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No.484の一覧
[0] あの素晴らしい日々をもう一度(セガサターン版ときめきメモリアル~forever with you~)【逆行】[牙草 流神](2011/02/16 15:02)
[1] Re:あの素晴らしい日々をもう一度 第二幕[流神](2006/03/20 00:38)
[2] Re[2]:あの素晴らしい日々をもう一度 第三幕[流神](2011/04/14 13:17)
[3] Re[3]:あの素晴らしい日々をもう一度 第四幕[流神](2006/03/19 16:44)
[4] Re[4]:あの素晴らしい日々をもう一度 第五幕[流神](2006/03/19 16:48)
[5] Re[5]:あの素晴らしい日々をもう一度 第六幕[流神](2006/03/19 16:51)
[6] Re[6]:あの素晴らしい日々をもう一度 第七幕[流神](2006/03/19 16:56)
[7] Re[7]:あの素晴らしい日々をもう一度 第八幕[流神](2006/03/19 17:00)
[8] Re[8]:あの素晴らしい日々をもう一度 第九幕[流神](2006/03/20 00:45)
[9] Re[9]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十幕[流神](2006/03/19 17:10)
[10] Re[10]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十一幕[流神](2006/03/19 18:12)
[11] Re[11]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十二幕[流神](2006/03/19 18:26)
[12] Re[12]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十三幕[流神](2006/03/19 18:33)
[13] Re[13]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十四幕[流神](2006/03/19 18:41)
[14] Re[14]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十五幕[流神](2006/03/08 10:41)
[15] Re[15]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十六幕[流神](2007/07/22 02:21)
[16] Re[16]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十七幕[牙草 流神](2011/02/16 15:03)
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[484] Re[15]:あの素晴らしい日々をもう一度 第十六幕
Name: 流神◆ba754d32 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/07/22 02:21
夏の訪れが近い事を感じさせるような朝焼けの中を走る。とは言っても本日のランニングも終盤に近く、スピードはそれなりに落としている。
主人 公はここ最近、かなり高圧的にメニューを増やしており、その分身体にかかる負担も大きい。その疲労感が生み出す恍惚感、ランニング・ハイな状態の中、公はこのように早朝トレーニングの増加を決意した原因となった事件言わずと知れた先日のバスケ部への一日体験入部の顛末を思い起こしていた。

結局、公はバスケ部に入部することはなかった。1on1において公がなんとか勝利を納めた直後、彼の予想だに出来ない行動を取ってくれた幼馴染。彼女を落ち着かせ、さらに顔を真っ赤にして疾風のように去っていく後ろ姿を見送る羽目になった後、その場に残された彼もなんとなく居た堪れなくなって早々に立ち去った。なので好雄が残っていらん事して回ってたという事実には残念ながら気づかなかった。
それ以降、本日に至るまで詩織は公に対して部活に再び勧誘する事がなかった、というか彼女はあれから公と距離を置いているような気がする。まぁそれは詩織からすれば仕方がない事のように思うし、何より公からすれば哀しい事に詩織と距離がある方が自然であった。『今回』における、今までの詩織が傍に居てくれるという状態が不思議であったのだ。
話を入部の件に戻すが、公の方も元々入るつもりもなかった為入る決心が付かなかった、とも言えるそのままにしている。何故か女バスの部長が何度か公を誘いに来たりもしたが、それは丁重にお断り申し上げている。
だが、あの勝負において体力不足を痛感した公は毎朝行っていたトレーニングの分量を増やした。その量たるや、公が気付かないながらその様子を監視するいくつかの『目』からすると「普通に部活するよりも多い運動量なのではないか」と評される程である。
特に公としては再戦しようと考えてるわけでもなく、このように身体を鍛えたからといってどうするつもりもない。ただ不満であり、また不安であった、それ故の行動であった。だから出来る事をしている、それだけである。
ちなみに、今の運動量でもバスケ部のそれには及んでいない。『あの』バスケ部の異常な練習という名のシゴキは「普通」には含まれない。

だが、世の中にはそういったものから超越した人種というのもいて。
公がランニングのゴールとしている公園正式な名前が分からないので「近所の公園」と呼んでいるに入ろうとした所で異常にペースの早い足音が近づいてきてるののに気付いた。こんな、凡そランニングとは思えないペースで走るような人は公の記憶の中には一人しか居ない。
振り返ると、思ったとおりの少女がいた。彼女の方も公に気付いたようで、公の顔を見ると一瞬考えたようだが、挨拶を交わしてきた。

