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No.4602の一覧
[0] こちらリリカルどーぞ      後日談更新[もぐきゃん](2011/05/17 01:32)
[1] nano01 リリカル[もぐきゃん](2010/02/10 14:46)
[2] nano02 卒業[もぐきゃん](2010/06/12 03:59)
[3] nano03 八神はやて[もぐきゃん](2010/02/10 14:48)
[4] nano04 出会い 前編[もぐきゃん](2010/02/10 14:51)
[5] nano05 出会い 後編[もぐきゃん](2010/02/10 14:53)
[6] nano06 制限時間[もぐきゃん](2010/02/11 11:41)
[7] nano07 猫[もぐきゃん](2010/02/13 12:24)
[8] nano08 犬[もぐきゃん](2010/02/13 12:25)
[9] nano09 『またね』[もぐきゃん](2010/02/11 11:43)
[10] nano10 兄妹[もぐきゃん](2010/02/25 19:02)
[11] nano11 時空管理局[もぐきゃん](2010/02/12 13:59)
[12] nano12 FATE[もぐきゃん](2010/02/13 03:45)
[13] nano13 スターライトブレイカー[もぐきゃん](2010/02/26 11:00)
[14] nano14 時の庭園[もぐきゃん](2010/02/13 12:23)
[15] nano15 茨の宝冠[もぐきゃん](2011/04/23 11:02)
[16] nano16 無意識母性[もぐきゃん](2010/02/13 12:22)
[17] nano17 そして黄金は輝き 獣の王が咆哮を上げた[もぐきゃん](2011/04/23 11:03)
[18] nano00 記憶1 『俺を誰だと思っていやがる!』 前編[もぐきゃん](2010/02/15 11:40)
[19] nano00 記憶1 『俺を誰だと思っていやがる!』 後編[もぐきゃん](2011/04/23 11:03)
[20] nano00 記憶3 『これが自然の恵みだぜ!』 前編[もぐきゃん](2010/02/15 11:41)
[21] nano00 記憶3 『これが自然の恵みだぜ!』 中編[もぐきゃん](2010/02/15 11:37)
[22] nano00 記憶3 『これが自然の恵みだぜ!』 後編[もぐきゃん](2010/02/15 11:38)
[23] nano00 記憶4 『いいから聞けよクソメガネ!』[もぐきゃん](2010/02/15 11:40)
[24] nano# 友達以上変人未満[もぐきゃん](2010/02/17 11:58)
[25] nano# 彼氏彼女の事情[もぐきゃん](2010/02/17 11:58)
[26] nano ⇒ As[もぐきゃん](2010/02/17 11:59)
[27] 無印登場人物[もぐきゃん](2009/09/08 08:59)
[28] nanoAs01-チェンジ・オブ・ライフ[もぐきゃん](2010/03/06 14:22)
[29] nanoAs02-レット・アス・ゴー[もぐきゃん](2010/06/16 15:49)
[30] nanoAs03-ザ・パーソン・フー・アクセラレイツ[もぐきゃん](2010/09/17 14:32)
[31] nanoAs04-フェイタル・チャイルド[もぐきゃん](2010/06/16 15:52)
[32] nanoAs05-レイン[もぐきゃん](2010/06/16 15:50)
[33] nanoAs06-ビギンズ・ヒア[もぐきゃん](2010/06/16 15:50)
[34] nanoAs07-ワイルド・ベリーⅠ[もぐきゃん](2011/04/23 11:06)
[35] nanoAs08-ホワット・イット・フォー[もぐきゃん](2010/09/11 14:24)
[36] nanoAs09-ファング・オン・ビハインド・ザ・スマイル[もぐきゃん](2010/09/16 16:01)
[37] nanoAs10-フレンズⅠ[もぐきゃん](2011/03/29 13:39)
[38] nanoAs11-ガールズ・アクティビティー[もぐきゃん](2011/04/23 11:07)
[39] nanoAs12-ワイルド・ベリーⅡ[もぐきゃん](2011/04/01 14:55)
[40] nanoAs13-ゲイン・エース・ゲイン[もぐきゃん](2011/04/02 15:11)
[41] nanoAs14-フラッシュバック・メモリー・プラグ[もぐきゃん](2011/04/02 15:11)
[42] nanoAs15-フレンズⅡ[もぐきゃん](2011/04/06 15:32)
[43] nanoAs16-カウンター・ブリッツ[もぐきゃん](2011/04/08 15:41)
[44] nanoAs17-ブレイク[もぐきゃん](2011/04/09 19:29)
[45] nanoAs18-ブレイブ[もぐきゃん](2011/04/23 11:08)
[46] nanoAs19-ブレイド[もぐきゃん](2011/04/12 18:04)
[47] nanoAs20-ファントム・チェイサー/ベリーズ・クッキング[もぐきゃん](2011/04/23 11:08)
[48] nanoAs21-ソード・ダンサー[もぐきゃん](2011/05/14 22:33)
[49] nanoAs22-ホーム[もぐきゃん](2011/04/23 13:25)
[50] nanoAs23-ヒューマニズム・アゲイン[もぐきゃん](2011/04/23 22:54)
[51] nanoAs24-エフフォー[もぐきゃん](2011/05/15 13:40)
[52] nanoAs25-リィンフォース[もぐきゃん](2011/05/14 22:34)
[53] nanoAs26-スラッシュ・アッパービート[もぐきゃん](2011/05/15 13:42)
[54] nanoAs27-自慢の拳[もぐきゃん](2011/10/12 14:33)
[55] nanoAs00-ちくびロケッツ※15筋[もぐきゃん](2011/05/17 01:30)
[56] nanoAs00-きんいろオペレート[もぐきゃん](2011/10/12 14:30)
[57] As登場人物[もぐきゃん](2011/05/14 22:32)
[58] ↓は、ストライカーズ。[もぐきゃん](2010/06/22 18:00)
[59] nanosts01 月刊エース[もぐきゃん](2011/04/23 11:10)
[60] nanosts02 私の女神様[もぐきゃん](2011/05/14 22:52)
[61] nanosts03 使い魔事情[もぐきゃん](2010/06/07 13:40)
[62] nanosts04 機動六課[もぐきゃん](2010/06/07 13:41)
[63] nanosts05 全力少年[もぐきゃん](2010/06/16 13:06)
[64] nanosts06 全力中年[もぐきゃん](2010/06/16 13:05)
[65] nanosts07 あほのこたち[もぐきゃん](2010/06/16 13:06)
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[4602] nanoAs13-ゲイン・エース・ゲイン
Name: もぐきゃん◆bdc558be ID:9655c584 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/02 15:11

