00/ちくびロケッツ その日、俺は八神家へとお呼ばれされた。 こうやってはやての家に行くのは何度目だろう。局員生活を始めて、毎週のように通ってる。 そう、俺は結局、局員になった。グレアム爺さんのせいで、あと二ヶ月もすれば一等陸士への昇進試験と、魔導師ランクの昇格試験を受ける羽目になってる。マジやってらんね。アイツら絶対俺のこと使い潰す気だよ。 ため息をつきながらミッドの本部から本局へと転送を受けて、それからアースラへの転送を受けて、んでもってそれからやっとこさ地球へと到着である。「あー、久しぶりの我が故郷」『先週も・来ましたが』「一週間ぶりの我が故郷」 町並みを見渡しながらゆっくりと歩く。 ふふ、毎日毎日仕事に追われて訓練に追われて心が荒んでしまった俺には実にリラクゼーション効果が高いぜ、地球。『先日・仮病で・サボり・ましたが』「けっ、仮病じゃねぇよ! お腹と頭と手足が完全に痛かったんだよ!」『お腹と・頭と・手足という・時点で……』「仮病じゃないもん! 全然仮病じゃないもん!」 俺の仮病はいいとして、今日のご飯はなんだろうか。 はやて飯はウマーだからな。このはやて飯を一週間に一回食うことで俺のやる気メーターが回復されてるからな。これがなかったら一週間と持たないからな。そうなると仮病しかないよな。 見慣れた玄関。見慣れた呼び鈴。人差し指を立てて、ピンコロ~ん、と。ピンころピンころピンころピンこぴんこぴこぴこぴぴぴぴぴぴんころ~ん、と。『……はい』 聞こえる声はシグナムだった。「俺俺、あ? 俺だよ俺!」『プロダクトか』「おう」『上がってくれ』 お邪魔しまーす、と玄関を開け、靴を脱ぎ散らかしながら上がりこんだ。 まぁ第二の自宅のようなもんだから大丈夫だろう。はやてがこんなことで怒るはずがない。むしろ笑う。あほー、とか言いながら笑う。 リビングへと繋がるドアを開けて、「おい~っす……?」 ぽつん、とシグナムが一人で新聞を読んでいた。「ありゃ、皆は?」「主はリハビリだ。シャマルとザフィーラがそれに付いて行っている。ヴィータとツヴァイはゲートボールの集会があるそうだ。リインは夕食の買出しに出た」「それでニートなお前は新聞か」「お前を待ってたんだ。誰も居なかったら困るだろう」「ん~……、皆何時くらいに帰ってくんの?」「主達は少し時間がかかるだろうな。ヴィータ達は分からん。リインは一時間もすれば帰って来るだろう」 てことはだよ。「い、一時間はお前と二人か……」「なぜ一歩下がる」「べべ別に下がってねぇよ」「なぜ帰ろうとする」「んなことねぇよぉほほほ?」 廊下をムーンウォークで下がりながら、するとシグナムがソファから立ち上がった。 じ、とその鋭い視線で俺を見つめながら、どこまでも無表情に言う。 「なぜ逃げる」「───翔けよ隼ッ!」 玄関に向かって俺は走り出した。この距離ならば、逃げ切れる! 待て! 後ろから聞こえる声。待てといわれて待つ奴は居ない。そりゃただの馬鹿だ。 玄関をぶち壊す勢いで開け放ち、すぐさま全力疾走。魔力的なものを使ってでも全力疾走。 後方から感じる気配。ちらりと視線を送ればシグナムが、その長い足をガンガン動かしながら迫ってくるのだ。 こ、怖いよ! このお姉ちゃん怖いよ!「こっちくんな! 帰れ! 新聞読んでろ!」「一人で寂しいじゃないか!」「一時間すりゃリインが帰ってくんだろがッ!」「一緒に待とう!」「やだ! 待つだけに終わらないから絶対やだ!!」 そして町内マラソンが始まった。 いや、だってこいつさぁ───……。 