「放課後だぜ、公っ!」
どこぞのいとこよろしく放課後になったことを嬉しそうに報告してくる好雄。
『従兄妹』か『従姉弟』か悩んだが、ひらがな表記が公式らしい「んなこと、いちいち教えてくれなくてもわかってるよ」
「公、ちょっといいかな?」
好雄の無駄な親切に対して報われない返事を返していると誰かが声を掛けてくる。誰か、と言っても公を名前で呼んでくる相手なんて目の前の好雄を除くと一人しかいないのだが。
「ん、詩織か。なんだ?」
「あのね……」
詩織は用件を述べようとして一旦言葉を切り、何事かと好奇心で目を輝かせながら様子を見ている好雄に視線を走らせる。
「あ~、俺、席を外したほうがいいのかな?」
「あ、うううん、別に構わないのだけど…」
視線に気付き、退席を提案する好雄にそれを制止する詩織。それを見て用件を想像してみる公。
2つ、3つ思いつくものはあったがどれも推定の域を出ない為、結局詩織の言葉を待つことになる。
「あのね、私、バスケットボール部に入部しようと思ってるの。それで、ね? 公も一緒に見学しに行ってみない?」
「見学?」
詩織の口から予想外の誘いが出たので戸惑う公。
詩織がバスケ部に入るのは『前回』と同様という意味で別段不思議はない。しかし、何故に公を誘ってくるのだろうか? 『前回』こそ公は詩織を追って同じ部活に入ったが、それは公の自主的な行動であり、詩織が誘ってくるようなことは一切なかった。…あったら喜んで入っていただろうが。
公の様子をみて勘違いした詩織は
―別に誘われたことに驚いている、という意味では勘違いという訳でもないのだが
―何か慌てた様子で言葉を続けてくる。
「べ、別に他意はないのよ? ほら、自己紹介のときにバスケが得意とか言ってたでしょ? だから、公もバスケ部に入るかなと思って…」
その説明に納得する公。確かに『前』の自己紹介ではバスケ云々は言っていない。『歴史』(?)が変わる原因と結果を見たような気がして何か酷く感慨深いものがある。実際には原因はそれだけではないし、さらに詩織が妙に顔を赤くしている理由までは察せなかったが。
しかし公の返事は色よいものではなかった。
「あ~、悪い。行けないんだ」
「おい、いいのか、公?」
それまでは詩織の様子を見てニヤニヤしているだけだった好雄だが、流石に公の返事を聞いて口を挟む。
「あぁ、詩織には悪いがちょっと用事があるんだ」
「用事? なんだよ、藤崎さんの誘いを断ってまで行く用事があんのか?」
「あ、あの早乙女君、別に私は…」
「藤崎さんは黙っててくれ。俺は女の子の誘いを断るヤツは許せないんだっ! 『愛の伝道師』としてなッ!!」
ああ、好雄らしいなぁ…、と苦笑する公に好雄は詰め寄る。
「で、何の用事だよっ!?」
「一言で言って『調べ物』、かな?」
「調べ物? …図書室か? 別にそれなら今でなくても…」
「いや、電脳部だ」
あの素晴らしい日々をもう一度
第十幕 VSマッドサイエンティスト
電脳部には魔女が住んでいる。そう主張し、公を止めようとする好雄を説得し、さらに詩織にバスケ部の見学には今度行かせてもらうと約束し、ようやく公が電脳部に向かうことが出来たのはそれから数十分後の事だった。
(魔女ね…。俺がその魔女に会いに行くって言ったら好雄はもっと止めたかな?)