13/ゲイン・エース・ゲイン





 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。
 んあー、なにやら機械的な音がするんだが、なにこれ。てか体中チューブだらけなんだが、なにこれ。つか身体が動かないんだが、なにこれ。
 気合一発右手を動かそうとしたが、どうにもこうにも鈍すぎる。指先がぴくぴく動いてるのを何とか感覚として把握できるくらい。
 えと、どういうことなの? 俺なんなの?
 閉じていた瞼を開けば……うお、瞼を開けるのですら億劫でござる。とにかく開けば、なにやらガラスケースのようなものに入れられている様子。
 ……ま た こ れ か !


「シェ、ルぅ……」

『イエス』

「は、はなに、管が通ってていてぇから、とにかく現状」

『負けて・入院。以上』

「っは、負けたかぁ……」

『イエス』


 ああ、そういえばそうだったかもしんない。なんかヴィータと戦ってて、そんでどうなったか知らんけどとにかく負けたんだろうね、俺。畜生、負けたか、くそ、ガッデム。
 皆はどうなったんだろ。死んじゃったりとかホント無しだからね。そういうのあると俺のテンションダダ下がりだからね。


「よぉ、ほかの奴らどうなったよ」

『マスターが・一番の重症者・です。コアを・抜かれそうになって・それで・私が・抵抗したところ・マスターの・身体が・非常に・痛みました』

「おまえのせいかよ……」

『魔導師としては・生きて・います』

「へ、ぎりぎりな」


 てか抵抗って何やったんだろうか。あれか。根か。なんかずるずるしたモンが俺のリンカーコアについてた訳か。もしそうだったら半端ねぇくらい気持ち悪ぃな。芋みてぇに出てきたんだろうな。キモ。想像を絶するキモさじゃねぇか。
 自分でした想像に身震いし、相変わらず力の入らない身体で、何とかこのせまっ苦しいカプセルからの脱出を計る。


「んぎ、っ、こんの……!」


 硬ぇ! 解放前のジャムの蓋くらい硬いよこのカプセル。
 ふんぎぎぎ……、んおぉぉおおお!
 ……開かない。ちょ、開かないよコレ! 入院なんかしてらんないんだよ! ちょ、まじで、ちょ!


