてんならユーノのトコに行ってこい!!」そこまで言ってテーブル叩いたら月見うどんがちょっとこぼれた。汁が飛んでいき、クロノの顔に。っへ、ざまぁ。「……よく、分かった。君は、馬鹿だ」「会話すら禄に出来ない奴に言われたかねぇんだよ」するとクロノは顔をナプキンで拭きながら、次いで口元を拭った。そしてうどんの汁とカレーのついたそれをピッと指先で弾き、その先には俺の月見うどん。ぽちゃ。……おうおうおうおう、薄味カレーうどんってかぁ?「てめぇ……」「さて、僕は食後の運動に行く。トレーニングルームに行く。君はどうするんだろうな?」「ああ~なんか俺も大して食ってないけど食後の運動がしたくなってきたなぁ……。おやおやクロノ君、君もトレーニングルームに?」「ああ、ちょっと腹の虫が収まらなくてね。馬鹿を駆除するのは世界の為にも良いことだと思っているんだ」「ああ、居るよね馬鹿って。訳わかんないこと口走って挙句うどんにナプキン放る奴とか」「ああ、居るな。親切に教えてやっているのに理解しないで騒ぐ馬鹿が」「……」「……」「……」「……」無言のまま俺たちはトレーニングルームへと。そして冒頭に戻るわけだが、クロノ真剣に馬鹿だろ?『(こいつら・本物の・馬鹿か……?)』。。。。。「っがぁ、いってえ!!」ってな訳なんだけどやっぱクロノつおいお。全然当たらないんだお。正直プレシアに勝った俺は楽勝だと思ってたんだお。「ふん、君の戦闘スタイルにさえ付き合わなければいくらでも戦える。君は一発一発を重視しすぎだ」「やかましゃっだぼがぁぼげぇしんでしまえぇぼげごらぁ」(文句)つかクロノ強すぎじゃね?原作ってドンだけ強いのか良くわかんないまま終わったからなぁ。けどまぁ猫ズに鍛えられてたんだから強くて当たり前かな。接近戦と魔法戦、両方とも教えてもらってたんだろうなぁ。羨ましい。俺は大体自己流だし。一応学校で習ったこととか色々試してるけどやっぱり合わないね。ミッドの魔法は肌に合わない。「……こんだけ強いんだから猫達やっちゃってくれないかぁ……(ぼそ)」「……何だって?」「何でもねぇよ」「何か言っていただろう。何だ?」「だから何でもねぇって」艦内だから唾もはけない。口の中の粘々を飲み込み、「カートリッジロー……あれ? カートリッジが無いよ!?」『時の庭園に・捨てて・きました』「……そういやそうだったかも」アクセルフィン無くなっちゃってんだけど……。「……もういいや。うん。凄く無意味な気がしてきた。勝てない闘いに意味は無い。私はそう思うのです」「おい何だ、逃げるのか?」「ああん!? 逃げるわけねぇだろうが!! 残しておいた月見うどん食べてその後フェイトとアルフの間で寝て起きたら今日の事なんてさっぱり忘れるんだよ!!」「それは逃げているんだろう!!」ぎゃーぎゃーと。今度は拳を使わない闘いです。ってかね、こっちでもクロノ強い。言い負かされてしまう気がする。それは凄く嫌なんですよ僕は。中身の年齢的に。「大体俺が何だって聞いてんのに何だとか意味わかんないこと言うから!!」「僕はナンだと言ってるのに君が理解せずにぎゃーぎゃー突っかかってきたんじゃないか!!」ぎゃーぎゃーと。もう良いじゃないか。クロノ君が何を言ってるのかさっぱり分からないよ。「いちぬけた~っ!!」シェルをスタンバイ状態に戻し、食堂に戻るために出入り口へと、「アンタ等も仲良いのか悪いのか分かんないねぇ……」アルフが居ました。全然気がつかなかったんだが……。おお、クロノも若干驚いた顔してるから気がついてなかったな。俺との戦いに集中して立って事だ。一応集中してないとダメってことはそれほど俺は弱くないよね。「……って俺の月見うどーん!! 何食べてくれてんですかアルフどん!!」アルフがずるずるすすっているのは月見うどん。アルフが自分で買うわけ無いから俺の。まぁ俺もクロノのツケですが何か?「僕のカレーもじゃないか……」何気に肩を落としているクロノ。ショボーンか。(´・ω・`)ショボーンなのか。「あ、そうだアルフ、お前が食ってる、そのカレーに付けて食べる奴って一体何なんだ?」