02/~私の女神様~ねぇ、神様ってさ、信じてる?初めてパートナーにそう問いかけた時、その時の彼女の顔を私は一生忘れることはないだろう。とても珍妙な顔をしていた。思わず笑いが出てしまうほどに。パートナーは現実主義者だ。私の問いに彼女は、馬鹿じゃないの? と驚くほど端的に回答をくれた。次いでこちらの脳の心配をするものだから少しだけ、恥ずかしい質問をしてしまったぁ、と後悔したのを憶えている。さておき、斯く言う私は、実は半分だけ信じている。そういう体験をしてしまったことがある。今考えてみれば、もしかしたらそれは『人間』だったのかもしれないが、私にとっては女神様だったのだ。半分だけって言う理由は、私は神様がそれぞれの心に宿る存在だと思っているから。全知全能の神様を信じている人を、私は否定しない。だってきっと、その人にとってそれはその人の神様だから。だから他の何を信じていても否定しないし、神様の存在を信じていない人も否定しない。もちろん肯定できるかと言われれば、それはそれで考えさせてもらうわけだが。私が半分だけ信じている女神様は、もしかしたら違うのかもしれないかもしれないけど、その女神様は、私を絶望のふちから救い上げてくれた。私を助けてくれた人と、私を救ってくれた女神様。私の尊敬する人と、私が心の底ではなく、半分くらいから信じている女神様。助けてもらうばかりの自分がイヤで、そんな自分を変えたくて選んだ道。後悔はしていないし、これからもきっとしない。ただあなた達のようになりたい。なってみせると、心に誓う。。。。。。0071年4月29日。その日、スバルの周囲は燃えていた。父に会うために空を経由し、空港に着いた。姉と一緒に売店で買ったアイスクリームがとても美味しく、にこにこと笑顔がこぼれた。その後もちょいちょいと売店を冷やかしながら父にあったら何を話そうかと心躍らせていた。一緒に来ている姉の事か。それとも最近少しだけ教えてもらった格闘技の事か。近所のネコにひっかかれたことは黙っておこう。きっと笑われる。そんな考えにふけっていると、少しだけ溶けたアイスが垂れ指に付いた。スバルは舐め取ろうかと思ったのだが子供心にそれは駄目かなぁと思いなおし、後ろから付いてきているはずの姉を振り返―――。「ふぇ?」始めに感じたのは揺れだった。足元がおぼつかなくなるほど強力な。そして、鼓膜が破れるかと思うほどの激音、爆発。手に持ったアイスが何処かへ吹き飛んでいった。「っやぁあ! お姉ちゃん!!」……。一瞬の静寂の後、周囲の人間が慌しく遁走し始めた。幼い身体では人波に乗ることも出来ず、勿論逆らうなど論外。スバルは押され、倒され、蹴られ、その視界に姉の姿を確認できないまま、いつの間にか意識は飛んでいた。……?そして、熱で身体が焼ける感覚で目を覚ましたかと思うと、周りの様子がまったく変わっていたのだ。燃え盛る炎と、コンクリートを溶かし発生する煙。とにかく死ぬと思った。ここにいたら死ぬだけだと。本来災害にあったら動かないことが一番らしいが、そんなことを考える余裕は、その時のスバルにはすでに無い。一緒に来た姉に、助けてもらうために移動を開始。ふらふらと頼りない足取りで姉であるギンガを探し始めた。「お姉ちゃん……、どこぉ?」弱々しい声は何処にも届かない。あたり一面は煙と炎。目をまともに開けられない。そんな状態で姉など見つかるはずもなく、それでも幼いスバルは姉の姿を追い求める。そしてその視界に巨大な女神像を入れたとき、ようやくここはエントランスということに気が付いた。それはそうだ。まさか意識が無い間に大移動しているはずも無い。スバルは何となく、稼動していないエスカレータを降った。子供心ながらに煙を余り吸ってはいけないと気付いたのだ。だから下に、下に。足を踏み出せば靴が、底面のゴムが焼けるニオイ。「お父さん……、お姉ちゃんっ!」いるはずも無い父を呼ぶ。もしかしたら助けに来てくれるかもしれない。あと少しでエントランスホールを抜ける。そう思ったとき、自身の隣でまたも爆発が起こった。「ぎゃっ!」爆煙に包まれ数メートル吹き飛ばされる。もういやだ。心底そう思う。なんでこんな目にあうんだ。