「おはよう、主人くん」
「お…、おはよ」

それだけ言うと凄まじい勢いで公を追い越していく。ちなみに公がどもっているのは緊張とかではなく、単純に息が切れているからである。
見る間に小さくなっていく後ろ姿を見送りつつ公園に入り、クールダウンを兼ねたストレッチを行う。その途中でふと気になった。

「…『今回』、清川さんと知り合ってたっけ?」


あの素晴らしい日々をもう一度


第十六幕 Here come a new Challenger!




いつの間にか手を休めて、真剣に悩んでる公。混乱しがちな『前回』と『今回』の記憶を分けて整理する。

「水泳部には近づいてないし、朝も今日初めて会ったハズだし…」

クラスはG組なので教室は大分離れているし、体育が一緒になることもないそもそも男女で別だが。学食やらですれ違った事はあったかもしれないが面識を持った事はない、ハズだ。
ブツブツとこの2ヶ月近くの行動を思い返してみるが、やはり望との接点はなかった。望が公の事を知っている事はない筈である。公の知る限り。
逆に公は望の事を知っている。『前回』の事もあるが、それがなかったとしても彼女程の有名人の事なら自然と耳に入ってきていた。かつて、『前回』の望と会う前から彼女の事を知っていたように。曰く、超高校生級のスイマー。曰く、入学直後にきらめき高校の最速記録を塗り替えたらしい。曰く、毎朝50キロのロードワークを欠かしたことがないとか。彼女を知らないきら高生徒はもぐり(・・・)と言えよう。
だからこそ、そんな有名人が公の事を知っていて、かつ声を掛けてくるなんて事が信じられない。まぁ『前』から彼女は気安い娘ではあったが。…思わず「馴れ馴れしい」なんて思ってしまうくらいに。

「もう走らないの?」
「うわぁッ!?」

公を悩ませる、件の人物が、背後にいた。特に足音を消して近づいたワケでもないだろうに、公が考えに没頭していた為に気付かなかったようだ。

「き、清川さん…」
「へぇ…。私の事、知ってるんだ」
「ま、まぁね…」

ドキバクする心臓を押さえ、気のない返事を返す公。急に声を掛けられて驚いたからだけではない。公は、今、ある突拍子もない考えに囚われていた。しかも、彼の現状を鑑みるに、有り得ないワケではない考え。それは。

(もしかして、彼女も俺と同じ、『二度目』なんじゃないか?)

それならば、彼女が自分を知っていても不自然ではない。それに、いくら現状に慣れてきたとは言っても、やはりこの状況は異常だ。だから、誰か同じ境遇の人間が居て欲しい…公の弱さが、そんな考えに囚われてしまっても無理からぬ事なのかもしれない。

「清川さんこそ、俺の事を知ってるんだ?」
「え? うん。よく知ってるよ」

(やっぱりっ! 清川さんは…)

「男子バスケ部をたった一人で壊滅に追い込んだ男、主人 公君だよねっ!?」

目が、点になった。



望が言うには、ある日男子バスケ部が練習している所にふらりと現れ、プロ顔負けのテクニックを持って部員をバッタバッタと薙ぎ倒し(?)、次期エースを一騎打ちで打ち負かした後に風と共に(?)颯爽と去って行った男が居たそうだ。

「しかも、『勝負にならない』とか言い放ったらしいし。…主人君なんでしょ?」

(ちがうちがうんだそういういみでいったんじゃないんだっていうかやっぱりかこにもどってくるなんてそんなひといないよね)

望に同意を求められた公は現実逃避していた。
いくら運動部系の話題とは言え、あまりゴシップとかに興味を示さないような望が知っていたのだ。後は推して知るべし。むしろ、何故そんな噂になっているのが公の耳に入らないのかが不思議だったが。
そんな疑問も、現実逃避すらも、次の言葉を聞くまでの事だった。