「まだ理解して無いのか? あれはナンだと何度もいってるだろう!」「だから聞いてんのはっ、俺だ!!」「そうじゃない!! カレーを付けて食べてるアレは―――」「まぁまぁお二人さん、ちょっと頭冷やしなよ」またも臨戦態勢に入った俺たちをアルフが諌める。ダメだ、さっぱり理解できねぇ。アレは、アレは何なんだ!! パンなのか!? パンじゃないんだろ!?「―――一体全体何なんだぁぁぁあああ!!!」「アンタも余計なこと考えてんだねぇ」「……余計?」「そうさ。だって食えりゃ“なん”だって良いじゃないか」「……」「……」『……お後が・よろしいようでっ!』ちゃんちゃん!その後、馬鹿笑いを始めたクロノを引き連れて食堂に戻ってきました。「あんなに笑ったお前初めて見たぞ」「そもそもあんなに笑ったのが久しぶりだ」「笑ってりゃ結構可愛い顔してんのにねぇ」『エイミィ様も・その辺りに・惹かれたのでは?』「おい、そういう話はよせ」いいじゃないかよ。男と女が集まっても結局のトコ行き着く話は猥談に決まってんだよ。あんま突っ込みすぎるのはいけないけどさ、SかMかぐらいまでなら誰でも食いついてくるんだから。とりあえず話題に困ったら猥談だよ。「それで、エイミィの締まりはどうなんだ?」『ちょw』自重しませんでした。「死にたいのか?」「ごめん。謝るからデバイス出すの止めようね。殺傷設定にしてんの分かってるから」「まったく……」「本当に仲良いのか悪いのか分かんないね、アンタ等」「いいから、ちょっと真面目な話をするから聞いてくれ」そう言うとクロノは新しく頼んだカレーとそれをつけて食べる何かを置いた。もう俺の中では何(なん)で統一されましたよ。一応真面目な話という事で俺も月見うどん食ってた箸を置く。「あたしが聞いてもいい事なのかい?」「ああそうだな。というよりも君の意見も聞きたいからな」「ん、そういうことなら……」そしてアルフもミッド風ナポリタンと地球・日本風カツ丼とから揚げ定食とチキン南蛮ドッグフード仕立てを置き、耳をぴんと立てた。は、はぁはぁ……耳立ちアルフたん可愛いお。「その、フェイトの事なんだがな……」「おお、それがどうしたよ」「艦長……母さんがフェイトとお前を引き取りたいと言っているんだ」「え、俺も?」「ああ、そうだ」「ホントでちゅかクロノにぃや」「……ああ、そうだ!」まるで苦渋の選択をしたような顔だねクロノ君や。君は反対したんだろうねぇ、俺みたいなのが弟だと碌な事ないだろうし。まぁ、実際どうすんべか。正直俺にはシステルさんがいるし、親ってのは要らないんだよね。システルさんは保護責任者って立場だから親じゃないけど、見た目的にも親じゃないけど、それでも家族みたいなもんだし。お姉ちゃんみたいなもんだし。でもこれ断ったらフェイトがなぁ……。なんて考えてたらアルフが先に口を開いた。「……それ、フェイトにはもう話したのかい?」「いや、あの子はなんと言うかその……主体性があまり無いだろう? ちょっと優柔不断なところがあるからな、一応君たちに話をしてから、それから話してみようと思って」「まぁあの子がなんて言うかなんて分かりきってるからねぇ……」「俺と一緒が良いって言うんだろうね、きっと」「そうだろうな。だから最初は君から落とせと言われている」「リンディさん何気に策士だよね。ってかそれは俺に言っていいのか?」「僕はお前を弟にしたくないからな。だから断れ」「……いや、まぁ俺も正直そう思ってんだけどさ、何か面と向かって言われると普通にショックなんだけど」「あ、いや違うっ、そういう意味じゃなくてだな、その……」慌てるくらいなら言うんじゃないよ。お前の言葉は俺の心にサクサク刺さってんだよ。もうダメだ。俺の心はもうダメだ。ブッダ、もしくはキリスト、俺を救ってくれ。アガペーを、俺にアガペーを。救ってくれなきゃ俺は荒川の橋の下に行って河童とかにのさんとかと戯れてやる。人間止めてやるからな。自分の事金星人とか言うからな! 白線引いてやるからな!「まぁ実はそこまでショックでもないんで次行ってみようか」『コーニッシュ!!』「でだ、正直フェイトには言ってみないとわかんないよ。