好雄の言う、魔女の事を考える。それだけで背中に薄ら寒いものが走るのは『過去』の経験からか、噂の所為か。
昼休みのレイとの秘密の会合で得られた情報の中で真っ先に目に付いた物に『入学式の欠席者・退出者』があった。名前までは記載されていなかったが、仮にも高校の入学式を欠席する人間なんてそうはいない。そういう公は大学の入学式をサボったことになっているのかもしれないが。
欠席者1名。退出者1名。退出者の方は式の途中で貧血を起こし保健室に運ばれたらしく不審な点はないが
―さらに言えば公にはこの退出者の見当も付いているが
―、欠席者の方、しかも資料によると学校には来ていたのに式を欠席したらしい。伊集院家の調査の結果では『シロ』と報告されていたが…。
気になった公は5・6時間目の休み時間を利用して聞き込みを行ってみた。すると、労することなくその人物が浮かび上がった。さらには『彼女』を取り巻く噂話までてんこ盛りで手に入った。中には眉唾なものもあったが
―ただ、『彼女』をよく知る公にはそれが全て真実だと分かったが
―曰く、入学する『前』にそれまでの電脳部を壊滅に追い込み、今では自分が部長に納まっている。
曰く、『彼女』に知り得ないことなど存在しない。
曰く、巨大ロボットを開発している。
前の二つはともかく、最後のに至っては機密が漏洩しているような気がしないでもないが、ここはきらめき高校である。気にしたら負けだ。
ともかく、公自身『彼女』を前から怪しいと睨んでいた事もあり、またそうでなくても『彼女』の力を借りたいと思っていたところである。どちらにしても接触を持つ必要がある。
公は、相手を疑いながらも利用しようと考えてる自分が酷く汚れてしまったような、そんな気分に囚われるが、今から相対しなければならない『彼女』にはそんな甘い考えは通用しないと頭(かぶり)を振って打ち消す。仮にも魔女とまで謳われる、紐緒 結奈には。
とまぁ一頻り気分を高めたところで電脳部の部室の前に到着する。この部室棟には他にも文科系のクラブが入っているはずなのだが、人っ子一人いないような静寂が支配している。それが余計に緊張を高める。
『敵』とは言い過ぎにしても、結奈には公をこのような状況
―『過去』に戻る
―に追い込む動機、そして手段は十分にある。もしそうならその企みを暴き、潰えさせなければならない。他ならぬ自分の為に。
だが、逆に彼女が原因でなかった場合。その場合は彼女に公の現状を知られる事を避けなければならない。絶対に。もし彼女がその事を知れば公は間違いなく実験体
―サンプル
―として扱われるだろう。生命の危険すらありえる。
もっとも、結奈がそんな与太話を信じるとは思えない
―実際、自分の身に起きた公でも未だに信じられないし、実は信じていない
―のだが、それでも用心してし過ぎるという事はない。ほんの二日間で何度かミスを犯してきた公だが
―実際には公が気付いている以上にポカやらかしているのだが
―そんな失敗を結奈の前でしてしまうのは致命的な事態に陥る。今以上に。
そんな事をつらつらと考え、気を引き締めなおすと公は扉をノックしようとする。
―幸運
正に、運の成せる業だっただろう。公が『過去』の経験から彼女の行動パターンを推測出来た分を差し引いたとしても。
単に『不幸のニュータイプ』なだけかもしれないが公が扉に触れるよりも早く、扉が自動的に開こうとする。一般人なら自動ドアなのかと考え、そのまま佇んで待つであろうところを公は思いきり廊下に伏せる事で対応した。頭で考えた動作ではない、身体に染み込まされた条件的な反射だ。例え公の身体が3年前のものであろうとも。
その無茶な動作にほとんど忘れかけていた、治りかけていた筋肉痛がぶり返し両脚が小さく悲鳴を上げた。そして、その行動は
―哀しいことに
―正しく報われることとなった。伏せる公の頭髪を数本切り取って、『何か』が超スピードで通り過ぎたのだ。