一ヶ月くらい前の話である。 いつも通りにはやての家へと行くと、その日シグナムは実に不機嫌だった。 はてさて、何かあったのかなぁ、なんて思ってたら、なんとソレは俺のせいだという。「はぁ? 意味分からん。なんかしたか、俺?」「何もしないからだ」「うん?」「……や、約束はいつになったら守ってくれるんだ」 どんよりとした声だった。表情には出していないが、重く、少しだけ悲しげな。 クエスチョンマーク全開で小首を傾げると、「新聞! 今度は新聞丸めてしようって、お前は言ったじゃないか! なのに……なのにお前は! 来ても全然私の相手をしない!」 だそうです。 いや、そんなもん覚えてねぇよ。言われてやっと思い出したよ。きっとソレ本心じゃなかったんだよ。俺はけっこう嘘つきだからな。そんなことがポロポロと口から出ちゃうんだろうな。 隣でヴィータがゲラゲラ笑いながらシグナムを指差してるからなんとなくいたたまれない気持ちになっちゃったよ。 しかたねぇなぁ。 そう。俺は“しかたねぇなぁ”と思ってしまったのである。思えばこれが良くなかった。 たぶん選択肢として出てきてたはずである。『しかたねぇなぁ』『だが断る!』 俺は……。→『しかたねぇなぁ』『だが断る!』 こっちを選択してしまったのだ。ああ、ああ! なんて馬鹿!「わぁったよ。ほら、庭でやろうぜ」 言うと、シグナムは無表情ながらも瞳をきらきらさせ、その場に座り込んでせっせせっせと新聞を丸め始めた。 ……この無駄に可愛い動作がカモフラージュだったんだ。これに俺はばっちりと騙されてたんだ。 二人で庭に下りて、まぁ新聞なんだからレヴァンティンよりも百倍はマシだろう、と高をくくって。「ふ……、チャンバラ王子といわれた腕前、とくと見せてやろう……!」「なに? 私は生前チャンバラ女王と呼ばれていたことがある。こっちは王だ。私のほうが強いな」 始め! はやての声が聞こえた。 次の瞬間、目の前は真っ暗になっていた。 悟ったね。過去の栄光に縋ったところで、王子では決して女王には勝てないことを。きっと俺を含めてそういないよ、新聞紙で気を失った奴は。 ……まぁ、そんなこんな、他にも色々あって、こいつは何かと勝負したがるので逃げるのである。 リビングに入って、まずシグナムが新聞を読んでるって時点で俺の防衛本能が叫んだね。逃げろ。「待て!」 「やだッ! 絶対やだ!」「きょ、今日は何もしない!」「嘘付け! 先々週もそう言いながら結局はプールでバトルだったじゃねぇか!」「あ、アレはお前が『筑後川のランブルフィッシュと呼ばれた俺に、プールで勝負だと?』なんて言うから!」「豆津橋から飛び降りた俺に怖いものはねぇ!!」 もうシグナムのおかげで俺はだいぶ足が速くなったと思う。いかに体力を使わずに長距離を走れるか。ソレが身体に染み付いてきたよマジで。 もう一度後ろを振り返ると、シグナムは息切れ一つおこさずに付いて来る。 俺全力。シグナム八割くらい。まぁ大人と子供って言われればソレまでなんだけどね。「待てっ、待ってくれ!」「だからやだって───」 全力で駆け回りながら。 しかし、今回のシグナムは一味違った。「───泣くぞ!」「あ、あん?」「わ、私を一人にしたら泣くぞ!!」 もう一度、これで最後にしようと思いながら振り返ると、その鋭い眼光は本当にうるうると輝いていた。 ち、ちくしょう……。なんでこいつこんなに可愛いんだっ。 罠だろ? どうせ罠なんだろ? 絶対罠に決まってるのに! なのに、俺の足は速度を落としていく。