「って、事を乙女座くんだっけ? なんか食堂で豪華なお昼ご飯食べながら面白可笑しく話してたって聞いたよ?」
「ヨシオ、ムッコロス」

棒読みで、公が呟く。その感情が込められてない言葉から返って押し込められた鬼気を感じられる。幸い、望の耳には届かなかったようだが。
多分、賭けで買った食券当然、現金なんて賭けないですよ? 高校生ですからっ!で豪遊してるうちに、調子に乗って話をでっち上げたんだろう。その光景が目に浮かぶようだ。
公に入ってくる噂話の類は全部好雄経由の為、彼が意図的に話を避ければ公の耳に入ることもない。…本当は、噂が流れて興味の視線に曝されていたのだが、入学早々の奇行からその手の視線に慣れつつあった公は気付かなかったのだった。幸か、不幸か。
ともあれ、これで詩織が公を避ける理由も明確に分かったし、何よりそんな状況でバスケ部に入部なんて有り得るはずもない。何故にそんな状況の中で勧誘して来てた、女バス部長ッ!? なんか色んな意味で頭を抱えたくなった公だった。だが、ここで哀れむべきなのは望に名前を覚えてもらっていない好雄なのかもしれない。
そんな公の様子に若干引いた望が話を変えるかのように聞いてきたもっとも、あの清川 望を若干でも引かせたのなら十分なのだが。

「えぇ…と、それで主人君はなんで私の事知ってるの?」

想像の中で好雄を100億万回ほど血祭りに上げた公は、気を取り直してその問いに答えようとするが…。

「え? そんなの…」
「あ、そっか。水泳かぁ…」

だが、公が答えようとする前に望自身が自分で答えを出す。ちょっと困ったような、バツの悪そうな様子で。
その表情を見て、公は同じ顔をした望を『前』に見たことがあるのを思い出した。



「よくできてるね。本当に生きてるみたい」
「本当。よくできてるよね」
「何で、できてるのかな?」
「あっ、清川さん。触っちゃ駄目だって」
「そ、そう? あっ!」
「と、取れちゃった」

(そうそう、あれは美術館の春の彫刻展に行った時だっけ…)

望が触った彫刻像の腕が取れてしまったのだ。多分…いや、きっと壊れやすい彫像だったに違いないッ! 今でもそう信じている公だったが。

(で、俺、清川さんを引っ張って逃げ出したんだよな)

「やっぱり、謝りに行ってくる」
「あっ、清川さん。しょうがない、俺も行くか」

(結局、謝りに行く事になって。確かその後だったよな、清川さんがあんな表情してたの)

「ありがとう。一緒に謝ってくれて」
「別にそんな事はいいよ。でも、良かったね。簡単に許してもらえて」

気軽に公が言ったその言葉に望が暗く…いや、ちょっと困ったような、バツの悪そうな顔になって。

「あの館長さんね、私のファンなんだって。超高校級女スイマー、清川 望の」
「へぇ~そうだったんだ。そりゃラッキーだったじゃない?」
「うん…」

だが、彼女の表情は優れない。それに先ほどの彼女の言い回しが気になった。

「どうか、したの…?」
「うん…」

だが、すぐに望は答えることなく、しばらく二人とも無言で歩く。
遠くに中央公園の桜並木が見える。自然が好きな彼女に見せてあげたら元気になるだろうか? そんな事を考えていた公に、ようやく続きの言葉が紡がれた。
いつの間にか彼女は立ち止まっていて、公の少し後ろからこちらを見つめていた。

「あの…ね? 笑わないで聞いてくれる?」
「うん」

躊躇なく、公は頷いた。
ほんとかなぁ、なんて呟きながらも望は続きを話してくれる気になったようだ。

「私って何なのかな~って、思って。皆が私の事を知ってる。知ってくれてる。私が全然知らないような人さえも。でも、それは…」

そこで言葉を切って、公を窺う。笑うでもなく、問うでもなく、公は何も言わずに居た。

「でもそれは、私じゃなくて『水泳をしてる清川 望』の事で、私を知ってる人なんていないんじゃないかな、なんて…」

そこまで言い切り、表情を変える。今までの緊迫した空気が嘘のように。

「あはは、私、何言ってるんだろうね。自分でも何言ってるか…って主人君、今笑ったでしょッ!? 笑わないって言ったのに~っ!」



そう、『あの時』の表情と『今』の彼女の表情が同じなのだ。
あの時漏らした少女の想いは多分、心からのものだったのだろう。いつもはそんな素振りを見せない彼女だったが、だからこそあの時に見せた姿は清川 望という…水泳だけじゃない全てをひっくるめたものだった、ように思う。
それを「有名税だよ」なんて言い切ってしまうのは簡単かもしれない。その認識に間違いはないだろう。当事者でない第三者から見れば確かに事実だし、その事自体に対する憧憬や嫉妬もあるかもしれない。だが彼女が欲しいのはそんな言葉ではなくて。
公は、なんと返したのだっただろうか。肯定だったのか、否定だったのか。もしくはそれ以外の答えだったか。そう、あの時は確か…。