先ほど階上で見かけた女神像の前に飛ばされ、死んだらどうなるんだろうかと考えた。もしかしたらこの女神様が連れて行ってくれるのだろうか。そんなのは嫌だ。スバルは考えて、ああ、祈ろう。死にたくない。誰かが死ぬのもいやだ。姉の無事を、自身の生存を祈ろう。(……お願いします。死にたくない。お姉ちゃんも、私も、皆、死にたくない。助けて、助けて)自身より先に姉の心配が出来る。誰かを傷つけるのも、誰かが傷つくのを見るのもいやだ。そんな、心優しい少女の願いを、知ったことか。そう言わんばかり。女神像の台座が熱疲労でぼろりと崩れた。そしてそれは当然の如くスバルのほうに傾く。「……あ……?」死ぬ? 死ぬ。潰されて死ぬ。この加重には耐えられないだろう。ああ、死ぬ。自身のスペックではこの危機は乗り切れない。脳の裏側でそんなことを考えた気がする。瞬間に心を絶望が支配した。諦めた。生を手放しかけた。しかし、「あ~らら、女神様が子供ぶっ潰してたら世話ないよ」もう一人の女神が現れた。同時に目を奪われた。それはまるで完成されたナニカのようだったのだ。「―――、撃、ぉ…」女神同士でケンカでもしているのだろうか?もう一人現れた片翼の天使は一枚だけ羽を散らし、黄金の軌跡を残し、空を駆けた。アレが天使の羽なのか。輝く拳は夢のよう。瞳に焼きつく長い金色の髪の毛をなびかせて、彼女は拳を、「――――――!!」『――――――』その拳はスバルの心を砕いた女神を、さらに粉々に砕いた。美しかった。綺麗で、気高い眼差し。この世のものとは思えなかった。そして人形のように精巧に作られている口元をニヤリと歪める。「ざまぁ!」口は、少し悪いようだ。空中でFU●Kサインを繰り出した彼女は軽い身のこなしでスバルの隣に降りたった。「よっス」「……あ、うん」炎が立ち上り煙が舞う中、ここは別の空間のように感じた。もっと別に言うことがあるだろうと思ったが、いかんせん頭は混乱の真っ最中。スバルは妙な生返事しか返せない。「お前さ、あんな状況で馬鹿みたいに突っ立てちゃ駄目だよ、猫じゃねぇんだから」「ご、ごめっ」「あぁ、いいから。で、何か言うことはなかったわけ?」「……助けてくれて、ありがとう」自信なさげにスバルは呟いた。言うことはなかったのかとは、どういう意味かよく分からなかった。そしてそれでも考えてみるならば、思うにあの時言うことはなかった。女神の彫像が倒れてきた時、まさに世界に裏切られた気がした。一瞬にして心を絶望が埋め尽くし、確かに諦めた。まさか別の女神様が助けに来てくれるとは思いもしなかったのだ。だから、言うべき事はなかったけれど、いま、助けてくれて、ありがとう。心を込めて、そう言った。しかし、「ばっか、ちげーよ! 『助けて』だろ、た・す・け・て! 居もしねえ神様なんかに祈って……ばかじゃねぇの?」まさか、ばかじゃねぇのと一蹴されるとは思いもよらなかった。それは幼いスバルにはショックで、周りは轟々と音を立てて燃えているのに自分は一体何をやっているのか、そう思うほど。さらにもう一つショックなのは、神様否定。「でも、女神様は…」「あん?」この人は(便宜上人と呼ぶが)、この人は人には見えない。スバルは幼いながらも自身の身体の事を理解している。当然、他の人間とは捉え方が違うであろう視覚情報の事も。普段は意識して眠らせている機能であるが、危機が迫ったことによる強制解放により今のスバルは常人よりも遥に視覚による情報が多い。その視覚情報を理解し、そして理解した上で考え、スバルはこう言った。「人?」「……はい?」『人間』には、『視えない』のだ。。体中を這い回るように何か違うものが『居る』。普通の人間ではありえない、特殊な身体構造をしていた。だからスバルは絶対に『女神様』が自分を助けに来てくれたものだと思っていた。「人間、なんですか?」「あ、ああ~、はいはいはいはい、そゆことね。なるほど、ん~、ふひひ。 ……ホントはこの事誰にも言っちゃダメなんだけど特別だぞ? 実はね、神様は今この世界には居ないんだ。たくさんの世界があるからな、ちょっと出張中。だから変わりにお……私たちが皆を助けてるんだよ。ホントは最後まで諦めないやつの前にしか現れないんだからな。諦めなければ何とかなる、ってね。 