ま、待つんだマイレッグ! その選択はどう考えても間違いにしかならな───。 背後から両手をまわされて、いつかのようにぎう……っ、とシグナムが抱きついてくる。は、は、と熱い吐息が耳にかかってこそばゆい。 さぁどうだ。このまんまバックドロップか? 来るのか? さあこい。……さぁ、……? ……えと……?「え、なに? お前マジ泣いてんの?」「わた、私は、友達に逃げられたくない……」 わ、笑っちゃだめだ。笑っちゃだめだ! と、思うほどに笑いの沸点って低くなっていくんだよね。これホント謎の現象。「みんな私から逃げていくんだ……。私はずっと一人だったんだ……」 まぁ色々と過去に関係してることなんだろう。 あんまり詳しくは聞いてないけど、魔法の発展もない中世くらいの時代だったんだろ? それでバリバリ炎操ってたらそりゃみんな逃げていくわな。「く……っ、くふ、ふふふ……」「……笑うな」「笑うわっ」「わ、笑うな! 一人は嫌いなんだ!」「ぎゃっはっは!!」 そして、ぐずぐずと鼻を啜るシグナムの手を引きながら八神邸へと。 ええいちくしょう。ベトベトだ。汗もそうだけど、シグナムの鼻水でベトベトだ。やりやがったなあいつ。 ううむ。勝手に風呂使っちゃっていいかな? 勝手知ったる人の家なんだけど、さすがにどうだろうか。『すでに・服を・脱いでいる・人間の・考える・ことでは・ありませんね』「ジャケットパージ!」 全裸で風呂へ進むと、帰ってからトイレに引きこもっていたシグナムがようやく出てきた。「なげぇウンコひりだしてきたか?」「……馬鹿。少しは気を使え。恥ずかしくて死にそうだ」 顔を赤くしながらそう言う。目元が赤いのが兎みたいで、こんなシグナムは俺が初めて見たんじゃないかと少しだけ優越感が。 その泣きはらした目で見るのは、もちろんのこと全裸の俺である。 シグナムは特に何か思った様子もなく、「風呂か?」「おう。お前の鼻水で髪の毛が固まっちまったぜ」「……すまんな。私が洗ってやろう」 俺、後日談はエロスで行くって、そう決めてたんだ……。 ぽん、と俺の背中を押しシグナムは風呂場へ。 俺のほうはあんまり自信ないけど、もしどうにかなりそうだったら間違いなくシグナムが俺をはっ倒すだろ。……ああ、自制心的な意味でね、自制心的な。 脱衣所で、シグナムはさっさと服を脱いだ。 生きてきた時代の違いなのか、それとも俺が子供だからなのか、羞恥心でがちがちに固まってるっていう事もなさそうで、手早く服を脱いでいく。 ブラジャーを外すのに苦戦して、シグナムは俺に外せと言ってきた。 ……大丈夫。大丈夫じゃないけど、まだ耐えられる。我慢我慢。シグナムはホントに安心して、友達として接してきてくれてるんだし、完全体な俺をさらすのは実にまずい。 無意味に咳き込みながら手を伸ばし、ソレを外すと、ほろりと現れるOPPAI。 シグナムは筋肉質だ。腹筋も割れてるし、太ももなんかも細いって訳じゃない。ただ、肉感的なだけ。着やせするからそうは見えないけど、わりとむちむちしてる。しゃぶりつきたいくらいむちっと。 そのくせに……そのくせにこのOPPAI! なんだ! 筋肉と脂肪は両立しないんじゃなかったのか! 筋肉なのにおっぱいなのか! ……大丈夫じゃなかった。全然大丈夫じゃなかった。「大丈夫か? 鼻血が出ているが……」「ちょっとのぼせただけだ」「……まだ風呂には入っていないぞ」「湯気だ。湯気にやられたんだ」「そうか」 釈然としないような顔で、そしてシグナムはショーツに手をかけた。 