「違うよ」
「え?」

思い出の中ではない、『今』の彼女に答える。『あの時』の彼女に伝えたものとは違った言葉で、しかし同じ意味を込めて。

『俺が知ってる清川さんは確かに水泳が得意で大好きな娘だけど、それだけじゃなくて…』
「確かに水泳関係で名前を聞いたこともあるけど…」
『花なんかも大好きだし、雷も怖がる可愛い女の子だよ』
「俺が知ったのは、清川さんが学校の花壇の世話をしてるのを見かけたからだよ?」

水泳だけじゃない、普通の女の子として彼女を見ている人間も居る。その事を伝えたくて言葉を紡ぐ。今も昔も。
ただその言葉が、今はともかく昔の方は凄まじく恥ずかしい台詞になっていた事に気付かず、その後の彼女の照れ隠しの攻撃(攻撃?)に沈められた事までを思い出せなかったのは公の不覚である。

「えぇ…っ!? み、見てたの?」
「うん。やさしい娘だなぁって」
「も、もうっ!」

駄目押しの公の台詞に望が顔を真っ赤にして、軽く彼女にしては、軽く公の事を叩いて来る。その光景を見て、ようやく以前を展開も思い出した。身を以って。



「…えぇと、大丈夫?」
「あ…、うん。ダイジョウブだよ」

近くにあったベンチに腰掛けて休む公の顔を覗き込みながら、心配そうに聞いてくる望への返答が若干ぎこちないのは仕方ない。彼女の軽い攻撃(攻撃?)は今の疲労した公にはちょっぴりヘビー過ぎた。特に足を使って背後に飛ぶ事にとって衝撃を和らげる事が出来なかったのが痛い。物理的な意味で。
だが大丈夫だと答えたその事自体は嘘ではない。この程度は日常茶飯事だ。…少なくとも、以前では。そんな事を考え、その殺伐とした事実に精神的にもダメージを受けたりしつつ。
勝手に被害を大きくしている公に気付くはずもなく、だがその疲労具合は見て取った望はふと思いついたように聞いてくる。

「でもなんで主人くんはこんなに自主トレしてるの? もうすぐ体育祭だからそれに向けての特訓ってとこ?」
「あ~いや、俺は借り物競争くらいしか出ないし…」

そう、来週の土曜には体育祭が行われるのだ。まだ一週間以上あるとは言え、既に学校でも放課後にそれに向けて練習が組まれたりしている。そこで行われるのは主に高得点に繋がる競技に出場する者を対象としたものだが。例えば…

「え? 主人くん、リレーには出ないの?」

そう、クラス対抗のリレーだ。体育祭の一番最後の競技フォークダンスは競技に含まれないにして、一番大きな得点源となる競技。これに関しては他の競技との掛け持ちが認められるので各クラスとも最大戦力を投入出来るとあって、最も熾烈な、だからこそ最も盛り上がる種目となっている。

「いや、俺はそんなのに出るほどじゃないよ」
「そうなの? ふ~ん…まぁいいか。当日になれば分かるし」
「だから違うって…」

何故か望は信じてくれてないっぽい。例のバスケ部を壊滅させたとかってデマをまだ信じてるんだろうか? そう疑ってかかる公だが、その理由として望が彼の走るフォームを見たから、なんて理由は思いつく筈もなく。
だが公がリレーに出ないってのは本当である。前述のようにリレーに出場するのはクラスで一番早い者達である。男女の別はあるにしても記録の上の者から選んでいくのが当然だ。クラスで真ん中程度の(好雄と同程度だ!)の公が選ばれるはずもない。…ただ、その記録が4月が始まった時点のものである、という注釈が付くが。