っとと、ヤベ、もう来るな……。ほらほら、いいから言ってみろ『助けて』だ」「え、あ、たすけて……?」理解が追いつく前に催促される。神様が出張中? そんな馬鹿なとは思うものの妙に説得力のある態度と台詞。本当に、そうなのかもしれない。と思うほどには自信を感じた。「もっと大きく!」「た、たすけて!」「MOTTOMOTTO!!」「った、たすけてえ!!!」妙な会話。この人(?)は助けてくれないのか?スバルは急に不安に駆られた。本当は最後まで諦めない人の前にしか現れないという『女神様』。自分は一度諦めてしまっている。もう終わったと思ってしまった。だからもしかしたら本当に助けてくれないのかもしれない。しかし……、しかしそれは先刻までの話だ。命を拾って、光明が見えてしまった。可能性を感じてしまった。生きたい。死にたくない。絶対に、絶対に!だから、「誰かっ! ったすけてええぇええぇぇええぇえ!!」肺の空気が全部抜けきってしまうかと思うほどの大声を出した。思えば人生で初めてかもしれない。そうして天井は破られた。爆音と共に。「ひぁっ!」瓦礫が少しだけ遠くに落ちる。また爆発かと思ったが、違った。濛々と煙が立っている中から声が聞こえたのだ。「聞こえたよ、あなたの声!」諦めなければ何とかなる。言ったとおりだ。なんともう一人の天使が舞い降りたではないか。神様がいないなんて、嘘だ。「遅くなってごめんね、もう怖くないよ」そう言って白い、少し遅れてやってきた人間は周囲に防御結界を張った。ありがとう。心の底からそう思った。助けに来てくれたこの人に、絶望を打ち崩してくれたあの人に。「あ、ありが―――、あれ?」頭上を見上げていた視線を戻すと金色の彼女の姿は既に無かった。「どこ?」あたりを見渡すも、何処にもいない。探そうにも周囲には結界が張ってあり移動不可。本当にあっという間に消えてしまっていた。不意に動かした足にこつんと何かが当たった。「……あ」ふ、とスバルから笑みがこぼれた。ああやっぱり。なんだ、そうなんだ。それは一つの薬莢。これと同じようなものを昔、母が使っているのを見たことがあった。どうにも昨今は女神様もデバイスを使うようである。何度も、何度も何度も再利用したのであろう。金色の塗装が殆んど剥がれ落ち、半ばそれは鋼にくすんでいる。どうあっても古ぼけた印象は拭えないが、しかしそこには彼女の証があった。彼女自身の黄金が残っていた。ふわりと消えた魔力の残滓を見届けた時に何となく、彼女はもうここにはいないんだと確信してしまった。違う人を助けにでも行ったのか。それとも、もしかしたら本当に神様を出張先から連れ戻しに行ったのかもしれない。「―――安全な場所まで、一直線だから!」「……っはい!」。。。。。だからスバルは絶対に諦めない。自身の油断からパートナーが足を痛め、昇格試験は崖っぷち。パートナーは優しい。自分の昇格は次回でいいからと、憎まれ口をききながらも背中を押してくれた。だけどそんなの駄目だ。一緒でなくては、ティアナと一緒でなくては意味がない。絶対に合格する。強くなると決めた。安全な場所まで一直線に届けてくれた彼女のように。強く生きると決めた。決して軽くない絶望を打ち砕いてくれた彼女のように。そのためには―――、「諦めちゃ駄目だ。諦めなければ、何とかなる」だから、「ウィングぅ、ローッド!!」拳を地面に打ちつけ術式発動。空中に足場を形成。廃ビルの一室までそれを伸ばした。壁の一枚向こう、そこではティアナのフェイクシルエット、己の姿を映し出す魔法が囮になって相手の動きを撹乱している。スバルには出来ない幻影魔法を駆使し、必死になっているはずだ。ただでさえ魔力を食う魔法で、ティアナの総魔力量はそう多くない。今は限界を迎えながらも魔力をひねり出しているだろうことは分かりきっていた。無駄にはしない。しっかりと胸に刻みこむ。スバルはゆっくりとクラウチングスタイルをとった。額に撒いたハチマキと、短めにまとめている髪の毛が風になびく。ローラーブーツはいつでも発進できるように地面を削っていた。不器用だ。いつもそう思う。空を飛べるわけでもなく、ティアナのように器用に魔法を使えるわけでもない。