やばいな。いろんな意味でやばい。これは俺、先に入ってるべきだな。「あ、あー、俺先に入ってっから……、……シグナム?」 ぴたり、と。 シグナムはまるでイップスに陥ったように下着に手をかけたまま動かなかった。若干前かがみになったその姿勢のまま。おっぱいがそのまんま落ちていくんじゃなかろうかと錯覚をさせるほどに、もうとにかくすごかった。「プ、プロダクト」「ん?」「……お前は、その……、お前は人の身体的特徴を指して、笑うような人間じゃないな?」「あ? そこまで性格歪んでねぇよ」「そうか……、そうだな」 ふ、とシグナムはやわらかく微笑み、ショーツをずり下ろした。脱いだ。全裸になった。 ……。だからなんで、笑っちゃだめって思うと、笑いの沸点って低くなるんだろう……。「……っ、んごっほ、んんっ、げほんっ……」「さっきから咳をしているな。冷えてきているんじゃないか? さぁ、早く入ろう」「ふくッ、く、んんほッ、……ふ、くふっ……うう、うう~……!」「震えているぞ、大丈夫か?」 だ、駄目だ。俺全然駄目だ!「ぎゃはッ、ぱ、ぱいぱ、ぐふっ、ひぃ! お前パイパンかよ! ぎゃっはっは!」「───ッわら、笑うなっ」「ッ駄目だごめん! いや違うんだ! べ、別におかしい訳じゃないんだけど───ぐひっ、くくっ、ひゃっひゃっひゃ!!」「うう、わらうなぁ……」 また泣き出したシグナムの手を、俺はゲラゲラ笑いながら引き、浴室の椅子に座らせた。 さっきまでフル勃起しそうだったのに、なんかそんな気分が消えていったぜ。ナイスパイパン。ナイスパイパン。 蛇口をひねり、少しだけ熱めのシャワーをシグナムの頭からぶっ掛ける。「あついぞ!」聞こえない聞こえない。 シャンプーを四プッシュし、いや、これじゃ足りないかも、もうワンプッシュ。わしゃわしゃとシグナムの頭を洗った。爪は絶対に立てないように気を使って、指腹で地肌をマッサージするように。 ほぅ、とシグナムから気持ちよさそうな吐息が聞こえて、それでようやく泣き止んだかと一安心。「……お前はひどい男だな」「いやいや、めっちゃいい漢だろ」「約束は忘れるし、笑う。駄目だな。お前は全然駄目だ」「そら一緒に風呂入ろうって女に毛がなかったら笑うしかねぇだろが。むしろ痛い目をしなかった俺に感謝して欲しい」 誰だって笑う。笑うよね?「……やはりおかしいのか? 大人なのに毛がないのは、おかしいか?」「剃ってんの?」「そっ、そんなもったいな───、……そ、剃っては、ない……」「天然か……」 ぐず、とまた鼻を啜る音が聞こえた。 すぐさま熱めのシャワーをぶっ掛ける。「あつっ、あつい!」聞こえない聞こえない。 「まぁ、いいんじゃねぇの? 毛があろうがなかろうが……ぷふ、け、毛があろうがなかろうが……」「笑ってるじゃないか!」「毛といえばそうだっ!」「なんだ!」「お前髪の毛下ろすと変わるな!」「なにがだ!」「雰囲気変わる! 可愛く見える!」「かッかわぁ───」 その声はひっくり返っていた。 椅子からずり落ちたシグナムはタイルの上に尻をついて、はぁ、とため息をついた。 くるりと俺と対面に向き直り、胡坐をかく。……お前気にしてるんならもうちょっと隠せよと思った俺に死角はない。「お前は以前もそう言ったことがあったな……」「なんでお前いつも顔しかめてんの? もうちょっと表情作れよ。お前の笑った顔マジ可愛いから」「可愛くなんて……。私は筋肉もついているし……」 少しだけ恥ずかしそうに、シグナムは自分の腹を隠すように撫でた。