物騒な音と共に飛んでいった『それ』が向かいの壁に当たって鈍い音を発てると同時に、どっと冷や汗が出てきた。当然、『何か』が通り過ぎる際の風圧で涼しかったから、なんて理由ではない。
「誰かしら? 入部なら現在お断りよ?」
そんな声が公の頭上から聞こえてくる。
公が視線を上げると、そこには制服の上に白衣を身に纏った女生徒が立っていた。声と同じく、冷たい視線で公を見下ろしながら。
「紐緒、結奈さん?」
「えぇ、そうよ」
とりあえず人と人とのコミュニケーションは自己紹介からだ。公としては分かりきっている事だが、彼女からすれば初対面となる自分に対する警戒を少しでも緩める為にそう言葉をかける。その効果は毛の先ほども見込めないが。
その返事を聞いた後、公は脚の痛みに軽く顔をしかめながら立ち上がる。目に見える汚れはないが、気持ち程度に身体を払う。そして、自分の紹介を続ける。
「俺は主人 公。ちょっと、紐緒さんに尋ねたいことがあって来たんだ」
「主人 公…?」
どうやら
―公が予想しなかったことに
―結奈は公の名前に聞き覚えがあったようだ。公の名を訝しげに口ずさんでいる。
「主人 公…。確か入学式で…、伊集院家…」続いて、公の素性を思い出したようになにやら呟いている。生憎と公には聞こえなかったのだが…。
「いいわ、話は中で聞かせてもらうわ」
「えっ!?」
しばらくするとなにやら結奈の中でまとまったらしく、公を部室内へ誘う。が、これに驚いたのは公の方だった。
公としては結奈が初対面となる自分の話を素直に聞いてくれるとは思っておらず
―それどころか時間を割いて会ってもらえるかどうかすら微妙だった
―、どうやってそこまで話を持っていくかを色々と考えていたのだ。結局いい案は浮かばず、『当たって砕ける(確定)』の精神で臨機応変に
―言い換えると行き当たりばったりに
―対応する予定だったのだが…。
そんな公の気負いとは関係なく、あっさり話を聞いてくれる気になった結奈。考えていた試練がなかったので肩透かしを喰らった気分になってしまう。もっとも、物理的な意味の試練なら一つ越えたし、本当の意味での闘いはこれからなのだが。
「何? 中に入りたくないのかしら?」
「いや、そんなことないよ。お邪魔させてもらうよ」
慌てて弁解する公をつまらなそうに一瞥すると、白衣を翻して部室に戻っていく。
その後に続こうとする公だったが、入り口にあるピッチングマシーン? らしき物体を見て、後ろ
―マシーンの射出口が向いている方向
―を振り返る。
そこにはコンクリートの壁にめり込んだ『何か』が見えた。
(やっぱり、彼女なら照明を落とすくらいはやってのける…のかな?)
公は何とはなしに引き攣った笑みを浮かべながら結奈の後を追った。そのこめかみに流れる汗が全てを物語っていた。
電脳部の中はここが本当に他の教室と同じものなのかと疑いたくなるくらい様々な機械で埋め尽くされていた。幸い整理は行き届いているので足の踏み場もないなどということはないが、回りの機材で凄まじい圧迫感を感じる。ついでにコンピューターの管理の為か気温は肌寒いくらいだし、窓が塞がれているのに照明をつけていないため部屋が薄暗くなっている。光源といえば何台かのパソコンのモニターくらいだ。
等々、かなり一般人を拒んだ環境にある電脳部であるが
―しかも、この数日間でこの状況になったと言っても誰も信じないであろう
―公には見慣れたものだった。逆にこうでない電脳部にこそ違和感を感じるだろう。まぁ、つまりはそういう『過去』だったということなのだが…。
そんな狭い部屋にソファーなんぞあるはずもなく、公は適当にパソコンチェアの一つに腰を下ろす。密かに座布団まで敷いてあってなかなか座り心地がよい。
「何か飲むかしら?」
「い、いや、いいです」
「ちっ!」結奈に飲み物を勧められて思わず敬語で答える公。つ~か、紐緒さんに飲み物勧められるなんて初めてですよ? そんなもの怖くて飲めませんよ? ついでに断ったら舌打ちされましたよ?