「あ、でもA組って事は藤崎さんは出るんだよね?」
「詩織か…まぁね」

リレーのメンバーが男女二名ずつである以上、クラスの女子でダントツの詩織が出ないはずがない。いや、あまり公のクラスの男共がパッとしないので男女混ぜても一番だったりするのだが。しっかりしろよ、男子。なんて自分の事は棚に上げて評する公。
ともあれ、他所のクラスから見ても詩織が抜きん出てるのは一目瞭然であろうし、わざわざ隠す事もない。

「そっか、やっぱり藤崎さんも出るんだ」
「『も』って事は清川さんも出るの?」
「うん。藤崎さんって結構早いって聞いてるから勝負出来るといいんだけどね」

どうやら清川さんは詩織と走る事を楽しみにしてるらしい、と公は理解した。もしかすると今日、公とニアミスしたのも望がそれに向けての強化特訓か何かでコースを変えた為かもしれない。
一人で納得している公に対して更に望が問いを投げかける。

「主人くんは、藤崎さんと私ってどっちが早いと思う?」

幼馴染なら分かるよね? なんて続きが隠されてるように感じるのは公が穿ち過ぎてるのだろうか。それ以前に個人競技ならまだしもリレーで個人の早さを競う事はないと思うのだが。確かに二人ともアンカーになりそうではあるけど。
しかし、それでも公は考える。確かに水泳なら詩織に勝ち目はないだろうが、今回は陸上である。そちらでも望は勇名を轟かせているが、詩織はコンスタントに優秀…いや、完璧なので十分に勝負になるだろう。
強いて言えば詩織は体育祭の実行委員を兼ねているので練習に集中出来るワケではなく、それが不利な材料となるくらいか。…体育祭実行委員は学級委員が兼ねる、という事になっているので公も選ばれていたりするのだが。まぁそれは分析には関係ない。

「う~ん、清川さんの方が有利かな?」
「へ~、そうなんだ。主人くんはそう思う、っと。ちょっと自信出たかな? さて、と」

ホントに勝負するって決まったわけでもないのに、とか、俺の言葉で自信持たれても、とか思ってる間に望が中腰の姿勢から立ち上がる。
別に汚れてもないだろうにパンツを叩いてから手持ちのスポーツドリンクを飲もうとして口をつけ…眉を顰める。

「あれ?」
「ん? どうしたの?」
「あ、ジュースがなくなったみたいで。結構話し込んでたからかな」

確かに何だかんだで時間が経ってる。話の間もちょくちょく望がストローを咥えるのを見てたのでドリンクがなくなるのも納得出来る。が、『前』に残りのジュースを貰った事を覚えている公には若干残念だった。当然、間接キスの事も覚えている公君はちょっと気になるお年頃ですよ? 中身は大学生だが。
だから『前』を覚えているから、公は冗談めかして提案してみた。

「この牛乳、余ったからあげるよ」

なんて。
何故にこんなトコに牛乳を持ってきてるかとゆ~と、なんとなく勘が働いたからというか。勘と言っても、望と遭遇する事を予想したわけではなくて牛乳に何か混ぜられるような気がするという後ろ向きな予感だが。流石は『不幸』のニュータイプ。しかし仮に混ぜ物されても危険物なら判断出来ますよ? 過去の経験から。
とは言っても決して飲みかけのを渡そうとしてるわけではないですよ? 2本あるうちの口の空いてない方を渡そうとしているんですよ? ついでに言うと公だって万人が運動した後に牛乳を飲みたい、だなんて考えるだなんて思っては居らず、そんな状況でも牛乳を飲む(それも望んで)自分は希少な例だって自覚していますよ?
だが、目の前の彼女はそんな公の考えの右斜め上を逝っていて。

「ありがと」

なんて言って。
口の空いた方の牛乳を取り。
公ですら惚れ惚れとするような飲みっぷりを披露してくれた。

「ごちそうさま。ビンは返したらいい? …って、どうしたの、主人くん」
「あ、いや、その…間接キスが…

動揺のあまり、口の空いてない牛乳を掴んだまま、呟く公。次の瞬間には我に返って口を噤む。
多分、今のは聞こえてなかっただろうと思った。目の前の顔が、段々と赤く染まっていくのを見るまでは。人間ってここまで赤くなれるものなんだな~、なんて場違いな感想を持った公に。

「ば、馬鹿~ッッ!!」

という叫び声と一緒に空きビンが全力投球でプレゼントされた。その、眉間に。



その日、きらめき市にて早朝から顔を真っ赤にして爆走する少女の姿が見られたとか、見られなかったとか。


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