「……君さぁ、少しくらいじっとしてらんないの?」


 神光臨。
 ユ、ユ、ユ、ユーノきゅん! なんてこった。いつも以上にユーノが可愛く見えるぜ。愛しいぜ。愛してるぜ! さぁ開けろ! 俺をここから出せ。毎回毎回なんでこういうのの中に入んなきゃならないんだよ。今回は水がないだけましだけどさ!
 ふんがーふんがーと気張っている俺を見かねたのか、ユーノは軽々とカプセルの蓋を開けてくれた。空気うめえ。


「まじかんしゃ」

「ん」

「で?」

「お見舞い。君がやられたのってさ、多分ボクのせいでもあるし」

「なんで?」

「牽制ってとこかな。ほら、ボクいろいろ調べてたじゃない。ちょっと調子に乗りすぎたかな」

「なんで、俺?」

「単純に一番効果的だと思ったんだろうね。実際そうだし」


 聞いたとき、心臓が止まるかと思った。とユーノは零した。
 何という愛され上手。ここまでユーノ・ラヴを受けてしまうと後には引けなくなってくるな。
 つかグレアム、マジで鬼畜。なんなの? 裏で直接ヴォルケンと繋がってんの? さすがに無いよね? つーことはだよ、あいつはこんな面倒なことを事もなげにやっちゃってるんだよ。すごくね? 上手く行ったら俺はリタイアだし、ユーノは使えなくなるだろうし、ヴォルケンの蒐集も進む、と。……パネェ。良くそんな頭が働くもんだよ。
 はぁ、とため息をついて、身体を起こそうかと四苦八苦。結局ユーノに手を貸してもらう。手のひらをゆっくりと握って、開いて。
 

「……負けたよ」

「うん」

「そんなつもりじゃなかったんだけどさ、負けちゃったよ」

「うん」

「強かった」

「そっか」

「……人間でいたいって、言ってた」

「そう」

「ウララも、魔導師でいたいって」

「うん」

「俺さ」

「なに?」

「実は結構強いって思ってた、自分のこと」

「強いよ、君は」

「でも、全然駄目だった。いやもう、そりゃ駄目駄目だった」


 拳を、握る。


「次は負けない」

「負けない?」

「勝つ」

「うん」

「俺が思いついたこと全部言うから、そっちで整理して。お前の情報と照らし合わせて、どうすればいいか考えようぜ」

「そうだね」

「だから」

「うん?」

「お前も、嘘つくなよ。俺の心配とか、そういうの要らないから」


 ぴく、とユーノの眉が動いた。
 らしくない。まったくもってらしくない。こんなことで動揺するような奴じゃないのに。
 あれだろ。実はお前ちょっとテンパってたんだろ。くくく、読めるぜ。この俺を心配しすぎて、焦ってやがったんだな! ふぅははは! き、気持ちいいぜ。この相手を丸裸にしてしまうような爽快感。ユーノはいつもこんな気持ちなのか。


「なんでそういうこと言うの?」

「だってお前、過保護じゃん」

「全然そんなことないよ。君、保護してたってすぐどっか行っちゃうじゃないか。大体さ、はやてって何? いきなり出てきた子のために命張らないでよ」

「ちゃんと紹介するって」

「そういうんじゃないよ!」


 今度は俺が驚く番だった。らしくないユーノの、その最終形態を見たような気分。いや、もしかしたら、このらしくないユーノこそが、本物なのかもと思えるほどに、人間っぽい。
 驚きは大きいけど、なんか、う、嬉しい感じがしてしまうわけであります。ああ! なんかこっちが恥ずかしい! 何だこのユーノ! 超常現象! もはや超常現象! 


「君はねっ、今! ボクのせいでそんなことになってるんだよ!」

「おう」

「頭にあったよ、こんなことくらい! 予想がついてたよ! でも、ボクは結局、自分のことに夢中でっ、まだ大丈夫なんて希望的観測で!」

「おう」

「それでこんなっ……、……なに笑ってるんだよ!」

「ユーノくんかっわいぃぃいいい!」


 言いながら、動きが鈍すぎる右手を根性で上げて、こっちゃこいこっちゃこいと手招き。俯き加減で若干唸りながらもユーノは俺の傍に腰を下ろした。
 右手をそのままユーノの頭の上において、あんまり動かないんだけど、よくフェイトにするようにかいぐりかいぐり。黙って頭を差し出したままのユーノはガチ。あれだ。こんな子供らしいユーノは見納めかもしれんからね、しっかりばっちり記憶しとかにゃならん。
 そのまま数分程度時間がたって、撫でられユーノが小さな声で呟いた。