お茶を入れてくれる
―案外、それもロボットかもしれないが
―結奈を見てみたいと思わないでもなかったが、代償が大きすぎるような気がしたので止めておく。
誰だ、世の中『等価交換』だなんて言ったのはそんなやり取りの後、結奈もパソコンの前に座り
―公の記憶によるとあれは結奈専用機のはずだ
―何か作業を始める。その流れるようなタイピング音に聞き惚れていた公に結奈は用件を聞いてくる。
「それで、何を聞きたいのかしら?」
その間、その視線はモニターから離れることはない。非常に失礼な対応だが、公には慣れたものだ。特に気にせず問い掛けることにする。本音を言えば表情の動きを読み辛いのか難点だが。
「昨日、入学式のことだけど…どうして欠席してたのかなって。学校には来てたんでしょ?」
その公の質問を聞いて、結奈は手を止めて公を見る。その表情は…呆れ、か?
「わざわざ何を聞きに来たのかと思えば…。あなた、そんな事でこの私の時間を無駄にしに来たの?」
「そんな事って…。俺には大事なことだし、それに入学式を休むなんて大事だと思うけど?」
その公の返答に結奈は溜息をついて
―間違いなく呆れているのだろう
―それでも公に答えてくれた。
「その理由があなたに何の関係があるのか私には見当もつかないのだけど。…ちょっとした発見があって、それの解析で忙しかったのよ」
「発見?」
「そう、発見。あの日、4日の6時半頃かしらね。きらめき市のほぼ全域に渡っておかしな反応が検出されたのよ。今もその解析を続けているんだけど…」
結奈にしては信じられない事に、公の質問に対してかなり突っ込んだ説明を返している。自分の作業をなんとなく誰かに話したかったのか、それとも解析作業が上手くいかなくて愚痴りたかったのか、…公の持つ雰囲気がそうさせたのか。
と、そこまで言って結奈自身も自分のしている事の無意味さに気付く。公にこんなこと説明してもなんの意味も為さない。ナンセンスだ。
(私もヤキが回ったものね…)
確か、最後に眠ったのは3日前だっただろうか…? 予定外の作業が入ったせいで徹夜が続くことになってしまったのだけど…などと結奈が自嘲を交えながら思い返していると、公から続けて質問が飛んでくる。
「…6時半って、朝のだよね?」
「ッ、えぇ、そうよ?」
物思いに耽っていた所為で結奈の反応が遅れる。咄嗟だったので疑問も抱かずに答えたが、一言付け加えておくことにする。
「でなければ入学式には出れたわ」
しかし、その一言は公の耳に届いていなかった。結奈の言う『おかしな反応』に心当たりがあったので。
結奈が
―どういう手段を使ってかは知らないが
―きらめき市に各種の『目』を配置しているのは知っている。彼女の言う世界征服の為の足掛かりだそうだ。
それが検知したというのなら、そうなのだろう。その程度には信頼性が高い。しかも、『紐緒 結奈』が知りえないような反応を。
ついでに発生した時間だ。確か、その時間は…
「紐緒さん、端末借りるねっ!?」
結奈にそう断って目の前の端末に向かう。電源を入れる必要はなく、スタンバイモードで放置されていたようだ。
「ちょっと、待ちなさい! それはあなたには…」
使えるはずがない、結奈はそう続けようとした。この部屋にあるPCには彼女が独自に開発したOSが入っている。それは今までの市販OSとは一線を画した彼女の会心の作で、…だからこそこれまでの既存OSとも扱い方が一線を画す。それを一見で使えるはずないのだ、彼女以外の人間に。
だが、結奈の目の前でそれは否定されていた。
確かに彼女と比べると、そのタイピング速度といい、OSの使いこなし方といい、段違いに劣るものだ。だが、開発者自身は別格として、その手付きは『使い慣れている』と称してもかまわないものだった。
「あなた、一体…」
結奈の前で不審な態度を取らない。公は部室に入る前にそう自らに課していた事などすっかり忘れていた。今、目の前に自分の置かれた状況の手がかりがあるかもしれないのだ。これが結奈の考えた罠である、なんて考えも思いつきもしなかった。