一応説得はするけどダメだった時は諦めてね」「……君はそれでいいのか?」「そっちのほうが幸せになれそうな気がするしね。 俺さ、リンディさんはちょっと苦手だけど嫌いじゃないよ。凄いいいひとそうだし、フェイトにとってもいいお母さんになるんじゃないかな」少なくともシステルさんよりマシなはず。あの人は何て言うか……付き合う人選ぶからな。結構寛大な人じゃないと中々難しいと思う。「アンタも色々考えてんだねぇ。ちょっと感心したよ」「アルフはそれでいい?」「ん、あたしゃフェイトに付いていくだけさ。決めるのはご主人様だよ」「そっか。 あ、そういやクロノ、グレアム提督から連絡とか来てる?」「いや、まだ来てないみたいだな。話は聞いてるから僕のほうから連絡するよ」「あいあいヨロシコ~」さぁて、フェイトの事はどうしましょうかねぇ。なるべくハラオウンに行って欲しいんだけど……ダメだった時はシステルさんに頼もう。フェイトも中学出たら管理局に入るんだし、それまでだったら俺が働いててもいいか。妹の学費の為に働く兄。ヤバイ、全米が泣くぞこれは。『コォォォオオオオオニッシュ!!』「それはもういい」。。。。。そして夜、就寝が近づいた。「シグナム~」「はい。どうかされましたか、主」来た。ソファーで新聞を読んでいたシグナムは心の中で何度も練習した言葉を用意する。一度だけ目を閉じ復習。大丈夫。「今日、一緒に寝よな?」「いけません主私はまだお風呂に入っていませんので汗臭いでしょう先ほどまで剣を振っていたので間違いありませんなので私は主が床に付いてから失礼しますヴィータと一緒にどうぞ」よし、と心の中でガッツポーズを取りながら、まるで表情には出さずにシグナムはソファーから立ち上がった。何も一緒に寝るのが嫌なわけではない。それはむしろ嬉しい事で、すっぽりと腕の中に納まる主人を見れば、それはそれは保護欲が湧き出てくるものだ。「一息でよう言えたもんやねぇ」「わ、私はお風呂へ……」「あぁん、待って待ってぇ。シグナムが居らんと寝られへん、まったく寝られへ~ん」「ぐっ……」いやいやと首を振る主人はとても愛しかった。その小悪魔的な笑みも、こちらの反応をうかがいつつ対応を変える性格も。その全てが愛らしく、つまりそれは抗えない凶器になる。そしてここではいと言ってしまえばその後に待ち受ける事が分かりきっている為に頷き難く、ああ、一体、どうすれば。シグナムは助けを求めるようにシャマルを見るが、彼女は昨日の『犠牲者』。さらに本人も仕方ないですね、となぁなぁの部分があるため助けは無い。次いでヴィータに視線を送るが、ヴィータは眠たそうにフラフラと舟をこいでいた。最後の砦、ザフィーラは『少し夜風に当たってくる』こういうことに関してまったく持って当てにならない。「……先ほども言ったとおり、私は汗臭いです。風呂に入ってから伺いますので……」「ええの? ほんまにそれでええの?」「何が、でしょうか?」「ここでらで“うん”言わんと、めっっっっっっっっっっっっっっっちゃくちゃになってまうよ?」「そ、それは卑怯です主、私は風呂に入りたいだけなんです」「……シャマルー、冷蔵庫からリポD取ってぇ」「は~い」「待てシャマル、私がどうなってもいいのか?」「主のお願いは絶対ですから~」飄々と答えるシャマルは笑顔だった。「待ってください主、分かりました、分かりましたから」「あは、やったぁ! ヴィータ、起きて起きて、今日はシグナムと一緒やよ!」「ん~、ねみー……」「……はぁ……」そして今日も頷いてしまうのだ。半ば分かっていた結果だが、そうなるとこれからは風呂も早めに入っていたほうがいいだろう。守護騎士たちの、シグナム達の主人にはちょっとおかしな癖がある。それを回避する為に色々策を練っているのだが、結局失敗に終わった。もともと頭を使うことよりも身体を使うことのほうが得意で、それを考えると、身体を使って主を喜ばせていると考えれば、(―――変態か私は……っ!)ぶんぶんと頭を振り、そして鼻息荒く、「行きましょう主!」「お、おお……何か燃えとるね、シグナム」「ここから先は、戦場です」「ぐへへぇ、生きては帰さんでぇ……!」