いや、隠すところ間違ってるよね。胡坐かくべきじゃないよね、お前は。 ていうか腹筋ある女って可愛くないの? 俺、筋肉女好きなんだけど……少佐とか大好物だよね。 何が言いたいかっていうとストライカーズだよね。なんなのあのアルフ。目を疑ったよ、俺は。ぷにぷにさせてんじゃねぇよ。アルフはがちがちしてるから良かったんだよ。筋肉だよ。筋肉あるふだから良かったんだよ。なのに幼女……。あのときのがっかり感といったらなかったね。いや何、決して幼女が悪いんじゃないんだ。幼女も幼女でいいんだ。たださ……ただ、あのマッソォが消えたのが残念だっただけさ……。 てことで、「ちょっと触っていい?」「なに?」「腹筋、ちょっと触らせて」「おっ、ちょ、わわっ!」 シグナムのお腹に手を伸ばした。 女らしくやわらかで、しかしほんの少しだけ先に進むと、どこまでも堅牢なマッソォ。これがシグナムの、女であそこまでの近接戦闘力を誇るこいつの力。『作った』筋肉じゃなくて、『出来た』筋肉だ。ナチュラルで無駄がない。柔らかいのだ。脂肪と変わらないくらい柔らかい。シグナムがはっ、はっ、と息をするたびに収縮し、それは俺の拳をものともしなかった堅い鎧になる。 腹筋のくぼみを指で撫ぜて、肋骨を覆う広背筋からのびる薄いそれに手を伸ばした。このあたりは男と女の違いか、やっぱり脂肪が多い。 少しだけ手を上に。大胸筋を。おっぱいじゃなくて、大胸筋を。下乳の隙間に指を滑り込ませ、力を入れた。やわらかいところを押し込むと、やっぱり、しっかりとした筋肉。バストアップ方で胸筋をつけるといいってよく聞くけど、それを実感できた瞬間だった。 う、うらやましいぜ。シグナムでこれだったらザフィーラなんてどうなってんだ。きっと果てしないほどに筋肉祭りにきまってるぜ。 「……すげぇ。お前の身体すげぇ」「あっ、あっ、まて、まって……」 若干興奮しながらシグナムににじり寄った。 胡坐のままのシグナムの膝に乗り、正面から抱きつくようにして脇に手を伸ばし、そのまま背中を握りこんだ。 もちろん見えない。なんたって顔面をおっぱいに埋めてるから。見えないけど、手のひらには感じる。剣を振るために発達した、肩から背中の中心へと伸びる僧帽筋。今はおっぱいよりもこいつだぜ。おっぱいも捨てがたいけど、この筋肉たちも捨てがたいぜ。 「うくっ、うっ、うぅっ……」 広背筋の上から三筋目を指先で弄ぶと、シグナムの体がぴくりと跳ねた。 いや、もうちょっと触ってたい。この筋肉たちと戯れたい。「いや?」「い、いやじゃ、ないが、何か……、何か変だっ」 あつくなってくる……、と震える声でシグナムは言った。 そうか。背中はあんまり好きじゃないか……。 しかたない、と広背筋を撫ぜていた手を下へ、下へ。 女は、尻の脂肪が厚い。これは個人差もあるが、日ごろから鍛えているシグナムもそれに漏れず、とにかく柔らかかった。 けれど、もっと奥。その厚い脂肪に囲まれた奥には、人間の筋肉の中で一、二を争うほど強く、強靭で、広い筋肉が待っている。大殿筋と呼ばれるそれ。 人間は座る。その度にこいつらは圧迫され、攻撃を受ける。しかし尻が悲鳴を上げるまで、どれほどの時間がかかるだろうか。一時間? まだまだ。二時間? まだまだ。三時間? このあたりで痛くなる人はなるかもしれない。 だが、この大殿筋はそれほどの時間攻撃を受け続けても、死なないのだ。座っただけで尻にこりを感じる人は少ないだろう。それほどまでに強靭。脂肪と助け合いながらの防御力。やべぇ、大殿筋果てしねぇ……。 