遠距離攻撃など適正外。出来ることといえば、クロスレンジでの格闘くらい。いい。性に合っている。それしか出来ないのだから、それにだけ集中できる。ティアナが聞いたら怒るだろうか。いつも自分のフォローに回ってもらっているし、迷惑なんかかけっぱなしだ。試験に合格したら何か奢らなければなるまい。いつもありがとうって。そしてスバルは呼吸を少しだけ浅く保ち、目を瞑った。(いける……、いつでも)トクントクンと『心臓』が血をめぐらせる。準備は万端。いつでも……。そして、(スバル、いって!!)ティアナからの念話が入った。落としていた瞼をぱちりと開き、目標へ。「―――っ! いぃっくぞぉぉお!!」廃ビルへと続くウィングロードを一気に駆ける。なかなかの好スタート。徐々に加速は増し、目標は壁一枚向こう。まずは壁を、「ぅうおおおああっ!!」あらん限りの力を込めてぶち抜いた。いつでもMAXで、本気で、全力。自分が弱いことなど分かっている。余裕を持つ事なんてない。破壊した壁が粉末状に舞い視界を塞ぐが、スバルは慣性もそのままに目標を、丸くてずんぐりとした印象を受ける敵役を殴りつけた。張ってあるバリアに阻まれるが、それでもスバルは力を緩めない。干渉光が弾けた。相手のバリアやプロテクションを破るには二通りのパターンがある。一つはバリアの魔術構造を解析、綻びを見つけ進入し、そこから強制解除するパターン。これが所謂バリアブレイクである。もう一つが力任せに、真っ直ぐに、相手のバリアに真っ向から強制進入し、力で壊すパターン。スバルはティアナとは違い、細かな魔力操作が苦手だ。事実、幻影魔術など練習を重ねても一向に発動持続する気配すらない。それであるならとるべき選択肢は既に決まっている。「ふッ、んぉおああ!」ばしゃ、ばしゃ!とリボルバーナックルに二発カートリッジをロードした。拳に魔力を上乗せる。じりじりと光が弾ける中、ゆっくりと、指先がバリアを貫いたのを感じた。構造上の問題として、バリアは内側からの衝撃に弱い。「―――っ! っうお、ぉりゃああ!!」当然、スバルはその性質を利用し、貫いたバリアを引っこ抜くように打ち崩した。バラバラに砕け散ったバリアが薄く発光しながら空気に溶けていく。同時に危機を感じたのか、目標の魔道機械から魔力弾が打ち出された。真っ直ぐに顔面へとめがけて飛んでくるそれを、スバルは射線に拳を割り込ませ、間一髪のところで防御。リボルバーナックルを通してびりびりと衝撃が響く。「っつぅ……!」少しだけ顔をゆがませ、壁を壊して出来た煙にまぎれるように距離をとった。ふっと短く息を吐き、両の拳を腰の横に引く。身体を前傾に倒し、準備は完了。シューティングアーツ。それを自分なりに、戦いやすいように改良した。いや、もしかしたら改悪かもしれないが、それでも自分にはこれが合っている気がする。ぱきぃぃんと、硬質な音を残し足元にベルカ式の魔法陣が展開された。ガリガリ地面を削り続け出番を待っているローラーブーツを、前に出した片足で何とか踏み止め、同時に揺れる、首から提げた一つの薬莢。塗装の殆んどが剥がれ落ちているそれは鈍く輝いた。脳裏に浮かぶのは女神を壊した女神様。空から降ってきた白い人。救われた命を、燃え尽きなかったこの身体を、一生懸命使って、そして諦めない。だからお借りします。あなた達の、衝撃の、「―――ファーストブリット!」大丈夫。やれる。出来る。この魔法の成功率だって高くないけど、きちんと真っ直ぐ飛んでくれるか不安だけど、それはどうでもいいんだ。己の得意分野はあくまでも接近戦。諦めなければ、(何とかなる!)追加してロードしたカートリッジに反応し、右手を覆うリボルバーナックルが音を立てて回った。腰の真横で起こるその音は、もう随分昔に慣れ親しんだモノ。そしてもう一つ、貫き手のように鋭く指先を伸ばした左手。そこには手首の辺りに、目に見えて強力と分かる攻性魔力の塊が集まった。一撃必倒。ではなく、「……二撃っ、決殺ぅ……!」言い終わると同時か。ばぁんっ!!と銃弾が弾けたような轟音。ローラーブーツが地面を破壊した。スピードレーサーも置いてけぼりを食らうようなスタートダッシュ。刹那に迫った目標を、スバルは魔力強化した左手で、まるでアッパーカットのように下から攻撃。