「怪我、ひどいよ」 

「ンなもん何とかなるって」

「リンカーコアだって痛んでる」

「アルターから直接循環させりゃいい」

「死んじゃうかもしれないじゃないか」

「未練あっからそりゃねーわ」

「……ずるいよ、きみ」

「そりゃお前、もはや褒め言葉だろ」


 ぷ、と噴出したユーノを見て、納得してくれただろうと勝手に判断。
 あーだこーだと意見を出し合って、ユーノが拾ってきてくれた情報は、確かに役に立って、こりゃもうクリアだぜ、エース。
 なるほどなるほどそういうことかと納得する反面、何だそりゃ完全に原作崩壊じゃねぇかと。もうね、俺の原作知識とか一切あてにならないから。コレもう全然役に立たないから。闇の書とか夜天の魔道書とか、ちょっと色々変わりすぎですから。
 あーあ、と大きなため息。俺もたいがい頑張ってんだけどさぁ、なかなか上手く行くもんじゃねえよ、ホント。一人じゃ結局何にも出来ねぇし、何にも役にたたねぇ。やっぱ人間、独りじゃ生きていけねぇってとこで、エース、ホントのホントに攻略開始。





◇◆◇





 ソレを初めに感じたのはいつだったろうか。
 デジャヴに似た感覚。奇妙な引っかかり。以前に体験したことなのだろうかと脳を引っ掻き回すが、全然それらしい記憶は浮かび上がってこない。
 ただ、現実としていえるのは、認識のズレがあるということ。
 日課の蒐集結果報告。ヴィータはそれとなく『闇の書』という単語を何度か出した。シグナムは当然のように頷く。闇の書に違和感を感じてはいない。シャマルも当たり前のように受け入れる。闇の書に引っかかりを覚えてはいない。
 どうして?
 自分一人だけがおかしいのだろうか。プログラムに、バグでも発生しているのだろうか。それがもしそうだとして、生存に支障はないだろうか。はやてとの時間は、どうなるのだろうか。
 考えれば考えるほどにドツボに嵌っていく。怖い。闇の書に違和感を覚えている自分が。何も感じない仲間たちが。
 

「あの、さ」


 搾り出すように、ヴィータは口にした。


「闇の書、なんか変じゃないか? 変っていうか、違うっていうか……」


 仲間から返ってくる視線で、それは自分だけなのだと悟った。


「おかしなことを言う。不安か、ヴィータ?」

「ち、違う。そういうのじゃなくて」

「ふふ、もうすぐ蒐集も終わるものね。そういう気分になっても、仕方がないわ」


 違うのに。そういうんじゃないのに。
 ヴィータはどこか諦めた調子でそっか、と小さく呟いた。
 だが、


「俺も違和感を覚える。闇の書自体に。……いや、闇の書という言葉に、か」


 テーブルの下から聞こえる声に、ヴィータははっとなった。
 そう。まさしくそのそれ、言葉というか、存在というか、とにかくヴィータは違和感を覚えていたのだ。何かが違う。そんな気が、いつもしていたのだ。


「だよな! やっぱり、そうだよな!」

「ああ、おかしな感覚だ。これは、俺とヴィータだけか?」


 二人に尋ねても、やはり回答は変わらなかった。
 分からない。気づかない。
 ヴィータとザフィーラのみに感じる違和感。闇の書という名前。何がおかしいのか分からないが、しっくりこないのだ。落ち着かない名前をしている。闇の書だなんて、そんな名前ではなかったような───。


「ヴィータ」


 シグナムの一声で、深みに嵌ろうとした思考を持ち上げる。


「ヴィータ、それは今、重要か?」


 責めているといった声色ではない。単純な疑問。重要かどうかを判断する材料を、シグナムは持たない。だからこその疑問だったのだろう。
 ヴィータもそれを分かっていて、だからこそ答えに詰まった。
 重要な気はする。重要だと思うが、しかしそれは蒐集より大事だろうか。その時間を割いてまで解決するような問題だろうか。