「……お手柔らかにお願いします、主」主人である はやてを二階へと運び、そして大きなベッドに寝かせた。本来は来客用らしいが今はすっかり『皆の寝床』になってしまった。キングサイズのベッド、その材質といい温度管理の空調といい、八神家で一番金のかかっている部屋だ。この部屋には守護騎士全員が寝るようになっている。ザフィーラは全員の枕になり、真ん中に はやて、その右隣にヴィータ、左にはシグナム、シャマルは一番最後に床につくので好きなところに寝ている。最近深夜に放送しているドラマにハマっているシャマルは当然遅く、ザフィーラも空気を読んで散歩という名の逃走。帰ってきて風呂に入り、湯を落として掃除。そしてようやくになって床に就く。助けは無い。覚悟を決めようとシグナムは一度だけ息をついた。「はい、おいでおいで」ぽんぽんと自身の隣を叩く主は可愛い。「あ、主……本当に、本当に、お手柔らかに……」「大丈夫大丈夫。シグナムは可愛いから大丈夫や」「私は可愛くなど……」「ええからええから、腕枕して?」「は、はい、では失礼します」そしてシグナムは はやての隣に横たわり、頭の下に左腕を差し込んだ。子供特有の体温の高さ。香る匂い。一緒に寝るたびに守ってあげなくては、と強く確認できる。「んぅ~、シグナム冷やっこくて気もちぃなぁ」「そうでしょうか、私には分かりません」「ん、ん、シグナム、もうちょっと引っ張って」「はい、主」シグナムは動かない足を気遣いながら腰の辺りを自身の身体に引き寄せた。ぴったりとくっつく身体。はやてが自分の腕で足を持ち上げ、絡みつくように、捲きつくように抱きついてくる。来る。歴戦の勘がそう告げている。はやての眼光に火が灯っているのにシグナムが気付かないわけが無い。ヴィータはすでに夢の中。むにゃむにゃ言いながらのろいうさぎという人形に齧り付いていた。そして はやては鼻を鳴らす。「んふふ、ホントに汗くちゃいな、シグナム」「っ! す、すみません主! やはり風呂に入って―――」「ええのええの。好きやから、この匂い」「あ、主……っ!」ぐりぐりと鼻先を脇の下に差し込まれ、そして嗅がれる。すんすんと鼻を鳴らす音がヴィータの寝息と共に聞こえてくるのだ。一応着替えはしたが、シグナムは本当に風呂に入っていない。夕方に庭先で剣を振り、そのまま汗を拭った程度なのだ。汗臭いのなど、当たり前。それを承知で はやては招いているのだろうが、改めて言われ、そして脇の下を嗅がれるなど、羞恥心が薄かろうが、これは酷い。「いけません主、これは、酷いです」「ええ匂いなんやもん。フェロモン出とるでぇ」「いけません、これは……いけませんっ」言いつつ抵抗は出来ない。腕枕をしているからなのか、それともこの行為を受け入れてしまっているからなのか、シグナム自身にも分からなかった。さらに腹を撫で回している はやての左手。へその辺りを通過するたびに背筋をぞくりと走る何か。烈火の将の威厳にかけて声など出さないが、それは快感だった。「……シグナム」「あの、電気を……」「ん、そやね」羞恥に耐えられそうに無い。はやてがリモコンで電灯を消し、真っ暗になった状態でようやく一息つける。主は趣味が悪いことに羞恥にゆがむ顔を見て楽しむ傾向がある。コレではいけない、歪んだ大人になってしまう、と毎晩思っているのだが、上手なのだ、はやては。何となく抗えない雰囲気を作り出してしまっている。それに流されているシグナムもシグナムだが、この雰囲気は味わってみないと分からないものだろう。するすると腹を撫ぜていた手が上へ上へ。鍛え上げた筋肉のくぼみを確認するようにゆっくりゆっくり。「……っ……ぅく……あ、主、後生です、するのなら早くっ」「だぁめ。ちゃんと私から離れられんようにせな、ね?」「離れません、何があっても離れませんっ、一生、何があっても傍にいますから」「うん、信じとるよ、シグナム」「……くぅん……」漸くになって はやてのご利益胸部マッサージ(大きい人からご利益を貰う為の八神流おっぱいマッサージ)が始まった。そうして八神家の夜は更けていくのである。「アッ―――!」更けていくのである。