人とは違い顎があるわけではない。そのずんぐりとした丸い腹部(?)を貫いた。指先に若干の抵抗は感じたものの、それでもこの身は人にあらず。この程度、どうあろうか。そしてスバルは左手を握りこむ。手首に残すディバインスフィアに誘爆させないよう気をつけて、「んにぃっ! フィスト、エクスプロージョン!!」どぅんっ! 明らかに曇った爆発音。「――――、――!―――」「―――ディ」まるで感情でもあるかのように若干うろたえるような仕草を見せた目標を無視し、スバルはその体内の配線やら何やらを毟り取りながら貫き手を引き抜いた。「バァ、」そしてその左手にはスフィアは存在しない。当たり前のように、体内に置いてきた。ばしゃ、ともう一つカートリッジロード。「イ」奥歯をかっちりかみ締め、右の拳で、「ンッ!」ごん、と少しだけ固い感触を残し、自身の魔力弾を殴りつけた。同時にディバインスフィアは目標の体内で指向性を持ち、「―――バスタアアアア!!」弾けた。その目標にもし感情というものがあったのなら、『もう無理ポ』であっただろう。体内にとどまる事はなく背面に伸びるバスターはビルの壁を突き抜け、空中に一本の線を描くように光を放ちゆっくりと消えていく。耳が痛くなるほどの爆音の後に残ったのは、上腕に張り付いた断面のみ。完全な内部破壊。普通の人間相手ではこうはいかないだろうが、機械程度を相手にするならちょうどいい。射撃は苦手だ。バスターの射程は本家と比べ物にはならない。だったら直接くれてやる。そうしてスバルはドキドキと高鳴る鼓動を感じ、にっこりと笑顔を作った。「……ぇへへ。どうだっ、私の『衝撃』は!」。。。。。「ほらほらほらほらっ、急げ急げ!!」「時間は!?」「あと……十六秒! まだ間に合う!」同時にスバルに背負われているティアナが拳銃型のデバイスから魔力弾を打ち出した。それは寸分違わず最後の目標に命中し、クリア。これで敵役の目標たちは全て破壊した事になる。後はゴールに間に合いさえすれば一応試験は終わりだ。合格できるかどうかは別にして。「ナイスショット、ティア!」「当然!」「―――よぉし! 魔力っ、全開!!」そしてスバルはあらん限りの魔力をローラーブーツに流し込んだ。魔力に反応し車輪は回る。スピードはぐいぐい上がっていき、周囲の景色がすっ飛んでいく。これなら間に合う。スバルは確信した。だが、お約束と言うものがあり、それは当然二人の身に降りかかるのである。「ちょ、ちょっとあんた! 止まる時の事ちゃんと考えてるんでしょうね!?」「ほあっ!?」耳元から聞こえる声に動揺を隠せなかった。正直、考えてない。あはは、と乾いた笑いが出てくる。「じょぉっだんじゃないわよ!」ぱかんと頭をはたかれた後に馬の手綱を引くように髪を引っ張られるのだが、そう、冗談ではない。既に止まることは出来ないこの加速と、たった今ゴールを越えて、ぐいぐい近付いてくる正面の壁。「ごめんティアー!!」「ぃぎゃぁーっ!」死ぬことはないだろうが、怪我をするかも。そうなった場合、背中だけは守りきってみせる。スバルは意を決し、ぎり、と歯を食いしばった。背負うティアナの尻を握りこみ「いたたたっ!」何か聞こえた気がする。しかし壁が迫り来るその瞬間、スバルは視界の端から正面に入り込んでくる影を捕らえた。やばいとか、まずいとか、そんなことを考える暇すらなかった。きっとぶつかって、その後になってとんでもない結果が―――。「―――まったく、何をしている。減点だ」どん! ではなく、がつん! でもなく、ふわりと。慣性なんて何のその。始めから存在しなかったかのよう。スバルとティアナはひどく柔らかい何かに優しく止められていた。鼻腔をくすぐる優しい香り。顔面をふにふにした柔らかいものに突っ込んでいる感覚。いったい何があって、何に顔を埋めている?そしてその答えは、背中のティアナが教えてくれた。「……でっか……(乳的な意味で)」ああ。そうか、これ……おっぱいだ。・スバルのディバインバスターは、ソルの「タイランッ、レイヴ!!」とか木村の「すべてはこの一撃のために……ッ! ドラゴンフィッシュブロー!!」とかをイメージしてもらえると助かり申す。