ぎゅう、とその防御力を信じて力を込めると、柔らかい脂肪を超えて、ようやくたどり着いた。「───あっ!」 甲高い声。 ぎう、とシグナムが組み付いてくる。 まて! まってくれ! もうちょっと堪能させてくれ! こ、これじゃ動きが制限されちまって触る場所が───、おっぱいの山から何とか顔だけを抜き出し、見えたのは力を込められた太ももだった。 ふるふると震えているそこには、だ、大腿四頭筋!! 筋を浮かせるそいつらは、まるで俺に触って欲しそうにゆらゆらと動く。腰と一緒に、ゆらゆらと。 う、う、う、とシグナムの、少しだけ辛そうな声が聞こえた。 しかし、だがしかし、この発達した筋肉を触らずしてどうして終われようか。 そっと手を伸ばし、太ももに、その大腿四頭筋に触れた。力強い収縮。ぐっと強張ったり、柔らかく弛緩したり、非常に忙しい筋肉だ。たまらねぇ。これはたまらねぇぜ。 次いでとばかりにもも裏、大腿二頭筋も……、なんて奴だ。ここまでナチュラルに発達するもんなのか。シグナムはきっと走ったんだ。たくさんたくさん走ったんだ。膝を曲げ、足を送り出し、身体の体重を支え、バランスを取る。そんな筋肉がこんなにも綺麗に……。 感動して、ちょうどその時、腰の骨辺りから太ももの内側に続く縫工筋を、指先が捉えた。 同時にかくんっ、とシグナムの背が伸びる。俺を縛る両腕はさらにきつくなり、必死に必死に身体をこすり付けてきた。 「ふわ、あ、ぁっ、ぷろだくと、ぷろだくとぉっ、へんだ、へんだぁ……っ」 いや、変なトコなんてなんもない。むしろすばらしい。この筋肉たちに名前をつけてあげたいくらいだ。 シグナムの拘束は弱まることがない。またもおっぱいに顔面を埋めた俺は、しかし指先の感覚を信じた。そう、この腰から伸びるながぁい縫工筋に、その下に重なるようにして存在する筋肉。腸腰筋。それを堪能するまで、俺は負けないのである。 腸腰筋といえば腰椎と大腿骨を結ぶ『足を動かす』という行動に必要不可欠な筋肉。……いや、愚かなことを言ってしまった。必要不可欠。それは全ての筋肉がそうだ。筋肉イズ、コズミック。神もそう考えているに違いない。 そっと、指先の感覚を信じながら、優しく優しく、俺が今まで見せたことすらない、慈愛という慈しみすらもって、ソコへと手を伸ばした。 ───ぬるり。 なにか、シャンプーの残りだろうか。ソコは非情にぬめっていた。「ひぃっ、ぅあ、あ、あッ!」 どこだ。腸腰筋は、どこなんだ! ほんの少しだけの焦り。馬鹿な、腸腰筋のない人間なんて居ない! いったいどこに! 筋肉、筋肉はっ! そして俺は腸腰筋を、シグナムの股間を弄った。あるはずなのである。この辺に腸腰筋があるはずなのである。 ぬるり。また何かで滑る。ぬるぬるしてて、じっとりしてて、どこまでも柔らかくて。 すん、と鼻を鳴らすと、どこまでも女の匂いがしていた。シャンプーと、シグナムの口の端から零れる涎。泣き止んだはずなのに、新しい涙がポロポロと頬を伝っていっている。 指の腹に筋肉とは別の、硬くしこる何かを感じた。 ───筋肉以外に用はない! ぎゅ、と摘み上げると、「───ッ、い、ひっ───っ、おっ、んおッ───!!」 シグナムは獣のような雄叫びを上げてぱたりと後方へぶっ倒れた。 とにかく何がなんだか分からんが、仰向けに倒れたシグナムの乳、その先端がカタツムリの目のようににょっきりと顔を出し、ロケットのように尖ってたのだけは鮮明に記憶された。・筋肉しただけですよ。べつにエロスとか考えてないですよ。