「……すまん、ヴィータ。どうにも私は、少し先走りすぎているようだ。蒐集も順調だ。お前が気になるというのなら、先にそれを解決してもいい」

「あ、いや、そんなことねー。蒐集より重要だなんて、そんなことねーよ」

「しかし、私はそれを感じない。怖いのではないか?」

「ザフィーラもそうだし、どっちかってーと安心した」

「ふ、今度はこっちが不安になってくるな」


 場を取り成すようにシグナムがいうと、シャマルが私も不安になるとおどけた調子で手を上げた。
 そうだ。何を考えているのだろう。蒐集より重要なことなんて、無い。はやての命より大事なものなんて、あっていいはずが無い。
 ヴィータは疑問を噛み殺し、ごくりと飲み込んだ。今はこれでいい。疑問の解決は、命の解決の後で。

 うん、とヴィータは心中で頷き、シグナムに視線を送る。自分の問題なんか、後回しだ。
 逸るなとでも言う様に彼女はため息をつき、苦笑まじりに言う。


「さっきも言ったとおり、蒐集は順調だ。この調子なら、今月中には集まる」

「今回の召喚では、ちょっと時間がかかっちゃったわね」

「色々と、これまでとは違っているからな」


 殺さない。そういうこと。


「アタシもたいがい手加減してきたけどさ、一人だけとんでもない奴がいた」


 ヴィータは思い出し身震いすると、シグナムがほう、と瞳を輝かせた。戦闘狂め。


「一週間くらい前だけど……、正直負けるかと思った」

「ヴィータちゃんにそこまで言わせるなんて……。局員の方?」

「いや、多分あれ訓練生なんじゃねーかな。試験がどうとかって聞こえたから」

「なるほど。この時代の魔導師も、なかなか油断は出来んか」

「捨てたもんじゃねーよ。はやてみてぇな奴もいるし、それにほら」

「ああ、分かっている。私も先日確認してきた。いるところにはいるものだな。先を見れば、私たちを超えるぞ」


 先日高台の階段で出会った少女。名前はなんと言っていただろうか。確かたかまちなんとか。


「たかまち、にゃのは……?」

「なるほど、にゃのはというのか、あの少女は」

「えあ、ちがうちがう、にゃ、んや、にゃのはだ」

「……? だからにゃのはなのだろう?」

「にゃのはちゃんね。覚えておくわ」

「ふん、にゃのはか……」

「えと……」


 ヴィータはうまく回らない舌を呪って、もうそれでいいやと諦めた。重要なのは名前なんかより、その力。傍を通り過ぎただけで上等だと感じるものがあった。アレを手に入れてしまえば、今月中といわずに、今週中にだって決着はつく。
 思わず拳を硬く握った。だって、今週中に決めてしまえば、それだけはやてが苦しまなくてすむ。
 いつかも感じたことだが、ヴィータには はやての症状がなんとなく分かるのだ。恐怖だって、ただ事ではすまないような、どす黒い何かが這い上がってくるような、そんな感覚を覚えているはずなのだ。なのに はやては何も言わない。それどころか笑顔を見せる。
 強いな、と思った。優しいな、と思った。同時に、助けたいと強く感じた。


「シグナム」

「ああ、分かっている」


 狩猟、解禁だ。
 どこぞのテレビCMのようにシグナムは口にした。心臓に熱が入る。

 と、同時に。
 ごとり。
 リビングでいつものミーティングをしていたヴィータ達だが、二階のほうからそんな物音。

 あ。
 真っ先に反応したのは、もちろんヴィータだった。ただの物音に、獣のような反応を見せた。どくんどくんと鼓動が高鳴る。いやな予感がしている。そんなのってない。もうすぐなのに、後ちょっとなのに!
 階段を駆け上る。何度か躓きそうになりながらも駆け上る。高々これだけの運動で、なぜだか息が上がってしまう。心臓がやかましい。
 ドアノブに伸ばした手が震えていた。この先の現実を、受け入れたくはなかった。


「はや、て……?」


 ゆっくりと開く扉。震える声。
 ベッドから落ちてしまったのだろう。はやては布団を巻き込みながらフローリングに突っ伏していた。は、は、は、と荒い息遣いが聞こえる。呆然とその光景に捕まって、ヴィータの足は動かないでいた。
 どうしたんだ、と後ろの方から仲間たちが駆けてくる。どうもこうもあるものか。ヴィータはふるふると頭を振る。こんな現実、嘘に決まっていると、その場から逃げ出したくなった。


「……はやてぇ───っ!」


 闇の書の侵食は、ついに はやてを脅かした。






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