市内の廻らせてある『目』のデータを抜き出す。反応の種類・種別共に『UNKNOWN』。計測出来なかった物を後から後から再計測するのは不可能だろう。現物が手元にあるならまだしも。
続けて、発生位置を航空地図と重ねてモニターに表示する。確かに結奈の言うように市内全域に反応がある。その規則性も特に認められない。この情報だけでは何も割り出すことは出来ないだろう、結奈のように。
だが、その情報に一つの条件を追加する。
収束地点――主人宅
仮定、あくまでも仮定に過ぎない。この『現象』が公の身の上に起こっている事象に関係あるなんて。だが、少なくとも公が知る限り、『過去』においてこんな『現象』は発生していなかったはずである。もっとも、公が知らなかっただけという可能性が高いことは否定できない。
この無作為にしか見えない点の集合に対して収束地点を設定し、そこから発生地点を割り出す。そんなことが出来るはずもない。普通のOSに普通のPCでは。
しかし、ここにあるのは電脳部の魔女、『紐緒 結奈』の開発したOSに、彼女自身がチューンを加えたPC群である。何よりこのOSの真の機能として、一つの処理を複数の同OSマシンで完全並列に行うことが可能である。謂わば、部室の全PCを一つとして扱えるのだ。噂によると軍事衛星すらハッキング可能らしい。出来ないはずがない。
かくして、部の名称に相応しく部室内全ての電脳を使用し、全ての演算を終えたPCが彼の目の前のモニターにその結果を出力する。
その発生地点として印が付いている地点は…
なんとなく、納得した。有り得ないとも思う。だが、今はこれしか手がかりがないのだ。今くらいこの結果を盲信してもいいのではないかと公は思った。
最後にもう一度だけ確認して、演算結果のデータを破棄する。これを結奈の目に触れさせる訳にもいかないから。
「ありがとう、紐緒さん。助かったよ」
「そ、そう…」
何となく公に気圧されている結奈。返事もはっきりしない。
そんな結奈の様子を不思議に思いつつも、公の心は既にここにはなかった為、早々に部室を去ることにする。
「俺の用事は済んだから、これで。今日はほんとにありがとう。今度、何か俺に出来ることがあったら言ってよ。それじゃ」
「えぇ」
勢いで口走っている公。後にこの発言を深く後悔することとなるのだが…。
そんなこと今の公に知る由もなく、早足で部室を出った。
主人 公。入学式で照明が落下するという事故から藤崎 詩織を助け、何かしら伊集院家とも繋がりを持つ男。ついさっきまでの結奈の認識はそういったものだった。それも彼女の『情報網』から得られた知識に過ぎなかったのだが。
部室に招いたのも伊集院家からのちょっかいだろうと思って、下手に追い返すよりは探りを入れた方が妥当かと判断した為だった。
だが、その認識はこの数十分で大きく変えさせられることとなった。
部屋に入る前に鉄球が飛んできて、それを避けるのも然ることながら、そのことに一言も文句をつけないなんてどういう神経なんだろうか
―そういう罠を仕掛けている結奈にも多分に言えることだが
―?
結局質問といっても結奈が入学式を休んだ理由を聞いたのみ。伊集院家が手を回してどうこうする様子もないようだった。
使えないはずのOSを使用し、さらには電脳部内の全ての演算機を使いこなしていたようだ。
件の『反応』にしても、残念ながらその作業内容は結奈の位置からは見えなかったが、公の様子から察するに結奈には分からなかった何かしらの結果を得たようである。そもそも、『目』のデータをあんなにあっさりと部外者が抜き出せるはずがない。
「面白い、面白過ぎるわ。主人 公…」
結奈の目は獲物を狙う肉食獣のような色に彩られていた。
去り際に彼は「何か俺に出来ることがあったら言って」と言っていた。これを利用しない手はないだろう。
公をどうするのか、どうしたいのか。その為に採る手段は…。結奈はあれこれと考えるのが…。
「でも、とりあえず…」
立ち上がって、部室の出口に向かう。
「トラップを再セットしようかしら」
死者が出ないことを祈る。